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審決分類 |
審判 一部申し立て 発明同一 B66C |
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管理番号 | 1007312 |
異議申立番号 | 異議1999-70763 |
総通号数 | 7 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-11-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-02 |
確定日 | 1999-10-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2793147号「クレーンのウインチ駆動制御方法及び装置」の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2793147号の請求項1ないし4、6ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2793147号の請求項1乃至8に係る発明は、平成7年4月25日に出願され、平成10年6月19日に設定登録され、その後、特許異議の申立て及び取消理由の通知がなされ、取消理由の通知の指定期間内である平成11年8月23日に願書に添付した明細書について訂正請求がなされたものである。 2.訂正の要旨 上記訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるが、その要旨は次の▲1▼〜▲13▼のとおりである。 ▲1▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る記載を 「【請求項1】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。」 と訂正する。 ▲2▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載を 「【請求項2】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。」 と訂正する。 ▲3▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る記載を 「【請求項3】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 ▲4▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項5に係る記載を 「【請求項5】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 ▲5▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項7項を削除する。 ▲6▼願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項8を請求項7とし、その記載を 「【請求項7】請求項3〜6のいずれかに記載のクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ウインチを駆動する油圧モータと、この油圧モータに作動油を供給する油圧源と、この油圧源と上記油圧モータとの間に設けられ、スプールの作動により上記油圧源から油圧モータへの作動油の供給流量を変化させるコントロールバルブとを備えるとともに、上記目標駆動速度に応じて上記スプールを作動させるように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 ▲7▼願書に添付した明細書の段落番号【0009】〜【0014】の記載を、 「【0009】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための手段として、本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始するものである(請求項1)。 【0010】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定するものである(請求項2)。 【0011】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したものである(請求項3)。 【0012】 より具体的には、上記駆動停止値を上記ロープ先端に設けられた荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した状態におけるロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合にその巻上げ駆動速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものが好適である(請求項4)。 【0013】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものである(請求項5)。 【0014】 上記装置では、外部から入力される指令駆動速度に基づいて上記駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成してもよい(請求項6)。」 と訂正する。 ▲8▼願書に添付した明細書の段落番号【0015】の「(請求項8)」という記載を、「(請求項7)」と訂正する。 ▲9▼願書に添付した明細書の段落番号【0016】の「請求項1,3記載の方法及び装置」という記載を、「請求項1〜7記載の方法及び装置」と訂正する。 ▲10▼願書に添付した明細書の段落番号【0017】〜【0019】の記載を、 「【0017】 さらに、請求項2,3記載の方法及び装置では、ウインチ駆動減速中、上記第2演算手段により演算された目標駆動速度と外部から入力される指令駆動速度とが比較され、前者が後者を上回る場合には、指令駆動速度が目標駆動速度として設定され、これに基づいてウインチ駆動が制御される。 【0018】 より具体的に、請求項4記載の装置では、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合に、その巻上げ速度に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値に到達した時点、すなわち荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した時点でウインチの駆動が停止される。 【0019】 一方、請求項1,5記載の方法及び装置では、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合に、その巻下げ速度に相当する値に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値(>0)に到達した時点、すなわちウインチドラムによるロープ巻取り量が0となる時点よりも前の時点でウインチの駆動が停止される。」 と訂正する。 ▲11▼願書に添付した明細書の段落番号【0020】の「請求項8記載の装置では」という記載を、「請求項7記載の装置では」と訂正する。 ▲12▼願書に添付した明細書の段落番号【0055】の「さらに、請求項2,7」という記載を、「さらに、請求項2,3」と訂正する。 ▲13▼願書に添付した明細書の段落番号【0056】の「請求項8記載の装置では」という記載を、「請求項7記載の装置では」と訂正する。 