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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1018151
異議申立番号 異議1998-76168  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-24 
確定日 1999-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2769773号「懸濁重合用安定剤及びその製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2769773号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第2769773号は、平成5年10月1日に出願され、平成10年4月17日に設定登録され、その後、岡崎紀泰から特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年7月27日に訂正請求がなされたものである。
II.訂正について
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1において
▲1▼「分散するハイドロアパタイト粒子」を「分散するハイドロオキシアパタイト粒子」と訂正し、
▲2▼「平均粒子径が」を「コールターカウンターで測定した平均粒子径が」と訂正し、
▲3▼「1μm以下、」を「0.54〜1μm、」と訂正し、
▲4▼「粒子含有率の70%が0.65μm以下で、」を「粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、」と訂正し、
(2)特許請求の範囲の請求項2において「ハイドロオキシアパタイトを生成し、ついで得られるスラリーに」を「ハイドロオキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに」と訂正する。
(3)明細書段落【0010】中の記載である「分散するハイドロオキシアパタイト粒子の平均粒子径が1μm以下、粒子含有率の70%が0.65μm以下で、」を「分散するハイドロオキシアパタイト粒子のコールターカウンターで測定した平均粒子径が0.54〜1μm、粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、」と訂正する。
(4)明細書段落【0011】中の記載である「コールタンカウンターによる粒度分布測定法で測定した値を用いるものとする。」を「コールターカウンターによる粒度分布測定法で測定した値を用いるものとする。」と訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正(1)の▲1▼はハイドロオキシアパタイトの誤記を訂正するものであり、▲2▼はハイドロオキシアパタイトの粒子径の測定条件を明細書の段落【0011】に記載の方法に明確にするものであり、▲3▼〜▲4▼は、ハイドロオキシアパタイトについて、平均粒子径及び粒子含有率の70%における値を、それぞれ明細書中の表1の記載に従って減縮するものであり、訂正(2)は、明細書の段落【0014】、【0015】の記載に従い、生成されたハイドロオキシアパタイトを分散したスラリー状のままで強力剪断処理することに減縮し明確化するものであり、訂正(3)は、特許請求の範囲の訂正により生じた明細書の明りょうでない記載を明りょうにする訂正であり、訂正(4)は誤記を訂正するものであるから、前記訂正(1)〜(4)は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、誤記の訂正を目的とし、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、前記訂正(1)〜(4)は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(2)独立特許要件について
訂正後の請求項1-2に係る発明は、後記III.に示したように独立して特許を受けることができることは明らかである。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立について
1.特許異議申立人の主張
異議申立人は、甲第1号証(米国特許第2594913号明細書)、甲第2号証(米国特許第2673194号明細書)を提出して、特許第2769773号の請求項1-2に係る発明は、前記甲第1-2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、又は前記甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから取り消されるべき旨、主張している。
