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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1001880 |
審判番号 | 審判1998-580 |
総通号数 | 3 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-05-06 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-01-07 |
確定日 | 1999-09-17 |
事件の表示 | 平成 8年 特 許 願 第227788号「感光体の作製方法」拒絶査定に対する審判事件(平成 9年 5月 6日出願公開、特開平 9-120173)について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.本願の出願の経緯 本願は、平成8年8月10日に、特許法第44条第1項の規定により、平成5年10月25日に出願された特願平5-287274号の一部を新たな特許出願として出願されたものであるが、該特願平5-287274号は、同じく昭和56年9月24日に出願された特願昭56-151148号の一部を新たな特許出願として出願されたものであり、さらに、該特願昭56-151148号出願は、同じく昭和55年6月25日に出願された特願昭55-86801号の一部を新たな特許出願として出願されたものである。(以下、出願された順に、特願昭55-86801号出願、特願昭56-151148号出願及び特願平5-287274号出願を、それぞれ「親出願」、「子出願」及び「孫出願」という。) II.本願発明 本願発明は、平成9年9月12日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「反応炉内に円筒状の導電性基体を配置し、前記円筒状の導電性基体を回転させつつ、前記基体上にプラズマ法によって珪素を主成分とするP型の第1の半導体層を形成する工程と、前記第1の半導体層上に、珪素を主成分とする真性の第2の半導体層を形成する工程とを有し、前記第1および第2の半導体層は同じ反応炉にて形成され、前記感光体は表面に炭化珪素膜を有することを特徴とする感光体の作製方法。」 III.原査定の理由の概要 これに対して、原査定の理由の概要は、以下のとおりである。 本願発明は、導電性基体上に、第1の半導体層、第2の半導体層及び炭化珪素膜の3層のみからなる感光体の作製方法が包含されるが、そのような感光体の作製方法は、本願のもとの出願である特願平5-287274号(上記「孫出願」)のもとの出願である特願昭56-151148号(上記「親出願」)の願書に最初に添付された明細書または図面には記載されておらず、かつ、同明細書または図面の記載からみて自明な事項であるともいえないで、本願は適法な分割出願ではなく、本願の出願日は、現実の出願日(平成8年8月10日)として取り扱われる。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開昭57-11351号公報(上記「親出願」の特許公開公報、以下、「引用例1」という。)及び特公平4-15938号公報(上記「親出願」の特許公告公報、以下、「引用例2」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。 IV.当審の判断 1.分割の適法性及び出願日の認定 (1)本願が適法な分割出願であるための要件前述のとおり、本願は、「孫出願」をもとの出願とする分割出願に係るものであるが、本願が、特許法第44条第1項に規定する適法な分割出願であって、同法第2項の適用を受ける、即ち親出願の出願時である昭和55年6月25日に出願したものとみなされるためには、以下のi乃至iiiの要件を満たしていなければならない。 そして、i乃至iiiのいずれか1つの要件でも満たしていないときには、本願は、適法な分割出願ではないから、本願の出願日は、現実の出願日である平成8年8月10日である。 i.本願発明が、孫出願の明細書または図面に記載されている発明であること。 ii.本願発明が、子出願の明細書または図面に記載されている発明であること。 iii.本願発明が、親出願の明細書または図面に記載されている発明であること。 (2)親出願、子出願、孫出願及び本願の各明細書及び図面に記載された発明 そこで、親出願、子出願、孫出願及び本願の各明細書及び図面の記載について検討する。 親出願、子出願及び孫出願の明細書及び図面には、「炭化珪素膜」に関してそれぞれ以下の記載がある。 親出願の明細書及び図面(出願公開公報である特開昭57-11351号公報参照): 出願当初の明細書の特許請求に範囲には 「1.導電性基板上に一導電型の半導体または半絶縁性の第1の層と該層上に真性 または実質的に真性の半導体または半絶縁体の第2の層とが設けられたことを 特徴とする静電複写機。 2.導電性基板上の半導体または半絶縁体には静電荷を流しうる厚さを有する絶 縁または半絶縁膜が設けられたことを特徴とする静電複写機。 ・・・ 5.特許請求の範囲第2項において、絶縁または半絶縁膜はSi3N4-x(0 <X<4)、SiC1-x(0<x<1)よりなることを特徴とする静電複写 機。」 が記載され、発明の詳細な説明には、第4図は、P型半導体(21)と真性または実質的に真性の半導体(23)のPI接合よりなる、本発明の構造を示す図であること(第2頁左下欄第9行〜右下欄第11行参照)、第5図及び第7図は、本発明の他の構造を示す図であること、がそれぞれ記載されており、該第5図及び該第7図に関して、以下の▲1▼乃至▲3▼の記載がある。 ▲1▼本発明の他の構造は第5図に示してある。すなわち第5図(A)は半導体層(21)とその上面の半導体層(23)よりなり、さらにその上面には電流を流しうる厚さの窒化珪素(Si3N4)が30〜100Aの厚さで形成されている。この窒化珪素はエネルギバンド巾が5.0eVであり、酸化珪素に比べて硬く耐まもう性にすぐれているに加えて、その厚さを30〜100Aと厚くしても電流を流すことができる。このため酸化珪素の保護膜に比べて2つの特徴を有し、本発明においては第1図の反応炉に対しシランの導入を中止してアンモニアのみを導入してプラズマ化し、この半導体または半絶縁体の表面を窒化すればよい。この保護膜(25)は炭化珪素であってもよい。(第3頁右上欄下から第第6行〜左下欄第6行) ▲2▼第7図は、本発明の他の構造を示している。すなわち第7図(A)は導体基 板(1)上にP型半導体(21)、真性または実質的に真性の半導体層(23)よりなる半導体層(2)、この上面に電流を流しうる厚さの絶縁または半絶縁膜(26)ここでは窒化珪素を10〜100A特に30〜50Aとした。この上面に半導体のクラスタ(50)、その上面に電流を流しうる厚さの第2の絶縁または半絶縁膜(27)を(26)と同時に設けた。半導体のクラスタ(50)は50A〜5μの直径をもつ塊状の半導体であり、また各クラスタは電気的に絶縁されている。平均膜厚は50〜2000Aの厚さを有するこのクラスタは、シラン のみを膜(26)上にデポジットしてもよく、この珪素に0.1〜10モル%の窒素を添加した低級窒化物であってもよい。(第3頁左下欄下から第8行〜右下欄第4行) ▲3▼第7図(C)は第7図(B)と同様に半導体のクラスタまたは膜を有したエ ネルギバンド的に井戸を有し、この井戸に静電荷を蓄積させる方法であるが、その井戸をはさむ膜(28)(29)はプラズマCVD法で作製したため、そのエネルギエッジがソフトになっている。この場合は窒素の添加量を調整してEg3〜4eVとすることができるため、被膜(28)(29)の膜を30〜500Aと厚くしても光照射による感光性を有している。(第3頁右下欄下から第5行〜 第4頁左上欄第2行) 子出願の明細書及び図面(出願公開公報である特開昭57-122446号公報 参照): 出願当初の明細書の特許請求に範囲には 「1.導電性の基板またはドラム上に感光性半導体層と該半導体層上に電荷を捕獲蓄積させる層とを有することを特徴とする複写機。 2.特許請求の範囲第1項において電荷を捕獲蓄積させる層は半導体のクラスタまたは膜をはさんで絶縁または半絶縁膜が設けられたことを特徴とする複写機。 3.特許請求の範囲第1項において、半導体層または電荷を捕獲蓄積させる層は非単結晶構造を有するSi、Si3N4-x(0<x<4)、SiC1-x(0<X<1)またはSiO2-x(0<x<2)が用いられたことを特徴とする複写機。」 が記載されており、該子出願の図面は、親出願の図面の第4図、第5図を削除するとともに、同第6図及び第7図の図面番号を、それぞれ第4図及び第5図に繰り上げたものである。そして、発明の詳細な説明においては、図面の削除及び図面番号の変更にともない、もとの第5図に関する前記▲1▼の記載が削除され、もとの第7図に関する前記▲2▼及び▲3▼の記載は、以下の▲2▼′及び▲3▼′とされた。