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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1003846
異議申立番号 異議1998-75062  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-13 
確定日 1999-09-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2740759号「被膜形成性重合体を含有してなる化粧料組成物及びその製造方法」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2740759号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2740759号発明は、平成8年6月18日(パリ条約による優先権主張、1995年6月27日、フランス国)に特許出願され、平成10年1月23日にその特許の設定登録がなされ、その後、ホーユー株式会社より特許異議申立がなされ、当審より取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月26日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(a)訂正の内容
▲1▼訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を
「中和されたイオン性の皮膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水に混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒の少なくとも1種とを含有してなる化粧料組成物であって、前記被膜形成性重合体は、それが中和されていない状態にある場合には水に不溶性であり且つ前記の極性有機溶媒に可溶性のものでありしかも重合体が中和されている状態にある場合は前記の極性有機溶媒と水との混合物に可溶性のものであり、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、前記の極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物の重合体とのコアーシェル型の複合体重合体粒子を含有していないものとする)ことを特徴とする化粧料組成物。」と訂正し、
▲2▼訂正事項b
請求項3の末尾が
「…を特徴とする請求項1〜2に記載の化粧料組成物。」であったものを
「…を特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料組成物。」と訂正し、
▲3▼訂正事項c
請求項8を削除し、請求項9を請求項8として、その末尾を
「…を特徴とする請求項8記載の化粧料組成物。」であったものを、
「…を特徴とする請求項1記載の化粧料組成物。」と訂正し、
▲4▼訂正事項d
請求項10を請求項9として、
「【請求項9】請求項1〜8のいずれか1項に記載の化粧料組成物の製造方法であって、中和されたイオン性の皮膜形成性重合体(該重合体は中和されていない状態では水に不溶性であるが、但し、該重合体が中和された場合には水と後記の極性有機溶媒との混合物に可溶性のものである)を、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒に溶解し、次いで得られた有機溶液に水(但し、水/又は前記の極性有機溶媒は前記の被膜形成性重合体を中和するための薬剤を少なくとも1種含有するものとする)を加えて前記被膜形成性重合体を中和し、そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と、水との混合物の均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料組成物の製造方法。」と訂正し、
▲5▼訂正事項e
【0001】の「本発明は被膜形成性重合体と、水と、少なくとも…」を
「本発明は被膜成形性性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも…」と訂正し、
▲6▼訂正事項f
【0009】の「すなわち、本発明の課題は中和されたイオン性の被膜形成重合体と、水と、少なくとも…、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が単一相を構成しているものである化粧料組成物である。」とあるのを、
「すなわち、本発明の課題は中和されたイオン性の被膜形成重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも…、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物とのコアーシェル型の複合重合体粒子を含有していないものとする)化粧料組成物である。」と訂正し、
▲7▼訂正事項g
【0010】の「…そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と水との混合物が単一相を構成することからなる、化粧料の製造方法である。」とあるのを、
「…そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と水との混合物が均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料の製造方法である。」と訂正し、
▲8▼訂正事項h
【0012】の「…中和の程度は5〜100%の範囲にあることが可能である。“単一相”という用語は、均質溶液を意味すると解釈される。均質溶液とは、…」とあるのを、
「…中和の程度は5〜100%の範囲にあることが可能である。均質溶液とは、…」と訂正し、
▲9▼訂正事項i
【0013】の「従って、本発明の組成物は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、少なくとも部分的に水混和性であり、且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性溶媒とを含有してなるものである。」とあるのを、
「従って、本発明の組成物は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水混和性であり、且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性溶媒とを含有してなるものである。」と訂正し、
▲10▼訂正事項j
【0020】の「…フルオロカーボイ…」を「…フルオロカーボン」と訂正し、
