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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A61L
管理番号 1013851
審判番号 審判1999-39019  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-02-10 
種別 訂正の審決 
審判請求日 1999-03-03 
確定日 1999-02-18 
事件の表示 特許第2121472号発明「生体用ジルコニアインプラント材」に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
本件は、特許第2121472号の明細書を訂正しようとするもので、本件については、平成11年7月21日付の訂正拒絶理由通知に対して、平成11年10月12日付で手続補正書が提出されている。
2.訂正拒絶理由の概要並びに本件訂正請求時及び上記補正後の特許請求の範囲の記載
(1)本件訂正後の特許請求の範囲第1項の発明に対する訂正拒絶理由の概要は、以下に示す刊行物1〜3に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件訂正請求は、特許法第126条第3項(平成5年法)の規定に適合しないので、当該訂正を認めないというものである。
刊行物1;「新時代をめざすバイオニクス技術-我が国の知識集約型産業の今後の動向調査研究-生体機能代替機器編」財団法人日本産業技術振興会、昭和60年6月、第153〜156頁
刊行物2;「セラミックス」第17巻、第10号、第816〜822頁
刊行物3;「窯業協会誌」第92巻、第5号、第11〜19頁(1984)
(2)一方、本件訂正請求時の特許請求の範囲第1項の記載は以下のとおりである。
「人工股関節の骨頭球に用いられる生体用ジルコニアインプラント材であって、
CeO2、を含まずY2O3を2mol%以上6mol%未満含み、共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均焼結体粒径0.8μm以下である生体用ジルコニアインプラント材。」
(3)また、上記補正後の特許請求の範囲第1項の記載は以下のとおりである。
「人工股関節の骨頭球に用いられる生体用ジルコニアインプラント材であって、
CeO2を含まずY2O3を2mol%以上6mol%未満含み、共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均焼結体粒径0.8μm以下であり、37℃生理的食塩水及び乳酸リンゲル液に浸漬した場合の700日後の表面部の結晶相の変化が20%以下である生体用ジルコニアインプラント材。」
3.訂正の適否
(1)まず、上記訂正拒絶理由に照らし、上記補正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、本件発明という。)について、特許出願の際、独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。
(a)刊行物1においては、人工関節用材料としてのジルコニアセラミックスに関する記載があり、ジルコニアセラミックスの結晶変態について、正方型から単斜型への相転移は、マルテンサイト型である旨、また、この転移は純粋なジルコニアでは約1000℃であるが、イットリア等の安定剤を添加すると正方型を室温まで準安定に維持することができ、これが部分安定化ジルコニアである旨記載されているとともに、このような部分安定化ジルコニアは、破壊時のクラックが進展する先端部において、応力集中による正方型から単斜型へのマルテンサイト型転移が起こり、体積膨張によって破壊エネルギーが緩和されること、すなわちクラックの進行による破壊面の生成に必要なエネルギーが高くなり、破壊靱性が増大し、強度が向上することが記載されている(第155頁6行〜25行)。さらに、ジルコニアセラミックスに限らず新しい材料によって生体機能の一部を代替使用とする場合、使用する環境において安定して機能を発揮する材料であることが第1の条件であること、ジルコニアセラミックスの安定性について問題となる可能性があるものは200℃付近の低温で長時間エージングすると、条件によって強度が劣化することであること、この劣化は、平均粒径0.7μm以下のセラミックスでは見られないこと、安定剤としてセリアを用いたりアルミナを分散させると単斜晶への転移が著しく抑制され、逆に水中でエージングすると促進されることが記載され、この強度劣化について、生体材料として使用する際の領域を超えた温度範囲であり、ほぼ防止策も見出されているが、劣化のメカニズム等について検討が続けられている旨記載されている(第155頁29行〜156頁8行)。