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審決分類 審判 一部無効 発明同一 訂正を認める。無効としない B29B
管理番号 1019712
審判番号 審判1998-35369  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-10 
確定日 1999-12-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2646027号発明「成形材料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第2646027号発明「成形材料」は、昭和63年9月20日にした特願昭63-237261号の優先権を主張して平成1年8月21日に特許出願され、平成9年5月9日に特許権の設定の登録がなされたものである。
これに対して、請求人は、特許無効の審判を請求し、被請求人により、その答弁書提出の指定期間内である平成10年11月24日に訂正請求がなされ、その後請求人から弁駁書の提出がなされ、その後請求人により審尋に対する回答書が提出されたものである。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成10年11月24日付けの訂正請求書の内容は、特許明細書の
▲1▼特許請求の範囲の請求項1の「成形材料。」を「成形材料(圧縮成形材料を除く)。」と訂正し、
▲2▼明細書の6頁2行の「成形材料」を「成形材料(圧縮成形材料を除く)」に訂正し、
▲3▼同明細書の22頁6行の「成形材料」を「成形材料(圧縮成形材料を除く)」に訂正する。
2.訂正請求に対する請求人の主張の概要
請求人は、
(1)訂正請求書によって明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「成形材料」を「成形材料(圧縮成形材料を除く)」に訂正したが、発明の詳細な説明については2箇所に同趣旨の訂正をするのみで、他の多数の箇所に本件発明に係る成形材料を圧縮成型に適用できる旨の記載があるから、上記▲2▼及び▲3▼の訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴い発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正とは認められず、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでない、
(2)訂正請求書によって訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「成形材料(圧縮成形材料を除く)」により、甲第1号証記載の「スタンピング成形法やプレスフロー成型法」に係る発明のうち、圧縮成型法に相当するスタンピング成形に係る発明は除かれたものの、プレスフロー成形法を除いていないから、本件請求項1に係る発明は依然として当該成形法を包含し、本件特許は特許法第29条の2の規定に違反するものであるし、また請求項2〜8及び10に係る発明の特許はいずれも請求項1を引用する発明で訂正はなされていないから、いずれも特許法第29条の2の規定に違反するものであり、上記訂正後の請求項1〜8及び10記載の発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないと主張し、上記訂正は特許法第134条第2項及び第5項の規定により準用する特許法第126条第4項の規定に違反しているので認められるべきでない、
としている。
3.訂正の適否
(1)上記▲1▼の訂正は、本件訂正前の請求項1の発明に係る「成形材料」から特許法第29条の2に係る先行技術を除外することを目的として「圧縮成形材料を除く」ものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当したものであって、かつ新規事項の追加には当たらないものであり、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてされたものと認められ、さらに実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)▲2▼及び▲3▼の訂正について
上記訂正はいずれも、特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の記載を当該訂正に整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当するものと認められる。なお、発明の詳細な説明には、他に圧縮成形材料に関する記載はあるものの、本件特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるから、本件発明は圧縮成形材料を含まないことは明らかであり、これらの記載が残っていても、本件発明の解釈に重大な影響を及ぼすものでない。
また、当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、かつこの訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
(3)次に、訂正後の特許請求の範囲に係る発明(以下「本件発明」という。)が、独立して特許を受けることができるものであるかどうか検討する。
(本件発明)
本件訂正後の発明の要旨は、訂正明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲に記載されたとおりの
「1.単繊維(フィラメント)から構成される繊維状補強材が熱可塑性樹脂によって被覆され、且つ該熱可塑性樹脂が繊維状補強材中に含浸されている構成の板状体を得、前記繊維状補強材が充填されている該板状体を切断して得られる成形材料において、
(i)該成形材料に対する繊維状補強材の充填率が50重量%以上90重量%以下、
(ii)該繊維状補強材の長さが1〜30mm、
(iii)該板状体の少なくとも一辺が1mm以下、
(iv)該成形材料の比表面積が20cm2/g以上であることを特徴とする成形材料(圧縮成形材料を除く)。
2.繊維状補強材がガラス繊維であることを特徴とする請求項1記載の成形材料。
3.繊維状補強材が炭素繊維であることを特徴とする請求項1記載の成形材料。
4.繊維状補強材の充填率が60重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の成形材料。
5.繊維状補強材の充填率が70重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項4記載の成形材料。
6.板状体の少なくとも一辺が0.5mm未満であることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の成形材料。
7.成形材料の比表面積が30cm2/g以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の成形材料。
8.成形材料の比表面積が40cm2/g以上であることを特徴とする請求項7記載の成形材料。
9.成形材料が射出成形に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の成形材料。
10.成形材料が押出成形に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の成形材料。」
にあるものと認められる。
(判断)
請求人は訂正後の請求項1〜8及び10に係る発明は、依然として甲第1号証記載の「プレスフロー成形材料」に係る発明を包含するものであると主張する。しかしながら、プレスフロー成形法に関し、請求人の提出した平成11年8月5日付けの審判事件回答書によれば、該成形法は当業界において周知の技術でないし、また他にそれを記載する文献も見出せない、としている。
また、甲第1号証には、「この発明は、スタンピング成形法やプレスフロー成形法によって、いろいろな熱可塑性樹脂と補強繊維との複合材料[以下、FRTP(Fiber Reinforced Thermoplastic-s)という)からなる製品(以下、FRTP製品という)を成形するのに適した、熱可塑性樹脂と補強繊維とを複合してなる板(以下、FRTP板という)に関する。」(1頁右欄2〜8行)、「しかしながら、プレスフロー成形等の方法で熱賦型する場合には、補強繊維が短いほど流動性は良く、より複雑な形状のFRTP製品でも容易に得られるようになる。」(4頁左下欄7〜10行)と記載されているのみで、プレスフロー成形法がどのような成形法かは説明されておらず、さらに該成形法についての実施例の記載もない。
してみると、甲第1号証には、プレスフロー成形用成形材料について、具体的な技術的思想が開示されているとは認められないから、本件訂正後の請求項1〜8及び10に係る発明が甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
(むすび)
上記の通りであるから、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する平成6年法律第116号によりなお従前の例によるとされる特許法第134条第2項、及び同条第5項で準用する特許法第126条第2〜4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