▲11▼訂正事項k
【0036】の「本発明の組成物はまた水性重合体分散物を含有していてもよい。…」とあるのを、
「本発明の組成物は水性重合体分散物を含有するものであり、…」と訂正し、
▲12▼訂正事項l
【0039】の「…本発明の組成物がかかる水性重合体分散物を含有してなる場合には、該組成物のより迅速な被膜形成が認められ、該組成物は…」とあるのを、
「…本発明の組成物は、より迅速な被膜形成が認められ、…」と訂正し、
▲13▼訂正事項m
【0042】の「…組成物の完全な被膜形成は水性重合体分散物を用いた場合より早い。…」とあるのを、
「…組成物の完全な被膜形成は被膜形成物質として水性重合体分散物のみを用いた場合より早い。…」 と訂正し、
▲14▼訂正事項n
【0048】の記載を削除するものである。
(b)訂正の目的の適否、拡張・変更の存否、及び新規事項の追加の有無
上記訂正事項aは、訂正前の化粧料組成物に請求項8に記載されていた追加成分である水性重合体分散物を必須成分とし、取消理由通知で引用した刊行物(特開平4-103514号公報、及び特開平4-103515号公報)に記載のものが該組成物中に含まれないことを明瞭にするために括弧内に但し書きとして刊行物記載のものを除き、また、コロイド懸濁液としては不明瞭な表現である「単一相」を明細書【0012】に記載の「均質溶液」に訂正するものであるから、特許明細書に記載された範囲内のものであって、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項bは、引用すべき請求項を明確にしたものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項cは、請求項を削除及び削除に伴う請求項の番号を訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項dは、水性重合体分散物を必須成分とし、その添加工程を明記し、さらに「単一相」を「均質溶液」に、請求項の番号10を9と訂正するものであるから、上記に述べたように、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項e〜i、及びk〜nは、特許請求の範囲の記載の訂正に伴って、明細書の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項jは、「…フルオロカーボイ…」が誤記であることは技術常識として明らかであるから、誤記の訂正に該当する。
また、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
(c)独立特許要件の判断
後述の3.特許異議申し立てについての判断に記載した理由により、訂正後の請求項1〜7に係る発明は、独立して特許を受けることができる発明であり、また、本件特許は出願に対して特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしているものである。
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立についての判断
イ、異議申立の概要
異議申立人は、甲第1号証(特表平6-504792号公報)、甲第2号証(特公平6-21049号公報)、及び甲第3号証(「大化学辞典」東京化学同人、1989年発行、784〜786頁)を提出して、本件の請求項1〜4及び6〜7に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載されたものであり、請求項1〜7に係る発明は甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、本件特許は、明細書の記載が不備であるから、同法第36条4項又は6項に規定に満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第2号又は第4号の規定により取り消されるべきであると主張している。
ロ、本件特許発明
本件請求項1〜7に係る発明は特許請求の範囲に記載のとおりのものと認められ、請求項1に係る発明は上記訂正事項aに記載されたものである。
ハ、特許法第29条第1項第3号について
ハ-1、証拠記載の発明
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
▲1▼下記の成分:
(a)少なくとも1種の合成被膜形成樹脂、
(b)上記樹脂の重量に対して少なくとも10重量%の割合の少なくとも1種の可塑剤、
(c)前記被膜形成樹脂と前記可塑剤とを溶解し、均質にする水、及び
(d)噴射剤としてのジメチルエーテルを含有することを特徴とする、エアゾールヘアラッカーの形態の水性化粧料組成物。(請求項1)
▲2▼該被膜形成性樹脂は、水に可溶性でなけれはならないし、また水-ジメチルエーテル混合物にも可溶性でなければならない。(3頁左上欄17〜18行)
▲3▼被膜形成性樹脂について、アクリル酸単位又はクロトン酸単位を含有する上記の共重合体類は、一般的にソーダ(souda)又は苛カリ(potasse)あるいはアルカノールアミン例えば2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)で部分的に又は完全に中和された状態で使用される。(3頁石上欄第21〜24行)
▲4▼被膜形成性樹脂と同様に、前記可塑剤は水に可溶性でなければならないし、水-ジメチルエーテル混合物にも可溶性でなければならない。さらにまた、該可塑剤は前記樹脂と相溶性のものでなければならない、…(3頁左下欄3〜6行)
▲5▼本発明のに好ましい可塑剤の中から、下記のものを上げ得る、すなわち、…Dowaol類の中から、Dowanol PMすなわちプロピレングリコールメチルエーテル、Dowanol DPMすなわちジプロピレングリコールメチルエーテル、Dowanol TPMすなわちトリプロピレングリコールメチルエーテル…が挙げられる。(3頁左下欄8行〜右下欄15)
▲6▼毛髪用エアゾールラッカーの処方例
-NATIONAL STARCH社から“AMPHOMER LV-71”という名称で販売されている、N-オクチルアクリルアミド/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸tert-ブチルアミノエチル・共重合体…………………………… 5g
-100%中和するのに十分なAMP
-“Dawanol TPM”……………………… 1.5g
-ジメチルエーテル…………………… 30g
-全体を100gにするのに十分な量の水(実施例2)
