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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1008772
異議申立番号 異議1998-75974  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-05-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-11 
確定日 2000-01-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第2764589号「ベアリング用窒化珪素基焼結体」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2764589号の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2764589号は、昭和63年11月21日に特許出願がなされ、平成10年4月3日にその特許権の設定登録がなされ、その後、京セラ株式会社及び高橋喜美夫(以下、順に「申立人1」及び「申立人2」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。
II.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】窒化珪素(Si3N4)70重量%以上と、焼結助剤30重量%以下とからなる窒化珪素基焼結体であって、相対密度95%以上で、焼結体中のSi3N4粒子の短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上であることを特徴とするベアリング用窒化珪素基焼結体。」
III.申立ての理由の概要
1.申立人1の申立ての理由の概要
申立人1は、証拠として甲第1〜3号証を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は、特許法第29条第1項あるいは同条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべきものである旨を主張している。
2.申立人2の申立ての理由の概要
申立人2は、証拠として甲第1〜5号証を提出し、本件発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第2〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は、特許法第29条第1項あるいは同条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべきものである旨を主張している。
IV.甲各号証の記載
1.申立人1が提出した甲各号証の記載
1.1 甲第1号証
甲第1号証(「自動車技術」Vol.39,No.8,1985,p.897-903)は、「ファインセラミック製転がり軸受の開発」と題する報文であって、そこには、その素材について、「原料としては、開発したα-Si3N4粉に少量のY2O3とAl2O3を添加し調合する。…焼結温度は、1750〜1800℃で、液相の寄与を管理しつつ緻密化を図ることにより、転がり軸受素材がえられる。」(第898頁右欄第29行〜第899頁左欄本文第7行)と記載され、該素材の微細組織が図2に示され、また、該素材の焼結密度について、「焼結密度は3.20g/ccである。」(第899頁左欄本文第10〜11行)と記載されている。
1.2 甲第2号証
甲第2号証(特開昭63-159259号公報)には、「高靱性窒化珪素質焼結体」の発明に関し、「窒化珪素又はサイアロン粒子と粒界相からなる焼結体において窒化珪素又はサイアロン粒子は柱状あるいは柱状および粒状にして、そのうち短径が0.8μm以上でかつアスペクト比が4以上の柱状粒子が焼結体中の15〜35容量%を占め、残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子と粒界相とからなることを特徴とする高靱性窒化珪素質焼結体」(特許請求の範囲)と記載され、その焼結体の具体的な製造例について、「表1に示す3種類の窒化珪素(Si3N4)粉末と、Y2O3粉末(比表面積10m2/g)、Al2O3粉末(10m2/g)を重量比で90%Si3N4-5%Y2O3-5%Al2O3となるように混合した後、成形、焼結し、異なった組織を持つ7種類の焼結体を作製した。」(第2頁右上欄第7〜12行)と記載されている。
1.3 甲第3号証
甲第3号証(特開昭63-156070号公報)には、「窒化珪素質焼結体及びその製法」の発明に関し、「(1)主として窒化珪素から成る結晶相と、少なくとも希土類元素及びアルミニウムを含有する粒界相から成り、該結晶相粒子の長軸の長さが20μm以下、短軸の長さが2μm以下で且つアスペクト比が長軸長/短軸長が10以下であって室温における抗折強度が100kg/mm2以上、気孔率が1%以下であることを特徴とする窒化珪素質焼結体。」(特許請求の範囲第1項)と記載され、該焼結体の組成について、「助剤成分は希土類元素が酸化物換算で3乃至10重量%の割合で、アルミニウムがアルミナ換算で1乃至5重量%の割合で配合されるものであって、窒化珪素は87重量%以上の割合からなる。」(第3頁左上欄第10〜14行)と記載されている。
2.申立人2が提出した甲各号証の記載
