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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1018337
異議申立番号 異議1999-71599  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-26 
確定日 2000-05-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第2817965号「高周波用巻磁心」の請求項1ないし請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2817965号の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2817965号の請求項1及び請求項2に係る発明についての出願は、平成元年10月9日に特許出願され、平成10年8月21日にその設定登録がなされ、その後、日立金属株式会社、ティーディーケイ株式会社及び高橋喜美夫より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月14日に訂正請求がなされた。その後、この訂正請求について、訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もなかったものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正明細書の請求項1に係る発明
平成11年9月14日付けで提出された訂正明細書の請求項1及び請求項2に係る発明は、それぞれその請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。
(請求項1)「冷却ロール上に合金融液を供給して急冷固化させる片ロール法により製造されることにより、冷却ロールに接触して急冷固化したロール面と、その反対側の自由面とを有するアモルファス合金リボンを、そのロール面側を外側にして巻回した後に、不活性環境下300〜600℃で2〜4時間熱処理して得られる、超10kHzで用いる高周波用巻磁心。」
(請求項2)「アモルファス合金が、実質的に次の組成式(A)、
(Fe(1-x-y-z)NixCoyMz)(1-a-b-c)SiaBbCc
〔上記式(A)中、
MはMo,Nb,Crでなる群から選択される1種のみ又は2種以上の元素の組み合せを表し、
各元素の組成比は、
0≦x≦0.56、
0≦y≦0.45、
0≦z≦0.11、
0.7≦(1-a-b-c)≦0.9
0≦a≦0.15、
0.05≦b≦0.25、
0≦c≦0.05
である数値で表される〕
で示される非晶質磁性合金である請求項1記載の超10kHz用巻磁心。」

2-2.引用刊行物記載の発明
訂正明細書の請求項1及び請求項2に係る発明に対し、当審が訂正拒絶理由通知において示した刊行物1(特開昭60-121706号公報)及び刊行物2(「METGLAS磁性材料(技術資料)」 昭和58年1月(日本非晶質金属株式会社))にはそれぞれ以下の点が記載されている。
刊行物1
・「液体急冷法によりアモルファス合金薄帯を製造する際に、冷却ロールと接触し凝固した面を外側にしてアモルファス合金を巻いたことを特徴とする巻磁心。」(特許請求の範囲第1項)
・「組成式 (Co1-x-y-zFexNiyMnz)100-a-b-cMaSibBc で表わされ、ここでMはCr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hfの各元素の少なくとも1つで、次の関係を有するアモルファス合金を用いたことを特徴とする特許請求の範囲第1項並びに第2項記載の巻磁心。0≦a≦6、8≦b≦18、7≦c≦18、18≦b+c≦30、0≦x≦0.1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.13」(特許請求の範囲第3項)
・「第1表は、冷却ロールと接触し凝固した面を内側にしてアモルファス合金を巻いた巻磁心と、本発明による冷却ロールと接触し凝固した面を外側にしてアモルファス合金を巻いた巻磁心の周波数20kHz、磁束密度の波高値2KGの鉄損W2/20K、周波数100kHz、磁束密度の波高値2KGの鉄損W2/100Kと周波数1kHz、励磁磁場5mOeの場合の透磁率μeikを比較した表である。表から明らかなごとく、本発明による巻磁心の高周波の鉄損は小さく、かつ透磁率も高く、制御用巻磁心、トランス等の高周波巻磁心として好適であることがわかる。」(第2頁右下欄第1行〜第3頁左下欄第4行、当該第1表の「本発明例」(第3頁左上欄)のNo.1とNo.2、No.3とNo.4、No.5とNo.6は、それぞれ同じ組成、板厚でいずれもロール面を外側とした巻磁心について、熱処理のあり、なしで特性を比較したものであり、いずれの組でも熱処理ありの場合が熱処理なしの場合よりも、透磁率が高く、かつ鉄損が小さくなっていることが認められる。)
刊行物2
・「METGLAS 2605SC」は、原子%でFe81B13.5Si3.5C2なる組成を有し、その適用周波数範囲がDC-100kHzであること、また、「METGLAS2605S-3」は、原子%でFe79B16Si5なる組成を有し、その適用周波数範囲が1-100kHzであること、(第3頁の「製品紹介」および第5〜6頁の「METGLASの特性一覧」の「1.磁気的性質(磁界中焼鈍品)」の欄)
・「トロイダルが最も磁気的に効果のある形状であり、最も施工しやすい方法でもあります。コアは応力が極力小さくなるように引張り力を調整しながら所定のマンドレルに巻くことが必要です。」(第7頁の「METGLAS取扱い」の「1.トロイダルコア」の欄)
・「焼鈍はMETGLASの特性を改善します。そして最適な特性は一般に磁場焼鈍(磁界中焼鈍)することで達成できます。」(第8頁の「熱処理」の欄)
・「1.コアの準備(トロイダルコア) コアを過度の応力がかからないように注意深く巻いて最終の形に成型します。焼鈍中に酸化されるような有機材料の使用は避けて下さい。」(同じく「熱処理」の欄)
・「焼鈍雰囲気は酸化されないよう不活性雰囲気が必要です。」(同じく「熱処理」の欄)
・「コアの焼鈍は成形前ではなく成形後にしなければなりません。」(同じく「熱処理」の欄)
・熱処理条件として、「METGLAS 2605SC」ではDry N2の雰囲気で365℃×2Hが、「METGLAS2605S-3」ではDry N2の雰囲気で435℃×3.5Hが例示されていること、(同じく「熱処理」の欄の表)
・「METGLAS 2605SC」及び「METGLAS2605S-3」の100kHzまでの鉄損及び透磁率のデータ(第11頁図1、第12頁図3、第17図頁14、第18頁図16)

