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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C30B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
管理番号 1009040
異議申立番号 異議1998-75500  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-08-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-17 
確定日 2000-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2751063号「液相エピタキシャル成長膜形成方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2751063号の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2751063号の請求項1に係る発明は、平成1年2月6日に特許出願され、平成10年2月27日に特許の設定登録がなされ、その後、都野キヨコより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月10日に訂正請求がなされたものである。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の要旨
(1)訂正事項▲1▼
願書に添付した明細書(以下、「明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】中の「他面に粗面加工を施した基板に、」を「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、」と訂正する。
(2)訂正事項▲2▼
明細書第4頁第6〜7行(特許公報第2頁第3欄第27〜28行)の「他面に粗面加工を施した基板に、」を「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、」と訂正する。
(3)訂正事項▲3▼
明細書第5頁第9〜11行(特許公報第2頁第3欄第49行〜50行)の「研磨紙としては#3000より粗いのものを用いるのが好ましい。」を、「研磨紙としては#3000より粗いのものを用いる。」に訂正する。
(4)訂正事項▲4▼
明細書第11頁第1〜2行(特許公報第3頁第6欄第23行〜24行)の「他面に粗面加工」を、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工」に訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項▲1▼について、
訂正事項▲1▼は、訂正前の発明の構成要件である「他面に粗面加工を施した基板に」を「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングした時の表面と同程度に粗面加工を施した基板に」とすることによって、粗面加工後の基板表面の粗面の程度(状態)を技術的に限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、明細書第5頁第5行〜第6頁第3行(特許公報第2頁第3欄第45行〜第4欄第12行)には「粗面加工には、表面を機械的に処理して粗面にする機械的方法、表面を化学薬品で処理して粗面にする化学的方法があるが、機械的方法を採用するのが好ましい。この機械的方法は、研磨紙で擦る方法が簡単で能率的である。研磨紙としては#3000より粗いのものを用いるのが好ましい。…(中略)…#1500〜3000の範囲の研磨紙でラッピングした場合には上記した現象が見られる。従って、本発明によれば、粗面加工した面に膜が形成されない場合にはそのままで、また粗面加工下面にも膜が形成された場合には基板全体に施す簡単な化学的エッチングで膜を除去することにより、鏡面状態の面のみ、すなわち片面のみに結晶膜が育成した基板が得られる。」と記載されている。
この記載は、#3000以下の研磨紙によるラッピングによって基板に粗面加工を施すことが好ましいことを開示するものであるが、このことは、粗面加工後の表面状態としては、#3000以下の研磨紙によるラッピングを施した場合に得られるような粗面化された表面状態が好ましいことを明らかに開示しており、従って、基板としては、#3000以下の研磨紙によるラッピングを施したときの表面と同程度に粗面加工を施されたものが好ましい結果を与えることを開示している。
してみれば、上記訂正事項▲1▼による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。
また、訂正事項▲1▼によって、特許請求の範囲を減縮することにより、新たな目的又は効果が付加されるものではないから、この訂正は実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
(2)訂正事項▲2▼〜▲4▼について
訂正事項▲2▼〜▲4▼は、訂正事項▲1▼によって特許請求の範囲を減縮することに併せて、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、これらの訂正事項に係る、基板の表面を#3000以下の研磨紙でラッピングする点及び基板を#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施す点が、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであることは上記「II.2(1)」で述べたとおりである。
更に、これらの訂正は実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
3.独立特許要件の判断
(1)訂正後の請求項1に記載された発明