2.1 甲第1号証
甲第1号証(特開昭63-159259号公報)は、申立人1が提出した甲第2号証と同じであり、上記「1.2」に摘記したとおりのものが記載されている。
2.2 甲第2号証
甲第2号証(特開昭63-206359号公報)には、「高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体およびその製造方法」の発明に関し、「最大気孔径が10μm以下、面積率が0.3%以下であることを特徴とする高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体。」(特許請求の範囲第1項)と記載され、該焼結体の用途について、「該高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体が軸受部材、…として用いられる特許請求の範囲第1項…記載の高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体。」(特許請求の範囲第3項)と記載され、該焼結体の具体的な製造例について、「(実施例1)平均粒径0.5μmのα型窒化珪素粉末に焼結助剤としてMgO、ZrO2、Y2O3の各粉末をそれぞれ4重量%、2重量%、7重量%の割合で混合し、…バッチ式粉砕機により混合粉砕した後、…平均粒子径0.7μmのスラリーを得た。このスラリーにボリビニルアルコール(PVA)2重量%を添加し、噴霧乾燥器を用いて造粒粉体とした。さらに、恒温乾燥器を用い、第1表の強制乾燥温度に示す温度で24時間造粒粉体を乾燥…した後、…JIS標準篩を用いて節分けをし、試料番号1〜9の造粒粉体を得た。この造粒粉体を5トン/cm2の圧力で冷間静水圧プレス成形することにより、65mm(φ)×50mm(長さ)の成形体を作製した。その後、温度500℃で3時間脱脂した後、窒素(N2)雰囲気下、温度1460℃で6時間常圧焼結を行なった(一次焼結工程)。次いで、この一次焼結体を、N2雰囲気下、圧力400atm、温度1700℃で熱間静水圧プレス(HIP)処理することにより、本発明の焼結体を得た(試料番号1〜9)。」(第4頁左上欄第9行〜同頁右上欄第14行)及び「(実施例2)……焼結助剤の種類及び添加量を第2表のように変えたほかは実施例1と同様の方法で造粒粉体を80℃で24時間強制乾燥した後、…目開き149μmの篩を通過させ、試料番号13〜17の造粒粉体を得た。この造粒粉体を実施例1と同様に成形・脱脂をした後、シリカガラス製カプセルに真空封入した。次いで、このカプセルをHIP装置内に装入し、圧力1500atm、温度1600℃でHIP処理を行ない、試料番号13〜17の窒化珪素焼結体を得た。」(第5頁左下欄第1〜14行)と記載され、その第2表には試料番号16として焼結体の組成(重量%)が「91%Si3N4-5%Y2O3-4%Al2O3」のものが示されている。
2.3 甲第3号証
甲第3号証(「第33期全国大会(岡山)研究発表会予稿集」昭和63年10月20日、社団法人日本潤滑学会、p.53〜56)は、「窒化珪素製セラミック玉の転がり寿命とハクリ起点解析」と題する報文であって、そこには、試料について、「試料に供したセラミック玉の内訳を表1に示した。各社ともに焼結法はHIP法で、玉径は3/8インチである。結晶粒度、焼結助剤系、硬さ、圧砕荷重はすべて完成球で分析あるいは測定したものである。また、破面の結晶粒の代表例を写真1〜写真2に示した。試験軸受に組込んだ玉の寸法・精度は、いずれも焼結後の素球で入手したものを、JIS B1501(玉軸受鋼球)のG5グレードに加工仕上げを行ったものである。」(第53頁13〜25行)と記載され、その表1には、「メーカー:A社、焼結法:HIP、結晶粒度:大(粗)、焼結助剤(量):Al2O3-Y2O3系(少)、硬さ,Hv:1532、圧砕荷重(kN):14.7」、及び、「メーカー:B社、焼結法:HIP、結晶粒度:小(細)、焼結助剤(量):Y2O3-MgO系(多)、硬さ,Hv:1695、圧砕荷重(kN):26.5」と記載され、更に、これらA社の窒化珪素製セラミック玉とB社の窒化珪素製セラミック玉の破面SEM像が写真1、写真2に示されている。
2.4 甲第4号証
甲第4号証(特開昭58-91074号公報)には、「窒化珪素焼結体の製造方法」の発明に関し、「(1)窒化ケイ素に周期律表IIIa族酸化物とアルミナを添加した系の組成物をHIP(高温静水圧プレス)焼結する方法において、HIP焼結前に常圧あるいは減圧下で熱処理して結晶粒を柱状化にすることを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)及び「(3)特許請求の範囲第1項…において周期律表IIIa族酸化物0.1〜4重量%アルミナ0.01〜3重量%とした事を特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。」(特許請求の範囲第3項)と記載され、その得られた窒化ケイ素焼結体の微細組織について、表2には、「柱状組織」と示されている。
2.5 第5号証
甲第5号証(「Koyo.ENGINEERING JOURNAL」No.133、昭和63年2月、光洋精工株式会社、p.63〜71)は、「セラミック転がり軸受の性能と応用」と題する報文であって、そこには、転がり軸受け用セラミックスとしては「HP、又はHIPなどの加圧焼結窒化けい素が適している」(第66頁左欄第1〜2行)と記載され、その具体的なものについて、第68頁右欄の表4には、「製法:ホットプレス、焼結助剤:Y2O3、硬さ:1450〜1700HV、ヤング率:3.2×104kgf/mm2、玉の圧砕値:2500〜3200kgf」と記載されている。
