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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
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管理番号 | 1012479 |
異議申立番号 | 異議1999-74630 |
総通号数 | 10 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-06-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-12-09 |
確定日 | 2000-04-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2905208号「ポリスルホン系中空糸状分離膜」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2905208号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2905208号(昭和63年12月20日出願、平成11年3月26日設定登録。)の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。 「ポリスルホン系樹脂よりなる中空糸状膜であって、内表面および外表面に平均孔径500Å〜0.5μmの孔を有し、かつ、中空糸の長さ方向に対する膜の横断面が、(a)内表面緻密層、(b)内側ボイド層、(c)中間スポンジ層、(d)外側ボイド層、(e)外表面緻密層からなる5層構造を有していることを特徴とするポリスルホン系中空糸状分離膜。」 2.申立ての理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証(特開昭62-152508号公報)、甲第2号証(特開昭62-201602号公報)、甲第3号証(特開昭58-156018号公報)、甲第4号証(特開昭63-218213号公報)、甲第5号証(特開昭58-91822号公報)、甲第6号証(特開昭60-45358号公報)、甲第7号証(特開昭61-238834号公報)及び甲第8号証(特開昭62-117812号公報)を提示して、本件発明の特許は、甲第1ないし甲第8号証の記載を基に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明の特許を取り消すべきと主張する。 3.甲各号証 甲第1ないし甲第8号証には、次の発明が記載される。 甲第1号証; ポリスルホン系膜の製造法に関するものであって、次のことが記載される。 (1)4頁左上欄11〜12行に、「膜は中空糸、平膜、支持体入平膜の何れでも良い。」こと。 (2)5頁左上欄には、「このような製法によって得られたポリスルホン系重合体中空糸膜は、中空糸の少なくとも片面に存在するスキン層とこれを支持する支持層よりなる。スキン層は高分子物質の密に詰まった集合体からなり、走査顕微鏡写真により200Å以上の空孔の存在は認められないものである。スキン層の厚みは1μm以下である。・・・・・・・・・・外側からスキン層、ボイド層、均一な細胞のみよりなる中間層、ボイド層、スキン層よりなる五層構造等があり、・・・・・・」と記載される。 甲第2号証; 中空糸状半透膜及びその製造方法に関するものであって、3頁左上欄には、「第1図には、断面のほぼ中央に中間層を有し、内側緻密層、内側ボイド層、中間層、外側ボイド層、外側緻密層より成る5層構造を呈する膜が示されているが、本発明による半透膜は内外両表面に緻密層があればよく断面の構造を特に規定するものではない。第2図の外表面写真、第3図の内表面写真は共に10000倍であるが、いずれの面にも孔は全く確認できないことより内外表面の孔の大きさは200Å以下と推定される。」と記載される。 甲第3号証; ポリスルホン系樹脂中空糸に関するものであって、次のことが記載される。 (1)2頁左下欄には、中空糸膜は、外表面層、外ボイド層、中間層、内ボイド層、内表面層の5層構造からなること。 (2)3頁右上欄には、中間層(C層)は3次元方向によく連通したCp孔をもつ網目構造的ポリマー層であること。 (3)4頁の第1表には、外表面層Ao、内表面層Ajの平均孔径が「<0.01μm」の例が示されている。 甲第4号証; ポリサルホン系中空糸半透膜の製造法に関するものであって、次のことが記載される。 (1)4頁右上欄に、ラミネート中空糸膜の環状横断面構造は、外側から、緻密層、スポンジ層、円筒状ボイド層、指状多孔質層、および内側のルーズな緻密層の5層構造からなること。 (2)4頁右下欄には、「第1図に示した断面構造を有するラミネート中空糸は、半透膜として用いる場合、中空糸の外側が被濾過液である外圧型限外濾過に適する。かかる限外濾過において、中空糸半透膜の分画分子量は、外側の表面緻密層にある微細孔の孔径で決定され、・・・」と記載される。 (3)5頁左上欄には、「・・・・この内側緻密層の細孔径は外側緻密層の細孔径に比較して十分に大きく、すなわち内側表面はルーズ緻密層であり、この層は分画分子量と透水速度には影響しない。」と記載される。 甲第5号証; (1)請求項1には、「外表面に平均孔径0.1〜5μの微孔を開孔率10〜70%の割合で有し、内表面および膜内部が微細多孔構造であり、かつ透水率が2000l/m2・hr・kg/cm2以上を示し、ポリスチレン系ラテックス(粒径3800Å)の阻止率が90%以上を示すポリスルホン中空繊維膜。」