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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1005543
審判番号 審判1998-6720  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-04-30 
確定日 1999-11-19 
事件の表示 平成7年特許願第280408号「装飾性に優れた複合硬質薄膜の製造法」拒絶査定に対する審判事件(平成9年5月13日出願公開、特開平9-125232)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年10月27日の出願であって、その請求項1,2に係る発明は、平成10年1月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された次のとおりのものである(以下それぞれ、「本願発明1」,「本願発明2」という。)。
「【請求項1】イオンプレーティングその他の蒸着法により、基板上に有色のTiN薄膜を形成した後、更にその上に透明なAlN薄膜を、前記TiN薄膜の色を赤色に表現させる膜厚の干渉膜として積層形成することを特徴とする装飾性の優れた複合硬質薄膜の製造法。
【請求項2】イオンプレーティングその他の蒸着法により、基板上に有色のTiN薄膜を形成した後、更にその上に透明なAlN薄膜を、前記TiN薄膜の色を赤色に表現させる膜厚に調整して干渉膜として積層形成することを特徴とする装飾性の優れた複合硬質薄膜の製造法。」
II.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本出願前に頒布されたことの明らかな特開平3-97865号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項についての記載がある。
▲1▼「金属基板と、基板に隣合う第一層としてTi,Zr,Hf,Cr,Nbのうちの一種あるいは複数の元素の窒化物あるいは炭化物あるいは炭窒化物から選ばれる少なくとも1種からなる0.1〜1μmの厚さの有色セラミックス層と、第一層に隣り合う第二層として物理蒸着や化学蒸着などのドライプロセスで作成された0.05〜5μmの厚さで可視光領域における屈折率が2.0以上である透明セラミックス層とからなることを特徴とした装飾性・耐候性に優れた多層セラミックスコーティング金属板。」(第1頁特許請求の範囲の請求項2)
▲2▼「また、光の干渉を利用して色を出すいわゆる干渉色では、色のバラエティーを出すことはできるが、…通常用いられるアルミニウムあるいは珪素の酸化物あるいは窒化物などによる干渉色の場合には、見る角度で色が大きく変わり、また膜厚を変化させて色調をコントロールできる範囲が狭いため装飾品としての利用価値は低かった。」(第2頁左上欄第10〜17行)
▲3▼「本発明は、金属基板上、金属基板上に形成した有色セラミックス層の上に屈折率の高い透明セラミックスを積層して、金属基板あるいは有色セラミックスの色調を大きく変化させることによって色のバラエティーを増やし、また見る角度で色が極端に変わる上記問題点をある程度解決した装飾性・耐候性にすぐれたコーティング金属板を提供するものである。」(第2頁左上欄第19行〜右上欄第6行)
▲4▼「第二層の透明セラミックスは硬度的にも高いため、外的な要因(例えば建材に使った場合砂利などによる膜への衝撃)から該金属基板を保護することができ優れた耐候性・耐摩耗性付与を実現した。」(第2頁左下欄第20行〜右下欄第4行)
▲5▼「透明セラミックス層は、屈折率が2.0よりも大きい透明物質、具体的にはTi、Zr、Hf、Th、V、Nb、Ta、W、Zn、Cd、Sn、Ba、Sb、Pb、Te、Ceの酸化物、窒化物などから選ばれる少なくとも1種、例えばTiO2、Nb2O5、ZrO2などからなる透明セラミックス層とする。」(第3頁左上欄第7〜12行)
▲6▼「多層セラミックスコーティング金属板においては、全体の色調は第一層の有色セラミックス層の色調と透明セラミックス層における光の干渉効果による着色との重ね合わせで決まる。…まず本発明の金属板の基本的色相は、最表層の透明セラミックスの干渉効果により、該層の膜厚に従って決定される。このことは屈折率の大小にかかわらずすべての透明セラミックスについて共通であるが、色調の一要素である彩度、すなわち鮮やかさは屈折率によって大きく異なる。」(第3頁左上欄第17行〜右上欄第14行)
▲7▼「透明セラミックス層の膜厚は、0.05〜5μmの厚さが望ましい。基本的な色相は該膜厚によって決まるため、この範囲内で望みの色相を示す膜厚を選ぶことができる。」(第3頁右下欄第15〜18行)
▲8▼「有色セラミックスコーティングはイオンプレーティング及び或はスパッタリングが望ましい。」(第4頁左上欄第3〜5行)
▲9▼基板上にTiN薄膜を形成した後、その上に透明セラミックス薄膜(Nb2O5、TiO2)を積層形成し、赤燈色,黄緑色等の種々の色調の金属板を得ること。(第4〜6頁の実施例1,2)
III.対比・判断
1.本願発明1について
「II.▲1▼〜▲9▼」に摘示した事項よりみて、引用例には次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「イオンプレーティング及び或はスパッタリングにより、基板上にTi,Zr,Hf,Cr,Nbのうちの一種あるいは複数の元素の窒化物あるいは炭化物あるいは炭窒化物から選ばれる少なくとも1種からなる有色セラミックス層を形成した後更にその上に0.05〜5μmの厚さで可視光領域における屈折率が2.0以上である透明セラミックス層を積層形成する装飾性・耐候性に優れた複合硬質薄膜の製造法。」
