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審決分類 審判 審判種別コード:80 2項進歩性  B21B
管理番号 1016031
審判番号 審判1998-18976  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-01-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-12-09 
確定日 2000-04-28 
事件の表示 平成 2年特許願第101800号「鋼板材質予測装置」拒絶査定に対する審判事件[平成7年11月 8日出願公告特公平7-102378 平成 4年1月7日出願公開、特開平4-2957 ]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成2年4月19日の出願であって、平成7年11月8日に出願公告されたところ、株式会社神戸製鋼所より特許異議の申立てがなされ、その特許異議の申立は理由があるとの決定があり、その特許異議の決定の理由と同じ理由をもって拒絶査定がなされたものである。
2.本願発明の要旨
本願の請求項1、2に係る発明は、出願公告後の平成8年11月1日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものと認められるところ、その特許請求の範囲第1項に記載された発明は、つぎのとおりである。
「圧延及び冷却の対象となる鋼片の成分及び圧延条件に基づいて圧延後のγ粒径を板厚の厚み方向の複数の位置について演算する熱間加工モデル演算部と、該熱間加工モデル演算部による演算結果、冷却工程での冷却条件および前記成分に基づいて当該成分における状態図の計算を行い、任意の微小時間ごとに各組織が熱力学的に変態可能か否かを判定し、変態可能な場合、その組織について変態量の増分を求め、同時にその変態量に応じた変態潜熱を計算して冷却温度の補正を行うことを変態終了まで繰り返して最終的なα粒径、組織分率および各組織の平均生成温度を板厚の厚み方向の複数の位置について演算する変態モデル演算部と、該変態モデル演算部による演算結果および前記成分に基づいて前記鋼板の材質を板厚の厚み方向の複数の位置について予測する組織・材質モデル演算部とを具備したことを特徴とする鋼板材質予測装置。」(以下、「本願発明」という。)
3.原審における特許異議の決定の理由の概要
原審の特許異議の決定の理由の概要は、本願発明は、特許異議申立人が異議の証拠として提出した本件出願前に頒布された甲第1号証刊行物の「Transactions ISIJ,Vol.27,1987,第439〜445頁、“Computer Modeling of Microstructural Change and Strength of Low Carbon Steel in Hot Strip Rolling”」(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
4.引用例の記載事項
引用例には、次の事項についての記載がある。
(1)「1.熱間圧延における低炭素鋼のミクロ組織変化と強度に関するコンピュータモデル熱間圧延鋼板の引張強さの予測モデル
鋼の引張強さは、粒径,第2相,転位密度,析出物のようなミクロ組織や合金元素に依存するので、強度を予測するためのモデルは、製造中におけるミクロ組織の変化やその結果得られるミクロ組織と強度との関係を含むものでなければならない。それ故、圧延及び冷却中におけるミクロ組織の変化が明らかにされねばならない。本研究モデルは、3つの部分からなる;すなわち、図1のフローチャートで示すように、(1)熱間圧延過程におけるミクロ組織の変化(熱間加工モデル)、(2)冷却過程におけるミクロ組織変化(変態モデル)、(3)ミクロ組織と強度との関係(組織-特性関係)」(第439頁の論文表題部分及び第439頁右欄第15〜30行)
