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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1001079
異議申立番号 異議1998-74941  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-06 
確定日 1999-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第2738249号「フェライトステンレス鋼板の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2738249号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
本件特許第2738249号(平成4年12月28日出願(平成4年3月24日優先権主張、日本国)、平成10年1月16日設定登録。)の請求項1〜4に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されたとおりのものにあると認める(以下、本件請求項1〜4に係るそれぞれの発明を、「本件第1発明」〜「本件第4発明」という。)。
II.申立の理由の概要
特許異議申立人 川崎製鉄株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭64-68448号公報)、甲第2号証(特開昭60-262922号公報)及び甲第3号証(特開平4-17615号公報)を提出し、本件第1発明〜本件第4発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。
III.甲各号証の記載事項
甲第1号証には、フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に関し、
「(1)表面品質の改善をはかった溶接可能なフェライト系ステンレス鋼の薄板又は帯鋼の製造方法であって;
重量パーセントで以下の化学組成より成る溶鋼を準備すること:炭素0.03%以下、窒素0.05%以下、クロム10〜25%、マンガン1.0%以下、ニッケル0.5%以下、シリコン1.0%以下、チタン0.03〜0.35%、ニオブ0.10・〜1.0%、アルミニウム1.2%迄の随意量および余要部をなす鉄・・・」(第15頁左上欄2〜10行)、
「硫黄のレベルは0.03%までの範囲をとれるが、0.02%までとするのが望ましく、・・・もう一つの不純物はリンで、これは0.04%以下にされるが、望ましくは0.025%以下とすべき・・・」(第9頁左上欄下から2行〜右上欄4行)、
「スラブのいくつかは熱間圧延して厚さ0.155インチ(3.94mm)の帯鋼とし、他のスラブは厚さ0.090インチ(2.29mm)の帯鋼に熱間圧延した。次いで、4個のコイルを通常の方法で冷間圧延し、厚さ0.090インチ(2.29mm)の熱間圧延帯鋼(hot rolled band:HRB)から最終寸法約0.018インチ(0.46mm)の冷間圧延帯鋼に仕上げた。このHRBは、表面開口欠陥のないすぐれた表面を呈した。次いでコイルを研磨せずにこのHRBを冷間圧延した。冷間圧延した鋼に対して、通常の焼鈍および酸洗処理を施した。」(第9頁右下欄下から10行〜第10頁左上欄2行)と記載され、
さらに、第9〜11頁には、7種の鋼(実施例1、2の供試材及び鋼A〜E)の化学組成が記載され、特に、鋼Dに関しては、連続酸化における耐性および熱サイクル中の酸化に対する耐性ついて、第11頁の表[100時間当たりの重量増(mg/cm2)]によれば、1600°Fにおける重量増が0.6mg/cm2であること、また、同頁の表[2000サイクルにおいて破断する温度(°F)]によれば、熱サイクル酸化試験にしたがう2000サイクルにおいて破断する温度は、1548°Fであることが示されている。
甲第2号証には、表面性状及び加工性のすぐれたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関し、「A10.08〜0.5重量%を含有するフェライト系ステンレス鋼のスラブを、・・・仕上温度850℃以上で熱間圧延し、600〜800℃の温度範囲で捲取った後、硝弗酸以外の酸を主体とした酸洗で主たる脱スケールを行い、次いでワークロール径300mm以上の冷間圧延機からなる複数の連続冷間圧延機列によって冷間圧延すべき全圧下量の60%以上を圧延し、続いてワークロール径100mm以下の冷間圧延機によって残りの圧下量を圧延し、しかる後850〜1000℃の温度範囲で60秒以内の最終焼鈍を行うことを特徴とする表面性状及び加工性のすぐれたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。」(第1頁左下欄6〜20行)、
