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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  G11B
管理番号 1016629
異議申立番号 異議1999-72271  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-11 
確定日 2000-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2835699号「磁気記録媒体」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2835699号の特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2835699号に係る発明は、平成6年12月13日に特許出願され、平成10年10月9日に特許の設定登録がなされ、その後ティーディーケイ株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年11月25日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする下層非磁性層を設け、該下層非磁性層上に強磁性金属粉末及び結合剤樹脂を主体とする上層を設けた磁気記録媒体において、前記上層の厚さは0.05〜1.0μmであり、少なくとも上層及び下層非磁性層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上及び下層非磁性層中の非磁性粉末の1重量%以上を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
R1-COO-R-OCO-R2……(1)
(式中、Rは-(CH2)n-あるいはこの-(CH2)n-(nは1〜10の整数)から誘導される不飽和結合を含んでいても良い2価の基を示し、R1およびR2は炭素数12〜26の鎖状不飽和炭化水素基で互いに同一でも異なってもよい。)
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
特許権者が求めている訂正の内容は次のA、Bのとおりである。
A、請求項1中の
「少なくとも上層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上を含むこと」を、
「少なくとも上層及び下層非磁性層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上及び下層非磁性層中の非磁性粉末の1重量%以上を含むこと」とする訂正。
B、Aの訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正。
上記Aの訂正は、下層非磁性層にも潤滑剤を含むことを要件として付加したものであって、特許請求の範囲の減縮に該当し、上記Bの訂正は、Aの訂正に伴い明細書の記載を整合させたものであって、明瞭でない記載の釈明に該当し、かつ、上記A、Bのいずれの訂正も新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ.独立特許要件
(先願発明)
本件発明に対して、当審が平成11年9月20日付けで通知した取消理由において引用した先願、特願平5-353921号(特開平7-192250号公報参照)の出願当初の明細書又は図面には、
「非磁性支持体上に、強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を設けた磁気記録媒体であって、前記磁性層中に2価アルコールと不飽和脂肪酸との不飽和脂肪酸ジエステルを含有する磁気記録媒体。」に係る発明(以下「先願発明」という。)が記載されており、第6頁の実施例9〜12及び14では、本件発明の一般式(1)に包含される潤滑剤化合物が使用されており、第5頁第8欄第3〜4行には、「なお、必要に応じて、下地層、バックコート層等が設けられていてもよい。」ことも記載されている。
(対比・判断)
本件発明と先願発明とを対比すると、先願発明における磁性層及び下地層は、それぞれ本件発明における上層及び下層非磁性層に相当するが、先願明細書には上層と下層の両方に潤滑剤を含ませる点について記載も示唆もされていない。しかも、本件特許明細書の表1に示されたデータから明らかなように、上層のみに潤滑剤を含ませた場合(比較例5)と下層にも潤滑剤を含ませた場合とでは顕著な効果上の差異がある。
してみると、本件発明は先願発明と同一であるとは言えない。
したがって、本件発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
エ.むすび
以上のとおりであって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。
(3)特許異議申立について
ア.本件発明
本件発明は、上記(2)ア.に記載したとおりのものである。
イ.申立の理由の概要
異議申立人ティーディーケイ株式会社は、甲第1号証を提示して、本件発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから取り消されるべきである旨主張している。
ウ.先願発明
異議申立人の提出した甲第1号証は、上記(2)ウ.に示した先願の明細書に該当する。
エ.対比・判断
上記(2)ウ.に示したように、本件発明は甲第1号証に係る先願発明と同一ではない。
したがって、「本件発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条の2の規定により取り消されるべきものである。」という異議申立人の主張は当を得ないものである。
オ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気記録媒体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする下層非磁性層を設け、該下層非磁性層上に強磁性金属粉末及び結合剤樹脂を主体とする上層を設けた磁気記録媒体において、前記上層の厚さは0.05〜1.0μmであり、上層及び下層非磁性層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上及び下層非磁性層中の非磁性粉末の1重量%以上を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