甲第2号証には、頭髪化粧料に関する発明が記載されており、頭髪化粧料に配合する成分の説明として、オクチルアクリルアミド-ブチルアミノエチルメタクリレ-トーアクリル酸エステル共重合体(両性樹脂)は、構成単位としてアクリル酸オクチルアミド、メタクリル酸N-t-ブチルアミノエチルおよびアクリル酸2-ヒドロキシプロピルを有する共重合体であって、かかるオクチルアクリルアミド-ブチルアミノエチルメタクリレート-アクリル酸エステル共重合体の市販品として代表的なものとしては、例えばNSC社製アンフオマー28-4910、28-4961などが挙げられること(4欄37〜46行)が記載され、及び、頭髪化粧料の実施例として
プロピレングリコール
カルボキシビニルボリマー(和光純薬(株)製、ハイビスワコー103)
両性樹脂(NSC社製、アンフオマー28-4910)
95%エタノール
トリエタノールアミン

等を含有するスタイリングジェルの処方、及びその製法として、各成分を混合して均一化して製造する旨(実施例12)が記載されている。
ハ-2、対比・判断
まず、請求項1に係る発明について検討する。
本件請求項1に係る発明と甲第1号証の実施例2に記載のものとを対比する。
甲第1号証に記載の、NATIONAL STARCH社から“AMPHOMER LV-71″という名称で販売されている、N-オクチルアクリルアミド/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸tert-ブチルアミノエチル・共重合体は、AMPで中和されて使用されるものである(▲3▼)から、中和されたイオン性の被膜形成性重合体に相当し、可塑剤として配合されている“Dowanol TPM”は、トリプロピレングリコールメチルエーテル(▲5▼)であって、水に混和性であり(▲4▼)、水の沸点よりも高い沸点をもつことは明らかであるから、少なくとも部分的に水に混和性であり且つ水の沸点より高い沸点をもつ極性有機溶媒(以下、単に極性有機溶媒という。)に相当する。また、毛髪用エアゾールラッカー(▲1▼)は化粧料であることは明らかである。そして、水、前記極性有機溶媒、被膜形成性樹脂の混合物は互いに可溶性である(▲2▼、▲4▼)ことから、均質溶液であるものと認められる。
そうすると、両者は、中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒とを含有する化粧料組成物であって、被膜形成性重合体が、中和されていない状態で水不溶であるかはともかくとして、中和されている状態にある場合には極性有機溶媒と水との混合物に可溶性のものであるから、中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである点で一致している。しかし、前者は、上記混合物に更に水性重合体分散物を必須成分とするのに対して、後者は、水性重合体分散物については何等記載されていない点で相違する。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載されたものではない。
請求項1に係る発明と甲第2号証の実施例12に記載のものとを対比する。
甲第2号証の頭髪化粧料成分のうち、オクチルアクリルアミド-ブチルアミノエチルメタクリレート-アクリル酸エステル共重合体は、両性樹脂と記載され、エタノールアミンが配合されていることから、中和されたイオン性の被膜形成性重合体と認められること、本件特許明細書に、極性有機溶媒の例示としてプロピレングリコールが挙げらていること、及び、スタイリングジェルは均一化して製造していることから、両者は、中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、該極性有機溶媒を含有し、これらの混合物が均質溶液を構成する化粧料である点で一致しているが、前者は、水性重合体分散物を上記混合物中の必須組成物としているのに対して、後者は水性重合体分散物を組成物に含有することについては何等記載されていない点で相違する。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載されたものではない。
次に、請求項2〜4項及び6〜7項に係る発明について検討すると、各請求項に係る発明は、請求項1に係る発明を技術的に更に限定したものであるから、甲第1号証又は甲第2号証に記載されたものではないことは明らかである。
ニ、特許法第29条第2項について
ニ-1、証拠記載の発明
甲第1号証及び甲第2号証は上記ハ-1に記載されたとおりの事項が記載されている。甲第3号証の「高分子」の項には、分子量1万程度以上のものを高分子化合物、高分子物質と総称していること、「高分子電解質」の項には、多数のイオン性解離基をもつ巨大分子のことをイオン性高分子ということが記載されている。
ニ-2、対比・判断
先ず、請求項1に係る発明について検討する。
請求項1に係る発明と、甲第1号証又は甲第2号証とを対比すると、上記ハ-2に述べたように、両者は、中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒とを含有し、これらの混合物が均質溶液を構成する化粧料組成物である点で一致しているが、前者は水性重合体分散物を含有しているのに対して、後者はこれを含有するものではない点で相違する。
そこで、この相違点を検討すると、甲第3号証には、単に「高分子」と「イオン性高分子」の定義が記載されているだけで、水性重合体分散物については何等記載されておらず、まして、これを化粧料組成物に配合することについては示唆もされていない。
ところが、請求項1に係る発明は、特許明細書 【0039】に記載されているように、上記混合物の均質溶液を構成する化粧料組成物に水性重合体分散物をさらに配合すると、より迅速な被膜形成が認められ、被膜の機械特性及び耐水性を保持し、光沢、接着性、及び硬度に優れているという顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲第1〜2号証に記載の化粧料に更に水性重合体分散物を配合することは、甲第3号証に水性重合体分散物について何等記載されていない以上、想到できるものでないから、請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
次に、請求項2〜7に係る発明について検討する。
上記各請求項に係る発明は、請求項1に係る発明を技術的に更に限定したものであるから、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ホ、特許法第36条第4項及び6項について
特許異議申立人は、「中和された被膜形成性重合体」について、単量体の記載はあるものの、具体的な重合体の組成については、実施例に記載の「Worlle 社から Worleesol 60A という名称で販売されているブチルグリコールと2-ブタノール(50/50)の混合物中の75%の固形分をもつアルキド樹脂」だけであるから、明細書中で開示された単量体の組合せにより考えられる重合体の種類に対して広範に過ぎると主張している。
