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審決分類 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1008240
審判番号 審判1998-7394  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-06-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-05-14 
確定日 2000-01-26 
事件の表示 平成2年特許願第312673号「積層型燃料電池」拒絶査定に対する審判事件〔(平成8年3月6日出願公告、特公平8-24052)、特許請求の範囲に記載された請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 1.本願の経緯
本願は、平成2年8月29日に出願した特許出願(特願平2-225195号)に基づいて国内優先権を主張して平成2年11月20日に出願した特許出願であって、平成8年3月6日に出願公告され、同年6月6日に斉藤秀俊から特許異議の申立を受けたところ、原審ではその特許異議の申立を理由があるものと決定し、特許異議の決定に記載した理由によって本願を拒絶したものである。
2.本願発明
本願発明は、公告時の本願明細書の特許請求の範囲に記載された次のものである。
[請求項1]多数の単電池に共通のガス供給ヘッダで反応ガスの供給を行う積層型燃料電池において、
上記反応ガスの内の酸化剤ガスの流量に関連して最上部あるいは上方部分の単電池を含む複数電池の電圧を測定する電圧測定装置を備え、
該電圧測定装置の測定電圧があらかじめ設定した値よりも低下した場合に上記燃料電池の運転を停止することを特徴とする積層型燃料電池。
[請求項2]多数の単電池に共通のガス供給ヘッダで反応ガスの供給を行う積層型燃料電池において、
上記反応ガスの内の酸化剤ガスの流量に関連して最上部あるいは上方部分の単電池のいずれかの電圧を測定する電圧測定装置を備え、
該電圧測定装置の測定電圧があらかじめ設定した値よりも低下した場合に上記燃料電池の運転を停止することを特徴とする積層型燃料電池。
3.優先権主張についての検討
本願において優先権主張の基礎としている特願平2-225195号の出願当初の明細書または図面には、(A-1)最下部あるいは下方1/3部分の単電池を含む複数電池の電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項(特許請求の範囲の請求項1等を参照。)、および、(A-2)最下部あるいは下方1/3部分の単電池のいずれかの電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項(特許請求の範囲の請求項2等を参照。)が記載されているものの、それには、本願請求項1に係る発明の(B-1)最上部あるいは上方部分の単電池を含む複数電池の電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項および本願請求項2に係る発明の(B-2)最上部あるいは上方部分の単電池のいずれかの電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項について記載するとろはない。
そして、上記(A-1)、(A-2)という事項と上記(B-1)、(B-2)という事項は、電圧を測定する単電池または複数電池が下方のものであるか、上方のものであるかという点で、内容が相反するものであるから、本願請求項1および2に係る発明は、特願平2-225195号の出願当初の明細書または図面に記載されたものとは認められない。
したがって、本願請求項1および2に係る発明は、いずれも上記出願に基づく国内優先権主張は認められず、優先権主張による利益を受けることができない。
4.原査定の理由
原査定の理由となった特許異議の決定に記載した理由の概要は以下のとおりである。
「本願請求項1および2に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」
5.原査定の理由についての検討
甲第1号証(特開昭60-54176号公報、以下引用例1という。)には、「多数の単電池を積層しかつ直列に接続してなり、反応ガスの供給を受けて発電作用を営む燃料電池の安全保護装置であって、特定の単電池ないしは該単電池を含む積層電池の単位ブロックの発電運転時における分担電圧を常時監視する電圧監視装置と、該分担電圧が前記単電池ないしは単位ブロックに対してあらかじめ定められた限界値を下回わったときその旨の信号を前記電圧監視装置より受けて少なくとも燃料電池への反応ガスの供給を自動停止する発電停止手段とを備えてなる積層燃料電池の安全保護装置。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されているものの、特許請求の範囲第2項には、「特許請求の範囲第1項記載の装置において、特定の単電池が積層された単電池の内の最低の分担電圧を示す単電池であることを特徴とする積層燃料電池の安全保護装置。」と記載されていること、また、その第2頁右下欄1〜7行に、「上述の本発明の基本構成は、燃料電池の初発電時、初期のならし発電直後、あるいは運転中の定期点検時に多数の積層単電池の内に最低の分担電圧を示した単位電池がその後の運転においても常に最も早く劣化するという数百回の燃料電池の試作品や実用品の運転結果から得られた知見に基づくものである。」と記載されていることから分かるように、積層された単電池の内、燃料電池の初発電時、初期のならし発電直後、あるいは運転中の定期点検時に、最低の分担電圧を示す単電池の分担電圧を監視するものであって、それには、本願請求項1に係る発明の(B-1)最上部あるいは上方部分の単電池を含む複数電池の電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項、および、本願請求項2に係る発明の(B-2)最上部あるいは上方部分の単電池のいずれかの電圧を測定する電圧測定装置を備えるという事項について記載するところはないし、また、本願明細書の[作用]の項でいうところの「酸化剤ガスの不足により電池の最上部あるいは上方部分のいずれかの単電池あるいは同部分の複数電池の電圧が他の部分に比べ素早く低下を示す。」(本件公告公報第4欄11〜15行を参照)という認識についても記載するところはないし、さらに、引用例1には、それに記載された発明における積層燃料電池が単電池を上下に積層するタイプのものであるという記述もない。
