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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01F
管理番号 1018307
異議申立番号 異議2000-70406  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-12 
確定日 2000-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第2918255号「磁心の製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2918255号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2918255号(平成1年10月9日出願、平成11年4月23日設定登録。)の請求項1及び請求項2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】磁性リボンの表面に絶縁性を有する酸化性無機物質からなる非磁性体の微粉を、単位面積(cm2)当たり10-7cm3〜2×10-4cm3の範囲で付着させ、これを酸化性雰囲気中で焼鈍することにより、前記磁性リボンの積層体間に前記微粉をスペーサとして空気層を形成することを特徴とする磁心の製造方法。
【請求項2】前記微粉の径が1nm〜2μmである請求項1に記載の磁心の製造方法。」

2.申立ての理由の概要
異議申立人高橋喜美夫は、甲第1号証(特開平2-96306号公報)及び甲第2号証(特開昭61-8903号公報)を提出し、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明の特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明の特許は取り消されるべき旨主張している。
さらに、請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、請求項1に係る発明に関して本件特許明細書は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないため、請求項1に係る発明の特許は取り消されるべき旨主張している。

3.甲各号証に記載された発明
上記甲第1号証は、本件特許の出願日前に特許出願され、本件特許の出願日後に出願公開された特願昭63-141845号の公開特許公報であり、次の事項が記載されている。
(i) 「本発明は、適用周波数領域が広く、層間の絶縁性が良好で、占積率が高く、特に高周波における損失が小さい非晶質磁性薄帯巻鉄心に関するものである。」(公報第1頁左下欄第12〜15行目)
(ii)「第4図に従来の非晶質薄帯巻鉄心の概略断面を示す。第4図において、1は非晶質薄帯、2は層間絶縁材である。第4図に示すように、0.1〜数μm程度のアルミナ等の絶縁物の微粉を層間に挟んで巻回する従来の巻鉄心では、凹凸の多い構造となり、占積率は低く、また十分な層間絶縁が得られない。」(公報第1頁右下欄第12〜18行目)
(iii)「第1図は本発明の非晶質磁性薄帯巻鉄心の概略断面図であって、3は非晶質薄帯、4は絶縁層である。第1図に示すように、本発明の鉄心は、薄帯表面の少なくとも一方に絶縁層4を有している。非晶質磁性薄帯表面上へ絶縁層を形成するには、乾式めっき法によるSiO2、Al2O3、SiN、SiCの皮膜を形成する方法によるか、または絶縁塗膜形成等による。この表面に絶縁層を有した非晶質磁性薄帯を巻回することにより、第1図に示すように、層間短絡を起こすことなく巻鉄心が形成される」(公報第2頁右上欄第3〜13行目)
(iv)「実施例2.
幅5mm、厚さ8μm、長さ10cmのCO基非晶質薄帯の全面に市販の電着絶縁塗膜を0.1μm成膜し180℃で2時間硬化した後、直径10mmの磁器ボビンに巻回した。この試料を結晶化温度の直下で30分保持し、部分結晶化を行った後、磁路と直角方向に磁界をかけながらキュリー温度以下の温度で等温時効を3時間行った後、室温まで冷却した。」(公報第2頁左下欄第17行〜右下欄第4行目)
また、甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(i)「第1発明;積みあるいは巻きトランス用の鉄心材料として、使用する非晶質合金薄帯の表面に、有機還元剤を含むクロム酸塩系の絶縁被膜を施すことを特徴とする非晶質合金薄帯の特性改善方法。・・・実施に当たっては、絶縁被膜の平均膜厚を0.05ないし0.5μmとすること、クロム酸塩系絶縁被膜の焼付けを200℃ないし400℃において、10秒ないし120秒間に行うこと、そして非晶質合金薄帯の化学組成が、Fe74-82,B8-15,Si8-15,C0-8 であることが好適である。」(公報第2頁右上欄第9行〜同頁左下欄第3行目)
(ii)「第1発明に従い、
重クロム酸マグネシウム 100重量部
エチレングリコール 30重量部
の水溶液をロールコータで非晶質合金リボンに施し350℃で60秒間焼付けた。
塗布量は、平均膜厚が0.1μmになるよう塗布液の濃度を調整した。
無処理リボンの占積率は81.3%、被膜付きリボンでは81.2%であり、絶縁被膜による占積率の低下はほとんどなく、また、被膜焼付けの加熱によって非晶質合金リボンの脆化することはなかった。 この絶縁被膜を施したリボンを直径6cmのトロイダルコアとして、200A/mの磁場下で370℃1時間の焼鈍を行いそのまま冷却した。」(公報第2頁右下欄第18行〜第3頁第12行目)
(iii)「実施例1
巾2cm、板厚28μmのFe78B10Si12非晶質合金リボンに重クロム酸マグネシウム100重量部、エチレングリコール40重量部を含む水溶液を塗布した後、300℃で90秒間焼付け、0.05μm厚の絶縁被膜を施した。占積率は80.8%であり、磁場中焼鈍後の鉄損W13/50は0.18W/kgであった。」(公報第3頁右下欄第9〜16行目)

