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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1016578
異議申立番号 異議1998-71155  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-09 
確定日 2000-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2650837号「エアロゾル分解による銀粉末の製法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2650837号の特許を維持する。 
理由 1.(手続きの経緯)
本件特許2650837号に係る発明は、平成5年10月5日の出願であって、平成9年5月16日に特許の設定登録がなされ、その後、山口博美より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月20日に訂正請求がなされたものである。
2.(訂正の適否についての判断)
ア.訂正の内容
▲1▼ 特許請求の範囲の請求項1
「A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度に加熱し、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。」
を下記の通り訂正する。
「A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.反応炉内において、エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱して、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。」
▲2▼ 特許明細書第5頁、段落【0019】中、第4〜6行の「特に、ゼロ重量損失……充分高密度化されていた。」を、訂正明細書第10頁、段落【0019】中、第3〜7行において下記の通り訂正する。
『「試験データ」を示す表において、「300℃における重量損失(%)」の欄の「なし」は、「ゼロ重量損失」を示し、銀粒子が純粋であったことを意味する。特に、実施例5および6でN2を使用して600℃において得られた銀粒子は、同欄に「なし1」および「なし2」と記載され、脚注に「1」および「2」で示されるように、純粋かつ充分高密度化されていた。』
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
▲1▼上記訂正事項▲1▼については、特許明細書の請求項1に記載された工程(C)における「エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度で、かつ銀の融点より低い操作温度に加熱し、」としている条件に、さらに「反応炉内において、……該反応炉内における滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱し、」と条件を付加し、工程(C)における操作条件をさらに限定したものである。
その最適な範囲は特許明細書の第4頁第8欄第2行目および同第5頁第9、10欄「試験データ」を示す表の「滞留時間(秒)」の欄に記載されている「5〜25秒」である。25秒を超えても本件発明で目的とする高密度化した球状粒子を製造できるが、上限値は省エネルギーを考慮して適宜決定することができるものである。
したがって、この訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また上記訂正事項▲1▼は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。
▲2▼上記訂正事項▲2▼については、実施例データの説明として「300℃における重量損失(%)」の欄に記載されている用語「なし」の意味を『……「なし」は、「ゼロ重量損失」を示し、銀粒子が純粋であったことを意味する。」と明確に定義し、さらに同表の記載事項を引用して「実施例5および6で……銀粒子は、同欄に「なし1」および「なし2」と記載され、脚注に「1」および「2」で示されるように、純粋かつ充分高密度化されていた。』と、より明確にしたものである。
なお、上記訂正中、「銀粒子が純粋であった」は、特許明細書の第6頁第11欄第5〜10行「実施例3、5、6及び7において得られた銀粒子のX線回折及び透過電子顕微鏡法(TEM)検査は、各々の場合粒子はきわめて純粋かつ高度に結晶性であることを示した。このことは、実施例5によりつくられた粉末について得られたX線回折パターンである図2から見ることができる」とする記載および「図2」に基く。
したがって、上記訂正事項▲2▼は、特許法第120条の4第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に相当するものである。
すなわち、上記訂正事項▲2▼は、願書に添付した明細書または図面の記載事項の範囲内の訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではないから、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に適合するものである。
ウ.独立特許要件の判断
(訂正明細書記載の発明)
本件訂正明細書記載の発明(以下「本件発明」という。」)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ,
C.反応炉内において、エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱して、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。」
(当審が通知した取消理由の概要)
本件発明に対して、当審が平成11年3月31日付けで通知した取消理由は、第29条第1項第3号(刊行物1)及び第29条第2項(刊行物1及び2)違反並びに明細書記載不備(第36条第4項及び第5項違反)を理由とするものである。
(引用刊行物の記載)
刊行物1:日本化学会誌1985,No.12, 第2342〜2344頁
本刊行物は、噴霧熱分解法による銀粒子の製造を開示し、第2342頁左欄「2実験」に「硝酸銀の0.1〜1.0mol・dm-3水-エタノール溶液を反応液とし、反応溶液を二重管式噴霧器から加熱したムライト質反応管中へ圧縮空気で噴霧し金属粉体を生成させた。生成粉体は2個のサイクロン中に乾式補集した。反応液流量は0.7〜2.7ml/min、噴霧空気流量は6〜161/min、反応温度は600〜1100℃とした。生成粉体は粉末X線回折法によって同定し、走査型電子顕微鏡で観察した。密度はビクノメーター法で測定した」と実験条件を、第2343頁左欄〜右欄「3.2 生成粉体の密度」に「銀の融点(961℃)以上の反応温度で製造した粒子は理論密度を示すが、融点以下では反応温度の低下にともない粒子の密度は減少している。これより反応温度が融点以下のとき、粒子内部に空孔が存在すると考えられる。一般に噴霧熱分解法では溶媒や熱分解ガスの発生で中空状粒子が生成する。しかし、本実験から、反応温度が融点以上では銀粒子は溶融状態を経て中実真球状粒子になることがわかる」と記載し、Fig.3に反応温度と密度との関係を示すグラフを掲げている。
また、第2343頁右欄下第2行〜第2344頁左欄第2行には、「反応温度が低い場合も密度の低下が小さいこと、……粒径の小さい粒子は中実に近いと考えられる」とする記載がある。
刊行物2:特公昭63一31522号公報
本刊行物は、1種または2種以上の金属塩を含む溶液を噴霧して液滴にし、その液滴を該金属塩の分解温度より高く、かつ金属の融点より高い温度で……加熱して、該金属塩を熱分解し生成した金属粒子を溶融する金属粉末の製造方法(請求項1)を開示し、加熱時の雰囲気として「酸化性、還元性、不活性雰囲気が適宜選択される」(第2頁第4欄第37〜39行)と記載されている。
(対比・判断)
本件発明は、特許請求の範囲の請求項1におけるC工程において、「反応炉内において、エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱する」ことによって、「(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化する」ことを要件とする。すなわち、本件発明は、反応炉の操作温度を銀の融点(960℃)より低く設定し、その設定温度において前記の状態変化を経て充分に高密度化した中実の球状銀粒子が生成するのに要する最低の滞留時間「5秒」を臨界値としたことに意義がある。
この滞留時間については、特許明細書の第5頁第9、10欄の「試験データ」を示す表中の「滞留時間(秒)」の欄に「5〜25秒」が、また同第4頁第8欄第1〜2行に「滞留時間は、流速及び反応器温度の関数として異なり、したがって5〜21秒の範囲であった。」と記載されている。(なお、滞留時間が25秒を超えても高密度化した銀粒子を製造することができるが、上限値は省エネルギーの観点から適宜決定することができる。)
そして、本件発明において、反応炉の操作温度を銀の融点より低くしたことにより、銀粒子を溶融温度以上の高温に加熱する必要がないだけでなく、「銀粒子の溶融という状態変化」を伴わないことから、従来技術に比較して省エネルギーの効果が得られることは、特許明細書中に特に記載されていなくても明らかである。
(特許法第29条第1項3号違反について)
そこで本件発明と刊行物1の開示事項とを対比すると、中実真球状粒子を得るための加熱条件が、本件発明では「窒素中で少なくとも600℃、または空気中で少なくとも900℃、かつ銀の融点より低い操作温度で、反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒」であるのに対して、刊行物1では、「反応温度が銀の融点以上」でなければならない(第2344頁、「4結論」も参照)点で相違する。
(因みに、高密度化した中実の球状銀粒子を得るため、反応炉内において、エアロゾルを銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱するという本件発明の操作条件について、刊行物1記載の実験条件のうちで重複する場合があるかを検討する。滞留時間は、流速及び反応器温度の関数であるから、流速と反応温度について両条件を対比すると、本件発明では流速は8.4l/min.(滞留時間5秒)〜3.9l/min.(同25秒)〜かつ反応温度は銀の融点より低く、他方、刊行物1記載の実験例のうちで最も本件発明の上記条件に近いものは、流速6l/min.の場合で滞留時間でのみ重複するが、反応温度は1100℃で銀の融点を越えている。(なお、反応液濃度は、両者の間に格別の差異はない。)したがって、両者の操作条件は、重複しない。)
よって、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、中実真球状の純銀微細粒子を得るための技術思想が異なっており、本件特許発明は特許法第29条第1項第3号の規定には該当しない。
(特許法第29条第2項違反について)
前記刊行物1及び2は、本件発明と同様な工程を記載しているが、刊行物1及び2の方法によれば、本件発明の工程(C)に相当する加熱工程において、いずれも銀の融点より高い温度での加熱を必須の条件としており、本件発明のように銀の融点より低い操作温度で、反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒であるとする加熱条件、およびそれにより銀粒子の高密度化が達成される作用効果については、教示ないし示唆するところはない。
よって、本件発明は両刊行物の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(明細書記載不備について)
また、明細書の記載が不備であるとの指摘に対し、段落【0019】第4〜6行の記載は、訂正明細書において下記のとおり訂正された。
『「試験データ」を示す表において、「300℃における重量損失(%)」の欄の「なし」は、「ゼロ重量損失」を示し、銀粒子が純粋であったことを意味する。特に、実施例5およびでN2を使用して600℃において得られた銀粒子は、同欄に「なし1」および「なし2」と記載され、脚注に「1」および「2」で示されるように純粋かつ充分高密度化されていた。』
そして、段落【0019】が上記のように訂正された結果、上記記載不備は解消した。
以上の如く、本件発明は刊行物1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に規定に該当せず、また、刊行物1及び2では達成されない顕著な作用効果を有し、当業者が刊行物1及び2から容易に想到できるとは認められず、同法第29条第2頃の規定に該当しない。更に、請求書での訂正により、明細書の不備は解消され、本願明細書は、同法第36条第4項及び第5項の要件を満たすものと認められる。
よって、本件発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとはいえない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.(特許異議の申立てについての判断)
ア.申立ての理由の概要
特許異議申立人山口博美は、証拠として甲第1及び2号証(これらの甲各号証はそれぞれ、前記「2.ウ.独立特許要件の判断」における刊行物1及び2に対応する。)を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(第1の主張)。若しくは、本件発明は、甲第1及び2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができない(第2の主張)旨主張している。
イ.判断
本件請求項1に係る発明は、前記「2.ウ.独立特許要件の判断」で示したように、取消理由通知で示した刊行物1(甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物1及び2(甲第1及び2号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人山口博美が提出した理由及び証拠方法によっては本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアロゾル分解による銀粉末の製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.反応炉内において、エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱して、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、銀粉末の改良製法に指向される。特に、本発明は、十分に高密度であり、高い純度を持ち、かつ球形の形態を持つ銀粉末の製法に指向される。
【0002】
【従来の技術】
銀の粉末は、電子産業において厚膜導体ペーストの製造のために使用される。厚膜ペーストは、基材上にスクリーンプリントされて、伝導性の回路パターンを形成する。これらの回路は、次に乾燥、焼成されて液体有機ビヒクルを揮発させ、そして銀粒子を焼結させる。
プリント回路技術は、次第に高密度かつ一層精密な電子回路を要求している。これらの要件に適合するため、導線は幅が益々せまくなり、線の間の距離が益々小さくなって来た。高密度の密に詰まったせまい線のために必要な銀粉末は、できるだけ大きさが単一で円滑な球でなければならない。
【0003】
金属粉末を製造するのに現在使用されている多くの方法を、銀粉末を得るのに適用することができる。例えば、化学的還元法、霧化又は粉砕、熱分解等の物理的過程及び電気化学的過程を使用することができる。
電子的応用において使用される銀の粉末は、一般に化学的析出過程を使用して製造される。銀粉末は、銀粉末を析出させることができる条件下に銀の可溶性の塩を適当な還元剤と反応させる化学的還元によって得られる。使用される最も普通の銀塩は硝酸銀である。ヒドラジン、亜硫酸塩及びギ酸塩を含む無機還元剤は、大きさがきわめて粗く、形が不規則で、かつ凝集のために大きな粒子径分布を有する粉末を生じさせる可能性がある。
【0004】
有機還元剤、例えばアルコール、糖又はアルデヒドは、アルカリ水酸化物と共に使用されて硝酸銀を還元する。この還元反応は、きわめて速く、コントロールすることが困難であり、残留アルカリイオンで汚染された粉末を生じる。大きさは小さい(<1ミクロン)が、これらの粉末は、不規則な形を有し、よく詰まらない広い粒子径の分布を持つ傾向がある。
銀粒子をつくるための霧化法は、エアロゾル分解方法であって、それはプレカーサー溶液の粉末への変換が関係している。この方法は、小滴の発生、この小滴のガスによる加熱された反応器中への輸送、蒸発による溶剤の除去、多孔性固体粒子を形成する塩の分解、そして次に完全に高密度の球形純粋粒子を得る粒子の高密度化を含むものである。必要条件は、小滴対小滴又は粒子対粒子の相互作用がないこと及び小滴又は粒子の担体ガスとの化学的相互作用かないことである。
【0005】
そして以下の先行技術が知られている。
特開昭62-2404(特願昭60-139904)Asadaら
この引用文献は、金属塩の溶液をミストにし、このミストを金属塩の分解温度より高い温度において加熱することによって製造される厚膜ペースト用のものを指向する。この引用文献は、「合金」をつくるためのミスト化過程の使用を開示している。ミストは、所望の金属又は合金の融点より少なくとも100℃高くて加熱されなければならないことも開示されている。
特公昭63-31522(特開昭62-1807)(特願昭60-139903,Asadaら
金属塩を含有する溶液を霧化して液滴を得、塩の分解温度より高く、金属の融点より高く、そして金属が金属の融点より低い温度で酸化物を形成するときには金属酸化物の分解温度より高くこの液滴を加熱して分解した金属粒を融解することによる金属粉末の生産。
【0006】
U.S.43,396,420
銀及び金属塩の混合水溶液を、熱反応器中塩の壊変の温度より実質的に高いが個々の化合物の融点より低い壁温度において噴霧すること。
Nagashimaら、化学焔法による金属硝酸塩の水溶液からの微小金属粒子の製造、日本化学会誌、12、2293〜2300
微小金属粒子が化学焔によって製造された。焔温度が融点より低いときには、金属粒子に非球形であり、焔温度が金属の融点より十分高いときには、粒子はメルトを経て形成され、完全に球形になる。
Katoら、噴霧熱分解技術による銀粒子の製造、日本化学雑誌、12号、2342-4(1985)
この引用文献は、噴霧熱分解による球形非凝集銀ミクロ粒子の生産の研究を記載する。粒子の表面は、Agの融点(961℃)より高い温度において平滑であったこと、又反応剤の濃度が増大するに従って粒子径分布が増大したことが開示されている。一方、反応温度がAgの融点より下に下るに従って、粒子の密度は低下した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
粉末の発生のための従来の技術の適用の成功を今まで限定して来た主な問題は、粒子形態のコントロールに欠けていたことである。特に、十分に高密度の粒子を形成させるためには、材料をその融点より上で処理しなければならないことが要件である。融点より下で処理された材料は、高密度化されない不純な中空の型の粒子を生じる傾向があった。