III.特許無効の請求の理由についての判断
1.請求人の主張の概要
請求人は証拠方法として、甲第1〜9号証を提出して、
理由1;本件特許は、原出願の優先権を主張した特許出願に係るものであるが、原出願に係る発明はその対象を射出成形材料とするものであり、明細書及び図面の記載はすべて射出成形材料に関するものであって、本件特許の出願に当たり、発明の対象を射出成形材料の上位概念である成形材料とした。したがって、本件特許の優先権の利益を享受できるのは、射出成形材料に係る発明のみであり、他の成形材料に係る請求項1〜8及び10に記載された発明については、原出願の出願後本件特許の出願前の出願である特願昭63-296996号(甲第1号証)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるといえるものであって、かつ甲第1号証に係る発明者は本件発明の発明者と同一でなく、さらに本件特許の出願時において甲第1号証に係る出願の出願人と本件特許の出願人ととが同一でもない。
したがって、本件発明に係る特許は特許法第29の2の規定に違反してなされたものであるから、本件特許を取り消すべきであると主張している。
2.証拠方法
請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証;特開昭2-143810号公報(特願昭63-296996号の公開公報)
甲第2号証;特願昭63-296996号の願書、明細書及び図面
甲第3号証;日本電気硝子株式会社の”Eガラスファイバー”パンフレット
甲第4号証;「エンジニアリングプラスチックス」(’83年版)化学工業日報社発行,p.50〜53,196〜199(昭和58年)
甲第5号証;東レ株式会社の炭素繊維″トレカ”(TORAYKA)パンフレット
甲第6号証;日東紡績株式会社の″T-グラス″(T-glass)パンフレット
甲第7号証;「プラッスチック読本」(株)プラスチックス・エージ発行、p.193〜197,202〜216(1954年10月1日発行、1989年5月10日改訂第16版発行)
甲第8号証;「精密機器用プラスチック複合材料」日刊工業新聞社発行、 p.72,73(昭和59年)
甲第9号証;特開昭60-36136号公報
他に、記録顕出の申出を、特願昭63-237261号及び特願昭1-214372号に関する各出願及び審査記録、特開平2-143810号の出願記録(願書に最初に添付した明細書)並び特許第2646027号に関する特許異議申立記録及び審判記録について、行っている。
3.被請求人の主張
被請求人は、結論と同旨の審決を求め、請求人の主張する理由及び証拠方法のいずれによっても本件特許を無効にすることができない旨答弁する。
そして、被請求人が提出した証拠方法及び参考資料は次のとおりである。
乙第1号証;平成5年9月24日審査基準室発行「審査ガイドライン(案)」
乙第2号証;昭和62年(行ケ)第49号審決取消
4.判断
本件特許の請求項1〜10に係る発明は、平成10年11月24日付けの訂正請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された上記のとおりのものと認める。
そして、上記した無効理由については、本件訂正後の特許の請求項1〜8及び10は上記II.3(3)の(判断)に記載したとおりの理由で甲第1号証に記載された発明と同一であるといえない。
また、甲第2〜9号証は本件請求項1〜8及び10に係る発明が甲第1号証に記載された発明と同一であることを補足するために提出された証拠であるが、いずれの甲号証にもプレスフロ-に関する記載はなく、これらをみても本件訂正後の特許の請求項1〜8及び10に係る発明が甲第1号証に係る先願発明と同一であるとすることはできない。
5.以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示する証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
成形材料
(57)【特許請求の範囲】
1.単繊維(フィラメント)から構成される繊維状補強材が熱可塑性樹脂によって被覆され、且つ該熱可塑性樹脂が繊維状補強材中に含浸されている構成の板状体を得、前記繊維状補強材が充填されている該板状体を切断して得られる成形材料において、
(i)該成形材料に対する繊維状補強材の充填率が50重量%以上90重量%以下、
(ii)該繊維状補強材の長さが1〜30mm、
(iii)該板状体の少なくとも一辺が1mm以下、
(iv)該成形材料の比表面積が20cm2/g以上
であることを特徴とする成形材料(圧縮形成材料を除く。)。
2.繊維状補強材がガラス繊維であることを特徴とする請求項1記載の成形材料。