R1-COO-R-OCO-R2……(1)
(式中、Rは-(CH2)n-あるいはこの-(CH2)n-(nは1〜10の整数)から誘導される不飽和結合を含んでいても良い2価の基を示し、R1およびR2は炭素数12〜26の鎖状不飽和炭化水素基で互いに同一でも異なってもよい。)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、走行性、耐久性及び保存性に優れた磁気記録媒体、特に強磁性金属粉末を用いた薄膜塗布型磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気記録技術の分野では、高記録密度への要求が高まっている。そして、塗布型の磁気記録媒体においては、強磁性粉末の粒子サイズを小さくしたり、その分散性を向上させたり、その磁性層中での充填度を高めたりする方策が種々提案されている。さらに有効な手段として、磁気特性の優れた強磁性金属粉末や六方晶フェライトなどを用いることも行われている。
【0003】
磁気記録媒体は、電磁変換特性の向上のため、磁性層表面はますます平滑化が必要である。このため従来公知の潤滑剤では十分な走行性、繰り返し走行性、耐久性に効果を発揮し得なくなってきている。OA機器としてのミニコン、パソコンの普及にともない外部記憶媒体としての磁気記録ディスクの普及が著しく、その使用環境も広がっており、温湿度に関し幅広い環境条件下で使用・保存されるようになり、また使用環境も塵埃が多い場所でも使用されるようになってきた。このため幅広い環境条件での使用に耐える潤滑性能が必要とされている。
【0004】
潤滑剤としては従来・鉱物油、シリコンオイル、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、牛脂、鯨油、鮫油の動物油あるいは植物油などが用いられてきたが、いずれも耐久性が不良であった。耐久性向上のために特公昭51-39081号公報をはじめ周知のように飽和及び不飽和の脂肪酸とアルコールのモノエステルが多用されている。しかし、超平滑磁性面による高密度記録の磁気記録媒体ではモノエステルでは耐久性が不十分であった。また多価アルコールの脂肪酸エステルが特公昭41-18063号公報(カルボン酸と2価アルコールのエステル)、特公昭58-31655号公報(オレイン酸グリセリドトリエステル)、特開昭54-21806号公報(3以上の不飽和結合を含むアルコールの脂肪酸エステル)、また特開昭61-198422号公報(多価アルコールと脂肪酸のエステル)等に開示されているが、これらでも耐久性と電磁変換特性を両立するものは得られなかった。
【0005】
また、不飽和結合を有する脂肪酸モノエステルとしては、特公平4-4917号公報記載のオレイン酸オレイルが挙げられるが、これは耐久性が不十分である。これはモノエステルであるため結合剤樹脂との相互作用が劣り長期の保存あるいは高温条件での使用で潤滑剤が揮散してしまうためと推定される。また、特開昭61-280025号公報は、ポリグリセリンの一部OHを脂肪酸でエステル化したものであるが、これも耐久性が不十分である。これはOH基が残っているため、潤滑剤が結合剤樹脂との相溶性が大き過ぎて磁性層内に潤滑剤が溶解し、磁性層表面に浸出しにくく、潤滑剤としての機能が発現しにくいのではないかと推定される。また硬化剤として結合剤樹脂に含まれるポリイソシアネートとOH基は反応するので、硬化剤と結合剤樹脂との反応が阻害されるためと考えられる。
【0006】
その他の該モノエステルを開示するものとして、特公昭47-12950号公報には、不飽和アルコールの脂肪酸エステル、例えばステアリン酸ビニルが記載され、特開昭55-139637号公報には脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよい脂肪酸の併用が開示されている。また、特開昭58-164025号公報には不飽和脂肪酸エステルを、特開昭59-148131号公報には不飽和脂肪酸エステルおよび炭化水素との併用を開示し、特開昭62-1118号公報では分岐アルコールの不飽和脂肪酸エステルを開示しているが、いずれも耐久性は不十分であった。
【0007】
上記に示す従来の潤滑剤では、その潤滑効果を高めるため使用量を多くすると、磁性塗膜の機械的強度が弱くなり磁性層が削れ易く、削れた粉が走行経路を汚したり、あるいは十分な耐久性が得られなかったりした。またとくにこれらの開示例では高温あるいは高湿環境で走行させたとき耐久性が不十分で、ドロップアウトが多発しエラー発生が多いという欠点を有していた。
【0008】
また耐久性を向上させるための別の手段としては、磁性層に研磨剤・カーボンブラック等の微粒子を添加する方法が提案・実施されているが、磁性層の耐久性を向上させる目的て磁性層に研磨剤・カーボンブラックを添加すると、電磁変換特性が低下するという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、▲1▼ 超平滑化した磁性層で十分な走行性、繰り返し走行性、耐久性を有する磁気記録媒体を提供すること、▲2▼幅広い環境条件下での使用・保存および塵埃の多い環境での使用でも高い耐久性の磁気記録媒体を提供すること、およひ▲3▼幅広い環境条件での使用・保存および塵埃の多い環境での使用でもエラーレートの低い磁気記録媒体を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする下層非磁性層を設け、該下層非磁性層上に強磁性金属粉末及び結合剤樹脂を主体とする上層を設けた磁気記録媒体において、前記上層の厚さは0.05〜1.0μmであり、上層及び下層非磁性層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上及び下層非磁性層中の非磁性粉末の1重量%以上を含むことを特徴とする磁気記録媒体により達成される。