(2)初期構造、化学組成及び熱間圧延条件を熱間加工モデルにインプットすることにより熱間圧延後のミクロ組織のデータを得て、これを化学組成、冷却条件のデータと共に変態モデルにインプットして変態後のミクロ組織についてのデータを得て後、これと化学組成のデータとから組織-特性関係に基づいて熱間圧延シートの引張強さのデータを得ること(第440頁左欄Fig.1参照)
(3)「2.熱間加工におけるミクロ組織の変化
…(中略)…本研究の著者は、図2に示すように、動的および静的再結晶、動的および静的回復、及び粒成長のような冶金学上の全ての要素を数式化することにより、商業的な実際の圧延に対応する広い領域で適用可能なモデルを開発した。そのモデルの特徴は、転位密度に関し、後の加工における再結晶に及ぼす前の加工の影響を含むことにある。…(中略)…図3はオーステナイト粒径と転位密度の計算結果を示す。」(第439頁右欄第31行〜第440頁第8行)
(4)「3.冷却過程における変態
…(中略)…本研究の著者は、冷却中の変態の進展を予測するためのモデルを開発した。図4はその変態モデルにおける仮定条件の幾つかを示している。計算において、変態は温度が計算値Ae3点に低下したときに開始する。…(中略)…Ae1,Cα及びAcm点と同じように、Ae3点の計算のために、図4aに示すように、化学組成(C、Mn、Si)の影響が熱力学的パラメータによって算入された。変態の進展は、核生成及び成長の場合は下記式(1)のように数式化され、
dX/dt=(k1/dγ)(IG3)1/4〔ln(1/(1-X))〕3/4(1-X)…(1)
核生成サイトが飽和した場合は下記式(2)のように数式化された。
dX/dt=(k2/dγ)G(1-X)…(2)
ここで、Xは変態分率、Iは核生成速度、Gは成長速度、dγは変態前のオーステナイト粒径、kは定数である。このモデルにおいて、核生成速度Iは、次の式に基づいて計算される。
I=k3T-1/2Dexp(-k4/RTΔGV2)…(3)
ここで、Tは温度、Dは拡散係数、Rは気体定数、ΔGVはオーステナイトとフェライトとの自由エネルギー差である。…(中略)…
オーステナイト中の炭素含有量Cγは下記式(4)のようにフェライト変態中に増加する(図4b)。
Cγ=(C。-XF Cα)/(1-XF )…(4)
ここで、C0は変態前のオーステナイト中の炭素含有量、XFはフェライト分率、Cαはフェライト中の炭素含有量である。式(4)はフェライトの成長速度の計算のために用いられ、そのため、成長速度はオーステナイトからフェライトに変態する間に変化する。このモデルにおいて、フェライト変態は初期の段階では‘核生成及び成長’モデル(式(1))に従い、後の段階では「核生成サイト飽和」モデル(式(2))に従う。
…(中略)…
パーライト変態はオーステナイト中の炭素含有量がAe1点以下に冷却した場合に外挿されるAcm線に達した時に開始する。そしてベイナイト変態はベイナイト開始温度Bs で開始する(図4c)。Bsは実験的に決定される。当初の炭素含有量はBsの計算に用いられる。これらの変態の進展は、式(2)により異なったk2値によって算出され、このk2 は各々の変態に対して実験的に決定される。」(第440頁左欄第9行〜第441頁左欄第37行)
(5)「4.強度とミクロ組織との関係
…(中略)…鋼の強度は、硬さに対する混合の法則を仮定すると、一般的には硬さに比例していると考えられるので、kgf/mm2で表す場合の引張強さTSは、下記(5)式により表される。
TS=a〔XF(HF +bdα-1/2)+XPHP+XBHB 〕……(5)
ここで、Xは変態相(F:フェライト、P:パーライト、B:ベイナイト)の個々の分率、Hは個々の微小構成要素の硬さ、dαはmmで示したフェライト粒径、aとbは定数である。鋼の個々の構成要素について、強度と変態温度との関係が確立されれば、引張強さは式(5)から計算され得る。(第441頁右欄第21行〜第442頁左欄第3行)
(6)「フェライト粒径dα(μm)は下記(7)式で表される。
dα=[5.51×1010dγl.75exp(21430/T0.05)XF]1/3……(7)」
(第442頁右欄第12〜15行)
(7)「3.硬さと変態温度との関係
図11は各微小構成要素の硬さと下記式(9)により算出されたその要素の平均変態温度TMとの関係を示す。
