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審決分類 審判 全部申し立て 産業上利用性  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09K
管理番号 1020141
異議申立番号 異議1999-70748  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-10-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-03 
確定日 2000-06-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第2792729号「液晶素子」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2792729号の特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第2792729号発明は、平成2年10月8日に特許出願(優先権主張、平成1年10月11日、日本)され、平成10年6月19日にその特許の設定登録がなされ、その後、昭和シェル石油株式会社より特許異議の申立てがなされたものである。
II 本件発明
本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】それぞれ電圧印加手段を設けた一対の基板の少なくとも一方に配向制御層を設け、該一対の基板間に反強誘電性液晶を配置した液晶素子であって、前記反強誘電性液晶が、得られる組成物の30〜99重量%の一般式(I)

(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基又はアルコキシ基、R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基、X’は水素又はフッ素原子、m及びnはそれぞれ1又は2を示し、*は不斉炭素原子を示す)で表される反強誘電性液晶相を示すキラル化合物の少なくとも1種と、一般式 (II)

(式中、R3は置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基又はアルコキシ基、R4は置換基を有していてもよい炭素数1〜15のアルキル基、


Xは単結合又は-COO-、Yは単結合、-O-又は-COO-、kは0又は1を示す)で表される反強誘電性液晶相を示さない非キラル化合物の少なくとも1種とを含むことを特徴とする液晶素子。」
III 異議申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証の1ないし甲第3号証を提出し、本件発明の特許は、以下の理由で取り消すべきである旨主張している。
1 本件発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する発明の要件を満たしていない。
2 本件発明は、甲第1号証の1ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 本件明細書の記載が不備であり、特許法第36条に規定する要件を満たしていない。
IV 甲各号証の記載
甲第1号証の1(日本学術振興会第142委員会編「液晶デバイスハンドブック」154〜162頁、192〜203頁、1989年9月29日、日刊工業新聞社)には、実用混合液晶について記載され、各種液晶を混合することにより混合液晶の物性を調整することが記載されている(154〜162頁)。また、同号証には、液晶の添加剤について記載され、該添加剤として、二色性色素、DSM用ドーパント、TN及びSTN用カイラル剤が記載されている。
甲第1号証の2(岡野光治外編「液晶=基礎編」144〜147頁、昭和61年9月25日、株式会社培風館)には、強誘電性液晶材料について記載され、「室温強誘電性を得るためには、適切な分子設計によって新材料を合成したり、室温より高い温度で強誘電性となる既存の材料をいくつか混合するのが常套手段である。」(145頁18行〜146頁2行)と記載されている。
甲第1号証の3(岡野光治外編「液晶=応用編」28〜37頁、昭和61年11月10日、株式会社培風館)には、液晶に2色性色素を配合することが記載されている。
甲第1号証の4(特開平2-212588号公報)には、「下記A、B2成分それぞれの少なくとも1種宛を併せ含有し、A、B2成分の含有量がそれぞれAが30〜95重量%、Bが5〜50重量%である強誘電性液晶組成物。
但しA成分は一般式(I)で表わされる化合物であり、
式(略)・・・
B成分は自発分極が・・・の強誘電性液晶性化合物である。」(特許請求の範囲請求項1)、「本発明は強誘電性液晶組成物に関する。更に・・・高速応答性を有し、傾き角の大きな強誘電性液晶組成物およびそれを用いた光スイッチング素子に関する。」(2頁右上欄12〜15行)、「ここで(iii)はA、B成分以外の化合物であるが、・・・この様に、A、B成分以外の化合物も加えてよい。A、B成分以外に混合されうる化合物の代表例を以下に挙げる。」(5頁右上欄4〜11行)と記載され、具体的に、上記A、B成分以外の化合物を配合した強誘電性液晶組成物が記載されている(実施例1ないし3)。
