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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1008768
異議申立番号 異議1998-73897  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-07-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-08-07 
確定日 1999-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第2716689号「セメント硬化遅延剤およびセメント硬化遅延シート」の請求項1、13、24に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2716689号の請求項1、13、24に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成8年(1996)2月7日(国内優先権主張、平成7年2月7日、同10月30日)に出願され(特願平8-46802号)、平成9年11月7日に特許権の設定の登録がされ(特許第2716689号)、平成10年2月18日に特許掲載公報が発行されたものである。
(1) そして、平成10年8月7日付けで、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の全請求項数30のうち、請求項1、同13及び同24の各請求項に記載された構成の各発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消すべきである旨の特許異議の申立てがされた。
(2) しかるに、特許異議の申立人が提示した証拠の甲第1号証は、平成9年(1997)4月16日に発行された特許第2601368号の特許掲載公報であり(この特許の出願は、平成1年6月11日、同年11月24日及び平成2年2月16日にした国内出願に基づく優先権を主張して、平成2年5月31日に出願された特願平2-142818号であり、平成3年12月4日に出願公開されている。)、また、甲第2号証は、平成8年5月14日に公開された出願の公開公報である特開平8-118325号公報であって(この特許の出願は、平成6年10月28日に出願された特願平6-265470号である)、いずれも本件特許の出願の優先権主張日である平成7年2月7日及び平成7年10月30日より後に頒布されたものであるから、上記甲各号証によっては、特許異議の申立人の上記申立ての理由(特許法第29条第2項違反)によっては、本件特許を取り消すことはできない。
(3) しかしながら、上記甲第1号証には、特許第2601368号の出願は、平成2年(1990)5月31日に出願され、平成3年12月4日に出願公開され、その公開公報である特開平3-272803号公報(以下では、単に引例という。)が発行されたことが記載されている。
そこで、念のために、上記引例の記載について検討しておくことにする(特許法第120条。なお、120条の4第1項参照。)。
〔二〕 本件特許発明
(1) 特許異議の申立てがされた、上記各請求項の記載は下記のとおりである。
「【請求項1】 主鎖が炭素数2〜6の多価カルボン酸又はその誘導体を含む多価カルボン酸成分と、炭素数2〜4の多価アルコール又はその縮合物を含むポリオール成分との反応により得られるポリエステルで構成されたセメント硬化遅延剤。
【請求項13】 少なくともマレイン酸又はその誘導体を含むジカルボン酸成分と、炭素数2〜4の脂肪族ジオール又はその縮合物を含むジオール成分との反応生成物であって、分子量300〜50,000の不飽和ポリエステルで構成された請求項1記載のセメン硬化遅延剤。
【請求項24】 主鎖が炭素数2〜6の多価カルボン酸又はその誘導体を含む多価カルボン酸成分と、炭素数2〜4の多価アルコール又はその縮合物を含むジオール成分とを含むポリオール成分との反応により得られるポリエステルで構成されたセメント硬化遅延剤を含む組成物が、基材シートに保持されているセメント硬化遅延シート。」
なお、以下では、上記各請求項の構成の発明を単に本件特許発明と総称する。
(2) 詳細な説明の記載
なお、以下の摘示箇所の記載位置は、上記特許掲載公報による。
(イ) 7欄12〜31行(【0005】【発明が解決しようとする課題】)