TM=∫Tdx/∫dx ・・・(9)
ここで、変態温度Tは変態モデルにおいて無限小の変態生成物dxが生成したときの温度として計算される。フェライトとベイナイトの両方に対して、硬さと平均変態温度との間に直線的な関係が見出される。このような関係は、パーライトに関しては得られなかった。その理由は多分使用された鋼の変態温度範囲が狭いためと思われる。Siは固溶体強化に対して大きく寄与するがCとMnの寄与は非常に小さい。その上、硬さは冷却速度に依存しない。これらの結果から、各微小構成要素の硬さは下記式(10)により表現される。
HF =361-0.357TF +50[%Si]、
HP =175 、
HB =508-0.588TB +50[%Si]…(10)
ここで、Hは硬さでありTは平均変態温度であって、付加文字Fはフェライト、Bはベイナイト、Pはパーライトの各相を示す。」(第443頁左欄第17行〜同頁右欄第1行)
(8)「4.予測、観察されたミクロ組織と引張強さとの比較
上記各式、熱間加工モデル、変態モデルを用いることにより、熱間圧延品のミクロ組織はその化学成分と加工変数から予測され得る。生産ラインに対する計算には、冷却速度に及ぼす変態潜熱の影響が含められるべきである。t1からt2への微小時間内の温度降下△Tは下記式(11)により表される。
△T=△T0-△X・Hl/CP-(X2・Hm2-X1Hm1)/CP ……(11)
ここで、Hは変態潜熱、Cpは比熱である。
T0 は変態による熱の発生が無視できるときの温度降下を意味する。△Xは変態分率における増分である。X1とX2は時刻t1とt2 における変態分率であり、Hm1とHm2は温度がT1とT2 にそれぞれ到達するまでの磁気変態の全潜熱である。」(第443頁右欄第2〜末行)
(9)「図13に0.2%C-0.2%Si-0.5%Mn鋼の各微小構成要素の変態分率の計算値と観察値との比較を示す。図中の(a)の試料のミクロ組織はフェライト-パーライトであり、(b)の試料はフェライト-ベイナイトである。計算値と観察値は両試料において一致している。
引張強さは式(5)と式(10)により計算された。定数aは熱延鋼板では0.3から0.35であり、本研究では、0.31とした。bはIrvineとPickeringの結果から2.55とした。引張強さの計算値と観察値は、種々の鋼(C:0.1〜0.2%、Si:0.006〜0.5%、Mn:0.5〜1.5%)に対して、図14に示すように、良好な一致を見た。」(第444頁左欄第2〜15行)
(10)「熱間圧延における低炭素鋼のミクロ組織変化と強度に関するコンピュータモデル
…(中略)…
概要 熱間圧延低炭素鋼シートの強度を化学組成及び加工変数から予測するための計算モデルが熱加工モデル、変態モデル及び強度とミクロ組織との関係の結合として開発された。」(第439頁表題〜同頁左欄第1〜6行)
(11)「実験手順 0.05〜0.2%C-0.006〜1.0%Si-0.5〜1.5%Mnの成分を有する鋼が用いられた。材料は1523Kで加熱保持され、熱間圧延され、1273Kで圧延終了し、12又は40mm厚の厚板を得て、空冷した。3種の試料が準備された:すなわち、直径4mm長さ12mmの膨張試験用の丸棒と;10×15×180mmの連続加工シミュレーション用の長方形片と;40×200×250mmの実験圧延用スラブ。…(中略)…本研究モデルにより予測された引張強さは、2スタンド圧延機により熱間圧延された0.1〜0.2%C-0.006〜0.5%Si-0.5〜1.5%Mn鋼の引張強さと比較された。40mm厚さの試料は、1373Kで30分間加熱され、1173Kの圧延終了温度まで6パスの加工により2.4mmに圧延され、10〜100℃/sの平均冷却速度で冷却され、巻き取りの代用として、60分間soak処理され、次いで電気炉で徐冷した。」(第442頁左欄第4〜55行)
5.対比・判断
(1)本願発明と引用例に記載された発明との一致点
引用例の第440頁のFig.1のフローチャートで示されているものに着目するに、引用例記載のものは、前記「4.(1)、(10)」によれば、鋼板材質を予測するためのものであり、この予測のためにコンピュータを使用することから、引用例には、「鋼板材質予測装置」が実質的に記載されているといえる。
