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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1008846
異議申立番号 異議1997-71718  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1988-09-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-04-16 
確定日 1999-10-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第2544374号「プラズマ処理装置、及びその方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2544374号の特許請求の範囲第1項ないし第10項に記載された発明についての特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許2,544,374号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。
特許出願 昭和62年3月2日
手続補正 平成8年3月1日
特許権設定登録 平成8年7月25日
特許公報発行日 平成8年10月16日
特許異議の申立て 平成9年4月16日
取消理由通知 平成9年6月16日
第1回訂正請求及び異議意見書
平成9年8月25日
第1回訂正拒絶理由通知及び
第2回取消理由通知 平成9年10月27日
第2回訂正請求及び異議意見書
平成9年12月24日
第2回訂正拒絶理由通知及び
第3回取消理由通知 平成10年5月15日
異議意見書 平成10年8月3日
2.訂正の適否について
訂正請求は、上記のとおり2回行われているが、第1回目の訂正請求は、それに対する訂正拒絶理由通知により実質上取下げられたものと認め、以下には、上記第2回目(平成9年12月24日付)の訂正請求について検討する。
(1)訂正の目的等について
(1.1)訂正事項▲1▼について
(a)特許明細書の請求項1において、「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置する」を「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置する」とする訂正は、特許明細書の請求項2に記載されていたものを請求項1に限定的に付加したものであるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
(b)請求項2を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、「請求項3乃至請求項10」を「請求項2乃至請求項9」に繰り上げる訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(c)特許明細書の請求項3において、「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置する」を「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置する」とする訂正は、特許明細書の請求項2に記載されていたものを請求項3に限定的に付加したものであるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
(d)特許明細書の請求項9において、「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置する」を「前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置する」とする訂正は、特許明細書の請求項2に記載されていたものを請求項9に限定的に付加したものであるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
(1.2)訂正事項▲2▼について
特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の「課題を解決するための手段」における「少なくとも一部試料室内に」(特許公報第6欄第24行〜第25行)を「試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に」とする訂正は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.3)訂正事項▲3▼について
特許明細書第21頁第2行(特許公報第8欄第45行〜第46行)における「場位置を少なくとも一部試料室内(好ましくは、第1図のa点)に位置させる」を「場位置を第1図のa点に位置させる」とする訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.4)訂正事項▲4▼について
特許明細書第21頁第6行(特許公報第8欄第49行)における「第17図」を「第16図」とする訂正は、第17図の削除に伴う訂正であり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.5)訂正事項▲5▼について
特許明細書第23頁第14行〜第24頁第1行(特許公報第9欄第40行〜第46行)の記載を削除する訂正は、第17図の削除に伴う訂正であり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.6)訂正事項▲6▼について
特許請求の範囲の訂正に伴い、特許明細書第25頁第1行〜第6行(特許公報第10欄第6行〜第7行)における「少なくとも一部試料室内」を「試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に」とする訂正は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.7)訂正事項▲7▼について
特許明細書第26頁第6行〜第7行(特許公報第10欄第39行〜41行)における「第15図、第16図、及び第17図」を「第15図及び第16図」とする訂正は、第17図の削除に伴う訂正であり、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(1.8)訂正事項▲8▼について
願書添付の第17図を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(2)独立特許要件について
(2.1)本件発明
訂正請求により、特許請求の範囲が減縮された訂正明細書の特許請求の範囲請求項1、請求項2及び請求項8に係る発明は、訂正明細書及び図面からしてその特許請求の範囲請求項1、2及び8に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置させ、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置(全文訂正明細書においては、「該放電管の放電管の放電空間内に磁場を」と記載されているが、訂正の内容においては、「該放電管の放電空間内に磁場を」と記載されているので、日本語として意味のとおる上記のとおり認定した。)。
