• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない H01L
管理番号 1017444
審判番号 審判1999-35130  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-12-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-03-25 
確定日 2000-05-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第2134611号発明「IC検査用ソケット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第2134611号発明は、昭和62年5月29日に特願昭62-134470号として出願され、平成5年9月7日に出願公告(特公平5-61781号)された後、平成10年1月30日にその設定登録がされたものであって、その後、請求人山一電機株式会社により本件特許無効の審判が請求されたものである。
また、当審において、当事者双方から提出されている書類は次のとおりである。
〈請求人側〉
審判請求書(平成11年3月25日付)
口頭審理陳述要領書(平成11年12月3日付)
上申書(平成12年1月28日付)
〈被請求人側〉
答弁書(平成10年8月16日付)
口頭審理陳述要領書(平成11年12月16日付)
上申書(平成12年1月27日付)
答弁書その2(平成12年1月27日付)(答弁書その2は、技術士谷口雄三作成の平成12年1月18日付陳述書及び被請求人所属の柏木努作成のICリード塑性変形シミュレーション結果報告書を含む)

II.本件特許発明

本件特許に係る発明の要旨は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「ICパッケージのリード端子を載置すべき基台を設けたソケット本体と、該ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピンと、上記被押動片に当接して上記接触片による上記リード端子の押圧を解除し得る解除手段とを備えたIC検査用ソケット。」(以下、「本件発明」という。)

III.当事者の主張

1.請求人の主張の概要及び証拠方法
(1)請求人の主張
請求人は、「特許第2134611号発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件発明の特許を無効とすべき理由として、概略次の主張を行っている。
「本件発明は、本件特許に係る出願前に頒布された甲第1〜3号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである。」
(2)証拠方法
甲第1号証:特開昭59-50551号公報
甲第2号証:米国特許第4,623,208号明細書
甲第3号証:実願昭58-88317号(実開昭59-194080号公報)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開昭61-219874号公報
甲第5号証:(株)日立製作所半導体事業部編「表面実装形LSIパッケージの実装技術とその信頼性向上」応用技術出版(1988年11月16日発行)第77〜100頁
甲第6号証の1:日本電子機械工業会規格 ED-7402-1 集積回路外形通則「スモールアウトラインパッケージ」1989.02.10
甲第6号証の2:日本電子機械工業会規格 EIAJ ED-7402-4A集積回路外形通則「薄形スモールアウトラインパッケージ(タイプII)」1991年12月改正
甲第6号証の3:日本電子機械工業会規格 EIAJ ED-7311-1 集積回路パッケージ個別規格[TSOP(1)]1997年8月制定
甲第7号証:エンプラスのICソケットの設計図

2.被請求人の主張及び証拠方法
(1)被請求人の主張
被請求人は、「特許第2134611号は、これを無効とすることができない。」との審決を求め、その理由として、請求人の主張する理由及び提出された証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない旨主張している。
(2)証拠方法
乙第1号証:本件特許に係る平成6年11月16日付手続補正書
乙第2号証:特公平5-61781号公報(本件特許の出願公告公報)
乙第3号証:東京高裁平成11年(行ケ)第68号審決取消請求事件において原告(本件請求人)が証拠として提出した「平成11年5月31日付証拠説明書」
乙第4号証:実願昭58-88317号(実開昭59-194080号)のマイクロフィルム
乙第5号証:東京高裁平成11年(行ケ)第68号審決取消請求事件の判決書(平成11年12月14日判決言渡)

IV.甲第1〜7号証の記載事項の概要

1.甲第1号証
(1-1)「この発明は集積回路素子特に小型の集積回路素子テスト用のソケットに関する。」(第2頁右上欄第18〜19行)
(1-2)「このソケット8はベース10を有する。このベース10は上面12、下面14、および側面16、18より成る。上面12の中央部には凹部20が形成され、この凹部20内に素子が装着される。凹部20は底壁21と側壁23とから成る。側壁23には溝28が離間して形成されるが、この溝28は上面12まで達している。」(第3頁左上欄第19行〜同頁右上欄第6行)
(1-3)「ベース10には縦方向のチャネル29が形成される。このチャネル29は上面12と側面16,18との交差部に形成される。チャネル29の湾曲した底部31内には、クランプ30が回動可能に支持される。各クランプ30の外側の側面には溝33が形成される。これらの溝33はベース10の側面16,18に形成した溝35と整合する。各溝33には開口34が形成される。この開口34はクランプ30を貫通すると共に側壁23から上面12にかけて形成した溝28と整合する。ベース10およびクランプ30はプラスチックもしくは非導電材で形成される。」(第3頁右上欄第7行〜同頁同欄第18行)
(1-4)「クランプ30およびベース10に形成されて相互に整合する所定の数の溝28,33,35には導電性かつ可撓性で形状保持性のリ一ド36が挿着される。各リード36はコンタクト38と接触する。このコンタクト38は開口34に挿通される。なお、第1図および第7図に示すように、リード36によってクランプ30が閉位置に付勢されると、コンタクト38は溝28内において上面12と隣接して位置する。クランプ30は第6図に示すように開位置に移動可能である。開位置においては、クランプ30およびコンタクト38は上面12に対して外側へ延出し、それに伴ってリード36は撓む。リード36にはそれぞれタブ37が形成される。このタブ37が溝35の側壁面と係合して結合することによって、リード36がベース10に固定される。」(第3頁右上欄第19行〜同頁左下欄第14行)
(1-5)「ソケット8に装着されるIC(集積回路)素子22は本体および本体の両側面から延出するリード26より成る。IC素子22に形成されるリード26の数はそのIC素子22の寸法および用途によって異る。クランプ30には傾斜させた頂面40を形成するのが望ましい。このようにクランプ30の頂面40を傾斜させておけば、オープニングツールを使用してクランプ30を開位置にし、IC素子22を着脱することができる。」(第3頁左下欄第14行〜同頁右下欄第2行)
(1-6)「IC素子22の本体24は凹部20内に装着される。このときリード26はベース10に形成された各溝28内に挿着される。リード26の脚部は上面上に載置されるが、本体24は底壁21から離間させてあるので通気可能である。リード36によってクランプ30が閉位置に移行して、各クランプ30が閉止されるときに、コンタクト38はリード26上をスライドするので、リード26上の酸化皮膜は除去される。クランプ30に形成した開口34はフレアー状に形成してあるので、コンタクト38とリ一ド26との係合時にコンタクト38は屈曲可能である。クランプ30が閉位置にあるとき、IC素子22は凹部20内に固定されているので、IC素子の電気的テストを行なうことができる。」(第3頁右下欄第2〜16行)

2.甲第2号証
(2-1)「近年、表面に多数のパッドを有する比較的薄い板状のリードレスチップキャリアは、デュアル-インライン(dual-in-line)キャリアパッケージとの関連でそのコンパクトさのためにポピュラーになっている。…(中略)…ソケットはまたチップキャリアをテストする際に使用されており、また、このようなキャリアーをバーン-イン(burn-in)及び同様のテストに適応させるためにソケットの開発が行われている。」(第1欄12〜30行)
(2-2)「図に示されたソケット10は上部表面14と底部表面16とを有する基部部材12を含む。基部部材12は中央開口部18と開口部18の周囲に、表面14、16を貫通して延びている多数の穿孔20を含む。一段高くなったテーブル部材24が中央開口部18の周囲に延びており、これは溝22と一直線に並ぶ溝26を有する。基部部材12は2対の反対向きのフィンガーラッチ30を含みその各々は可撓性であって、上部にカム面32とロックタブ34とを有する」(第2欄16〜26行)
(2-3)「ソケット10はさらに複数のコンタクト36を有する。各コンタクト36は弾性を有する導電性材料で形成されており、一般に第7図及び第8図に示すような断面形状を有している。各コンタクト36は、下部リード38を有し、この下部リード38は基部部材の孔20を貫通して延びている。また、各コンタクト36の一部をなす湾曲したネック40が整列した溝22,26内に嵌合されている。各コンタクト36は一体の上部ヘッド42を含み、この上部ヘッド42は、第8図に見られるようにコンタクトのネック部40から分岐したあご部46で終わる傾斜内側エッジ44と外方に延在する一体のプラットホーム48とを有している。ソケット10はまた、図2に示す一般形状の上部部材50と肩部58を有している。上部部材50はICキャリア62のソケット10への挿入を許すための中央開口部60と、上部部材の側部54の各々にアバットメント部材64を含んでいる。第4図及び第5図から分かるように、上部部材50はその側部面54の各々の所でアバットメント64より下側に中央開口部60に連なる通路66を含んでいる。上部部材50には、アバットメント部材64の隣りで且つ通路66の上方に複数の溝72が形成されている。」(第2欄第27〜47行)
(2-4)「コンタクト36が基部部材12の溝22,26内に配置され、リード38が基部部材の孔20を貫通して延在した状態で、上部部材50が基部部材12の上方に置かれ、基部部材12のフィンガーラッチ30が肩部58に係合するまで下方に押え込まれ、上部部材は基部部材に取り付けられる。コンタクト36のヘッド42は、コンタクトのプラットホーム48の各々が上部部材のアバットメント部材64の先端部を支持した状態で上部部材の溝72に嵌り合い、第1図から分かるように、上部部材をその上方位置に押し戻そうとしている。」(第2欄第48〜56行)
(2-5)「ソケット10を動作させるには、上部部材50を第7図に示すような下方位置まで、該基部部材12に向けて押し下げる。それによって、アバツトメント部材64は、コンタクトのプラットホーム48を第7図に矢印51で示すように下方に押し下げる。この結果、コンタクトのネック40の回りにモーメントが発生し、該モーメントによって、上部ヘッド42は外方に移動し、ICキャリア62が中央開口部60内に挿入されたときに、ICキャリア62を基部部材のテーブル部24の頂上で保持することになる。次に、上部部材50を解放すると、曲げられたコンタクト36の作用で、該コンタクトのプラットホーム48が上部部材50を基部部材12から上方に押し上げ、コンタクト36のあご部46が、第8図の矢印75で示すように、ICキャリア62の端子パッドを押圧する。」(第2欄第57行〜第3欄第1行)

3.甲第3号証
(3-1)「トランジスタ等の特に小形の半導体装置はその本体より導出したリ一ドをプリント基板への実装を便利ならしめるためストレートな状態から実装面側へ曲げ加工したものが多くなっている。例えば、樹脂封止型トランジスタは通常第1図及び第2図に示すように要部を封止する外装樹脂材(1)から3本平行なストレートのリ一ド(2)を導出した形で製造され、その後用途に応じ第3図及び第4図に示すようにリード(2)の曲げ加工が行われて出荷される。」(第1頁下から第2行〜第2頁第8行)
(3-2)「ところで、上述トランジスタ(4)は出荷の前に特性測定が行われ、…(中略)…この時の特性測定は一般にリード(2)がストレートの状態の時に例えば第5図に示すようにトランジスタ(4)を絶縁支持台(5)上に位置決めして押庄体(6)で押さえて固定しておき、ストレートのリード(2)上面の2個所に外部の支持ブロック(7)から延びる2個一対の測定子(8)(9)を弾圧接触(ケルビンコンタクト)させて行っている。各一対の測定子(8)(9)は弾性板であって、その略中央部がエアーシリンダ(10)により上下動制御され、リード(2)への接触は接触抵抗を小さくするため強い力で押圧して行われる。この時のリ一ド(2)は下面が支持台(5)で支持されているので測定子(8)(9)の押圧力で変形することは無くて高精度の特性測定が行える。」(第2頁第15行〜第3頁第11行)
(3-3)「ところが、上記特性測定後リード(2)の曲げや切断加工を行うと、…(中略)…特性不良となり、そのまま出荷されることがある。このような不良品出荷のトラブルは特性測定をリード(2)の曲げ加工後に行えば防止され、一部で実行されている。しかしリード曲げ加工後の特性測定は第6図に示すように、トランジスタ(4)が小形の場合においてはリード(2)が短いがためにリード(2)にケルビンコンタクトで接触する一対の測定子(8)(9)は曲げ加工されたリ一ド(2)の根元部分と先端部分の段差のある2個所に接触することになり、特に上段のリード根元部分に接触する測定子(8)のリ一ド押圧力が過大になってリード(2)の変形を招くことがあり、また測定子(8)の寿命を短くする。」(第3頁第12行〜第4頁第9行)

4.甲第4号証
「(背景技術)IC等の電子部品の検査にソケットが使用されている。ソケットは電子部品のパッケージの形態に合う必要があるところから単体部品およびICを含めて、キャンパッケージ型用ソケット、フラットパッケージ型用ソケット、デュアルラインパッケージ型用ソケット、リードレス型用ソケット等がある。これらソケットはソケットの測定端子と被測定物である電子部品の端子(リード)との接触を確実に維持するために、測定端子は弾力を持つ構造となっており、かつリードを変形させたり傷を付けたりすることなく、必要な接触圧が発生する構造となっている。」(第1頁左下欄第16行〜同頁右下欄第8行)

5.甲第5号証
スモール・アウトライン・パッケージのリード端子用の金属材料としては、鉄系合金(42合金、コバール等)や銅系合金(C194等)が通常に使用されること

6.甲第6号証の1〜3
ICパッケージのリード端子の長さ、幅、厚さ等については、社団法人日本電子機械工業会(EIAJ)により、その規格が定められていること。

7.甲第7号証
IC検査用ソケットの設計図(右肩に「エンプラス重要製品」という表示がある)が記載されており、その仕様欄には接触圧力について「30g±10g」という記載がある。

V.当審の判断

1.本件発明の構成及び効果について
本件発明は、IC検査用ソケットにおいて、「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」を構成として備えている。
そして、上記のように「接触片」が「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延び」ているという構成により、「コンタクトピン」が「解除体20の上面を押圧すれば、被押動片33bが弾圧湾曲部33cの弾力に抗して…(中略)…押されるので、…(中略)…接触片33dはリード端子Lの押圧を解除する方向に回動され基台11から離れる。…(中略)…解除体20への押圧を解除してやれば、…(中略)…接触片33dもリード端子Lを押圧する方向に回動してICパッケージPのリード端子Lの上部を押圧することによりICパッケージPを係止せしめる。」(本件特許の出願公告公報第4欄39行〜第5欄第16行)というように作用し、以て、「ICパッケージをソケット本体に実装する際にICパッケージのリード端子が変形したり損傷したりする虞れがなく確実に挿着できる」(同第6欄第15〜18行)という明細書記載の効果を奏するものである。

2.本件発明と甲第1〜3号証記載の発明との対比
2-1.本件発明と甲第1号証記載の発明との対比
(1)甲第1号証に記載された発明
前記「IV.1」で摘示したところによると、甲第1号証には次の発明が記載されている。
「IC素子をテストするためのソケットであって、上面中央部にIC素子22を装着するための凹部20、IC素子のリードが載置される溝28を有する上面12及びクランプ30を回動可能に支持するためのチャネル29をそれぞれ有するベース10と、コンタクト38が挿通される開口34を有しチャネル29に支持されるクランプ30と、導電性、可撓性かつ形状保持性であって、コンタクト38に接触すると共にクランプ30を開位置と閉位置に付勢するリード36と、クランプ30の開口34に挿通されリード36と接触しクランプ30の閉位置においてリード26を押圧する導電性のコンタクト38と、クランプ30を開位置にしてIC素子22の着脱を可能にするオープニングツールとからなるソケット」
(2)本件発明と甲第1号証記載の発明との一致点
甲第1号証記載のソケットはIC検査用ソケットであり、また、甲第1号証記載の「IC素子22」は本件発明の「ICパッケージ」に、甲第1号証記載の「IC素子のリードが載置される上面12」は本件発明の「リード端子を載置すべき基台」に、甲第1号証記載の「リード26を押圧する導電性のコンタクト38」は本件発明の「リード端子を上方より上記基台に対して押圧し得る接触片」に、甲第1号証記載の「オープニングツール」は、本件発明の「リード端子の押圧を解除し得る解除手段」にそれぞれ相当するから、本件発明と甲第1号証記載の発明との一致点は、次のとおりである。
「ICパッケージのリード端子を載置すべき基台を設けたソケット本体と、上記基台上に載置されたリード端子を上方より上記基台に対して押圧し得る接触片と、上記接触片による上記リード端子の押圧を解除し得る解除手段とを備えたIC検査用ソケット。」
(3)本件発明と甲第1号証記載の発明との相違点
本件発明においては、「接触片」は「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」の一部として形成されているのに対して、甲第1号証記載のものにおいては、「接触片」は、「ソケット本体」とは別体に設けられるクランプ30の開口34に挿通されると共に、クランプ30及びベース10にそれぞれ形成されている溝28,33、35に挿着されている導電性かつ可撓性で形状保持性のリード36と接触するように設けられている点。
2-2.本件発明と甲第2号証記載の発明との対比
(1)甲第2号証に記載された発明
前記「IV.2」で摘示したところによると、甲第2号証には次の発明が記載されている。
「側面にパッドを有するリードレス型のICキャリア62を載置すべきテーブル部材24を設けたソケット10と、該ソケット10に挿着されていて、下部リード38、該下部リード38からネック40を介して外方に延在するプラットホーム48及びネック40から分岐したあご部46で終わる傾斜内側エッヂ44とからなり、該あご部46はテーブル部材24に載置されたICキャリア62の側面のパッドを横方向から押圧し得るようになっているコンタクト36と、上記プラットホーム48に当接して上記あご部46による上記パッドの押圧を解除し得る上部部材50とを備えたIC検査用ソケット。」
(2)本件発明と甲第2号証に記載された発明との一致点
甲第2号証に記載の「ICキャリア62」は本件発明の「ICパッケージ」に、甲第2号証に記載の「テーブル部材24」は本件発明の「ICキャリア62(ICパッケージ)を載置する基台」に、甲第2号証に記載の「コンタクト36」は本件発明の「コンタクトピン」に、甲第2号証に記載の「下部リード38」は本件発明の「コンタクトピン」の「基部」に、甲第2号証に記載の「ネック40」は本件発明の「弾性湾曲部」に、甲第2号証に記載の「プラットホーム48」は本件発明の「被押動片」に、甲第2号証に記載の「あご部46」は本件発明の「接触片」にそれぞれ相当する。
甲第2号証の図7、8によれば、「あご部46」は、「プラットホーム48」とは反対の方向に延びているといえる。
甲第2号証に記載のICキャリアの「パッド」と、本件発明におけるICパッケージの「リード端子」とは共にICパッケージに設けられた「電極部材」である点で共通する。
甲第2号証に記載の「上部部材50」は、「プラットホーム48」(被押動片)を押圧することによって「あご部46」(接触片)による「パッド」(電極部材)の押圧を解除するから、「接触片による電極部材の押圧を解除し得る解除手段」であるといえる。
上記のことを勘案すると、本件発明と甲第2号証記載の発明との一致点は、次のとおりである。
「ICパッケージを載置する基台を設けたソケット本体と、該ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたICパッケージの電極部材を上記弾性湾曲部の有する弾力により押圧し得る接触片とを有するコンタクトピンと、上記被押動片に当接して上記接触片による上記電極部材の押圧を解除し得る解除手段とを備えたIC検査用ソケット」
(3)本件発明と甲第2号証に記載された発明との相違点
(3-1)本件発明のIC検査用ソケットにおける「基台」は「ICパッケージのリード端子を載置」するべく設けられており、ソケットの検査対象はリード端子を有するICパッケージであるのに対し、甲第2号証記載のものは、リード端子を有しない「リードレスチップキャリア」を検査対象とするソケットであって、リード端子を有するICパッケージを検査対象とするものではなく、このため、「基台」はリード端子ではなく、ICパッケージ本体を載置するようになっている点。
(3-2)本件発明においては、「接触片」は「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成を有するものであるのに対し、甲第2号証記載のものでは、「接触片」は「被押動片とは反対の方向へ延びて」いるとはいえるが、「被押動片から分岐して」いるものではなく、また、甲第2号証記載のものにおける「接触片」はICパッケージの側面に設けられたパッドを水平方向に押圧するべく設けられているのであって、本件発明におけるように、「基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」ように設けられているものでもない点。
2-3.本件発明と甲第3号証に記載された発明との対比
(1)甲第3号証に記載された発明
前記「IV.3」で摘示したところによると、甲第3号証には次の発明が記載されている。
「半導体装置4のリードを載置する支持台5と、上記支持台5上に載置されたリード2を、支持ブロック7により支持させた測定子8、9の端部により上記支持台5に対して押圧し得るようにした半導体装置の特性測定装置」
(2)本件発明と甲第3号証に記載された発明との一致点
甲第3号証に記載の「半導体装置4」は、本件発明における「ICパッケージ」に、甲第3号証に記載の「支持台5」は本件発明における「ICパッケージのリード端子を載置すべき基台を設けたソケット本体」に相当する。
また、甲第3号証に記載の「測定子8、9」は、弾性を有し、シリンダ10によってその先端部が「半導体装置4」の「リード2」に押圧されるものであるから、この「測定子8、9」は、本件発明における「基台上に載置されたリード端子を弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片」にそれぞれ相当する。
上記のことを勘案すると、本件発明と甲第3号証記載の発明との一致点は、次のとおりである。
「ICパッケージのリード端子を載置すべき基台を設けたソケット本体と、上記基台上に載置されたリード端子をエアシリンダ10の動きによって上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを含むIC検査用装置」
(3)本件発明と甲第3号証に記載された発明との相違点
(3-1)本件発明においては、「接触片」は「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」の一部として形成されているのに対して、甲第3号証記載のものにおいては、「接触片」は、前記のような「コンタクトピン」の一部としては設けられておらず、また、「接触片」は「支持台5」(ソケット本体)に挿着されるのではなく「支持台5」とは別体に設けられた「支持ブロック7」に支持されている点。
(3-2)本件発明においては、コンタクトピンに設けた被押動片に当接して接触片による上記リード端子の押圧を解除し得る解除手段を有しているのに対し、甲第3号証記載のものにおいては、接触片によるリード端子の押圧を解除するのはエアシリンダ10であって、これは「被押動片に当接して上記接触片による上記リード端子の押圧を解除し得る」というものではない。

3.甲第1〜3号証に記載された発明を組み合わせる点について
(1)甲第1号証を主たる引例とした場合についての検討
甲第1号証記載の発明との対比で挙げた相違点は、上記「V.2-1(3)」に摘示したとおり、本件発明においては、「接触片」は「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」の一部として形成されているのに対して、甲第1号証記載のものにおいては、「接触片」は、「ソケット本体」とは別体に設けられるクランプ30の開口34に挿通されると共に、クランプ30及びベース10にそれぞれ形成されている溝28,33、35に挿着されている導電性かつ可撓性で形状保持性のリード36と接触するように設けられている点が相違点となっている。
そこで、この相違点について、まず、甲第2号証の記載を検討するに、前記「V.2-2(3)」で示したように、甲第2号証記載のものは、リード端子を有しない「リードレスチップキャリア」(ICパッケージ)を検査対象とするものであって、このため、例えばその第8図に示されているように、「コンタクト36」は、「下部リード38」に続く湾曲した「コンタクトネック40」と、このコンタクトネック部から分岐して「あご部46」(接触片)で終わる「傾斜内側エッジ44」と、この「あご部46」とは反対側に延びている「プラットホーム48」とからなる構造を有して、「コンタクト36」の「あご部46」が「ICキャリア62」の「パッド」を側方部から押圧するようになっている。
従って、甲第2号証には、ICパッケージのリード端子を上方から「あご部46」(接触片)で押圧することについては何らの記載も示唆もなく、また、「あご部46」(接触片)を「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成のものとする点についても記載及び示唆がない。
また、甲第3号証には、本件発明における「接触片」に相当する「測定子8」により、ICパッケージのリード端子を上方から押圧する点については記載があるが、この「測定子8」は、ソケット本体に挿着されるのではなく、しかも、その形状は細幅長尺状の弾性板の先端部が折り曲げられた形状を有するものであるから、甲第3号証は、本件発明の「接触片」が有する、「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成については何らの示唆を与えるものではない。
そして、上記のように、甲第2、3号証のいずれにも、本件発明の「接触片」が有する、「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成についての記載及び示唆がない以上、甲第1〜3号証の記載事項を相互に勘案しても本件発明の前記構成については当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
また、甲第4号証には、背景技術について、ソケットに関し、ソケットの測定端子と被測定物である電子部品の端子(リード)との接触を確実に維持するために、測定端子は弾力を持つ構造となっていること及びリードを変形させたり傷を付けたりすることなく必要な接触圧が発生する構造となっていることが記載されているが、測定端子が「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成をとることについては何らの示唆もない。
また、甲第5号証及び甲第6号証の1〜3はICパッケージのリード端子の材質及びリード端子の長さ、幅、厚さ等に関する記載があるがソケットに関する記載はない。
また、甲第7号証は、被請求人のIC検査用ソケットの設計図であるが、本件特許に係る出願前に公知のものではない。
従って、甲第4〜7号証を勘案しても、前記の判断は変わらない。
(2)甲第2号証を主たる引例とした場合についての検討
本件発明と甲第2号証に記載のものとは、前記「V.2-2(3)」で示したとおりの相違点、すなわち、本件発明においては、「接触片」は「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成を有するものであるのに対し、甲第2号証記載のものでは、「接触片」は、ICパッケージの側面に設けられたパッドを水平方向に押圧するべく設けられているのであって、「被押動片から分岐して」いるものではなく、また、「基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」ように設けられているものでもないという相違点がある。
そこで、この相違点について甲第1、3号証を検討するに、甲第1号証については前記「V.2-1(3)」で、また、甲第3号証については、前記「V.2-3(3)」でそれぞれ示したように、前記相違点に係る本件発明の構成は甲第1、3号証記載のものとの対比においても相違点となっているものである。
従って、本件発明の「接触片」を「被押動片から分岐」させる点及び「接触片」が「基台上に載置されたリード端子を弾性湾曲部の有する弾力により上方より基台に対して押圧し得る」ように設ける点は、甲第1〜3号証の記載事項を相互に勘案することによっても当業者が容易に想到し得るものとすることはできない。
また、甲第4〜7号証を勘案しても前記判断は変わらない。
(3)甲第3号証を主たる引例とした場合についての検討
本件発明と甲第3号証記載のものとは、前記「V.2-3(3)(3-1)」で示したとおりの相違点、すなわち、本件発明においては、「接触片」は「被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る」という構成を有するものであるのに対し、甲第3号証記載のものはこの構成を具えていないという相違点がある。
そして、前記相違点に係る本件発明の構成は甲第1、2号証記載の発明との対比においても相違点となっているものである。
従って、上記相違点については、甲第1〜3号証の記載事項を相互に勘案することによっても 当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。
また、この判断は甲第4〜7号証を勘案しても変わらない。