【0011】
R1-COO-R-OCO-R2……(1)
(式中、Rは-(CH2)n-あるいはこの-(CH2)n-(nは1〜10の整数)から誘導される不飽和結合を含んでいても良い2価の基を示
【0012】
【0013】
し、R1およびR2は炭素数12〜26の鎖状不飽和炭化水素基で互いに同一でも異なってもよい。)
本発明は従来公知の技術では得られなかった高度な走行耐久性、保存性を合せ持つ磁気記録媒体が得られ、実用的な高密度磁気記録媒体を実現した。本発明で用いる一般式(1)で表される潤滑剤は、不飽和結合が導入されているため分子量の割りに粘度が小さく、これにより流体潤滑性が高く、且つ比較的分子量が高いので走行中に蒸発による揮散がなく、長期間の繰り返し使用でも良好な走行耐久性が得られる。また、本発明ては潤滑剤の使用量が少ないので高い磁気特性を有する磁気記録媒体が実現できたものである。
【0014】
高記録密度媒体ではオーバーライト特性を良好にするために上層磁性層を薄層化することが必要である。しかし、薄層化すると磁性塗液中に含むことのできる潤滑剤量が限られるので磁性層表面に浸出する潤滑剤量は少なくなり耐久性保持はむずかしくなる。すなわち磁性層表面に浸出する潤滑剤を多くするには上層(磁性層)塗液に含む潤滑剤量を多くすることが、ひとつの手段である。しかし、潤滑剤を多く添加すると磁性層表面が荒れ、表面粗さが平滑にならなくなって高度な磁気特性が得られないのである。本発明は少量の潤滑剤の添加で磁性層表面に浸出して潤滑機能を呈し良好な耐久性を得ることができる。しかも、本発明の潤滑剤は不飽和構造を2個とエステル結合を2個有しており、これによって結合剤樹脂への親和性が高く、繰り返し長時間の走行によって記録/再生ヘッドとの摺動で潤滑剤が次第次第に除去されることがないので繰り返し使用しても高度な走行耐久性が達成できるのである。特に一般式(1)においてRとして炭素数が所定のジオール骨格を用いたので2個のエステル基の間が親油性を呈し結合剤樹脂との相溶性が適度になり、走行中の潤滑剤の脱落が防止されるためと推定できる。本発明の化合物を示す一般式(1)において、Rは-(CH2)n-あるいはこの-(CH2)n-から誘導される不飽和結合を含んでいても良い2価の基
【0015】
【0016】
を示す。nは1〜10である。R1およびR2は炭素数12〜26の鎖状不飽和炭化水素基で互いに同一でも異なってもよい。
該鎖状炭化水素基の該鎖状とは、直鎖でも分岐でも構わないが、R1およびR2の両方が直鎖不飽和であることが好ましく、その際R1およびR2の構造が同じであるものが特に好ましい。更に、不飽和結合としては2重結合、3重結合いずれでも構わないが、2重結合が好ましく、各1個以上であれば良く、2個3個でも良い。また、2重結合はシスまたはトランスどちらでも構わない。
【0017】
R1およびR2の炭素数は各々12〜26、好ましくは14〜20、更に好ましくは、14〜18てある。炭素数が12未満であると揮発性が高いため走行時に磁性層表面から揮散してしまい走行停止となる。炭素数が26より大きいと分子のモビリティが低くなるため潤滑剤が磁性層表面に浸出しにくく耐久性が不良となる。
【0018】
Rは直鎖で両末端にOHを有する2価アルコール残基が好ましく、nは4〜10が好ましい。nが小さいと繰り返し走行耐久性が悪く、大きすぎると粘度が高くなったりして使いにくくまた耐久性も不良になる。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、HO-R-OHで表されるジオールとR1-COOHおよびR2-COOHで表される不飽和脂肪酸とのジエステルである。
【0019】
該不飽和脂肪酸としては、4-ドデセン酸、5-ドデセン酸、11-ドデセン酸、cis-9-トリデセン酸、ミリストレイン酸、5-ミリストレイン酸、6-ペンタデセン酸、7-パルミトレイン酸、cis-9-パルミトレイン酸、7-ヘプタデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、cis-6-オクタデセン酸、trans-11-オクタデセン酸、cis-11-エイコセン酸、cis-13-ドコセン酸、15-テトラコセン酸、17-ヘキサコセン酸、cis-9,cis-12-オクタジエン酸、trans-9,trans-12-オクタジエン酸、cis-9,trans-11,trans-13-オクタデカトリエン酸、cis-9,cis-12,cis-15-オクタデカトリエン酸、ステアロール酸などの直鎖不飽和脂肪酸、5-メチル-2-トリデセン酸、2-メチル-9-オクタデセン酸、2-メチル-2-エイコセン酸、2,2-ジメチル-11-エイコセン酸などの分岐不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0020】
該ジオールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-テカンジオールなどの直鎖飽和両末端ジオール、
2-ブテン-1,4-ジオール、2,4-ヘキサジエン-1,6-ジエンジオール、3-ペンテン-1,5-ジオールなどの直鎖不飽和ジオールが例示される。
【0021】
これらのうち特に好ましい本発明の化合物は直鎖不飽和脂肪酸のエステルである。具体的には、ミリストレイン酸、5-ミリストレイン酸、7-パルミトレイン酸、cis-9-パルミトレイン酸、オレイン酸、エライシン酸、cis-6-オクタデセン酸(ペトロセリン酸)、trans-6-オクタデセン酸(ペトロセエライジン酸)、trans-11-オクタデセン酸(バセニン酸)、cis-11-エイコセン酸、cis-13-ドコセン酸(エルカ酸)、cis-9,cis-12-オクタジエン酸(リノール酸)などの直鎖不飽和脂肪酸とエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどとのエステルが好ましく、より好ましくは該直不飽和脂肪酸と1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどとのエステルである。
【0022】