【請求項8】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場マイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を、前記試料室内の前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置させ、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を備え、該補助磁場発生手段の磁場、又は該補助磁場発生手段と前記磁場発生手段の両方の磁場によって前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を変化可能にしたことを特徴とするプラズマ処理装置。」
(2.3.1)要旨変更について
平成8年3月1日付の手続補正書により、補正前においては、特許請求の範囲第10項において、「磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、前記容器内のマイクロ波導入側の試料近傍となるように磁場を印加」するとされていたものが、「試料台の面と、この試料台の面と平行な前記材料ガスの導入口の面との間に前記磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が位置するように前記磁場を調整する」と補正された。
しかしながら、出願当初の明細書の発明の詳細な説明中には、材料ガスの導入口が面を形成すること及び材料ガス導入口がプラズマ処理装置のどこに設けられているかについての記載はない。したがって、面の形成が不明であり、設置場所が不明である材料ガス導入口を基準にして共鳴発生位置を規定する上記補正は、明細書の要旨を変更するものである。
この点に関し、特許権者は、上記補正の根拠として、平成9年12月24日付訂正請求書第7頁下から第9行〜第8頁第3行において、「出願時の明細書第15頁第7行目から第17行目の記載、及び出願時の図面第1図、第2図、第11図、第12図、第13図、第14図に基づくもので、特に、上記上記出願時の明細書の該当個所には“電子サイクロトロンの共鳴発生位置が試料室9内に位置し、それが第1図のa点である”旨記載され、第1図のa点は、該図からも明らかなように、試料台8の面と平行な材料ガス10の導入口の面との間に位置させており、第11図、第12図、第13図、第14図では、磁場コイル1と補助磁場発生手段21の磁場を調整して電子サイクロトロンの共鳴発生位置を、試料台8の面と、この試料台8の面と平行な材料ガス10の導入口の面との間に位置させている。」と主張している。
しかしながら、そもそも特許出願の願書に添付した図面は、製品を製作する際に用いる製図と異なり、明細書に記載されている技術的事項の理解を容易にするための補助手段であるので、そこに記載されている寸法等は正確ではないのが常識である。したがって、よほど図面からみて明らかな場合を除き、図面のみに記載されており、明細書中に言語をもって説明されていない事項は、明細書及び図面に記載されている事項とは認められない。本件の場合について言えば、材料ガス導入口がどこに設けられているかについては、明細書にまったく記載されていないのであるから、上記主張は採用できない。
以上のとおりであるので、上記補正事項は、出願当初の明細書及び図面に記載されておらず、自明でもないので、上記補正はこれらの要旨を変更するものである。したがって、本件特許出願は、平成6年法律第116号附則第6条及び平成5年法律第30号附則第2条第2項の規定により、平成5年改正前の特許法第40条の規定を適用して、上記補正書を提出した平成8年3月1日にしたものとみなす。
(2.3.2)容易性について
本件特許出願に係る出願公開公報である、特開昭63-213344号公報(以下「刊行物」という。)には、
「1.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料台方向に向かってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が少なくとも一部前記試料室内に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。」(請求項1)、
「3.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。」(請求項3)及び
「一般に、プラズマ中を伝搬し、電子サイクロトロン共鳴を起こすマイクロ波は、右回り円偏波であり、この波は、前記電子サイクロトロン共鳴を起こすに必要な磁束密度より小さい磁束密度のプラズマ中では、カットオフとなり伝搬できない。このため、本発明では、放電管のマイクロ波入射端の磁束密度を電子サイクロトロン共鳴位置の磁束密度よりも大きくし、放電管から試料台方向に徐々に減少する磁束密度分布形状とし、かつ、試料室内に前記マイクロ波と電子サイクロトロン共鳴を起こす磁場位置を設けることにより、該共鳴磁束密度よりも高磁束密度領域で高密度プラズマが発生する領域を試料室内まで拡張することができ、かつ、磁場勾配によりプラズマが押し出され試料台まで輸送される距離を0とすることができる。これにより、該共鳴磁束密度より小さい磁束密度側で急激に減少するプラズマ密度に対して、該共鳴位置と試料台の距離を十分小さくできるため、試料表面に高密度プラズマを輸送することが可能となる。」(〔作用〕の項)と記載されている。
すなわち、上記刊行物には、
放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記放電管のマイクロ波入射端の磁束密度を電子サイクロトロン共鳴位置の磁束密度よりも大きくし、前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料合方向に向かってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置せしめるとともに、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えているプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法が記載されていると認められる。
(2.4.1)訂正された請求項1に係る発明について
そこで、訂正された請求項1に係る発明と、上記刊行物記載の特許請求の範囲1に記載された発明とを比較すると、両者は、
「放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管のマイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくするとともに、前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料合方向に向かってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が少なくとも一部前記試料室内に位置するプラズマ処理装置」である点において一致し、以下の点において相違する。
