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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1007156
審判番号 審判1999-3044  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-04 
確定日 2000-01-21 
事件の表示 平成2年特許願第83865号「真空シールロール装置」拒絶査定に対する審判事件(平成3年12月16日出願公開、特開平3-285069)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成2年3月30日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成7年8月10日付け、平成9年8月25日付け及び平成11年4月1日付けの各手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「複数の真空室を走行する帯状の被処理材を挟持して回転する複数のシールロールを具備した真空シールロール装置において、前記シールロールの被処理材挟持面の隙間を、前記被処理材の厚さをTとしたとき、厚さTよりも(2T)〜(T+0.5mm)まで大きくするとともに、前記真空室間に3本1組のシールロールまたは2本1組のシールロールが配置されていることを特徴とする真空シールロール装置。」
本願明細書の記載によれば、産業上の利用分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題等については、「本発明は、真空蒸着装置や各種真空処理装置等の真空シールロール装置に関する」(本願明細書第1頁12行目〜13行目)ものであり、「従来、例えば真空蒸着装置の蒸着室及び真空吸引室は、3本1組または2本1組のシールロールによってシールされている。第7図及び第8図は従来の真空蒸着室の真空減圧室の一例を示す。ここで、第7図は入口側及び出口側兼用の真空減圧室の縦断面図、第8図は第7図のX-X線に沿う断面図である。図中の1はチャンバである。このチャンバ1の内部は、仕切板2及び3本1組のシールロール3によって第1真空減圧室1a、第2真空減圧室1b、第3真空減圧室1c等に分割されている。これらの減圧室1a〜1cは、排気管4によって、図示しない真空ポンプユニットに連結されている。前記シールロール3同士は、例えばプラスチックフィルムのような厚さ(T)の走行基板5を隙間が無い状態に挟持している。従って、各々のシールロール3間は隙間(G1)に設定されていて、各々のシールロール3は走行基板5を挟持しながらモータ6によって夫々回転し、走行基板5を矢印で示すように走行させている。例えば、・・・、走行基板5の厚さ(T)=0.1mm、・・・、シールロール3の隙間(G1)=0.1mm、・・・とすると、・・・(中略)・・・。
第9図は他の真空蒸着装置の真空減圧室の例を示し、真空蒸着室の左右に入口側及び出口側の真空減圧室がもうけてあるもののうち、出口側の真空減圧室の縦断面図である。この装置は、チャンバ11の内部を仕切板12及び2本1組のシールロール13によって第1真空減圧室11a、第2真空減圧室11b、第3真空減圧室11c、第4真空減圧室11dに分割され、走行基板5を各々のシールロール13によって挟持し、横方向に走行させる。なお、その他の構成は前述した装置と同一である。・・・ しかしながら、従来の装置によれば、次のような問題がある。
(1) シールロール3の各々のロール径の加工誤差及び各々のモータの速度制御誤差による回転むら等により、3本1組または2本1組のシールロール3の各々の回転周速度に誤差が発生する。このため、走行基板4を挟持して走行させるとき、この走行基板5といずれかのシールロール3とに滑りが発生し、特にプラスチックフィルムや紙等のような軟い走行基板5ではすり傷が発生しやすくなる。
