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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1014568
異議申立番号 異議1998-74557  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-10-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-09-10 
確定日 2000-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第2729281号「土木及び建築用窯業製品の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2729281号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯・本件発明
特許第2729281号に係る発明についての出願は、平成3年2月28日に特許出願され、平成9年12月19日に特許の設定登録がなされた後、平成10年9月10日に特許異議申立人 杉崎筆雄(以下、「申立人」という。)により特許異議申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年3月12日に意見書が提出されたものである。
そして、その請求項1に係る発明は特許明細書及び図面の記載からみて特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである(以下、「本件発明」という。)。
「塩基性成分の内、ゼーゲル式でCaOが0.3モル以上0.8モル以下、MgOが0.1モル以上0.5モル以下、酸性成分の内、P2O5が少なくとも0.2モル以上となるように下水汚泥焼却灰の組成成分を調整し、その下水汚泥焼却灰を粉砕を行わずに、予め調整された窯業原料内へ増量材として5〜35重量%混入して窯業製品形成用坏土を調整し、その坏土で窯業製品を成形し、焼成することを特徴とする土木及び建築用窯業製品の製造方法。」
II.引用刊行物の記載
先の取消理由通知において引用した刊行物のうち、刊行物3(「第22回下水研究発表会講演集」(昭和60年度)第658〜660頁。以下、「引用刊行物」という。)には以下の事項が記載されている。
▲1▼「下水汚泥の有効利用は汚泥のもつ資源的価値に着目したものであり…本文は、振動ミルなどによって粉砕した焼却灰(以下、粉砕焼却灰という)を使用して焼成品品質の改善に関するテストピース実験および厚陶管試作実験の結果を報告するものである。」(第658頁「1.まえがき」)
▲2▼「調査対象焼却灰は多段炉で焼却した高分子系焼却灰である。また、粘土は厚陶管用の配合粘土を使用した。表-1は高分子系焼却灰および粘土の化学成分を示している。」(第658頁「2.対象焼却灰等とその化学成分」)
▲3▼Ig.loss2.10%,SiO240.78%,Al2O314.70%,Fe2O313.84%,TiO20.77%,CaO4.89%,MgO1.82%,K2O1.73%,Na2O1.17%,P2O513.17%,SO30.63%の化学成分からなる高分子系焼却灰。(第658頁表-1)
▲4▼「製品の品質を改善するために焼却灰を粉砕した。これは焼却灰を細粉化することによって粒子間の熱伝導率が良くなり、製品の品質が向上するためである。」(第658頁「3.焼却灰細粉化による製品品質の改善効果」)
▲5▼「焼却灰添加率(0〜40%)と焼成温度(1000〜1175℃)を変化させて製品品質を調査した。」(第658頁「3.焼却灰細粉化による製品品質の改善効果(1)試験条件」)
▲6▼「図-1は粘土のみを原料とした場合の曲げ強さを基準にして、粉砕焼却灰と無加工焼却灰(多段炉から出てきたままのもの)を添加した場合の曲げ強さと焼成温度との関係を示したものである。粉砕焼却灰の使用によって曲げ強さが基準値1.0にくらべて大きくなる傾向が認められる。これは焼成温度の低減の可能性を示唆している。図-2は粉砕焼却灰の添加率を変えた場合の焼成温度と曲げ強さの関係を示している。添加率が大きくなるに従って同じ曲げ強さが現れる焼成温度が低くなる。…(中略)…図-2、3より焼却灰の細粉化はより低い焼成温度から溶剤的な働きを発現させ、その結果、曲げ強さの向上あるいは焼成温度の低減がはかられることを示している。」(第658〜659頁「3.焼却灰細粉化による製品品質の改善効果(2)結果と考察」)」