訂正後の請求項1に記載された発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「片面を鏡面状態にし、他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、液相エピタキシャル法によって結晶成長を行わせることにより、基板の片面のみに液相エピタキシャル成長膜を形成すること特徴とする液相エピタキシャル成長膜形成方法」(以下、「訂正発明」という。)
(2)当審が通知した取消理由の概要
▲1▼特許法第29条第1項、2項違反について
請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明であるか、引用例1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。
▲2▼特許法第36条第4項違反について
請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきである。
(3)引用刊行物
当審が通知した取消理由で引用した各刊行物には、以下の事項が記載又は図示されている。
▲1▼特開昭52-142476号公報(以下、「引用例1」という。)
引用例1には、「従来使用されている基板は、結晶成長面のみが鏡面に仕上げられ、治具との接触面粗面のままであり、接触による密着状態が均一でないため、治具からの熱伝達が一様になされない。従って供給された基板の結晶表面における熱の分布が均一でなくなり、その上に結晶成長する層も熱分布の差に影響され、均一な厚み分布が得られないと云う欠点がある。」(第1頁左下欄最下行〜右下欄第7行)と記載され、「本発明の方法を実施するために使用される装置の一例を示す要部の略図」である図面が図示されている。
▲2▼特開昭57-76822号公報(以下、「引用例2」という。)
引用例2には、「基板をメルト表面に浮遊させ薄膜結晶を液相エピタキシャル成長にて基板の一方表面にのみ成長させ、メルトの寿命を延長させる方法に関する。」(第1頁右下欄第7〜9行)と記載されている。
▲3▼SUMITOMO ELECTRIC,″SUMITOMO III-V SEMICONDUCTORS SPECIFICATIONS 1983″(1983)(以下、「引用例3」という。)
引用例3には、GaAsウエハ製品として、片面をポリシングし他面をラッピングして簡単にエッチングした基板又は片面をポリシングし他面をエッチングした基板が掲載されている。
▲4▼特開昭56-24987号公報(以下、「引用例4」という。)
引用例4には、「第2図は本発明に係るGaAs赤外発光ダイオードの一実施例の構造を示す断面図である。(11)は不純物濃度(3〜30)×1017cm-3のSi不純物を含むn+形GaAs基板で、このn+形GaAs基板上にGaAsのGa飽和融液(Ga25g,GaAs5g)にSiを50mg添加した結晶成長融液をかぶせて通常の液相エピタキシャル成長を行なう。」(第2頁左下欄第5行〜11行)と記載され、「本発明に係るGaAs赤外発光ダイオードの一実施例の断面図」である第2図が図示されている。
(4)対比・判断
(4-1)特許法第29条第1項及び第2項違反について
▲1▼訂正発明の構成及び効果について
訂正発明は、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板」を用いることにより、「通常の液相エピタキシャル成長法および装置により、基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜を育成することができる。その結果、基板の表面に育成した結晶膜の表面を、基板と平行度よく研磨するのが容易となるという格別の効果を奏すると共に、融液の浪費を避け、その寿命を延ばすという効果をも発揮する。」(訂正明細書第6頁第2〜6行)という訂正明細書記載の効果を奏するものである。
▲2▼各引用例との対比
引用例1には、基板の一面を鏡面とし、他面を粗面のままにして液相成長を行う旨の記載があるが、その「粗面」がどのようにして形成されどのような状態のものであるのかについては何ら示唆するところはなく、従って、その「粗面」が「#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度」のものであるとすることはできない。
引用例2には、基板の裏面に成長される結晶薄膜は使用されないので、裏面の結晶成長分だけメルトが無駄になることが記載されており、これは訂正発明の目的についての示唆を与えるものではあるが、その目的を達成する手段である基板の裏面を粗面加工する点については記載も示唆もない。
引用例3には、一面を鏡面とし他面をラッピング後にエッチングした基板についての記載があり、このラッピング処理は訂正発明における「粗面加工」に相当するものであるといえるが、このラッピング処理を行う目的については特に記載がなく、また、引用例3記載の基板はこのラッピング処理後に更にエッチング処理を施すものであり、これは、粗面加工のみを施すという訂正発明のものとは異なる。
更に、引用例3には、ラッピング後エッチングした基板の表面がどのような粗面化された状態にあるのかは不明であり、その表面が「#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度」のものであるとすることはできない。
引用例4には、GaAs基板に液相エピタキシャル成長を施すことについての記載はあるが、基板の一側の表面を粗面化する点については記載がない。
▲3▼各引用例に記載された発明を組み合わせる点について
上記したように、各引用例には訂正発明の、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板」という構成の点については記載および示唆がない。
