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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1008251 |
審判番号 | 審判1998-11553 |
総通号数 | 8 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-03-18 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-07-29 |
確定日 | 2000-01-12 |
事件の表示 | 平成5年特許願第184220号「導電性基材」拒絶査定に対する審判事件〔(平成7年5月15日出願公告、特公平7-43967)、特許請求の範囲に記載された発明の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 |
理由 |
(手続の経緯・発明の要旨) 本願は、昭和61年8月12日に出願された特願昭61-189363を原出願とする分割出願であり、その発明の要旨は、出願公告後に平成10年8月19日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】基板と、該基板の少なくとも一方の面に形成された透明導電性膜からなり、該透明導電性膜は、 (a)焼成された酸化スズ微粉末または異種元素をドープした焼成された酸化スズ微粉末を酸水溶液またはアルカリ水溶液中で加熱処理した後脱酸または脱アルカリして分散媒中に分散させて得られ、該分散媒中で前記微粒子が0.1μm以下の平均粒子径を有すると共に、該微粒子全体の60%以上が0.1μm以下の粒径を有する酸化スズコロイドと、 (b)バインダー樹脂とが溶媒に溶解または分散されてなる導電性塗料を塗布して形成されてなることを特徴とする導電性基材。」 (原査定の理由) 原査定の理由である特許異議申立人深沢三夫の特許異議申立てに対する特許異議の決定の概要は、本願発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 (引用例) 原査定で引用された甲第1号証(特公昭35-6616号公報、以下「引用例1」という。)には、 「本文に記載したようにコロイド状酸化第二錫の水又は有機溶剤分散液に必要に応じ界面活性剤、被膜形成能あるポリマー溶液を添加混和した液を帯電防止を必要とする物体に塗布し乾燥することにより導電性のある透明且強靱な被膜を形成することを特徴とする帯電防止処理法。」(特許請求の範囲) が記載され、また、 「本発明は合成繊維、合成樹脂製品或は繊維素誘導体フィルム等帯電を起しやすい物質の表面に透明で導電性を有する薄膜を作る帯電防止処理法に関するものである。」(第1頁左欄6〜8行) 「塗布液の製造の一例は塩化第二錫(SnCl4)を約100倍容量の蒸留水に溶解し、水酸化第二錫の沈殿を作る。この水酸化第二錫にアンモニア水を加え微アルカリ性となし溶解する。ついでアンモニア臭のなくなるまで加温するとコロイド状酸化第二錫の分散液を得る。この分散液の安定性を増すために必要に応じ液中に適当量の界面活性剤を加え帯電防止しようとする物体に塗布或は吹付け乾燥すれば充分な帯電防止能のある透明な導電性薄膜が形成される。」(第1頁右欄6〜13行) とそれぞれ記載されている。 同じく引用された甲第2号証(‘17th Nation-al SAMPE Technical Conference’October 22-24,1985、以下「引用例2」という。)には、「透明性を有する導電性粉体」と題し、 「著者等は、新規な導電性粉体を開発し、これを不導体のベースマテリアルに適用することにより、透明性と優れた帯電防止性を有する塗膜を作成した。この粉体は導電性SbドープSnO2より構成され、超微粒子サイズの粒径を持つ。可視光線の散乱は粒径が小さくなるにつれて減少し、粒径が0.2μm以下でかなりの透明性を示した。」(第410頁左欄16〜30行) 「光が粒子に照射された時の粒子による光の散乱の程度は、粒径と、粒子の屈折率と、光の波長とで決定され、その散乱の値は図1に示すようにレイリー散乱とミー散乱で与えられる。 粒子の屈折率が約2のとき、これはSnO2結晶の場合であるが、可視光の散乱は粒子の粒径が0.3-0.4μmのとき大きい。しかし、粒子の粒径が小さくなるにつれて、散乱は減少する。粒径が十分に小さくなると、粒子は“透明性”を示す。 他方、Sb/SnO2と表記される、SbをドープしたSnO2が高伝導度を備えていることが知られている。