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると引用発明の「イオンプレーティング及び或はスパッタリングにより、基板上にTi,Zr,Hf,Cr,Nbのうちの一種あるいは複数の元素の窒化物あるいは炭化物あるいは炭窒化物から選ばれる少なくとも1種からなる有色セラミックス層を形成」する点は、これらの択一的に記載された材料からTiの窒化物を選択した場合には、本願発明1の「イオンプレーティングその他の蒸着法により、基板上に有色のTiN薄膜を形成」する点に相当する。
また、引用発明の「透明セラミックス層を積層形成する」点は、この透明セラミックス層が「第一層の有色セラミックス層の色調と透明セラミックス層における光の干渉効果による着色との重ね合わせ」(II.▲6▼参照)という記載に照らせば干渉膜と言えるから、本願発明1の「透明な薄膜をTiN薄膜上に干渉膜として積層形成する」点に相当する。
また、引用発明も「装飾性・耐候性に優れた複合硬質薄膜の製造法。」に係るものであるから、本願発明1の「装飾性の優れた複合硬質薄膜の製造法」に相当する。
してみれば、本願発明1と引用発明とは、「イオンプレーティングその他の蒸着法により、基板上に有色のTiN薄膜を形成した後、更にその上に透明な薄膜を、前記TiN薄膜の上に干渉膜として積層形成することを特徴とする装飾性の優れた複合硬質薄膜の製造法。」の点で一致し、両者は、透明薄膜の点、即ち本願発明1では「TiN薄膜を赤色に表現させる膜厚のAlN薄膜」を透明薄膜として形成するのに対して、引用発明では「0.05〜5μmの厚さで、可視光領域における屈折率が2.0以上である透明セラミックス層」を形成する点で相違すると言える。
そこで、この相違点について検討する。
本願発明1はその薄膜の材質を「AlN」とするものであるが、引用例にも、従来技術について「光の干渉を利用して色を出すいわゆる干渉色では、…通常用いられるアルミニウムあるいは珪素の酸化物あるいは窒化物などによる干渉色の場合には、…」(II.▲2▼参照)と記載があるように、膜厚制御による色調調整のために物品表面に設ける薄膜としてアルミニウムの窒化物、即ちAlNは周知の材質であるから、この周知の材質を選択することは当業者が容易になし得たことと言える。
また、「赤色に表現させる薄膜の厚さ」について検討するに、引用例には薄膜の厚さについて、「金属板の基本的色相は、最表層の透明セラミックスの干渉効果により、該層の膜厚に従って決定される。このことは屈折率の大小にかかわらずすべての透明セラミックスについて共通である…」,「透明セラミックス層の膜厚は、0.05〜5μmの厚さが望ましい。基本的な色相は該膜厚によって決まるため、この範囲内で望みの色相を示す膜厚を選ぶことができる。」(II.▲6▼及び▲7▼参照)と記載され、金属板の基本的な色相は透明薄膜の膜厚によって決まるものであり、したがって望みの色相はその膜厚の選定によって得られることが明示されているから、金属板を望みの色相とするためにその膜厚を選ぶことは当業者が容易に想到し得たことであり、その色相が赤色という点も単なる色相の選択に過ぎない。
次に、引用発明がその薄膜の屈折率を限定している点について検討するに、屈折率は、引用例の「本発明の金属板の基本的色相は、最表層の透明セラミックスの干渉効果により、該層の膜厚に従って決定される。このことは屈折率の大小にかかわらずすべての透明セラミックスについて共通であるが、色調の一要素である彩度、すなわち鮮やかさは屈折率によって大きく異なる。」(II.▲6▼参照)という記載に照らせば金属板の彩度に影響するものであるから、その彩度を考慮しない場合には、この屈折率の取捨選択も当業者が必要に応じて容易に想到し得たことと言える。
したがって、本願発明1は、上記引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、出願人は審判請求理由補充書において、本願発明1のAlN薄膜の効果について、(イ)赤色の色相を発現させることが可能となる点及び(ロ)高温酸化防止効果が発揮される点を主張している。
しかしながら、上記(イ)の点については、上述したとおり、金属板の基本的な色相は透明薄膜の膜厚により決定され、AlNという材質に依らないと言えるから、AlNを色相発現の根拠とするこの主張は当を得ていない。
また、上記(ロ)の点についても、AlNが耐熱性,化学的安定性に優れることは周知の事実でる(例えば、「セラミック工学ハンドブック」財団法人日本セラミックス協会編(技報堂)1993年5月30日発行,第2021〜2023頁参照)から、高温酸化防止の効果も自明の事項である。
したがって、出願人の上記主張は採用することができない。
2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の構成にTiN薄膜の色を赤色に表現させる膜厚になるように「調整」するとの技術的限定がなされているだけのものであるから、本願発明1について述べたと同様の理由により、特許を受けることができないものである。
IV.むすび
以上のとおり、本願請求項1及び2に係る発明は、いずれも上記引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-08-23 
結審通知日 1999-09-14 
審決日 1999-09-06 
出願番号 特願平7-280408
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三宅 正之  
特許庁審判長 沼澤 幸雄
特許庁審判官 新居田 知生
能美 知康
発明の名称 装飾性に優れた複合硬質薄膜の製造法  
代理人 村田 幸雄  

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