そして、引用例2,4には、基板表面を粗面化することについての記載がなく、引用例1、3には、基板表面が粗面であることについては記載があるものの、基板を粗面化することの目的についての記載も、粗面化の程度についての記載もないのであるから、引用例1〜4の記載を相互に勘案しても、基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜を形成することを目的として、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施」すという構成の点については当業者が容易に想到し得たとすることはできず、また、この構成を発明の構成として備えることにより基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜が得られるという効果が奏されることについては当業者が容易に予測し得たとすることはできない。
▲4▼まとめ
上記のとおりであるから、訂正発明は、引用例1に記載された発明であるとも、引用例1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認めることができない。
(4-2)特許法第36条第4項第1号違反について
訂正明細書の第2頁第17〜21行には、「本発明は、片面を鏡面状態にし、他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、液相エピタキシャル法によって結晶成長を行わせることにより、基板の片面のみに液相エピタキシャル成長膜を形成すること特徴とする液相エピタキシャル成長膜形成方法である。」旨の記載があり、これは訂正発明の構成の全てを記載したものである。
従って、訂正明細書の発明の詳細な説明には、特許を受けようとする発明(訂正発明)が記載されている。
(5)まとめ
上記のとおりであるから、訂正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
5.訂正の認否
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
前述のように、本件訂正は適法なものであるので、本件請求項1に係る発明は、前記「II.3(1)」において摘記したとおりの「訂正発明」である(以下、「訂正発明」を「本件発明」という。)。
2.申立ての理由の概要
特許異議申立人(以下、「申立人」という。)は、次の理由により、本件発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)理由1
請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するため特許を受けることができないものであるか、又は、甲第3号証乃至甲第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第113条第2号に該当する。
(2)理由2
請求項1に係る発明の特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第4項第1号(昭和62年法)に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであるから、特許法第113条第4号に該当する。
2.証拠
甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証は、上記「II.3(3)」であげた引用例1、引用例2、引用例3及び引用例4と同一のものであり、これらの記載事項については既に摘記した。
また、甲第1号証(新機能化合物半導体懇談会編「化合物半導体入門」(1987年3月)第1〜33頁)の第8〜11頁には「6.化合物半導体の製法(GaAsを例として)」についての記載及び第10頁には「(2)加工工程」、第11頁には「(3)エピタキシャル成長」についての記載がそれぞれあり、GaAs結晶基板に、ラッピング、エッチング、ポリシング、洗浄を行って得たウエハーに液相エピタキシャル成長させることについての記載がある。
甲第4号証(特開昭50-137675号公報)は、「薄膜結晶をエピタキシャル成長させる場合、結晶成長は通常下地面の原子の配列に従うので、加工変質層や加工による引っかきこんのようなきずが存在すると、成長する薄膜はそれらの欠陥を受け継ぎ、時にはそれ以上に拡大することさえある。」(第2頁2欄第3〜8行)及び「本件発明は、…(中略)…その目的は結晶のエピタキシャル成長下地として加工欠陥のない鏡面を経済的に提供することにある。」(第2頁第3欄第7〜11行)と記載されている。
3.判断
(1)理由1について
本件発明と各証拠に記載された発明とを対比する。
上記「II.3(4)」で述べたように、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証には、本件発明の「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板」を用いる構成については記載及び示唆がない。
また、甲第1号証には、基板にラッピングを施すことについての記載があり、これは「粗面加工」に該当するが、甲第1号証記載のものは、ラッピング後に更にエッチング、ポリシング、洗浄を施すものであって、これは本件発明における粗面加工のみを施すというものとは異なる。
更に、甲第1号証には、洗浄後に得られた基板の表面がどのような状態にあるかは不明であり、その表面が本件発明におけるような「#3000以下の研磨紙でラッピングした時の表面と同程度」のものであるとすることはできない。
甲第4号証には、基板の表面を鏡面とすることにより良好なエピタキシャル成長を行わせることについての記載はあるが、エピタキシャル成長に際して基板の他面を粗面化することについての記載及び示唆はなく、また、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板」を使用することにより、基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜を育成することができるようにすることができることについても記載及び示唆がない。