3.訂正の適否についての判断 (ア)訂正の目的、新規事項及び拡張・変更の存否 (1)上記▲1▼の訂正について 上記▲1▼の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の第1項に記載された「駆動停止値」を「ロープ全長よりも小さいロープ引き出し量に相当する値」に設定するという限定を加え、更にウインチの駆動方向が「巻下げ方向」である場合に減速制御を行うと限定するものである。 そして、この▲1▼の訂正は、段落【0043】〜【0047】に記載された本願発明の第2実施例に係る記載を根拠とするものであって、上記▲1▼の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において、請求項1を限定したものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (2)上記▲2▼の訂正について 上記▲2▼の訂正は、訂正前の請求項1を引用した記載である訂正前の請求項2を、訂正前の請求項1の要件に訂正前の請求項2の要件をそのまま付加して独立した請求項に訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)上記▲3▼の訂正について 上記▲3▼の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項3に、「ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成した」という要件を付加したものである。 この訂正は、訂正前の請求項3の要件に訂正前の請求項7の要件をそのまま付加した請求項に訂正するものであって、上記▲3▼の訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において、請求項3を限定したものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (4)上記▲4▼の訂正について 上記▲4▼の訂正は、訂正前の請求項3を引用した記載である訂正前の請求項5を、訂正前の請求項3の要件に訂正前の請求項5の要件をそのまま付加して独立した請求項に訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (5)上記訂正▲5▼について 上記訂正▲5▼は、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項7を削除するものである。 (6)上記訂正▲6▼について 上記訂正▲6▼は、上記訂正▲5▼により請求項7を削除したことにより、訂正前の請求項8を請求項7に繰り上げると共に、引用している請求項の番号の整合性を図るものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (7)上記▲7▼〜▲13▼の訂正について 上記▲7▼〜▲13▼の訂正は、上記▲1▼〜▲6▼の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と整合させるために発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (イ)独立特許要件の判断 (1)訂正明細書の請求項1,3,4,6,7項に係る発明 訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1、3、4、6、7に係る発明は、その訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,3,4,6,7項に記載したとおりの「クレーンのウインチ駆動制御方法」及び「クレーンのウインチ駆動制御装置」と認める。 (2)先願明細書に記載された発明 これに対して、当審で通知した取消理由で引用した先の出願(特願平7-67505号(特開平8-259182号・特許異議申立の理由に引用された甲第1号証))の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という)には、以下の事項が記載されている。 段落【0041】〜【0042】の記載、段落【0056】〜【0057】の記載、段落【0059】〜【0060】の記載、段落【0065】〜【0066】の記載、段落【0073】の記載、段落【0075】の記載、段落【0078】の記載及び第6図を参照すると、ウインチ6の油圧切換弁63の66a側ポートにパイロット油圧を供給するパイロット油路65aのみに比例減圧弁29が接続され、パイロット油路65bには比例減圧弁が接続されていないことから、上記先願明細書に記載されたものは、パイロット油圧をパイロット油路65a,65bに切換え供給する遠隔操作弁64がウインチの駆動方向を判別するものと認められる。 また、上記記載中、段落【0075】の第12行〜第21行の「フック巻上速度に応じて前記コントローラ8に記憶されるフック離間位置あるいはフック過巻位置を設定変更できるようにしてもよい。その場合、フックの巻上速度が最高速度で行われているときには、既設定のフック離間位置あるいはフック過巻位置で直ちに減速あるいは停止信号が出力されるが、フック巻上速度が最高速度よりも遅い場合には、その速度に応じて設定変更されたフック離間位置あるいはフック過巻位置は、ブーム先端部に近づいた位置に変更設定されるようにする。」という記載から、上記先願明細書には、巻上速度が遅いほどフック離間位置をブーム先端部に近づいた位置に設定する点が記載されており、このときフック過巻位置を変更しない場合は、巻上げ速度が速いほどフック過巻位置との差が大きいフック離間位置を設定するものが記載されていると認められる。 上記各記載及び第1乃至12図並びにその他の記載を合わせて見ると、先願明細書には、 (a)「フック過巻位置にフックが達したときにウインチの巻上駆動を停止させるクレーンのウインチ制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻上方向である場合にその巻上げ速度が速いほどフック過巻位置との差が大きいフック離間位置を設定し、上記フックがフック離間位置に達したときウインチの減速を開始するクレーンのウインチ駆動制御方法」が記載されていると認められる。 また、先願明細書には、 (b)「フック過巻位置にフックが達したときにウインチの巻上駆動を停止させるクレーンのウインチ制御装置において、ウインチの駆動方向が巻上方向である場合にその巻上げ速度が速いほどフック過巻位置との差が大きいフック離間位置を設定する手段と、上記フックがフック離間位置に達した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する手段と、この演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速手段とを備えたクレーンのウインチ駆動制御装置」が記載されていると認められる。 (3)対比・判断 本件訂正明細書の請求項1に係る発明と上記先願明細書に記載された発明とを対比すると、先願明細書に記載された発明の「フック過巻位置」、「フック離間位置」は、それぞれ、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「駆動停止位置」、「駆動減速開始値」に相当するから、両者は、「ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法」及び「ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が駆動停止値に近づく方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始する」点で一致するものの、本件訂正明細書の請求項1に係る発明が、「駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定」する構成及び「駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始する」構成を有するのに対し、先願明細書に記載された発明はこの構成を有さない点で両者は相違する。 