本発明の潤滑剤の使用量は、上層においては上層の強磁性金属粉末100重量部に対し1重量部以上、好ましくは3重量部以上、更に好ましくは、5重量部以上であり、下層非磁性層(以下、単に「下層」とも言う)においては、非磁性粉末100重量部に対し1重量部以上、好ましくは3重量部以上、更に好ましくは、5重量部以上であり、上層下層とも添加するのが好ましい。各層とも上限は20%であり、多すぎると磁性層表面が粗くなって磁気特性が低下し、少ないと耐久性が不良となる。
【0023】
下層に潤滑剤を添加する方法は、磁性層表面に多量の潤滑剤を浸出させるため耐久性向上に効果を発揮するが、本発明も例外ではない。しかし、本発明は少量の潤滑剤で目的を達成できるので、有利である。しかも、下層にBET比表面積150m2/g以下の非磁性粉末を無機固形分に対して60重量%、望ましくは90重量%以上用いると、磁性層表面が平滑になり易い。これにより高い磁気特性を呈し、しかも走行耐久性が向上した。これは非磁性無機粉末のため下層塗液の凝集性が小さく分散が良好で磁性層表面が平滑になり易いためと推定される。また非磁性無機粉末の比表面積が小さいので非磁性無機粉末への潤滑剤の吸着量が減少し、その結果潤滑剤の磁性層表面への浸出量が多くなることが耐久性向上に寄与しているものと考えられる。
【0024】
本発明の磁気記録媒体の磁性層に使用する強磁性金属粉末は、その粒子サイズは、望ましくは、比表面積が30〜80m2/gであってX線回折法から求められる結晶子サイズが80〜300Åである。比表面積が余り小さいと高密度記録に充分に対応できなくなり、又余り大きくても分散が充分に行えずに平滑な面の磁性層が形成できずこれ又高密度記録に対応できなくなるので好ましくない。
【0025】
強磁性金属粉末は、少なくともFeを含むことが好ましく、具体的には、Fe、Fe-Co、Fe-Ni又はFe-Ni-Coを主体とした金属単体あるいは合金である。本発明の磁気記録媒体を高記録密度化するために、前記のように粒子サイズが小さいことが必要であると同時に磁気特性としては、飽和磁化は110emu/g以上、望ましくは120emu/g以上である。又抗磁力としては、通常、800Oe(エルステッド)以上、好ましくは、900〜1200Oeである。そして、その粒子の軸比(長軸長/短軸長)は通常、3以上、好ましくは、5〜15である。
【0026】
更に特性を改良するために、組成中にB、C、Al、Si、P等の非金属が添加されることもある。通常、前記金属粉末の粒子表面は、化学的に安定させるために酸化物の層が形成されている。
【0027】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2重量%とするのが好ましい。結合剤の種類によって最適化するのが好ましい。強磁性金属粉末のpHは用いる結合剤との組み合わせにより最適化するのが好ましい。その範囲は4〜12であるが、好ましくは5〜10てある。
【0028】
本発明の構成層中には非磁性粉末の導電性粒子を含有することができる。特に、カーボンブラックを使用することは、帯電防止の点より望ましい。そのようなカーボンブラックとしては、比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜1500ml/100g、粒子径は5mμ〜300mμ、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/CC、が望ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製、BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、700、VULCAN XC-72、旭カーボン社製、#80、#60、#55、#50、#35、三菱化成工業社製、#3950B、#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアカーボン社製、CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50、40、15、ライオンアグゾ社製ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ-500、ケッチェンブラックECDJ-600などが挙などがあげられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。上層にカーボンブラックを使用する場合は強磁性粉末に対する量は0.1〜30%でもちいることが望ましい。さらに下層には全非磁性粉末に対し3重量%〜20重量%含有させることが望ましい。カーボンブラックは上層・下層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って本発明に使用されるこれらのカーボンブラックは、その種類、量、組合せを変え、粒子サイス、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能である。使用できるカーボンブラックは例えばカーボンブラック協会編「カーボンブラック便覧」を参考にすることができる。
【0029】
本発明の非磁性層に使用される非磁性粉末のうち非磁性無機粉末としては、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどが単独または組合せで使用される。中でも特にα-酸化鉄、酸化チタン、シリカ、アルミナは粒子形状が球状であるので好ましい。
【0030】
これら非磁性無機粉末の平均粒子径は通常、0.002〜5μm、特に0.01〜3μmが好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。
非磁性無機粉末の比表面積は前述したように潤滑剤の浸出を確保するためには通常、1〜150m2/g、好ましくは30〜100m2/g、更に好ましくは、40〜80m2/gである。比表面積が小さ過ぎると表面粗さが粗くなり、大きすぎると分散しにくくなり表面粗さが大きくなる。
【0031】
タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11が好ましい。
本発明に用いられる非磁性無機粉末の形状は針状、球状、サイコロ状のいずれでも良い。本発明に用いられる非磁性無機粉末の具体的な例としては、住友化学社製、AKP-20、AKP-30、AKP-50、HIT-50、日本化学工業社製、G5、G7、S-1、戸田工業社製、TF-100、TF-120、TF-140、石原産業社製TT055シリーズ、ET300W、チタン工業社製STT30なとがあげられる。
【0032】
本発明に用いられる研磨剤としては、一般に使用される材料で溶融アルミナ、炭化珪素、酸化クロム(Cr2O3)、コランダム、人造コランダム、ダイアモンド、人造ダイアモンド、ザクロ石、エメリー(主成分:コランダムと磁鉄鉱)等が使用される。これらの研磨剤はモース硬度が5〜10てあり、平均粒子径が0.05〜5μmの大きさのものが効果があり、好ましくは0.2〜1.0μmである。これら研磨剤は結合剤樹脂100重量部に対して3〜20重量部の範囲て添加される。3重量部より少ないと十分な耐久性が得られず、又20重量部より多すぎると充填度が減少し、十分な出力が得られない。
【0033】
本発明は非磁性層に含有する非磁性粉末、磁性層の研磨剤の種類、量および組合せを変え、目的に応じて使い分けることはもちろん可能である。例えば、上層表面の耐久性を向上させる場合は下層の研磨剤量を、上層端面の耐久性を向上させる場合は上層の研磨剤量を多くするなどの工夫をおこなうことができる。これらの研磨剤はあらかじめ結合剤で分散処理したのち磁性塗料中に添加してもかまわない。
【0034】
本磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体が1〜100μm、好ましくは20〜85μm、下層は1〜5μm、好ましくは、2〜4μm、上層は0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.7μmである。また、非磁性支持体と下層の間に密着性向上のための下塗り層を設けてもかまわない。この厚みは0.01〜2μm、好ましくは0.05〜0.5μmである。また、非磁性支持体の一方の面にバックコート層を設けてもかまわない。この厚みは0.1〜2μm、好ましくは0.3〜1.0μmである。これらの下塗り層、バックコート層は公知のものが使用できる。円盤状磁気記録媒体の場合、片面もしくは両面に上記層構成を設けることができる。
【0035】
本発明に使用される結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が-100〜150℃、数平均分子量が1000〜200000、好ましくは10000〜100000、重合度が約50〜1000程度のものである。
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。
【0036】
また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ-ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。
【0037】
これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を下層、または上層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62-256219に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、ニトロセルロース、中から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものがあげられる。
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、COOM、SO3M、OSO3M、P=O(OM)2、O-P=O(OM)2、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+R3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものをもちいることが望ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0038】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカーバイト社製 VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製、MPR-TA、MPR-TA5、MPR-TAL、MPR-TSN、MPR-TMF、MPR-TS、MPR-TM、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、日本ゼオン社製MR110、MR100、400X110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT-5105、T-R3080、T-5201、バーノックD-400、D-210-80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製UバイロンR8200、UR8300、RV530、RV280、大日精化社製、ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製、MX5004、三洋化成社製、サンプレンSP-150、旭化成社製、サランF310、F210などがあげられる。
【0039】
本発明に用いられる結合剤は各層の強磁性粉末および非磁性粉末に対し、5〜50重量%の範囲、望ましくは10〜30重量%の範囲で用いられる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜100重量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜50重量%、ポリイソシアネートは2〜100重量%の範囲でこれらを組み合わせて用いるのが好ましい。
【0040】
本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が-50〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10Kg/cm2、降伏点は0.05〜10Kg/cm2が好ましい。