また、甲第1〜6号証のいずれにも、本件発明の、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板」を用いるという構成の点については記載及び示唆がないのであるから、甲第1〜6号証の記載を相互に勘案しても、基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜を形成することを目的として、「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施」すという構成の点については当業者が容易に想到し得たとすることはできず、また、この構成を発明の構成として備えることにより、基板の片面のみにエピタキシャル成長の結晶膜が得られるという効果が奏されることについては当業者が容易に予測し得たとすることはできない。
したがって、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証にそれぞれ記載された発明であるとすることも、甲第3号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
(2)理由2について
申立人の主張する理由2は、当審の取消理由と同一のものであり、この点については、既に上記「II.3(4-2)」で述べたとおりであり、理由2によっては本件発明の特許を取り消すべきものとすることはできない。
また、請求人は、特許異議申立書の記載(第11頁第25行〜第12頁第9行)からすると、明細書の発明の詳細な説明には、#1500〜#3000の研磨紙でラッピングする場合しか開示されていない旨主張しているようであるが、願書に添付した明細書(訂正明細書)の第3頁第5〜10行には、「研磨紙としては#3000より粗いものを用いる。」旨の記載があり、同じく第3頁第24行〜第5頁第27行には、#1000の研磨紙でラッピングした場合(実施例1、3)及び#2000の研磨紙でラッピングした場合(実施例2)について、所期の効果が奏されたことが記載されており、これらの記載は#3000以下の研磨紙が使用できること及び#1500〜#3000の範囲内のものばかりでなく、#1500を下回るものも所期の効果を奏することを開示するものである。
また、同明細書の第3頁第5〜10行には、「研磨紙としては#3000より粗いものを用いる。粗面加工した面の粗いの程度によってエピタキシャル成長による膜が全く育成されない場合と、膜の育成は見られるが、膜の結晶性が著しく劣悪で化学的エッチングで容易に除去できる場合がある。液相エピタキシャル操作の条件にもよるが、#1500〜#3000の範囲の研磨紙でラッピングした場合には上記した現象が見られる。」旨の記載があるが、これは、#3000以下の研磨紙であれば効果を奏するが、#3000以下のもののうち、#1500〜#3000の範囲の研磨紙でラッピングした場合には、エピタキシャル成長による膜が全く育成さない場合と、育成されてもそれが化学的エッチングによって容易に除去できる場合とがあることを述べているのであって、#1500以下のものの使用が排除されることを述べているのではなく、むしろ#1500以下のものではエピタキシャル成長による膜が全く形成されないことを示唆していると解するべきである。
上記のとおりであるから、明細書の発明の詳細な説明には、本件発明が記載されているとすることができ、上記申立人の主張は採用できない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液相エピタキシャル成長膜形成方法
(57)【特許請求の範囲】
1.片面を鏡面状態にし、他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、液相エピタキシャル法によって結晶成長を行わせることによリ、基板の片面のみに液相エピタキシャル成長膜を形成すること特徴とする液相エピタキシャル成長膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、液相エピタキシャル法によリ基板の片面のみにエピタキシャル成長膜を形成する方法である。
(従来の技術及び解決すべき課題)
光スイッチ、光変調器、SHG素子、光アイソレータなど光デバイスの製造に際しては、各種の基板の上に種々の酸化物結晶膜を形成させ、この結晶膜の表面を基板と平行に研磨する必要が生ずる場合が多くある。
ところで、基板の表面に液相エピタキシャル法によりエピタキシャル成長膜を形成するには、従来は、基板を爪で固定して融液中に浸漬し、基板表面に薄膜結晶を成長させる方法が採用されている。この方法では基板の表面のみならず、裏面にも結晶膜が形成される。液相エピタキシャル成長の場合、通常基板を回転させながら結晶を育成するために、結晶膜は基板中央部には薄く、周辺部には厚く育成し、マクロ的にみて結晶膜表面に凹凸が生じるので、このように裏面にも結晶膜が形成されていると、基板の表面に形成された結晶膜を研磨するとき、裏面の結晶膜の凹凸のため研磨の基準面が設定できなく、従って基板と結晶膜との平行度の高い研磨を行うことが困難である。
本発明は、上記の欠点を除くため、基板の表面のみ(すなわち、基板の片面のみ)に液相エピタキシャル成長による結晶膜を形成させることを目的とする。
しかして、本発明とは異なる目的で、すなわち融液の浪費を避け、融液の寿命を延ばす目的で基板を融液に浮かせて液相エピタキシャル成長を行わせ、基板の片面のみに結晶膜を形成する方法が知られている(特開昭57-76822号公報)が、この方法では、基板の位置制御が難しく、結晶育成操作中に基板の熱分布が不均一になるため歪が生じやすい欠点がある。又、基板の一部分を予め白金などでマスクしておき、この基板を融液中に浸漬し、該マスクを施さない部分のみに結晶膜を形成する方法も知られている(特開昭55-55511号公報)が、この方法も白金などのマスク材料が高価であり、且つ除去が困難であり、又マスク材料が融液中に混入して膜を劣化させる欠点があった。
本発明は、これら従来法の欠点を除き、簡単に基板の片面のみに液体エピタキシャル成長法によリエピタキシャル成長膜を形成させる方法を提供するものである。