【0008】
本発明は、
A.銀含有熱分解性化合物、好ましくは可溶性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.エアロゾルを銀化合物の分解温度を越え、具体的には窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃、かつ銀の融点より低い操作温度に加熱し、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法を提供する。
【0009】
本明細書中において銀含有化合物用の溶剤に関して使用される用語「揮発性」は、最高操作温度に達した時点に溶剤が、気化によるかおよび/または分解により、蒸気またはガスに完全に変換されることを意味する。
本明細書中において銀含有化合物に関して使用される用語「熱分解性」は、最高操作温度に達した時点に銀含有化合物が完全に分解されて銀金属および揮発性副生成物になることを意味する。たとえば、AgNO3はAg金属とNOxガスの形に分解され、そして有機銀化合物はAg金属、CO2ガスおよびH2O蒸気の形に分解される。
【0010】
【発明の詳述】
銀化合物:エアロゾルを形成させるために使用される担体ガスに関して不活性であるかぎり、いずれの可溶性銀塩も本発明の方法中使用することができる。適当な塩の例は、AgNO3、Ag3PO4、Ag2SO4等である。しかし、不溶性の銀塩、例えばAgClは適当ではない。これら銀塩は、0.2モル/リットルの低濃度で、そして塩の溶解度限界の少し下まで使用することができる。0.2モル/リットルより低いか、又は飽和の90%より高い濃度を使用しないことが好ましい。
本発明の方法のための銀源として水溶性の銀塩を使用することが好ましいが、それにもかかわらず水性か又は有機溶剤に溶解した他の溶剤可溶性銀化合物、例えば有機金属銀化合物の使用によってこの方法を有効に実施することができる。
【0011】
操作変量:本発明の方法は、次の基本的基準が適合されるかぎり、多種多様な操作条件下に実施することができる:
1.エアロゾル中銀化合物の濃度は、液体溶剤の除去の前の固形物の析出を防止するために、供給温度における飽和濃度より下、好ましくは飽和濃度より少なくとも10%下でなければならない;
2.エアロゾル中小滴の濃度は、反応器中生起する小滴の集合があっても、小滴濃度の10%を超える低下を生じないように充分低くなければならない;
3.反応器の温度は、金属銀の融点(960℃)より下でなければならない。
【0012】
銀含有化合物の飽和点より下で操作することが基本であるが、どちらかといえば本方法の操作においてはその濃度は重要ではない。極めて低い濃度の銀化合物を使用することができる。しかしながら、単位時間当たりに製造可能な粒子量を最大にするために、より高い濃度を使用することが通常好ましい。
本発明のエアロゾルを生成させるために、小滴発生用の常用のいずれの装置、たとえばネブライザー、Collisonネブライザー、超音波ネブライザー、振動オリフィスエアロゾル発生機、遠心アトマイザー、二流体アトマイザー、電気噴霧アトマイザー等を使用してもよい。銀粉末の粒子径は、発生する小滴の大きさの直接関数である。エアロゾル中の小滴の大きさは、本発明の方法の実施においては重要ではない。しかしながら、上述したように、エアロゾル中の小滴濃度、すなわちエアロゾルの単位容積当たりの小滴数は、銀粒子の粒径分布を広げる小滴の過度の集合、すなわち凝集を招く程大きくなってはならないことが重要である。
【0013】
その外、あるエアロゾール発生器について、銀化合物の溶液の濃度が粒子径に効果を有する。特に、粒子径は、濃度の三乗根のおよその関数である。したがって、銀化合物の濃度が高い程、析出された銀の粒子径は大きい。粒子径の比較的大きい変化が必要である場合には、異なったエアロゾル発生器が使用されなければならない。
銀化合物用の溶剤に関し、又銀化合物それ自身に関して不活性である蒸気性材料の実質的にいずれでも、本発明の実施のための担体ガスとして使用することができる。適当な蒸気性材料の例は、空気、窒素、酸素、水蒸気、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス等である。これらのうち、空気及び窒素が好ましい。
本発明の方法を実施することができる温度範囲はかなり広く、銀化合物の分解濃度から銀の融点(960℃)まで(しかしそれより下)である。担体ガスとして空気が使用されるときには、析出される銀粒子の不純物レベルを低下させるために、少なくとも900℃の温度において操作することか好ましい。しかし、担体ガスとして窒素が使用されるときには、600℃の低温において操作し、尚銀の中の低い不純物レベル及び粒子の充分な高密度化を得ることが可能である。
【0014】