(2) シールロール3のピンチによる摩擦力によって走行基板5の進行方向が支配されているため、薄くて軟かいプラスチックフィルムや紙等のような走行基板5では皺が発生しやすくなる。」(本願明細書第1頁15行目〜第4頁14行目)という認識のもとに、「本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、シールロールの被処理材挟持面の隙間を前記被処理材の厚さよりも大きくすることにより、被処理材挟持面と被処理材間の滑りをなくし、すり傷や皺の発生を防止しえる真空シールロール装置を提供することを目的とする」(本願明細書第4頁15行目〜20行目)ものであり、「このシールロールの被処理材挟持面の隙間は真空排気性能が実用上問題ない範囲内で被処理材の厚さよりも大きくなっていて、非処理材は双方の被処理材挟持面のいずれか一方にしか当接せず、他方の被処理材挟持面とは非接触になる。 従って、双方の被処理材挟持面に回転速度の誤差が発生しても、被処理材との滑りが発生することがなく、被処理材が軟らかくてもすり傷や皺が発生せず、円滑に走行させる」(本願明細書第5頁13行目〜第6頁1行目)ものであり、「シールロールの被処理材挟持面の隙間を少し大きくしても、その値が微小であれば排気能力の低下は僅かなものであり、実用上は全く問題ない程度である」(本願明細書第6頁2行目〜5行目)というものであり、また、「隙間の2T(T;被処理材の厚み)または(T+0.5)mmは被処理材の(追加材との)継手を考慮したもので、2Tは重ね合せ継手の場合で、(T+0.5)mmは突き合せ継手(テープによる接着)の場合である。もしこの隙間がなければ継手のロール間通過時に被処理材にすり傷や皺が発生し、特に被処理材がフィルム等の場合破断することがある」(本願明細書第6頁6行目〜13行目)というものである。
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された実開昭62-28869号公報のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。前記マイクロフィルムは「実願昭60-118984号(実開昭62-28869号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム」のことを指す。)には、連続真空処理設備の付帯設備として備えられている従来のシール装置に関し、以下のア.〜オ.の記載がある。
ア.「鋼帯に金属皮膜を連続的に形成する方法としては、・・・、連続真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が近年研究されている。第5図は工業規格の真空蒸着メッキ設備の説明図であり、1は鋼帯、1’は素材コイルのアンコイラ、2は・・・連続通板に必要な前処理設備であって、・・・。前処理の終わった鋼帯1は、まず酸化炉3に導入されて・・・、次いで還元炉4に入り、・・・。しかる後、冷却炉5にて・・・冷却される。次いで、鋼帯1は大気に触れることなく隔壁WおよびシールロールRにより構成される差圧室6〜12を経て蒸着室13に入る。差圧室6〜12内および蒸着室13内はそれぞれ図示しない真空ポンプによって吸引されて、その室6〜13の順に圧力が低くなっている。それぞれの室6〜13の圧力は、例えばその室の順に200トーノル、50トール、10トール、1トール、10-1トール、10-2トール、10-3トール、10-4トールとなっている。蒸着室13内における鋼帯1の下方には、メッキ金属の入った蒸気ルツボ14があり、鋼帯1がそのルツボ14上を通過する間に鋼帯1の下面にメッキ金属が蒸着される。その後、順次圧力が高くなる差圧室15〜20を経て大気中に出され、それから・・・図示しない後処理設備21を経てリコイラ22に巻き取られる。・・・。差圧室6〜13、15〜20の相互間には圧力差があって、高圧側の室から低圧側の室へと雰囲気ガスが流れるため、通常は前出したシールロールRによってそれぞれの室間をシールしている。このシールが完全であるほどそれぞれの室の圧力が安定して運転が容易となり、また真空ポンプや吸引ガス処理設備の容量が小さくなって設備費が安くなるというメリットがある。」(明細書第2頁15行目〜第4頁16行目)
イ.「このような真空処理設備に備えられる従来のシール装置の例を第6図に表す。図において23は上下一対のシールロールであり、鋼帯1の移動路中に設置されてその鋼帯1の通過を許容する間隔をおいて上下に対向している。また、図において24はロール背面の隙間調節装置、25は軸受、26は軸シール、27はロール軸端であって図示しないロール駆動装置に連結されている。そして、シールロール23が鋼帯1の移動路中における圧力差のある室を仕切って、それらの室の間をシールする。」(同第4頁17行目〜第5頁7行目)
ウ.「上述した従来のシール装置においては、第6図中にて示すような隙間δ1、δ2、δ3、δ4が存在する。そして、シールロール23をはさんでその前後に位置する室の圧力差のために、それらの隙間δ1、δ2、δ3、δ4を通って高圧側から低圧側へと雰囲気ガスがリークする。隙間δ3、δ4は、構造上および製作上、許される最小の隙間に調整することが可能である(例えば0.1〜0.5mm)。ところが、隙間δ1、δ2は、通板する鋼帯1の幅と厚さの範囲(例えば0.2〜2mm)によって決まるため、その部分での流量がリーク量の大半を占め、特に隙間δ1からのリーク量が大きい。」(同第5頁9行目〜同頁20行目)
