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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16B
管理番号 1008953
異議申立番号 異議1998-71248  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-11 
確定日 1999-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2668293号「溶融亜鉛メッキ構造物における高力ボルト摩擦接合方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2668293号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2668293号に係る発明は、平成3年4月25日に出願され、その後、平成9年7月4日にその特許の設定登録がされ、これに対して、安治川鉄工建設株式会社、田中亜鉛鍍金株式会社、日新総合建材株式会社、荒井俊之及びガルバテックス株式会社より、それぞれ特許異議の申立があったので、当審において、当該申立の理由を検討の上、特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成10年9月10日に特許異議意見書が提出されると共に訂正請求がなされたものであり、さらに、当審において、前記訂正請求に対し平成11年1月12日付で訂正拒絶理由を通知して、意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。
II.訂正の適否
1.訂正される請求項1、2及び3に係る発明
訂正される請求項1、2及び3に係る発明(以下、それぞれ「訂正第1発明」、「訂正第2発明」及び「訂正第3発明」という。)は、それぞれ訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2及び3に記載された次の事項により構成されるとおりのものである。
「【請求項1】 溶融亜鉛メッキ母材に溶融亜鉛メツキ添接板を当てて高力ボルトで締め付け、前記母材と前記添接板の間に生じる摩擦力によって応力を伝達するために、前記母材と前記添接板のうち少なくとも摩擦接合面に対してりん酸塩処理を施す高力ボルト摩擦接合方法において、前記りん酸塩処理に先立ち酸洗による表面調整とチタンコロイド溶液による表面調整の2回の表面調整を行うことを特徴とする溶融亜鉛メッキ構造物における高力ボルト摩擦接合方法。
【請求項2】 母材及び/又は添接板が浸漬法によりりん酸塩処理されている請求項1記載の方法。
【請求項3】 母材及び/又は添接板が塗布法によりりん酸塩処理されている請求項1記載の方法。」
2.独立特許要件について
(引用例)
上記訂正第1発明及び訂正第2発明に対し、当審が上記訂正拒絶理由通知に示した引用例1(「管内技術研究発表会 論文集」、(昭和48年度、8月30日〜8月31日、近畿地方建設局)、第21-4頁)及び引用例2(ANNUAL REPORT「DESIGN CRITERIA FOR JOINING GALVANIZED STRUCTURALS」,Department of Civil Engineering University of Illinois Urbana,Illinois,1968年4月発行、p.25-3〜25-37)には、それぞれ、溶融亜鉛メッキ母材を高力ボルトで締め付けて摩擦力によって応力を伝達するために、前記母材と前記添接板のうち少なくとも摩擦接合面に対してりん酸塩処理を施す高力ボルト摩擦接合方法が記載されている。
(対比・判断)
訂正第2発明と上記引用例1及び2のそれぞれに記載された発明とを対比すると、両者は、溶融亜鉛メッキ母材を高力ボルトで締め付けて摩擦力によって応力を伝達するために、前記母材と前記添接板のうち少なくとも摩擦接合面に対してりん酸塩処理を施す高力ボルト摩擦接合方法である点で一致し、以下の各点において相違する。
「相違点1」
訂正第2発明では、母材に添接板を当てて高力ボルトで締め付けているのに対して、引用例1及び2のそれぞれに記載のものでは、添接板を当てることについて明記されていない点。
「相違点2」
訂正第2発明では、りん酸塩処理に先立ち酸洗による表面調整とチタンコロイド溶液による表面調整の2回の表面調整を行うのに対して、引用例1及び2のそれぞれに記載のものでは、そのような表面調整について明記されていない点。
「相違点3」
訂正第2発明では、浸漬法によりりん酸処理されているのに対して、引用例1及び2のそれぞれに記載のものでは、りん酸処理の具体的な方法について明記されていない点。
上記各相違点について検討する。
「相違点1について」
母材に添接板を当てて高力ボルトで締め付ける摩擦接合方法は、従来より周知の接合方法であるので、引用例1及び2のそれぞれに記載の技術を該接合方法に用いることは、当業者が適宜なし得る事項である。
「相違点2について」
亜鉛メッキした部材をりん酸塩処理する前に、酸洗による表面調整とチタンコロイド溶液による表面調整の2回の表面調整を行うことは、安定したりん酸塩被膜を得るための周知の技術であることより(必要なら、「金属表面技術便覧(新版)」(日刊工業新聞社発行昭和38年6月15日、第766頁第10〜17行)及び「最新表面処理技術総覧」(株式会社産業技術サービスセンター発行、初版昭和62年12月21日、重版平成元年10月10日、第236頁表4.3、第244頁左欄第28〜32行)を参照)、引用例1及び2のそれぞれに記載のものに当該表面調整を施すことは、当業者が必要に応じて容易になし得る事項である。
「相違点3について」
浸漬法は、りん酸塩処理に通常用いられる周知の技術であることより(必要なら、間宮富士雄著「金属の化成処理」(株式会社理工出版社、昭和61年4月1日第3刷発行、第19〜23頁)を参照)、上記引用例1及び2のそれぞれに記載のもののりん酸塩処理を浸漬法で行うことは、当業者が容易になし得る事項である。
よって、訂正第2発明は、上記引用例1に記載の発明及び周知の技術に基づき、また、上記引用例2に記載の発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、訂正第1発明は、上記相違点3に係る事項を除いて訂正第2発明と同一の事項により構成されたものであることから、訂正第1発明も、上記と同様の理由により上記引用例1に記載の発明及び周知の技術に基づき、また、上記引用例2に記載の発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、訂正第1発明及び訂正第2発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.新規事項の追加について
