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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1007572
異議申立番号 異議1999-70426  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1988-06-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-08 
確定日 1999-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2784401号「慢性骨髄性白血病の治療方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2784401号の特許を維持する。 
理由 (1)経緯・本件特許発明
本件特許第2784401号は、昭和62年11月18日(パリ条約による優先権主張 1986年11月18日)に特許出願され、平成10年5月29日にその特許の設定登録がなされたところ、特許異議の申立てがなされたものであって、本件発明は、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものである。
「1 活性成分としてガンマインターフェロンを含有することを特徴とする、アルファインターフェロンを使用する慢性白血病の治療において病気が再発するかまたは治療抵抗性になった慢性骨髄性白血病の治療のための医薬組成物。」
(2)申立ての理由の概要
▲1▼、特許異議申立人椙田慈は、甲第1号証(Journal of Experimental Medicine,(1983)、第158巻、第6号、第2058〜2080頁)、甲第2号証(Infection and Immunity,(1983),第41巻、第822〜825頁)、甲第3号証(「癌と化学療法」(1984)、第11巻第1号、第53〜59頁)、甲第4号証(The American Journal of Medicine,(1986.6),第80巻第6号、第1137〜1148頁)、甲第5号証(「Pharma Medica」,(1986.8),第4巻第8号、第47〜51頁),甲第6号証(「The Biology of the Interferon System 1983」、(1983)、Elsevier Science Publisher,第527〜533頁)、甲第7号証(特開昭55-98118号公報)、甲第8号証(「日本臨床」,(1984),第42巻第10〜14頁)を提示し、本件発明は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張する。
(3)対比・判断
甲第1号証には、慢性骨髄性白血病患者から得た精製末梢血骨髄細胞を、組換えガンマインターフェロン、ガンマインターフェロンを誘導する植物凝集素(PHA-CM)の存在下で培養し、単球経路の分化等について研究した内容が記載され、表II及び図1には5日間の培養後単球抗原、HLA-DR、FcR及びα-NAEの発現が増加したことが示され、「我々は、ガンマインターフェロン(IFNγ)が正常な骨髄及び慢性骨髄性白血病患者の末梢血の未成熟骨髄細胞から単球様細胞への分化を誘導させることができることを示した。」(第2077頁第2〜4行)と記載されている。
そこで、本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証では、本件発明の有効活性成分であるin vitroにおけるγ-インターフェロンを使用し、慢性骨髄性白血病患者の末梢血骨髄細胞に対する影響を検討している点から、両者は、慢性骨髄性白血病に関連してγ-インターフェロンを使用するものである点で一致する。
しかしながら、甲第1号証で示されているγ-インターフェロンの作用は、末梢血の未成熟な骨髄細胞の単球様細胞への分化を誘導する作用等であって、これは本件明細書中に示されている慢性骨髄性白血病患者における増大した白血球数の減少効果等を示すものであるとはいえないし、また甲第1号証の他の記載をみても、γ-インターフェロンが慢性骨髄性白血病の治療作用を有するといえる記載は見出せない。しかも、本件発明では、該γ-インターフェロンを投与する慢性骨髄性白血病の患者は、「アルファインターフェロンを使用する慢性白血病の治療において病気が再発するかまたは治療抵抗性になった慢性骨髄性白血病」の患者であるのに対して、甲第1号証には、α-インターフェロンを投与して治療した慢性白血病患者に関しては何ら記載されていない。