4.まとめ
上記のとおりであるから、本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.請求人のその他の主張について
5-1.請求人の主張
(1)本件発明の要旨について
答弁書(第5頁第22〜25行)における、被請求人の「本件特許発明は、基台上に載置されたリード端子をコンタクトピンの接触片により弾性湾曲部の保有する弾力をもって上から下向きに回動する方向に押圧するという構成を採ることにより、リード端子の変形及び損傷を防ぐと共に、変形しているリード端子を実装時に矯正することもできる作用効果を発揮できる」旨の主張は、本件発明の要旨に基づかない主張である(請求人の平成11年12月3日付口頭審理陳述要領書」第2頁下から2行〜第4頁第5行)。
(2)本件発明の効果について
本件特許明細書の〔発明の効果〕の欄に「以上のように本発明はICパッケージをソケット本体に実装する際にICパッケージのリード端子が変形したり損傷したりする虞がなく確実に挿着できると共に、変形しているリード端子を実装時に矯正することもできるものであって、高密度ICパッケージの検査ソケットとして特に有効である。」(本件特許の出願公告公報第6欄第15〜21行)という記載があるが、「変形しているリード端子を実装時に矯正する」という効果は架空の作用効果であり、格別の効果ではない(請求人の平成11年12月3日付「口頭審理陳述要領書」第4頁第6行〜第7頁第12行及び平成12年1月28日付「上申書」第2頁第3行〜第7頁末行)。
(3)明細書の記載要件について
本件特許は、特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第123条第1項第3号に該当し、無効とすべきである(請求人の平成12年1月28日付「上申書」第8頁第1〜20行)。
5-2.請求人の主張に対する判断
(1)本件発明の要旨について
本件特許明細書には、本件発明の作用に関して、「解除体20の上面を押圧すれば、…(中略)…接触片33dはリード端子Lの押圧を解除する方向に回動され基台11から離れる。…(中略)…解除体20への押圧を解除してやれば、コンタクトピン33はその弾性湾曲部33cの弾力のために被押動片33bが押動部22を上方へ押し上げて解除体20の突起21をフック16aと再び係合せしめると共に接触辺33dもリード端子Lを押圧する方向に回動してICパッケージPのリード端子Lの上部を押圧することによりICパッケージPを係止せしめる。」(本件特許の出願公告公報第4欄39行〜第5欄第16行)との記載があり、本件発明における「接触片」は、「コンタクトピン」の「弾性湾曲部」の保有する弾力によって「リード端子」を上から下向きに回動する方向に押圧する作用を示すことが記載されている。
そうすると、被請求人の、「本件特許発明が、基台上に載置されたリード端子をコンタクトピンの接触片により弾性湾曲部の保有する弾力をもって上から下向きに回動する方向に押圧する」との主張は本件発明の作用効果についての主張であり、このように特許明細書の記載に基づいて本件発明の作用効果を主張すること自体は、本件特許の無効理由を構成するものではない。
また、本件発明が、「基台上に載置されたリード端子をコンタクトピンの接触片により弾性湾曲部の保有する弾力をもって上から下向きに回動する方向に押圧する」こと自体を構成要件とするものではないことは請求人の主張するとおりであるところ、本件発明の要旨は前記「II」で認定したとおりのものであって、本件発明の構成が甲第1〜3号証記載のものから当業者が容易に想到し得たものでないことは既に述べたとおりである。
(2)本件発明の効果について
「コンタクトの押圧力によりリード変形が矯正できるか否か」について、請求人は、平成12年1月28日付上申書において、甲第5〜7号証を引用し、モデルに基づく計算を行って、「コンタクトの押圧力によってはリード変形は矯正できない」旨を主張し、被請求人は、平成12年1月27日付答弁書において、技術士谷口雄三が作成した平成12年1月18日付「陳述書」及び被請求人所属の柏木努作成の2000年1月19日付「ICリード塑性変形シミュレーション結果報告書」を引用して、「コンタクトの押圧力によりリード変形が矯正できる」旨をそれぞれ主張している。
ところで、請求人の「コンタクトの押圧力によってはリード変形は矯正できない」旨の主張は、それがどのような無効理由につながるのかを請求人は明示していないが、一応、請求人は概略次の無効理由を主張しているものと認められる。
「本件特許発明は、明細書記載の効果を奏し得ないものであり、従って格別の効果を奏さないものというべきであるから、進歩性を欠き、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」
(なお、請求人の「コンタクトの押圧力によってはリード変形は矯正できない」旨の主張は、本件特許に係る出願の明細書記載要件の不備(特許法第36条第3、4項の規定違反)をも主張しているとも認められるが、この点については次項(5-2.(3))で検討する。)
そこで、以下、検討する。
本件特許発明が、IC検査用ソケットにおいて、「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」を構成として備えることにより、「ICパッケージをソケット本体に実装する際にICパッケージのリード端子が変形したり損傷したりする虞がなく確実に挿着できる」(本件特許の出願公告公報第6欄第15〜18行)という明細書記載の効果を奏するものであることは、前記「V.1」で述べたとおりであり、また、本件特許発明が甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、従って、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないことは、前記「V.3」で述べたとおりである。
(3)明細書の記載要件について
平成10年法律51号によって改正された特許法第131条第2項(平成11年1月1日施行)では、同法第123条第1項の審判(無効審判)においては、「請求の理由」の要旨を変更する補正は許されないこととされている(同法第131条第2項ただし書参照)。
そして、本件審判請求の当初に請求人が主張していた無効理由は特許法第29条第2項のみであったところ、上記の特許法第36条に基づく無効理由は、請求人の平成11年12月3日付「口頭審理陳述要領書」ないしは同平成12年1月28日付「上申書」において新たに追加されたものである。
そうすると、本件審判請求における、請求人の特許法第36条に基づく無効理由の追加は請求書の要旨を変更するものとなるので、同法第131条第2項の規定に違反することになり、このような無効理由を追加することは認められない。
従って、請求人の、明細書の記載要件についての主張は採用することができない。
付言するに、本件発明は「IC検査用ソケット」に係るものであり、その主たる目的はICの検査測定にある。
そして、上記目的を達成するために、本件発明は前記の「ソケット本体に挿着されていて基部と該基部から弾性湾曲部を介して延びている被押動片と 該被押動片から分岐して該被押動片とは反対の方向へ延びていて上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により上方より上記基台に対して押圧し得る接触片とを有するコンタクトピン」を構成として備え、これにより「ICパッケージをソケット本体に実装する際にICパッケージのリード端子が変形したり損傷したりする虞がなく確実に挿着できる」という明細書記載の効果を奏することが認められる。
また、本件発明の要旨に係る構成は、特許明細書の発明の詳細な説明の項(公告公報第4欄第4行〜第5欄第16行)に全て記載されている。
してみれば、本件特許明細書中に、「コンタクトの押圧力によりリード変形が矯正できる」ことについての具体的なデータ等の開示がないとしても、本件発明の主たる目的及びこの目的を達成するための構成及びそれによる効果については当業者が容易に実施できる程度に記載されているものとすることができるから、本件特許明細書中に上記のデータ等の開示がないことをもって直ちに本件特許は特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることは相当でない。