甲第2号証(特開平1-296570号公報、以下引用例2という。)には、「マトリックスに電解質を含浸した電解質層を挟んで一対の多孔質電極を配置してなり、前記一方の電極に燃料ガスが流通し、また他方の電極に酸化剤ガスが流通している条件下で、電気エネルギーを出力する単位セルを、セパレータを介して複数個積層して構成した単位セル積層体に、燃料ガス供給用マニホールド及び排出用マニホールド、また、酸化剤ガス供給用マニホールド及び排出用マニホールドが配設された燃料電池において、すくなくとも酸化剤ガス供給用マニホールド内に仕切板を配設し、この仕切り板により区画された空間をそれぞれ酸化剤ガス配管に接続するようにしたことを特徴とする燃料電池。」が記載されており、また、その第2頁左下欄末行から第3頁左上欄18行には、「ところで、この様に酸化剤ガス供給用マニホールド14と酸化剤ガス排出用マニホールド15間の密度が違うと、各単位電極への酸化剤ガスの供給が不均一となるという問題が生じていた。この点を以下に説明する。第8図は従来の酸化剤ガスマニホールド部を模式的に示した図であり、酸化剤ガス供給用マニホールド14及び排出用マニホールド部15の横層電池17の高さ方向の出力分布を、カソード電極の入口部及び出力部の圧力を測定した結果を、第9図に示す。第9図よりカソード電極の入口部の圧力及び出口部とも、酸化剤ガスの静水圧力、即ち、(ガス密度ρ)×(重力加速度g)×(高さh)の影響の為に、圧力分布は直線的であり、電池下部程圧力が高くなる。しかし、酸化剤ガス供給用マニホールド14と排出用マニホールド15における酸化剤ガスの密度の違いから、ガス密度の小さい排出用マニホールド15の方が、電池の上部と下部における圧力の差が小さくなっており、カソード電極の入口部と出口部間の圧力差Δpは、電池上池(部)における圧力差Δp1の方が、電池下部における圧力差Δp2より小さくなる。また、電池セル溝内の酸化剤ガスの流れは、流速が低い為に層流となり、酸化剤ガス流量と、カソード電極入口部、出口部分の圧力差はほぼ比例する。(但し、酸化剤ガスは流れていく途中で酸素が利用される為、物性値が刻々と変化していくので、完全な比例関係ではない。)その結果、電池高さ方向の酸化剤ガス流量分布は、第10図に示した様に、電池下方に多くの燃料ガスが流れ、上方には平均流量以下の酸化剤ガスしか流れないという不均一が生じる。そのため、酸素利用率の高い運転では、酸化剤ガス流量の少ない電池上部において酸素が不足する。すなわち、カソード電極入口付近の酸素分圧に比べ、出口付近の酸素分圧が減少する。その結果、カソード電極入口付近に電気化学反応が集中し電流密度が増加するため、セル電圧の低下およびジュール熱増加による過熱、さらに電池の焼損が発生する。」と記載されており、単位電池を上下に積層するタイプの燃料電池においては、酸素利用率の高い運転の際、酸化剤ガス流量の少ない電池上部において酸素が不足し、カソード電極入口付近の酸素分圧に比べ、出口付近の酸素分圧が減少し、その結果、カソード電極入口付近に電気化学反応が集中し電流密度が増加し、セル電圧の低下やジュール熱増加による過熱や電池の焼損が発生するという知見が示されているものの、引用例2に記載された発明では、そのような問題を回避するために、少なくとも酸化剤ガス供給用マニホールド内に仕切板を配設するものであり、その仕切板によってそのような現象自体の発生を防止しようとするものであるから、引用例2の記載から、上部の複数の電池あるいは単位電池のセル電圧を測定し、セル電圧の低下を監視することによって、燃料電池の過熱や焼損を防止するような何かの対策を講じることが示唆されているわけではない。
そうすると、引用例2に上記知見が示されているとしても、引用例1に記載された発明における単電池の内の最低の分担電圧を示す特定の単電池あるいは該単電池を含む積層電池の単位ブロックの分担電圧を監視するのに代えて、上部の単位電池あるいは複数電池のセル電圧を測定し、セル電圧の低下を監視して、それがあらかじめ設定した値よりも低下した場合に燃料電池の運転を停止するということは、当業者といえども引用例1および引用例2の記載から単純に想到し得るものではない。
そして、本願請求項1および2に係る発明が、上記(B-1)および(B-2)の事項を構成要件とすることによって、装置を簡単にでき、しかも、酸化剤不足による異常反応を事前に検知して運転を停止し、燃料電池の損耗を防止することができるという効果を奏することは、本願明細書全般の記載から明らかである。
してみると、本願請求項1および2に係る発明は、引用例1および引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
6.結び
以上のとおりであるから、原査定の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-12-27 
出願番号 特願平2-312673
審決分類 P 1 8・ 03- WY (H01M)
P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 酒井 美知子  
特許庁審判長 荻島 俊治
特許庁審判官 影山 秀一
能美 知康
発明の名称 積層型燃料電池  
代理人 小林 慶男  
代理人 池谷 豊  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道照  
代理人 古川 秀利  

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