以下、上記相違点について検討する。
甲第2号証には、「フィトフェムアグリチニンによって誘導されたガンマインターフェロンは、アルファインターフェロン及びベータインターフェロンに抵抗性のマウス白血病L1210R細胞株に対して作用することを報告する。」(第832頁の「要旨」の欄)として、表1にはウィルスとしてVSVを使用した場合のインターフェロンの抗ウイルス作用の試験結果が示され、マウス白血病細胞株L1210Sではインターフェロンα、β、γが共に抗ウィルス性を示し、L1210Rではインターフェロンγのみが抗ウィルス性を示すことが記載され、また、表2には上記L1210S及びL1210R細胞をインターフェロンで処理したときのCon Aの結合性についての試験結果が記載され、L1210R細胞についてはγ-インターフェロンで処理したもののみがCon Aとの結合が増加したことが示され、「最近の数カ所の研究所からの結果は、γ-インターフェロンがα-インターフェロン及びβ-インターフェロンとは異なるレセプターに作用していることを示している。それゆえに、L1210R細胞に対するガンマインターフェロンの作用に対する説明は、その表面上に特異的な受容体が存在することである。ここに報告された結果はガンマインターフェロンの臨床試験の適用に重要であろう。ガンマインターフェロンは、ヒトアルファインターフェロンあるいはヒトベータインターフェロンが望ましい結果を示さなかった場合の代替手段になりうるであろう。」(第824頁右欄末行〜第825頁左欄第10行)と記載されている。
してみると、甲第2号証には、マウス白血病細胞株を使用してγ-インターフェロンとα-インターフェロンとが異なるレセプーに作用することが示されているものの、該マウス白血病細胞は、VSV(ウィルス)を使用した抗ウィルス作用及びコンカナバリンAの結合性等の試験に使用されているにすぎず、マウス白血病の治療自体に関しては何ら記載されていないから、上記「ガンマインターフェロンは、ヒトアルファインターフェロンあるいはヒトベータインターフェロンが望ましい結果を示さなかった場合の代替手段になりうる」の記載は慢性白血病の治療にγ-インターフェロンを適用することを示唆するものではない。
結局、甲第2号証の記載は、「アルファインターフェロンを使用する慢性白血病の治療において病気が再発するかまたは治療抵抗性になった慢性骨髄性白血病」の治療にγ-インターフェロンを使用することを示唆するものではない。
甲第3号証には、「まず、化学療法との併用があるが、体内にIFNと同時に化学療法剤が存在する場合を除いては、相加的ないし相乗的な効果が得られる。放射線との併用は、放射線を先に照射して後、IFNを投与する方法が有効のように思われる。免疫療法との併用もマウスの実験で有効性が確かめられている。IFN-αあるいはβとγの併用もin vitroおよび動物実験において、有効性が確かめられている。併用に関する基礎的なデータは集積されてきているが、臨床については未だほとんど報告がない。今後併用療法の問題が重要になってくるだろう。」(第53頁「要旨」)として、IFNの併用療法について記載があり、「IFN-γと他のタイプのIFNの併用は、抗ウィルス作用だけでなく、抗腫瘍作用にも相乗効果がみられることが知られている。・・・DBA/2マウスとリンパ球性白血病細胞P388の系において、IFN-α/β 25000単位/日の投与でP388腫瘍の成長をかなり抑制するが、単独投与ではP388腫瘍の成長に影響を与えないIFN-γ 25単位/日との併用により、P388腫瘍の成長を相乗的に抑制することを示した。・・・・IFN-γと他のIFNとの併用効果による抗腫瘍活性の作用機序は不明であるが、IFN-γは、IFN-α/βとは膜受容体も異なっており、抗細胞作用の機序も、他のタイプのIFNとは異なっていると考えられる。」(第58頁左欄1〜28行)と記載されている。
このように、甲第3号証には、抗ウィルス活性、抗腫瘍活性等の増強のためにIFN-γと他の治療法、例えば、IFN-αとの併用についての基礎的な研究について記載されているが、慢性骨髄性白血病の治療については具体的に記載されておらず、これにIFN-γが有効であることは示唆されていないから、甲第3号証の記載は、「アルファインターフェロンを使用する慢性白血病の治療において病気が再発するかまたは治療抵抗性になった慢性骨髄性白血病」の治療にγ-インターフェロンを使用することを示唆するものではない。