(課題を解決するための手段)
本発明者等は、液体エピタキシャル成長によリ基板上に成長させたエピタキシャル膜の結晶の性質、状態は、基板の表面の粗さの程度に著しく影響され、基板の表面の粗さがある程度以上になると、結晶膜の形成そのものが阻害され、また結晶膜が形成されてもその膜質は極度に劣悪であり化学的エッチングで簡単に除去できることを知見し、この現象を巧みに利用して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、片面を鏡面状態にし、他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、液相エピタキシャル法によって結晶成長を行わせることによリ、基板の片面のみに液相エピタキシャル成長膜を形成すること特徴とする液相エピタキシャル成長膜形成方法である。
本発明は、液相エピタキシャル成長法に通常使用されている方法、装置をそのまま使用して、又融液を汚染することなく、しかも粗面加工という極めて簡単な方法で、基板の片面のみにエピタキシャル成長膜を形成できるので非常に有利である。
本発明方法で適用できる基板は、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG,Gd3Ga5O12)、サマリウム・ガリウム・ガーネット(SmGG,Sm3Ga5O12)、ネオジウム・ガリウム・ガーネット(NdGG,Nd3Ga5O12)、サファイア(Al2O3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)タンタル酸リチウム(LiTaO3)をはじめとする光学用単結晶基板である。
これら基板の片面を粗面加工し、他の面は鏡面状態にしておく。粗面加工には、表面を機械的に処理して粗面にする機械的方法、表面を化学薬品で処理して粗面にする化学的方法があるが、機械的方法を採用するのが好ましい。この機械的方法は、研磨紙で擦る方法が簡単で能率的である。、研磨紙としては#3000より粗いのものを用いる。粗面加工した面の粗いの程度によってエピタキシャル成長による膜が全く育成されない場合と、膜の育成は見られるが、膜の結晶性が著しく劣悪で化学的エッチングで容易に除去できる場合がある。液相エピタキシャル操作の条件にもよるが、#1500〜#3000の範囲の研磨紙でラッピングした場合には上記した現象が見られる。
従って、本発明によれば、粗面加工した面に膜が形成されない場合にはそのままで、また粗面加工した面にも膜が形成された場合には基板全体に施す簡単な化学的エッチングで膜を除去することによリ、鏡面状態の面のみ、すなわち片面のみに結晶膜が育成した基板が得られる。そして、この基板の他の面には粗面加工した状態のままで、膜の形成に起因する前述した結晶膜の凹凸がないため、この面を基準にすると基板の平行面を容易に決めることができる。その為、基板の片面に形成させた結晶膜の表面を基板と平行に研磨することが容易となる。
本発明は、基板表面に液相エピタキシャル成長法により酸化物結晶膜を育成する際に好適であり、例えば、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12,(Bi,Gd)3(Fe,Ga)5O12,(Bi,Y)3(Fe,Ga)5O12,(Bi,Gd)3(Fe,Al)5O12,LiNbO2,Ba2NaNb5O15などの結晶膜の形成に適用される。
本発明方法は、通常の液相エピタキシャル法および装置が使用される。
実施例1
1)直径2インチ、厚さ0.5mmのGGG(Gd3Ga2O12、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハを平行度が<2μmとなるように片面を鏡面研磨、もう一方の面を#1000の耐水研磨紙でラッピングした後、超音波洗浄、乾燥した。
2)得たウエハを、基板を回転させながら融液中に浸漬し基板上に結晶膜を育成させるLPE成長育成装置にセットし、PbO,Bi2O3,B2O3をフラックス成分としたBi1Y2Fe4Al1O12+PbO+Bi2O3+B2O3の混合物融液中で、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜をウエハ上に育成した。育成条件は、基板回転数100rpm、育成温度840℃、育成時間10分であった。次いで基板回転数1000rpm、30秒間融液上で融液を振り切る。徐冷の後、酢酸に12時間浸漬することによリ余剰な付着物であるフラックス成分を除去した。
3)鏡面研磨面には、膜厚が8〜12μmの良質な(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜が成長したが、研磨紙でラッピングした研磨面には結晶薄膜は何ら成長せず、ラップ研磨面のままであった。
4)このラップ研磨面を基準面とし、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜のラッピング、鏡面研磨を行ったところ、基板との平行度が<2μmと、GGG単結晶ウエハと同等の平行度を有する(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜を得た。
実施例2
1)直径2インチ、厚さ0.5mmのGGG(Gd3Ga5O12、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハを平行度が<2μmとなるように片面を鏡面研磨、もう一方の面を#2000の耐水研磨紙でラッピングした後、超音波洗浄、乾燥した。
2)得たウエハを実施例1と同じLPE成長育成装置にセットし、PbO,Bi2O3,B2O3をフラックス成分としたBi1Y2Fe4Al1O12+PbO+Bi2O3+B2O3の混合物融液中で、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜をウエハ上に育成した。育成条件は、基板回転数100rpm、育成温度840℃、育成時間10分であった。実施例1と同様に融液を振り切り、徐冷の後、酢酸に12時間浸漬することによリ余剰な付着物であるフラックス成分を除去した。