【0041】
本発明の磁気記録媒体は多層からなる。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂の量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ各層で変えることはもちろん可能である。
本発明にもちいるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン-1、5-ジイソシアネート、o-トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製、コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMRミリオネートMTL、武田薬品社製、タケネートD-102、タケネートD-110N、タケネートD-200、タケネートD-202、住友バイエル社製、デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで非磁性層、磁性層とももちいることができる。
【0042】
本発明に使用する分散剤(顔料湿潤剤)としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(R1COOH、R1は炭素数11〜17個のアルキルまたはアルケニル基);前記の脂肪酸のアルカリ金属(Li、Na、K等)またはアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba)からなる金属石鹸;前記の脂肪酸エステルの弗素を含有した化合物;前記脂肪酸のアミド;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンはエチレン、プロピレンなど);等が使用される。この他に炭素数12以上の高級アルコール、及びこれらの他に硫酸エステル等も使用可能である。これらの分散剤は結合剤樹脂100重量部に対して0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0043】
潤滑剤としては、一般式(1)の化合物に加え、更に以下の化合物を併用することもできる。即ち、脂肪酸、前述以外の脂肪酸エステル、シリコンオイル、グラファイト、二硫化モリブデン、窒化ほう素、弗化黒鉛、フッ素アルコール、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステル、二硫化タングステン等である。これら併用される潤滑剤は、全潤滑剤の0.1〜50重量%である。
【0044】
また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性塗料製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0045】
本発明で使用する非磁性支持体には特に制限はなく、通常使用されているものを用いることができる。非磁性支持体を形成する素材の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、シンジオタクチックポリスチレン等の各種合成樹脂のフィルム、およびアルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を挙げることができる。非磁性支持体は一般には1〜100μm、好ましくは25〜85μmの厚さのものが使用される。
【0046】
本発明で用いられる有機溶媒は任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール、などのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、などのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、などの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン、等の塩素化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサン等のものが使用できる。これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分がふくまれてもかまわない。これらの不純分は30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は必要ならば上層と下層でその種類、量を変えてもかまわない。上層に揮発性の高い溶媒をもちい表面性を向上させる、下層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性をあげる、上層に溶解性パラメータの高い溶媒を用い充填度を上げるなどがその例としてあげられるがこれらの例に限られたものではないことは無論である。
【0047】
本発明の磁気記録媒体は、前記強磁性粉末と結合剤樹脂、及び必要ならば他の添加剤と共に有機溶媒を用いて混練分散し、少なくとも磁性塗料を非磁性支持体上に塗布し、必要に応じて配向、乾燥して得られる。
【0048】
本発明の磁気記録媒体の磁性塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する強磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。
【0049】
磁性塗料の混練分散に当たっては各種の混練機が使用される。例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、ゼグバリ(Szegvari)、アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速衝撃ミル、ディスパー、ニーダー、高速ミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機なとを用いることができる。
【0050】
本発明に使用する非磁性塗料は、上記磁性塗料に準じて製造することがてきる。
【0051】
本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程としてを用いることができることはもちろんであるが、混練工程では連続ニーダや加圧ニーダなど強い混練力をもつものを使用することにより本発明の磁気記録媒体の高いBrを得ることができる。連続ニーダまたは加圧ニーダを用いる場合は強磁性粉末と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30重量%以上が好ましい)および強磁性粉末100部に対し15〜500部の範囲で混練処理される。これらの混練処理の詳細については特願昭62-264722、特願昭62-236872に記載されている。
【0052】
本発明の磁気記録媒体は、上述のようにして調製した下層塗料および上層塗料を非磁性支持体上に下層塗料、該下層塗料の上に上層塗料を塗布することにより製造されるが、下層塗布層が湿潤状態の間に上層塗布層を形成する湿式同時重層塗布方式が好ましく、効率的に生産することが出来る。このような湿式同時重層塗布方式としては、例えば、特開昭62-212933号公報に記載のものが挙げられる。
【0053】
さらに、カレンダ処理ロールとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールを使用する。また、金属ロール同志で処理することも出来る。処理温度は、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。線圧力は好ましくは200Kg/cm、さらに好ましくは300Kg/cm以上である。
【0054】
本発明の磁気記録媒体の上層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下であり、上層に含まれる残留溶媒が下層に含まれる残留溶媒より少ないほうが好ましい。
磁性層が有する空隙率は好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。
【0055】
本発明の磁気記録媒体は下層と上層を有するが、目的に応じ下層と上層てこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、上層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に下層の弾性率を上層より低くして磁気記録媒体のヘッドヘの当りを良くするなどである。
上層用の組成物および下層用の組成物を溶剤と共に分散して、得られた塗布液を非磁性支持体上に塗布し、配向乾燥して、磁性層を非磁性支持体上に形成して磁気記録媒体をえる。又必要により表面平滑化加工を施したり、所望の形状に裁断したりして、本発明の磁気記録媒体を製造する。
【0056】
本発明の磁気記録媒体は、データ記録用途のフロッピーディスクや磁気ディスク、画像記録のアナログ記録であってもよいが、ドロップ・アウトの発生による信号の欠落が致命的となるデータ記録用途のディスク状媒体に対しては特に有効である。
【0057】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ここに示す成分、割合、操作順序等は本発明の技術思想から逸脱しない範囲において変更しうるものであることは本業界に携わるものにとっては容易に理解されることである。
従って、本発明は下記の実施例に制限されるべきではない。尚、「部」とあるのはすべて「重量部」のことである。
【0058】
実施例1
下層(非磁性層)
非磁性粉末;TiO2 80部
(平均粒子径 35nm、BET比表面積 40m2/g、pH 6.6)
カーボンブラック 10部
(平均粒子径 30nm、DBP吸油量 350ml/100g、BET比表面積 950m2/g)
塩化ビニル系共重合体 13部
(日本ゼオン社製MR110(-SO3Mとエポキシ環を含む))
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ネオペチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI=0.9/2.6/1、-SO3Na基1×10-4eq/g含有)
C17H33COO(CH2)4OCOC17H33(潤滑剤) 5部
メチルエチルケトン 200部
上層(磁性層)
強磁性金属粉末 100部
(組成Fe:Ni=94:6、Hc1700Oe、結晶子サイズ195Å、σs130emu/g、長軸径0.20μm、針状比10)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ネオペチルグリコール/カプロラクトンポリオール/MDI=0.9/2.6/1、-SO3Na基1×10-4eq/g含有)
α-アルミナ(平均粒子径0.3μm、BET比表面積10m2/g) 5部
カーボンブラック 5部
(平均粒子径200nm、DBP吸油量30ml/100g、BET比表面積10m2/g)
C17H33COO(CH2)4OCOC17H33(潤滑剤) 5部
メチルエチルケトン 200部
上記2つの塗料のそれぞれについて、各成分を連続ニーダで混練したのち、サンドミルで分散した。得られた分散液に日本ポリウレタン(株)製コロネート3041を各上下層の塗布液にそれぞれ10部(固形分換算)を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
【0059】
得られた非磁性層塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるように塗布し、塗布直後にその上に上層(磁性層)塗布液を厚さが0.3μmになるように、ポリエステル樹脂の下引き層を有するポリエチレンテレフタレート支持体(厚み:62μm、中心線表面粗さ:0.01μm)の上に同時重層塗布を行い、両層がまだ湿潤状態にあるうちに周波数50Hz、磁場強度200ガウスまた周波数50Hz、120ガウスの2つの磁場強度交流磁場発生装置の中を通過させてランダム配向処理をおこない乾燥後、金属ロールと金属ロールの7段のカレンダーで温度90℃、線圧300Kg/cmにて処理を行い、3.5吋に打ち抜き表面研磨処理を施した後、ライナーを内側に設置済の3.5吋カートリッジに入れ、所定の機構部品を付加し、実施例1の3.5吋フロッピーディスクを得た。
