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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1009066
異議申立番号 異議1998-74359  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1988-11-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-09-09 
確定日 2000-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2723224号「非晶質半導体およびその製法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2723224号の特許請求の範囲第1項ないし第3項に記載された発明についての特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2723224号発明は、昭和62年5月15日に特許出願され、平成9年11月28日にその特許の設定登録がなされ、その後、佐藤正より特許異議の申立てがなされ、平成11年5月18日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月4日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
*訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1及び3における「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露したのち膜堆積を再開する」を、「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開する」と訂正する。
*訂正事項b
本件明細書の第3頁第22行乃至第24行(本件特許公報の第2頁第3欄第17行乃至第19行)における「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露したのち膜堆積を再開する」を、「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開する」と訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、非晶質半導体及びその製法において、「堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露」する際の作用を、「膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断」する点に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり(特許明細書第4頁第21行乃至第5頁第2行の記載を参照)、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
また、上記訂正事項bは、請求項1及び3が訂正されたことに伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正で、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。
ウ.独立特許要件の判断
(本件発明)
訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明は、その特許請求の範囲の第1項乃至第3項に記載された次のとおりのものである。
「1 シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開することを特徴とする非晶質半導体の製法。」(以下、「本件第1発明」という。)
「2 水素ラジカル雰囲気を形成させるための方法が水素ガス、または、水素ガスと不活性ガスとの混合物のグロー放電分解であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の製法。」
「3 シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開することにより作成され、その組成が、a-Si1-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)またはa-Si1-x-yGexCy:H:F(0≦x,y≦1)であることを特徴とする非晶質半導体。」(以下、「本件第2発明」という。)
なお、請求項2は、請求項1に記載された発明の実施態様項であるから、請求項1に含めて検討する。
(引用例)
訂正明細書の本件発明に対して、当審が平成11年5月18日付けの取消理由で引用した特開昭60-163429号公報(以下、「引用例」という。)には、以下のとおりの記載がなされている。
