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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C21D
管理番号 1003930
異議申立番号 異議1998-73234  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-06-29 
確定日 1999-11-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第2704350号「プレス成形性の良好な高強度鋼板の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2704350号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
本件特許第2704350号(平成4年11月2日出願、平成9年10月9日設定登録。)の請求項1、2に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものにあり、そして、請求項1には以下のとおり記載されている。
「【請求項1】重量%で
C:0.06〜0.22%
Si:0.5%超〜1.0%
Mn:0.5〜2.0%
Al:0.25〜1.5%を含有し、かつAlとSi、Cの関係が
0.6Si(%)≦Al(%)≦3-12.5C(%)を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼の冷延板を、650〜900℃の二相共存温度域で10秒〜3分焼鈍した後、4〜200℃/sの冷却速度で350〜600℃に冷却し、350〜600℃の範囲の温度域に5秒〜10分保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却することを特徴とする、金属組織中に残留オーステナイトを体積率で3〜20%含むプレス成形性の良好な高強度鋼板の製造方法。」
II.申立の理由の概要
特許異議申立人 住友金属工業株式会社は、証拠として甲第1号証(特願平3-265337号の願書に最初に添付した明細書及び図面。特開平5-70886号公報参照。)及び甲第2号証(特開昭61-157625号公報)を提出し、本件の請求項1に係る発明は、甲第2号証の記載を考慮すれば、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、本件の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであって取り消されるべきである旨主張している。
III.甲各号証の記載事項
甲第1号証として提示された特願平3-265337号の願書に最初に添付した明細書及び図面には、局部延性の優れた高張力鋼板とその製造方法に関し、
「【請求項3】C,Si,Mn,P,S,Al及びNの含有量が重量割合にてC:0.05〜0.3%,Si:2.0%以下,Mn:0.5〜4.0%,P:0.1%以下,S:0.1%以下,Al:0.1%を超え2.0%以下,N:0.01%以下で、かつSi(%)+Al(%)≧0.5
を満足すると共に残部がFe及び不可避的不純物から成る成分組成の鋼片を熱間圧延後300〜720℃で巻取り、次いで脱スケール処理後に圧下率:30〜80%で冷間圧延してから、その後の連続焼鈍工程においてAc1変態点以上Ac3変態点以下の温度域に加熱し、かつ冷却の途中で550〜350℃の温度域に30秒以上保持するか該温度域を400℃/min以下の冷却速度で徐冷することを特徴とする、体積率にて5%以上の残留オーステナイトを含む局部延性の優れた高張力鋼板の製造方法。」、
「【0001】この発明は、プレス加工や伸びフランジ加工等により様々な形状に成形される構造部材として好適な、局部延性の優れた高張力薄鋼板並びにその製造方法に関する。」、
「【0025】連続焼鈍条件 冷延鋼板の連続焼鈍では、まず〔フェライト+オーステナイト〕の2相組織とするためにAc1変態点以上Ac3変態点以下の温度域に加熱が行われる。・・・800〜850℃で均熱することが望ましい。そして、均熱後は、徐冷してフェライトを成長させオーステナイト中のC濃度を高めるために、700℃までの冷却速度を10℃/s以下とするのが望ましい。また、過時効処理帯に入るまでの700℃を切る温度域では、オーステナイトのパーライト変態を抑制するために冷却速度は逆に50℃/s以上とするのが望ましい。
【0026】過時効処理帯では、550〜350℃の間において30秒以上(好ましくは2分以上)の保持を行うか、又は550〜350℃間を400℃/min以下の冷却速度で徐冷し、オーステナイトをベイナイト変態させながらオーステナイトへのCの濃縮を促進する必要がある。ここで、Cの濃縮促進を行う温度が550℃を上回るとベイナイト変態が生じず、一方、350℃を下回ると下部ベイナイトとになってオーステナイトへのCの濃縮が十分に起こらなくなる。なお、過時効処理帯後の冷却速度は特に限定する必要はない。」、