「次に捲取温度を600℃以上としたのは、・・・冷延時に耳割れが発生し易くなり、場合によっては冷間圧延中に破断が生じ、冷延性が著しく劣化すると共に、r値が低くなり、深絞り加工等に適さないためである。・・・又捲取温度を800℃以下としたのは、・・・最終製品のリジング性が劣化するためである。」(第2頁右上欄14行〜左下欄7行)と記載され、
また、第6頁左上欄第1表には、供試材(発明鋼、比較鋼)の主成分は、(wt%で)C;0.05,Al;0.13(発明鋼)、0.01(比較鋼),N;0.010,Cr;17.05,Si;0.15,Mn;0.20及び残部Feであることが記載されている。
甲第3号証には、耐食性、加工成形性のすぐれたステンレス鋼板の製造法に関し、
「Mo;Moは、Crさらに必要に応じて、Ni,Cuなどと共存の形で添加され、加工性を向上し、また凝縮液環境での局部腐食発生、進展を抑制するために必須の元素である。0.2%以上3.0%以下の添加でCr、およびその他の特許請求の範囲の各成分・・・との共存で極めて効果的となる。・・・Nb;Nbは、CまたはNを固定し、ステンレス鋼の耐食性の劣化を防ぐ。耐食性を向上するため0.05から1.0%の範囲で添加される。・・・Ti;Tiは、CまたはNを固定し、ステンレス鋼の耐食性の劣化を防ぐ。・・・本発明において、上記のような鋼成分組成で製造された鋼板は耐食性と加工成形性がすぐれている。さらに本発明はこれらの特性を一層改善するためにNi,Cuなどの鋼成分を含有させる。Ni;Niは、本発明ステンレス鋼の選択添加成分である。凝縮液を含む環境など高い耐食性を要求される環境では、Cr,Mo、その他元素と共存して用いられる。局部腐食進展抑制に効果的であるが、0.1%未満では効果がなく、1.0%を越えるとその効果は飽和し、また、経済的にも高価となる。Cu;Cuは、Cr,Moをベースとした成分系、さらにNi、その他元素と共存の形で添加され、凝縮液を含む環境での耐食性を得るための添加元素である。0.03%以上で共存効果が著しく、また1.0%を越えると耐食性は飽和し、且つ熱間加工性を劣化させる。・・・V;Vの共存添加は、ステンレス鋼の耐食性、局部腐食性を向上させるので、必要に応じて0.5%以下で添加する。」(第4頁右上欄20行〜第5頁左上欄17行)と記載されている。
IV.対比・判断
(1)本件第1発明について
本件第1発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件第1発明における低Crフェライトステンレス鋼板の成分であるC、N、Cr、Si、Mn.Ti.A1について、個々の合金成分含有量は、甲第1号証に記載されたフェライト系ステンレス鋼のそれと一致している。
しかしながら、本件第1発明では、有効Ti%(=Ti%-4C%-3.4N%)とP%との積が0.007以下となるように、鋼板成分であるTi、C、N、Pの含有量をさらに限定しているのに対して、甲第1号証にはこの点については何ら記載されておらず(以下、「相違点1」という。)、また、本件第1発明では、前記成分組成の低Crフェライトステンレス鋼板を熱間圧延、水冷し、750℃以下の温度でコイルに巻き取るのに対して、甲第1号証には、「・・・熱間圧延した。次いで、4個のコイルを通常の方法で冷間圧延し・・・」と記載されるのみで、具体的な巻取条件については記載されていない(以下、「相違点2」という。)。
そこで、上記相違点1、2について検討する。
(i)相違点1について
本件第1発明において、有効Ti%(一Ti%-4C%-3.4N%)とP%との積が0.007以下となるように、鋼板成分であるTi.C、N、Pの含有量を限定した技術的な理由は、「・・・熱間圧延中にTiPFeの析出が起こらないようにTiとPの含有量を制御し熱間圧延後の水冷により冷却途中の析出を抑制する方法により、優れた加工性を有する冷延鋼板が得られることを知見した。」(【0011】)、「・・・熱間圧延中のTiPFeの析出を防止するために、[有効Ti%]・[P%]≦0.007の式によりTi含有量、P含有量を規制する。ここで有効Ti%=Ti%-4C%-3.4N%としたのは、Ti含有量のうち熱間圧延温度・域(900℃以上)でTiC,TiNの形成に費やされるTi分を全Ti量から差し引いた値であることを意味する。[有効Ti%]・[P%]≦0.007としておけば、930℃以上の仕上げ焼鈍でTiPFeの微細析出物が溶解し、良好な特性のフェライトステンレス鋼板を得ることができる。」(【0025】)との本件特許明細書の記載からみて、熱間圧延時にTiPFeが析出することを防止し、それによって、鋼板の加工性を改善するためであるといえる。