そして、上記相違点における本件訂正明細書の請求項1に係る発明の構成は従来周知の技術であるとも認められない。 したがって、本件訂正明細書の請求項1に係る発明が上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 次に 本件訂正明細書の請求項3に係る発明と上記先願明細書に記載された発明とを対比すると、先願明細書に記載された発明の「ウインチの駆動方向が巻上方向である場合にその巻上げ速度が速いほどフック過巻位置との差が大きいフック離間位置を設定する手段」、「目標駆動速度を演算する手段」は、それぞれ本件請求項3に係る発明の「第1演算手段」、「第2演算手段」に相当するから、両者は、「ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備える」点で一致するものの、 本件訂正明細書の請求項3に係る発明が、「ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成した」のに対し、先願明細書に記載された発明はこの構成を有さない点で両者は相違する。 先願明細書の第6図を見ると、ウインチを駆動する油圧アクチュエータ61を制御する油圧切替弁63と遠隔操作弁64との巻取操作側のパイロット油路65aに分岐路を設け比例減圧弁29が設けられる構成が記載されており、また、先願明細書の段落【0060】には、この比例減圧弁29が速度信号(電流量)に見合った量だけ減圧側に操作され、パイロット油路65a中の作動油圧力が所定の低圧力まで減圧され、油圧切替弁63の弁室63aの開口面積が減少し、油圧アクチュエータ61の駆動速度が所定低速度まで減速され、ウインチ巻上速度が減速される旨の記載があるが、先願明細書には、ウインチ駆動減速中に目標駆動速度が、外部から入力される指令駆動速度即ちオペレータに操作される遠隔操作弁64からのパイロット油路65aの圧力を上回る場合にはどのように制御されるか記載されておらず、また、比例減圧弁29の具体的構成及びコントローラ8の制御の詳細が先願明細書の記載からは明らかではないため、先願明細書に記載された発明が、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したものとは認められない。 そして、上記相違点における本件訂正明細書の請求項3に係る発明の構成は従来周知の技術であるとも認められない。 したがって、本件訂正明細書の請求項3に係る発明が上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 本件訂正明細書の請求項4に係る発明は、請求項3を引用するものである。そして、訂正明細書の請求項3に係る発明は上記のとおり先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められないから、請求項3の要件を有する本件訂正明細書の請求項4に係る発明が、上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 本件訂正明細書の請求項6に係る発明は、請求項3〜5のいずれか1項を引用するものである。そして、訂正明細書の請求項3、4に係る発明はいずれも、上記のとおり先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められず、また、請求項5に係る発明も、先願明細書に記載されていない「上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成した」という構成を有しており上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められないから、請求項3〜5のいずれか1項の要件を有する本件訂正明細書の請求項6に係る発明が、上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 本件訂正明細書の請求項7に係る発明は、請求項3〜6のいずれか1項を引用するものである。そして、訂正明細書の請求項3〜6に係る発明はいずれも、上記のとおり先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められないから、請求項3〜6のいずれか1項の要件を有する本件訂正明細書の請求項6に係る発明が、上記先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 したがって、本件訂正明細書の請求項1、3、4、6、7に係る発明は、上記先願明細書に記載された発明とは同一であるとすることはできない。 また、他に本件訂正明細書の請求項1、3、4、6、7に係る発明が独立して特許を受けることができないものであるとする理由も発見しない。 (ウ)訂正の適否についての判断結果 上記(ア)、(イ)に示すとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する同法第126条第2項乃至第4項に適合するので、当該訂正を認める。 4.特許異議申立ての判断 登録異議申立人は、上記先の出願(特願平7-67505号)の公開公報を甲第1号証として提出し、本件特許の請求項1、2、3、4、6、7、8に係る発明は、上記先願明細書に記載された発明と同一であり、また、本件特許に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、本件出願の時において、その出願人が上記先の出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許をうけることができないものであるから取り消すべきものである旨主張している。 これに対して本件訂正請求は、上記「3.訂正の適否についての判断」に示したとおり、合法になされたものと認められるから、本件特許の請求項1、2、3、4、6、7に係る発明は、訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2、3、4、6、7に記載されたとおりのものと認める。 そして、前記請求項1、3、4、6、7に係る発明は、前記「3.訂正の適否についての判断」の「(イ)独立特許要件の判断」において検討したとおり、登録異議申立人が提出した甲第1号証の先の出願の先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 次に、本件訂正明細書の請求項2に係る発明について、検討する。本件訂正明細書の請求項2に係る発明と上記先願明細書に記載された発明とを比較すると、両者は「ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始するクレーンのウインチ駆動制御方法」点で一致するものの、本件訂正明細書の請求項2に係る発明が、「ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定する」のに対し、先願明細書に記載された発明はこの構成を有さない点で両者は相違する。 