Sb/SnO2の超微粒子を用いることにより、透明導電性コーティングを作成することが可能である。」(第411頁左欄25行〜右欄6行) 「Sb/SnO2の粉末は湿式化学反応で得られ、その方法は図2のフローシートで示される。 SnCl4とSbCl3はメチル又はエチルアルコール中で溶解され、90-100℃に加熱された水が加えられ、アルコールはこの温度で蒸発し、SnCl4とSbCl3は同時に水和する。沈殿物が濾過され、洗浄され残留塩が除去された後乾燥され、400-600℃に加熱される。・・・沈殿物が400℃以上の温度で加熱された後スズ石構造の結晶相が形成され、伝導性が現れる。」(第411頁右欄10行〜第412頁右欄8行) とそれぞれ記載され、また 「通常粉末は凝集した状態にあり、高透明度を得るためには、バインダーで分散するときに粉末は個々の粒子に分離させなければならない。」(第412頁右欄24〜28行) 「Sb/SnO2の典型的な細かい粒子と、粗い粒子との粒径分布(累積曲線)を図5に示す。この方法で計測した中央値(メジアン)が粒子の透明度の指針となることは後に説明される。」(第413頁左欄6〜12行) 「この方法による透明度は粒子の細かさによって定まるといえる。これを検証するため異なる粒径のSb/SnO2粒子を試作し、その粒子をポリエステル樹脂バインダーに入れ塗料とした。 図12は塗布後のフィルムの透明度と2-2で説明した方法で計測した粒子の中間値(メジアン)粒径の関係を示す。予想したように、透明度は粒径が小さいほど良好となる。そして、図からへーズを20%以下にするためには粒径が0.2μm以下のものを使用しなければならないことがわかる。 我々のSb/SnO2製造法では、中央値(メジアン)粒径約0.15μmの粒子が良好な再現性を有して得られた。」(第416頁右欄18行〜第417頁左欄12行) 「表面抵抗値106Ω/□の塗膜の透過スペクトルを図13に示す。比較として基材のポリエステルフィルム(75μm)を示す。 塗膜は可視光領域の0.4〜0.8μmの範囲で高い透明性を示すた。」(第417頁左欄16〜23行) とそれぞれ記載されている。 同じく引用された甲第3号証(特開昭57-85866号公報、以下「引用例3」という。)には、 「アンチモン:0.1〜20重量%を含有し、残りが実質的に酸化錫からなる組成を有し、かつ0.2μm以下の粒径をもった導電性微粉末を、塗膜主要素たる樹脂との割合で5〜50重量%含有したことを特徴とする帯電防止用塗料。」(特許請求の範囲) が記載され、また、 「この発明は、塗布被膜が透明であり、しかも帯電防止能を有する塗料に関するものである。 近年、半導体ウェハー保存用容器や、その他の電子・電機部材、じゅうたん、床材、壁材等の建築用部材などで帯電防止を必要とする場合が急増する傾向を見せ始めてきた。」(第1頁左下欄下から6行〜最下行) 「(b)微粉末の粒径 微粉末の粒径が0.2μmを越えると、・・・樹脂のもつ透明性が損われるようになるという理由から、樹脂の透明性を損わないようにするためには0.2μm以下の粒径とする必要があるのである。」(第2頁左下欄下から5行〜右下欄1行) 「実施例1 水:300ccを、温度:90℃に加熱保持し、これに激しく攪拌を加えながら、メタノール:300ccにSnCl4:173gとSbCl3:20.9gとを溶解したものからなる溶液を、4時間かけてゆっくりと注入してSb含有SnO2粉末を析出生成せしめ、ついで前記Sb含有SnO2粉末を瀘別し、洗浄し、引き続いて結晶性を向上させる目的で、空気中、温度:500℃に2時間保持の加熱処理を施すことによって、Sb含有SnO2微粉末を製造した。 この結果得られた微粉末は、Sb:10重量%を含有し、残りが実質的にSnO2からなる組成を有するととともに、粒径が0.04μm以下のものであり、かつ比抵抗:1Ω・cmを有する導電性の良好なものであった。この導電性微粉末の1.5gを、ポリカーボネート樹脂を12.5重量%含有する塩化メチレン溶液40cc中に入れ、10時間混合した。このようにして得られた塗料を、アクリル板上に10μmの厚さで塗布し、・・・アクリル板のもつ透明性は保持されていた。」(第3頁左上欄4行〜右上欄5行) 「実施例2 Sb:11.5重量%を含有し、残りが実質的にSnO2からなる組成を有するとともに、粒径が0.02μm以下のものであり、かつ比抵抗:1.5Ω・cmを有する導電性微粉末の1.0gを、アクリル樹脂エマルジョンを50重量%含有する水溶液40cc中に入れ、10時間混合した。