エ.真空蒸着設備の概略構成図である第5図、および従来のシール装置の要部の断面図である第6図)
3.対比・判断
本願発明(前者)と引用例1に記載された従来のシール装置(後者)とを対比すると、後者の「差圧室」、「鋼帯」は、それぞれ前者の「真空室」、「被処理材」に相当するから、両者は「複数の真空室を走行する帯状の被処理材を挟持して回転する複数のシールロールを具備した真空シール装置において、前記シールロールの被処理材挟持面の隙間を、前記被処理材の厚さをTとしたとき、厚さTよりも大きくするとともに、前記真空室間に2本1組のシールロールが配置されている真空シールロール装置」である点で一致し、前者は、シールロールの被処理材挟持面の隙間を被処理材の厚さTよりも大きくする程度を、シールロールの被処理材挟持面の隙間を被処理材の厚さTよりも(2T)〜(T+0.5mm)まで大きくすると規定しているのに対し、後者は、シールロールの被処理材挟持面の隙間を被処理材の厚さTよりも(2T)〜(T+0.5mm)まで大きくすることについて、記載がない点で相違する。
上記相違点について検討すると、(1)シールロールによるそれぞれの室間のシールが完全であるほどそれぞれの室の圧力が安定して運転が容易となり、真空ポンプや吸引ガス処理設備の容量が小さくなって設備費が安くなるというメリットがあることが引用例1に記載されている(前記摘記事項ア.の記載参照)から、このようなメリットを最大限に発揮させるためには、シールロールの被処理材挟持面の隙間は、できるだけ小さく(狭く)すべきであることは明らかであるし、(2)前記(1)で記載したメリットを得るために、シールロールの被処理材挟持面の隙間をできるだけ小さく(狭く)するにしても、シールロールの被処理材挟持面の隙間が被処理材の厚さに近づくほど、シールロールの被処理材挟持面の隙間を充分にあけてとった場合と比べて、シールロールの被処理材挟持面と被処理材表面との相互の接触による、被処理材の表面傷等の発生の問題を生じることは予想されることであるし、また、(3)シールロールの被処理材挟持面と被処理材表面との相互の接触による問題を回避するために、シールロールの被処理材挟持面の隙間を充分にあけるにしても、そのシールロールがシールしている室の排気手段に支障をきたしたり過度の負担を負わせることを避けるべく、シールロールの被処理材挟持面の隙間には、おのずとそれ相応の上限値があることも明らかである。したがって、シールロール間通過の際、被処理材の表面傷等の発生を避けるためにシールロールの被処理材挟持面の間隔を適当な間隔とすることは、当業者であれば容易に想起し得ることである。また、本願発明の効果については、本願発明でシールロールの被処理材挟持面の隙間を被処理材の厚さTよりも大きくする程度の限界値(2T)及び(T+0.5mm)に関連して、本願明細書の発明の詳細な説明の欄では「隙間の2T(T;被処理材の厚み)または(T+0.5)mmは被処理材の(追加材との)継手を考慮したもので、2Tは重ね合せ継手の場合で、(T+0.5)mmは突き合せ継手(テープによる接着)の場合である。もしこの隙間がなければ継手のロール間通過時に被処理材にすり傷や皺が発生し、特に被処理材がフィルム等の場合破断することがある。」(本願明細書第6頁6行目〜同頁13行目)及び「シールロール23間の隙間(G1)を走行基板32の厚さ(T)よりも走行基板32の厚さ程度又は0.5mm程度までは大きくしても十分実用可能である。」(本願明細書第10頁2行目〜5行目)等と記載されている程度のものであって、格別の効果を奏するものではない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-10-29 
結審通知日 1999-11-19 
審決日 1999-11-22 
出願番号 特願平2-83865
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 城所 宏山田 靖  
特許庁審判長 石井 勝徳
特許庁審判官 唐戸 光雄
能美 知康
発明の名称 真空シールロール装置  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 橋本 良郎  
代理人 村松 貞男  
代理人 坪井 淳  

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