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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C23C |
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管理番号 | 1001077 |
異議申立番号 | 異議1998-73400 |
総通号数 | 2 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-07-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-07-21 |
確定日 | 1999-10-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2698003号「一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2698003号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯・本件発明 特許第2698003号(平成4年8月25日出願、平成9年9月19日設定登録。)の請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】仕上焼鈍後の鋼板表面に無機鉱物質皮1膜のない一方向性珪素鋼板に絶縁コーティングを施すに先立ち、鋼板を弱酸化性雰囲気中、雰囲気の酸素ポテンシャルおよび温度の何れか一方または双方を変化させる制御を行って、鋼板表面に0.001μm以上の厚さの外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成した後、張力付加型の絶縁コーティングを施すことを特徴とする一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法。 【請求項2】鋼板を弱酸化性雰囲気中、雰囲気の酸素ポテンシャルおよび温度の何れか一方または双方を変化させる制御が、Si含有量:2〜4.8%の鋼板に対して、500〜700℃の温度域にあってはPH2O/PH2≦0.5(PH2O,PH2は、それぞれ雰囲気中の水蒸気分圧および水素分圧)の範囲内とし、700℃超、1000℃の温度域にあってはPH2O/PH2≦0.15の範囲内とする制御である請求項1に記載の一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法。 【請求項3】絶縁コーティングが、コロイド状シリカと燐酸塩を主体とする塗布液を用いる請求項1または2に記載の一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法。」 II.申立ての理由の概要 申立人 川崎製鉄株式会社(以下、「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証(特開昭60-131976号公報),甲第2号証(「金属材料の高温酸化と高温腐食」腐食防食協会編(丸善)昭和57年7月20口発行,第140頁),甲第3号証(特開平3-130376号公報)を提出し、▲1▼本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当すること,▲2▼本件発明1は、甲第1,3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと,▲3▼本件発明2,3は、甲第1,2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと、を理由として、本件発明1乃至3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。 III.浬各号証の記載事項 1.甲第1号証 ▲1▼「含けい素鋼スラブを熱間圧延して得られた熱延板に、必要な熱処理を経てから、1回または中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚としたのち、脱炭・1次再結晶焼鈍ついで仕上げ焼鈍を施し、その後さらに平坦化焼鈍を施す一連の工程よりなる一方向性けい素鋼板の製造方法において、上記仕上げ焼鈍後の鋼板表面を鏡面状態に加工したのち、弱酸化性雰囲気中で熱処理を施して該鋼板表面に、その片面当り膜厚:0.03〜0.5μmのSiO2酸化層を形成させ、しかるのち張力付加型の絶縁コーティング膜を被成することを特徴とする、鉄損特性に優れた一方向性けい素鋼板の製造方法。」(第1頁「特許請求の範囲」) ▲2▼「この発明において、絶縁コーティング処理に先立って鋼板表面に形成されるSiO2の酸化層は、鋼中にSiO2粒が分散した構造となっているため、鏡面化素材にSiO2層を形成させた場合には表面状態が悪化し、それに伴って鉄損特性も若干劣化する。しかしながらその後のコーティング処理よる張力付加によって鉄損特性はその劣化分をこえて大きく改善される結果、最終的には良好な鉄損特性が得られ、しかも被膜密着性も大幅に改善されるのである。」(第3頁左下欄第19行〜右下欄第8行) 2.甲第2号証 「Fe-3%Si-χ%Mn合金をH2O-H2中で温度,酸素ポテンシャル(PH2O/PH2)を変化させて加熱したとき、各種酸化物が生成する限界の温度,酸素ポテンシャルの関係を示すグラフ。」(第140頁図6.19) 3.甲第3号証 「平滑化したけい素鋼板の表面にゾル・ゲル法により0.1〜0.5μmの厚みでゲル薄膜を被成し、さらにその上に絶縁被膜を被成することにより、磁気特性を劣化することなく、占積率に有利な、均質で密着性の良好な絶縁被膜を成膜することに成功した。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第2行) IV.対比・判断 I.申立ての理由▲1▼について 本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証の「仕上げ焼鈍後の鋼板表面に張力付加型の絶縁コーティング膜を被成する」点は、甲第1号証において、仕上焼鈍後の鋼板表面に無機鉱物質皮膜を設ける処理を特に行っていないことよりみて、本件発明1の「仕上焼鈍後の鋼板表面に無機鉱物質皮膜のない一方向性珪素鋼板に絶縁コーティングを施す」点に相当する。 また、甲第1号証の「弱酸化性雰囲気中で熱処理を施して該鋼板表面に、その片面当り膜厚:0.03〜0.5μmのSiO2酸化層を形成」する点は、本件発明1の1弱酸化性雰囲気中で、鋼板表面に0.001μm以上の厚さのSiO2膜を形成」する点に相当する。 