このようにして得られた塗料を、塩化ビニル板上に10μmの厚さで塗布し、・・・塩化ビニル板の色調を損うことのない良好な透明性を保持していた。」(第3頁右上欄8〜19行)とそれぞれ記載されている。 (対比・判断) 本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された発明の「物体」、「導電性のある透明且強靭な被膜」、「コロイド状酸化第二錫」及び「被膜形成能あるポリマー溶液」は、それぞれ本願発明の「基板」、「透明導電性膜」、「酸化スズコロイド」及び「バインダー樹脂」に相当し、また、引用例1に記載された発明の「コロイド状酸化第二錫の・・・有機溶剤分散液に・・・被膜形成能あるポリマー溶液を添加混和した液」は酸化スズコロイドとバインダー樹脂とが溶媒に分散されてなる導電性塗料であるから、両者は、「基板と、該基板の少なくとも一方の面に形成された透明導電性膜からなり、該導電性膜は、酸化スズコロイドとバインダー樹脂とが溶媒に分散されてなる導電性塗料を塗布して形成されてなることを特徴とする導電性基材。」である点で軌を一にする発明である。 しかし、本願発明が、酸化スズコロイドは「焼成された酸化スズ微粉末または異種元素をドープした焼成された酸化スズ微粉末を酸水溶液またはアルカリ水溶液中で加熱処理した後脱酸または脱アルカリして分散媒中に分散させて得られ、該分散媒中で前記微粒子が0.1μm以下の平均粒子径を有すると共に、該微粒子全体の60%以上が0.1μm以下の粒径を有する」ものであることを構成要件としているのに対して、引用例1に記載された発明において、コロイド状酸化第二錫(酸化スズコロイド)は、塩化第二錫から水酸化第二錫の沈殿を作り、この水酸化第二錫にアンモニア水を加え微アルカリ性となし溶解することにより得られたもので、焼成された酸化スズ微粉末または異種元素をドープした焼成された酸化スズ微粉末から得られたものではなく、また、微粒子の粒径も示されていない点で相違する。 上記相違点について検討する。 引用例2には、酸化スズコロイドについて、沈殿物を400℃以上の温度で加熱(焼成)することが示されており、粒径が十分小さくなれば粒子は透明性を示すこと、その粒径は0.2μm以下のものが透明性に優れることが記載されているものの、「通常粉末は凝集した状態にあり、高透明度を得るためには、バインダーで分散するときに粉末は個々の粒子に分離させなければならない」というものであり、焼成した粉末を予め「酸水溶液またはアルカリ水溶液中で加熱処理した後脱酸または脱アルカリして分散媒中に分散させ」ることについては記載がなく、「該分散媒中で前記微粒子が0.1μm以下の平均粒子径を有すると共に、該微粒子全体の60%以上が0.1μm以下の粒径を有する」ことが示唆されているとはいえない。 また、引用例3にも、500℃に2時間保持の加熱処理(焼成)を施すことによって、Sb含有SnO2微粉末を製造すること、透明性を損なわないためには0.2μm以下の粒径とする必要があること、実施例として粒径が0.04μm以下、0.02μm以下のSb含有SnO2微粉末を使用することが示されているが、0.04μm以下、0.02μm以下という凝集しやすい焼成した微粉末を、そのままバインダー樹脂(ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂)と共に溶媒(塩化メチレン、水)に溶解または分散させており、焼成した粉末を予め「酸水溶液またはアルカリ水溶液中で加熱処理した後脱酸または脱アルカリして分散媒中に分散させ」ることについては記載がなく、「該分散媒中で前記微粒子が0.1μm以下の平均粒子径を有すると共に、該微粒子全体の60%以上が0.1μm以下の粒径を有する」ことが示唆されているとはいえない。 そして、本願発明は、上記構成要件を具備することにより明細書に記載の格別な作用効果を奏するものである。 (むすび) 以上のとおり、本願発明は、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 1999-12-08 |
出願番号 | 特願平5-184220 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 長 由紀子、辻 徹二、藤井 彰、鐘尾 みや子 |
特許庁審判長 |
松本 悟 |
特許庁審判官 |
柿沢 恵子 山岸 勝喜 |
発明の名称 | 導電性基材 |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |