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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 一部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1020306 |
異議申立番号 | 異議1999-71478 |
総通号数 | 14 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-04-04 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-04-19 |
確定日 | 1999-09-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2814042号「セメント質組成物及びその製品」の請求項1ないし2、5ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2814042号の請求項1ないし2、5ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2814042号は、平成4年9月29日に特許出願され、平成10年8月14日にその特許の設定登録がなされ、その後、吉葉芳彦より請求項1、2、5,6に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年7月29日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正事項 a.特許請求の範囲の請求項1の記載中「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体を含有する」を、「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなる」と訂正する。 b.特許請求の範囲の請求項2の記載中「並びに添加剤及び/又は充填材を含有する」を、「並びに添加剤及び/又は充填材からなる」と訂正する。 c.特許請求の範囲の請求項5の記載中「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体を含有する」を、「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなる」と訂正する。 d.特許請求の範囲の請求項6の記載中「並びに添加剤及び/又は充填材を含有する」を、「並びに添加剤及び/又は充填材からなる]と訂正する。 e.発明の詳細な説明の段落【0007】(特許公報第2頁第3欄第39行目〜第41行目)における「アルコール溶性フェノール前駆体を含有するセメント質組成物」を、「アルコール溶性フェノール前駆体からなるセメント質組成物」と訂正する。 f.発明の詳細な説明の段落【0017】(特許公報第3頁第5欄第22行目〜第25行目)における「本発明のセメント質組成物は、混練の際に特に水を必要としないが、事前の成形性を考慮し少量の水を混和しても良い。また、押出し成形やロール成形時において、」を、「本発明のセメント質組成物は、押出し成形やロール成形時において、」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項a〜dは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 上記訂正事項e、fの訂正は、特許請求の範囲の記載内容と発明の詳細な説明の欄の記載内容との整合性を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。 そして、上記の各訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 ウ.訂正明細書の請求項1、2、5,6に係る発明 訂正明細書の請求項1、2、5、6に係る発明(以下「本件発明1,2,5,6」という)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、5,6に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなることを特徴とするセメント質組成物。 【請求項2】少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体、並びに添加剤及び/又は充填材からなることを特徴とするセメント質組成物。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項5】少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなるセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たことを特徴とするセメント質製品。 【請求項6】少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体、並びに添加剤及び/又は充填材からなるセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たことを特徴とするセメント質製品。」 エ.独立特許要件の判断 (甲各号証) 本件発明1,2,5,6に対して、申立人が提出した甲第1号証(特開平2-275741号公報)、及び甲第2号証(国際公開公報WO91/04291、参考資料2:特表平5-500676号公報参照)には、次の発明が記載されている。 甲第1号証; 水硬性セメントに反応性フェノール樹脂を含有させるセメント組成物及びセメント成形体の製造方法に係る次の発明が開示されている。 (1)2頁左上欄1〜5行には、「本発明のセメント組成物は、pH9以下の水硬性セメントと反応性フェノール樹脂と水とを含有するか、或いはこれに無機軽量骨材を含有するか、或いはこれに更に針状珪酸カルシウム結晶を含有する。」と記載される。 (2)12頁右上欄11〜15行には、「上記水硬性セメントと反応性フェノール樹脂には、水が含有される。この水は、水硬性セメント100重量部に対し、一般に、10〜80重量部の範囲で成形と硬化に適した量が含有される。」と記載される。 (3)2頁右下欄9行〜3頁左上欄3行には、「本発明のセメント組成物は、例えば、受型枠に入れられ、押型に圧力をかけて加圧成形され、所望の形状に成形される。そして、この成形体は、所定の条件下(例えば10〜60℃、相対湿度80%以上で5時間以上)で放置(養生)され、それにより水硬性セメントが硬化する。その後、例えば100〜200℃に加熱され、それにより反応性フェノール樹脂が硬化する。かくして、本発明のセメント成形体が得られる。 反応性フェノール樹脂を水硬性セメントよりも先に硬化させると、反応性フェノール樹脂の硬化温度が一般に100〜200℃と高いため組成物中の水が蒸発し、そのため水硬性セメントは充分な水と反応することができず、大きな曲げ強度は得られない。」と記載される。 甲第2号証(参考資料2:特表平5-500676号公報参照) ; フェノール樹脂とセメントとを含有する組成物に関する次の発明が記載されている。 即ち、参考資料2の特許請求の範囲請求項1には、「非酸性フェノール樹脂と、前記フェノール樹脂のエステル触媒と、セメントと、必要に応じて水とを含有してなる組成物」が記載される。 (対比・判断) (1)本件発明1について 本件発明1と甲第1号証及び甲第2号証(参考資料2参照)記載の各発明とを比較検討する。 先ず、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを比較検討する。 本件発明1のセメント質組成物は、「少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなる」ものである。即ち、本件発明1のセメント質組成物は、水を必須要件としないものである。 これに対して、甲第1号証のセメント組成物は、水が必須要件である。また、甲第1号証のものは、2頁右下欄9行〜3頁左上欄3行の記載からして、水硬性セメントを硬化させた後、反応性フェノール樹脂を硬化させている。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 つぎに、本件発明1と甲第2号証(参考資料2参照)に記載の発明とを比較検討する。 甲第2号証のセメント組成物は、「非酸性フェノール樹脂と、前記フェノール樹脂のエステル触媒と、セメントと、必要に応じて水とを含有してなる」ものであり、フェノール樹脂のエステル触媒を必須要件とするものである。 したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載の発明であるとはいえないし、また、甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 また、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と甲第2号証に記載の発明とを組み合わせて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1のものに「添加剤及び/又は充填材」を付加したものであるが、本件発明1が、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない以上、本件発明2は、本件発明1の判断と同様の理由により、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 (3)本件発明5について 本件発明5は、本件発明1のセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たセメント質製品に関するものであるが、本件発明1が、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない以上、本件発明5は、本件発明1の判断と同様の理由により、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 (4)本件発明6について 本件発明6は、本件発明2のセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たセメント質製品に関するものであるが、本件発明2が、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない以上、本件発明6は、本件発明2の判断と同様の理由により、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 また、他に本件発明1,2,5,6が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項ないし第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 ア.申立ての理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証(特開平2-275741号公報)及び甲第2号証(国際公開公報WO91/04291、参考資料2:特表平5-500676号公報参照)を提出して、本件発明1,2,5,6の特許は、特許法第29条第1項第3号或いは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨主張する。 イ.対比・判断 上記2.項エにて述べた理由により、本件発明1,2,5,6は、甲第1或いは甲第2号証に記載の発明であるとはいえず、甲第1或いは、及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるともいえない。 ウ.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1,2,5,6の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1,2,5,6の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セメント質組成物及びその製品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなることを特徴とするセメント質組成物。 【請求項2】 少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体、並びに添加剤及び/又は充填材からなることを特徴とするセメント質組成物。 【請求項3】 添加剤がポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項2記載のセメント質組成物。 【請求項4】 ポリアミド樹脂が脂肪族系アルコール溶性ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項3記載のセメント質組成物。 【請求項5】 少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなるセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たことを特徴とするセメント質製品。 【請求項6】 少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体、並びに添加剤及び/又は充填材からなるセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たことを特徴とするセメント質製品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、高強度でかつ耐熱性、耐水性に優れたセメント質組成物及びその製品に関する。 【0002】 【従来の技術】 水硬性セメントを用いて製造されるセメント製品の曲げ強度は、一般に50〜100kgf/cm2と低いため、古くから鉄筋が補強材として使われてきた。またセメント製品の曲げ強度を改善するため、近年ではガラス繊維や炭素繊維などの短い繊維を加えて補強することも行われているが、その曲げ強度も400kgf/cm2を越えることは稀である。 【0003】 一般に、セメント硬化体は混練に使用する水の量が少ない方が強度は高く、またその硬化体に含まれる気孔が少ない程その強度は高くなる。その例として、繊維や高圧縮力成形を必要とせずに、極めて高い曲げ強度を有するセメント硬化体が知られている(特公昭59-43431号公報等)。 【0004】 この特公昭59-43431号公報に開示されているセメント硬化体は、水硬性セメント、水及び水性有機重合体を2本ロールミルなどの高せん断力で練り混ぜ、セメント硬化体中の気孔の寸法や割合を制限することによるものである。