「従って、本発明の目的は、A▲1▼水に対する溶解性が小さいにも拘らず、セメントに対して高い硬化抑制能を有するセメント硬化遅延剤を提供することにある。本発明の他の目的は、A▲2▼水分による流出を抑制し、コンクリート製品の表面に模様や洗い出し面を精度よく形成する上で有用なセメント硬化遅延剤を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、B▲3▼モルタル組成物を打設しても、硬化遅延剤の流動を抑制できるとともに、モルタル組成物との接触面での硬化を均一に抑制でき、コンクリート製品の表面に模様や洗い出し面を精度よく形成できる硬化遅延シートを提供することにある。本発明の別の目的は、B▲4▼損傷を抑制しつつ装飾材などにより表面を装飾し、化粧仕上げコンクリート製品を得る上で有用なシートを提供することにある。本発明のさらに別の目的は、B▲5▼コンクリート製品の表面に模様や洗い出し面を簡便かつ効率よく形成できる硬化遅延シートを提供することにある。本発明の他の目的は、B▲6▼コンクリート製品の表面に複雑な模様であっても容易に形成でき、装飾性を高めることができる硬化遅延シートを提供することにある。」
(上記摘示文中、アルファベット大文字と▲1▼から▲6▼までの数字の組は、当審が加入したものである。)
(ロ) 7欄33〜46行(【0006】【課題を解決するための手段】)
「本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、(1)特定の多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とをエステル化反応により高分子量化したポリエステルを用いると、水に対する非溶解性を維持できるとともに、本来セメントに対する硬化遅延能を有していないにも拘らず、モルタルやコンクリートを打設すると、強いアルカリ性によりポリエステルが徐々に、しかも有効に加水分解し、セメントの硬化の進行に伴って、加水分解生成物によりセメントに対する硬化遅延能が極めて有効に発現すること、(2)セメントの硬化に対する遅延能(抑制能)を有する硬化遅延剤をシートに保持させると、コンクリート製品の表面に模様や洗い出し面を精度よく形成できることを見いだし、本発明を完成した。」
(ハ) 8欄20〜35行(【0008】の一部)
「なお、本明細書において、「シート」とは厚さの如何を問わず二次元的構造物を意味し、フィルムを含む意味に用いる。また、「多価カルボン酸の誘導体」とは、酸無水物、多価カルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの脱離可能なC1-4アルキルエステル)を含む意味に用いる。・・・。さらに、特に断りがない限り、「セメント」とは、水との混和により硬化性を示す無機物質を意味し、気硬性セメント、水硬性セメントなどを含む意味に用いる。さらに、セメントを含む硬化性組成物にはセメントペースト、モルタル組成物およびコンクリート組成物が含まれ、これらを単に「無機硬化性組成物」と総称する場合がある。」
(ニ) 9欄17〜32行(【0010】、【発明の実施の形態】[本発明のセメント硬化遅延剤]の一部)
「これらの多価カルボン酸は単独で又は二種以上組み上せて使用できる。多価カルボン酸成分は、前記多価カルボン酸以外に、脂肪族多価カルボン酸(例えば、アゼライン酸、セバシン酸など)、芳香族多価カルボン酸(例えば、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など)を含んでいてもよい。特に、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はこれらの誘導体から選択された芳香族ジカルボン酸またはその誘導体を含む多価カルボン酸成分を用いると、飽和又は不飽和ポリエステルの強度、伸度、可撓性、柔軟性、耐水性などの特性を調整するのに有用である。ポリエステル全体に対する芳香族多価カルボン酸の含有量は、例えば、0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%(例えば、1〜15重量%)、さらに好ましくは0.1〜10重量%(例えば、2〜10重量%)程度である。」
(ホ) 23欄6〜10行(【0050】)
「本発明の硬化遅延シートは、種々のコンクリート製品、例えば、カーテンウォール、壁材などのコンクリートパネル、コンクリートブロックなどの製造、特に化粧板仕上げコンクリート製品(例えば、プレキャストコンクリート板)の製造に有用である。」
〔三〕 引例(特開平3-272803号公報)の記載
(イ)(2頁右下欄、1〜6行)
「 また、硬化遅延剤を使用した場合に、型枠を必要とする造形面にあっては、本体コンクリートの硬化、その他の理由により脱型が遅れると、硬化遅延剤の効果が急速に消失して、該部のコンクリートの硬化が開始され、脱型時まで所定の未硬化状態を保持し得ない問題点があった。」
(ロ)(3頁左上欄、10行〜同右上欄、3行)
「 即ちこの発明は、型枠の内面に非硬化剤層を介して装飾材を仮着し、この型枠の内側にコンクリートを打設する。ついで脱型後、コンクリート表面を水洗し、未硬化コンクリートを除去することを特徴としたコンクリート製造形物表面の成型工法である。また、コンクリートの非硬化材層は、アルカリ膨潤化剤に少量の吸水性ポリマーを混合したものである。
次にアルカリ膨潤化剤は、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタールとしたものである。更に、アルカリ膨潤化剤と吸水性ポリマーの混合割合は、全量(容量)に対し、吸水性ポリマーを30%〜80%としたものである。」
(ハ)(3頁右下欄、14行〜4頁左上欄、14行)
「 前記において、吸水性ポリマーを50%入れた非硬化材層を用いた場合には、コンクリート表面から深さ3mm位まで非硬化になる。また、吸水性ポリマー(又はモノマー)を80%入れた非硬化材層を用いると、コンクリート表面から深さ5mmまで非硬化となる。
また、吸水性ポリマー(又はモノマー)を30%入れた非硬化剤層を用いると、コンクリート表面から深さ1〜2mm程度未硬化状態となる。
前記におけるアルカリ膨潤化剤としては、ポリエステル樹脂、ポリビニールアルコール又はポリビニルアセタール、などがあり、また水膨潤化剤としては酢酸ビニール樹脂等がある。これらはアルカリ又は水に対して膨潤化し易い物であって、高分子吸水材との相乗作用により不安定状態を持続するものが好ましい。
前記において吸水性ポリマーの添加量を20%以下にすると、硬化の不安定性が小さくなり、目的を達成できない。また、80%以上にする必要がないので、吸水性ポリマーの混入量は20%〜80%が好ましいものと認められる。」
(ニ)(7頁左上欄、11行〜同右上欄、10行。(発明の効果)の項)
「 この発明によれば、型枠の内面に非硬化剤を介装してコンクリートを打設するので、脱型後コンクリート表面のコンクリートが非硬化状態となる。そこで、表面を水洗することによって非硬化コンクリートが流除され、コンクリート表面に小凹凸粗面又は凹凸装飾面が生じる効果がある。
この工法によれば、熟練を要することなく、凹凸装飾面付の均質なコンクリート製造形装飾物を容易に得ることができる効果があり、これにより労力等を増大するおそれはない。また、必要な位置のコンクリート表面の粗面を脱型水洗により得ることができると共に、脱型の遅速に拘らず有効である。
また、コンクリート構造物に設ける中空孔を同径にできることは勿論、孔壁面を粗面にできる効果がある。また、円柱、角柱等の外壁面を容易に粗面に形成できるなどの諸効果がある。
また、歩道、水平装飾面などのように型枠を必要としないコンクリート性の造形物表面を効率よく生成できるという効果がある。」
〔四〕 判断
(1) 上記〔三〕によれば、引例には、コンクリートに非硬化剤、すなわちセメント硬化遅延剤を使用することが、また、この遅延剤は、「アルカリ膨潤化剤に少量の吸水性ポリマーを混合したもの」であることが、さらに、コンクリート非硬化剤中の吸水性ポリマーの濃度が大きくなるにつれて、非硬化の程度が大きくなることが記載されていると認められる。
しかしながら、引例には、上記コンクリート非硬化剤中の吸水性ポリマーの化学構造上の特徴については、なにも記載されていない。
(2) しかるに、本件特許発明は、上記〔二〕に摘示した事項から明らかなように、特定の化学構造有することを特徴とするセメント硬化遅延剤、またはこの遅延剤を用いたセメント硬化遅延シートの発明であって、かつ、この遅延剤は、上記〔二〕(2)(イ)▲1▼〜▲6▼の優れた性質を有するものであるから、引例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められず、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
(3) なお、甲第2号証には、公知のセメント硬化遅延剤が列挙されている(公報【0014】参照)が、これらは、本件特許発明のセメント硬化遅延剤とは異なるものである。
(4) 他に、本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
(5) よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-11-17 
出願番号 特願平8-46802
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 能美 知康
唐戸 光雄
登録日 1997-11-07 
登録番号 特許第2716689号(P2716689)
権利者 ダイセル・ヒュルス株式会社
発明の名称 セメント硬化遅延剤およびセメント硬化遅延シ-ト  
代理人 鍬田 充生  

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