しかし、特許明細書に記載されている単量体の記載から示されている重合体の中で、本件請求項1〜9にかかる発明が実施不能である重合体が存在することを証明しているのならともかく、これらの重合体は化粧料に配合されるものとして知られているものであるから、本件発明が実施できないとは認められない。
したがって、本件特許明細書の記載が不備であるとはいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項又は同法第36条4項又は6項に違反してされたものではない。
また、本件特許については、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54) 【発明の名称】
被膜形成性重合体を含有してなる化粧料組成物及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水に混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒の少なくとも1種とを含有してなる化粧料組成物であって、前記の被膜形成性重合体は、それが中和されていない状態にある場合には水に不溶性であり且つ前記の極性有機溶媒に可溶性のものでありしかも重合体が中和されている状態にある場合には前記の極性有機溶媒と水との混合物に可溶性のものであり、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、前記の極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物の重合体とのコア-シェル型の複合重合体粒子を含有していないものとする)ことを特徴とする化粧料組成物。
【請求項2】 前記のイオン性の被膜形成性重合体が親水性部分を有しているものであり、該親水性部分がカルボン酸基及びその塩、スルホン酸基及びその塩、ホスホン酸基及びその塩、第1級、第2級又は第3級アミノ基及びその塩、第4級アミノ基、水酸基、親水性アミド基、エーテル又はポリエーテル基あるいはニトリル基、アミド基、ニトロ基、イミド基又はメルカプト基の中から選択される極性の高い基の複数個からなるものであることを特徴とする請求項1記載の化粧料組成物。
【請求項3】 前記のイオン性の被膜形成性重合体がカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基の中から選択される陰イオン性基を複数個有するものであり、これらの基が5〜100%の率で中和されているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料組成物。
【請求項4】 前記のイオン性の被膜形成性重合体が親油性部分を有しているものであり、該親油性部分が直鎖又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、飽和又は不飽和の環状炭化水素基、フルオロカーボン又はフルオロ炭化水素基及びオルガノシリコーン残基の中から選択される複数個の比較的非極性の基及び/又は疎水性基からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項5】 前記のイオン性の被膜形成性重合体が、ラジカル重合体が立体排除クロマトグラフィーにより測定される分子量で、500〜200,000の分子量をもつものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項6】 前記の水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒がプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、プロピレンダリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテル並びにこれらの混合物の中から選択されるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項7】 追加成分として少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも低いか又はそれに相当する沸点をもつ極性有機溶媒の少なくとも1種を含有してなるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項8】 前記の水性重合体分散物中の重合体が10℃よりも高いか又はそれに相当するガラス転移温度をもつものであることを特徴とする請求項1記載の化粧料組成物。
【請求項9】 請求項1〜8のいずれか1項に記載の化粧料組成物の製造方法であって、中和されていないイオン性の被膜形成性重合体(該重合体は中和されていない状態では水不溶性であるが、但し、該重合体は中和された場合には水と後記の極性有機溶媒との混合物に可溶性であるものである)を、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒に溶解し、次いで得られた有機溶液に水(但し、水/又は前記の極性有機溶媒は前記の被膜形成性重合体を中和するための薬剤を少なくとも1種含有するものとする)を加えて前記被膜形成性重合体を中和し、そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と、水との混合物の均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水混和性である極性有機溶媒の少なくとも1種とを含有してなる化粧料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
多くの化粧品には、少なくとも1種の被膜形成物質が化粧品の性質に応じて種々の割合で常用されている。被膜形成物質は、例えば毛髪用化粧料組成物においては毛髪により良い保持性と柔軟性とを付与することを可能にし、またマニキュア液においては爪に完全に密着する硬くて光沢のある被膜(film)を付与すること可能にする。しかしながら、被膜形成物質は爪及び毛髪のケラチンに対して良好な親和性を持たなければならない。換言すれば、前記の毛髪用化粧料組成物が塗布されると、被膜形成物質は残留性(remanence properties)、すなわち水又は洗髪の助剤で簡単に洗浄することによってその支持体から除去することが困難な性質を示さなければならない。
【0003】
当該技術分野の状況では、被膜形成物質を溶媒中に存在させてある組成物を使用することが知られている。しかしながら、揮発性の有機溶媒を使用することは環境及びケラチン物質にとって有害であることから、化粧料組成物中の揮発性有機溶媒の量を減らすか又は該溶媒を完全に省くことが求められている。
【0004】
被膜形成組成物中の有機溶媒の省略を補うために、水不溶性の重合体を粒子の形状で分散させてある水不溶性重合体の水性分散物(ラテックス又は疑似ラテックス)を被膜形成物質として使用することが知られている。粒状の形態である水不溶性重合体の場合は、その被膜形成(filmification)は特に該重合体の固有特性に応じた速度でその粒子が凝集することによって達成される。粒子同士の間の被膜形成が室温で迅速に生じて付着した被膜(deposited film)について正確な(correct)機械的性質が得られるためには、前記重合体のガラス転移温度が低いものでありしかも約0℃であることが好ましい。しかしながら、被膜が正確な硬度すなわち硬さをもつことが(特にマニキュア液の用途に)所望される場合には、前記重合体は約30℃のガラス転移温度を持つことが好ましい。
【0005】
室温で迅速に被膜を形成し且つ乾燥後に良好な硬度をもつ被膜を付与する被膜形成組成物を得ることは、数種類の水性分散物の混合物を使用することによる場合でも困難である。その上、可塑剤及び/又は融合助剤(coalescenceagent)を添加しても必ずしも所望の最も良い性質を得ることが可能になるとは限らない。また、水と有機溶媒の混合物中の重合体を含有してなる被膜形成組成物も知られている。
【0006】
国際特許出願公開第WO 91/15187号明細書には、重合体と有機溶媒との混合物を水性相に分散させたエマルジョンの形態の整髪用組成物が記載されている。
特願昭63-28411号明細書には、樹脂、有機溶媒、水及び水混和性化合物を基材としたマニキュア液組成物が記載されている。該組成物は油中水型エマルジョンの形態であり、その油性相は有機溶媒と樹脂とを含有しており、水性相は水と水混和性化合物とを含有している。
【0007】
エマルジョンの形態のこれらの組成物は、迅速に乾燥せず、爪に簡単に塗布しにくいものであり、乾燥後に得られるその被膜は優れた滞留能(staying power)を有していない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の目的は、被膜形成が迅速であり、しかも同時に良好な被膜形成能を保持し、特に良好な硬度をもつ被膜を付与する被膜形成組成物を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明の課題は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水に混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒の少なくとも1種とを含有してなる化粧料組成物であって、前記の被膜形成性重合体は、それが中和されていない状態にある場合には水に不溶性であり且つ前記の極性有機溶媒に可溶性のものであり且つそれが中和されている状態にある場合には前記の極性有機溶媒と水との混合物に可溶性のものであり、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物の重合体とのコア-シェル型の複合重合体粒子を含有していないものとする)ことを特徴とする化粧料組成物である。
【0010】
また、本発明の別の課題は、化粧料組成物の製造方法であって、中和されていないイオン性の被膜形成性重合体(該重合体は中和されていない状態では水不溶性であるが、但し、該重合体は中和された場合には水と後記の極性有機溶媒との混合物に可溶性であるものである)を、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒に溶解し、次いで得られた有機溶液に水(但し、水/又は前記の極性有機溶媒は前記の被膜形成性重合体の中和用の薬剤を少なくとも1種含有するものとする)を加えて前記被膜形成性重合体を中和し、そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と水との混合物の均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料組成物の製造方法である。
【0011】
本明細書において、“少なくとも部分的に水混和性である溶媒”という用語は水への溶解度が25℃において10重量%以上である溶媒を意味すると解釈される。“水不溶性の重合体”という用語は、水への溶解度が25℃で2重量%以下である重合体を意味すると解釈される。“中和されていないイオン性重合体”という用語は、イオン性官能基が全て遊離の状態にあるイオン性重合体を意味すると解釈される。
【0012】
“中和されたイオン性重合体”という用語は、イオン性官能基が少なくとも部分的に中和されているイオン性重合体を意味すると解釈される。中和の程度は5〜100%の範囲にあることが可能である。均質溶液とは、水と溶媒との混合物に重合体が懸濁しているコロイド懸濁液を意味すると解釈される。
【0013】
従って、本発明の組成物は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性溶媒とを含有してなるものである。
【0014】
中和されていない状態で水不溶性である前記のイオン性重合体は、立体排除(steric exclusion)クロマトグラフイーにより測定される分子量で500〜200,000、好ましくは1,000〜80,000の分子量を有し得る。
【0015】
従って、前記のイオン性重合体は、その構造中に親水性部分を少なくとも1個と、疎水性部分を少なくとも1個とを有し得る。
【0016】
前記のイオン性重合体の親水性部分は、水と強く相互作用する極性の高い基からなり得る。極性の高い基としては、カルボン酸基及びその塩、スルホン酸基及びその塩、ホスホン酸基及びその塩、第1級、第2級又は第3級アミノ基及びその塩、第4級アミノ基、水酸基、親水性アミド基、エーテル又はポリエーテル基あるいはニトリル基、アミド基、ニトロ基、イミド基又はメルカプト基を挙げ得る。
【0017】
前記のイオン性重合体はカルボン酸基、スルホン酸基及びホスホン酸基の中から選択される複数個の陰イオン性基を有するものであるのが好ましい。かかる基をもつ単量体は、前記重合体の全重量に対して3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の量で重合体中に存在させ得る。前記の陰イオン性基はカルボン酸基であるのが都合がよい。
【0018】
前記のイオン性重合体を水と混和性にするためには、すなわち組成物中に前記重合体が沈殿するのを防止するためには、前記の陰イオン性基は塩基で5〜100%の範囲の中和率まで中和されるのが好ましい。揮発性の塩基例えばアンモニア又はトリエチルアミンを使用するのが好ましい。
【0019】