また、ジルコニアセラミックスの人工関節に利用するための研究結果として、ジルコニアセラミックスはアルミナとほぼ同様に境界面での介在物は薄く、一部骨梁が直接セラミックスに接するという所見及びジルコニアとイットリアの骨、骨髄組織内への移行が全くみられなかったとの報告が示され、また、ジルコニアボールとチタン合金によるCharnleyタイプの人工関節において、ジルコニア骨頭の耐久性はアルミナセラミックスと同等以上の性質を有する旨記載されている(第156頁12行〜20行)、他方、アルミナセラミックスの項においては、アルミナセラミックスを人工股関節の骨頭ボールに使用することを示す記載がある(第154頁21行〜22行)。
刊行物2においては、Y2O3-PSZ(Y2O3部分安定化ジルコニア)について、「Y2O3-PSZとは、本来ジルコニアの安定化に必要な8mol%以上のY2O3量を3〜4mol%程度に抑えたジルコニアのことである。図1にY2O3-ZrO2系状態図を示す。この組成領域で正方晶を多く含んだ組織として得られた焼結体は、応力の作用で正方晶から単斜晶へのマルテンサイト変態を生じ、このとき、高強度、高じん性化が達成される。この高強度化がY2O33mol%の組成で顕著に起こることを第2図に示す。
室温では準安定相である正方晶を含んだ焼結体を得るためには、(1)焼結体が緻密であること,(29)焼結体の粒径が小さいこと(約1μm以下),の二つの条件を満足しなくてはならない。この条件が満足されない場合は、焼結体の冷却時に安定相である単斜晶への変化が生じてしまう。したがって、Y2O3-PSZに用いる原料粉末は、(1)易焼結性であること及び(2)微粉末であることの二つの特性を備えていなければならず、単にジルコニアとイットリアとを混合したものは易焼結性とは言い難く、」と記載され(第817頁左欄下から4行〜右欄末行)、また、易焼結性で高純度のジルコニア微粉末の合成は主に湿式法を用いて行われていること、及び現在知られている合成法として、中和共沈法及び加水分解法等が記載されている(第818頁左欄3行〜右欄下から4行)。さらに、湿式法によって得られる粉末は凝集体が含まれる問題があるが、これを和らげる工夫として、中和共沈法におけるHaberuko等による改良法を例示するとともに(第821頁左欄8行〜右欄6行)、現在では粉末調製法の進歩によって、ほぼ理論密度のジルコニア焼結体を1300から1500℃という低い温度で作成可能することが可能となり、焼結体粒径0.3〜0.5μmの緻密な組織を有するものを得ている旨及びこのような焼結体は易焼結製粉末を用いて初めて可能になる旨記載されている(第821頁右欄13行〜第822頁左欄4行)
刊行物3においては、イットリア部分安定化ジルコニアについて、湿式法で合成された2〜6mol%Y2O3を含有するジルコニア微粉末を用い、温度1400℃〜1600℃で焼成することによって相対密度99%以上の緻密なY2O3部分安定化ジルコニア粉末を得たこと、機械的特性として、破壊靱性はY2O32mol%から割合が多くなるほど低下し、また、Y2O32〜3.5mol%で曲げ強度は最高値を示したこと、及び焼結体の粒径はF.T(焼結温度)1400℃で〜0.2μm、1500℃で〜0.5μm、1600℃で〜1μmとなること、及びLangeの報告においては、Y2O3-PSZの正方晶の臨界粒径(焼結体を室温まで冷却したとき正方晶粒子が単斜晶粒子に単位を起こさないための粒径の臨界値)は、2mol%Y2O3で0.2μmとなっていることが記載され、さらに、熱時劣化試験において0.2μm、0.5μmの小さい粒子では単斜晶量の増加、曲げ強度などの低下がないのに対して1μm以上では単斜晶量の増加及び曲げ強度の顕著な低下が見られ、この焼結体粒子を微細にすると熱時経時劣化が抑制されるという結果は、正方晶粒子の安定性が粒径によって支配されていることを表している旨記載されている。
(b)そこで検討するに、上記刊行物1においては、イットリア等による部分安定化ジルコニアセラミックスは、破壊靱性が増大し、強度も向上していることが示され、人工関節の骨頭ボールに使用することも示されており、さらに、ジルコニアセラミックスは生体適合性に優れるほか、アルミナセラミックと同等以上の耐久性を有し、他方、アルミナセラミックスは人工股関節の骨頭ボールとして使用される旨記載されているのであるから、イットリア部分安定化ジルコニアを人工股関節の骨頭球に使用することは、刊行物1において充分示唆されている。