「以下、p-i-n型の太陽電池のi型層に水素を含むアモルフアスシリコン層(以下a-Si:H)を用いた実施例について詳細に説明する。第1図は、従来のアモルフアスシリコン太陽電池の一実施例を示す断面図であり、1は透明ガラス基板、2はITO又はSnO2等の透明導電膜、3はアモルフアスシリコン層で、7は金属電極、基板側から伝導型がp型(4)、i型(5)、n型(6)の順に形成されている。」(第2頁右上欄第8行乃至第16行)、
「本発明者らは、上記欠点をなくすためi型層の局在準位密度を発生させるダングリングボンドを消去する水素や弗素を添加する方法について鋭意検討することにより、膜質向上を図ることができた。」(第2頁左下欄第15行乃至第18行)、
「本発明では、i型層を形成後、H2中でプラスマアニールを施した後、n型層を形成したことが異なる。」(第2頁右下欄第1行乃至第3行)、
「本発明ではi型層成膜後のH2プラズマアニールとして、基板温度はi型層形成時と同じ250℃とし、1.0Torr下で13.56MHzの高周波で、50Wの放電パワーを用いて約10分間行なった。」(第2頁右下欄第6行乃至第10行)、
「実施例1、2では、i型層として水素添加アモルフアスシリコン膜を用いた単層セルについて示したが、さらに光電変換効率を向上させるためには太陽光等のうち長波長光の有効利用を図る必要があり、この為に、第4図に示すような太陽電池を多層に積層した多層構造型太陽電池が考えられており、第1層目の太陽電池のi型層より第2第3層目の太陽電池のi型層に、禁止帯幅の小さいアモルフアスシリコンゲルマニアム(アモルフアスゲルマニウムの誤記と認められる。)あるいはアモルフアスシリコンスズを用いているが、ゲルマニウムやスズの添加と共に膜質低下がみられるため十分な光電変換効率は得られていなかった。本発明では、こうした多層構造型太陽電池についても適用でき、各太陽電池のi型層形成後にH2プラズマアニールをそれぞれわずか約5〜10分間施すことにより、大幅な光電変換効率の向上が認められた。ゲルマニウムやスズをアモルフアスシリコンに添加する供給源として、GeH4,GeF4,SnH4,SnF4,Sn(CH2)4のゲルマニウムと水素あるいはハロゲンとの化合物あるいは炭化水素との化合物があり、シリコンの供給源としてSiH4,Si2H6,SiF4ガスとを同時に供給したブロー放電分解法(グロー放電分解法の誤記と認められる。)、あるいは・・・によつてもアモルフアスシリコンゲルマニアム(アモルフアスシリコンゲルマニウムの誤記と認められる。)やアモルフアスシリコンスズが得られる。」(第3頁右上欄第15行乃至左下欄第20行)
以上の記載を参酌すると、引用例には、「アモルフアスシリコンからなるi型層をSiH4又はSi2H6ガスを用いたグロー放電分解法で形成後、該i型層形成時と同じ基板温度でH2プラズマアニールを施すことによって、該i型層の局在準位密度を発生させるダングリングボンドを消去し、その後、該n型層を形成した水素添加アモルフアスシリコン層の形成方法及び当該方法によって形成された水素添加アモルフアスシリコン層」が記載されている。
(対比・判断)
〔本件第1発明について〕
本件第1発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明における「SiH4又はSi2H6ガス」、「アモルフアスシリコン層」及び「H2プラズマアニール」は、本件第1発明における「シラン系ガス」、「シリコン系非晶質半導体」及び「水素ラジカル雰囲気に暴露」にそれぞれ相当し、引用例に記載された発明の「グロー放電分解法」によって薄膜を形成する点は、本件第1発明のシラン系ガスをプラズマによって分解することによって薄膜を形成する点に相当するから、両者は、「シラン系ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の温度にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、ついで膜堆積を再開することを特徴とする非晶質半導体の製法」である点で一致し、本件第1発明では、「水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断している」のに対して、引用例に記載された発明では、「水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、局在準位密度を発生させるダングリングボンドを消去している」点で相違している。
上記相違点について検討する。引用例には、水素ラジカル雰囲気に暴露することによる作用について「i型層の局在準位密度を発生させるダングリングボンドを消去する」という記載はあるものの、本件第1発明の必須の構成要件である「膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断」する点については、記載も示唆もされていない。そして、本件第1発明は、上記の構成を採用することにより、「光劣化の小さな非晶質半導体をうることができる。」という明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件第1発明は、引用例に記載された発明と同一であるとも、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
〔本件第2発明について〕
