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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1020301
異議申立番号 異議1998-75645  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-04-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-19 
確定日 1999-09-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2754602号「積層フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2754602号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2754602号は、昭和63年10月12日に特許出願され、平成10年3月6日に特許の設定登録がなされ、その後、東洋紡績株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年6月21日に訂正請求がなされたものである。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正事項は以下のとおりである。
ア.特許明細書の特許請求の範囲における記載中、請求項1における「配向度が1.03〜1.5」を、「配向度が1.03〜1.3」と訂正する。
イ.特許明細書第3頁第11行、同第24頁第11行および同第24頁第12行の「1.5」を「1.3」と訂正する。
ウ.特許明細書第24頁第18行の「1.35」を「1.3」 と訂正する。
2.訂正の適否
上記訂正について検討すると、アの訂正は、請求項1に係る発明における水溶性又は水分散性樹脂層の配向度をさらに限定するものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、イおよびウの訂正は、上記アの訂正により、訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明中の記載とにおいて不整合が生じることを解消するものであるから、これらの訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではなく、また、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であると認める。
さらに、後記することから明らかなように訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けられない発明とすることはできないものである。
以上の点からみて、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.異議申立てについて、
(1)本件訂正後の請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された下記のとおりのものと認める。
「【請求項1】少なくとも1軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムと、該熱可塑性フィルムの少なくとも片面に積層された配向度が1.03〜1.3、厚みが0.001〜3.0μmである水溶性又は水分散性樹脂層とからなることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】少なくとも1軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムがポリエステル系フィルムであることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】水溶性又は水分散性樹脂がアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂もしくはポリエステル系樹脂又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。」
(2)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人東洋紡績株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭63-209835号公報)および甲第2号証(東洋紡績株式会社総合研究所フイルム技術センタ-前田浩三作成の実験成績報告書)を提出し、本件請求項1ないし請求項3に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、これらの特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきである。
IV.独立特許要件の判断
(引用刊行物等)
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件請求項1に係る発明」という。)に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭63-209835号公報)には、