▲1▼前者においては、試料室の内径が放電管の内径より大きいと限定されているが、後者には、その旨の記載がない点。
▲2▼前者においては、電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、試料室内の試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置するとされるが、後者においては、電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置は少なくとも一部試料室内に位置するとされている点。
上記相違点について検討する。
▲1▼の点について
上記刊行物の第1図を参照すると、試料室の内径は、放電管の内径より大きいことは明らかであるので、この点に実質的な相違はない。
▲2▼の点について
上記刊行物には、「新たに前記試料室9内の試料7前面に導入された材料ガス10」(第4頁右下欄第12行〜第13行)及び「この共鳴位置近傍に導入された材料ガス10」(第5頁右上欄第9行〜第10行)と記載されるとともに、第1図において、材料ガス10が1本の供給管を介して電子サイクロトロン共鳴発生位置近傍に供給されている様子が示されているので、電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を試料室内の試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置するようにすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
したがって、訂正請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2.4.2)訂正された請求項2に係る発明について
訂正された請求項2に係る発明と、上記刊行物に記載された発明とを比較すると、
放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管のマイクロ波入射端の磁束密度を、電子サイクロトロン共鳴位置の磁束密度よりも大きくし、前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料合方向に向かってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置せしめるとともに、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えているプラズマ処理装置である点において一致し、以下の点において相違している。
▲1▼前者においては、試料室の内径が放電管の内径より大きいと限定されているが、後者には、その旨の記載がない点。
▲2▼前者においては、電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、試料室内の試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間に位置するとされるが、後者においては、電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置は少なくとも一部試料室内に位置するとされている点。
▲3▼前者においては、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を有するのに対し、後者においては、磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度と補助磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度の大小についての記載がない点。
上記相違点について検討する。
▲1▼及び▲2▼の点について
上記▲1▼及び▲2▼の点については、(2.4.1)と同じである。
▲3▼の点について
出願当初の第12図及び第14図において、磁場コイル1のみによる磁束密度分布及び補助磁場コイルのみによる磁束密度分布が示されており、図面より明らかに磁場コイル1のみによる磁束密度の方が補助磁場コイルのみによる磁束密度より大きなものが示されている。
したがって、この点に実質的な相違はなく、訂正された請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2.4.3)訂正された請求項8に係る発明について
訂正された請求項8に係る発明と、上記刊行物に記載された発明とを比較すると、上記(2.4.2)における相違点▲1▼、▲2▼、▲3▼及び▲4▼並びに▲5▼前者が、補助磁場発生手段の磁場、又は該補助磁場発生手段と磁場発生手段の両方の磁場によって電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を変化可能にしている点において相違するが、上記相違点▲1▼〜▲4▼については、上記(2.4.2)において検討したとおりであり、相違点▲5▼については、磁場発生手段及び補助磁場発生手段は、電磁石により達成することができ、電磁石においては、電磁石のコイルに流す電流により磁場の強さを変化させることは容易であるので、補助磁場発生手段の磁場、又は該補助磁場発生手段と磁場発生手段の両方の磁場によって電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を変化可能とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
したがって、訂正された請求項8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2.4.4)この項のむすび
したがって、上記訂正された請求項1、請求項2及び請求項8に係る発明は、上記刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。よって、本件訂正は、平成6年法律第116号附則第6条により、なお従前の例とされる平成6年改正前特許法第126条第3項の規定により認めることができない。
3.本件発明
本件発明は、特許された明細書の請求項1乃至請求項10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本件第1発明」乃至「本件第10発明」という。)。