先願明細書には、ウインチ駆動減速中に目標駆動速度が、外部から入力される指令駆動速度即ちオペレータに操作される遠隔操作弁64からのパイロット油路65aの圧力を上回る場合にはどのように制御されるか記載されておらず、また、比例減圧弁29の具体的構成及びコントローラ8の制御の詳細が先願明細書の記載からは明らかではないため、先願明細書に記載された発明が、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定する点が記載されているとは認められない。 そして、上記相違点における本件訂正明細書の請求項2に係る発明の構成は従来周知の技術であるとも認められない。 したがって、本件訂正明細書の請求項2に係る発明と上記先願明細書に記載された発明とは同一であるとは認められない。 よって、本件特許の請求項1、2、3、4、6、7に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許をうけることができないものであるから取り消すべきものであるという特許異議申立人の主張は採用できない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1、2、3、4、6、7に係る発明の特許は特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては、取り消すことができない。 また、他に本件請求項1、2、3、4、6、7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54) 【発明の名称】 クレーンのウインチ駆動制御方法及び装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。 【請求項2】 ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。 【請求項3】 ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。 【請求項4】 請求項3記載のクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記駆動停止値を上記ロープ先端に設けられた荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した状態におけるロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合にその巻上げ駆動速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。 【請求項5】 ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。 【請求項6】 請求項3〜5のいずれかに記載のクレーンのウインチ駆動制御装置において、外部から入力される指令駆動速度に基づいて上記駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。 【請求項7】 請求項3〜6のいずれかに記載のクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ウインチを駆動する油圧モータと、この油圧モータに作動油を供給する油圧源と、この油圧源と上記油圧モータとの間に設けられ、スプールの作動により上記油圧源から油圧モータへの作動油の供給流量を変化させるコントロールバルブとを備えるとともに、上記目標駆動速度に応じて上記スプールを作動させるように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、クレーンに設置されるウインチの駆動を制御する方法及び装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 一般に、ウインチを搭載したクレーンでは、安全上、ウインチドラムからのロープ引出量もしくはこれに相当する値が所定の駆動停止値に合致した時点でウインチ駆動を停止させなければならない場合がある。 【0003】 例えば、ブームヘッドのシーブに掛けられ、先端にフック等の荷吊り部が設けられたロープを巻き上げる場合、その巻上げ量が過多になると上記荷吊り部がブームヘッドに当たってしまうおそれがあるため、これを防ぐべく、上記荷吊り部がブームヘッドよりも少し下方の位置に到達した時点でウインチ駆動を自動停止させることが好ましい。逆に、上記ロープを巻下げ過ぎてウインチドラムでのロープ巻取り量が0に達してしまうと、ロープがウインチドラムから外れたり、反対方向に巻き込まれたりするおそれがあるため、上記ロープ巻取り量が0となる前にウインチ駆動を自動停止させることが好ましい。 【0004】 このような自動停止を行う場合には、安全上、停止前にウインチ駆動速度を十分に下げておくことが望まれる。そこで、ウインチの停止前に減速を行う制御装置として、例えば実開平5-69069号マイクロフィルムには、ブームヘッドからフックまでの高さ距離ΔHについて第1の値ΔHl及び第2の値ΔH2(<ΔHl)を予め設定するとともに、上記高さ距離ΔHと実際のポンプ吐出量Qとについて図9のグラフに示すような関係を設定しておき、この関係に基づいて、上記高さ距離ΔHの変化に応じてポンプ吐出量Qを変化させるようにしたものが開示されている。 【0005】 この装置によれば、ウインチの巻上げ時には、上記フックがブームヘッドに対して第1の高さ距離ΔH1まで近付いた時点からポンプ吐出量Qが減らされ始め(すなわち減速が開始され)、第2の高さ距離ΔH2まで近付いた時点で、ポンプ吐出量Qが最低値まで下げられるとともにコントロールバルブが中立位置に戻されてウインチ駆動が強制停止される。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 上記装置では、減速開始用の第1の値ΔH1がウインチの運転状態にかかわらず一定であり、フックがこの第1の値ΔH1までブームヘッドに近付くと必ず減速される。従って、フックの巻上げ速度が十分低くてまだ減速の必要がない場合にも、上記第1の値ΔH1に相当する高さ位置から減速が開始されることになる。しかも、ウインチの駆動方向については考慮されていないので、例えば上記高さ距離ΔHが第2の値ΔH2である停止状態からウインチを巻下げ方向に駆動する場合、この駆動方向は安全で駆動速度を制限する必要がないにもかかわらず、上記高さ距離ΔHが第1の値ΔH1に到達するまでは少しずつしか巻下げ速度が増速されないことになる。 【0007】 このような制御が実行されると、オペレータに違和感を与えるだけでなく、駆動速度が必要以上に制限されるために作業効率が著しく低下する不都合がある。 【0008】 本発明は、このような事情に鑑み、オペレータに違和感を与えることなく、また、作業能率を低下させることなく、安全なウインチ駆動の停止を保証できるクレーンのウインチ駆動制御方法及び装置を提供することを目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための手段として、本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始するものである(請求項1)。 【0010】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定するものである(請求項2)。 【0011】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したものである(請求項3)。 