3.繊維状補強材が炭素繊維であることを特徴とする請求項1記載の成形材料。
4.繊維状補強材の充填率が60重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の成形材料。
5.繊維状補強材の充填率が70重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項4記載の成形材料。
6.板状体の少なくとも一辺が0.5mm未満であることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の成形材料。
7.成形材料の比表面積が30cm2/g以上であることを特徴とする請求項1,2,3,4,5又は6記載の成形材料。
8.成形材料の比表面積が40cm2/g以上であることを特徴とする請求項7記載の成形材料。
9.成形材料が射出成形に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の成形材料。
10.成形材料が押出成形に用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の成形材料。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は成形材料に関し、詳しくは射出成形、押出成形、圧縮成形等に使用され、成形時の分散性が良好であって、繊維の破断が少なく、機械強度が大幅に向上した成形品を提供し得る成形材料に関する。
〔従来の技術〕
従来、繊維によって強化された熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、熱可塑性樹脂に例えば3mm程度の長さのガラス繊維をドライブレンドしてドライブレンド物を作り、これを押出機で混練・造粒等してペレットにする方法が知られている。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、このような従来の製法では、ドライブレンド物を押出機で混練する方法であるため、ガラス繊維がブリッジング、マッティング化する傾向がある。このため繊維の分散性が不十分となり、又繊維の折損が起り、約0.3mm長に中央部をもつ正規分布した長さで不規則に配列する等、補強効果が減少するという課題があった。
また従来、ガラス繊維の充填率は一般に30重量%が上限とされていたが、近年では機械的強度の向上等を目的として、ガラス繊維の充填率の高い成形材料の開発が試みられている。しかし混練時の繊維の分散が困難であるため、ガラス繊維の充填率が30重量%以上の高充填率の成形材料を得ることができないという課題があった。
一方、前記課題を解決する為、ガラス繊維等を熱可塑性樹脂で被覆する方法が提案されている。例えば、特公昭49-41105号には以下の方法が記載されている。即ち、ガラス繊維等の繊維束をダイス穿孔内に通す一方、押出機で溶融した熱可塑性樹脂を上記ダイス穿孔内に導き前記繊維束を被覆する。次いで冷却後、一定長に切断して円筒状の成形材料を得る方法である。しかしながら、このようにして得た成形材料も、成形前のペレット中の繊維長はペレット長と同じであり、長繊維を保持しているものの、繊維の高充填化に伴い、成形時繊維の分散性不良を起こすという課題があった。また、押出機内の供給ゾーンにおいてバレルとスクリューとの間の剪断により大部分の繊維が破断を生じ、結局得られる成形品中の平均繊維長は約0.5mmとなり繊維の補強効果が十分発揮できない課題があった。
そこで、本発明の目的は、繊維補強材を高濃度に充填しているにも拘らず、成形時の繊維分散性が良好であり、繊維の折損や破断が少なく、機械強度、特に衝撃強度が大幅に向上した成形品が得られる成形材料を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、成形時に押出機内で発生する繊維分散不良、あるいは繊維破断の課題は成形材料の比表面積と密接な関係にあり、またこの比表面積を一定以上とすることにより、前記押出機の供給ゾーンにおいて成形材料中の熱可塑性樹脂が短時間で溶融状態となり、このため成形材料中に繊維を高濃度に充填しているにも拘らず前記課題が解消されることを見出した。
即ち、本発明に係る成形材料(圧縮成形材料を除く。)は、単繊維(フィラメント)から構成される繊維状補強材が熱可塑性樹脂によって被覆され、且つ該熱可塑性樹脂が繊維状補強材中に含浸されている構成の板状体を得、前記繊維状補強材が充填されている該板状体を切断して得られる成形材料において、
(i)該成形材料に対する繊維状補強材の充填率が50重量%以上90重量%以下、
(ii)該繊維状補強材の長さが1〜30mm、
(iii)該板状体の少なくとも一辺が1mm以下、
(iv)該成形材料の比表面積が20cm2/g以上
であることを特徴とする。
始めに、本発明の成形材料の一例を第1図に基き説明する。同図において、20は成形材料、21は熱可塑性樹脂、22は単繊維である。
Lは成形材料の長さ、即ち繊維長であり、1.0〜30mmである。1.0mm未満では繊維長が短く十分な補強効果が得られず、逆に30mmを越えるとホッパー内でブリッジ化等を引き起こし成形が困難となるので好ましくない。
次式は比表面積を求める式である。

なお、幅と厚さの内、少なくとも一方を1.0mm以下、好ましくは0.5mm未満とすることは比表面積を大きく設定する上で好ましい。
本発明において、比表面積は20cm2/g以上、好ましくは30cm2/g、より好ましくは40cm2/g以上である。比表面積が20cm2/g未満では射出成形や押出成形等の成形時に、押出機内において成形材料中の熱可塑性樹脂が溶融状態となる迄に長時間を要し、押出機供給ゾーンにおいて、繊維分散不良、繊維破断等の問題が起こり好ましくない。
尚、厚さHに関してはホッパー内分級、取扱い性の面からは0.1mm以上に設定することが好ましい。 本発明に用いる繊維状補強材の種類としては、E-ガラス、S-ガラス等のガラス繊維、ポリアクリルニトリル系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維、デュポン社の「ケプラー」(商標)に代表される芳香族ポリアミド繊維、日本カーボン社の「ニカロン」(商標)等の炭化ケイ素繊維、金属繊維等が挙げられる。これらの繊維状補強材は、単独或いは組合せて用いることができる。
本発明において繊維径は繊維の種類によっても異なるが、例えばガラス繊維の場合、通常5〜25μmであるが、機械特性の面からは細い方が好ましい。また繊維状補強材を表面処理することは熱可塑性樹脂との接着性の面から好ましく、例えばガラス繊維の場合、シラン系、チタネート系カップリング剤で処理することは特に好ましい。
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、用途に応じて選択すればよい。例えば、ポリプロピレン、スチレンアクリロニトリル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・α-メチルスチレン・スチレン共重合体を含む)、ポリフェニレンエーテル(変性ポリフェニレンオキサイドを含む)、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
本発明において成形材料中の繊維状補強材の充填率は、50重量%以上90重量%以下である。50重量%未満では本発明の効果である繊維の高充填化の特徴が発揮できず、また後述するマスターバッチとして用いる場合経済性の面からみても好ましくない。一方90重量%を越えると単繊維の表面を熱可塑性樹脂で十分被覆することができず好ましくない。
本発明に係る成形材料は、単繊維(フィラメント)から構成される繊維状補強材が熱可塑性樹脂によって被覆され、且つ該熱可塑性樹脂が繊維状補強材中に含浸されている構成の板状体を得、前記繊維状補強材が充填されている該板状体を一定長に切断することにより得られる。
本発明においては、前記繊維状補強材の構成単位である単繊維(フィラメント)の90%以上の表面が、前記熱可塑性樹脂で被覆されている成形材料を得ることが好ましい。
本発明において、繊維状補強材中に熱可塑性樹脂を含浸して繊維の構成単位である単繊維(フィラメント)の表面を熱可塑性樹脂で被覆する方法は、特に限定されない。例えば、溶融状態の熱可塑性樹脂を繊維状補強材に含浸させる溶融含浸法、粉末状の熱可塑性樹脂を空気中に浮遊、または水などの液体中に懸濁させた状態で含浸させる流動床法が挙げられる。
溶融含浸法の代表的な例は特開昭61-229534号、同61-229535号、同61-229536号及び特願昭61-216253号に開示されている。
本発明で採用可能な溶融含浸法の一例を第3図に基き説明する。
複数のボビン1から引き出された長繊維のロービング2を、整列器3で一方向に整列させた後、張力調整ロール4,5,6を通過させて繊維シート7とする。なお本発明においては一方向に整列させた繊維シート以外に、多方向連続繊維を用いることもできる。
一方、押出機(図示せず)で加熱溶融した樹脂をダイ8を経由して、加熱ロール9で加熱される下ベルト10の表面に塗布する。上ベルト12は加熱ロール11で加熱される。
次いで、前記シート7は、下ベルト10と上ベルト12の間に挾まれた状態で、含浸ロール13の間を、張力をかけられながら、通過する。