次に、本件第2発明と引用例に記載された発明を対比すると、引用文献に記載された発明における「SiH4又はSi2H6ガス」、「アモルフアスシリコン層」及び「H2プラズマアニール」は、本件第2発明における「シラン系ガス」、「シリコン系非晶質半導体」及び「水素ラジカル雰囲気に暴露」にそれぞれ相当し、引用例に記載された発明の「グロー放電分解法」によって薄膜を形成する点は、本件第2発明のシラン系ガスをプラズマによって分解することによって薄膜を形成する点に相当し、さらに、引用例に記載された発明における「水素添加アモルフアスシリコン層」は、本件第2発明における「a-Si1-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)」でx=0,y=0とした場合に相当するから、両者は、「シラン系ガスをプラズマによって分解することにより作成され、その組成がa-Si1-x-yGexCy:H(x=0,y=0)であることを特徴とする非晶質半導体」である点で一致し、本件第2発明では、「水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断している」のに対して、引用例に記載された発明では、「水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、局在準位密度を発生させるダングリングボンドを消去している」点で相違している。
そして、上記相違点は、本件第1発明について検討した相違点と同一であるから、同様の理由によって、本件第2発明も、引用例に記載された発明と同一であるとも、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
申立人佐藤正は、証拠として、甲第1号証(特開昭59-35016号公報)、甲第2号証(特開昭60-163429号公報)、甲第3号証(特開昭63-283119号公報)及び甲第4号証(「最新アモルファスSiハンドブック」、株式会社サイエンスフォーラム、昭和58年3月31日発行、第153頁乃至157頁、第193頁乃至197頁及び第321頁乃至329頁)を提示し、本件第1及び第2発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、本件第1及び第2発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、本件第1及び第2発明は、甲第1号証、甲第1号証及び甲第4号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件第1及び第2発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、さらに、本件特許明細書では、水素ラジカル暴露時の基板温度として「基板の温度を製膜時の基板温度以下」とすることの臨界的意義が明らかにされておらず、特許法第36条第3項又は第4項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべきである旨主張している。
イ.特許法第36条第3項又は第4項違反について
本件特許明細書の第3頁第21行乃至第24行(本件特許公報第2頁第4欄第12行乃至第16行)には、「水素ラジカルに暴露するときの基板温度は、室温でもよいが100℃程度の高温の方が光劣化防止の効果は大きい。しかしながら、成膜時の基板温度を大きく上回る高温では膜質の低下を招くおそれがあるので、本発明においては成膜時の基板温度以下としている。」と記載されており、当該記載によれば、水素ラジカル暴露時の基板温度として「基板の温度を製膜時の基板温度以下」とすることの臨界的意義について、水素ラジカル暴露時の基板温度を「膜質の低下を招くおそれ」がない範囲内に選定することが明記されているから、本件特許明細書の記載に不備はなく、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第3項又は第4項の規定に違反しているとはいえない。
ウ.特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項違反について
(本件発明)
訂正明細書の本件発明は、特許請求の範囲の請求項1乃至請求項3に記載されたとおりのものである。
また、請求項2は、請求項1に記載された発明の実施態様項であるから、請求項1に含めて検討する。
(引用例)
異議申立人佐藤正が提出した甲第1号証には、以下のとおりの記載がなされている。
「シリコン含有固形物の真空蒸着あるいは減圧下でのシラン含有気体混合物の化学分解法又はプラズマ分解法によるシリコン層の製造において、シリコンが微結晶化する温度を含む温度にてシリコン層を製造する第1段階と、水素またはその同位元素の1種を含むプラズマ雰囲気での熱処理をシリコンの微結晶化温度近傍の温度にて行なう第2段階を少なくとも有することを特徴とする含水素シリコン層の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、
「前記第2段階をシリコンが微結晶化する温度をTとした時T-50℃とT+50℃の温度範囲で行なうことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載含水素シリコン層の製造方法」(特許請求の範囲第3項)、