引用例記載のものにおける「熱間加工モデル」、「変態モデル」及び「組織-特性関係」は、それぞれモデルに基づいて演算するものであって、その演算はコンピュータ等の演算装置によってなされるものと認められるところ、その演算装置はそれぞれのモデルに基づく演算部を有するものと認められるから、引用例には「熱間加工モデル」、「変態モデル」及び「組織-特性関係」を演算する演算部が開示されており、これは、それぞれ本願発明の「熱間加工モデル演算部」、「変態モデル演算部」及び「組織・材質モデル演算部」に相当する。
前記「4.(2)」には、鋼の化学組成(これは、偏見発明における「成分」に相当する。)及び熱間圧延条件を熱間加工モデルにインプットして熱間圧延後のミクロ組織のデータを得ることが記載されている。また前記「4.(3)」には、ミクロ組織のデータとしてオーステナイト粒径について算出したことが記載されており、このオーステナイト粒径は本願発明における「γ粒径」に相当するものと認められる。
このことから、引用例記載のものにおける熱間加工モデル演算部は鋼片の成分および圧延条件に基づいて圧延後のγ粒径を演算するものと認められる。
前記「4.(2)」には、熱間加工モデルによって得たミクロ組織のデータと、冷却条件のデータと化学組成のデータとを変態モデルにインプットして、変態後のミクロ組織についてのデータを得ることが記載されていることから、引用例記載のものにおいては、熱間加工モデル演算部による演算結果、冷却工程での冷却条件及び成分に基づいて変態モデル演算部での演算がなされるものと認められる。
前記「4.(4)」には、状態図に基づいて、オーステナイト変態、フェライト変態及びベイナイト変態の各々について、その変態の開始温度を決定すること及び変態分率が時間微分の形で表され((1)式、(2)式)、これらの式は変態分率X(これは、「本願発明における「組織分率」に相当する。)を変数として含むことが記載されていること及び前記「4.(5)」の式(5)に、強度はフェライト、パーライト、ベイナイト各変態相の個々の変態分率から算出されることが示されていることからして、引用例記載のものにおいても、その変態量は各組織毎に計算されるものと認められ、また、引用例記載の(1)式及び(2)式には、変態分率の変化が変態分率を変数として含む時間微分の形で表されていることから、引用例記載のものも、変態分率の増分(これは変態量の増分に対応する)は微小時間毎に計算され、最終的な組織分率はこの増分を積算することによって求められるものと認められる。
また、引用例には、パーライト変態、ベイナイト変態は所定の温度に到達したときに開始することが記載されていることから、引用例記載のものにおいて変態量の演算を行うに際しても、計算が行われる温度において当該組織の変態が可能か否かの判定は当然に行われるものと認められる。
前記「4.(5)」には、強度は各構成要素の変態分率、α粒径及び各構成要素の硬さに依存することが示され、また、前記「4.(7)」には、各構成要素の硬さは各構成要素の平均変態温度に依存すること及び引用例記載のものにおいても平均変態温度が計算されることが記載されていることから、引用例記載のものにおいても、その引張強さを算出するに際しては各構成要素の変態分率(本願発明における「組織分率」に相当する。)、α粒径及び平均変態温度(これは本願発明における「平均生成温度」に相当する。)のデータが必要であり、これは変態モデル演算部において演算されるものと認められる。
前記「4.(2)」には、変態モデルでの演算結果と化学組成のデータと組織-特性関係に基づいて鋼板の材質を予測することが記載されていることから、引用例記載のものも、組織・材質モデル演算部は、変態モデル演算部による演算結果及び成分に基づいて鋼板の材質を予測するものであると認められる。
以上のことを総合すると、引用例記載の発明は、次の構成の点で本願発明と一致する。