【0012】 より具体的には、上記駆動停止値を上記ロープ先端に設けられた荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した状態におけるロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合にその巻上げ駆動速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものが好適である(請求項4)。 【0013】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものである(請求項5)。 【0014】 上記装置では、外部から入力される指令駆動速度に基づいて上記駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成してもよい(請求項6)。 【0015】 減速の具体的な手段としては、上記ウインチを駆動する油圧モータと、この油圧モータに作動油を供給する油圧源と、この油圧源と上記油圧モータとの間に設けられ、スプールの作動により上記油圧源から油圧モータへの作動油の供給流量を変化させるコントロールバルブとを備えるとともに、上記目標駆動速度に応じて上記スプールを作動させるように上記減速制御手段を構成したものが、好適である(請求項7)。 【0016】 【作用】 請求項1〜7記載の方法及び装置では、まずウインチの駆動方向が判別され、この方向が上記ロープ引出量に相当する値が駆動停止値に近付く方向である場合に、このロープ引出量が駆動減速開始値に到達した時点から減速が開始され、駆動停止値に到達する時点(実際に駆動が停止される時点)までに十分に減速される。ここで、上記駆動減速開始値は、ウインチの駆動速度に相当する値(請求項6では外部から入力された指令駆動速度)が高いほど上記駆動停止値との差が大きい値に設定されるため、上記駆動速度が大きい場合、すなわち停止までの制動に長い時間を要する場合には、比較的早い時点から上記減速が開始され、逆に上記駆動速度が小さい場合、すなわち短時間で停止までの制動ができる場合には、比較的遅い時点まで上記減速が開始されずに通常の駆動制御が続けられることになる。 【0017】 さらに、請求項2,3記載の方法及び装置では、ウインチ駆動減速中、上記第2演算手段により演算された目標駆動速度と外部から入力される指令駆動速度とが比較され、前者が後者を上回る場合には、指令駆動速度が目標駆動速度として設定され、これに基づいてウインチ駆動が制御される。 【0018】 より具体的に、請求項4記載の装置では、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合に、その巻上げ速度に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値に到達した時点、すなわち荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した時点でウインチの駆動が停止される。 【0019】 一方、請求項1,5記載の方法及び装置では、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合に、その巻下げ速度に相当する値に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値(>0)に到達した時点、すなわちウインチドラムによるロープ巻取り量が0となる時点よりも前の時点でウインチの駆動が停止される。 【0020】 請求項7記載の装置では、ウインチ駆動用油圧モータと油圧源との間に設けられたコントロールバルブにおけるスプールの作動により、油圧モータへの作動油の供給流量が調節され、これによりウインチの駆動速度が制御される。 【0021】 【実施例】 本発明の第1実施例を図1〜図3に基づいて説明する。 【0022】 図1において、クレーン本体1には、ブームピン2を中心としてブーム3が起伏可能に取付けられるとともに、荷吊り用のウインチドラム4A及びブーム起伏用のウインチドラム4Bが搭載されている。 【0023】 ウインチドラム4Aから引き出されたロープ6Aはブームヘッドのシーブ7に掛けられ、このロープ6によってフックブロック(荷吊り部)8が吊下げられた状態となっている。ウインチドラム4Bから引き出されたロープ6Bは、一対の動滑車9A,9B間に巻かれており、一方の動滑車9Aがピン11を介して回動可能にクレーン本体1側の支持部材1aに連結され、他方の動滑車9Bがガイケーブル6Cを介してブームヘッドに連結されている。従って、ウインチドラム4Aの回転駆動によりフックブロック8が昇降し、ウインチドラム4Bの駆動によりブーム3が起伏するようになっている。 【0024】 なお、上記ウインチドラム4Aの回転軸には、ドラム回転検出器(ロープ検出手段)5が設けられている。 【0025】 図2に、上記ウインチドラム4Aを駆動するための油圧回路を示す。 【0026】 この回路は、油圧ポンプ10と、タンク12と、ドラム駆動用の油圧モータ14とを備え、上記油圧ポンプ10と油圧モータ14との間にはコントロールバルブ16が設けられている。 【0027】 このコントロールバルブ16は、図例では3位置パイロット切換弁からなり、双方のパイロット部16a,16bにパイロット圧が供給されていない中立状態では、油圧ポンプ10の吐出油を油圧モータ14に供給することなくタンク12に直接逃がし、パイロット部16aに油圧が供給された場合には、上記吐出油を油圧配管18Aを通じて油圧モータ14に供給するとともに戻り油を油圧配管18Bを通じてタンク12に逃がし、パイロット部16bに油圧が供給された場合には、上記吐出油を油圧配管18Bを通じて油圧モータ14に供給するとともに戻り油を油圧配管18Aを通じてタンク12に逃がすように構成されている。そして、上記油圧モータ14に上記油圧配管18Aから油圧が供給された場合には、ウインチドラム4Aが巻下げ方向(図1では時計回り方向)に回転駆動され、上記油圧モータ14に上記油圧配管18Bから油圧が供給された場合には、ウインチドラム4Bが巻上げ方向(図1では反時計回り方向)に回転駆動されるように、油圧モータ14とウインチドラム4Aとが連結されている。 【0028】 各パイロット部16a,16bへのパイロット圧供給は、それそれパイロット用油圧ポンプ22A,22Bから電磁比例減圧弁20A,20Bを介して行われる。上記電磁比例減圧弁20A,20Bは、ソレノイドに入力される電気信号に対応する設定圧までパイロット用油圧ポンプ22A,22Bの吐出油を減圧しながらこれをパイロット圧として上記パイロット部16a,16bに導くものである。 【0029】 なお、図2において26はメインリリーフ弁である。 【0030】 この実施例装置には、図1に示すようなレバー角度検出器30と、必要距離演算器32と、フック位置演算器34と、モータ駆動制御器36とが装備されている。 【0031】 レバー角度検出器30は、運転室内に設けられた操作レバー28の操作方向及び操作量を検出するものであり、フック位置演算器34は、上記ドラム回転検出器5の出力信号に基づいて、実際のフックブロック8の高さ位置を演算するものである。 【0032】 上記必要距離演算器(第1演算手段)32及びモータ駆動制御器(第2演算手段及び減速制御手段)36は、最終的に、フックブロック8が予めブームヘッド近傍に設定された停止フック高さ位置に到達した時点で安全に停止させることを目的として、ウインチドラム4Aの駆動制御を行うものであり、その動作は図3のフローチャートに示す通りである。 