前記のイオン性重合体が陽イオン性基を有する場合には、これらの基は酸で5〜100%の範囲の中和率まで中和されていてもよい。例えば、酸としては酢酸を使用し得る。
【0020】
前記のイオン性重合体の親油性部分は、複数個の比較的非極性の基及び/又は疎水性基からなり得る。これらの基は、例えば直鎖又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、飽和又は不飽和の環状炭化水素基、フルオロカーボン又はフルオロ炭化水素基又はオルガノシリコーン残基(organosilicon group)であり得る。これらの基中の炭素原子の個数は1〜30個の範囲であり得る。
【0021】
前記のイオン性の被膜形成性重合体はラジカル重合体、重縮合物及び天然起源の重合体の中から選択するのが都合がよい。
【0022】
前記ラジカル重合体はアクリル重合体及びビニル重合体の中から選択し得る。ラジカル重合に使用し得る陰イオン性基をもつ単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸又は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を挙げ得る。
【0023】
前記のアクリル重合体は、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル及び/又はアミドの中から選択される単量体の共重合によって得てもよい。エステル型の単量体の具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル及びメタクリル酸ラウリルを挙げ得る。アミド型の単量体の具体例としては、N-t-ブチルアクリルアミド及びN-t-オクチルアクリルアミドを挙げ得る。
【0024】
親水性基を含有するエチレン性不飽和単量体、好ましくは非イオン性のエチレン性不飽和単量体、例えばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル又はメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの共重合によって得られるアクリル重合体を使用するのが好ましい。
【0025】
前記のビニル重合体は、ビニルエステル、スチレン又はブタジエンの中から選択される単量体の単独重合又は共重合によって得ることができる。ビニルエステルの具体例としては、酢酸ビニル、ネオデカン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル及びt-ブチル安息香酸ビニルを挙げ得る。
【0026】
本発明によれば、前記の重縮合物はポリエステル類、ポリエステルアミド類、脂肪鎖ポリエステル類及びエポキシエステル樹脂類の中から選択し得る。ポリエステル類は公知の方法で脂肪族又は芳香族の二酸と、脂肪族又は芳香族のジオール又はポリオールとの重縮合によって得ることができる。使用し得る脂肪族二酸はコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸又はセバシン酸である。使用し得る芳香族二酸は、テレフタル酸又はイソフタル酸、あるいはこれらの誘導体例えば無水フタル酸である。使用し得る脂肪族ジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール又は4,4′-(1-メチルプロピリデンレン)ビスフェノールである。使用し得るポリオールは、ダリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール又はトリメチロールプロパンである。
【0027】
ポリエステルアミド類は、ポリエステル類と同様の方法で二酸とジアミン又はアミノアルコールとの重縮合によって得ることができる。使用し得るジアミンはエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はm一若しくはp一フェニレンジアミンである。
【0028】
重縮合に使用し得る陰イオン性基をもつ単量体としては、例えばジメチロールプロピオン酸、トリメリット酸又はその誘導体例えば無水トリメリット酸、ペンタンジオール-3-スルホン酸のナトリウム塩あるいは5-スルホー1,3-ベンゼンジカルボン酸のナトリウム塩である。
【0029】
前記の脂肪鎖ポリエステル類は軍縮合中に脂肪鎖ジオールを使用することによって得ることができる。前記のエポキシエステル樹脂類は、脂肪酸と、α,ω-ジエポキシ末端を有する縮合物との重縮合によって得ることができる。かかる重合体は、特にK.Krishnamurtiの論文、Progress in Organic Coatings,11,167-197(1983)に記載されている。天然産の重合体としてはシェラック(shellac)を挙げ得る。
【0030】
本発明によれば、前記の有機溶媒は少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつものである。該有機溶媒は完全に水混和性であってもよい。
【0031】
前記の有機溶媒は、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの中から選択される1種又はこれらの混合物であるのが好ましい。
【0032】
本発明によれば、被膜形成性重合体の量は組成物の全重量に対して10〜70重量%の範囲にあり得る。前記の少なくとも部分的に水混和性でありしかも水の沸点よりも高い沸点をもつ有機溶媒の量は、組成物の全重量に対して4〜48重量%の範囲にあり得る。水の量は前記組成物の全重量に対して12〜75重量%、好ましくは40〜70重量%の範囲にあり得る。本発明の組成物中の水の量と、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ有機溶媒の量の比は、0.25〜19、好ましくは0.8〜17であるのが好ましい。
【0033】
本発明の組成物は、追加成分とし第二の極性有機溶媒であって少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも低いか又は水の沸点に相当する沸点をもつ第二の極性有機溶媒を少なくとも含有していてもよい。
【0034】
かかる溶媒は特にアセトン、メチルエチルケトン、イソプロパノール、イソブタノール、エタノール、ジメトキシエタン及び酢酸アミル、並びにこれらの混合物の中から選択し得る。前記溶媒は組成物の全重量に対して0〜40重量%の量で組成物中に存在させ得る。
【0035】