2.異議申立てについての判断
(1)本件発明
訂正明細書の請求項1-2に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1(以下、本件発明1という)及び請求項2(以下、本件発明2という)に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】CaO/P2O5の重量比が少なくとも1.30ハイドロオキシアパタイトのスラリーであって、分散するハイドロオキシアパタイト粒子のコールターカウンターで測定した平均粒子径が0.54〜1μm、粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、かつ4μm以上が5%を越えない粒度分布を有することを特徴とする懸濁重合用安定剤。
【請求項2】リン酸と石灰乳の重量比CaO/P2O5が少なくとも1.30の割合でハイドロオキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに強力剪断分散処理を施すことを特徴とする懸濁重合用安定剤の製造方法。」
(2)甲号証に記載の発明
甲第1号証の発明は、リン酸塩の微細な粒子を用いた懸濁重合方法に関するもので、その特許請求の範囲の請求項1には、「ビーズポリマーの生成方法において、重合性エチレンモノマーからなる重合性組成物に水を添加して水溶性懸濁液を作成し、カーボネートが難水溶性である金属をそれぞれ少なくとも3等量含み、その粒子径が主に0.2〜0.005μmである難水溶性リン酸塩を0.1〜5重量%の範囲で用いて上記懸濁液を安定化させ、上記エチレン単量体と水の重量比が1:1未満の条件下において、分散している上記エチレンモノマーを重合させる懸濁重合法。」(要部訳1頁)が記載され、請求項4には、「請求項1において、上記リン酸塩はハイドロオキシアパタイトである懸濁重合法。」(要部訳1頁)が記載され、請求項12には、「請求項1において、上記リン酸塩はオルトリン酸塩と酸化カルシウムの反応により作成され、CaO/P2O5重量比が少なくとも1.3以上である合成リン酸カルシウムである懸濁重合法。」(要部訳1頁)が記載され、第11欄55行〜第71行には、「しかし、この物質の分散性は高速攪拌下、水中で20時間加熱することにより粒子径を小さくした場合には、ある程度は向上する。低性能のリン酸分散剤の分散性についても同様に、ボールミル、コロイドミル、またはホモジナイザーで粒子径を小さくすることにより、しばしば向上することもある。しかし、これらの処理では、密度があまりにも高く、かつ硬い凝集を微細な粒子にまで破壊するのは困難である。例えば、図4は第3リン酸カルシウムのC.P.グレードの18500倍の電子顕微鏡写真であり、これは、極めて大きい粒子径を持つため、上記の処理では分散剤としての使用に適した粒子径に小さくすることができない。」(要部訳2頁下から10行〜3行)と記載されている。
甲第2号証の発明は、懸濁重合方法に関するものであり、特許請求の範囲の請求項1には、「少なくとも1の重合性エチレンモノマーを有する重合性組成物を安定水性懸濁液中で重合させポリマービーズを生成する懸濁重合法において、上記懸濁液を上記重合の間、カーボネートが難水溶性である金属をそれぞれ少なくとも3等量含む微分散した難水溶性リン酸塩を用いて安定化させ、上記懸濁液全体の0.0005〜0.05重合%の範囲のアニオン界面活性剤上記リン酸塩により上記懸濁液を増量させる懸濁重合法。」(要部約1頁)が記載されている。また、請求項4には、請求項1の微分散リン酸塩は第3リン酸カルシウムであること、請求項10には、「上記懸濁重合用難水溶性リン酸塩の粒子径は、主として0.2〜0.005μmの範囲である」旨が記載され、請求項13には,「請求項10において、リン酸塩がハイドロオキシアパタイトである」旨が記載されている。さらに、請求項19には,「請求項10において、上記リン酸塩はオルトリン酸と酸化カルシウムの反応により生成され、CaO/P2O5重量比が少なくとも1.3以上である合成リン酸カルシウムであり、上記懸濁液全体の0.0005〜0.05重量%の範囲のアニオン界面活性剤上記リン酸塩により上記懸濁液を増量させる懸濁重合法。」が記載され、第11欄54行〜70行には、「しかし、この物質の分散性は、高速攪拌下、水中で20時間加熱することにより粒子径を小さくした場合には、ある程度は向上する。低性能のリン酸分散剤の分散性についても同様に、ボールミル、コロイドミル、またはホモジナイザーで粒子径を小さくすることにより、しばしば向上することもある。しかし、これらの処理では、密度があまりにも高く、かつ硬い凝集を微細な粒子にまで破壊するのは困難である。例えば、図4は第3リン酸カルシウムのC.P.グレードの18500倍の電子顕微鏡写真であり、これは、極めて大きい粒子径を持つため、上記の処理では分散剤としての使用に適した粒子径に小さくすることができない。」(要部訳3頁7行ないし14行)と記載されている。また、12欄73行〜13欄行には、「一般的に重合物のビーズサイズは、分散剤と増量剤の適切な比率を選択することにより、広い範囲で調整されることがわかる。」(要部訳4頁下から5〜4行)と記載されている。