▲7▼「無加工焼却灰を使用した呼び径250mm、有効長さ660mmの厚陶管の試作実験では、乾燥工程後の不良品率は16.7%(総数84本、不良品数14本)であった。一方、粉砕焼却灰を使用した呼び径250mm、有効長さ1000mmの厚陶管試作実験では、乾燥後の不良品率は4.9%(総数149本、不良数1本)であった。なお、この時の配合粘土のみの厚陶管不良品率は5.9%(総数17本、不良数1本)であった。これは、焼却灰の粉砕によって焼却灰のコンシステンシーが粘土に近くなり、粘土との馴みが良くなったためと考えられる。」(第660頁「4.厚陶管試作実験(2)考察▲1▼外観」)
▲8▼配合粘土に0〜40%の焼却灰を添加した原料から試作した厚陶管の性能の試験結果。(第660頁表-3)
III.対比・判断
1.対比
本件発明と引用刊行物に記載の発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
引用発明における「焼却灰」は、前記「II.▲1▼、▲2▼」の摘記事項からすると、本件発明の「下水汚泥焼却灰」に相当する。
また、引用発明における「厚陶管」は、本件発明における「土木及び建築用窯業製品」に、相当する。
そして、前記「II.▲6▼」中の「図-1は粘土のみを原料とした場合の曲げ強さを基準にして、粉砕焼却灰と無加工焼却灰(多段炉からでてきたままのもの)を添加した場合の曲げ強さと焼成温度の関係を示したものである」との記載及び前記「II.▲7▼」中の「配合粘土のみの厚陶管不良品率は5.9%(総数17本、不良数1本)であった。」との記載からすると、引用発明においては、焼却灰を配合粘土に0〜40%の割合で添加し、この配合物を成形後焼結して厚陶管を得ているといえる。
そうすると、引用発明における「厚陶管用の配合粘土」は、本件発明の「窯業原料」に、引用発明における「焼却灰」と「厚陶管用の配合粘土」との配合物は、本件発明における「窯業製品形成用坏土」にそれぞれ相当し、また、引用発明における配合粘土の添加割合「0〜40%」はその単位については明示されていないものの、通常は重量%と解されるから、これは、本件発明における下水汚泥焼却灰の混入量「5〜35重量%」と重複する。
更に、引用刊行物の表-1に示された高分子系焼却灰についてCaO,MgO,P2O5のゼーゲル式でのモル数を計算した結果は順に約0.514モル,約0.266モル,約0.547モルとなり、(特許異議申立書に添付された「参考資料2」参照。)、これは、本件発明において、下水汚泥焼却灰の組成成分の調整目標とされる「塩基性成分の内、ゼーゲル式でCaOが0.3モル以上0.8モル以下、MgOが0.1モル以上0.5モル以下、酸性成分の内、P2O5が少なくとも0.2モル以上」という数値範囲内のものである。
そうすると、両者は、「下水汚泥焼却灰を窯業原料に0〜35重量%混入して窯業製品形成用・土を調整し、その・土で窯業製品を成形し、焼成する土木及び建築用窯業製品の製造方法。」の構成の点で一致し、次の構成の点で相違する。
〈相違点1〉
本件発明が、「塩基性成分の内、ゼーゲル式でCaOが0.3モル以上0.8モル以下、MgOが0.1モル以上0.5モル以下、酸性成分の内、P2O5が少なくとも0.2モル以上となるように下水汚泥焼却灰の組成成分を調整」する点を構成要件としているのに対し、引用刊行物には、下水汚泥焼却灰の組成成分としては、ゼーゲル式のモル数で、CaOが約0.514モル,MgOが約0.266モル,P2O5が約0.547モルのものが示されていることから、本件発明で規定する「塩基性成分の内、ゼーゲル式でCaOが0.3モル以上0.8モル以下、MgOが0.1モル以上0.5モル以下、酸性成分の内、P2O5が少なくとも0.2モル以上」という数値範囲内にある下水汚泥焼却灰を使用することについては記載があるが、「塩基性成分の内、ゼーゲル式でCaOが0.3モル以上0.8モル以下、MgOが0.1モル以上0.5モル以下、酸性成分の内、P2O5が少なくとも0.2モル以上となるように下水汚泥焼却灰の組成成分を調整」する点については記載がない点。
〈相違点2〉
本件発明が、下水汚泥焼却灰を、「予め調整された窯業原料内へ増量材として」混入するのに対して、引用刊行物には、下水汚泥焼却灰が混入される「配合粘土」について、それが「厚陶管用の配合粘土」であることについての記載及び表-1に「配合粘土」の化学成分についての記載がそれぞれがあるが、「配合粘土」が「予め調整された窯業原料」であって焼却灰が「増量材」として添加されるものであるかについては明示の記載がない点。
〈相違点3〉
本件発明においては、「下水汚泥焼却灰を粉砕を行わずに」窯業原料に混入するという構成を有するのに対して、引用発明は、製品の品質向上のために下水汚泥焼却灰を粉砕している点。
2.相違点についての判断
〈相違点1〉
例えば、特許異議申立書において引用されている甲第2号証(土木研究所資料第2908号 下水汚泥焼却灰の土質改良材としての利用マニュアル(案)、平成2年11月、第1〜9頁)には、高分子系下水汚泥焼却灰のいくつかについてその組成を分析した例(24例)が示されており、これらのそれぞれについてゼーゲル式を求めると、1例を除いてはいずれも本件発明において規定する組成の範囲内のものであり、また、平均値も本件発明において規定する組成の範囲内のものである(特許異議申立書に添付された参考資料1参照のこと)。
してみると、本件発明で規定する下水汚泥焼却灰についての成分組成の範囲は、下水汚泥焼却灰としては通常の範囲内のものであって格別のものとすることはできないから、この相違点1は格別のものではない。
〈相違点2〉
前記「II.▲7▼」の「この時の配合粘土のみの厚陶管不良品率は5.9%(総数17本、不良数1本)であった。」との記載からすると、引用刊行物でいう「厚陶管用の配合粘土」とは、それ自体を成形、焼成されることによって厚陶管を製造することができるように調整された「窯業原料」であると解されるから、引用刊行物における「配合粘土」は、「予め調整された窯業原料」であるとするのが相当である。
また、それ自体を成形、焼成することによって厚陶管を製造することができるように調整された「窯業原料」に混入されて同じく厚陶管を製造することができる引用刊行物における「下水汚泥焼却灰」はそれが窯業原料の使用量を減少させているという意味では「増量材」であるとすることができる。
従って、相違点2は格別のものではない。
〈相違点3〉
引用刊行物には、焼却灰を粉砕しないで配合粘土に添加した場合についての結果も示されていることから、引用刊行物には、焼却灰を粉砕しないで配合粘土に添加する場合についても実質的に記載されている。
また、引用刊行物には焼却灰を粉砕する理由について、製品の品質を改善するために焼却灰を粉砕すること、焼却灰を細粉化することによって製品の曲げ強度が向上すること及び焼成温度が低減できることも記載されている(「II.▲4▼〜▲7▼」)。
そして、製品の品質向上は望ましいことである反面、粉砕を行えばその分だけの手間が更に必要であることは自明なことであるから、製品の品質向上がそれ程必要でない場合に、粉砕工程を省略して製品の製造に要する手間を軽減することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
更に、本件特許の明細書を参照するに、焼却灰を粉砕しないことによる利点として挙げられているのは、「そのまま原料として使用するから、既存の製造工程で製造でき、余計な工程やエネルギーも消費しない。また焼却灰の特定成分は焼成温度を下げる作用を有するから、同じ特性の製品を焼却灰無添加で得ようとする場合の焼成温度より、50〜100℃低い温度で焼成可能となる。」(明細書【0005】)及び「従来の粉砕過程で発生していた重金属の溶出がなく、粉砕後の脱水や乾燥時にこのような有害物質が流出することもないから、環境上の問題も解決できる。」(同【0021】)というものである。
しかるに、引用刊行物1には、粉砕した焼却灰を使用することにより焼成温度が低減できることが記載されているところ、本件明細書を参照しても、粉砕しない方が粉砕する場合よりも焼成温度が低減できることを示す記載もないことから、粉砕しない焼却灰を用いることにより、粉砕した焼却灰を用いる場合に比して焼成温度の低減効果において優れた効果が奏されるとすることはできない。
また、粉砕工程を採用しないことにより有害物質が流出することがないという効果も、当業者が予測し得ない程の効果ではない。
上記のとおりであるから、相違点3は格別のものではない。
してみると、上記相違点1〜3に係る本件発明の構成の点はいずれも当業者が容易に想到し得たことといえるから、本件発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
IV.むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、上記引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に記載された発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-12-09 
出願番号 特願平3-59356
審決分類 P 1 652・ 121- Z (C04B)
P 1 652・ 113- Z (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 新居田 知生
能美 知康
登録日 1997-12-19 
登録番号 特許第2729281号(P2729281)
権利者 不二見セラミック 株式会社
発明の名称 土木及び建築用窯業製品の製造方法  
代理人 石田 喜樹  

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