このようにして得られた連続繊維/熱可塑性樹脂の複合体14は、そのまま或いは必要により所望の厚みになるように必要枚数を積層・熱圧した後、所望の幅に繊維と平行にスリッタ17でスリットした後、所望の長さに繊維と直角方向に切断機18で切断することにより、角形状の成形材料20を得ることができる。なお第3図において、15,16は引取用ロールである。
上記積層・熱圧する方法としては、例えば当該複合体14の表面を熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱後積層するか、或いは積層後加熱炉内で当該樹脂の軟化点以上に加熱する。次いで当該複合体14を冷ニップロール間を通過させる等して加圧下に当該樹脂の固化温度以下まで冷却する。
このようにして得られた成形材料は、そのまま、或いは所望の繊維充填率になるように繊維未強化熱可塑性樹脂とドライブレンドすることにより、所謂マスターバッチとして用いることにより、射出成形、押出成形に供せられる。なお当該成形材料は、上記射出成形、押出成形以外に、例えば圧縮成形にも適用できる。この圧縮成形に適用する場合においても、成形材料の形状が板状体、即ち鱗片状であるから金型との密着が良い。また比表面積が大きいため、材料中の樹脂溶融時間が早く、従来法と比較して短時間に成形ができる。この場合従来の成形材料が通常円筒状であるのに対し、当該材料は鱗片状であり、金型上での位置設定が容易であるという副次的効果がある。
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限的に解されるものではない。
実施例1
第3図に示す装置を用し、ポリプロピレンとガラス繊維から、次のようにして成形材料を得た。
100本のボビン1から引き出されたガラス繊維(繊維径13μm、収束本数1600本)のロービング2 100本を、整列器3で一方向に整列させた後、張力調整ロール4,5,6を通過させて200mm幅の繊維シート7とした。
一方、押出機(図示せず)で210℃に加熱溶融したポリプロピレンをダイ8を経由して、下ベルト用ロール9(ここでは3本)で220℃に加熱された下ベルト10の表面に145μmの厚みで塗布した。次いで前記シートを、下ベルトと、上ベルト用ロール11(ここでは3本)で220℃に加熱された上ベルト12に挾んだ状態で、220℃に加熱された径240mmの含浸ロール13(ここでは3本)の間を、150kgの張力をかけながら50cm/分の速度で通過させた。このようにして得られたガラス繊維/ポリプロピレン複合体14は100℃まで冷却された後、引取用ロール15,16で引き取った後、スリッタ17で幅5mm間隔でスリットした後、切断機18で長さ3mmに切断して厚み0.24mm、ガラス繊維充填率70重量%の成形材料を得た。
得られた成形材料の比表面積を求めたところ58cm2/gであった。
次いで当該成形材料57重量部と繊維未強化ポリプロピレン樹脂43重量部をドライブレンド後、射出成形機を用いてガラス繊維充填率40重量%の試験片を作成した。
試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維の分散性は良好であり、またブロッキング化等の現象は見られなかった。
また、当該試験片を用いてアイゾット衝撃強度、繊維長を測定した。結果を表1に示すが、繊維長分布の中央部が約1.6mmと従来技術品と比較して射出成形時の繊維の折損が少なく、アイゾット衝撃強度が約2倍となった。
比較例1
直径3mm、長さ300mmの穿孔を有するクロスヘッドダイ内に押出機で溶融したポリプロピレンを供給した。一方、実施例1で用いたガラス繊維9本を上記穿孔内に通し、220℃に加熱されたクロスヘッド内を通過させながら溶融ポリプロピレンと接触させて繊維を樹脂で被覆した。
次いで100℃以下に冷却して引き取った後、長さ3mmに切断して、直径3mm、ガラス繊維充填率50重量%の円柱形状を有する成形材料を得た。得られた成形材料の比表面積を求めたところ16cm2/gであった。
次いで得られた成形材料を表1に示すようにドライブレンド後、実施例1で用いた射出成形機によってガラス繊維充填率40重量%の試験片を作成した。試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維の分散性が不十分であり、またブロッキング化の現象が観察された。
また、当該試験片を用いてアイゾット衝撃強度、繊維長を測定した。結果を表1に示すが、繊維長分布の中央部が約0.6mmと実施例1と比較して射出成形時の繊維折損が激しく、その結果アイゾット衝撃強度も大きく低下した。
比較例2
実施例1と同様に処理して得たガラス繊維複合体14を5枚重ね、200℃の加熱ロール1対の間を通過させて50kg/cmの線圧で熱圧した後、実施例1と同様に処理して長さ3mm、厚み1.20mm、幅5mm、ガラス充填率70重量%の成形材料を得た。当該成形材料の比表面積は17cm2/gであった。