甲第1号証の5(「第16回液晶討論会講演予稿集」134、135頁、平成2年10月2日〜4日、広島大学)には、化合物A(式:略)に特定のエステル基の配向の異なる三環性液晶(キラル化合物)を配合して得られる液晶組成物が反強誘電相を示すことが記載されている。
甲第2号証(特開平2-153322号公報)には、液晶電気光学装置について記載され、「前記強誘電液晶中に二色性色素が溶解されており」(1頁右下欄3、4行)、「本発明は、・・・特に強誘電性液晶への電界の印加状態に応じて分子配向の安定状態を制御する装置に関する」(2頁右下欄3〜5行)、「前記第一及び第二の安定状態とは異なる第三の分子配向安定状態を有する構成としている。」(3頁右下欄4〜5行)、「前記強誘電性液晶材料としては次の構造式の液晶材料を(TFHPOBC)を挙げることができる。」(4頁右上欄1〜3行)、「本発明の装置に用いる大きな自発分極を有する液晶材料としては、次の構造式のもの(TFNPOBC)を用いることもできる。・・・また、他の大きな自発分極を有する液晶材料としては、次の構造式のもの(MHPOBC)を用いることもできる。」(6頁右上欄9行〜左下欄5行)、「本発明は、強誘電性液晶により電界印加時及び無電界時に3つの分子配向の安定状態を得て電気光学装置を構成しているので、明暗コントラストがはっきりし、・・・最高水準の高速応答性を実現することができる・・・また、二色性色素を溶解すれば、上記効果に加え、表示の視野角範囲を広くできるという効果がある。」(8頁右上欄18行〜左下欄9行)と記載されている。
甲第3号証(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS、VOL.28、NO.9、SEPTEMBER、1989、pp.L1606-L1608)には、4-(1-メチルヘプチルオキシカルボニル)フェニル 4’ オクチルオキシビフェニル-4-カルボキシレート(MHPOBC)及び(R)-(+)4-(1-トリフルオロメチルヘプチルオキシカルボニル)フェニル 4’-オクチルオキシビフェニル-4-カルボキシレート(TFMPOBC)が、SmCA* 相を示す反強誘電性液晶化合物であることが記載されている。
V 当審の判断
1 特許法第29条第1項柱書について
異議申立人は、(1)本件明細書の第11図によれば、化合物No.11と化合物No.23の液晶組成物において、No.23の非キラル化合物が40モル%以上では反強誘電相を示さないことが開示されており、このモル%を重量%に換算すると、結局のところ、本件請求項1の記載ではキラル化合物は液晶組成物の30〜99重量%含有されると規定されているにも拘わらず、反強誘電相を示さない混合範囲を含んでいる、(2)本件明細書の第12、13図によれば、組成物No.41はキラル化合物単品であるNo.11に較べて全く優位性は認められない旨主張しているので、以下検討する。
本件明細書には、「本発明は液晶素子に関し、・・・三安定状態間のスイッチングを示す反強誘電性液晶組成物を含有する液晶素子に関する。」(本件特許公報2頁3欄7〜9行)、「上記の反強誘電性液晶相を示す材料を用いて液晶セルを作製する場合、・・・三安定スイッチングを示す温度範囲、スイッチング電圧などの点で、必ずしも好ましいものではない。本発明はこのような状況下でなされたものであり、低電圧でスイッチングする反強誘電性液晶組成物を用いた液晶素子を提供するものである。」(同2頁3欄47行〜4欄47行)、「一般式(I)で表わされる光学活性化合物は、例えば・・・記載の方法で合成できる。この光学活性化合物はそれ自体反強誘電性液晶相を示すが、スイッチングに必要な電圧が高く、実用上問題が多い。これに対して、本発明のごとく、一般式(I)で表される光学活性化合物と一般式(II)で表される非キラル化合物とを混合することにより、スイッチングに必要な電圧を低下させることができる。」(同3頁6欄15〜23行)、「実施例2 化合物No.11および化合物No.23の2成分よりなる組成物No.41〜50を作製した。・・・第12図及び第13図に示すグラフが得られた。・・・この系においても化合物No.23の添加によって、スイッチングする電界強度を低下させることができた。」(同6頁12欄38行〜7頁13欄26行)、「以上のように本発明によれば低電圧で駆動できる反強誘電性液晶素子を得ることができる。」(同7頁14欄30、31行)と記載されている。
これらの記載によれば、本件発明は、従来、一般式(I)で表される反強誘電性液晶相を示すキラル化合物を単品で使用した場合、スイッチングに必要な電圧が高く、実用上問題が多いという技術的課題を有していたことから、その解決のため、上記した本件発明の構成を採用し、これにより、低電圧で駆動できる反強誘電性液晶素子を得ることができたものであると認められる。