【0060】
実施例2〜6、比較例1〜8
表1に記載の条件で実施例1に準じて各々のフロッピーディスクを作製した。詳細は以下の通りである。
比較例1
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載の脂肪酸残基が飽和のものを使用した。
【0061】
比較例2
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載の脂肪酸残基の炭素数が少ないものを使用した。
比較例3
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載の脂肪酸残基の炭素数が多いものを使用した。
【0062】
比較例4
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載のジオール残基の炭素数が多いものを使用した。
実施例2
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載のジオール残基が不飽和のものを使用した。
【0063】
実施例3
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載の脂肪酸残基の炭素数が下限値に近いものを使用した。
実施例4
実施例1の潤滑剤に代えて表1記載のジオール残基の炭素数が上限値に近いものを使用した。
【0064】
比較例5
実施例1において、非磁性層を設けず磁性層のみの単層で乾燥厚2μmとした。
比較例6
実施例1の潤滑剤に代えてオレイン酸オレイルを使用した。
【0065】
比較例7
実施例1の潤滑剤の添加量を少なくした。
実施例5
実施例1において、潤滑剤の添加量を変更した。
比較例8
実施例1の潤滑剤に代えてトリエステルを用いた。
【0066】
実施例6
実施例1において潤滑剤の使用量を多量に変更した。
得られたフロッピーディスクを以下の方法により評価し、結果を表1に示した。
〔評価方法〕
再生出力の測定:再生出力の測定は、東京エンジニアリング製ディスク試験装置SK606B型でギャップ長0.45μmのメタルインギャップヘッドを用い、それぞれ記録周波数625kHzで半径24.6mmの位置において記録した後ヘッド増幅機の再生出力をテクトロニクス社製オシロスコープ7633型で測定した。再生出力は実施例1の出力を100として相対値で示した。
【0067】
走行耐久性:日本電気(株)製フロッピディスクドライブFD1331型を用い、記録周波数625kHzて全240トラックに記録した後、半径が中心から37.25mmの位置において以下のフローを1サイクルとするサーモサイクル試験を実施した。
このサーモ条件下において、パス回数で1800万回まで走行させたときの走行停止までのパス回数をもって、走行耐久性を評価した。
(サーモサイクルフロー)
25℃、50%RH 1時間→(昇温 2時間)→60℃、20%RH 7時間→(降温 2時間)→25℃、50%RH 1時間→(降温 2時間)→5℃、50%RH 7時間→(昇温 2時間)→<これを繰り返す>
【0068】
保存性:フロッピーディスクを60℃ 80%RHで2週間保存した後、上記のサーモサイクル試験を実施し保存での耐久性を評価した。
ライナーウエア評価:ヘッドオフの状態で走行耐久性と同じ環境で、サンプルを1800万パス走行させ、終了したサンプルを走行後カートリッジケースを開き磁気ディスクの磁性層表面を目視観察し評価した。
○:磁性層表面に欠陥がないもの
△:磁性層表面の一部に細かな傷が発生したもの
×:磁性層表面全体に細かな傷が発生したもの
××:磁性層表面全体に細かな傷が多数発生したもの
【0069】
【表1】

【0070】
【発明の効果】
本発明は非磁性支持体上に非磁性粉末及び結合剤樹脂を主体とする下層非磁性層を設け、該下層非磁性層上に強磁性金属粉末及び結合剤樹脂を主体とする上層を設けた磁気記録媒体において、上層及び下層非磁性層に潤滑剤として不飽和結合を有する脂肪酸と不飽和結合を有してもよいジオールとのジエステルであって、炭素数を規定した特定構造の潤滑剤を含有せしめたことにより、▲1▼超平滑化した磁性層で十分な走行性、繰り返し走行性、耐久性を有する磁気記録媒体、▲2▼幅広い環境条件での使用・保存および塵埃の多い環境での使用でも高い耐久性を有する磁気記録媒体、および▲3▼幅広い環境条件での使用・保存および塵埃の多い環境での使用でもエラーレートの低い磁気記録媒体を提供することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
A、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1中の
「少なくとも上層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上を含むこと」 を、
「少なくとも上層及び下層非磁性層に潤滑剤として下記一般式(1)で示される化合物を上層中の強磁性金属粉末の1重量%以上及び下層非磁性層中の非磁性粉末の1重量%以上を含むこと」とする訂正。
B、Aの訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正。
異議決定日 1999-12-12 
出願番号 特願平6-332172
審決分類 P 1 651・ 16- YA (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平山 美千恵藤森 知郎  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 内藤 二郎
岡本 利郎
登録日 1998-10-09 
登録番号 特許第2835699号(P2835699)
権利者 富士写真フイルム株式会社
発明の名称 磁気記録媒体  
代理人 内山 英夫  

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