6.被請求人の主張について
6-1.被請求人の主張(一事不再理について )
本件請求人が主張する無効理由は、本件発明は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
一方、本件請求人が請求した本件特許発明に係る別件の平成10年審判第35282号の特許無効審判(以下、「先行無効審判」という)は、本件の証拠である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを無効理由として請求されたものであるところ、これについては、平成10年12月25日に審判の請求は成り立たないとされ、その後、本件請求人は平成11年(行ケ)第68号として審決取消訴訟を東京高等裁判所に提訴し、平成11年12月14日に原告(本件請求人)の請求を棄却する旨の判決(乙第5号証)が言い渡された。
そして、上記審決取消訴訟の過程において、原告は、甲第1、2号証に加えて本件甲第3号証(審決取消訴訟における甲第11号証)を提示して、本件発明は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張したが、この主張は採用されなかった。
従って、甲第1号証〜甲第3号証に基づく無効理由による本件無効審判事件には、一事不再理の規定(特許法第167条)の規定が適用されるべきである。
6-2.判断
前記審決取消訴訟の判決書(乙第5号証)を参照するに、原告(本件請求人)主張の特許法第29条第2項違反の無効理由は、本件発明は、審判甲第1号証(本件甲第2号証)及び審判甲第2号証(本件甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものである。
これに対して、本件無効審判請求は、前記の甲第1、2号証だけではなく、甲第3号証をも加えて、甲第1〜3号証に基づいてを当業者が容易に発明をすることができたとするものである。
してみれば、先行無効審判と本件無効審判とでは事実及び証拠が異なるとするべきであり、本件審判請求については、特許法第167条の規定を適用することはできない。
付言するに、特許法第167条の趣旨は、ある特許につき無効審判請求が成り立たない旨の審決が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判を請求することが許されないとするものであり、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求事件が不適法となるものではない(平成12年1月27日最高裁小法廷判決(平成7年(行ツ)第105号)参照)。
そして、本件審判請求についてみると、本件審判請求は平成11年3月25日であるところ、平成11年(行ケ)第68号の審決取消訴訟の判決の日は平成11年12月14日であるから、本件審判請求の日は、前記先行無効審判の「審決の確定の登録」の後ではない。
上記のとおりであるから、被請求人の主張は採用できない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件特許については、請求人が主張する理由及びその提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-03-08 
結審通知日 2000-03-21 
審決日 2000-04-07 
出願番号 特願昭62-134470
審決分類 P 1 112・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川真田 秀男  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 影山 秀一
関根 恒也
登録日 1998-01-30 
登録番号 特許第2134611号(P2134611)
発明の名称 IC検査用ソケット  
代理人 阿部 和夫  
代理人 山本 光太郎  
代理人 升永 英俊  
代理人 伊藤 高英  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