「【0028】次いで、得られた熱延板を表面研削により脱スケールして3.2mm厚の冷延母材とし、これを1.4mm厚まで冷間圧延した。得られた冷延板は、連続焼鈍シュミレーションとして、赤外線加熱炉にて10℃/sで820℃まで3℃/sの冷却速度で徐冷し、その後は50℃/sの冷却速度で400℃まで冷却し、その温度で3分保持した。」と記載され、また、
「本発明例試験番号2の鋼は、重量%で、C:0.18,Si:0.98,Mn:1.50,P:0.016,S:0.002,Al:0.59,N:0.0037、残部はFe及び不純物であり、さらに、Si(%)+Al(%)の値は1.57、Ac1点は742℃、Ac3点は857℃であること」(【0030】【表1】)、「本発明例試験番号2の鋼のオーステナイト体積率は20%、降伏強さは442MPa、引張強さは710MPa、全伸びは39%、均一伸びは27%、局部伸びは12%、限界穴拡げ率は49%であること」(【0031】【表2】)が記載され、さらに、
【図1】には、本発明に係わるSi及びAlの含有量範囲について図示されている。
また、甲第2号証には、高強度鋼板の製造方法に関し、
「重量%で・・・を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を、Ac1〜Ac3の温度域に加熱し、30秒〜30分保持したのち、1℃/秒以上の冷却速度で350〜500℃の温度域まで冷却し、この温度域で30秒〜30分保持し、引続いて室温まで冷却することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。」(第1頁左下欄特許請求の範囲)、
「本発明者らは前記変態誘起塑性に着目し、15%以上の残留オーステナイト相による変態誘起塑性とフェライト相・ベーナイト相の複合効果とを合せて利用することによって高強度、高延性かつ良好な二次加工性が得られることを見出したのである。」(第2頁右上欄18行〜左下欄3行)、
「350〜500℃で保持する意味はいわゆるオーステンパー処理であり、・・・350℃未満の温度では、ベーナイト変態、Cの拡散が遅く時間がかかり過ぎ500℃を超す温度では、パーライトを生ずるため所期の伸びが得られない。・・・保持時間については、・・・30分以上経過するとベーナイトの占める比率が大となり、残留オーステナイト量が減り、伸びも減少し始める。したがって保持時間は30秒〜30分と限定する。材質と生産性を考慮した最適時間は1〜6分である。保持後は室温まで1℃/秒程度以上で冷却すればよくとくに限定を設けない。」(第4頁左上欄10行〜右上欄7行)と記載されている。
IV.対比
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と甲第1号証に記載された発明とを対比するに、本件発明は、「350〜600℃の範囲の温度域に5秒〜10分保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却する」とし、保持後の冷却速度を5℃/s以上と定めているのに対して、甲第1号証には、「過時効処理帯では、550〜350℃の間において30秒以上・・・の保持を行う・・・。なお、過時効処理帯後の冷却速度は特に限定する必要はない。」と記載され、保持後の冷却速度は特に限定する必要がないとしている点において、両者は少なくとも相違している。
V.判断
そこで、上記相違点について検討する。
本件発明において、「350〜600℃の範囲の温度域に5秒〜10分保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下に冷却する」とした技術的な理由は、本件特許明細書の【0014】の記載によれば、「ベイナイト変態時に未変態のオーステナイト中へのCの濃化をさらに進め、室温において変態誘起塑性を起こすような残留オーステナイトとするため」にあり、そして、保持後の冷却速度を5℃/s以上と定めた点については、同じく、本件特許明細書の【0014】に、「保持時間が5秒未満ではAlを含むとはいえベイナイトが十分に生成せず、未変態のオーステナイト中へのC濃化も不十分で室温までの冷却中にマルテンサイトとなってプレス成形性を悪くする。一方10分を超えて保持することはエネルギーの無駄や連続ラインの生産性低下、さらには炭化物析出と未変態オーステナイトの消滅による強度とプレス成形性の両方の劣化につながる。この保持後の冷却を5℃/s未満としたり、250℃を超える温度で停止することも同様の理由で避けなければならない。」と説明され、さらに、保持後の冷却速度を5℃/s以上と定めた具体的な根拠として、本件特許明細書の【0020】 【表3】中に、比較例(試料No.16)を記載している。そして、比較例(試料No.16)について示された具体的数値、即ち、鋼種(d)、冷速(3℃/s)、全伸び(28%)、残留オーステナイト占積率(1%)からみれば、保持後の冷却速度が本件発明で定めた5℃/s以上を外れた場合には、良好なプレス成形性が得られないことが明らかにされている。