「本発明の目的は、非晶質シリコンと微結晶シリコンとが共に含まれるシリコン膜とすることにより両者の利点の特性を持つ太陽電池を提供することにある。この膜は太陽光スペクトルに近い波長感度を持ち光吸収の大きな材料であり、局在準位が小さく易動度が大きいために高い光電変換効率を示し、長期間安定な特性を示す様になる。」(第2頁左上欄第3行乃至第9行)、
「まず、450℃の温度において毎秒1nmの速度で0.5μm厚さに非晶質シリコンを蒸着し、次いで500℃の温度において毎秒1.5nmの速度で0.5μmの厚さに微結晶シリコンを蒸着した。次いで460℃、0.1Torrの圧力で30分間の水素プラズマ処理を行なつた。」(第2頁右下欄第9行乃至第15行)、
「反応管1の内部を高真空に引いた後に微結晶化する温度以下の300℃の温度においてSiH4とPH3をSiH4:PH3=10:1の割合で流し、全体の圧力を1Torrとした。この状態において電極4に高周波電圧を印加し、反応管内剖にプラズマ放電させた。まず基板3にn型層を30nm成長させた後にPH3を止め、圧力を1Torrに調整した後にノンドープ層を300nm成長させた。次に反応炉内の温度を微結晶化の温度近傍の500℃として引き続きノンドープ層を400nm成長させた。最後にこの温度においてSiH4とB2H6をSiH4:B2H6=20:1の割合で流し、1Torrの圧力で10nmのp型層を成長させた。この状態で反応管を高真空引きした後に水素を流し、0.1Torrの圧力にしてプラズマを放電させ、15分間の水素プラズマ処理を行なった。」(第3頁左上欄第8行乃至同右上欄第4行)。
以上の記載を参酌すると、同号証には、「減圧下でのシラン含有気体混合物のプラズマ分解法によってシリコン層を形成する際に、反応炉内の温度を、シリコンが微結晶化する温度Tにて微結晶シリコン層を形成する第1段階と、水素を含むプラズマ雰囲気での熱処理をシリコンの微結晶化温度近傍の温度であるT-50℃とT+50℃の間の温度範囲にて行なう第2段階を有する含水素シリコン層の形成方法及び当該方法によって形成された含水素シリコン層」が記載されている。
同甲第2号証は、訂正明細書の本件発明に対して、当審が平成11年5月18日付けの取消理由で引用したものと同一の文献であり、(2)ウ.独立特許要件の判断における(引用例)の項に記載のとおりの発明が開示されている。
同甲第3号証は、本件の公開特許公報である。
同甲第4号証には、以下のとおりの記載がなされている。
「種々のμc-Si製作法によるμc化可能な温度範囲と粒径」(第156頁、図-10)、
「CVDa-Siは、 ・・・ 水素プラズマ中のアニールによってgap state密度、テイル幅とも大幅に減少する。」(第195頁左欄第19行乃至右欄第1行)、
「CVDa-Si膜の水素プラズマアニールは、基板温度350〜400℃、圧力0.6Torr、RFパワー40wで行った。・・・光導電度は、グロー放電a-Si:Hに比べて遜色ない値を示し、また、グロー放電a-Si:Hに見られるような強い光照射による光構造変化は観測されない。
… 以上のようにCVDa-Siに微量の水素を加えることにより、光電特性が著しく改善され、また、強い光照射にも安定な太陽電池(ARコートなし、η=2.7%)が試作されている。」(第197頁左欄第6行乃至右欄第6行)、
「CVDa-Siは置換型不純物ドーピングが可能であり、さらに水素プラズマ処理により微量の水素を膜中に導入することができる。このようにごくわずか水素化されたCVDa-Siで太陽電池セルを作れば光劣化のない特性が期待できる。CVDa-Siはシラン(SiH4)を650℃で熱分解して形成する。ついで水素プラズマ中で熱処理するが、処理条件は、時間60分、基板温度350℃、水素ガス圧力0.6Torr、高周波電力40Wである。…このように微量水素化されたCVDa-Siの光導電率は、水素プラズマ処理により、増加して4×10-4(Ωcm)-1/1015ホトン/cm2(hν=2.0eV)となる。またオプティカルギャップ1.45eVから1.53eVへと増加する。・・・このようにして形成したCVDa-Si太陽電池セルは、200mW/cm2のアルゴンレーザで2時間照射しても光劣化しないこと、すなわちスティブラー・ロンスキ効果が起こらないことが示され、信頼性に優れた太陽電池セルであることが示された。」(第324頁左欄第2行乃至右欄11行)、
「ここでは、電力用a-Si太陽電池の信頼性として、連続光照射による試験結果と、a-Si太陽電池モジュールの信頼性試験結果について報告する。」(第325頁左欄第7行乃至第9行)。
(対比・判断)
〔本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との対比・判断〕
本件第1発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明における「シラン含有気体混合物」及び「水素を含むプラズマ雰囲気での熱処理」が、本件第1発明の「シラン系ガス」及び「水素ラジカル雰囲気に暴露」にそれぞれ相当し、甲第1号証に記載された発明の「プラズマ分解法」によって薄膜を形成する点は、本件第1発明のシラン系ガスをプラズマによって分解することによって薄膜を形成する点に相当するから、両者は、「シラン系ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を行った後、温度を製膜時の温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露することを特徴とする半導体の製法」である点で一致し、以下の点で相違する。