エアロゾルを加熱するために使用される装置の型は、それだけでは決定的ではなく、直接か又は間接の加熱を使用することができる。例えば、管状炉を使用しても、燃焼焔中の直接加熱を使用してもよい。エアロゾルを加熱する速度は(そしてしたがって滞留時間も)、反応の動力学又は金属粉末の形態の見地からは重要でない。
反応温度に達し、そして粒子が充分高密度化されると、粒子は、担体ガス、反応副生物及び溶剤揮発生成物から分離され、1種又はそれ以上のデバイス、例えばフィルター、サイクロン、静電分離器、バッグフィルター、フィルターディスク等によって収集される。反応完了時のガスは、担体ガス、銀化合物の分解生成物及び溶剤蒸気よりなる。即ち、担体ガスとしてN2を使用して水性硝酸銀から銀を製造する場合には、本発明の方法からの流出ガスは、窒素酸化物、水及びN2よりなる。
【0015】
試験装置:この作業において使用される実験装置が図1中図示される。担体ガス源1が調節器3及び流量計5を経てエアロゾル発生器7にN2か又は空気を供給する。溶液ため9が、反応溶液をエアロゾル発生器7に供給し、その中で担体ガス及び反応溶液は密に混合されて、担体ガス中に分散された反応溶液の小滴よりなるエアロゾルを形成する。発生器7中で得られたエアロゾルは、エアロゾルが加熱されるムライト管を有するLindberg炉の反応器13に送られる。圧力は、発生器7と反応器13との間のゲージ11によって監視される。加熱されたエアロゾルの温度は、熱電対15によって測定され、加熱されたフィルター17に送られる。次に炉の中の分解反応からの担体ガス及び揮発生成物は、フィルター17の下流側から排出される。
【0016】
後述する試験操作を実施するに際して、加圧担体ガスをエアロゾル発生器を通して導き、これは次にエアロゾルを加熱反応器を通過させた。エアロゾル小滴を炉の中で乾燥、反応そして高密度化させ、得られた微細な金属粒子をフィルター上に集めた。フィルターにおける熱電対がその温度を示し、それはフィルターにおける水の凝縮を防止するように約60℃に保たれた。圧力ケージを反応器の上流に保ち、フィルターの詰まりのための圧力の急な上昇があればこれを示した。担体ガスは初めは空気であったが、超高純度(UHP)窒素も使用されて、純粋な銀の生成のために反応温度を低下させた。2つの型のエアロゾル発生器、(1)改造BGI Collison CN-25発生器及び(2)改造超音波Pollenex家庭用吸湿機を使用して金属粒子の特性に対する小滴径の効果を求めた。反応器の温度を500℃と900℃の間で変えた。滞留時間は、流速及び反応器温度の関数として異なり、したがって5〜21秒の範囲であった。フィルターはナイロン膜フィルターであった。溶液ため中AgNO3水溶液の濃度は、0.5から4.0モル/リットルまで変った。
【0017】
【実施例】
本発明の方法を実証する10回の処理試験を行なった。これらの試験の操作条件は、それから得られた銀粒子の選択された特性と共に、下の表1に示される。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1〜6の比較は、全く予期に反して、担体ガスがN2であるときはるかに低い操作温度において充分高密度化した銀粒子の生成を得ることができることを示した。「試験データ」を示す表において、「300℃における重量損失(%)」の欄の「なし」は、「ゼロ重量損失」を示し、銀粒子が純粋であったことを意味する。特に、実施例5および6でN2を使用して600℃において得られた銀粒子は、同欄に「なし1」および「なし2」と記載され、脚注に「1」および「2」で示されるように、純粋かつ充分高密度化されていた。一方、担体ガスとして空気が使用されたときには、ゼロ重量損失を有する銀粒子を得るためには900℃において操作することが必要であった。即ち、この方法に対するエネルギー要求は、担体ガスとして空気ではなくN2が使用されるときはるかに小さい。両方の場合共銀の融点(960℃)より十分下で高密度化された銀粒子が得られたことに注意するべきである。
実施例3及び7の比較は、エアロゾル発生器それ自体が、同じ操作条件において得られる粒子の大きさに影響することを示す。特に、Collison装置を使用してつくられる銀の粒子径は、Pollenx超音波装置のものよりはるかに大きい。このことは、表面積及び走査電子ミクロ組織検査の比較によって立証された。
【0020】
実施例8〜10の比較は、濃度を大きくすると銀粉末の平均粒子径が増大したことを示す。即ち、粒子径は銀塩濃度の直接関数である。
実施例3、5、6及び7において得られた銀粒子のX線回折及び透過電子顕微鏡法(TEM)検査は、各々の場合粒子はきわめて純粋かつ高度に結晶性であることを示した。このことは、実施例5によりつくられた粉末について得られたX線回折パターンである図2から見ることができる。このパターンは、本発明によって得られた銀粒子のX線回折パターンの典型的なものである。実施例5及び6からの粒子の密度のヘリウムピクノメトリー測定は、その密度が実質的に理論値(10.5cc/g)と同じであったという事実により示されるように、粒子は充分高密度化されていた。