ア.「少なくとも片面に、(A)全ジカルボン酸成分に対し、0.5〜5モル%がスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸類と多価アルコール類とからなる水不溶性ポリエステル共重合ポリエステル共重合体、(B)沸点が60〜200℃である水溶性有機化合物、(C)水とからなる水性樹脂分散液が塗布されてなる主たる成分がポリエチレンテレフタレートよりなるポリエステル系フィルムの該塗布面上に蒸着層を設けてなることを特徴とするポリエステル系蒸着フィルム」(特許請求の範囲)、
イ.「-ポリエステル共重合体水系分散液の製造ー・・・樹脂固形分5%の均一な希釈液を作成し、塗布液とした。-コートフィルムの製造一ポリエチレンテレフタレ-トを280〜300℃で溶融押出しし、15℃の冷却ロールで冷却して厚さ約150ミクロンの未延伸フィルムを得、この未延伸フィルムを周速の異なる85℃の一対のロール間で縦方向に3.5倍延伸した。次いで前記の塗布液をロールコーター方式で塗布し、70℃の熱風で乾燥し、次いでテンターでの98℃で横方向に3.5倍延伸し、更に200〜210℃熱固定し厚さ12ミクロンの二軸延伸コーティングポリエステルフィルムとした。最終的なコート剤塗布量は0.06g/m2であった。」(5頁右下欄8行〜6頁左上欄10行)と記載されている。
おなじく、当審が通知した取消理由で引用した東洋紡績株式会社総合研究所フイルム技術センタ-前田浩三作成の実験成績報告書には、「刊行物1の実施例1に記載の方法に従って製造した二軸延伸ポリエステルフィルムについて、本件特許明細書に記載された方法(特許公報第6頁右欄10〜45行)に準じてコート層の配向度を測定した結果、平均1.32であつた。」旨が記載されている。
おなじく、当審が通知した取消理由で引用した刊行物2(特開昭62-297147号公報)、同刊行物3(特開昭63-37937号公報)および同刊行物4(特開昭62-173253号公報)には、ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムをー軸延伸した後に、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂等の水溶性又は水分散性樹脂を1m2あたり0.5〜20g塗布し、次いで3〜4倍程度に延伸処理する積層フィルムについて、該フィルムの接着性が改善された旨が記載されている。
(対比・判断)
本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、上記ア、イの記載を参照にすると、刊行物1には、少なくとも1軸以上に延伸されたポリエステル系フィルムと、該フィルムの少なくとも片面に積層されたポリエステル系水分散性樹脂層とその上に蒸着層を有する積層フィルムが記載されている。そして、ポリエステルフィルム面上に塗布する水分散性樹脂の塗布量が0.06g/m2と記載され、該樹脂は密度の大きいものでも1.1g/m3であると認められるから、水分散性樹脂の密度を1.0g/m3として計算すると塗布層の厚みは約0.06μmとなる。
一方、本件請求項1に係る発明における積層フィルムの水分散性樹脂層面には、さらにオーバーコート層が設けられることは、特許明細書の記載(明細書29頁下より2行〜38頁参照)から明らかである。
してみると、上記刊行物1のポリエステル系フィルムは熱可塑性樹脂フィルムに相当するから、両者は、本件請求項1に係る発明における水分散性樹脂層の配向度が1.03〜1.3であるのに対し、刊行物1記載の発明においては、配向度について明記されていない点でのみ相違している。
ところで、上記の実験成績報告書の記載から、上記刊行物1記載の積層フィルムの水溶性又は水分散性樹脂の配向度は1.32であるものと認められ、これは本件請求項1に係る発明の配向度の範囲外ものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、上記引用刊行物1に記載された発明には該当しない。
また、訂正明細書の請求項2および請求項3に係る発明は、本件請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、上記本件請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記刊行物1に記載された発明には該当しない。
つぎに、本件請求項1に係る発明と上記刊行物2〜4に記載された発明とを対比すると、これらの刊行物中には、水溶性又は水分散性樹脂層の配向度について何も記載されていない。そこで、両者の製造方法についてみると、両者の製造方法は、ポリステルフィルム等の熱可塑性フィルムを一軸延伸した後に、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂等の水溶性又は水分散性樹脂を1m2あたり0.5〜20g塗布し、次いで3〜4倍程度に延伸処理するものである点で一致する。
ところで、本件請求項1に係る発明において、水溶性又は水分散性樹脂層の配向度を1.03〜1.3とするためには、積層フィルムを延伸する際、水溶性又は水分散性樹脂の粘度を1センチポイズ〜500ポイズとすることが好ましく、このような条件におく方法としては、▲1▼該樹脂が水などで膨潤した状態で延伸する、▲2▼該樹脂を完全融解下で延伸するものであり(本件特許明細書第26頁第17行〜第27頁第8行)、さらに、実施例によれば、190℃の雰囲気中あるいは190℃のスチームを吹き込んだ雰囲気中で延伸するものであるところ、刊行物2〜4に記載された発明にあっては、積層フィルムを延伸する際の水溶性又は水分散性樹脂の粘度の管理は行われておらず、また、延伸する際の温度条件を実施例でみると、105℃(刊行物2および刊行物3)であるか、不明(刊行物4)であり、本件請求項1に係る発明の積層フィルムを得るための延伸温度条件と著しく相違する。それゆえ、両者の製造方法は同じであるとは言えないから、同じ積層フィルムが得られているとも言えない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、上記引用刊行物2〜4に記載された発明には該当しない。
また、訂正明細書の請求項2および請求項3に係る発明は、本件請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、上記本件請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記刊行物2〜4に記載された発明には該当しない。
よって、本件請求項1ないし請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
V.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
VI.特許異議の申立てについての判断
(1)特許異議申立人が提出した甲各号証の記載事項
甲第1号証の刊行物の記載内容はIVの(引用刊行物等)の刊行物1の項で摘示したとおりであり、また、甲第2号証の東洋紡績株式会社総合研究所フイルム技術センター前田浩三作成の実験成績報告書の記載事項も、同じくIVの(引用刊行物等)の実験成績報告書の項で摘示したとおりである。
(2)判断
IVの(対比・判断)の項に記載したとおり、本件請求項1ないし請求項3に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明には該当しない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠によっては本件請求項1ないし請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層フィルム
(57)【特許請求の範囲】
(1)少なくとも1軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムと、該熱可塑性フィルムの少なくとも片面に積層された配向度が1.03〜1.3、厚みが0.001〜3.0μmである水溶性又は水分散性樹脂層とからなることを特徴とする積層フィルム。
(2)少なくとも1軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムがポリエステル系フィルムであることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
(3)水溶性又は水分散性樹脂がアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂もしくはポリエステル系樹脂又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は易接着性を示す樹脂層を少なくともその片面に有する積層フィルムに関するものである。
〔従来の技術〕
従来、水溶性又は水分散性樹脂層をその少なくとも片面に有する積層フィルムとしては、水性ポリエステルとエポキシ基を有する架橋剤からなる層をポリエステルフィルム上に設ける例(特開昭62-297147号公報)、アクリルグラフトポリエステル層を設ける例(特開昭63-37937号公報)、ビニル系樹脂層を設ける例(特開昭61-204241号公報)あるいはポリウレタン層を設ける例(特開昭62-173253号公報)などが知られている。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、上記従来の積層フィルムは、すべて下記の課題を有している。
(1)塗布後延伸したものは基材フィルムと樹脂層との接着性は優れているが、オーバーコート層との接着性、特に耐湿接着性に劣る、あるいは樹脂層が劈開し易いという欠点がある。
(2)塗布後延伸を全く施さないものは、基材フィルムと樹脂層との接着性に劣るという欠点がある。
本発明は、かかる欠点を改善し、基材フィルムおよびオーバーコート層との接着性と樹脂層の劈開性に優れた積層フィルムを提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、
(1)少なくとも1軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムと、該熱可塑性フィルムの少なくとも片面に積層された配向度が1.03〜1.3、厚みが0.001〜3.0μmである水溶性又は水分散性樹脂層とからなることを特徴とする積層フィルム、
(2)少なくとも一軸以上に延伸されてなる熱可塑性フィルムがポリエステル系フィルムであることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム、
(3)水溶性又は水分散性樹脂がアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム、である。
本発明における熱可塑性フィルムとは、熱可塑性であればよく、その種類は特に限定されないが、代表的なものとしては、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等の塩素含有樹脂からなるフィルム、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、アクリル系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂等の各種耐熱性フィルムを挙げることができる。その中でも二軸延伸性を有するという理由から、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好適である。その中でも、その機械的特性、価格の点でポリエステル系フィルムが特に好適である。
ポリエステルとしては、エチレンテレフタレート、エチレンα、β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボキシレート、エチレンα,β-ビス(フェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボキシレート、エチレン2,6-ナフタレート単位から選ばれた少なくとも一種の構造単位を主要構成成分とするものが好ましい。
また、本発明を阻害しない範囲内、好ましくは10モル%以内であれば、上記以外の他成分が共重合されていてもよい。また多種ポリマをブレンドしてもよいし、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、核生成剤などの無機または有機添加剤が通常添加される程度添加されていてもよい。
又本発明におけるフィルム厚みは特に限定されないが、通常は0.1〜1500μm、好ましくは、0.5〜300μmである。
本発明における水溶性又は水分散性樹脂は、水に溶解あるいは分散する樹脂であればよいのであり、熱可塑性、熱硬化性は特に問わないが、代表例としては以下のものを挙げることができる。アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、尿素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を挙げることができる。
その中でも好適な水溶性又は水分散性樹脂としては以下のもの、又はそれらの混合物を挙げることができる。但し、ここでいう水溶性又は水分散性とは、若干量、その量は特に限定されないが通常は20重量%以下、好ましくは10重量%以下、各種有機溶剤等の水以外の物質を含んでいてもよい。
(A)アクリル系樹脂
少なくとも40モル%のアクリルおよび/またはメタアクリルモノマーと、その他の官能基含有モノマー0.1〜20モル%と、1種又はそれ以上のハロゲン非含有モノエチレン性不飽和モノマー約0〜49.9モル%とのコポリマー、あるいは少なくとも25モル%のアクリル酸、メタクリル酸又はアクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステルの中から選ばれたコモノマーと1〜50モル%のビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸及びP-スチレンスルホン酸ならびにこれらの酸の塩の中から選ばれたコモノマーから導かれる共重合体を挙げることができる。
(B)ビニル系樹脂
一般式

(ただし、R1、R2は水素またはアルキル基、M1、M2は水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(置換アンモニウムも含む)、アルキル基を示し、M1とM2が同時にアルキル基ではない。)を挙げることができる。
(C)ウレタン系樹脂
カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、又は硫酸半エステル塩基により水への親和性が高められたポリウレタンを挙げることができる。但しカルボン酸塩基、スルホン酸塩基、硫酸半エステル塩基等の塩基の量は0.5〜15重量%が好ましく、又ポリウレタンの合成に用いるポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリストール、グリセリン等を挙げることができる。ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物等を挙げることができる。カルボン酸含有ポリオールとしては、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸、トリメリット酸ビス(エチレングリコール)エステル等を挙げることができる。アミノ酸含有カルボン酸としては、例えばβ-アミノプロピオン酸、γ-アミノ酪酸、p-アミノ安息香酸等を挙げることができる。水酸基含有カルボン酸としては、例えば3-ヒドロキシプロピオン酸、γ-ヒドロキシ酪酸、p-(2-ヒドロキシエチル)安息香酸、リンゴ酸等を挙げることができる。アミノ基または水酸基とスルホン基を有する化合物としては、例えばアミノメタンスルホン酸、2-アミノエタンスルホン酸、2-アミノ-5-メチルベンゼン-2-スルホン酸、β-ヒドロキシエタンスルホン酸ナトリウム、脂肪族ジ第1級アミン化合物のプロパンサルトン、ブタンサルトン付加生成物等が挙げられ、好ましくは脂肪族ジ第1級アミン化合物のプロパンサルトン付加物があげられる。更に、アミノ基または水酸基と硫酸半エステル基を含有する化合物としては、例えばアミノエタノール硫酸、エチレンジアミンエタノール硫酸、アミノブタノール硫酸、ヒドロキシエタノール硫酸、γ-ヒドロキシプロパノール硫酸、α-ヒドロキシブタノール硫酸等があげられる。
あるいは、特公昭42-24194号、特公昭46-7720号、特公昭46-10193号、特公昭49-37839号、特開昭50-123197号、特開昭53-126058号、特開昭54-138098号などで公知のアニオン性基を有するポリウレタン系樹脂あるいはそれらに準じたポリウレタン系樹脂を挙げることができる。
ここでポリウレタン形成成分の主要な構成成分は、ポリイソシアネート、ポリオール、鎖長延長剤、架橋剤などである。
又、分子量300〜20000のポリオール、ポリイソシアネート、反応性水素原子を有する鎖長延長剤およびイソシアネート基と反応する基、およびアニオン性基を少なくとも1個有する化合物からなる樹脂が好ましい。
ポリウレタン系樹脂中のアニオン性基は、好ましくは-SO3H、-OSO2H、-COOHおよびこれらのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩あるいはマグネシウム塩として用いられる。
ポリウレタン系樹脂中のアニオン性基の量は、0.05重量%〜8重量%が好ましい。
(D)ポリエステル系樹脂
全ジカルボン酸成分中0.5〜15モル%がスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸であるジカルボン酸類と、多価アルコール類とから成るポリエステル共重合体を挙げることができる。
但し、上記のスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5[4-スルホフェノキシ]イソフタル酸等の金属塩があげられ、特に好ましいのは5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸である。
あるいは、分子内に遊離カルボン酸基及びカルボン酸塩基を少なくとも1種有する水性ポリエステル樹脂と2個以上のエポキシ基を有する架橋剤、及び必要に応じて反応促進化合物を含むものを挙げることができる。但し、この水性ポリエステル樹脂の分子内にカルボン酸基を導入するためには、例えば無水トリメリット酸、トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸、シクロブタンテトラカルボン酸、ジメチロールプロピオン酸等の多価化合物をポリマー製造原料の1つとして用いることが好ましい。また、カルボン酸塩はポリマー中に導入されたカルボン酸基をアミノ化合物、アンモニア、アルカリ金属等で中和することによって導入することができる。
(E)各種グラフト樹脂
ポリメチルメタアクリレートを幹鎖としポリ2-ヒドロキシエチルメタアクリレートを枝鎖とする櫛型グラフトポリマーを挙げることができる。
あるいは、幹ポリマーがポリエステルであって枝ポリマーがアクリル系重合体であるアクリルグラフトポリエステルを挙げることができる。
但し、この水性ポリエステル-アクリルグラフトポリマーの幹ポリマーになるポリエステルは多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とポリオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される実質的に線状のポリマーである。このポリマーの多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6-ナルタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸等を例示することができる。これら成分は2種以上を用いることができる。更に、これら成分と共にマレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の如き不飽和多塩基酸やp-ヒドロキシ安息香酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸を小割合用いることができる。不飽和多塩基酸成分やヒドロキシカルボン酸成分の割合は高々10モル%、好ましくは5モル%以下である。
また、ポリオール成分としてはエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等を例示することができる。これらは2種以上を用いることができる。
該アクリル系重合体のモノマーとしては例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等):2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有モノマー:アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー:N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有モノマー:グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー:アクリル酸、メタアクリル酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー等があげられる。これらは他種モノマーと併用することができる。他種モノマーとしては例えばアリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー:スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のスルホン酸基又はその塩を含有するモノマ-:クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー:無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を含有するモノマー:ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。上述のモノマーは1種もしくは2種以上を用いて共重合される。
(F)ブロックポリマー
水性アクリル系重合体-ポリエステルブロックポリマーを挙げることができる。
但し、このブロックポリマーを構成するアクリル系重合体のモノマーとしては、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等):2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有モノマー:アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー:N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルヌタクリレート等のアミノ基含有モノマ-:グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタアクリル酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基又はその塩を含むモノマー等が挙げられる。これらは他種モノマーと併用することができる。他種モノマーとしてはアリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー:スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のスルホン酸基又はその塩を含有するモノマ-:クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基又はその塩を含有するモノマー:無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を含有するモノマー:ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。上述のモノマーは1種もしくは2種以上を用いて共重合させることができるが、アクリル系重合体への親水性付与、水溶液の分散安定性、ポリエステルフィルムとの密着性等の点から、水酸基、アミド基やカルボキシル基またはその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等の官能基を有するものが好ましい。
水性ブロックポリマーのもう一つの構成成分であるポリエステルは、多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とポリオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される実質的に線状の飽和ポリエステルである。このポリエステルの多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸等を例示することができる。これらは二種以上を用いることができる。また、これら成分と共にp-ヒドロキシ安息香酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のヒドロキシカルボン酸も用いることができる。
また、ポリオール成分としてはエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等を例示することができる。これらは2種以上を用いることができる。
このポリエステルは水性ポリマーであることが好ましく、例えば有機スルホン酸塩、カルボン酸塩、ジエチレングリコール、ポリアルキレンエーテルグリコール等の如き親水基を有する化合物を含むものが水分散液を作るのに有利となり、好ましい。このカルボン基塩の導入は、通常三官能以上のカルボン酸を用いるが、該カルボン酸は重合の工程で分岐が起り、ゲル化しやすいのでその共重合割合は小さくすることが望ましい。その点、スルホン酸、ジエチレングリコール、ポリアルキレンエーテルグリコール等による親水基の導入は、これらの問題がなく、より有利である。
スルホン酸塩の基をポリエステル分子内に導入するためには、例えば5-Naスルホイソフタル酸、5-アンモニウムスルホイソフタル酸、4-Naスルホイソフタル酸、4-メチルアンモニウムスルホイソフタル酸、2-Naスルホテレフタル酸、5-Kスルホイソフタル酸、4-Kスルホイソフタル酸、2-Kスルホテレフタル酸、Naスルホコハク酸等のスルホン酸アルカリ金属塩系又はスルホン酸アミン塩系化合物等を用いることが好ましい。スルホン酸塩の基を有する多価カルボン酸又は多価アルコールは全多価カルボン酸成分又は多価アルコール成分中0.5〜20モル%、更には1〜18モル%を占めることが好ましい。
本発明の水溶性又は水分散性樹脂層においては、必要に応じ各種架橋剤を使用してもよい。その種類は特に限定されないが代表的なものとしては、イソシアネート系架橋剤、イソシアヌレート系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤あるいはエポキシ系架橋剤を挙げることができる。
エポキシ系架橋剤としては、具体的にはポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物などが挙げられ、ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトトール、ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどが挙げられる。又イソシアネート系架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。尿素系架橋剤としては、例えばジメチロール尿素、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールプロピレン尿素、テトラメチロールアセチレン尿素、4メトキシ5ジメチルプロピレン尿素ジメチロールなどが挙げられる。メラミン系架橋剤としては、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物およびそれらの混合物が好ましい。メチロールメラミン誘導体としては、例えばモノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。これらの架橋結合剤は単独、場合によっては2種以上併用してもよい。
本発明においては、水溶性又は水分散性樹脂層の配向度は1.03〜1.3であることが必要である。これは配向度が1.3より大きい場合樹脂層の易接着性改良効果が十分でなく、又、樹脂層内部で劈開が起こり易いため好ましくない。
一方1.03より小さい場合、樹脂の耐湿、耐溶剤性が不十分となり、樹脂層の膨潤あるいは白化が容易に起こるため好ましくない。
特に配向度が1.08〜1.3である場合、特性のバランスが良好であり好ましい。
又、本発明においては、水溶性又は水分散性樹脂層厚みが0.001μm〜3.0μm、好ましくは0.01μm〜0.8μm、更に好ましくは0.06μm〜0.4μmであることが必要である。
これは、厚みが0.001μmより薄い場合、接着性改良効果がみられないため好ましくなく、又3.0μmより厚い場合、耐湿、耐溶剤性が極端に悪化するため好ましくないのである。
該樹脂層の厚みは、種々の方法で測定できるが、例えば、積層フィルムの断面を電子顕微鏡で測定したり、該樹脂層が溶剤その他で除去できる場合は、除去した部分と除去していない部分の段差から求めることもできる。
次に本発明の積層フィルムの代表的製造方法について説明するが、特にこれに限定されるものではない。
必要に応じ所定の条件で乾燥を行った熱可塑性樹脂原料を押出機等の方法で溶融した後、フィルム状物に成形(通常は冷却ドラム上で)する。このようにして得られた未延伸のフィルム状物あるいは未延伸フィルムを必要に応じて一軸以上に延伸することにより得られたフィルム(延伸条件を挙げれば例えばポリエチレンテレフタレートの場合は75〜130℃で2.0倍〜9.0倍又ポリプロピレンの場合は100℃〜165℃で2.0倍〜12.0倍などである)上に、コロナ放電処理等の表面処理を必要に応じ適宜施した後、水溶性又は水分散性樹脂を公知の方法(グラビアコート、リバースコート、キスコート、ダイコート、バーコート、コンマコートなど)を用いて塗布する。このようにして得られた複合フィルムに延伸を施す。この延伸方向は特に限定されないが一軸方向に延伸されたフィルム上に塗布する場合は、通常は一軸目と直角方向に延伸する。又未延伸フィルム上に塗布する場合は、縦横どちらの方向でもよいし、又同時に二軸方向に延伸してもよい。最終的に水溶性又は水分散性樹脂の配向度が本発明範囲にあればよいのでありその延伸の際の条件は特に限定されないが、延伸の際の水溶性又は水分散性樹脂の粘度を1センチポイズ〜500ポイズ、好ましくは10センチポイズ〜10ポイズ、更に好ましくは50センチポイズ〜200センチポイズとることが好ましい。但し、ここでいう粘度は、乾燥速度を計算で求め、その塗濃度での粘度を測定したものである。該樹脂を延伸時このような条件におく方としては、▲1▼該樹脂が水などで膨潤した状態で延伸する、▲2▼該樹脂を完全融解で延伸する、等を挙げることができる。
このように延伸した後必要に応じ弛緩しつつ熱処理等を行なってもよい。
又、塗膜層樹脂の粘度が1センチポイズ〜500ポイズ、好ましくは10センチポイズ〜10ポイズ、更に好ましくは50センチポイズ〜200センチポイズなる状態(通常、高温あるいは加湿下におくことで該樹脂はこのような状態となる)で、弛緩率1〜20%の範囲で弛緩処理しても同様の効果を得ることができる場合がある。
本発明の特性値の測定方法並びに効果の評価方法は次の通りである。
(1)配向度
赤外偏光ATR法で行う。装置には、Bruker製FT-IR(IFS-113V)に偏光ATR測定用付属装置(Bio-Rad Digilab製)を取り付けたものを使用する。このATR装置に、対称形のエッジを持つ厚さ3mm、一辺25mmの正方形のInternal Reflection Elementを取り付け、延伸方向に対し平行と垂直の二方向の吸収測定を行う。
光の入射方向をフィルム流れ方向にとり、入射面に垂直な偏光を用いてコート面、非コート面のスペクトルを測定し、各々SMC、SMPとする。
又光の入射方向をフィルム幅方向にとり、入射面に垂直な偏光を用いてコート面、非コート面のスペクトルを測定、各々STC、STPとする。
但し、非コート面が存在しない場合は、コート面を各種溶剤、水等で拭き取った後基材面を測定する。
コート層と非コート層の差スペクトルを次の手順で求める。差スペクトルを計算する際の内部基準バンドとして、解析に必要なコート層の吸収帯に近い波数領域に観測されるベースフィルムの吸収帯を選ぶ。
内部基準吸収帯の吸光度が0になるように係数を定めて、コート面のスペクトルから未コート面のスペクトルを引いた差スペクトルを各偏光成分について求め、S⊥(SMC-SMP)、SII(STC-STP)とする。
このようにして求めた差スペクトル上予め定めた二つの波数における点を結びベースラインとし、ベースラインから吸収帯のピークまでの高さをコート層吸収帯の吸光度A⊥(S⊥に対し)、AII(SIIに対し)とする。
このようにして得られたコート層の吸光度(A⊥)と、(AII)から配向度(P)を計算する。

(2)接着性
A.軟質塩化ビニル
積層フィルムの水溶性又は水分散性樹脂層面に厚さ500μmの軟質塩化ビニルシートを140℃で貼り合わせ後、直後及び80℃のお湯の中で3hr熱処理後、塩化ビニルシートを強制的にはがしてその接着性について調べた。
はがす際積層フィルムが劈開するものを「○」、積層フィルムは劈開しないがはがれにくいものを「△」、容易にはがれるものを「×」として判定した。