「本件第1発明では、水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断しているのに対して、甲第1号証記載の発明では、この点が記載されていない点。」(相違点1)、
「本件第1発明では、シリコン半導体薄膜が非晶質であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、微結晶シリコン層である点」(相違点2)、
「本件第1発明では、基板を水素ラジカル雰囲気に暴露した後、膜堆積を再開しているのに対して、甲第1号証記載の発明では、膜堆積を再開することが記載されていない点」(相違点3)、
「本件第1発明では、温度が基板温度であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、温度が反応炉内の温度である点」(相違点4)。
上記相違点1について検討する。甲第1号証には、基板を水素ラジカル雰囲気に暴露することによる作用に関して、本件第1発明で必須の構成要件とされている「膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断」する点について、記載も示唆もされていない。そして、本件第1発明は、上記の構成を採用することにより、「光劣化の小さな非晶質半導体をうることができる。」という明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、他の相違点についての検討をするまでもなく、本件第1発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
さらに、上記の点について記載も示唆もされていない甲第4号証を参酌しても、上記の結論はかわらない。
次に、本件第2発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「シラン系ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を行った後、温度を製膜時の温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露して形成されたことを特徴とする半導体」である点で一致し、以下の点で相違する。
「本件第2発明では、水素ラジカル雰囲気に暴露することによって、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断しているのに対して、甲第1号証記載の発明では、この点が記載されていない点。」(相違点1)、
「本件第2発明では、シリコン半導体薄膜が、その組成が、a-Si1-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)またはa-Si1-x-yGexCy:H:F(0≦x,y≦1)である非晶質半導体非晶質であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、微結晶シリコン層である点」(相違点2)、
「本件第2発明では、基板を水素ラジカル雰囲気に暴露した後、膜堆積を再開しているのに対して、甲第1号証記載の発明では、膜堆積を再開することが記載されていない点」(相違点3)、
「本件第2発明では、温度が基板温度であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、温度が反応炉内の温度である点」(相違点4)。
上記相違点について検討すると、上記相違点1は、本件第1発明について検討した相違点1と同一であるから、同様の理由によって、他の相違点について検討するまでもなく、本件第2発明についても、甲第1号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証、又は甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
〔本件特許発明と甲第2号証に記載された発明との対比・判断〕
本件第1及び第2発明は、既に上記(2)ウ.で示した理由により、甲第2号証に記載された発明と同一であるとも、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。
〔本件特許発明と甲第3号証に記載された発明との対比・判断〕
本件特許出願に対して、平成7年9月28日付け及び平成9年8月1日付けで提出された手続補正書による補正は、いずれも明細書を補正した結果、特許請求の範囲に記載した技術的事項が「シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマ、熱、光のいづれか、またはこれらの2つ以上の組み合わせによって分解することにより、または、シリコンもしくはシリコン系化合物をターゲットとするスパッターまたは反応性スパッターによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成する」とする出願当初の明細書の事項の範囲内のものであるから、適法なものであり、甲第3号証は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であるということはできないので、本件第1及び第2発明の進歩性を判断する際の証拠として採用することはできない。