【0033】 まず、必要距離演算器(第1演算手段)32は、操作レバー28の操作方向から、これに対応するウインチドラム4Aの指令駆動方向を判別し、この方向が巻下げ方向である場合には(ステップSlでNO)、現在の操作レバー28の操作量に対応する制御信号(指令駆動速度に対応する信号)bを演算する(ステップS7)。そして、モータ駆動制御器36は、上記制御信号bをそのまま巻下げ駆動用の電磁比例減圧弁20Bに出力する(ステップS10)。これにより、コントロールバルブ16のパイロット圧16bにパイロット圧が供給されてスプールが作動し、ウインチドラム4Aはレバー操作量に応じた速度で巻下げ駆動されることになる。 【0034】 一方、上記指令駆動方向が巻上げ方向である場合には(ステップSlでYES)、必要距離演算器32は、レバー操作量に対応する指令巻上げ速度を算出し(ステップS2)、この指令巻上げ速度と、予め設定された減速度と、上記停止フック高さ位置もしくはそれよりも僅か上方に設定された減速終了位置とに基づいて、この減速終了位置にフックブロック8が到達した時点でウインチ駆動速度を所定の微小速度まで低下させるのに要するフックブロック8の上昇距離(減速必要距離)を逆算する(ステップS3)。さらに、この必要距離演算器32は、上記停止フック高さ位置よりも上記減速必要距離だけ下方の位置を減速開始位置(駆動減速開始値)として算出する(ステップS4)。 【0035】 次に、モータ駆動制御器36は、現在のフックブロック8の高さ位置が上記減速開始位置もしくはそれよりも上であるか否か、すなわち減速領域内にあるか否かを判定する(ステップS5)。 【0036】 まだ、減速領域内に到達していない間は(ステップS5でNO)、レバー操作量に対応する制御信号bを演算して(ステップS7)、これをそのまま巻上げ駆動用の電磁比例減圧弁20Aに出力する(ステップS10)。これにより、ウインチドラム4Aはレバー操作量に応じた速度で巻下げ駆動されることになる。 【0037】 このようにしてフックブロック8が巻き上げられていき、減速領域内に入ると(ステップS5でYES)、モータ駆動制御器36は、予め設定された減速度に基づき、現在のフックブロック8の高さ位置に対応する制御信号(巻上げ速度に相当する信号)aを演算し(ステップS6)、必要距離演算器32はレバー操作量に対応する制御信号bを演算する(ステップS7)。そして、モータ制御演算器36は、両制御信号a,b同士を比較し、制御信号aが制御信号b以下である場合のみ(ステップS8でYES)、制御信号aを電磁比例減圧弁20Aに入力し(ステップS9)、それ以外の場合は(ステップS8でNO)、制御信号bを電磁比例減圧弁20Aに入力する(ステップS10)。このような減速制御により駆動速度が十分に低下した後、フックブロック8が前記停止フック高さ位置に到達した時点で、制御信号の出力を止め、ウインチドラム4Aの駆動を停止させる。これにより、フックブロック8がブームヘッドに当たることが未然に防止される。 【0038】 この装置によれば、次の効果を得ることができる。 【0039】 a)まずウインチドラム4Aの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻上げ方向(すなわちフックブロック8が停止フック高さ位置に近付く方向)である場合にのみ減速制御を行うようにしているので、安全で減速制御を要しない巻下げ時にはウインチドラム4Aの駆動速度が制限されない。従って、作業能率は低下せず、また、オペレータに違和感を与えることもない。 【0040】 b)巻上げ駆動時、減速を開始するフック高さ位置(減速開始位置)を一定の値に固定するのではなく、操作レバー28から入力される指令巻上げ速度が高いほど上記フック高さ位置として低い位置を設定するようにしているので、指令巻上げ速度が高い場合には早いタイミングで減速を開始することにより、無理のない駆動停止制御を確保する一方、指令巻上げ速度が低くてまだ減速の必要がない場合には減速開始タイミングを遅らせることにより、高い作業能率を確保できれる。 【0041】 c)減速領域内に入っても、この減速のために演算される目標駆動速度(制御信号aに相当する速度)がオペレータからの指令駆動速度(制御信号bに相当する速度)を上回る場合には、後者の指令駆動速度を優先するようにしているので(前記ステップS8)、安全側(すなわち低速駆動側)には常にオペレータの意志を尊重した、より柔軟な駆動制御を実行できる。 【0042】 次に、第2実施例を説明する。 【0043】 この実施例では、本発明における「駆動停止値」として、ウインチドラム4Aからのロープ繰出量であってロープ6Aの全長よりも僅かに小さい量(すなわち、ウインチドラム4Aによるロープ6Aの巻取り量が0に近い状態でのロープ繰出量)である停止ロープ繰出量が設定されている。そして、前記図1に示した必要距離演算器32及びフック位置演算器34に代え、図4に示すような必要繰出量演算器(第1演算手段)32′及びロープ繰出量演算器(第2演算手段及び減速制御手段)34′が設けられている。ロープ繰出量演算器34′は、回転検出器5の検出信号に基づいてロープ繰出量を演算するものである。 【0044】 上記必要繰出量演算器32′及びモータ駆動制御器36の行う演算制御動作を図5に示す。前記第1実施例と同様、操作レバー28の操作方向から、これに対応するウインチドラム4Aの指令駆動方向を判別するが、この実施例では、巻上げ方向が安全側の駆動方向であり、従って、上記方向が巻上げ方向である場合(ステップS1′でNO)、現在の操作レバー28の操作量に対応する制御信号(指令駆動速度に対応する信号)bを演算し(ステップS7)、これをそのまま巻上げ駆動用の電磁比例減圧弁20Bに出力する(ステップS10)。 【0045】 これに対し、上記指令駆動方向が巻下げ方向である場合には(ステップS1′でYES)、指令巻下げ速度を算出し(ステップS2′)、この指令巻下げ速度を、予め設定された減速度で、ロープ繰出量が上記停止ロープ繰出量もしくはこれよりも僅か少ない量に設定された減速終了繰出量に到達するまでの間に所定の微小速度まで落すのに要するロープ繰出量(減速必要繰出量)を演算する(ステップS3′)。さらに、上記減速終了繰出量から上記減速必要繰出量を差し引いた繰出量を減速開始繰出量(駆動減速開始値)として算出し(ステップS4′)、現在のロープ繰出量が上記減速開始繰出量もしくはそれよりも少ない量であるか否か、すなわち減速領域内にあるか否かを判定する(ステップS5)。 【0046】 まだ、減速領域内に到達していない間は(ステップS5でNO)、レバー操作量に対応する制御信号bを演算して(ステップS7)、これをそのまま巻下げ駆動用の電磁比例減圧弁20Bに出力する(ステップS10)。その後、ロープ繰出量が増し、減速領域内に入ると(ステップS5でYES)、モータ駆動制御器36は、予め設定された減速度に基づき、現在のロープ繰出量に対応する制御信号(巻下げ速度に相当する信号)aを演算し(ステップS6′)、必要距離演算器32はレバー操作量に対応する制御信号bを演算する(ステップS7)。 【0047】 その後、前記第1実施例と同様の減速制御を行い(ステップS8〜S10)、駆動速度が十分に低下した後、ロープ繰出量が前記停止ロープ繰出量まで減少した時点で、制御信号の出力を止め、ウインチドラム4Aの駆動を停止させる。これにより、ウインチドラム4Aでのロープ6Aの巻取り量が0になることが未然に防止される。 【0048】 次に、第3実施例を図6及び図7に示す。前記第1実施例では、パイロット圧を制御するモータ駆動制御器36を第2演算手段及び減速制御手段として兼用していたが、ここでは、上記モータ駆動制御器36とは別に第2演算手段及び減速制御手段としてポンプ容量調節器40を備えている。