なお、分割と同時に提出された補正により、親出願からは、第4図及び第7図が削除されている。 ▲2▼′の記載: 「第5図は、本発明の構造を示している。すなわち第5図(A)は導体基板(1)上にP型半導体(21)、真性または実質的に真性の半導体層(23)よりなる半導体層(2)、この上面に電流を流しうる厚さの絶縁または半絶縁膜(26)ここでは窒化珪素を10〜100A特に30〜50Aとした。この上面 に半導体のクラスタ(50)、その上面に電流を流しうる厚さの第2の絶縁ま たは半絶縁膜(27)を(26)と同時に設けた。半導体のクラスタ(5(ト)は50A〜5μの直径をもつ塊状の半導体であり、また各クラスタは電気的に絶縁されている。平均膜厚は50〜2000Aの厚さを有するこのクラスタはシランのみを膜(26)上にデポジットしてもよく、またはこの珪素に0.1〜10モル%の窒素を添加した低級窒化物であってもよい。」(第3頁左下欄下から第11行〜右下欄第5行)(実質的に図面番号の変更のみ。) ▲3▼′の記載: 「第5図(C)は第5図(B)と同様に半導体のクラスタまたは膜を有したエネ ルギバンド的に井戸を有し、この井戸に静電荷を蓄積させる方法であるが、その 井戸をはさむ膜(28)(29)はプラズマCVD法で作製したため、そのエネ ルギエッジがソフトになっている。この場合は窒素の添加量を調整してEg3〜 4eVとすることができるため、被膜(28)(29)の膜を30〜500Aと 厚くしても光照射による感光性を有していた。」(第4頁左上欄下から第9行〜 末行)(実質的に図面番号の変更のみ。) さらに、前記▲2▼′と▲3▼′の間に、新しい第5図の説明として、削除さ れたもとの第5図に関する記載であった前記▲1▼の記載に酷似した以下の▲1 ▼′の記載が加えられた。 ▲1▼′の記載: 「さらに本発明においてはこの半導体クラスタまたは膜の上面に電流を流しうる厚さの絶縁物ここでは窒化珪素(Si3N4)が30〜100Aの厚さで形成されている。この窒化珪素はエネルギバンド巾が5.0eVであり、酸化珪素に比べて硬く耐まもう性にすぐれているに加えて、その厚さを30〜100Aと厚くしても電流を流すことができる。このため酸化珪素の保護膜に比べて2つの特徴を有し、本発明においては第1図の反応炉に対しシランの導入を中止してアンモニアのみを導入してプラズマ化し、この半導体または半絶縁体の表面を窒化すれ ばよい。この保護膜(27)は炭化珪素であってもよい。」(第3頁右下欄第9行〜第4頁左上欄第1行)(アンダーライン部が前記▲1▼から変更されている部分である。) 孫出願の明細書及び図面(出願公開公報である特開平6-202360号公報参照) 出願当初の明細書の特許請求に範囲には 「【請求項1】珪素を主成分として水素、弗素あるいは塩素を含み、P型用のホウ素またはインジュームまたはN型用のリンまたはアンチモンが添加され、かつ窒素、酸素または炭素が添加された半導体または半絶縁体からなる第1の非単結晶層と、第1の非単結晶層の上に形成され、水素、弗素あるいは塩素を含む真性のまたは実質的に真性の珪素半導体からなる第2の非単結晶層と、第2の非単結晶層の上に形成され、珪素を主成分として水素、弗素あるいは塩素を含み、かつ炭素が添加された半導体または半絶縁体からなる第3の非単結晶層とを有することを特徴とする電子写真感光体。 【請求項2】第3の非単結晶層が、エネルギバンドギャップの狭い層を間に挟んだ複数のエネルギバンドギャップ層からなる請求項1に記載の電子写真感光体。」 が記載されており、孫出願の図面は、子出願の図面の第4図(A)、第4図(B)及び第5図を、図4、図5及び図6としたものであり、それとともに、発明の詳細な説明においては、もとの第5図に関する前記▲2▼′、▲1▼′及び▲3▼′の記載がそれぞれ以下の▲2▼″、▲1▼″、▲3▼)″の記載とされた。(アンダ ーラインは、書き直された部分を示す。) ▲2▼″の記載: 「このようにして、図6に示すように、導体基板2上にP型半導体21、真性ま たは実質的に真性の半導体23よりなる半導体層1を形成した。この上面に電流を流し得る厚さの絶縁または半絶縁膜26ここでは窒化珪素を10〜100A(オングストローム;以下Aと表す)特に30〜50Aを漸次積層し、光導電性半導体または半絶縁体の層とした。この上面に半導体のクラスタ50をエネルギ的に井戸型を構成するようにして同じ反応炉にて作製した。