「圧延及び冷却の対象となる鋼片の成分および圧延条件に基づいて圧延後のγ粒径を演算する熱間加工モデル演算部と、該熱間加工モデル演算部による演算結果、冷却工程での冷却条件および前記成分に基づいて当該成分における状態図の計算を行い、任意の微小時間ごとに各組織が熱力学的に変態可能か否かを判定し、変態可能な場合、その組織について変態量の増分を求めるという操作を変態終了まで繰り返して最終的なα粒径、組織分率及び各組織の平均生成温度を演算する変態モデル演算部と、該変態モデル演算部による演算結果および前記成分に基づいて前記鋼板の材質を予測する組織・材質モデル演算部とを具備したことを特徴とする鋼板材質予測装置。」
(2)相違点
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、両者は次の点で相違する。
A.本願発明が、「変態量に応じた変態潜熱を計算して冷却温度の補正を行う」という構成を具備しているのに対して、引用例の「Fig.1」で示されているフローシートにはこの構成の点が記載されていない点。
B.本願発明が、熱間加工モデル演算部、変態モデル演算部及び組織・材質モデル演算部による演算のそれぞれを「板厚の厚み方向の複数位置」について行うのに対し、引用例には、このような構成については記載がない点で両者は相違する。
(3)相違点についての検討
〈相違点A〉について
前記「4.(8)」には、生産ラインについて、モデルに基づく計算を行う場合には、冷却速度に及ぼす変態潜熱の影響を考慮して温度降下を補正する必要があることが記載されている。
してみれば、引用例記載のものにおいても、冷却速度に及ぼす変態潜熱の影響を考慮するべく、「変態量に応じた変態潜熱を計算して冷却速度の補正を行う」ことは当業者が容易になし得たことであり、この相違点は格別のものではない。
〈相違点B〉について
厚鋼板を熱間圧延する際に、その材質を予測する必要があることは周知のことである(必要ならば、a.特開昭59-67324号公報[第2頁左下欄第18行〜同頁右下欄第13行、第5頁右上欄第7行〜同頁右下欄第18行]及びb.特開昭58-117830号公報を参照のこと)。
また、熱間での圧延・冷却工程においては、鋼板の表面から熱が奪われることから、鋼板の厚み方向に温度差が生じ、その傾向は厚鋼板においてより大きいことは当業者には自明のことである。
そして、前記「4.(4)」で摘記した式(1)には、変態分率の変化率は核生成速度Iに依存することが記載されており、同じく前記「4.(4)」で摘記した式(3)によると、核生成速度は温度に依存することが記載されている。
そうすると、ある時間間隔における組織分率の変化率は、鋼板の厚み方向の位置によって差異が生ずることは当業者には明らかである。
そして、前記「4.(5)」で摘記した式(5)によれば、厚鋼板の強度は各組織の組織分率に依存するところ、上記のように、鋼の強度の演算の基礎となる組織分率が鋼板の厚み方向の位置によって異なることからすれば、厚鋼板の強度もその厚み方向の位置によって異なることは当業者が容易に推認できるところである。
上記のことに鑑みれば、引用例に記載のものを厚鋼板に適用するに際して、その強度等の予測をより精度よく行うために、厚鋼板のミクロ組織についてのより実態に即した演算を行うべく、その演算を、板厚の厚み方向の複数の位置について行ってみることは当業者が容易に想到し得たものとせざるを得ない。
そして、本願発明の前記構成によってもたらされる効果も当業者が容易に予測し得た範囲内のものであると認める。
6.結び
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2000-02-10 
結審通知日 2000-02-25 
審決日 2000-03-07 
出願番号 特願平2-101800
審決分類 P 1 80・ 121- Z (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 由紀夫木村 孔一  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 中村 朝幸
中澤 登
発明の名称 鋼板材質予測装置  
代理人 田北 嵩晴  

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