【0021】
【発明の効果】
上のデータは、本発明の方法が、電子応用に適した高品質の銀粒子を得るための、従来技術の金属塩溶液の還元法のきわめて望ましい代替物を提供することを示す。本発明によってつくられる銀粉末は、溶液析出により得られる銀粒子において普通見出される不純物、不規則な形状及び凝集を持たない。更に、銀の融点より有意に低い温度において充分反応、高密度化した銀粒子が得られた。
本発明の方法についての経験から、反応系が水性AgNO3をベースとし、担体ガスがN2であるとき、次の順序に従って銀粒子が生成すると考えられる:
(1)エアロゾルが溶剤の蒸発温度より上に加熱されるにしたがって、溶剤がエアロゾル小滴から蒸発し、このようにしてAgNO3の多孔性粒子を形成する;
(2)多孔性AgNO3粒子が更に400〜450°において加熱されるにしたがって、AgNO3粒子は分解して多孔性の銀粒子を形成する;そして
(3)反応炉中残りの滞留時間の間に、多孔性銀粒子が充分高密度化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明が実証される試験装置の説明図。
【図2】
本発明の方法によって得られた銀粒子のX線回折パターン。
【符号の説明】
1 担体ガス源
3 調節器
5 流量計
7 エアロゾル発生器
9 溶液ため
11 ゲージ
13 反応器
15 熱電対
17 フィルター
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許2650837号発明の明細書を平成11年10月20日付訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおりに、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として下記のとおりに訂正する。

訂正事項
▲1▼ 特許請求の範囲の請求項1
「A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度に加熱し、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。」
を下記の通り訂正する。
「A.可溶性の熱分解性銀塩の不飽和溶液を熱揮発性溶剤中に形成させ;
B.不活性担体ガス中に分散させた工程Aからの溶液の微細な小滴から本質的になり、その小滴濃度が凝集の結果、小滴濃度の10%低下を生じる濃度より低いエアロゾルを形成させ;
C.反応炉内において、エアロゾルを窒素中で少なくとも600℃または空気中で少なくとも900℃の温度、かつ銀の融点より低い操作温度で、該反応炉内の滞留時間が少なくとも5秒となるように加熱して、(1)溶剤を揮発させ、(2)銀化合物を純銀の微細粒子の形状に分解し、そして(3)銀粒子を高密度化し;そして
D.銀粒子を担体ガス、反応副生物および溶剤揮発生成物から分離する;
逐次工程からなる微細な銀粒子の製法。」
▲2▼ 特許明細書第5頁、段落【0019】中、第4〜6行の「特に、ゼロ重量損失……充分高密度化されていた。」を、訂正明細書第 10頁、段落【0019】中、第3〜7行において下記の通り訂正する。
『「試験データ」を示す表において、「300℃における重量損失(%)」の欄の「なし」は、「ゼロ重量損失」を示し、銀粒子が純粋であったことを意味する。特に、実施例5および6でN2を使用して600℃において得られた銀粒子は、同欄に「なし1」および「なし2」と記載され、脚注に「1」および「2」で示されるように、純粋かつ充分高密度化されていた。』
異議決定日 1999-12-22 
出願番号 特願平5-248394
審決分類 P 1 651・ 531- YA (B22F)
P 1 651・ 121- YA (B22F)
P 1 651・ 113- YA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 刑部 俊  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 山岸 勝喜
三浦 均
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2650837号(P2650837)
権利者 ザ・ユニバーシテイ・オブ・ニユーメキシコ イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
発明の名称 エアロゾル分解による銀粉末の製法  
代理人 高木 千嘉  
代理人 高木 千嘉  
代理人 西村 公佑  
代理人 佐藤 辰男  
代理人 西村 公佑  
代理人 佐藤 辰男  

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