甲第4号証には、「慢性骨髄性白血病」の表題の下に「インターフェロン 最近、慢性骨髄性白血病の患者数人に対して、毎日9〜15×105単位筋肉内投与する部分精製したヒト白血球アルファインターフェロンの使用が報告された。臨床的な改善が5人の患者で得られ、フィラデルフィア染色体を持つ分裂中期の細胞の15〜50%の減少が報告された。生存期間が延長されたかどうかは、報告されていなかった。治療のこのモードに追加された評価は明確に示されている。ガンマインターフェロンの静脈投与による我々の研究は今議論するには時期尚早である。」(第1141頁左欄1〜13行)と記載され、慢性骨髄性白血病の治療におけるα-インターフェロンの有効性は示されているが、γ-インターフェロンの有効性は示されていない。
また、甲第5号証には、「慢性骨髄性白血症(CML)における成績は・・・IFN-α9〜15×105U/日の連日筋注投与を7例のCMLに行った結果、5例に血液学的寛解を認め、有効到達日数は3〜18週、有効期間は、3×106U/日の隔日あるいは連日筋注による維持療法を行い6+〜35+週であったとしている。また、・・・ph1(+)CMLの2例にIFNα9×105U/日を筋注投与し、・・・IFNγについては第1相から第2相試験が開始されたばかりで、Vadhan-Rajらは、rIFNγ6時間の点滴静注での耐容量は0.5mg/m2とし、ホジキン病1例とCLL1例にPRを認めたとしているが、今後その造血器腫瘍における臨床評価が明らかにされてゆくものと思われる。」(第48頁右欄下17〜第49頁左欄22行)と記載され、慢性骨髄性白血症の治療にα-IFNが有効であることは記載されているが、γ-IFNが白血病に有効であることは示されていない。
甲第6号証には、「第1相試験及び第2相試験で用いられたガンマインターフェロンの投与が安全であることが合計17人の患者で証明された。」(第532頁の「DISCUSSI0N」の欄)ことが記載され、また、8名の患者(慢性リンパ性白血病患者2名、骨髄腫患者、乳癌患者2名、悪性黒色腫患者、腎細胞癌患者、膵臓癌患者)にガンマインターフェロンを適用した結果、慢性リンパ性白血病患者、乳癌患者、骨髄腫患者以外の患者には応答がなかったとされているから(第532頁4〜16行)、結局、甲第6号証にはガンマインターフェロン投与における安全性が示されているに過ぎず、慢性骨髄性白血病に対する有効性は示されていない。
甲第7号証には、「タイプIIインターフェロンとそれを含有する薬剤の製造方法」について記載され、さらに、「本発明でいうタイプIIインターフェロン感受性疾患とは、本発明で使用するところのタイプIIインターフェロンによって予防され、若しくは治療される疾患であり、それがウィルス性疾患、例えば流行性結膜炎、ヘルペス性角膜炎、インフルエンザ、風疹、血清肝炎などであっても、また、非ウィルス性疾患、例えば白血病、骨肉腫などであってもよい。」(第10頁上左欄)と記載され、「白血病」が例記されてはいるが、慢性骨髄性白血病についての具体的な記載はなく、また、これに有効であるとする治療試験等に関する何らの記載もない。
甲第8号証には、癌化学療法に使用されるアルキル化剤について記載されているに過ぎず、慢性骨髄性白血病についても、ガンマインターフェロンについても何ら記載されていない。
結局、甲第1〜8号証には、「アルファインターフェロンを使用する慢性白血病の治療において病気が再発するかまたは治療抵抗性になった慢性骨髄性白血病」の治療にγ-インターフェロンを使用することを示唆する記載はない。
これに対して、本件発明は、上記慢性骨髄性白血病の治療にγ-インターフェロンを投与することによって、本件明細書の実施例1等に示された増加した白血球数を減少させる等の優れた効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1〜8号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-11-22 
出願番号 特願昭62-294984
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 内藤 伸一
深津 弘
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2784401号(P2784401)
権利者 ジェネンテク,インコーポレイテッド
発明の名称 慢性髄性白血病の治療方法  
代理人 田村 恭生  
代理人 青山 葆  

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