3)鏡面研磨面には、膜厚が8〜12μmの良質な(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜が成長した。ラップ研磨面には、かなり膜質が劣る(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12、即ち若干の単結晶部位を含む多結晶薄膜が成長した。次いで、90℃リン酸で10分間化学エッチングを行ったところ、単結晶薄膜には何ら変化が見られなかったが、単結晶含有多結晶薄膜は消失し、元来のGGGラップ研磨面が露出した。
4)このラップ研磨面を基準面とし、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜のラッピング、鏡面研磨を行ったところ、基板との平行度が<2μmと、GGG単結晶ウエハと同等の平行度を有する(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜を得た。
実施例3
1)直径2インチ、厚さ0.5mmのSmGG(Sm3Ga5O12,サマリウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハおよび、NdGG(Nd3Ga5O12,ネオジウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハを平行度が<2μmとなるように片面を鏡面研磨、もう一方の面を#1000の耐水研磨紙でラッピングした後、超音波洗浄、乾燥した。
2)得たウエハを実施例1と同じLPE成長育成装置にセットし、PbO,Bi2O3,B2O3をフラックス成分としたBi1Y2Fe4Al1O12+PbO+Bi2O3+B2O3の混合物融液中で、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜をウエハ上に育成した。育成条件は、基板回転数100rpm、育成温度840℃、育成時間10分であった。実施例1と同様に融液を振り切り、徐冷の後、酢酸に12時間浸漬することにより余剰な付着物であるフラックス成分を除去した。
3)鏡面研磨面には、膜厚が8〜12μmの良質な(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜が成長したが、研磨紙でラッピングした面には何ら成長せず、ラップ研磨面のままであった。
4)このラップ研磨面を基準面とし、(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜のラッピング、鏡面研磨を行ったところ、基板との平行度が<2μmと、SmGG(Sm3Ga5O12,サマリウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハおよび、NdGG(Nd3Ga5O12,ネオジウム・ガリウム・ガーネット)単結晶ウエハと同等の平行度を有する(Bi,Y)3(Fe,Al)5O12単結晶薄膜を得た。
(発明の効果)
本発明によれば、片面を鏡面状態にし、他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施すという極めて簡単な手段を採用するだけで、通常の液相エピタキシャル成長法および装置により、基板の片面にのみにエピタキシャル成長の結晶膜を育成することができる。その結果、基板の表面に育成した結晶膜の表面を、基板と平行度良く研磨するのが容易となるという格別の効果を奏するとともに、融液の浪費を避け、その寿命を延ばすという効果をも発揮する。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2751063号発明の願書に添付した明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正する。
訂正の内容は次のとおりである。
1.特許請求の範囲の減縮を目的として、
明細書の特許請求の範囲の【請求項1】中の「他面に粗面加工を施した基板に、」を「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、」と訂正する。
2.明りょうでない記載の釈明を目的として、次の訂正を行う。
(1)明細書第4頁6〜7行(特許公報第2頁3欄27〜28行)の
「他面に粗面加工を施した基板に、」を
「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工を施した基板に、」と訂正する。
(2)明細書第5頁9〜11行(特許公報第2頁3欄49行〜50行)の
「研磨紙としては#3000より粗いのものを用いるのが好ましい。」を、
「研磨紙としては#3000より粗いのものを用いる。」に訂正する。
(3)明細書第11頁1〜2行(特許公報第3頁6欄23行〜24行)の
「他面に粗面加工」を、
「他面に#3000以下の研磨紙でラッピングしたときの表面と同程度に粗面加工」に訂正する。
異議決定日 1999-12-21 
出願番号 特願平1-25923
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C30B)
P 1 651・ 113- YA (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 影山 秀一
内野 春喜
登録日 1998-02-27 
登録番号 特許第2751063号(P2751063)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 液相エピタキシャル成長膜形成方法  
代理人 樋口 榮四郎  
代理人 田中 宏  
代理人 田中 宏  
代理人 樋口 榮四郎  

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