(3)判断
(i)本件発明1について
本件発明1と甲第1-2号証に記載の発明とを対比検討する。
甲第1号証には、CaO/P2O5重量比が少なくとも1.3以上で、主として粒子径が0.2〜0.005μmであるハイドロオキシアパタイトを懸濁重合用安定剤に用いることが記載されている。しかしながら、前記懸濁重合用安定剤に用いられるハイドロオキシアパタイトの粒子径は主として0.2〜0.005μmであるものを用いるというだけで、その粒度分布については何ら記載がない。
甲第2号証には、甲第1号証とほぼ同等の記載がされており、さらに、CaO/P2O5重量比が少なくとも1.3以上で、主として粒径が0.2〜0.005μmであるハイドロオキシアパタイトから成る懸濁液全体の0.0005〜0.05重量%の範囲のアニオン界面活性剤を有する懸濁重合用安定剤について記載されているが、前記懸濁重合用安定剤に用いられるハイドロオキシアパタイトは粒子径が主として0.2〜0.005μmであるものを用いるというだけで、その粒度分布については何ら記載がない。
これに対し、本件発明は、CaO/P2O5が一定値以上のスラリー中に含まれるハイドロオキシアパタイト粒子の性状が特定の微細度と粒度分布を有すると凝集化が効果的に抑制され、重合粒子の均一性が有意に向上することを解明し、前記構成を採用することにより明細書記載の「ハイドロオキシアパタイトの製造工程から得られるスラリーを直接用いて沈降や凝集がなく、重合に際して常に均一でシャープな粒度分布を有するポリマーを生成することができる高性能のアパタイト系懸濁重合安定剤を提供できる」という効果を奏するものである。そうすると、前記甲第1-2号証には、ハイドロオキシアパタイトの粒子径が主として0.2〜0.005μmであるものを用いることは示されているものの、ハイドロオキシアパタイトの性状が特定の微細度と粒度分布を有するハイドロオキシアパタイトを用いると、重合に際して常に均一でシャープな粒度分布を有するポリマーを生成することができることについての記載はないし、示唆もされておらず、またハイドロオキシアパタイトの性状が特定の微細度と粒度分布を有するハイドロオキシアパタイトを用いると、凝集化が効果的に抑制できることも記載されていない。
そして、本件発明1は、請求項1記載の構成を採用することにより、明細書記載の「重合に際して常に均一でシャープな粒度分布を有するポリマーを生成することができる高性能のアパタイト系懸濁重合安定剤を提供できる」という格別の効果を奏するものであるから、本件発明1の構成を採用して懸濁重合用安定剤とすることは当業者が容易に予測できたものとは言えない。
したがって、本件発明1は、前記甲第1-2号証に記載された発明であるとはいえないし、前記甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(ii)本件発明2と甲第1及び第2号証に記載の発明とを対比検討する。
甲第1及び第2号証には、ハイドロオキシアパタイトを懸濁重合用安定剤に用いるに際し、その粒子径を小さくすることにより、改善できることが示され、ボールミル、コロイドミル、ホモジナイザーを使用することが示されている。
しかしながら、甲第1及び第2号証のものは、懸濁重合用安定剤に使用するハイドロオキシアパタイトについて、低性能のリン酸分散剤の分散性についても同様に、ボールミル、コロイドミル、またはホモジナイザーで粒子径を小さくすることにより、しばしば向上することもあるが、これらの処理でも、密度があまりにも高く、かつ硬い凝集を微細な粒子にまで破壊するのは困難であるものも含まれ、例えば、図4に示された第3リン酸カルシウムのC.P.グレードの18500倍の電子顕微鏡写真のものは、極めて大きい粒子径を持つため、上記処理では分散剤としての使用に適した粒子径に小さくすることができないことが示されており、全てのものが、分散剤としての使用に適するというものではない。しかも、甲第1及び第2号証に示された懸濁重合用安定剤のハイドロオキシアパタイトについては、ハイドロキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに強力剪断分散処理を施すことによって得るものではない。つまり、生成したハイドロキシアパタイトのスラリーをそのまま強力剪断分散処理に付することにより得ているものではない。
これに対し、本件発明2は、リン酸と石灰乳の重量比CaO/P2O5が少なくとも1.30の割合でハイドロオキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに強力剪断分散処理を施すことにより懸濁重合用安定剤を製造する方法であって、前記甲第1及び第2号証には記載も示唆もないところである。そして、本件発明2は前記記載の構成を採用することにより、明細書記載の「重合に際して常に均一でシャープな粒度分布を有するポリマーを生成することができる高性能のアパタイト系懸濁重合安定剤を提供できる」という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、前記甲第1及び第2号証に記載された発明であるとはいえないし、前記甲第1及び第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張及び証拠方法によっては請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
懸濁重合用安定剤及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 CaO/P2O5の重量比が少なくとも1.30のハイドロオキシアパタイトのスラリーであって、分散するハイドロオキシアパタイト粒子のコールターカウンターで測定した平均粒子径が0.54〜1μm、粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、かつ4μm以上が5%を越えない粒度分布を有することを特徴とする懸濁重合用安定剤。
【請求項2】 リン酸と石灰乳の重量比CaO/P2O5が少なくとも1.30の割合でハイドロオキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに強力剪断分散処理を施すことを特徴とする懸濁重合用安定剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、懸濁重合法によりビニル系ポリマーを製造する際に用いるハイドロオキシアパタイト系の懸濁重合用安定剤とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
球状のポリマーを製造する方法として、懸濁重合法が知られている。この懸濁重合法は、得られるポリマーが数珠玉状または真珠状球状体となるため、別名、“ビーズ重合”または“パール重合”と称されており、大型設備での熱除去が容易で高性能の重合物が得られるばかりでなく、多品種の生産に適しているため、特にスチレンまたはこれと共重合可能なビニル系モノマーの懸濁重合に有用されている。
【0003】
一般に、懸濁重合はモノマー、分散剤または懸濁安定剤および重合開始剤を水のようなモノマー不溶な分散媒の存在下で、強く攪拌させてモノマー粒子と分散させておこなわれる。したがって、重合は分散した個々のモノマー粒子の中で進行し、その形態のポリマーが生成するので、分散剤または安定剤の性能が重合操作ならびに得られるポリマーの品質に強く影響する。
【0004】
従来、懸濁重合用安定剤としては、ポリビニルアルコール、CMCなどの水溶性高分子系のものと、塩基性リン酸塩とくにハイドロオキシアパタイトで代表される無機質微粒子が知られており、それぞれ目的に応じて使い分けられている。このうち、ハイドロオキシアパタイト系の懸濁重合剤については、例えば特公昭29-1298号公報および特公昭60-6490号公報に詳しく開示されている。また、これらの安定剤を使用するに当たって、安定剤としての再現性および信頼性を高めるために、界面活性剤を用いて熱処理する方法(特公昭47-23666号公報)、助剤としてリン酸カリウムを添加する方法(特公昭48-42220号公報)、超音波処理する方法(特公昭47-38631号公報)あるいは沈降半減期が少なくとも15分であるようなアパタイトスラリーを用いるもの(特公昭54-44313号公報)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、懸濁安定化能が高いと言われるハイドロオキシアパタイトであっても、モノマー粒子は個々の反応系として働き、その中でラジカルを形成しながら個々の重合を進行させる関係で、重合反応装置内で均一なポリマー粒子を得るためには安定剤の性能が本質的かつ微妙に影響する。すなわち、アパタイトの品質如何で、ポリマーのビーズが合体して凝塊や餅状形態を形成したり、装置内の壁面ヘスケールとして付着して操業トラブルの発生原因となる。このような現象を防止するために、安定剤の使用量を多くするなどの対策がとられているが、コストの上昇を招くのみならず、ポリマー品質を低下させる。このため、より高性能な懸濁重合用安定剤の開発が要請されている。
【0006】
この点、前述した特公昭54-44313号公報に記載のある懸濁重合用安定剤は、ハイドロオキシアパタイトスラリーの沈降特性が懸濁重合結果に高い相関を与えることに着目し、アパタイトの製造時に直接得られるスラリーを安定剤としているため、スラリーを乾燥粉末化する際に生じる粒子の凝集現象などが避けられる利点がある。しかし、このように反応生成したアパタイトスラリーであっても、信頼性が不十分であって、▲屡▼々、重合反応時における粒子間の付着、凝集や粒子の経時的生長は避けられない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
通常、アパタイトの製造工程から得られるスラリー中の粒子は単独では0.5μm以下の極めて微細な粒径を有しているが、表面エネルギーのために容易に凝集して粒子的な挙動をなし、これが原因で重合物の粒子径を不均一化する結果を招く。したがって、懸濁重合に際して常に均一な重合体粒子を形成し得る性状の安定剤が確保できれば、ポリマー品質を向上させることが可能となる。
【0008】
本発明者等は、アパタイト製造時から直接得られるスラリーを懸濁重合用の安定剤とする場合の粒子性状と凝集化との関係について多角的に研究を重ねたところ、CaO/P2O5が一定値以上のスラリー中に含まれるハイドロオキシアパタイト粒子の性状が特定の微細度と粒度分布を有すると凝集化が効果的に抑制され、重合体粒子の均一性が有意に向上することを解明した。
【0009】
本発明は上記の知見に基づいて開発されたもので、その目的は、常に均一でシャープな粒度分布のポリマー粒子を生成することができる凝集性のないハイドロオキシアパタイト系の懸濁重合用安定剤とその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による懸濁重合用安定剤は、CaO/P2O5の重量比が少なくとも1.30のハイドロオキシアパタイトのスラリーであって、分散するハイドロオキシアパタイト粒子のコールターカウンターで測定した平均粒子径が0.54〜1μm、粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、かつ4μm以上が5%を越えない粒度分布を有することを構成上の特徴とする。
【0011】
なお、前記の構成においてアパタイト粒子の平均粒子径および粒度分布は、コールターカウンターによる粒度分布測定法で測定した値を用いるものとする。
【0012】
本発明において、ハイドロオキシアパタイト(以下「アパタイト」という)のスラリー組成がCaO/P2O5の重量比として少なくとも1.30であることは、安定なアパタイト系スラリーを調製するための前提要件となる。これに加えて、スラリーに分散するアパタイト粒子の平均粒子径が1μm以下であり、粒子含有率の70%が0.65μm以下で、かつ4μm以上が5%を越えない粒度分布を満足する場合に二次的な凝集を生じることがない分散系のスラリーとなる。したがって、CaO/P2O5の重量比が1.30以上であっても、例えば平均粒子径が1μmを越え、4μm以上の粒子が5%を上廻るような粒子性状では凝集や沈降が生じて、懸濁重合時におけるポリマーの粒性状を均一化する機能は発現されなくなる。
【0013】
上記の粒子性状を備える懸濁重合用安定剤を得るための本発明による製造方法は、リン酸と石灰乳の重量比CaO/P2O5が少なくとも1.30の割合でアパタイトを生成し、ついで得られたスラリーに強力剪断分散処理を施すことが構成的な要件となる。
【0014】
アパタイトの生成はリン酸と石灰乳を徐々に反応させる方法によるが、この際CaO/P2O5の重量比を少なくとも1.30の割合に調整して安定なアパタイトスラリーを生成させる。スラリーの濃度は、8〜20重量%の範囲とすることが好適である。
【0015】
ついで、アパタイトスラリーに強力剪断分散処理を施して均質分散相を形成する。この処理工程に用いる装置には、スラリーに対して強力な剪断力を作用し得る機構のものが用いられ、工業的に好適な装置としてはペイント、インキあるいは顔料製造工業などで常用されているホモジナイザー、コロイドミル、クーリングブレンダー等を挙げることができるが、このほか高圧水流を衝突させることにより粒子凝集を破壊する方式の超高圧乳化分散装置も本発明の目的に好ましく使用される。該強力剪断分散処理において、処理後の分散系中に存在するアパタイト粒子が、平均粒子径1μm以下、粒子含有率の70%が0.65μm以下であって、4μm以上が5%を越えない粒子性状となるように条件設定する。
