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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1008252
審判番号 審判1998-12186  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-03-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-08-13 
確定日 2000-01-05 
事件の表示 昭和61年特許願第199009号「耐熱性透明導電フイルム」拒絶査定に対する審判事件〔(平成7年9月27日出願公告、特公平7-89452)、特許請求の範囲に記載された発明の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 (手続の経緯・発明)
本願は、昭和61年8月27日に出願されたものであって、その発明の要旨は、出願公告後に平成10年9月11日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「光線透過率が70%以上であり、かつ密度が1.390g/cm3以上であり、実質的にボイドを含まないパラ配向性芳香族ポリアミドフィルムの表面に、50〜3000Åの厚さの半導体導電層又は金属薄膜を蒸着した耐熱性透明導電フィルム。」
(原査定の理由)
原査定の拒絶の理由である東レ株式会社の特許異議の申立てに対する特許異議の決定の理由の概要は、本願発明は、甲第1号証である米国特許第3,966,686号明細書(以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用例)
引用例には、「芳香族ポリアミド系フィルム」に関し、
「実質的にp-ベンズアミド、p-フェニレンテレフタルアミド及びテレフタロイルヒドラジドからなる群の少なくとも一つを含み・・・・その含有量が70モル%以上である芳香族ポリアミドフィルムであって、そのフイルムは密度が25℃で1.41g/cm3以上であり・・・かつ、実質的に有機溶媒、イオン性無機物質を含まず、長手方向、巾方向とも収縮を制限した状態で熱処理されることにより得られることを特徴とする芳香族ポリアミドフィルム。」(クレーム1)
が記載され、また
「この発明は、機械的強度、熱安定性、湿的寸法安定性等に優れた芳香族ポリアミドフィルム及びその製法を提供するものである。」(第1欄19〜23行)
「フィルムが支持体の金属面上で乾燥されすぎると、自由表面にしばしば“hazy”面が形成され、これは溶液の相分離に類似しており、光学顕微鏡によって微細な構造として観察することができる。」(第4欄59〜64行)
「上記熱処理の好適な温度及び時間の範囲として、
1/T=1.3×10-3〜1/T=1.75×10-3
・・・・・
(ここで、T:絶対温度,・・・である。)
と記載されている(これは298〜496℃に相当する。)。
熱処理温度が上記範囲を外れると、熱分解や結晶化不足が生じる。」(第5欄51行〜第6欄2行)
「これらのフィルムはフレキシブルプリント基板、音響振動板、電気絶縁材料、磁気テープ又はシート基板、コンデンサ、グラフィック材、写真又は画像プロセス材料などに使用される。」(第7欄10〜15行)
とそれぞれ記載され、
また、実施例として、
「実験例5
10.80gのp-フェニレンジアミンと20.0gの無水塩化カルシウムを500mlのジメチルアセトアミドに溶解し、23.7gの2-クロロ-テレフタロイルクロライドを加え-10℃で攪拌した。この反応物はジューサー中の水に注がれ、水とアセトンによって洗浄され、真空中で70℃、24時間乾燥された。この30gのポリマーと18gの無水塩化カルシウムの混合物は、室温で500mlのジメチルアセトアミド中で溶解される。この溶液はガラス板上に均一に拡げられ、気流中で2m/秒の加熱速度で90℃、15分間加熱される。このフィルムはガラス板からはがされ、30%ジメチルアセトアミド水溶液中に室温で5分間浸漬され、その後1/10N塩酸溶液中に室温で3分間、70℃の水中に5分間、それぞれ浸漬される。次に、このフィルムは300℃で3分間、420℃の空気中で5秒間強制加熱される。最終フィルム厚は15μである。・・・」(第9欄40〜58行)
と記載され、得られたパラ配向性芳香族ポリアミドフィルムの特性は、密度が1.479g/cm3、引張強度が36kg/mm2・・・であると示されている。
(対比・判断)
本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された芳香族ポリアミド系フィルムは、密度が1.390g/cm3以上であり、機械的強度が高く、熱的安定性(耐熱性)に優れており、また、その用途として示されているプリント基板、磁気テープ、コンデンサ等とするためには、表面に半導体導電層又は金属薄膜を蒸着することは自明であるから、両者は、「密度が1.390g/cm3以上のパラ配向性芳香族ポリアミドフィルムの表面に、半導体導電層又は金属薄膜を蒸着した耐熱性フィルム」である点で一致し、本願発明が、芳香族ポリアミドフィルムが、「光線透過率が70%以上」であり、「実質的にボイドを含まない」ものであることを構成要件としているのに対して、引用例には、この構成要件が示されていない点で、少なくとも相違する。
上記相違点について検討する。
本願明細書においては、そのフィルムの製造に関し、「乾燥は、乾燥によってフィルムが収縮するのを防ぎながら行うことが必要である。何故なら、収縮を何ら制限せずに乾燥させると、光線透過率が小さくシワの多い実用性の乏しいフィルムになってしまうからである。収縮の制限は、フィルムを枠にはさむ、テンターで行うなどで実施できる。乾燥は室温〜300℃の温度で行った後、300〜500℃で熱処理を行うか、又は300℃以上の温度で行うのが好ましい。」(本願公告公報第5欄32〜39行)、「この湿フィルムをテンターにて、300℃で20分間、定長乾燥して得られた透明なボイドなしのフィルム」(同第6欄26〜27行)と記載されているように、本願発明は、乾燥を「フィルムが収縮するのを防ぎながら行うこと」により、「光線透過率が70%以上」で「実質的にボイドを含まない」フィルムを得ることができるものと認められる。
これに対し、引用例には、光線透過率やボイドのあるなしについて記載されていないうえ、「フィルムが支持体の金属面上で乾燥されすぎると、自由表面にしばしば“hazy”面が形成され」と記載され、乾燥されすぎると光線透過率が低下することは示唆されているが、どのような乾燥手段を採用するかについての記載はなく、また、「長手方向、幅方向とも収縮を制限した状態で熱処理される」ことが記載されているものの、この熱処理は、結晶化度(密度)の向上を目的としたものであり、光線透過率を向上させるための乾燥手段を示唆するものではない。
さらに、引用例に記載された発明においては、パラ配向性芳香族ポリアミドフィルムの唯一の実施例である実施例5において、熱劣化により光線透過率の低下しやすい塩素置換ポリマーを用いて420℃という高温で熱処理を行っているから、「光線透過率が70%以上」で「実質的にボイドを含まない」フィルムを得られているとはいえない。
(むすび)
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-12-03 
出願番号 特願昭61-199009
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 広岡 浩平辻 徹二長 由紀子  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 山岸 勝喜
柿沢 恵子
発明の名称 耐熱性透明導電フィルム  
代理人 渡辺 一雄  

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