V.対比・判断
1.申立人1の申立て理由について
本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証に記載の発明における「α-Si3N4」、「Y2O3とAl2O3」及び「転がり軸受素材」は、それぞれ本件発明における「窒化珪素(Si3N4)」、「焼結助剤」及び「ベアリング用窒化珪素基焼結体」に相当するから、両者は、「窒化珪素(Si3N4)と焼結助剤とからなるベアリング用窒化珪素基焼結体」である点で一致するが、本件発明においては、窒化珪素及び焼結助剤の含有量を夫々「70重量%以上」及び「30重量%以下」としているのに対し、甲第1号証に記載の発明においては、そのような数値が記載されていない点(相違点1)、本件発明においては、相対密度を「95%以上」としているのに対し、甲第1号証に記載の発明においては、焼結密度を「3.20g/cc」としている点(相違点2)、及び、焼結体の微細組織として、本件発明においては、Si3N4粒子の「短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上」としているのに対し、甲第1号証に記載の発明においては、そのようなことが記載されていない点(相違点3)で相違する。
そこで、以下において上記相違点について検討する。
相違点1については、甲第2号証及び甲第3号証に、窒化珪素質焼結体(本件発明における「窒化珪素基焼結体」に相当する。)の組成について、それぞれ「重量比で90%Si3N4-5%Y2O3-5%Al2O3(該焼結体におけるY2O3-Al2O3成分は本件発明における「焼結助剤」に相当する。)」及び「助剤成分(本件発明における「焼結助剤」に相当する。)は希土類元素が酸化物換算で3乃至10重量%の割合で、アルミニウムがアルミナ換算で1乃至5重量%の割合で配合されるものであって、窒化珪素は87重量%以上の割合からなる。」と記載されており、これら成分の含有量は、本件発明における焼結体の各成分の含有量と重複していることを考慮すると、甲第1号証における焼結体の各成分の含有量も本件発明における焼結体の各成分の含有量と同程度のものといえる。
しかしながら、相違点2については、甲第1号証には、焼結体の焼結密度について「3.20g/cc」と記載されているだけであって、甲第1号証全体の記載をみても焼結体の相対密度については記載されていないし、しかも相対密度を求める際に必要な該焼結体の理論密度を開示した文献も見当たらない。
したがって、甲第1号証に記載された焼結体の相対密度は不明であり、甲第1号証における焼結密度「3.20g/cc」は、本件発明における「相対密度95%以上」を示したものと認めることはできない。
また、相違点3については、甲第1号証には、焼結体の微細組織について図2が示されており、該図2によれば、Si3N4粒子の短径が1μm以下であるもの及び長径が5μm以下であるものが存在することは読み取ることができるが、該粒子の短径が1μm以下であるものが「90%以上」及び長径が5μm以下であるものが「90%以上」存在することまでは読み取ることができないから、甲第1号証に示された図2は、本件発明における「Si3N4粒子の短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上」であることを開示したものとはいえないし、示唆したものともいえない。
なお、申立人1は、本件発明におけるような微細組織を有する窒化珪素基焼結体は甲第2、3号証に記載されているから、甲第2、3号証に記載の発明を甲第1号証に記載の発明と組み合わせて本件発明を想到することは、当業者なら容易に成し得る程度のものであると主張している。
しかしながら、甲第2号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織は、窒化珪素粒子の「短径が0.8μm以上でかつアスペクト比が4以上(換言すれば、長径が3.2μm以上)の柱状粒子が焼結体中の15〜35容量%を占め、残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子」というものであって、該微細組織によれば「残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子」であるから、これは本件発明における「短径が1μm以下のもの90%以上」を示唆したものといえるが、残部の粒子の長径の大きさ及び量については、甲第2号証全体の記載をみても開示されていないし、示唆もされていない。
また、甲第3号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織は、窒化珪素粒子の「長軸の長さが20μm以下、短軸の長さが2μm以下」というものであって、これは本件発明における窒化珪素粒子の短径及び長径の大きさと重複はしているが、それらの存在量については、甲第3号証全体の記載をみても開示されていないし、示唆もされていない。