前記の第二の有機溶媒は、前記のイオン性重合体の使用を促進し、しかも少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ有機溶媒への前記重合体の溶解を促進することを可能にする。従って、最終的な有機溶媒はよりいっそう流動性であり、組成物はより容易に塗布でき、それによって組成物中に存在する水の沸点よりも高い沸点をもつ有機溶媒の量を低減することを可能にする。
【0036】
本発明の組成物は水性重合体分散物を含有するものであり、前記の分散させた重合体は陰イオン性基を含有していないか、又は分散させた重合体の全重量に対して5重量%以下に相当するような程度までかかる基を含有することが好ましい。
【0037】
前記の水性重合体分散物はラテックス又は疑似ラテックスであり得る。疑似ラテックスという用語は、一般的に重合体の球状粒子からなる懸濁物を言う。これらの粒子は前記重合体を適当な水性相に分散させることによって得られる。ラテックスもまた、適当な水性相中で1種又はそれ以上の単量体を重合させることによって直接に得られる重合体の粒子からなる懸濁物である。
【0038】
水性分散物中の重合体はアクリル重合体、例えばメタクリル酸メチル又はスチレンと、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル又は2-エチルヘキシルエステルとの共重合体であるのが都合がよい。
【0039】
水性分散物中の重合体は、本発明の組成物中に組成物の全重量に対して固形分を30〜90重量%、好ましくは50〜80重量%の量で存在させ得る。本発明の組成物は、より迅速な被膜形成が認められ、その機械特性及び耐水性を保持する。得られる被膜はより一層光沢があり、より一層接着性があり、しかも良好な硬度をもつ。かかる組成物はマニキュア液として使用するのに特に適している。
【0040】
本発明の組成物は化粧料に慣用される助剤を含有し得る。助剤の具体例としては、染料、顔料、真珠様光沢剤、レーキ類、紫外線防止剤、増粘剤、香料、消泡剤、界面活性剤及び殺菌剤を挙げ得る。当業者が前記の任意の助剤及び/又はその量を、意図する添加によって、本発明の組成物の都合の良い性質が変化しないように又は実質的に変化しないように注意して選択するであろうことは明らかである。
【0041】
従って、本発明の組成物の使用中は、水の沸点よりも高い沸点をもつ有機溶媒は水が蒸発するまで完全に蒸発せず、従って本発明の組成物の皮膜形成の第一段階の間は前記重合体用の溶媒として機能することが認められる。
【0042】
溶媒中で皮膜形成組成物を用いて得られる光沢及び硬度と同じ光沢及び硬度をもつ被膜が得られ、組成物の完全な皮膜形成は被膜形成物質として水性重合体分散物のみを用いた場合よりも早い。特に、乾燥後に得られる皮膜は良好な光沢、良好な接着性及び良好な滞留能を有する。
【0043】
本発明の組成物を爪に塗布した場合には爪の良好な耐水性が得られ、それによって組成物の塗布が促進される。
【0044】
本発明の組成物は毛髪用化粧料組成物、例えば整髪作用をもつ組成物の形態であってもよいし又はメーキャップ用組成物例えばマニキュア液又はマスカラの形態であってもよいし、あるいはスキンケア用組成物例えば美容マスク又は皮膚を引き締める効果をもつ顔の手入れ用ローションの形態であっても良い。
【0045】
【発明の実施の態様】
本発明を以下の実施例により説明するが、それに限定されるものではない。
【0046】
【実施例】
実施例1:
下記の組成をもつ透明な爪手入れ用品ベースを調製した。
- Worlle社からWorleesol 60Aという名称で販売されているブチルグリコールと2-ブタノール(50/50)の混合物中の75%の固形分をもつアルキド樹脂 13g(固形分)
- Rohm and Haas社からPrimal WL81Kという名称で販売されている42%の固形分をもつアクリル水性分散物 13g(固形分)
- イソプロパノール 5.5g
- プロピレングリコールモノメチルエーテル 8.5g
- トリエチルアミン 1.2g
- 添加剤 0.5g
- 活性剤 0.5g
- 水 全体を100gにする必要量
上記のアルキド樹脂と、イソプロパノールと、プロピレングリコールモノメチルエーテルとを一緒に攪拌しながら混合し、次いで上記の添加剤とトリエチルアミンを加えた。次いで、水と上記の活性剤を加えた。そして、上記のアクリル分散物を素早く加えた。得られた基剤(base)は爪の上に容易に拡展し、迅速に被膜を形成した。乾燥後には、基剤は硬くて、耐久性のある被膜を与えた。
この基剤は着色ワニスで被覆し得る。
【0047】
実施例2:
下記の組成をもつマニキュア液を実施例1の方法に従って調製した。
- ブチルグリコールと2-ブタノール(50/50)の混合物中の75%の固形分をもつアルキド樹脂(Worlle社製のWorleesol 60A) 15g(固形分)
- 固形分42%のアクリル水性分散物(Rohm and Haas社製のPrimal WL81K) 15g(固形分)
- イソプロパノール 6.5g
- プロピレングリコールモノエチルエーテル 4.5g
- プロピレングリコールモノブチルエーテル 8.5g
- トリエチルアミン 1.3g
- レオロジー剤 0.5g
- 添加剤 0.5g
- 顔料 0.7g
- 水 全体を100gにする必要量
爪に容易に塗布されるマニキュア液が得られた。乾燥後には、滑らかで均一な被膜が得られた。
 
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a
特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的として、請求項1を
「中和されたイオン性の皮膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水に混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒の少なくとも1種とを含有してなる化粧料組成物であって、前記被膜形成性重合体は、それが中和されていない状態にある場合には水に不溶性であり且つ前記の極性有機溶媒に可溶性のものでありしかも重合体が中和されている状態にある場合は前記の極性有機溶媒と水との混合物に可溶性のものであり、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、前記の極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物の重合体とのコアーシェル型の複合体重合体粒子を含有していないものとする)ことを特徴とする化粧料組成物。」と訂正し、
▲2▼訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項3の末尾が
「…を特徴とする請求項1〜2に記載の化粧料組成物。」であったものを
「…を特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料組成物。」と訂正し、