このポンプ容量調節器40は、フック高さ位置が減速領域内に入った時点からこのフック高さ位置に応じた目標ポンプ吐出量を演算し、これに見合う制御信号を電磁比例減圧弁38に出力することにより、可変容量型の油圧ポンプ10の傾転角を徐々に変化させてポンプ吐出量を減少させるように構成されている。このポンプ容量調節器40は、第4実施例として図8に示すように、前記第2実施例で示した巻下げ減速制御を行う場合にも同様に適用できるものである。 【0049】 このように、本発明では、ウインチ駆動速度を変化させる手段を問わず、上記のようなポンプ吐出量制御のほか、第1実施例及び第2実施例で示した電磁比例減圧弁20A,20Bとコントロールバルブ16との間に新たな電磁比例減圧弁を設けてパイロット圧を絞るようにしてもよい。ただし、上記第1及び第2実施例のように、元来油圧モータ14の駆動制御に必要なコントロールバルブ16及び電磁比例減圧弁20A,20Bをそのまま利用して減速制御を行えば、駆動回路をより簡素化でき、その信頼性を高めることができる利点がある。 【0050】 また、本発明は例として次のような態様をとることも可能である。 【0051】 (1)巻下げ駆動時に減速を行うものにおいて、「駆動停止値」としては、前記第2実施例に示したようにウインチドラム4Aによるロープ巻取り量がほぼ0となる時のロープ繰出量のほか、フックブロック8が着地する寸前のフック高さ位置を設定してもよい。また、駆動減速完了値と駆動停止値とは合致していてもよいし、駆動減速完了値が駆動停止値より小さくても良い。前者の場合には、駆動停止値まで減速制御が続けられることになり、後者の場合には、駆動減速完了値まで減速制御が続行されてその後は微小駆動速度が維持され、駆動停止値に到達した時点で倒伏停止が実行されることになる。 【0052】 (2)上記実施例では、荷吊り用ウインチの駆動制御について示したが、本発明は、図1に示したブーム起伏用のウインチドラム4Bの駆動制御にも有効に適用できるものである。この場合、「駆動停止値」については、ブーム起伏角θが上限値に達した時のロープ6Bの巻取り量よりも少し小さい量を停止ロープ巻取り量として設定し、「駆動減速開始値」については、上記停止ロープ巻取り量よりも少し小さい量を減速開始ロープ巻取り量として設定すればよく、ブーム3を起立させる方向のウインチドラム4Bの駆動時(図1では反時計回り方向の回転駆動時)にのみ減速制御を行うようにすればよい。 【0053】 (3)本発明における「駆動速度に相当する値」としては、前記操作レバー28の操作量に対応する指令駆動速度のほか、パイロット圧やドラム回転検出器5の検出回転量の時間変化率から演算される実際のドラム回転駆動速度を採用するようにしてもよい。 【0054】 【発明の効果】 以上のように本発明は、まずウインチの駆動方向を判別し、この方向が上記ロープ引出量に相当する値が駆動停止値に近付く方向である場合に、ウインチの駆動速度に相当する値(請求項6では外部から入力された指令駆動速度)が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、この駆動減速開始値に上記ロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速を開始するようにしたものであるので、安全上、真に駆動速度の制限が必要である場合にのみ、減速を行うことができ、オペレータに違和感を与えることなく、また、作業能率の低下を招くことなく、無理のない安全な駆動停止を保証できる効果がある。 【0055】 さらに、請求項2,3記載の方法及び装置では、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合には、この入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するようにしているので、安全側(低速駆動側)については常にオペレータの意志を尊重することができ、より柔軟な制御を実行できる効果がある。 【0056】 請求項7記載の装置では、ウインチ駆動用油圧モータと油圧源との間に設けられたコントロールバルブにおけるスプールの作動により、油圧モータへの作動油の供給流量を調節し、これによりウインチの駆動速度を制御するようにしたものであるので、油圧モータの駆動速度を調節するための特別な手段を不要にでき、これにより構造を簡略化してより信頼性の高い装置を提供できる効果がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施例におけるウインチ駆動制御装置の全体構成図である。 【図2】 上記ウインチ駆動制御装置により制御されるウインチ駆動回路の回路図である。 【図3】 上記ウインチ駆動制御装置の行う演算制御動作を示すフローチャートである。 【図4】 本発明の第2実施例におけるウインチ駆動制御装置の全体構成図である。 【図5】 上記ウインチ駆動制御装置により制御されるウインチ駆動回路の回路図である。 【図6】 本発明の第3実施例におけるウインチ駆動制御装置の全体構成図である。 【図7】 上記ウインチ駆動制御装置により制御されるウインチ駆動回路の回路図である。 【図8】 本発明の第4実施例におけるウインチ駆動制御装置の全体構成図である。 【図9】 従来のウインチ駆動制御装置により制御されるポンプ吐出量とフック-ブームヘッド高さ距離との関係を示すグラフである。 【符号の説明】 4A,4B ウインチドラム 5 ドラム回転検出器(ロープ検出手段) 6A,6B ロープ 8 フックブロック(荷吊り部) 10 油圧ポンプ 14 油圧モータ 16 コントロールバルブ 28 送作レバー 30 レバー角度検出器 32 必要距離演算器(第1演算手段) 32′ 必要繰出量演算器(第1演算手段) 34 フック位置演算器 34′ ロープ繰出量演算器 36 モータ駆動制御器(第2演算手段及び減速制御手段) 38 電磁比例減圧弁 40 ポンプ容量制御器(第2演算手段及び減速制御手段) |
訂正の要旨 |
上記訂正請求における訂正の要旨は、次のとおりである。 1.特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る記載を 「【請求項1】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。」 と訂正する。 2.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載を 「【請求項2】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定することを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御方法。」 と訂正する。 3.特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る記載を 「【請求項3】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 4.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項5に係る記載を 「【請求項5】ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 5.特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項7項を削除する。 6.