そして、甲第1号証記載の発明におけるSiO2膜は層中にSiO2粒が分散した構造のものであり(III.1.▲2▼)、本件明細書【0018】の「外部酸化膜とは、低酸素分圧下で生成する酸化膜であって、合金元素(Si)が鋼板表層まで拡散した後に皮膜状になる酸化膜をいう。一方、内部酸化膜とは、比較的高い酸素分圧下で生成する酸化膜であって、合金元素が殆ど拡散することなく、析出物状に酸化し、鋼板内部に酸化物が粒状に分散した酸化膜をいう。」との記載を参照すると、甲第1号証のSiO2膜は鋼板内部に酸化物が粒状に分散した内部酸化膜であると言える。 上記の事項を総合すると、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、「仕上焼鈍後の鋼板表面に無機鉱物質皮膜のない一方向性珪素鋼板に絶縁コーティングを施すに先立ち、弱酸化性雰囲気中で、鋼板表面に0.001μm以上の厚さのSiO2膜を形成した後、張力付加型の絶縁コーティングを施すことを特徴とする一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法。」の点で一致するが、「本件発明1では弱酸化性雰囲気中で鋼板に対して、雰囲気の酸素ポテンシャルおよび温度の何れか一方または双方を変化させる制御を行って鋼板表面に「外部酸化膜」を形成するのに対して、甲第1号証記載の発明では「内部酸化膜」が得られるような制御を行う点」において相違する。 そして、上記相違点においてあげた本件発明を構成する事項、即ち、弱酸化性雰囲気中で鋼板に対して、雰囲気の酸素ポテンシャルおよび温度の何れか一方または双方を変化させる制御を行って鋼板表面に外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成する点は、甲第1号証の記載より当業者にとって自明な事項でもない。 してみれば、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。 2.申立ての理由▲2▼について 本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、「IV.1」で述べたとおりであり、両者は、次の点で相違する。 相違点.本件発明1では弱酸化性雰囲気中で鋼板に対して、雰囲気の酸素ポテンシャルおよび温度の何れか一方または双方を変化させる制御を行って鋼板表面に外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成するのに対して、甲第1号証記載の発明では、弱酸化性雰囲気中で熱処理して鋼板表面に内部酸化膜を形成する点。 そこで、甲第3号証の記載をみると、甲第3号証には、けい素鋼板の表面にゾル・ゲル法により薄膜を被成し、さらにその上に絶縁被膜を被成することが記載されるのみであり、SiO2膜を形成する際に雰囲気の酸素ポテンシャル乃至温度を制御することによって外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成することは、記載も示唆もされていない。 そして本件発明1は、鋼板表面に外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成することにより「鋼板に対する張力を減ずることなく、一方向性珪素鋼板に密着性の高 い絶縁コーティングを形成させる方法を提供するものである。したがって、本絶縁皮膜形成法により、皮膜地鉄界面の平坦度が優れ、かつ鋼板に対して強い張力が付与された鉄損の低い一方向性珪素鋼板が製造でき、その工業的効果は甚大である。」(本件明細書【0043】)という顕著な効果を奏するものである。 してみれば、本件発明1は甲第1,3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。 3.申立ての理由▲3▼について 本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、「IV.2」で述べたとおりの相違点が存在する。 そこで、甲第2号証の記載をみると、甲第2号証には、Fe-3%Si-χ%Mn合金をH2O-H2中、温度,酸素ポテンシャルを変化させることによって、SiO2等の各種酸化物を生成することが記載されるのみであって、生成する酸化物が外部酸化型のものか内部酸化型のものかという観点がそもそも存在しないものであるから、外部酸化膜のみからなるSiO2膜を形成することは、甲2号証の記載を勘案しても当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、上記相違点においてあげた本件発明1の構成は、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を併せて勘案しても当業者が容易に想到し得たことではなく、また本件発明1は前記の構成を備えたことにより、本件明細書【0043】に記載されるとおりの顕著な効果を奏するものであるから、本件発明1は甲第1,2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。 そして、本件発明2,3は本件発明1に更に技術的限定を加えたものであるから、本件発明1と同様に、甲第1,2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。 V.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-09-24 |
出願番号 | 特願平4-226167 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C23C)
P 1 651・ 121- Y (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 長者 義久 |
特許庁審判長 |
酒井 正己 |
特許庁審判官 |
能美 知康 新居田 知生 |
登録日 | 1997-09-19 |
登録番号 | 特許第2698003号(P2698003) |
権利者 | 新日本製鐵株式会社 |
発明の名称 | 一方向性珪素鋼板の絶縁皮膜形成方法 |
代理人 | 高見 和明 |
代理人 | 青木 純雄 |
代理人 | 田村 弘明 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 杉村 暁秀 |
代理人 | 茶野木 立夫 |
代理人 | 梅本 政夫 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 杉村 純子 |
代理人 | 徳永 博 |
代理人 | 中谷 光夫 |