一方、刊行物2においては、イットリア部分安定化ジルコニアは、イットリアを3〜4mol程度%含んだものであることが示され、図2においてはイットリア含有量2〜4mol%で高い曲げ強度を示している。さらに、刊行物3においては、イットリア部分安定化ジルコニアの熱的・機械的性質を調べるのに、イットリア2〜6モル%のものを使用しているのであるから、本件発明のイットリアの含有量は、部分安定化ジルコニアのイットリア含有量として極く普通のものである。
また、刊行物2においては、正方晶を多く含んだ焼結体は、高強度、高靱性を有し、さらに、室温で準安定相である正方晶を含んだ焼結体を得るには、焼結体の粒径が小さいこと(約1μm以下)が必要であるほか、その原料粉末は易焼結性で微粉末であること等の条件を満たさなければならず、単にジルコニアとイットリアとを混合したものは易焼結性とは言い難いことが明らかにされ、易焼結性微粉末の合成法として、本件発明の中和共沈法および加水分解法が示されている。また、この方法によれば、本件発明と同様なイットリアの分散性が得られるはずであるし、この刊行物1に示されるこれらの方法により得られる易焼結性微粉末にはセリアは含まれてはいない。そして、強度等が重要な要件となる人工股関節の骨頭ボールに使用する部分安定化ジルコニアは、当然中和共沈法あるいは加水分解法等による易焼結性微粉末を成形焼結したものがよいことはいうまでもないことである。
そして、焼結体の粒径については、刊行物2の上記記載では約1μm以下とされ、本件発明のように0.8μm以下とはされてはいないが、刊行物2の上記記載は、焼結体の粒径は0.8を超え約1μm以下である必要があることを示しているのではなく、1μmより小さければいいという意味であって、当然0.8μm以下のものであってもよいと解すべきであるから、本件発明の粒径範囲を特段排除するものではない。そして、このことは、刊行物2においては、粉末調製法の進歩により、現在ではほぼ理論密度のジルコニア焼結体を比較的低温で作成可能であると記載され、現に粒径0.3〜0.5μmのものを記載している点からも明らかである。さらにいうと、刊行物3においても、易焼結性微粉末を用いて、焼結体を得ているが、焼結体の粒径はF.T(焼結温度)1400℃で〜0.2μm、1500℃で〜0.5μm、1600℃で〜1μmとなること及びY2O3-PSZの正方晶の臨界粒径(焼結体を室温まで冷却したとき正方晶粒子が単斜晶粒子に転移を起こさないための粒径の臨界値)は、2mol%Y2O3で0.2μmであると記載されているのであるから、本件発明の焼結体の粒径も室温で準安定相として正方晶を含むイットリア部分安定化ジルコニアとして、極く普通のものとするほかない。
したがって、以上の点からみれば、刊行物1の記載に基づき、高強度及び高靱性が要求される人工股関節の骨頭球に使用する部分安定化ジルコニアの原料として、本件発明の部分安定化ジルコニア微粉末を選定し、また、これを使用した焼結体の平均粒径を本件発明のようにすることは、当業者であれば当然にあるいはごく普通に行いうるものであるとするほかなく、当業者が容易にできる程度のものである。
ただ、刊行物1〜3においては、ジルコニアインプラントが「37℃生理食塩水及び乳酸リンゲル液に浸漬した場合の700日後の表面部の結晶相の変化が20%以下である」という性質を有するものである点については記載がない。しかし、この性質は、本件明細書の実施例から明らかなように、部分安定化ジルコニアの、使用原料、イットリウム含量及び焼結体の粒径に依存するものである。そして、該実施例においては、Y2O3を2mol%以上6mo%未満含有する、共沈法又は加水分解法で得られた微粉末原料を用いた、平均粒径を0.8μm以下とした焼結体は、相転移によって生じる強度の低下を最小限に防ぐことができると記載され、また、共沈YSZ(Y2O3部分安定化ジルコニア)を使用原料とし、イットリア含量が2.6mol%で、焼結体粒径が0.8μmのもの(A)が37℃生理食塩水及び乳酸リンゲル液に浸漬した場合の700日後の表面部の結晶相の変化が20%以下であるのに対して、単味原料混合のもの(C)、イットリア含量1.9mol%のもの(E)及び焼結体粒径1.5μmのものは40%を超えると記載しており、イットリア含量が本件発明の数値範囲の下限値に近く、また、焼結体粒径の上限値のものでも、本件発明の上記性質を保有しているのであるから、本件発明の部分安定化ジルコニア微粉末を使用し、焼結体の平均粒径を本件発明のようにしたものは少なくともその大部分において、本件発明の上記性質を保有しているものと解するのが相当である。そして、本件発明の部分安定化ジルコニア微粉末を使用し、焼結体の平均粒径を本件発明のようにしたものは、刊行物2及び3の記載からみて、刊行物1に示すような高強度及び高靭性が要求される人工股関節の骨頭球に使用するための部分安定化ジルコニアとして、当然にあるいは普通に用いられるものであり、これらの部分安定化ジルコニアもその大部分は、本件発明の上記性質を保有していると解される。