▲3▼訂正事項c
特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的として、請求項8を削除し、請求項9を請求項8として、その末尾を
「…を特徴とする請求項8記載の化粧料組成物。」であったものを、
「…を特徴とする請求項1記載の化粧料組成物。」と訂正し、
▲4▼訂正事項d
特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項10を請求項9として、
「【請求項9】請求項1〜8のいずれか1項に記載の化粧料組成物の製造方法であって、中和されたイオン性の皮膜形成性重合体(該重合体は中和されていない状態では水に不溶性であるが、但し、該重合体が中和された場合には水と後記の極性有機溶媒との混合物に可溶性のものである)を、少なくとも部分的に水混和性であり且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性有機溶媒に溶解し、次いで得られた有機溶液に水(但し、水/又は前記の極性有機溶媒は前記の被膜形成性重合体を中和するための薬剤を少なくとも1種含有するものとする)を加えて前記被膜形成性重合体を中和し、そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と、水との混合物の均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料組成物の製造方法。」と訂正し、
▲5▼訂正事項e
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0001】の「本発明は被膜形成性重合体と、水と、少なくとも・・・」を
「本発明は被膜成形性性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも…」と訂正し、
▲6▼訂正事項f
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0009】の「すなわち、本発明の課題は中和されたイオン性の被膜形成重合体と、水と、少なくとも…、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が単一相を構成しているものである化粧料組成物である。」とあるのを、
「すなわち、本発明の課題は中和されたイオン性の被膜形成重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも…、前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、極性有機溶媒との混合物が均質溶液を構成するものである(但し、前記化粧料組成物は前記の中和されたイオン性の被膜形成性重合体と前記の水性重合体分散物とのコアーシェル型の複合重合体粒子を含有していないものとする)化粧料組成物である。」と訂正し、
▲7▼訂正事項g
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0010】の「…そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と水との混合物が単一相を構成することからなる、化粧料の製造方法である。」とあるのを、
「…そして得られた前記の中和された被膜形成性重合体と、前記の極性有機溶媒と水との混合物が均質溶液を構成し、次いで水性重合体分散物を加えることからなる、化粧料の製造方法である。」と訂正し、
▲8▼訂正事項h
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0012】の「…中和の程度は5〜100%の範囲にあることが可能である。“単一相”という用語は、均質溶液を意味すると解釈される。均質溶液とは、…」とあるのを、
「…中和の程度は5〜100%の範囲にあることが可能である。均質溶液とは、…」と訂正し、
▲9▼訂正事項i
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0013】の「従って、本発明の組成物は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水と、少なくとも部分的に水混和性であり、且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性溶媒とを含有してなるものである。」とあるのを、「従って、本発明の組成物は中和されたイオン性の被膜形成性重合体と、水性重合体分散物と、水と、少なくとも部分的に水混和性であり、且つ水の沸点よりも高い沸点をもつ極性溶媒とを含有してなるものである。」と訂正し、
▲10▼訂正事項j
誤記の訂正を目的として、【0020】の「…フルオロカーボイ…」を
「…フルオロカーボン」と訂正し、
▲11▼訂正事項k
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0036】の「本発明の組成物はまた水性重合体分散物を含有していてもよい。…」とあるのを、
「本発明の組成物は水性重合体分散物を含有するものであり、…」と訂正し、
▲12▼訂正事項l
【0039】の「…本発明の組成物がかかる水性重合体分散物を含有してなる場合には、該組成物のより迅速な被膜形成が認められ、該組成物は…」とあるのを、
「…本発明の組成物は、より迅速な被膜形成が認められ、…」と訂正し、
▲13▼訂正事項m
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0042】の「…組成物の完全な被膜形成は水性重合体分散物を用いた場合より早い。…」とあるのを、
「…組成物の完全な被膜形成は被膜形成物質として水性重合体分散物のみを用いた場合より早い。…」と訂正し、
▲14▼訂正事項n
明りょうでない記載の釈明を目的として、【0048】の記載を削除するものである。
異議決定日 1999-09-06 
出願番号 特願平8-156773
審決分類 P 1 651・ 534- YA (A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 宮本 和子
深津 弘
登録日 1998-01-23 
登録番号 特許第2740759号(P2740759)
権利者 ロレアル
発明の名称 被膜形成性重合体を含有してなる化粧料組成物及びその製造方法  
代理人 八木田 茂  
代理人 平井 輝一  
代理人 浜野 孝男  
代理人 浜野 孝雄  
代理人 平井 輝一  
代理人 森田 哲二  
代理人 八木田 茂  
代理人 森田 哲二  

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