B.UV硬化型シール用インキ
積層フィルムの水溶性又は水分散性樹脂層面に、久保井インキ(株)のUVエース(墨)及び東華色素(株)のフラッシュドライ161(墨)を2μm塗布後、高さ10cm80w/cmのUVランプ1灯の下で3秒硬化させたサンプルについて直後及び50℃/95%RH雰囲気下4日放置した後、各々についてニチバン(株)セロハン粘着テープを用いて90℃剥離テストを行いそのインキ残存率から判定した。残存率80%以上を「○」、残存率80%未満を「×」とした。
C.セルロースアセテートブチレート
(以下「CAB」と略す)
積層フィルムの水溶性又は水分散性樹脂層面に長瀬産業のCAB(品番381-05)を2μm厚みに塗布したサンプルを用いる。直後及び30%アンモニア水中に17hr放置したサンプルについて1mm角にクロスカットを施しニチバン(株)製セロハン粘着テープを用いて90゜剥離テストを行い残存率から判定した。
残存率80%以上 : 「○」
残存率80%未満 : 「×」
〔実施例〕
本発明を実施例に基づいて説明する。
25℃のo-クロロフェノール中で測定した固有粘度0.62の所定の滑剤を添加したポリエチレンテレフタレートを285℃で溶融した後、表面温度40℃の冷却ドラム上で成形、その後90℃で3.2倍延伸する。このようにして得られた一軸延伸フィルム上に以下に示す樹脂を塗布し、以下の実施例1〜7、比較例1〜8に示す条件で延伸を施した。この結果得られたポリエステルフィルム厚みは、50μm、塗布した樹脂厚みは、0.1μmであった。このフィルムに関しその水溶性又は水分散性樹脂層の配向度および接着性を評価し、表に示した。
実施例1
塗布する水分散性樹脂:メチルメタアクリレートとエチルアクリレートの50モル%対50モル%共重合体、但し、カルボン酸とメチロール基が各2.5モル%含まれている。190℃における粘度は、300ポイズ、又120℃における粘度は1100ポイズである(以降樹脂Aと称す)。
該樹脂を塗布後、90℃で予熱後、190℃雰囲気中で横方向に3.85倍の急速延伸を行う。この場合熱弛緩処理は特に行わなかった。
比較例1
延伸を行う雰囲気温度を190℃から120℃に変更する以外は実施例1と同様製膜した。
実施例2
延伸を行う雰囲気を190℃のスチームを吹き込んだ雰囲気に変更する以外は実施例1と同様製膜した。
実施例3
実施例1で得られたフィルムに、220℃で10%弛緩処理を施した。
比較例2
延伸を行う雰囲気を190℃から100℃に変更する以外は実施例1と同様製膜した。
比較例3
該縦方向一軸延伸フィルム上に樹脂を塗布することなく、90℃で予熱110℃で3.5倍横方向に延伸して得られたフィルム上に、コロナ放電処理を施した後、実施例1で示した樹脂を、グラビアロール法で塗布、120℃で乾燥する。このようにして得られたフィルムについて同様、評価して表に示した。
実施例4
樹脂層厚みを1μmとする以外は、実施例1と同様に、製膜、評価した。
比較例4
樹脂層厚みを0.0001μmとする以外は、実施例1と同様に、製膜、評価した。
比較例5
樹脂層厚みを5μmとする以外は、実施例1と同様に、製膜、評価した。
実施例5
塗布する水分散性樹脂:酸成分として、テレフタル酸95モル%、5ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、ジオール成分としてエチレングリコールを95モル%、ジエチレングリコールを5モル%としたポリエステル共重合体を幹とし、グリシジルメタアクリル酸を40重量部、アクリル酸を40重量部グラフトさせたアクリルグラフトポリエステル、190℃における粘度は、100ポイズ、120℃における粘度は、800ポイズであった(以降樹脂Bと称す)。
該樹脂を塗布後、実施例1と同様の条件で予熱延伸を施した。
実施例6
樹脂Aを樹脂Bに変更する以外は、実施例2と同様に製膜した。
比較例6
樹脂Aを樹脂Bとする以外は比較例1と同様に製膜した。
比較例7
樹脂Aを樹脂Bとする以外は比較例2と同様に製膜した。
実施例7
樹脂Aを樹脂Bとする以外は実施例3と同様に製膜した。
比較例8
樹脂Aを樹脂Bとする以外は比較例3と同様に製膜した。


〔発明の効果〕
本発明においては、水溶性あるいは水分散性樹脂を塗布、特定の条件で一軸方向に延伸し、該樹脂層配向度を特定条件とすることにより、以下に示す優れた効果を得ることができた。
(1)該樹脂層と基材フィルムの接着性、特に耐湿接着性が向上した。
(2)該樹脂層劈開による接着不良が改良された。
(3)オーバコート層との接着性、特に耐湿接着性が向上した。
 
訂正の要旨 ア.特許明細書の特許請求の範囲における記載中、請求項1における「配向度が1.03〜1.5」を、「配向度が1.03〜1.3」と訂正する。
イ.特許明細書第3頁第11行、同第24頁第11行および同第24頁第12行の「1.5」を「1.3」と訂正する。
ウ.特許明細書第24頁第18行の「1.35」を「1.3」と訂正する。
異議決定日 1999-08-25 
出願番号 特願昭63-258100
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北村 弘樹  
特許庁審判長 石橋 和美
特許庁審判官 今村 玲英子
仁木 由美子
登録日 1998-03-06 
登録番号 特許第2754602号(P2754602)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 積層フィルム  
代理人 内田 敏彦  
代理人 内田 修  

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