さらに、その上面に電流を流し得る厚さの第2の絶縁または半絶縁膜27を26と同様の作製方法により形成した。半導体のクラスタ50は50A〜5μmの直径をもつ塊状の半導体であり、また 各クラスタ間は互いに電気的に絶縁されている。平均膜厚が50〜2000Aの厚さを有するこのクラスタはシランのみを膜26上にディポジッしてもよく、またはこの珪素に0.1〜10原子%の窒素を添加したそのクラスタの外周辺を窒化した低級窒化物であってもよい。」(第3欄第38行〜第4欄第7行) ▲1▼″の記載: 「さらに、本発明においては、この半導体のクラスタまたは膜の表面に電流を流 し得る厚さの絶縁物、ここでは窒化珪素(Si3N4)をバリア層27として30〜100Aの厚さに形成させた。この窒化珪素はエネルギバンド巾が5.0eVであり、これは酸化珪素に比べて硬く耐磨耗性に優れているに加えて、その厚さを30〜100Aと厚くしても電流を流すことができる。このため酸化珪素の保護膜に比べて寿命が長いという特徴を有する。本発明においては図4及び図5の反応炉においてシランの導入を中止してアンモニアのみを導入しプラズマ化し、この半導体または半絶縁体の表面を固相-気相反応で窒化して絶縁膜27を形成してもよい。本発明の別の実施例では、保護膜27を炭化珪素とした。」(第4欄第13〜27行) ▲3▼″の記載: 「図6(C)は、本発明の他の実施例を示す。この図面は図6(B)と同様に半導体のクラスタまたは膜50を有したエネルギバンド的に井戸構成とせしめ、この井戸に静電荷蓄積させるものであるが、その井戸を挟む膜28、29はプラズマCVD法で作製したため、そのエネルギバンド端(エッジ)がソフトになっている。この場合は窒素の添加量を調整してEg3〜4eVとすることができるため、被膜28、29を30〜500Aと厚くしても光照射による感光性を有していた。」(第4欄第38〜46行)さらに、このあとに、以下の▲4▼の記載が加えられた。 ▲4▼の記載: 「以上の実施例では、井戸構造を示したが、表面静電気の状態によっては井戸構造とせずに単一表面層にできることはいうまでもない。」(第4欄」下から第4〜2行) 本願明細書及び図面(特開平9-120173号) 本願の明細書及び図面と、前記孫出願の明細書及び図面とは、特許請求の範囲の記載が異なるだけで、発明の詳細な説明の記載及び図面は両者同じであって、本願の明細書の発明の詳細な説明には、前記の▲2▼″、▲1▼″、▲3▼″及び▲4▼の記載がある。 (3)本願発明との対比 前項II.に記載した本願の特許請求の範囲に記載された発明は、本願明細書の▲2▼″、▲1▼″、▲3▼″及び▲4▼の記載から判断して、以下のア及びイの感光体を作製する場合を包含するものと認められる。 ア:▲2▼″、▲1▼″及び▲3▼″に記載された、本願明細書の実施例のごとく、導電性基体上に、第1の半導体層、第2の半導体層、及び井戸構造を有する第3の層を有し、該第3の層の最上層が炭化珪素膜である感光体 イ:▲4▼に記載された単一表面層が、炭化珪素膜である、すなわち導電性基体上に、第1の半導体層、第2の半導体層及び第3の膜である炭化珪素膜の3層のみからなる感光体 そこでまず、孫出願の明細書に記載された発明と対比するに、先に述べたように、本願明細書と孫出願の明細書とは、特許請求の範囲の記載が異なるだけで、両者の発明の詳細な説明の記載及び図面の記載は同一であるから、上記と同様の理由により、孫出願の明細書には、本願発明のアの感光体及びイの感光体の双方が記載されていることは明らかである。 次に、子出願の明細書に記載された発明と対比する。 前記孫出願の前記▲2″、▲1▼″及び▲3▼″に相当する記載は、子出願の前記▲2▼′、▲1▼′及び▲3▼′の記載であって、これらの記載は、図面番号が異なるだけで、ほとんど変わるところがないから、本願発明のアの感光体については、子出願の明細書に記載されていることは明らかである。 しかしながら、前述のとおり、孫出願の前記▲4▼の記載は、孫出願の出願の際に追加された記載であって、子出願の明細書には前記▲4▼に相当する記載はみあたらない。さらに、子出願の明細書の記載からみて自明な事項とも認められない。 よって、本願発明のイの感光体については、子出願の明細書には記載されていないとするのが妥当である。 さらに、このことは、前項IV.2.(2)において記載した、親出願から子出願が分割されたときの経緯からみても明らかである。 