訂正明細書の請求項3の記載によれば、塗布法によりりん酸塩処理されるものにおいても、りん酸塩処理に先立ち酸洗による表面調整とチタンコロイド溶液による表面調整の2回の表面調整を行うことになる。
しかしながら、このような事項は、願書に添付した明細書又は図面には記載されておらず、かつ、これらから直接かつ一義的に導き出せる事項でもない。
したがって、上記訂正請求における請求項に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではない。
4.むすび
以上のとおりであるから、この訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同第126条第2項及び第4項の訂正の規定が平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定により「なお従前の例による」とされることより適用される平成5年改正特許法第126条第1項ただし書き及び第3項の規定に適合しないもので、当該訂正は認められない。
III.特許異議申立について
1.本件発明
本件特許第2668293号の請求項1、2及び3に係る発明(以下、それぞれ「本件第1発明」、「本件第2発明」及び「本件第3発明」という。)は、その特許明細書及び図面の記載から、それぞれその特許請求の範囲の請求項1、2及び3に記載された次の事項により構成されるとおりのものである。
「【請求項1】 溶融亜鉛メッキ母材に溶融亜鉛メツキ添接板を当てて高力ボルトで締め付け、前記母材と前記添接板の間に生じる摩擦力によって応力を伝達する高力ボルト摩擦接合方法であって、前記母材と前記添接板のうち少なくとも摩擦接合面に対してりん酸塩処理を施すことを特徴とする溶融亜鉛メッキ構造物における高力ボルト摩擦接合方法。
【請求項2】 母材及び/又は添接板が浸漬法によりりん酸塩処理されている請求項1記載の方法。
【請求項3】 母材及び/又は添接板が塗布法によりりん酸塩処理されている請求項1記載の方法。」
2.引用例
上記本件第1乃至3発明に対し、当審が取消理由通知に示した引用例1及び2は、上記訂正拒絶理由に示した引用例1及び2に対応するものであり、それら引用例1及び2には、それぞれ上記した事項が記載されている。
また、当審が取消理由通知に示した引用例3(間宮富士雄著、「金属の化成処理」、株式会社理工出版社、昭和61年4月1日第3刷発行、第19〜23頁)には、りん酸塩皮膜処理においてスプレー法またはブラッシング法(本件第3発明の「塗布法」に相当。)を用いることが記載されている。
3.対比・判断
本件第2発明と上記引用例1及び2のそれぞれに記載された発明とを対比すると、両者は、溶融亜鉛メッキ母材を高力ボルトで締め付けて摩擦力によって応力を伝達する高力ボルト摩擦接合方法であって、前記母材の摩擦接合面に対してりん酸塩処理を施す点で一致し、上記「II.訂正の適否」の「2.独立特許要件について」においての訂正第2発明との対比・判断で挙げた相違点1及び3において相違するが、
上記「II.訂正の適否」の「2.独立特許要件について」においての訂正第2発明との対比・判断での理由と同様な理由により、本件第2発明の上記各相違点に係る構成は、周知の技術より当業者が容易に想到できるものであるから、本件第2発明は、上記引用例1に記載の発明及び周知の技術に基づき、また、上記引用例2に記載の発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件第1発明は、上記相違点3に係る事項を除いて本件第2発明と同一であることから、本件第1発明も、上記と同様の理由により上記引用例1に記載の発明及び周知の技術に基づき、また、上記引用例2に記載の発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件第3発明と上記引用例1及び2のそれぞれに記載された発明とを対比すると、上記相違点1の他に、訂正第3発明では、塗布法によりりん酸処理されているのに対して、引用例1または2に記載のものでは、りん酸処理の具体的な方法について明記されていない点で相違するが(以下、「相違点4」という。)、
相違点1については、上記訂正第2発明との対比での理由と同様な理由により、周知の技術より当業者が容易に想到できるものであり、
また、相違点4について検討すると、塗布法は、上記引用例3にも記載されているように、りん酸塩処理に通常用いられる周知の手段であることより、上記引用例1及び2のそれぞれに記載のもののりん酸塩処理を塗布法で行うことは、当業者が容易になし得る事項であるから、本件第3発明も、上記引用例1に記載の発明及び周知の技術に基づき、また、上記引用例2に記載の発明及び周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件第1乃至第3発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件第1乃至第3発明に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願にされたものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件第1乃至第3発明に係る特許は、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づき適用される、平成7年政令205号第4条第1項及び第2項の規定により、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-10-21 
出願番号 特願平3-124902
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (F16B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 石川 昇治  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 鳥居 稔
西村 敏彦
登録日 1997-07-04 
登録番号 特許第2668293号(P2668293)
権利者 オーエム工業株式会社
発明の名称 溶融亜鉛メッキ構造部における高力ボルト摩擦接合方法  
代理人 進藤 満  
代理人 苫米地 正敏  
代理人 竹内 卓  
代理人 柳野 隆生  
代理人 赤岡 迪夫  
代理人 岡本 昭二  

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