2-3.対比・判断
2-3-1.訂正明細書の請求項2に係る発明について
刊行物1には、液体急冷法によりアモルファス合金薄帯を製造する際に、冷却ロールと接触し凝固した面を外側にしてアモルファス合金を巻いた巻磁心が記載され、また、その実施例には、熱処理ありとした方が磁気特性が改善されることが示されている。
訂正明細書の請求項2に係る発明と刊行物1に記載された事項とを対比すると、
a.訂正明細書の請求項2に係る発明における組成式に示される非晶質磁性合金と、刊行物1で具体的に開示されている非晶質磁性合金の組成式とでは一応の差異が認められる、
b.訂正明細書の請求項2に係る発明においては、巻回した後に、不活性環境下300〜600℃で2〜4時間熱処理するのに対し、刊行物1には熱処理についての記載はあるがその処理条件については記載がない、
c.訂正明細書の請求項2に係る発明は超10kHzで用いるものであるのに対し、刊行物1には、当該巻磁心が超10kHzで用いる高周波用巻磁心であることの直接的な記載はない、
点で相違する。
そこで、以下これらの点について検討する。
・相違点a.について
刊行物2に記載されている「METGLAS 2605SC」(組成式Fe81B13.5Si3.5C2)は、本件特許明細書に記載された実施例3と同じ組成であり、同じく「METGLAS 2605S-3」(組成式Fe79B16Si5)は、訂正明細書の請求項2に記載された組成式を満たすものである。そして、刊行物2には、これらの材料を巻磁心として使用することについても記載されているから、刊行物1の記載にしたがって、急冷固化時のロール面を外側にして巻回して巻磁心を構成するにあたり、刊行物1に具体的に記載された材料に代えて、刊行物2に記載されたこれらの材料を採用することは当業者の容易に想到し得るところと認められる。
・相違点b.について
刊行物1には熱処理条件の記載はないものの、熱処理により磁気特性が改善されることが示されており、また、前記「相違点a.について」で刊行物1に具体的に記載された材料に代えて採用することが容易であると指摘した刊行物2に記載された材料は、巻回した後、訂正明細書の請求項2に係る発明におけると同等の熱処理条件で熱処置することにより磁気特性が改善されることが記載されているから、刊行物2に記載された材料を、刊行物1の記載にしたがって、急冷固化時のロール面を外側にして巻回した後さらに熱処理を行なって磁気特性を改善しようとするにあたり、刊行物2に記載された熱処理条件を採用することに格別の困難性は見出し得ない。
・相違点c.について
刊行物1には超10kHzの領域に属する20kHzと100kHzにおける鉄損のデータが記載されており、また、前記「相違点a.について」で刊行物1に具体的に記載された材料に代えて採用することが容易であると指摘した刊行物2に記載された材料は、超10kHzでの使用を予定している材料であることが刊行物2に記載されているから、刊行物2に記載された材料を、刊行物1に記載された巻き方で巻回した後に、刊行物2に記載された熱処理条件で熱処理した巻磁心も超10kHzで用い得る磁気特性を備えていると認められる。
したがって、訂正明細書の請求項2に係る発明は、前記刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者の容易に発明をすることができたものと認められる。
2-3-2.訂正明細書の請求項1に係る発明について
訂正明細書の請求項1に係る発明は、訂正明細書の請求項2に係る発明の組成限定を除いた構成であって、訂正明細書の請求項2に係る発明について示したと同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者の容易に発明をすることができたものと認められる。

2-4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
本件請求項1及び請求項2に係る発明は、それぞれ特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。
(請求項1)「冷却ロール上に合金融液を供給して急冷固化させる片ロール法により製造されることにより、冷却ロールに接触して急冷固化したロール面と、その反対側の自由面とを有するアモルファス合金リボンを、そのロール面側を外側にして巻回して形成した超10kHzで用いる高周波用巻磁心。」
(請求項2)「アモルファス合金が、実質的に次の組成式(A)、
(Fe(1-x-y-z)NixCoyMz)(1-a-b-c)SiaBbCc
〔上記式(A)中、
MはMo,Nb,Crでなる群から選択される1種のみ又は2種以上の元素の組み合わせを表し、
各元素の組成比は、
0≦x≦0.56
0≦y≦0.45
0≦z≦0.11
0.7≦(1-a-b-c)≦0.9
0≦a≦0.15
0.05≦b≦0.25
0≦c≦0.05
である数値で表される〕
で示される非晶質磁性合金である請求項1記載の超10kHz用巻磁心。」

3-2.特許法第29条第2項違反について
当審が平成11年7月6日付けで通知した取消理由において引用した刊行物1は、上記「2-2.引用刊行物記載の発明」の欄に記載した刊行物であり、上記「2-2.引用刊行物記載の発明」の欄に記載のとおりの発明が記載されている。
本件請求項1及び請求項2に係る発明は、いずれもそれぞれ訂正明細書の請求項1及び請求項2に係る発明の熱処理に係る構成を除いた構成であって、「2-3.対比・判断」の欄で訂正明細書の請求項1及び請求項2に係る発明について示したと同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者の容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1及び請求項2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3-3.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1及び請求項2に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-03-22 
出願番号 特願平1-263515
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田中 友章  
特許庁審判長 下野 和行
特許庁審判官 今井 義男
治田 義孝
登録日 1998-08-21 
登録番号 特許第2817965号(P2817965)
権利者 日本ケミコン株式会社
発明の名称 高周波用巻磁心  
代理人 石井 陽一  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  

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