「【請求項1】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前期放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】前記試料室内に位置する前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置は、前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間にあることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させ、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】前記補助磁場発生手段を、前記試料室の内側に配置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】前記補助磁場発生手段を、前記試料室の外側に配置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】前記補助磁場発生手段を、前記試料室の裏側に配置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項、又は第4項記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】前記補助磁場発生手段を、前記試料室の外側に配置し、かつ、該補助磁場発生手段の磁束密度の大きさを50ガウス以上としたことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】前記補助磁場発生手段は、前記試料室内に引出されたプラズマの流径、又は密度分布を制御するものであることを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、この放電管より内径が大で、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させ、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を備え、該補助磁場発生手段の磁場、又は該補助磁場発生手段と前記磁場発生手段の両方の磁場によって前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を変化可能にしたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】磁場発生手段を備えた容器内にマイクロ波と放電ガスを導入し、該容器内に導入された放電ガスを、前記磁場発生手段にて発生する磁場中の電子サイクロトロン運動とマイクロ波を共嶋させることにより励起、又は電離してプラズマを生成し、このプラズマを利用して前記容器内に導入された材料ガスを試料台に支持される試料の表面に導入し、該試料の表面をプラズマ処理するプラズマ処理方法において、
前記容器のマイクロ波導入窓部の磁束密度が、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きく、かつ、前記マイクロ波導入窓部側の放電空間から少なくとも前記試料を支持する試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持った状態で、前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記材料ガスの導入口の面との間に前記磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が位置するように前記磁場を調整するか、若しくは前記試料台を移動させ、その後にプラズマを生成し試料をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。」
4.引用刊行物記載の発明
本件特許出願に係る出願公開公報である、特開昭63-213344号公報(以下「刊行物」という。)には、その特許請求の範囲において、
「1.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料台方向に向かってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が少なくとも一部前記試料室内に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。
2 放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場の磁束密度が前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が曲面となるような分布形状を持つと共に、その電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が少なくとも一部前記試料室内に位置することを特徴とするプラズマ処理装置。
3.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。
4.前記補助磁場発生手段を、前記試料室の外側で、かつ、前記試料台とほぼ平行な位置となるように設置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
5.前記補助磁場発生手段を、前記試料室の内側で、かつ、前記試料台とほぼ平行な位置となるように設置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
6.前記補助磁場発生手段を、前記放電管と試料室とのほぼ中間に設置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
7.前記補助磁場発生手段を、前記試料台の裏側に設置したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
8.前記補助磁場発生手段を、前記試料台と兼用させたことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置。
9.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場発生手段における磁束は、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させるような強さであることを特徴とするプラズマ処理装置。
10.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記放電管内の最大磁束密度が、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置における磁束密度の約1.5倍以上であることを特徴とするプラズマ処理装置。
11.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記試料室の外側に、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を設け、該補助磁場発生手段の磁束密度の大きさを50ガウス以上としたことを特徴とするプラズマ処理装置。
12.放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場の磁束密度が前記マイクロ波導入側の放電空間から試料合方向に向ってほぼ単調減少する分布形状を持ち、かつ、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させると共に、前記試料室内に引き出されたプラズマの流径、密度等を制御する補助磁場発生手段を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。」と記載され、また、〔作用〕の項において、
「一般に、プラズマ中を伝搬し、電子サイクロトロン共鳴を起こすマイクロ波は、右回り円偏波であり、この波は、前記電子サイクロトロン共鳴を起こすに必要な磁束密度より小さい磁束密度のプラズマ中では、カットオフとなり伝搬できない。このため、本発明では、放電管のマイクロ波入射端の磁束密度を電子サイクロトロン共鳴位置の磁束密度よりも大きくし、放電管から試料台方向に徐々に減少する磁束密度分布形状とし、かつ、試料室内に前記マイクロ波と電子サイクロトロン共鳴を起こす磁場位置を設けることにより、該共鳴磁束密度よりも高磁束密度領域で高密度プラズマが発生する領域を試料室内まで拡張することができ、かつ、磁場勾配によりプラズマが押し出され試料台まで輸送される距離を0とすることができる。これにより、該共鳴磁束密度より小さい磁束密度側で急激に減少するプラズマ密度に対して、該共鳴位置と試料台の距離を十分小さくできるため、試料表面に高密度プラズマを輸送することが可能となる。」と、さらに、第6頁左上欄第12行〜第18行において、
「このような本実施例では、前記磁場コイル1を小さくでき、第1図〜第4図に示す実施例と同じ効果があり、かつ前記補助磁場発生手段21の調整により、前記磁場コイル1による放電管2内の磁場分布にあまり影響を与えずに前記共鳴発生位置を移動調整することができる」と記載されている。
5.対比及び判断
(5.1)本件第1発明について
本件第1発明と上記刊行物の特許請求の範囲第1項に記載されている発明とを比較すると、両者は、
放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前期放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置するプラズマ処理装置である点において一致し、前者においては、上記試料室の内径が上記放電管の内径より大きいとされているのに対し、後者においては、直接的記載がない点において相違している。
しかしながら、上記刊行物の第1図を参照すると、試料室の内径は、放電管の内径より大きいことは明らかであるので、この点に実質的な相違はない。
したがって、本件第1発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.2)本件第2発明について
本件第2発明と上記刊行物の特許請求の範囲第1項に記載されている発明とを比較すると、両者は、
放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前期放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、
前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持ち、かつ、前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が、少なくとも一部前記試料室内に位置するプラズマ処理装置である点において一致し、以下の点において相違している。
▲1▼前者においては、上記試料室の内径が上記放電管の内径より大きいとされているのに対し、後者においては、直接的記載がない点。
▲2▼前者においては、試料室内に位置する前記電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置は、前記試料台の面と、この試料台の面と平行な前記試料室内に導入される材料ガスの導入口の面との間にあるとされているのに対し、後者においては、上記共鳴発生位置は単に一部が試料室内に位置するとされている点。
そこで、上記相違点について検討すると、相違点▲1▼については、上記(5.1)において述べたとおりであり、相違点▲2▼については、上記(2.4.1)の相違点▲2▼で既に検討したとおりである。
したがって、本件第2発明は、上記刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たことと認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(5.3)本件第3発明について
本件第3発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項に記載されている発明とを比較すると、両者は、
放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えているプラズマ処理装置である点において一致し、以下の点において相違している。
▲1▼前者においては、上記試料室の内径が上記放電管の内径より大きいとされているのに対し、後者においては、直接的記載がない点。
▲2▼前者においては、前記放電管の前記マイクロ波導入側の磁束密度を、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きくし、前記放電管から少なくとも前記試料台の位置まではもまは単調減少する磁束密度分布形状を持たせているのに対し、後者においては、当該箇所に、その点の記載がない点。
▲3▼前者においては、前記磁場発生手段の発生する磁場の磁束密度よりは弱い磁場を発生する補助磁場発生手段を備えているのに対し、後者においては、当該箇所に、その点の記載がない点。
そこで、上記相違点について検討すると、相違点▲1▼については、上記(5.1)において述べたとおりであり、相違点▲2▼については、上記刊行物の[作用]の項において、「放電管のマイクロ波入射端の磁束密度を電子サイクロトロン共鳴位置の磁束密度よりも大きくし、放電管から試料台方向に徐々に減少する磁束密度分布形状とし」と記載されているのでこの点に相違はない。また、相違点▲3▼については、上記(2.4.2)の相違点▲3▼において既に検討したとおりである。
したがって、本件第3発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.4)本件第4発明について
本件第4発明と上記刊行物の特許請求の範囲第5項に記載されている発明とを比較すると、両者は、前記補助磁場発生手段を、前記試料室の内側に配置した点は同一であり、本件第3発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置は、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第4発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.5)本件第5発明について