次いで実施例1と同様にドライブレンドした後、射出成形してガラス繊維充填率40重量%の試験片を作成した。
この試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維がかなりブロッキング化しており、分散不良であった。
また、当該試験片を用いてアイゾット衝撃強度、繊維長を測定した。結果を表1に示すが、繊維長分布の中央部が約0.7mmと成形時の折損が激しく、アイゾット衝撃強度も低下した。
実施例2〜4
実施例1において、表1に示す繊維、樹脂に代えて、実施例1と同様にして複合体を得た。
次いで、幅5mmにスリットした後、表1に示す長さに切断して成形材料を得た。次いで表1に示す割合で繊維未強化樹脂とドライブレンド後、射出成形して試験片を得た。
試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維の分散性は良好であり、またブロッキング化等の現象は見られなかった。
この試験片について、繊維長、アイゾット衝撃強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
実施例5〜10
実施例1において、表2に示す繊維、樹脂に代えて、実施例1と同様にして複合体を得た。
次いで、幅5mmにスリットした後、表2に示す長さに切断して成形材料を得た。次いで表2に示す割合で繊維未強化樹脂とドライブレンド後、射出成形して試験片を得た。
試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維の分散性は良好であり、またブロッキング化等の現象は見られなかった。
この試験片について、繊維長、アイゾット衝撃強度を実施例1と同様にして測定したところ、実施例1と同様な結果が得られた。
実施例11
実施例9で得た成形材料を、PEEKとドライブレンドして繊維充填率が30%になるように調整した。このドライブレンド物を通常の押出成形機を用いて、直径30mmφの丸棒の試験片を得た。
この試験片の断面を走査型電子顕微鏡で観察したが、繊維の分散性は良好であり、またブロッキング化等の現象は見られなかった。
実施例12
離型剤(FREKOTE44 ;米国FREKOTE Inc.製)を塗布した第4図に示す雌金型30内に実施例1で得た成形材料20を300gを均一に置いた後、上記離型剤を塗布した雄金型31をセットした。次いで300℃に加熱した加熱炉内に上記金型を金型温度が230℃になる迄放置した後、素早く常温の加圧板を有する圧縮成形機内に移し、50Kg/cm2の圧力で20分間加圧して、300×300×2.0mmの成形品を得た。
成形品の表面を肉眼で観察したが、繊維が表面に浮き出ることもなく、良好に繊維が分散しており、良好な表面光沢を有していた。


〔発明の効果〕
本発明によれば、繊維補強材を高濃度に充填しているにも拘らず、成形時の繊維分散性が良好であり、繊維の折損や破断が少なく、機械強度、特に衝撃強度が大幅に向上した成形品が得られる成形材料(圧縮成形材料を除く。)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の成形材料の構造の一例を示す斜視図、第2図は成形材料の部分拡大図、第3図は本発明の成形材料を製造する装置の一例を示す概略図、第4図は本発明が適用される圧縮成形用の金型の一例を示す斜視図である。
20:成形材料
21:熱可塑性樹脂
22:単繊維
30:雌金型
31:雄金型
 
訂正の要旨 請求の要旨
1.特許請求の範囲の請求項1に「〜成形材料。」とあるのを、「〜成形材料(圧縮成形材料を除く。)。」と訂正する。
2.明細書の6頁2行の「成形材料。」とあるのを、「成形材料(圧縮成形材料を除く。)。」と訂正する。
3.明細書の22頁6行の「成形材料。」とあるのを、「成形材料(圧縮成形材料を除く。)。」
と訂正する。
審理終結日 1999-09-01 
結審通知日 1999-10-12 
審決日 1999-09-28 
出願番号 特願平1-214372
審決分類 P 1 122・ 161- YA (B29B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 実広 信哉  
特許庁審判長 石橋 和美
特許庁審判官 喜納 稔
仁木 由美子
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2646027号(P2646027)
発明の名称 成形材料  
代理人 坂口 信昭  
代理人 内田 敏彦  
代理人 内田 修  
代理人 坂口 信昭  

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