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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
管理番号 1007235
異議申立番号 異議1999-70519  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-15 
確定日 1999-10-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第2786095号「炭酸セリウムおよび酸化セリウムの製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2786095号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1、本件発明
特許第2786095号(平成5年11月24日出願、平成10年5月29日設定登録)の請求項1〜3に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】セリウム鉱酸塩水溶液のpHを2.0〜5.0に保持しながら炭酸根を有する化合物を投入し、反応させることを特徴とする炭酸セリウムの製造方法。
【請求項2】生成した炭酸セリウム(酸化セリウム換算)中のアルカリ土類金属不純物量がセリウム鉱酸溶液(酸化セリウム換算)中のそれの1/2以下である請求項1に記載の炭酸セリウムの製造方法。
【請求項3】請求項1または2の製造方法で得られた炭酸セリウムを250℃以上の温度で焼成する酸化セリウムの製造方法。」
2、申立ての理由の概要
特許異議申立人大塚博明は、証拠方法として甲第1〜4号証を提出し、請求項1〜3に係る発明の特許は下記の理由▲1▼▲2▼により取り消されるべきものである旨主張している。
理由▲1▼
請求項1〜3に係る発明は、甲1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反している。
理由▲2▼
甲第3号証で示すように、pH2.0〜3.0の範囲において炭酸セリウムのCe3+イオンは溶解状態にあり、上記pH範囲では、アルカリ土類金属イオンとの略完全な分離は不可能であるにもかかわらず、本件特許発明は、pH2.0〜5.0の範囲を構成要件とし、上記pH2.0〜3.0の範囲でも分離が可能な理由について記載されていないから、本件特許明細書は特許法第36条第4項の規定に違反している。
3、理由▲1▼について
3-1、甲各号証の記載内容
甲第1号証には、CeイオンおよびMgイオンの炭酸塩および水酸化物を生成する反応の平衡定数が記載されている。
甲第2号証(「Stability Constants of Metal-ion Complexes」London,The Chemical Society 第41〜44頁、136〜138頁(1964))には、各種Metalの安定定数が記載されており、特に、第138頁のCO32-(cont.)の頁には、Ce3+についてその平衡定数の対数の欄に、evCeL2-が、参照の欄に58Dがそれぞれ記載されている。
同じく第136頁のCO32-(cont.)の頁には、Mg2+についてその平衡定数の対数の欄に、KSO -4.59等が記載されている。
同じく第137頁のCO32-(cont.)の頁には、Ca2+についてその平衡定数の対数の欄に、KSO -8.55等が記載されている。
同じく第43、44頁のOH-(cont.)の頁には、Ce3+についてその平衡定数の対数の欄に、KSO -20.2等が記載されている。
同じく第41頁のOH-(cont.)の頁には、Mg2+についてその平衡定数の対数の欄に、KSO -10.47等が記載されている。
同じく第42頁のOH-(cont.)の頁には、Ca2+についてその平衡定数の対数の欄に、KSO -5.26等が記載されている。
甲第3号証には、甲第1号証の平衡定数を用いて計算したCe2(CO3)3およびMgCO3の溶解曲線が記載されている。
甲第4号証(米国特許第3903186号明細書)には、アルキル基を持つ芳香族炭化水素の脱アルキル化について記載されており、特に第4欄第66〜67行、第5欄第1表の第9例の記載から、甲第4号証には炭酸セリウムを仮焼すると酸化セリウムができることが記載されていると云える。
3-2、対比・判断
甲第1、3号証は、その頒布日が不明であるから、本件出願前に頒布された文献であるとは云えない。また、甲第2号証には、各種Metalの平衡定数に関する記載しかなく、甲第4号証には、酸化セリウムの製造法しか記載されていないから、本件請求項1に係る発明は、本件出願前頒布された甲第2、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
また、本件請求項2、3に係る発明は、請求項1を引用しているのであるから、同様な理由で当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
なお、特許異議申立人は、炭酸マグネシウム溶液をセリウム酸性溶液に添加した際に得られるpH値によるCe3+とMg2+の溶解割合を平衡定数を用いて算出し、曲線として表した甲第3号証から、pH2.0〜5.0でMg2+が溶存したままCe3+が沈殿することを予測することは当業者にとって容易なことである旨主張している。
しかしながら、炭酸マグネシウム溶液をセリウム酸性溶液に添加する反応における主要な平衡定数であるCe2(C03)3生成反応の平衡定数が、本件出願前公知の事項であることが立証されておらず、また、上記反応での具体的な溶解割合の算出式が明らかでない以上、甲第3号証に記載された曲線のグラフを当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
この点に関して、特許異議申立人は、当審の審尋に対しての回答書において、平衡定数については甲第2号証に記載されている旨主張しているが、甲第2号証には、文献「58D」にCe(CO3)2-に関する記載があることが示されているのみで、Ce2(C03)3生成反応の平衡定数は何も明らかにされていない。また、算出式については、回答書の中で2価の金属イオンが水酸化イオンと塩を形成する場合について明らかにしているが、3価であるCe3+共存下で炭酸塩を生成する場合については明らかにしていない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
4、理由▲2▼について
pHが2.0〜3.0では不純物と分離できないはずである旨の特許異議申立人の上記主張は甲第3号証を根拠とするものであるが、甲第3号証は本件出願前に頒布されたものではなく、またそこに記載の曲線のグラフを算出する基礎となる平衡定数、算出式も不明であるから、この証拠を根拠とする特許異議申立人の主張は採用することができない。
5、むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-10-01 
出願番号 特願平5-293169
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01F)
P 1 651・ 531- Y (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 八原 由美子  
特許庁審判長 沼澤 幸雄
特許庁審判官 能美 知康
野田 直人
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2786095号(P2786095)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 炭酸セリウムおよび酸化セリウムの製造方法  

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