なお、この点は、本件特許明細書表2中に記載される比較鋼Eの加工性に関する評価からも明らかである。即ち、個々の合金成分Ti、C、N、Pの含有量は本件第1発明で規制した範囲内のものであるが、有効Ti%とP%との積が0.0093であり、本件第1発明で規制した0.007以下という範囲を外れている比較鋼Eは、伸びが小さく、かつ、降伏強度が高くなりすぎて、加工性が劣化することが示されている。
しかるに、甲第2号証中に記載されるフェライト系ステンレス鋼板は、その合金成分としてTiPを含有するのか否かが明らかでないばかりか、それらの含有量についても明らかでないから、甲第2号証に、有効Ti%とP%との積を0.007以下とすることが開示されているとは到底認められない。
また、甲第3号証には、ステンレス鋼の合金成分としてTiを0.05〜1.0重量%添加することあるいはさらにCu、V、Nb、Ni、Moを合金成分として添加することは記載されるものの、有効Ti%とP%との積が0.007以下となるように、鋼板成分であるTi.C.N.Pの含有量を定めることについては記載されておらず、また、示唆されるところもない。
よって、上記相違点1は、甲第2号証、甲第3具証の記載から当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
なお、異議申立人は、有効Ti%とP%との積を0.007以下とする点に関し、甲第1号証の第9〜11頁には具体的に7種の鋼(実施例1、2の供試材及び参考鋼A〜E)が記載され、そして、これら7種の鋼は、その成分組成が上記要件を満足しているから、有効Ti%とP%との積を0.007以下と特定する点は、本件第1発明と甲第1号証との実質的な相違には該当しない旨主張する(特に、異議申立書第11頁表2、同書第13頁10〜14行参照)。
そこで、異議申立人の上記主張について検討するに、甲第1号証に具体的に記載された7種の鋼は、確かに有効Ti%とP%との積が0.007以下となっているが、実施例1、2として示されたものはN含有量が、鋼AはC含有量が、鋼B、C、EはTi含有量が、それぞれ本件第1発明で定めた範囲を外れるものであるから、上記鋼は、単に、有効Ti%とP%との積が0.007以下を満たしているというにすぎず、これをもって、熱間圧延時のTiPFeの析出を防止し、あるいは、そのための手段として、有効Ti%(=Ti%-4C%-3.4N%)とP%との積が0.007以下となるように、Ti、C、N、Pの含有量を調整するという本件第1発明の特徴が開示されているとすることはできない。
また、鋼Dは、有効Ti%とP%との積が0.007以下を満たしているばかりか、C、N、Cr、Si、Mn、P、S、Ti及びAlの各成分の含有量についても本件第1発明で定める範囲内のものであるが、鋼Dは、甲第1号証の記載からも明らかなように、甲第1号証中に記載された実施例1の鋼との特性を比較すべき鋼として記載されたものであって、鋼Dと実施例1の鋼とは、連続酸化耐性、熱サイクル中酸化耐性がほぼ同程度であることを明らかにしたにすぎず、これをもって、鋼Dの成分組成により、熱間圧延時のTiPFeの析出の防止が図られることが甲第1号証に開示されているとすることはできない。
よって、有効Ti%とP%との積を0.007以下と特定する点は、本件第1発明と甲第1号証との実質的な相違には該当しないという異議申立人の主張は採用できない。
(ii)相違点2について
本件第1発明において、所定成分組成の低Crフェライトステンレス鋼板を熱間圧延、水冷し、750℃以下の温度でコイルに巻き取るその技術的な理由は、「(2)熱間圧延終了後に水冷を行って巻取り温度を750℃以下とするのは、TiPFeの熱延板への微細析出を防止することができるからである。この時の冷却速度はほぼ10℃/s以上とすればよく、通常の水冷により達成される。750℃以上で巻き取ると析出物が大きくなり、仕上げ焼鈍温度を930℃以上としてもTiPFeの析出物が溶解せず、焼鈍工程での再結晶開始時に悪影響を及ぼし、冷延鋼板の伸び、深絞り性の低下をまねく場合がある。750℃以下で巻き取ることにより実施例の表2で示すように良好な加工性が得られるためこのように規定した。」(【0027】)との本件特許明細書の記載からみて、熱間圧延後の熱延板へのTiPFeの析出を防止し、良好な加工性を得るためであると認められ、そしてこの点は、本件特許明細書中、表2の比較鋼Aについて、巻取温度を780℃とした場合には、仕上げ焼鈍条件を940℃×1.5分としても、得られた冷延鋼板の加工性の評価は低いもの(×)であることからも明らかである。