以上のとおり、本件第1及び第2発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1号証、甲第1号証及び甲第4号証又は甲第2号証に記載された発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非晶質半導体およびその製法
(57)【特許請求の範囲】
1 シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開することを特徴とする非晶質半導体の製法。
2 水素ラジカル雰囲気を形成させるための方法が水素ガス、または、水素ガスと不活性ガスとの混合物のグロー放電分解であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の製法。
3 シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開することにより作成され、その組成がa-Sil-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)またはa-Sil-x-yGexCy:H:F(0≦x,y≦1)であることを特徴とする非晶質半導体。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は非晶質半導体およびその製法に関する。さらに詳しくは、光による電気的特性の低下の小さな非晶質半導体およびその製法に関する。
〔従来の技術および発明が解決しようとする問題点〕
近年、プラズマCVD法などによってえられるアモルファスシリコンをはじめとするテトラヘドラル系非晶質半導体は、大面積化が容易でかつ低コスト化が可能であるため、太陽電池や薄膜トランジスター、大面積センサーなどへの応用が注目されている。しかしながら、これらの半導体を光電変換に用いるためには、これらの光に対する安定性が重要な問題となる。アモルファスシリコンの光劣化はすでに1977年にステブラー、ロンスキー両博士によって発見され、光とくに強い光に対する電気的特性の変化は太陽電池や電子写真感光ドラムなどの応用に対する大きな障害となっている。
本発明は、前記の点に鑑み、テトラヘドラル系非晶質半導体の光による電気的特性の低下を軽減し、これらを太陽電池などへ応用する際の耐光性を向上させることのできる製法、該製法によりえられた非晶質半導体を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明の製法は、シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマによって分解することによって基板上にシリコン系非晶質半導体薄膜を形成するに際し、膜堆積を途中で一時中断し、前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開することを特徴としている。
膜厚が大きいばあいは、水素が膜全体に拡散できるように水素ラジカル雰囲気への暴露と膜堆積とを交互に繰り返し行なってもよい。
また、本発明の非晶質半導体は、前述した製法で作製され、その組成がa-Sil-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)またはa-Sil-x-yGexCy:H:F(0≦x,y≦1)であることを特徴としている。
〔実施例〕
本発明の製法は通常の方法により非晶質半導体薄膜を作製するに際し、作製中に、前記薄膜を水素ラジカル雰囲気中に暴露するという付加的な操作を加えることで、えられた薄膜の光劣化を低減するものである。
通常、シリコン系非晶質半導体薄膜は、シラン系ガスもしくはその混合ガスをプラズマ、熱、光のいずれか、または、これらの2つ以上の組み合わせによって分解するか、シリコンもしくはシリコン系化合物をターゲットとするスパッタまたは目的物の構成元素を含むガスや不純物ガスなどを導入した反応性スパッター法により基板上に堆積することにより作成される。本発明の製法は、このうちプラズマによるガス分解でえられる膜の堆積の途中段階にこの非晶質半導体膜を水素ラジカル雰囲気中に暴露し、膜中の原子の結合状態、とくに水素の膜中での結合様式やその量を変化させることにより、光照射に対する安定性を増すものである。
すなわち、前述した光劣化は膜中のごく僅かのSi-Si結合が原因であると考えられるが、適正な製膜条件で形成されたa-Si膜に適当な温度で水素プラズマ処理を行うと、膜中の弱いSi-Si結合がプラズマの光、または熱によって切断される。切断された結果2つのダングリングボンドが発生し、これらの大部分はまた熱によって再度結合するが、一部は結合が形成される前にSi-Hのスイッチングにより移動し離れてしまうために簡単には結合できなくなる。Si-Hのスイッチングによりダングリングボンドが膜表面に到達すると水素ラジカルがこれをターミネートしてダングリングボンドは消滅しSi-H結合に変わる。この処理が終わると初期に存在した弱いSi-Si結合がなくなり、この結合を引き金として起こっていた光劣化はなくなる。これが水素プラズマ処理による光劣化低減の作用効果であると考えられる。