してみれば、本件発明の生体用ジルコニアインプラント材は、刊行物1〜3の記載からみて、当業者において容易に得られるとするほかない。
さらに、刊行物1の平均粒径0.7μm以下のセラミックスでは熱劣化が見られない旨記載され、刊行物1においては、この熱劣化について、ジルコニアセラミックス等を生体機能の一部代替する場合に生起する可能性がある問題として、この熱劣化の問題をとらえていることは疑い得ないものである。確かにこの熱劣化は、200℃付近の熱エージングによる強度低下であるが、この熱劣化は、準安定相である正方晶が単斜晶に転移してしまうことによる強度劣化であり、また、刊行物3においても、焼結体粒子の微細化による熱劣化抑制を、粒径による正方晶粒子の安定化の問題としてとらえているのであって、刊行物1においては、水中でのエージングによる上記相転移の問題にも触れ、このような相転移が、水を含む生体内で起こるかもしれないことを危惧しているのである。そして、事実、このような転移による強度劣化が生体内で起こる恐れがあると認識されていたことは、例えば、「ニューセラミックスの活躍」第1版、株式会社アクネ、(1985年11月20日)第216頁の記載からも明らかである。また、請求人が提示した引用例9(「新素材シリーズ、ジルコニアセラミックス9」株式会社内田老鶴圃、昭和62年4月10日第13〜25頁)においても、空気中及び水中での熱劣化試験の結果を受け、熱劣化現象の第1ステージにおける相転移のきっかけとなる核発生が、試料表面と-OH等の官能基との化学反応によるものとしており、このような化学反応は水を含む生体内でも長期間おけば起こる恐れがある。してみれば、人工股関節に使用するイットリア部分安定化ジルコニアセラミックスの粒径は、上記刊行物2に記載されるような3〜4mol%のイットリアを含む中和共沈法等による易焼結性微粉末を用いても、焼結体の粒径は0.7μm以下にする方がより安全であろうことは当業者において当然認識するはずであり、この場合には、結果として、本件発明の上記性質を保有するものが得られると解されるから、この意味からみても、本件発明のインプラント材は当業者において容易に想到できるものといえる。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲第1項に記載される発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けられないものである。
(2)さらに付言して、本件訂正時の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、本件訂正発明という。)について検討するに、本件訂正発明は上記結晶相の変化に関する性質についての部分を構成要件とはしていないのみで、その他は上記補正後の発明と一致する発明であるから、上記補正後の発明が刊行物1〜3に記載された発明から当業者において容易に発明できた以上、当然に、本件訂正発明も刊行物1〜3に記載された発明から当業者において容易に発明できたものである。
したがって、本件訂正発明も、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである点では、補正後の発明と変わりはない。
4.結び
以上のとおりであるから、結局、本件審判請求は、特許法第126条第4項の規定の適用において、特許の訂正についてはなお従前の例によると規定する平成6年法律116号の規定に基づく特許法第126条第3項(平成5年法)の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-12-22 
結審通知日 2000-01-04 
審決日 2000-01-12 
出願番号 特願昭62-195349
審決分類 P 1 41・ 856- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高梨 操多喜 鉄雄  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 内藤 伸一
谷口 浩行
登録日 1996-12-20 
登録番号 特許第2121472号(P2121472)
発明の名称 生体用ジルコニアインプラント材  
代理人 田中 敏博  
代理人 足立 勉  

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