すなわち、前項に詳述したとおり、子出願の分割出願の際には、子出願に係る発明は、親出願の第7図に図示されていた、第3の層が「井戸構造を有する層」である場合のみに限定されるとともに、親出願の図面から第7図を削除して、第3の層が「単一層」である場合のみに限定する、明細書の補正がされた。そしてその際に、親出願の明細書に記載されていた、前記▲1▼における「保護膜(25)は炭化珪素であってもよい」という記載が、子出願の明細書においては、「保護膜(25)」という記載を「保護膜(27)」という記載に変更されるとともに、前記▲1▼′の、第3の層が井戸構造を有する層である場合に、その最上層である「保護膜(27)」が炭化珪素膜であってもよいとする記載が追加されたものである。してみると、本願発明のアの感光体は、子出願の発明に係る、第3の層が「井戸構造を有する層」であって、その最上層が炭化珪素膜である場合(▲1▼′の記載)に相当し、一方、本願発明のイの感光体は、親出願に係る発明として残された、第3の層が「単一層」である場合であって、該層が炭化珪素膜である場合(▲1▼の記載)に相当すると解するのが相当であり、本願発明のイの感光体は、親出願には記載されているが、子出願には記載されていないとするのが妥当であることは明らかである。 (4)本願の出願日 以上のとおり、本願発明のイの感光体に関しては、孫出願及び親出願に記載されているが、子出願には記載されていないことは明らかである。 よって、本願は、適法な分割出願とみなすに必要な前述のiiを満たしていないことは明らかである。 したがって、本願は、現実の出願日である平成8年8月10に出願したものとして取り扱われるべきものである。 2.各引用例に記載された発明との対比・判断 (1)引用例1に記載された発明との対比・判断 引用例1は、前記親出願の公開公報であって、引用例1の第6図及びそれに関する記載(第2頁右下欄下から第9行〜第3頁右上欄第14行)には、「反応炉内に円筒状の導電性基体を配置し、前記円筒状の導電性基体を回転させつつ、前記基体上にプラズマ法によって珪素を主成分とするP型の第1の半導体層を形成する工程と、前記第1の半導体層上に、珪素を主成分とする真性の第2の半導体層を形成する工程とを有し、前記第1および第2の半導体層は同じ反応炉にて形成される」ことが記載されている。また、該方法によって作製される感光体としては、「導電性基体上に、第1の半導体層、第2の半導体層及び炭化珪素膜の3層のみからなる感光体」も包含されることは前述▲1▼の記載から明らかである。 よって、本願発明は、引用例1に記載された発明である。 (2)引用例2に記載された発明との対比・判断 引用例2は、前記親出願の公告公報であって、引用例2の第5図には、本発明のドラム作製したプラズマCVD装置が記載され、第5図に関する説明には(第8欄第8行〜第9欄第14行参照)、反応炉内にアルミニウムまたはその化合物からなるドラムを配置し、前記ドラムを回転させつつ、前記ドラム上にプラズマ法によって珪素を主成分とするP型の第1の半導体層を形成する工程と、前記第1の半導体層上に、珪素を主成分とする真性の第2の半導体層を形成する工程とを有し、前記第1および第2の半導体層は同じ反応炉にて形成されることが記載されており、該「ドラム」は、本願発明における「円筒状の導電性基体」に相当する。 また、特許請求の範囲には、該方法によって作製される感光体が、導電性基体上に、P型の半導体層である第1層、真性の半導体層である第2の層、及び第3半絶縁体層である第3の層を有する感光体であって、該第3層が、炭素含有珪素を主成分であることも記載されている。 よって、本願発明は、引用例1に記載された発明である。 V.むすび 以上のとおり、本願発明は引用例1及び引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-06-15 |
結審通知日 | 1999-07-02 |
審決日 | 1999-07-12 |
出願番号 | 特願平8-227788 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(G03G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中澤 俊彦、加藤 孔一、六車 江一 |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
江藤 保子 鐘尾 みや子 |
発明の名称 | 感光体の作製方法 |
代理人 | 加茂 裕邦 |