水素ラジカルは、水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとの混合物のグロー放電、ECRマイクロ波プラズマ放電などの方法により発生させることができる。
水素ラジカルに暴露するときの基板温度は、室温でも良いが100℃程度の高温の方が光劣化防止の効果は大きい。しかしながら、成膜時の基板温度を大きく上回る高温では膜質の低下を招くおそれがあるので、本発明においては成膜時の基板温度以下としている。
また、水素ラジカル雰囲気中での暴露時間は、数分程度の短時間でも効果的であるが、1〜2時間程度以上暴露するときは光劣化防止の効果はさらに顕著なものとなる。
前記した方法でえられた本発明の非晶質半導体は耐光性の向上せられたものであるが、本発明において非晶質半導体としてはa-Sil-x-yGexCy:H(0≦x,y≦1)、a-Sil-x-yGexCy:H:F(0≦x,y≦1)などを用いることができる。本発明の非晶質半導体は、pin構造、ショットキー構造を有する半導体装置に好適に用いることができる。
つぎに本発明の製法を実施例にもとづき説明するが本発明はもとよりかかる実施例に限定されるものではない。
実施例1〜2
容量結合式平行平板型グロー放電分解法により、コーニング社#7059基板(1)上に、放電パワー密度約10mW/cm2、シラン流量50SCCM、放電圧力3Torr、基板温度200℃で約1μmの非晶質シリコン膜(2)を堆積し、この上にコプラナー形のアルミ金属電極(3)を形成して第1図に示すようなサンプルを作成した。
つぎに、このサンプルを同様に容量結合式平行平板型グロー放電装置によって放電パワー密度約70mW/cm2、水素流量圧力1.0Torrの条件のもとで室温(実施例1)および100℃(実施例2)の2種類の基板温度で約4時間水素プラズマ処理を行なった。
このようにして作成した室温水素プラズマ処理および100℃水素プラズマ処理の各サンプルを、擬似太陽光(AM-1)100mW/cm2の光の下で、同時に光電流を測定し、光劣化のようすを調べた。結果を第2図に示す。
比較例1
水素プラズマ処理をしなかったほかは実施例1と同様にしてサンプルを作成し、えられたサンプルについて実施例1と同様の測定を行なった。結果を第2図に示す。
第2図より明らかなように、水素プラズマ処理の有無によって光劣化の挙動に差がみられる。すなわち、光劣化の程度は、未処理のものがもっとも大きく、ついで室温において水素プラズマ処理したものがこれと比較して少し小さくなっており、100℃の基板温度で水素プラズマ処理したものは著しく小さくなっている。
〔発明の効果〕
以上、説明したとおり、非晶質半導体薄膜の作製中に該薄膜に水素ラジカルによる処理を施す本発明の製法によれば、光劣化の小さな非晶質半導体をうることができる。かかる非晶質半導体を用いた半導体装置は光に対して安定しており太陽電池や薄膜トランジスターなどに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の実施例1にかかわるサンプルの概略断面図、第2図は製膜後に水素ラジカル雰囲気中に暴露するばあいと暴露しないばあいの光劣化の差を示す図である。
(図面の符号)
(1):ガラス基板
(2):非晶質シリコン薄膜
(3):アルミ電極
 
訂正の要旨 訂正の要旨
*訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1及び3における「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露したのち膜堆積を再開する」を、「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開する」」と訂正する。
*訂正事項b
不明りょうな記載の釈明を目的として、明細書の第3頁第22行乃至第24行(本件特許公報の第2頁第3欄第17行乃至第19行)における「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露したのち膜堆積を再開する」を、「前記堆積した膜を、基板の温度を製膜時の基板温度以下にして水素ラジカル雰囲気に暴露し、膜中の弱いSi-Si結合をプラズマの光または熱によって切断したのち、ついで膜堆積を再開する」と訂正する。
異議決定日 1999-12-27 
出願番号 特願昭62-119370
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 幸浩原 光明  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 岡 和久
橋本 武
登録日 1997-11-28 
登録番号 特許第2723224号(P2723224)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 非晶質半導体およびその製法  

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