【0016】
ハイドロオキシアパタイトは、合成反応時にはサブミクロン粒子として生成されるが、反応後はその凝集エネルギーのために系が安定するまで粒子が凝集し、1μm以上のものとなる。しかし、この時点で凝集を破壊する本発明の強力剪断分散処理を施すと、その凝集力が弱まり、好ましい粒度分布を回復するのみでなく、容易に上記の粒子性状を安定に保持することが可能となる。
【0017】
上記の工程により製造されたアパタイトスラリーは、従来の懸濁重合操作を変更することなしに重合用安定剤として使用される。懸濁重合の対象となるモノマーとしては、例えば置換または非置換のスチレン、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、ビニルエステル、オレフィン類から選ばれた1種または2種以上の懸濁重合可能なモノマーなどを挙げることができる。懸濁重合用安定剤の使用量は、その物性や懸濁重合の条件により異なるが、多くの場合モノマーに対しアパタイト(固形分換算)が0.1〜1.0重量%、好ましくは0.15〜0.8重量%の少量範囲内で信頼性の高い効果が期待できる。なお、本発明の懸濁重合用安定剤を使用するにあたっては、必要に応じ他の安定剤、例えばポリビニルアルコール、CMC、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダのような界面活性剤、pH調整剤、比重調整剤または粘度調整剤などを適宜に併用しても差支えない。
【0018】
【作用】
本発明に係る懸濁重合用安定剤は、CaO/P2O5の重量比が少なくとも1.30のアパタイトスラリーからなり、分散するアパタイト粒子の平均粒子径が1μm以下で、粒子含有率の70%が0.65μm以下、4μm以上の粒分が5%を越えない粒度分布を備えているから、その特有の微細な粒度性状が沈降や凝集現象の発生を抑制して、懸濁重合時に生成ポリマーの均一かつシャープな粒度分布を形成するために機能する。
【0019】
また、本発明の製造方法によれば、アパタイト製造工程から得られるスラリーを直接に強力剪断分散処理する簡易な操作を介して、優れた分散性を有し、二次凝集のない高性能の懸濁重合用安定剤を工業的に有利に製造することができる。
【0020】
【実施例】
実施例1〜5、比較例1
消石灰を十分に脱アグロメレートした石灰乳に、電気伝導度で監視しながら攪拌下にリン酸を制御しながら添加して反応させた。リン酸の添加量は、CaO/P2O5の重量比が1.35〜1.40となるように設定して、固形分濃度10重量%のアパタイトスラリーを調製した。得られたスラリーを、強力剪断分散機(特殊機化工業社製“T・KホモミキサーM型”)を用いて所定条件により強力剪断分散処理を施した。
【0021】
実施例6
実施例1と同一のアパタイトスラリーを、超高圧乳化分散機〔特殊機化工業(株)製、“T・KナノマイザーLA-31型”〕を用いて処理圧力1200kg/cm2で強力剪断分散処理を施した。
【0022】
〔粒子性状と分散特性の評価〕
実施例1〜6および比較例1により強力剪断分散処理を施した各アパタイトスラリーの含有粒子性状および分散特性を、強力剪断分散処理の条件と対比させて表1に示した。分散性の評価は下記の測定方法により強力剪断分散処理後の分散系における沈降半減期によった。なお、比較のために強力剪断分散処理しないアパタイトスラリー(比較例1)についても同様に分散特性を評価し、その結果を表1に併載した。
【0023】
粒子性状:
トリポリリン酸ナトリウム0.3gに水を加えて300mlとする。ついで、試料(10wt%スラリー)5mlを添加し、ミキサーで3分間分散する。これをコールターカウンター粒度分布測定機(TA-11型アパチャー径20μm)にて測定する。
表1中、V50は平均粒子径(μm)である。
分散性(沈降半減期):
試料を0.15g/100mlの固型物濃度に希釈したスラリー100mlを沈降管に入れて栓をし、1分間激しく振盪させて静置する。この状態で、常温(25℃)における沈降容積または上澄液が半分の50mlに達する時間(分)を沈降半減期(tl/2)と定義して求める。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果から、本発明により製造された実施例によるアパタイトスラリーはいずれも優れた分散性を示している。特公昭54-44313号公報には、懸濁重合における懸濁安定性はアパタイトスラリーの沈降特性と信頼度の高い寄与率で相関することが示されているが、本発明に係るアパタイトスラリーは、該公報で定義する沈降半減期(tl/2)がいずれも30分以上であり、懸濁重合用安定剤としての性能が十分に保証される。
【0026】