が記載される。 (2)4頁右下欄1〜2行には、「膜内部及び膜内表面には外表面と同じ程度の孔径の微孔が存在するのがよい。」と記載される。 甲第6号証; 請求項1には、「ポリスルホン系樹脂からなる中空繊維状膜で、内外表面に平均孔径0.05〜1μの孔を有し、内外表面にはさまれる中間層は該樹脂が0.05〜0.3μの太さで網目状に発達し、その空隙が膜表面より中心部に向って、表面側で0.1〜0.5μ、断面中心部で0.5〜2μの範囲で連続的に増大する平均孔径をもつ空孔と見なしうる構造を有する血漿分離膜。」が記載される。 甲第7号証; 特許請求の範囲には、「膜の両表面に平均孔径が500Å以上の細孔を有し、主たる膜素材がポリスルホン系樹脂であってかつ全量の3〜30重量%の親水性高分子を含有し、透水性が1000ml/m2・hr・mmHg以上であることを特徴とするポリスルホン系樹脂多孔膜。」が記載される。 甲第8号証; 請求項1には、「高分子化合物の膜からなり、膜全体が60%以上の空孔率を有しかつ内表面に厚さ1μ以下で孔径0.01〜3μの細孔を備えた平滑な壁膜とこの壁膜を支持する網目状組織とにより構成され、前記網目状組織が内側から外表面に向かって密になる構造を有し、前記外表面が孔径0.01〜3μの細孔を有することを特徴とする組織的に二層構造よりなる中空繊維。」が記載される。 4.対比・判断 本件発明と甲第1ないし第8号証記載の発明とを比較検討する。 本件発明のポリスルホン系中空糸状分離膜は、本件特許明細書の記載によれば、その製造に乾湿式紡糸法が好ましく用いられるが、特定の条件の下に製造されるものである。該明細書には、一例として「この乾湿式紡糸法による膜の製造方法では、ポリスルホン系樹脂、溶媒、非溶媒から成る紡糸原液を環状ノズルから凝固浴へ押し出し、中空糸状膜とする過程において、(i)ポリマー濃度が10〜30重量%であること、(ii)非溶媒/(溶媒+非溶媒)の重量比が、相溶限界における重量比の50〜90%であること、かつ(iii)内部凝固液として40〜90重量%のグリコール類水溶液を用いること、を特徴とする。」と記載される。そして、本件発明の中空糸膜は、分離膜の必須要件である分画の信頼性を、内外両表面に同程度の緻密さをもつ緻密層により与えるという、従来の5層構造膜の特徴を活かしたまま、その欠点であった低透過能力及び小分画分子量を大巾に改善できるという効果を奏するものである。 本件発明と甲第1ないし第3号証記載の発明とを対比すると、両者は、「ポリスルホン系樹脂よりなる中空糸状膜であって、内表面および外表面に孔を有し、かつ、中空糸の長さ方向に対する膜の横断面が、(a)内表面緻密層、(b)内側ボイド層、(c)中間スポンジ層、(d)外側ボイド層、(e)外表面緻密層からなる5層構造を有していることを特徴とするポリスルホン系中空糸状分離膜」である点で一致し、内表面および外表面に有する孔の平均孔径が、前者は500Å〜0.5μmであるのに対して、後者はいずれも、前者よりもはるかに小さい点で相違する。 上記相違点について甲第4ないし第8号証について検討する。 甲第4号証には、外側から、緻密層、スポンジ層、円筒状ボイド層、指状多孔質層、および内側のルーズな緻密層の5層構造からなるラミネート中空糸膜が記載されるが、この中空糸膜は本件発明の5層構造からなる中空糸状分離膜とは、明らかに構造が異なる。外側、内側緻密層の機能についても、甲第4号証の上記(2)、(3)には、「・・・かかる限外濾過において、中空糸半透膜の分画分子量は、外側の表面緻密層にある微細孔の孔径で決定され、・・・」と記載されるが、「・・・この内側緻密層の細孔径は外側緻密層の細孔径に比較して十分に大きく、すなわち内側表面はルーズ緻密層であり、この層は分画分子量と透水速度には影響しない。」と記載されており、本件特許明細書に記載される「本件発明の中空糸膜は、分離膜の必須要件である分画の信頼性を、内外両表面に同程度の緻密さをもつ緻密層により与えるという、従来の5層構造膜の特徴を活かしたまま、・・・」という機能とは相違するものである。 また、甲第5ないし第8号証のなかには、内表面および外表面に、本件発明の平均孔径の範囲に包含される孔を有するポリスルホン系中空糸状分離膜が記載されものがあるが、そこに開示されるものはいずれも3層構造であり、本件発明の5層構造とは構造が明らかに相違するし、各内部層の機能も本件発明とは異なる。 したがって、本件発明は、甲第1ないし第3号証に記載の発明と甲第4ないし第8号証記載の発明とを組み合わせて当業者が容易に想起し得るものであるとはいえない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-03-15 |
出願番号 | 特願昭63-319387 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B01D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 由紀夫、杉江 渉 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
山田 充 野田 直人 |
登録日 | 1999-03-26 |
登録番号 | 特許第2905208号(P2905208) |
権利者 | 旭化成工業株式会社 |
発明の名称 | ポリスルホン系中空糸状分離膜 |
代理人 | 溝部 孝彦 |
代理人 | 古谷 馨 |
代理人 | 持田 信二 |
代理人 | 古谷 聡 |