ところで、甲第2号証には、加工性のすぐれたフェライト系ステンレス鋼板の製造に際し、熱間圧延後、600〜800℃の温度範囲で巻き取ることが記載され、巻き取り温度範囲については、本件第1発明のそれと重複しているが、甲第2号証記載のものにおいて、巻き取り温度を600〜800℃と定めたのは、冷延性、深絞り性、リジング性が劣化するのを防止するためであり、一方、本件第1発明は、熱間圧延後の熱延板へのTiPFeの析出を防止し、良好な加工性を得るためであるから、甲第2号証記載のものは本件第1発明とは、巻き取り温度を定めた技術的な理由が明らかに相違し、しかも、甲第2号証中に記載されるフェライト系ステンレス鋼板は、Tiを合金成分としては含有しないものであるから、甲第2号証に記載される巻き取り温度範囲が本件第1発明のそれと重複するものであるとしても、熱延板へのTiPFeの析出防止という本件第1発明の作用効果が奏されるものでないことは明らかである。
したがって、甲第2号証に記載された巻き取り温度を、甲第1号証記載のものに対して適用するすることが容易であるとすることはできない。
また、甲第3号証には、ステンレス鋼の合金成分であるTi、Cu、V、Nb、Ni、Moについて、それぞれの成分を添加した場合の鋼板特性に関して記載されるものの、鋼板の製造工程における巻き取り条件、即ち、熱間圧延後750℃以下の温度でコイルに巻き取る点、については何ら開示されるところがない。
よって、上記相違点2は、甲第2号証、甲第3号証の記載から当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
したがって、本件第1発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件第2発明〜第4発明について
本件第2発明は、本件第1発明における連続式仕上げ焼鈍の温度を930℃以上と限定したものの相当し、また、本件第3発明は、本件第1発明における有効Ti%とP%との積を0.004以下に、コイルの巻取温度を650℃以下に、連続式仕上げ焼鈍の温度を860℃以上930℃未満に限定したものに相当する。さらに、本件第4発明は、本件第1発明〜第3発明において、鋼板の合金成分として、Cu、V、Nb、Ni、Moの1種または2種以上を所定量含有させたものに相当する。
そこで、本件第2発明〜第4発明と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、両者は、前記(1)で挙げた相違点1、2で少なくとも相違する。
そして、相違点1、2については、甲第2号証、甲第3号証の記載から当業者が容易に想到し得たものと認められないことは前記(1)のとおりである。
よって、本件第2発明〜第4発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件第1発明〜第4発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明〜第4発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-09-14 
出願番号 特願平4-358547
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 能美 知康
内野 春喜
登録日 1998-01-16 
登録番号 特許第2738249号(P2738249)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 フェライトステンレス鋼板の製造方法  
代理人 杉村 純子  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 高見 和明  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 徳永 博  
代理人 梅本 政夫  
代理人 中谷 光夫  
代理人 杉村 興作  
代理人 青木 純雄  

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