次に、実施例2、5、6および比較例1のアパタイトスラリーを懸濁重合用安定剤として用い、次の操作条件でスチレンモノマーの重合反応をおこなった。500mlの三つ口セパラブルフラスコに6枚羽根のディスクタービン攪拌翼を取り付けた反応容器に、スチレンモノマー150g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.01g、過酸化ベンゾイル4.8g、3.5gの安定剤(アパタイトスラリー10%)および水350gを入れ、200rpmの攪拌速度で攪拌しながら70℃の温度で懸濁重合をおこなった。ついで、常法により重合物を遠心分離処理して回収し、塩酸でアパタイトを溶解したのち、水洗および乾燥してスチレンポリマーを製造した。得られたポリマー粒子の平均粒子径および均一性を測定し、その結果を表2に示した。
【0027】
なお、ポリマー粒子の粒径分布はふるい分級法により測定した。また、粒径の均一性は次式で算出される値を均一係数として定義し、評価した。
UT=U90/40+U60/10
上式において、U90/40は90%径を40%径で除した値、U60/10は60%径を10%径で除した値である。したがって、均一係数が2に近いほど粒径の均一性は良いことを意味する
【0028】
【表2】

【0029】
表2の結果から、本発明の要件を満たす懸濁重合用安定剤を用いて生成したスチレンポリマーは、均一性に優れたビーズであることが認められた。
【0030】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によればハイドロオキシアパタイトの製造工程から得られるスラリーを直接用いて沈降や凝集がなく、重合に際して常に均一でシャープな粒度分布を有するポリマーを生成することができる高性能のアパタイト系懸濁重合安定剤を提供することができる。特に、本発明の懸濁重合用安定剤は置換または非置換のスチレンを単独重合または共重合(例えばABS)する目的に極めて有用である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲の請求項1において
▲1▼「分散するハイドロアパタイト粒子」を、誤記の訂正を目的に「分散するハイドロオキシアパタイト粒子」と訂正し、
▲2▼「平均粒子径が」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「コールターカウンターで測定した平均粒子径が」と訂正し、
▲3▼「1μm以下、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「0.54〜1μm、」と訂正し、
▲4▼「粒子含有率の70%が0.65μm以下で、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、」と訂正し、
(2)特許請求の範囲の請求項2において
「ハイドロオキシアパタイトを生成し、ついで得られるスラリーに」を、特許請求の範囲の減縮を目的に「ハイドロオキシアパタイトのスラリーを生成し、該スラリーに」と訂正する。
(3)明細書段落【0010】中の記載である「分散するハイドロオキシアパタイト粒子の平均粒子径が1μm以下、粒子含有率の70%が0.65μm以下で、」を、明りょうでない記載の釈明を目的に「分散するハイドロオキシアパタイト粒子のコールターカウンターで測定した平均粒子径が0.54〜1μm、粒子含有率の70%が0.46〜0.65μmで、」と訂正する。
(4)明細書段落【0011】中の記載である「コールタンカウンターによる粒度分布測定法で測定した値を用いるものとする。」を、誤記の訂正を目的に「コールターカウンターによる粒度分布測定法で測定した値を用いるものとする。」と訂正する。
異議決定日 1999-12-07 
出願番号 特願平5-269666
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08F)
P 1 651・ 113- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉原 進  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 谷口 浩行
柿沢 紀世雄
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2769773号(P2769773)
権利者 日本化学工業株式会社
発明の名称 懸濁重合用安定剤及びその製造方法  
代理人 福田 保夫  
代理人 赤塚 賢次  
代理人 赤塚 賢次  
代理人 福田 保夫  

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