そうすると、本件発明は、上記したように、一般式(I)で表される反強誘電性液晶相を示すキラル化合物単品のスイッチング電圧を低下させるために、得られる液晶組成物の30〜99重量%の一般式(I)で表されるキラル化合物と一般式(II)で表される非キラル化合物を含有する液晶素子であり、それ自体において自然法則を利用した技術的思想の創作ということができるものであり、その技術的思想が産業上利用し得るものであることは明らかである。
異議申立人は、本件発明の産業上の利用性について縷々述べているが、(1)の点について、これは本件発明の実施例に係るものであるところ、特許請求の範囲の記載は実施例に限定して解釈されるものでないこと、また、(2)の点について、これは非キラル化合物である化合物No.23の添加効果を図示したものであり、反強誘電性液晶相を示すキラル化合物(化合物No.11)単品の場合よりスイッチング電圧が高い場合は排除されることは当然のことであるから、上記異議申立人の主張は採用することはできない。
2 特許法第29条第2項について
本件発明と甲各号証に記載の発明を対比する。
甲第1号証の1ないし3には、液晶化合物を混合すること、各種添加剤として、二色性色素、DSMドーパント及びカイラル剤が記載されているが、反強誘電性液晶において、一般式(I)で表されるキラル化合物と一般式(II)で表される非キラル化合物を含有させることについて何ら示唆されるものではない。
甲第1号証の4には、強誘電性液晶化合物に特定の構造式を有する化合物を配合することが記載されており、該特定の構造式を有する化合物は、本件発明の一般式(II)で表される非キラル化合物に包含されるものであるが、本件発明の上記した技術的課題及びそれを解決するための構成について示唆されるものではない。
甲第1号証の5には、反強誘電性液晶化合物に三環性液晶化合物を混合して反強誘電性液晶相を発現させることが記載されているが、該反強誘電性液晶化合物は、本件発明のキラル化合物とは相違するものであり、さらに、本件発明の非キラル化合物を含有させることについて示唆されるものではない。
甲第2号証には、強誘電性液晶に二色性色素を溶解することが記載されており、該強誘電性液晶は、甲第3号証によれば、反強誘電性液晶と解されるものであり、そして、該液晶は本件発明の反強誘電性液晶相を示すキラル化合物と同一のものであることが認められるが、本件発明の非キラル化合物を含有させることについて示唆されるものではない。
そうすると、甲第1号証の1ないし5には、本件発明のキラル化合物について記載されていないこと、また、甲第2、3号証には、本件発明のキラル化合物が記載されているが、本件発明の非キラル化合物を含有さことについて示唆されていないことに照らせば、甲第1号証の1ないし5記載の発明に、甲第2、3号証記載の発明を併せ考えても、本件発明の上記した構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明は、上記した構成を採用することにより、低電圧で駆動できる反強誘電性液晶素子を得ることができるという顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第1号証の1ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 特許法第36条について
異議申立人は、(1)配合割合が、特許請求の範囲では重量%で記載されているのに対し、第4〜6表及び第11、13図ではモル%で記載されており、このように二つの表示が入り乱れて記載されているようではその数値自体信用しかねるものである、(2)本件発明は非キラル化合物を一般式(II)で表される化合物に特定しているが、その特定した理由は全く不明である、(3)本件明細書の第12、13図によれば、組成物No.41はキラル化合物単品であるNo.11に較べて全く優位性は認められない旨主張しているので、以下検討する。
(1)の点について、配合割合を重量%で記載することは、その発明の詳細な説明中にも明確に記載されており(本件特許公報3頁6欄23〜26行参照。)、また、異議申立人も行っているように、必要な換算は可能であるから、異議申立人の主張は当を得たものではない。
また、(2)、(3)の点について、これらがいずれも当を得たものではないことは、本件発明の上記V1の認定事実から明らかである。
よって、本件明細書には記載不備は認められない。
VI むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-05-08 
出願番号 特願平2-270702
審決分類 P 1 651・ 14- Y (C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 531- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤森 知郎  
特許庁審判長 花田 吉秋
特許庁審判官 佐藤 修
星野 浩一
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2792729号(P2792729)
権利者 鹿島石油株式会社 シャープ株式会社
発明の名称 液晶素子  
代理人 友松 英爾  
代理人 川島 利和  

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