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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C04B
管理番号 1003393
審判番号 審判1997-7581  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-03-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-05-13 
確定日 1999-11-04 
事件の表示 昭和62年 特 許 願 第214743号「酸化物超電導材料の成型物」拒絶査定に対する審判事件〔(平成6年6月29日出願公告、特公平6-49626)、特許請求の範囲に記載された発明の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 I.手続の経緯、本願発明の要旨
本願は、昭和62年8月27日に出願した特許出願であって、平成6年6月29日に出願公告されたのに対し、平成6年9月28日に古河電気工業株式会社から特許異議の申立てを受けたところ、原審ではこの特許異議の申立てを理由があるものと決定し、特許異議の決定に記載した理由によって本願を拒絶したものであって、本願の特許請求の範囲第1項に記載された発明の要旨は、特許法第17条の3第1項の規定による平成9年6月9日付け手続補正書及び同法第64条第1項の規定による平成11年9月22日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「表面が有機樹脂で覆われた酸化物超電導材料の成型物であって、該成型物の超電導セラミックスは、組成が分子式AB2Cu3OzXvであり、且つ臨界電流密度が104〜5×105A/cm2であって、前記分子式は、z=6〜8、v=0〜3、AがY,Gd,Yb,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Lu,Scから選ばれた1種類以上の元素、BがRa,Ba,Sr,Ca,Mg,Beから選ばれた1種類以上の元素、XがSi,Ge,Sn,Pb,F,Clから選ばれた1種類以上の元素であり、前記超電導セラミックスの結晶のc軸方向がそろっていることを特徴とする酸化物超電導材料の成型物。」(以下、「本願発明」という。)
II.特許異議の決定に記載された理由の概要
特許異議の決定に記載された理由の概要は、
「この出願の発明は、下記の理由でこの出願前国内において頒布された甲1ないし3号証刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものと認める。したがって、この出願の発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。

甲第3号証刊行物には、『酸化物超電導材料を水分による劣化から保護するために、酸化物超電導材料を・・・・・有機樹脂のカプセルに封入すること』が記載されており、これは、その技術内容よりみて、本願発明における『有機樹脂で覆われた酸化物超電導材料』に相当するものと解される。」
というものである。
III.引用例の記載内容
1.引用例1
原審の特許異議の決定で引用された甲第1号証(″Japanese Journal of Applied Physics″,Vol.26,No.7,July,1987,p.L1248-L1250。以下、「引用例1」という。)は、「エピタキシャル成長させたBa2YCu3O7-y薄膜の臨界電流密度の大きな異方性について」と題する報文であって、そこには、
(1-1)「図1はBYCO薄膜のX線回折パターンを示す。この図から、膜はBYCOの構造を持ち、そしてBYCO(110)面がSrTiO3基板の(110)表面にエピタキシャル成長していることがわかる。図2は同じ膜の反射電子回折パターンを示す。このパターンから、膜の[001]、[110]軸がそれぞれ基板の[100]、[110]方向に平行に成長していることがわかる。」(第L1248頁左欄下から第5行〜第L1249頁左欄第4行)、
(1-2)「図6、7は上記2つの方向のIc//、Ic⊥の温度依存性を示す。ここで記号//、⊥はそれぞれ基板面に平行か垂直かを現す。図6に74K〜87Kの温度範囲のIc//を示す。Icは液体窒素の沸点である77.3Kで1.8×106A/cm2であり、これは今まで報告された中で最も高い臨界電流密度の値である。試料は狭い部分に大電流を流したことによる熱のため、測定中に破壊した。[001]方向についてはIc⊥は4.2Kで3.2×104A/cm2であり、この図7の結果は、AmbegaokarとBaratoffのジョセフソン接合の理論に一致する。」(第L1249頁右欄第18〜31行)、
(1-3)「Ba2YCu3O7-y(BYCO)薄膜をSrTiO3基板上にマグネトロンスパッタリング法によってエピタキシャル成長させた。薄膜は84Kで抵抗がゼロとなり超電導転移の幅は6Kであった。底面に沿った方向の比抵抗はC軸に沿った方向のそれよりも1桁小さく、また輸送特性(電気特性)は前者の方向の場合の方がより金属的である。さらに臨界電流密度は後者の方向に比べて前者の方向の場合2桁大きい。これらの結果はBYCOの電子構造が擬似2元的であることを強く示唆している。液体窒素温度における最大の臨界電流密度は1.8×106A/cm2に達した。」(第L1248頁要約欄)、
との記載がある。
2.引用例2
同じく甲第2号証(″Japanese Journal of Applied Physics″,Vol.26,No.5,May,1987,p.L657-L659。以下、「引用例2」という。)は、「焼結させたY-Ba-Cu-O化合物の電気抵抗、臨界電流及び結晶配向性について」と題する報文であって、そこには、
(2-1)「ペレットの試料は、一方、図中(図4)に整数で示してあるような(001)の回折が強いピークを示していて、プレスした表面に対し、結晶のc軸方向が垂直に配向していることを示している。」(第L658頁右欄第16〜19行)、