ところで、甲第1号証には、保持後の冷却速度は特に限定する必要がない旨記載され、限定する必要がないとは即ち、保持後の冷却速度は任意であるということであるから、本件発明の5℃/s以上という冷却速度は、甲第1号証に記載された冷却速度に形式上一応含まれることになるが、甲第1号証中には、鋼板特性に対する保持後の冷却速度の影響については一切明らかにされていないばかりか、冷却速度5℃/s以上のものが具体的に開示されているわけではなく、一方、本件発明で保持後の冷却速度を5℃/s以上とすることはプレス成形性の良好な高強度鋼板を得るという本件発明の目的を達成する上では、臨界的かつ技術的な意義を有する必須の構成であることは前記したとおりである。さらに、甲第2号証の記載事項を考慮したとしても、甲第1号証記載のものにおいて、保持後の冷却速度を5℃/s以上とすることが自明な事項であるとは認められない(後記「VI.異議申立人の主張について」の項を参照のこと。)。
してみれば、本件発明と甲第1号証記載の発明の相違点として挙げた、「保持後の冷却速度を5℃/s以上とする」点は、甲第1号証に実質的に開示されているに等しい構成であるとはいえず、少なくともこの点において、本件発明と甲第1号証に記載された発明とは、別異の発明を構成するというべきである。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとは認められない。
VI.異議申立人の主張について
本件発明の構成である保持後の冷却速度を5℃/s以上とする点について、異議申立人は、「甲第2号証の記載を参酌すれば、熱処理の技術分野においては、省エネルギーや生産性を考慮して過度の均熱時間や過度の徐冷を慎まなければならないことは自明の事項であり、また、「温度保持工程」後の冷却としては、殊更に徐冷することなく、そのまま自然放冷したり加速冷却したりすることは慣用されていたことであるから、特に「徐冷」するとは規定されていない甲第1号証に記載の発明においても、「温度保持工程」後の冷却手法として「十分に低温まで自然放冷乃至は加速冷却する方法」が採用されることは自明である。」旨主張する。
そこで、異議申立人の主張について検討するに、本件発明は、単に、省エネルギーや生産性の観点から、「保持後の冷却速度を5℃/s以上とする」ものではなく、本件発明の解決課題であるプレス成形性の良好な高強度鋼板を得るために、「保持後の冷却速度を5℃/s以上とする」点を必須の構成とするものであることは既に述べたとおりである。
ところで、甲第2号証記載のものにおいては、「保持後は室温まで1℃/秒程度以上で冷却すればよく特に限定を設けない。」とされ、これは、換言するに、冷却速度は1℃/秒程度以上であれば、鋼板に対する作用効果としてはほぼ同等であり、鋼板特性には特段の差異が生ずるものではないことを意味するものと解されるところ、本件発明は、冷却速度が5℃/s以上であるか否かによってそのプレス成形性の良否に明らか差異が生じるものであり、甲第2号証の記載によれば許容される冷却速度範囲(例えば、1℃/s以上5℃/s未満の冷却速度範囲)であっても、本件発明の所期の目的が達成されないことは明らか(本件特許明細書【0020】【表3】中に記載される比較例(試料No.16)の結果を参照。)である。
してみれば、甲第2号証の記載を考慮したとしても、保持後の冷却速度を5℃/s以上とすることが自明或いは周知慣用であるとはいえないから、保持後の冷却速度を特に限定する必要がないとされている甲第1号証記載の発明において、その冷却速度を5℃/s以上と定めることが自明な事項に相当するとは到底認められない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
VII.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-09-20 
出願番号 特願平4-294542
審決分類 P 1 652・ 161- Y (C21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 能美 知康
内野 春喜
登録日 1997-10-09 
登録番号 特許第2704350号(P2704350)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 プレス成形性の良好な高強度鋼板の製造方法  
代理人 今井 毅  

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