してみると、甲第2号証及び甲第3号証に記載された微細組織は、本件発明における微細組織と同じものであるということはできないから、甲第1号証に記載された発明に甲第2、3号証に記載された発明を更に参酌しても本件発明を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、本件発明は、上記相違点とする構成を備えることにより本件特許明細書に記載する効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明であるとも、また、同じく甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
2.申立人2の申立て理由について
本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証に記載の発明における「Y2O3とAl2O3」、「窒化珪素質焼結体」及び「焼結体密度」は、それぞれ本件発明における「焼結助剤」、「窒化珪素基焼結体」及び「相対密度」に相当し、また、一般に耐摩耗部材がベアリングを包含することは、本件出願前よく知られている(例えば、甲第3号証参照)から、甲第1号証に記載の発明における「耐摩耗部材」は本件発明における「ベアリング用」のものを包含する。
そうすると、両者は、「窒化珪素(Si3N4)90重量%と、焼結助剤10重量%とからなり、相対密度99%以上のベアリング用窒化珪素基焼結体」である点で一致しているが、該焼結体の微細組織として、本件発明においては、「Si3N4粒子の短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上」としているのに対し、甲第1号証に記載の発明においては、それが、窒化珪素粒子の「短径が0.8μm以上でかつアスペクト比が4以上(換言すれば、長径が3.2μm以上)の柱状粒子が焼結体中の15〜35容量%を占め、残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子」と記載されている点で相違する。
この点について、申立人2は、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織においては、「短径が0.8μm以上でかつアスペクト比が4以上(換言すれば、長径が3.2μm以上)の柱状粒子が焼結体中の15〜35容量%を占め」ると規定しており、この規定から外れる粒子で残部を構成しているものであるため、残部の大部分の粒子は、短径0.8μm未満の粒子でそのアスペクト比は4未満(換言すれば、長径が3.2μm未満)となるから、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織は、本件発明における短径及び長径を満足する窒化珪素粒子が大部分を占めるものであるとし、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織は、本件発明における微細組織であるSi3N4粒子の「短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上」と実質的に同じになるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であると主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織に関する記載によれば、「残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子」と記載されているだけであり、「残部の大部分の粒子は、短径0.8μm未満の粒子でそのアスペクト比は4未満」と記載されているわけではないし、しかも甲第1号証全体の記載をみても、この残部の大部分の粒子の長径を求めるためのアスペクト比について開示も、示唆もないから、申立人2の主張する「残部の大部分の粒子は、短径0.8μm未満の粒子でそのアスペクト比は4未満(換言すれば、長径が3.2μm未満)となる」は、甲第1号証に記載された事実に基かない主張であって採用することはできない。
そうすると、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織における「残部の大部分が短径0.8μm未満の粒子」は、本件発明における「短径が1μm以下のもの90%以上」を示唆したものといえるが、残部の粒子の長径の大きさ及び量については、全く示しておらず、不明である。
したがって、甲第1号証に記載された窒化珪素基焼結体の微細組織は、本件発明における微細組織と同じものであるということはできないから、本件発明は、申立人2が提出した甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
また、本件発明と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、甲第2号証に記載の発明における「軸受部材として用いられる高緻密熱間静水圧焼結窒化珪素焼結体」及び「MgO、ZrO2、Y2O3」と「Y2O3、Al2O3」は、それぞれ本件発明における「ベアリング用窒化珪素基焼結体」及び「焼結助剤」に相当し、また、一般に気孔率が小さくなればなるほど、それに応じて相対密度は大きくなることを考慮すると、甲第2号証に記載の発明における「面積率(換言すれば、気孔率)が0.3%以下」は、本件発明における「相対密度95%以上」に相当すると解される。