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項8を請求項7とし、その記載を 「【請求項7】請求項3〜6のいずれかに記載のクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ウインチを駆動する油圧モータと、この油圧モータに作動油を供給する油圧源と、この油圧源と上記油圧モータとの間に設けられ、スプールの作動により上記油圧源から油圧モータへの作動油の供給流量を変化させるコントロールバルブとを備えるとともに、上記目標駆動速度に応じて上記スプールを作動させるように上記減速制御手段を構成したことを特徴とするクレーンのウインチ駆動制御装置。」 と訂正する。 7.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、【0009】〜【0014】の記載を、 「【0009】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための手段として、本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が巻下げ方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始するものである(請求項1)。 【0010】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御方法において、ウインチの駆動方向を判別し、この駆動方向が上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向である場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算し、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチの減速を開始し、ウインチ駆動減速中にこの減速を目的として演算した目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度に設定するものである(請求項2)。 【0011】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備え、ウインチ駆動減速中に上記第2演算手段により演算された目標駆動速度が外部から入力される指令駆動速度を上回る場合にはこの入力される指令駆動速度を目標駆動速度としてウインチ駆動を制御するように上記減速制御手段を構成したものである(請求項3)。 【0012】 より具体的には、上記駆動停止値を上記ロープ先端に設けられた荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した状態におけるロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合にその巻上げ駆動速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものが好適である(請求項4)。 【0013】 また本発明は、ウインチドラムからのロープ引出量に相当する値を検出するロープ検出手段を備え、上記ロープ引出量に相当する値が予め設定された駆動停止値に合致した時点でウインチの駆動を停止させるクレーンのウインチ駆動制御装置において、上記ロープ引出量に相当する値が上記駆動停止値に近付く方向にウインチが駆動されている場合にその駆動速度に相当する値が高いほど上記駆動停止値との差が大きい駆動減速開始値を演算する第1演算手段と、ロープ引出量が上記駆動減速開始値に合致した時点からウインチを減速させるための目標駆動速度を演算する第2演算手段と、この第2演算手段で演算された目標駆動速度に基づいて上記ウインチの駆動を制御する減速制御手段とを備えるとともに、上記駆動停止値をロープ全長よりも小さいロープ引出量に相当する値に設定し、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合にその巻下げ速度に応じた駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成したものである(請求項5)。 【0014】 上記装置では、外部から入力される指令駆動速度に基づいて上記駆動減速開始値を演算するように上記第1演算手段を構成してもよい(請求項6)。」 と訂正する。 8.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0015】の「(請求項8)」という記載を、「(請求項7)]と訂正する。 9.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0016】の「請求項1,3記載の方法及び装置」という記載を、「請求項1〜7記載の方法及び装置」と訂正する。 10.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0017】〜【0019】の記載を、 「【0017】 さらに、請求項2,3記載の方法及び装置では、ウインチ駆動減速中、上記第2演算手段により演算された目標駆動速度と外部から入力される指令駆動速度とが比較され、前者が後者を上回る場合には、指令駆動速度が目標駆動速度として設定され、これに基づいてウインチ駆動が制御される。 【0018】 より具体的に、請求項4記載の装置では、ウインチが巻上げ方向に駆動されている場合に、その巻上げ速度に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値に到達した時点、すなわち荷吊り部がブームヘッドよりも下方の所定位置に到達した時点でウインチの駆動が停止される。 【0019】 一方、請求項1,5記載の方法及び装置では、ウインチが巻下げ方向に駆動されている場合に、その巻下げ速度に相当する値に基づいて駆動減速開始値が演算され、この駆動減速開始値にロープ引出量に相当する値が到達した時点から減速が開始される。そして、十分に減速された状態で、同ロープ引出量が駆動停止値(>0)に到達した時点、すなわちウインチドラムによるロープ巻取り量が0となる時点よりも前の時点でウインチの駆動が停止される。」 と訂正する。 11.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0020】の「請求項8記載の装置では」という記載を、「請求項7記載の装置では」と訂正する。 12.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0055】の「さらに、請求項2,7」という記載を、「さらに、請求項2,3」と訂正する。 13.明細書中の明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の段落番号【0056】の「請求項8記載の装置では」という記載を、「請求項7記載の装置では」と訂正する。 |
異議決定日 | 1999-09-09 |
出願番号 | 特願平7-100885 |
審決分類 |
P
1
652・
161-
YA
(B66C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 豊島 ひろみ |
特許庁審判長 |
蓑輪 安夫 |
特許庁審判官 |
清田 栄章 山口 直 |
登録日 | 1998-06-19 |
登録番号 | 特許第2793147号(P2793147) |
権利者 | 株式会社神戸製鋼所 |
発明の名称 | クレーンのウインチの駆動制御方法及び装置 |
代理人 | 村松 俊郎 |
代理人 | 村松 敏郎 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |