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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1014599
異議申立番号 異議1997-74970  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-05-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-10-22 
確定日 2000-01-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第2603311号「耐燃化法」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2603311号の請求項1ないし7、9ないし10に係る特許を取り消す。 同請求項8、11ないし15に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 昭和63年 9月26日
(パリ条約による優先権主張
1987年9月29日米国)
設定登録 平成 9年 1月29日
(特許第2603311号)
特許異議の申立て 平成 9年10月22日
(申立人 加藤剛士)
取消理由通知 平成10年 4月16日
意見書、訂正請求書 平成10年11月 9日
訂正拒絶理由通知 平成10年12月10日
審尋書(申立人宛) 平成10年12月10日
回答書 平成11年 3月 8日
2.訂正の適否に対する判断
平成10年11月9日付けの訂正請求は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の記載を上記訂正請求書に添付された明細書のとおりに訂正しようとするものである。
これに対して、平成10年12月10日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。
そして、上記訂正拒絶理由は妥当なものと認められるので、上記訂正請求は認められない。
3.本件特許発明
上記「2.」で述べたように、上記訂正請求は認められないので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明は、特許明細書及び図面の記載よりみて、特許査定時の請求項1〜15に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】プラスター・オブ・パリス、石こう、ポルトランドセメント、アルミニウム系セメント及びポツゾランセメントより成る群から選ばれる水硬セメント結合剤、固化遅延剤並びに少くとも約0.5%の塩基性物質を含んでなる水硬セメントに基づく耐燃性組成物のスラリーを吹き付けノズルに輸送し;酸性固化促進剤を、該ノズルヘのごく近傍において該スラリー中に導入し;そして該スラリーを基材上に吹き付ける、工程を含んでなり、斯くして、(a)該スラリーの固化が促進され、(b)該塩基性物質と該固化促進剤とが該スラリーの促進された固化の前に反応して収量の増加及び12〜25ポンド/立方フィートなる組成物固化後の密度がもたらされる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】加圧空気を該スラリー中に導入して、その霧状化及び吹き付けを行なうことを更に含んでなる特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】該加圧空気が固化促進剤を含む特許請求の範囲第2項記載の方法。
【請求項4】該固化促進剤を液体として又は溶液形で該スラリー中に導入し且つその該スラリーへの導入前に霧状にする特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項5】該固化促進剤を、該スラリーの固化時間を約15分以下まで減ずるような量でそれに導入する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項6】該固化促進剤が硫酸アルミニウムである特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項7】該固化促進剤を、約0.1〜20%の該固化促進剤濃度を与える速度で該スラリー中に導入する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項8】該難燃性組成物が塩基性物質を約2〜25%含有する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項9】該結合剤が石こうであり且つ該塩基性物質が炭酸塩又は炭酸水素塩である特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項10】該塩基性物質を、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムからなる群から選択する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項11】該組成物が添加された塩基性物質を含有する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項12】該組成物が該添加された塩基性物質を約0.1〜10%含有する特許請求の範囲第11項記載の方法。
【請求項13】該塩基性物質を、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムからなる群から選択する特許請求の範囲第11項記載の方法。
【請求項14】該収量の増加が約5〜30%である特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項15】該スラリーが切断したポリスチレン集合体を更に含有する特許請求の範囲第1項記載の方法。
(以下において、各請求項に係る発明を順に「本件発明1」〜「本件発明15」という。)
4.取消理由の概要
平成10年4月16日付けの取消理由の概要は次のとおりである。
本件発明1〜7,9及び10は、下記引用刊行物2〜4の記載を参照すると、下記引用刊行物1に記載された発明であるから、本件発明1〜7,9及び10の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。

引用刊行物1 特開昭51-82929号公報
(甲第1号証に該当)
引用刊行物2 「石膏と石灰」第121号(昭和47年発行)、第301〜303頁
(甲第2-1号証に該当)
引用刊行物3 村上恵一監修、関谷道雄外3名編集「新しい資源・セッコウとその利用」株式会社ソフトサイエンス社、昭和51年3月20日発行、第228頁
(甲第2-2号証に該当)
引用刊行物4 JIS-A6904-1976
(甲第3号証に該当)
5. 各引用刊行物の記載
5.1 引用刊行物1
上記引用刊行物1には、「コンクリートまたはモルタル組成物の湿式吹付け工法」の発明に関し、
(1-1)「無機質結合剤と無機質骨材とからなる組成物に水を加えてスラリーとしたものをポンプ手段で吹付けノズルに送り込み、そのノズルからスラリーを吹付ける湿式吹付け工法において、前記ノズル部分でスラリーに硬化剤を添加すると共に圧搾空気をノズル内に送り込み、この圧搾空気の送り込みによってスラリーと硬化剤とを強制混合して吹付けることを特徴とするコンクリートまたはモルタル組成物の湿式吹付け工法。」(特許請求の範囲)、
(1-2)「近年、建築工事や土木工事などの現場で耐火被覆層、耐火断熱層などを形成するに当り、その施工の迅速性、経済性および複雑な形状を有する構造物への施工の容易さなどの理由から、コンクリートまたはモルタル組成物の湿式吹付け工法が多用されている。」(第1頁左下欄第18行〜同頁右下欄第3行)、
との記載があるほか、
(1-3)第4頁左上欄の表及び同欄下から第9〜5行には、実施例(III)として、石膏プラスター:50、蛭石:50,メチルセルロース:0.8,DBS(ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、第3頁右上欄参照):0.1からなる配合物に、水/材料比:0.8とし、硬化剤としての硫酸バンド(硫酸アルミニウム)の添加量:5としたものは、凝結時間:1分、硬化時間:5分であり、同組成の配合物ではあるが硬化剤を使用しない従来例(II)に比べて付着性、搬送性とも格段に優れていたことが、
(1-4)第4頁左下欄の第1図には固化剤貯留槽(5)からポンプ(6)によりホース(7)を経て固化剤を吹付けノズル(4)へ供給するものが、同じく第3図には、硬化剤が供給されるホース(7)が圧縮空気が導入されるホース(9)に接続され、そのホース(9)が吹付けノズル(4)に接続されているものが、
それぞれ示されている。
5.2 引用刊行物2
上記引用刊行物2は、「三井式せっこう法排煙脱硫装置」と題する報文であって、その第303頁左欄「(3)中試験プラントでのせっこう品位」の欄にはCaCO3含有量が「1.132%」であること、及び同欄下から第14〜8行には吸収剤として「炭カル」すなわち「炭酸カルシウム」が最も一般的な吸収剤であることが示されている。
5.3 引用刊行物3
上記引用刊行物3の第228頁右欄の表2-3には、「ドイツ天然セッコウの一例」としてCaCO3含有量(%)が「0.73」のものが示されている。
5.4 引用刊行物4
上記引用刊行物4の下から第5〜4行には、「せっこうプラスターは、焼せっこうを主原料とし、必要に応じて、これに混和材及び増粘剤、凝結遅延剤などを混入したものとする。」との記載がある。
6. 対比・判断
本件発明1、9及び10と上記引用刊行物1に記載されている発明とを対比すると、引用刊行物1における「耐火被覆層」及び「耐火断熱層」は「耐燃性層」に他ならないし、また、「石膏プラスター」は、上記引用刊行物4として示した日本工業規格JIS-A6904-1976にも規定されているように、焼石膏(plaster of Paris)を主原料とするものであり、引用刊行物1記載のものにおける硬化剤としての「硫酸バンド」(硫酸アルミニウム)は本件特許明細書に「酸性固化促進剤」として例示されているものであるから、結局、両者は、共に、「プラスター・オブ・パリス、石こうより成る群から選ばれる水硬セメント結合剤を含んでなる水硬セメントに基づく耐燃性組成物のスラリーを吹き付けノズルに輸送し、酸性固化促進剤を、該ノズルヘのごく近傍において該スラリー中に導入し、そして該スラリーを基材上に吹き付ける工程を含んでなり、斯くして(a)該スラリーの固化が促進されることを特徴とする方法。」である点では一致するが、本件発明ではスラリーが「固化遅延剤並びに少なくとも約0.5%の塩基性物質」を含有するものであるのに対し、上記引用刊行物1にはこのような成分を含有することに関する記載がない点、及び本件発明では「(b)該塩基性物質と該固化促進剤とが該スラリーの促進された固化の前に反応して収量の増加及び12〜25ポンド/立方フィートなる組成物固化後の密度がもたらされる」ことを構成要件としているのに対し、引用刊行物1にはこのような記載がない点で、一応相違する。
しかしながら、上記引用刊行物4に示されているように、石こうプラスターには必要に応じて固化遅延剤(凝結遅延剤)が混入されるものであるから、石こう等を主原料とする水硬セメント結合剤においては固化遅延剤を配合することは適宜必要に応じて行われる慣用手段であると認められるし、また、上記引用刊行物2及び3にも示されているように、石こう原料として普通に使用されている排煙脱硫石こうや天然石こう中には0.73〜1.132%程度の炭酸カルシウムが含まれていることが周知であることを考慮すると、上記引用刊行物1に記載の発明における「水硬セメントに基づく耐燃性組成物」は「約(0.73〜1.132%)×50/(50+50+0.8+0.1)=約0.36〜0.56%程度の炭酸カルシウム」及び「固化遅延剤」を含むものを包含しているものと認めざるを得ない。
してみると、本件発明1、9及び10における「塩基性物質」には「炭酸カルシウム」が包含され(本件特許公報第7欄第45〜47行参照)、この塩基性物質は「セメント結合剤中に天然に存在する物質として、例えば石こう中に天然にある炭酸カルシウムとして付与することができ」(同公報第8欄第2〜4行)るものであるから、本件発明1、9及び10と引用刊行物1に記載の発明とは、ともに「固化遅延剤及び塩基性物質」を含んでいるばかりでなく、その塩基性物質含有量も重複・一致しており、また、吹き付け方法にも相違はないので、引用刊行物1に記載の発明でも本件発明1と同様の耐燃性コーティング、すなわち、
「(b)該塩基性物質と該固化促進剤とが該スラリーの促進された固化の前に反応して収量の増加及び12〜25ポンド/立方フィートなる組成物固化後の密度」の耐熱性コーティングが形成されているものと認められる。
したがって、本件発明1、9及び10は引用刊行物1に記載された発明であると認められるから、本件発明1、9及び10の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
また、上記引用刊行物1には、上記(1-1)に加圧空気をスラリー中に導入して吹き付を行うことが、上記(1-4)に固化促進剤を液状で加圧空気中に導入して、スラリーへの導入前に混合すなわち霧状になすことが、上記(1-3)に固化促進剤として硫酸アルミニウムを5×100/(50+50+0.8+0.1)=約4.7%の濃度となるように使用し、固化時間を5分となすことが、それぞれ示されているから、本件発明1をさらに限定した本件発明2〜7も引用刊行物1に記載された発明であると認められるので、本件発明2〜7の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
7. 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証(特開昭51-82929号公報、上記引用刊行物1に該当)、甲第2-1号証(「石膏と石灰」第121号(昭和47年)、第301〜303頁、上記引用刊行物2に該当)、甲第2-2号証(村上恵一監修、関谷道雄外3名編集「新しい資源・セッコウとその利用」株式会社ソフトサイエンス社、昭和51年3月20日発行、第228頁、上記引用刊行物3に該当)及び甲第3号証(JIS-A6904-1976、上記引用刊行物4に該当)を提示し、
(1)本件発明1〜15は、甲第2-1,2-2及び3号証の記載を参照すると、甲第1号証に記載された発明であると認められるから、本件発明1〜15の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである、
(2)特許査定時の請求項1,8,11及び12には記載不備があるから、本件発明1,8,11及び12は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものに対してなされたものである、
ので、特許を取り消すべきものである旨を主張している。
7.1 異議申立理由(1)について
甲第1、2-1、2-2及び3号証は、それぞれ取消理由で引用された上記引用刊行物1〜4に該当する。
そして、本件発明1〜7、9及び10については既に「6.」で述べたとおりである。
ただ、甲第1号証に記載されている発明における塩基性物質含有量は、上述のように約0.36〜0.56%程度であると認められるから、本件発明8は、塩基性物質含有量が甲第1号証に記載のものとは相違しているので、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
また、上記甲第1号証には塩基性物質を意図的に外部から添加すること、収量の増加をもたらすこと、及び切断したポリスチレン集合体を含有させることを示唆する記載はないから、本件発明11〜15も上記甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
7.2 異議申立て理由(2)について
異議申立て理由(2)は、特許請求の範囲の請求項8,11及び12には「塩基性物質」との記載があるが、塩基性物質とは一般には水酸化アルカリ化合物、水酸化アルカリ土類金属化合物等をも含み、これらの化合物は本件特許発明の方法のいずれの効果をも達成し得ない化合物であるから、上記請求項8,11及び12の「塩基性物質」とは発明の詳細な説明の記載に支持されていない化合物を含み、且つ発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものということはできないから、本件発明8,11及び12の特許は明細書の記載が特許法第36条第4項第1号及び第2号の規定を満たしていないものに対してなされたものである、というものである。
しかしながら、本件特許明細書には、「『塩基性物質』とは、本発明の組成物又は方法において使用される酸性固化促進剤と反応し、結果として耐燃性スラリーの気体発生と体積膨張をもたらすいずれかの物質を意味する。」(本件特許公報第5欄第14〜17行)、「酸性促進剤と反応する塩基性物質とは酸と反応した時に気体、普通二酸化炭素を発生しうる炭酸塩、炭酸水素塩又は他の塩基性物質でありうる。この塩基性物質は促進剤と十分速く反応して、スラリーの固化前に所望の程度の気体を発生し、体積を膨張しなければならない。塩基性物質として使用しうる化合物は炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを含む。」(同公報第7欄第41〜47行)と「塩基性物質」について明確に定義されており、かかる記載によれば水酸化アルカリ化合物、水酸化アルカリ土類金属化合物等の酸性固化促進剤と反応しても気体を発生しない化合物は本件発明1、8,11及び12における「塩基性物質」ではないことは明らかであるので、申立人の上記主張は、理由がなく、採用できない。
8. むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜7、9及び10の特許は、特許法第113条第1項第2号に該当する。
また、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明8、11〜15の特許を取り消すことはできないし、他に本件発明8、11〜15の特許の特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-08-30 
出願番号 特願昭63-239117
審決分類 P 1 651・ 534- ZE (C04B)
P 1 651・ 113- ZE (C04B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 新居田 知生
能美 知康
登録日 1997-01-29 
登録番号 特許第2603311号(P2603311)
権利者 ダブリユー・アール・グレイス・アンド・カンパニー-コネチカツト
発明の名称 耐燃化法  
代理人 小田島 平吉  

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