そうすると、両者は、「窒化珪素(Si3N4)87重量%又は91重量%と、焼結助剤13重量%又は9重量%とからなり、相対密度95%以上のベアリング用窒化珪素基焼結体」である点で一致し、該焼結体の微細組織として、本件発明においては、Si3N4粒子の短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上としているのに対し、甲第2号証に記載の発明においては、そのような微細組織が記載されていない点で相違する。
この点について、申立人2は、甲第2号証の実施例1及び2に記載された製造方法は、本件特許明細書の実施例1に記載された製造方法と同じであるから、甲第2号証に記載の発明における窒化珪素基焼結体の微細組織は、本件発明における窒化珪素基焼結体の微細組織と同じになると主張している。
しかしながら、甲第2号証の実施例1及び2に記載された製造方法と本件特許明細書の実施例1に記載された製造方法との間には、造粒工程の直後において強制乾燥工程の有無に相違がみられ、また、二次焼結(HIP処理)工程においても処理時間に差異(甲第2号証には処理時間は何も示されていない。)がみられるから、両者の製造方法が同じであるということはできない。
したがって、甲第2号証に記載の発明における窒化珪素基焼結体の微細組織が、本件発明における窒化珪素基焼結体の微細組織と同じになるということはできないから、申立人2の上記主張は採用できない。
してみると、本件発明は、申立人2が提出した甲第2号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
また、甲第3号証には、窒化珪素と焼結助剤とからなり、軸受に用いられる窒化珪素セラミック玉(本件発明における「ベアリング用窒化珪素基焼結体」に相当する。)に関し、その具体的なものとして、A社の焼結助剤の量が少ない窒化珪素製セラミック玉(本件発明における「窒化珪素基焼結体」に相当する。)とB社の焼結助剤の量が多い窒化珪素製セラミック玉(本件発明における「窒化珪素基焼結体」に相当する。)が記載され、これら焼結体の微細組織について、写真1(A社破面SEM像)及び写真2(B社破面SEM像)(なお、該写真1及び2を拡大したものが「参考資料」として提出されている。)が示されているが、該写真1及び2によれば、Si3N4粒子の短径が1μm以下であるもの及び長径が5μm以下であるものが存在することは読み取ることができるが、該粒子の短径が1μm以下であるものが「90%以上」及び長径が5μm以下であるものが「90%以上」存在することまでは読み取ることができない。
したがって、甲第3号証に示された写真1及び2は、本件発明における「Si3N4粒子の短径が1μm以下のもの90%以上、長径が5μm以下のもの90%以上である」ことを開示したものとはいえないし、示唆したものともいえないから、甲第3号証に記載の発明における窒化珪素基焼結体が本件発明における窒化珪素基焼結体の組成及び相対密度と同じであると否とに係わらず、甲第3号証に記載の発明における窒化珪素基焼結体は、本件発明における窒化珪素基焼結体と同じものということはできない。
してみると、本件発明は、申立人2が提出した甲第3号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
更に、甲第4号証には、本件発明における焼結体と同系統の焼結体は記載されているものの、該焼結体の微細組織については、柱状組織と記載されているにすぎず、甲第4号証全体の記載をみても、該柱状組織の具体的内容(窒化珪素粒子の短径、長径、それらの量など)は全く記載されていないから、その内容は不明である。
したがって、甲第4号証に記載の発明における窒化ケイ素焼結体(本件発明における「窒化珪素基焼結体」に相当する。)の微細組織は、本件発明における窒化珪素基焼結体の微細組織と同じということはできないし、また、甲第5号証には、加圧焼結窒化けい素(本件発明における「窒化珪素基焼結体」に相当する。)が転がり軸受(本件発明における「ベアリング」に相当する。)に用いられることが記載されているにすぎず、本件発明における特有の微細組織については、全く開示されていないから、甲第5号証に記載の発明における焼結体は、本件発明における焼結体と同じであるということはできない。
したがって、甲第2、3号証に記載された発明に更に甲第4、5号証に記載された発明を加えて検討しても本件発明を当業者が容易に想到し得たものともすることはできない。
そして本件発明は、上記相違点とする構成を備えることにより本件特許明細書に記載する効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、申立人2が提出した甲第2号証若しくは甲第3号証に記載された発明であるとも、また、同じく甲第2〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
VI.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-12-16 
出願番号 特願昭63-292524
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子後谷 陽一  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 内野 春喜
能美 知康
登録日 1998-04-03 
登録番号 特許第2764589号(P2764589)
権利者 日本特殊陶業株式会社
発明の名称 ベアリング用窒化珪素基焼結体  
代理人 竹内 守  

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