4.対比・判断
〔4-1〕第29条の2違反について
(4-1-1) 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲第1号証に記載されたものとを対比する。甲第1号証における「非晶質薄帯」は請求項1に係る発明における「磁性リボン」に相当する。甲第1号証の従来技術における「0.1〜数μm程度のアルミナ等の絶縁物の微粉」は請求項1に係る発明における「無機物質からなる非磁性体の微粉」に相当する。甲第1号証の従来技術を示す第4図には非晶質薄帯1の層間に微粉2と共に空気層が存在することが示されており、これは請求項1に係る発明における「磁性リボンの積層体間に前記微粉をスペーサとして空気層を形成すること」に相当する。また、甲第1号証の実施例においては「CO基非晶質薄帯の全面に市販の電着絶縁塗膜を0.1μm成膜し180℃で2時間硬化した後、直径10mmの磁器ボビンに巻回した。この試料を結晶化温度の直下で30分保持し、部分結晶化を行った後、磁路と直角方向に磁界をかけながらキュリー温度以下の温度で等温時効を3時間」行うものであり、これは甲第1号証の第4図の従来技術においても熱処理つまり焼鈍処理が行われることを示しており、非晶質磁性薄帯に対して焼鈍を施すこと、焼鈍を大気中つまり酸化性雰囲気中で行うことも周知の技術である。
そうすると、請求項1に係る発明と甲第1号証に記載されたものとは、磁性リボンの表面に絶縁性を有する酸化性無機物質からなる非磁性体の微粉を付着させ、これを酸化性雰囲気中で焼鈍することにより、前記磁性リボンの積層体間に前記微粉をスペーサとして空気層を形成することを特徴とする磁心の製造方法である点では一致するものの、微粉の付着量に関し、甲第1号証に記載のものにおいては、単に0.1〜数μm程度のアルミナ等の絶縁物の微粉を付着させるものに過ぎず、請求項1に係る発明におけるように単位面積(cm2)当たり10-7cm3〜2×10-4cm3の体積範囲で付着させるものではない。そして、この点を課題解決のための具体化手段における微差とすることもできない。
したがって、請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
なお、上記微粉の付着量に関し、異議申立人は、請求項1に係る発明は、磁性リボンの積層体間に微粉が完全に充填された場合、すなわち微粉の付着体積量が磁性リボンの間隙を100%埋める状態を満足している場合における絶縁層の厚さを含むものであり、空気層が存在しない場合まで含むものであるから、甲第1号証における0.1〜数μm程度のアルミナ等の絶縁物の微粉は請求項1に係る発明の付着量の範囲に含まれる旨主張する。しかし、請求項1に係る発明は、磁性リボンの積層体間に空気層を形成することを前提として絶縁性を有する非磁性体の微粉をスペーサとして所定の体積範囲で介在させるものであるから、この点に関する異議申立人の主張は採用できない。
(4-1-2) 請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は請求項1に係る発明を前提とするものであるから、上記(4-1-1)で示したように請求項1に係る発明が甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることができない以上、請求項2に係る発明を甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
〔4-2〕第29条第2項違反について
(4-2-1) 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲第2号証に記載されたものとを対比する。甲第2号証における「非晶質合金薄帯」は請求項2に係る発明における「磁性リボン」に相当する。甲第2号証における「絶縁被膜」は請求項2に係る発明における「酸化性無機物質からなる非磁性体の微粉」と絶縁物質である点で共通する。そうすると、請求項1に係る発明と甲第2号証に記載されたものとは、磁性リボンの表面に絶縁物質を付着させ、これを焼鈍することにより、前記磁性リボンの積層体間に前記絶縁物をスペーサとして形成する磁心の製造方法である点では一致するものの、磁性リボンの表面に付着させる絶縁物に関し、甲第2号証に記載のものは平均膜厚が0.05ないし0.5μmの絶縁被膜であり、これは請求項1に係る発明における単位面積(cm2)当たり10-7cm3〜2×10-4cm3の体積範囲で付着させた酸化性無機物質からなる非磁性体の微粉とは明らかに異なるものである。しかも、甲第2号証には、請求項1に係る発明のように焼鈍することにより磁性リボンの積層体間に空気層を形成することは何ら示されていない。そして、請求項1に係る発明は、非磁性体の微粉を単位面積(cm2)当たり10-7cm3〜2×10-4cm3の範囲で付着させ、これを酸化性雰囲気中で焼鈍し、前記磁性リボンの積層体間に前記微粉をスペーサとして空気層を形成することにより明細書に記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-2-2) 請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は請求項1に係る発明を前提とするものであるから、上記(4-2-1)で示したように請求項1に係る発明が甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、請求項2に係る発明を甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
〔4-3〕第36条違反について
異議申立人は、請求項1には、「絶縁性を有する酸化性無機物質からなる非磁性体の微粉を、単位面積(cm2)当たり10-7cm3〜2×10-4cm3の範囲で付着させ」、「磁性リボンの積層体間に前記微粉をスペーサとして空気層を形成すること」が記載されているだけで、具体的な空気層の量については何ら規定されておらず、発明の詳細な説明にも何ら記載されていないので、空気層量がほぼ零(空気層が存在していない)の場合も含むことになる旨主張している。しかし、請求項1に係る発明は、磁性リボンの積層体間に空気層を形成することを前提として絶縁性を有する非磁性体の微粉をスペーサとして所定の体積範囲で介在させるものであることは明らかであるから、本件明細書の記載に不備があるとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-06-08 
出願番号 特願平1-263517
審決分類 P 1 651・ 532- Y (H01F)
P 1 651・ 121- Y (H01F)
P 1 651・ 531- Y (H01F)
P 1 651・ 161- Y (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 友章  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 下野 和行
治田 義孝
登録日 1999-04-23 
登録番号 特許第2918255号(P2918255)
権利者 日本ケミコン株式会社
発明の名称 磁心の製造方法  
代理人 川口 嘉之  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  
代理人 永田 豊  

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