本件第5発明と上記刊行物の特許請求の範囲第4項に記載されている発明とを比較すると、両者は、前記補助磁場発生手段を、前記試料室の外側に配置した点は同一であり、本件第3発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置は、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第5発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.6)本件第6発明について
本件第6発明と上記刊行物の特許請求の範囲第7項に記載されている発明とを比較すると、両者は、前記補助磁場発生手段を、前記試料室の裏側に配置した点は同一であり、本件第3発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項記載のプラズマ処理装置は、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第6発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.7)本件第7発明について
本件第7発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項及び第11項に記載されている発明とを比較すると、両者は、前記補助磁場発生手段を、前記試料室の外側に配置し、かつ、該補助磁場発生手段の磁束密度の大きさを50ガウス以上とする点については、上記刊行物の特許請求の範囲第11項に記載されており同一であり、その他の点については、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第7発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.8)本件第8発明について
本件第8発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項及び第12項に記載されている発明とを比較すると、両者は、補助磁場発生手段は、前記試料室内に引出されたプラズマの流径、又は密度分布を制御するものである点については、上記刊行物の特許請求の範囲第12項に記載されており同一であり、その他の点については、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第8発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.9)本件第9発明について
本件第9発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項及び第6頁左上欄に記載されている発明とを比較すると、両者は、前記補助磁場発生手段の調整により、前記共鳴発生位置を移動調整するは同一であり、その他の点については、上記(5.3)で検討したとおり同一であるので、結局全体として同一の発明である。
したがって、本件第9発明は、上記刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(5.10)本件第10発明について
本件第10発明と上記刊行物の特許請求の範囲第3項に記載されている発明とを比較すると、後者における「放電ガスが導入されると共に、放電空間の一部を形成する放電管と、該放電管の放電空間内に磁場を発生する磁場発生手段と、前記放電管の放電空間内にマイクロ波を導入する手段と、前記放電管に連結され、かつ、処理されるべき試料を保持する試料台が配置される試料室とを備えたプラズマ処理装置において、前記磁場とマイクロ波により発生する電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる補助磁場発生手段を備えているプラズマ処理」は、前者における「磁場発生手段を備えた容器内にマイクロ波と放電ガスを導入し、該容器内に導入された放電ガスを、前記磁場発生手段にて発生する磁場中の電子サイクロトロン運動とマイクロ波を共嶋させることにより励起、又は電離してプラズマを生成し、このプラズマを利用して前記容器内に導入された材料ガスを試料台に支持される試料の表面に導入し、該試料の表面をプラズマ処理するプラズマ処理方法」に実質的に対応するので、相違するのは、以下の点である。
▲1▼前者においては、前記容器のマイクロ波導入窓部の磁束密度が、磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置の磁束密度より大きく、かつ、前記マイクロ波導入窓部側の放電空間から少なくとも前記試料を支持する試料台の位置まではほぼ単調減少する磁束密度分布形状を持っているのに対し、後者においては、当該箇所には、その点の記載がない点。
▲2▼前者においては、前記試料台の面と、この試料台の面ど平行な前記材料ガスの導入口の面との間に前記磁場とマイクロ波による電子サイクロトロン共鳴の共鳴発生位置が位置するように前記磁場を調整するが、後者においては、上記共鳴発生位置を少なくとも一部前記試料室内に位置させる点。
▲3▼前者においては、上記共鳴発生位置の調整後にプラズマを生成し試料をプラズマ処理するが、後者においては、プラズマの生成時期については記載されていない点。
上記相違点について検討すると、
上記相違点▲1▼については、上記(5.3)の▲2▼において検討したとおりであり、
上記相違点▲2▼については、上記(2.4.1)の相違点▲2▼で検討したとおりである。
上記相違点▲3▼については、プラズマの生成時期は、共鳴発生位置の調整の前あるいは後が考えられるが、通常は、磁場の強度等を調整した後にプラズマを生成させるものと認められるので、上記刊行物記載のプラズマ処理方法においても、共鳴発生位置の調整後にプラズマ生成させることは当業者が容易になし得たことと認められる。
したがって、本件第10発明は、上記刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たことと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
6.むすび
以上のとおり、本件特許明細書の請求項1乃至10に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであるので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-09-06 
出願番号 特願昭62-45259
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01L)
P 1 651・ 113- ZB (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 井上 雅夫小林 明  
特許庁審判長 小林 邦雄
特許庁審判官 松田 悠子
加藤 浩一
登録日 1996-07-25 
登録番号 特許第2544374号(P2544374)
権利者 株式会社日立製作所 株式会社日立エンジニアリングサービス
発明の名称 プラズマ処理装置、及びその方法  
代理人 作田 康夫  

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