(2-2)「この事実は焼結したペレットのプレスした表面に対し平行方向(Jc//)または垂直方向(Jc⊥)に電流を流して臨界電流密度Jcを測定することによって支持される。観測した電流密度は77KでJc//が約150A/cm2、Jc⊥が約30A/cm2であり、明らかにJc//がJc⊥に比べて大きくなっている。」(第L658頁右欄第20行〜第659頁左欄第5行)、
との記載がある。
3.引用例3
同じく甲第3号証(″Applied Physics Letters″,51(7),17August 1987,p.532-534。以下、「引用例3」という。)は、「超電導性YBa2Cu3O7相に対する水分の影響について」と題する報文であって、そこには、
(3-1)「実験4.焼結した試料の超電導性を交流磁化率法によって測定した。測定した試料は、脱イオン化して沸騰(100℃)させた水中に置いた後、乾燥して再び磁化率法によって測定した。図3に水に浸す前後での試料の磁化率のデータを示す。このデータからわかるように、YBa2Cu3O7試料の超電導性は水に浸した後で著しく劣化している。超電導転移の開始は依然94Kで起こっているものの、水に浸した試料は広い転移を示し、磁化率の信号も著しく減少している。超電導性YBa2Cu3O7相は非常に水や水蒸気に対して敏感である。この相は水中でCuO、Ba(OH)2、Y2BaCuO6とに分解し、酸素を放出する。例えばYBa2Cu3-xO6.0のような酸素組成が減少した試料においても水の雰囲気で分解する。YBa2Cu3O7試料の超電導性は水に依って大きく劣化する。非平衡の酸化状態を伴うこの試料あるいは類似の化合物を応用するためには、おそらく周囲の水分からの保護が要求されるであろう。そのような保護は金属、ガラス、又は有機物のサヤに入れることでなされるであろう。」(第533頁右欄第28行〜第534頁左欄第11行)、
(3-2)「超電導性YBa2Cu3O7相は水および水蒸気に強く影響を受ける。・・(中略)・・YBa2Cu3O7試料の超電導性は水及び湿った空気との相互作用によって非常に劣化する。この効果はこれらの物質の実用的利用を妨げるが、金属、ガラス、あるいはプラスチックによるコーティングにより防ぐことができるであろう。」(第532頁要約欄)、
との記載がある。
IV.当審の判断
本願発明は、本発明者等が高温で超電導を呈する「(A1-xBx)yCu2OwXvを構成する素材を探し求めた」結果、「元素周期表IIIa族、IIa族のそれぞれより選ばれた超電導用出発材料を加圧焼成せしめ、この後これを粉末化する仮焼成を1回または複数回行い、成分をより均質」にし、「この仮焼成をして微粉末化したものを還元性非水溶液中でさらに十分混合」し、「その後これを非水液を含みつつ所望の形状の一体物とした後、徐熱即ち一体物の内部で還元反応が瞬間的に起きない程度に少しづつ昇温せしめ、500〜1400℃の温度で焼成を行」い、「これらの一体物に対し、その特性を測定する前に焼成炉より取り出したら水分が全く吸着しないようにする。即ち焼成後直ちに水分を原理的に含まない有機樹脂溶液中に浸漬させ、これら酸化物超電導材料の表面に有機樹脂をコート」し、「さらにこの有機樹脂を固化し、外部よりこの樹脂を安定して水分が含浸しないように」(本件公告公報第3欄第1〜19行)することにより、「Tc(超電導が始まる温度)オンセットも120〜150Kまで向上させ、さらに安定に保持し得ることが明らかになり、マイスナ効果も確認することができ」(同公報第3欄第20〜22行)たものであり、さらに「結晶方位も焼成中磁場を加えることによりこの磁界と第1図における結晶のc軸とも揃え、ひいてはab面(c面ともいう)を全ての粒で揃えたため、Jc(臨界電流密度)も104〜5×105A/cm2を得ることが可能」(同公報第7欄第16行〜第8欄第2行)となし得たものである。
一方、上記引用例1には、エピタキシャル成長させたYBa2Cu3O7-y系酸化物超電導体薄膜はc軸方向がそろっていること、液体窒素温度における臨界電流密度は「1.8×106A/cm2」にも達することが示されいるとは認められるが、成型物のセラミックスとなした場合の物性に関する記載はなく、しかも、上記引用例2には、c軸方向がそろっているY-Ba-Cu-O系酸化物超電導体のペレットが示されてはいるものの、その臨界電流密度は「約150A/cm2」という本願発明における臨界電流値である「104〜5×105A/cm2」よりも遥かに小さい値でしかないから、引用例1に記載されているYBa2Cu3O7-y系酸化物超電導体の成型物のセラミックスを形成した場合に、その臨界電流密度を「104A〜5×105/cm2」もの大きな値となし得ることが当業者にとり容易に予測し得る程度のものであるとすることはできない。
また、上記引用例3には、YBa2Cu3O7系酸化物超電導体の焼成試料は水分により超電導特性が劣化すること及びこの水分による劣化は表面を有機樹脂でコーティングすると防ぐことができることが示されているにすぎない。
してみると、上記引用例1〜3のいずれにも、YBa2Cu3O7-y系酸化物超電導体の成型物のセラミックスの臨界電流密度を「104〜5×105A/cm2」程度となし得ることを示唆する記載はないから、上記引用例1〜3の記載を総合して勘案したところで、本願発明を想到することが当業者にとり容易になし得たものであるとすることはできない。
V.むすび
したがって、本願発明は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、原査定の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-10-19 
出願番号 特願昭63-214743
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 内野 春喜
能美 知康
発明の名称 酸化物超電導材料の成型物  
代理人 澁谷 孝  

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