しかしながら、これらの曲げ強度を改善したセメント硬化体は、水性有機重合体を含んでいるので、水に浸せきすると強度が著しく低下したり膨潤するなど、耐水性に劣るという問題点があった。 【0005】 また、イソシアナート化合物を親水性基と反応させて耐水性を向上させた例があるが(特開昭63-206342号公報)、このイソシアナート化合物は強い刺激臭を有しまた毒性を有するものもあることがら、混練や成形時における作業上の問題点、あるいは主たる反応生成物であるウレタン誘導体は耐熱性が低いという問題点があった。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、曲げ強度が高く、かつ耐水性、耐熱性において優れた特性を有するセメント質組成物及びその製品を提供することを目的としたものである。 【0007】 【課題を解決するための手段】 前記の目的を達成するため、本発明の要旨は、少なくとも1種の水硬性セメント及び実質的に水を含まないが重合により水を生成するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなるセメント質組成物及びこのセメント質組成物を、混練、成形後、加熱処理して硬化せしめて得たセメント質製品にある。 【0008】 【発明の実施の形態】 本発明は、前記のような構成とすることにより、前記特性を満たすセメント質組成物及びその製品が得られ、セメント質製品にあってはこれを水中に浸せきしても強度低下はほとんどなく、逆に強度増加を示す組成物もあることを見いだして完成に至ったものである。すなわち、本発明における硬化過程前の組成物中には、本質的に水は存在しないが、同組成物の加熱処理によってフェノール樹脂前駆体を重合硬化させると共に、重合によりその結果生成した水によってセメントの水和反応が起こり、高強度と極めて優れた耐水性と耐熱性を発現するセメント質組成物及びその製品を得ることができる。 【0009】 以下、本発明を詳細に説明するに、本発明において使用される水硬性セメントには慣用のセメントを用いることができる。その例としては、ポルトランドセメント(たとえば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなど),混合セメント(たとえば高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなど),特殊セメント(たとえばアルミナセメント、油井セメントなど),各種石膏類などである。水硬性セメントは1種で用いることもできるが、上記セメントを2種以上混合して用いることもできる。 【0010】 水を生成しながら重合するアルコール溶性フェノール樹脂前駆体は、その後の成形性を考慮して、適宜アルコール類で所要の粘度に調整して使用するが、不揮発分40〜70%のアルコール溶液が好適である。本発明におけるアルコール類としては、メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,シクロヘキサノール,フェノール,クレゾール,エチレングリコール,トリメチレングリコールなどの広範囲のアルコールが使用できる。 【0011】 前記フェノール樹脂前駆体の配合割合は、水硬性セメント100重量部に対して(充▲填▼材を混合する場合には、水硬性セメントに充▲填▼材を加えた粉粒体成分の100重量部に対して)、10〜60重量部、好ましくは12〜30重量部の範囲が良い。該フェノール樹脂前駆体が8重量部以下の場合には、水硬性セメントとの混練がよくできず硬化体の強度も低い。逆に60重量部を越えると硬化体にひび割れが発生したり、強度も頭打ちになるので経済的に好ましくない。 【0012】 水硬性セメントとフェノール樹脂前駆体、必要に応じて加えられる添加剤及び/又は充▲填▼材の混練には、アイリッヒミキサやスパイラルミキサなどの慣用の混合装置を用いて行うことができる。フェノール樹脂前駆体の配合割合が比較的少ない場合には、圧縮作用、せん断作用、へらなで作用を与えられるような混合装置が好ましい。その例としては、ニーダ,ウエットパンミル,ヘリカルロータ,ロールミル,バンバリーミキサなどを挙げることができる。 【0013】 混練したセメント質組成物は、ロール成形,押出し成形,プレス成形,あるいは型枠に流し込んで所用の寸法,形状に成形した後、該フェノール樹脂前駆体を重合させるために加熱処理される。加熱は一般には100〜300℃の範囲、好ましくは150〜250℃の範囲が良い。この加熱によって該フェノール樹脂前駆体を重合せしめると共に、重合によって生成した水によって水硬性セメントが水和反応し、高強度がもたらされる。 【0014】 一般に、フェノール樹脂はpH7以下の酸性領域で硬化反応が急速に進行するが、pH7を越えるアルカリ領域であっても150〜250℃のような温度で比較的長時間加熱すれば充分に硬化しうるものである。この硬化反応は主として次のようなモデル縮合反応によって進行することが知られている。 【0015】 更に、メチレン化反応によって生成された水は加熱下で水硬性セメントを急速に水和させ、セメント水和物を作る。高曲げ強度の発現機構については、上記のような過程を経て、フェノール樹脂の強固な三次元架橋構造とセメント水和物とが互いに交錯し合ってセメント製品の組織を成形し、高強度が達成できるものと解釈される。 【0016】 本発明のセメント質組成物は、加熱処理すれば高い曲げ強度が発現し、製品として十分使用しうるが、意外にも、加熱重合後、水中に浸せきすることによってその製品の強度が更に増大しうる組成物もあることを見い出した。 【0017】 本発明のセメント質組成物は、押出し成形やロール成形時において、混練物に可塑性を与えて成形性を向上させるために、グロセロールやポリエチレングリコールなどの添加剤を加えることもできる。 【0018】 本発明のセメント質組成物は、混練時に充填材を混合しても良い。その割合は混合物の成形性や硬化体の強度などを考慮して決める。充▲填▼材としては、慣用の砂,軽量骨材,木粉,重質炭酸カルシウムなど、またプラスチックやゴムなどの難燃材として使用される水酸化アルミニウム、着色の目的で使用される無機顔料などが挙げられる。 【0019】 本発明のセメント質製品を改質するために、ポリアミド樹脂が添加剤として好適に使用される。本発明に使用されるポリアミド樹脂は、一般にアルコール溶性である。これらアルコール溶性ポリアミド樹脂には、アミド結合-CONH-の水素の少なくとも一部がメトキシメチル基で置換されたもの、あるいは第2級アミンから生成するアミド結合-CON(R)-を有するものなどがある。 【0020】 これらポリアミド樹脂と前記フェノール樹脂前駆体の間でも、加熱硬化過程において、先に示したメチレン化反応に準ずる反応が進行するものと考えられる。このポリアミド樹脂は、一般に直接フェノール樹脂前駆体に添加し、溶解させて使用するが、エタノールやメタノールに溶解してからフェノール樹脂前駆体に添加して使用することもできる。ポリアミド樹脂の配合割合は、フェノール樹脂前駆体100重量部に対して、一般には0.5〜20重量部、更に3〜12重量部の範囲が好ましい。 【0021】 本発明のセメント質製品において、高曲げ強度を達成するために、粒子の粒度分布を多重モードに調整した水硬性セメントの使用や、ホットプレスのような加圧下での組成物の硬化などによって、気孔の調整を行うことができる。更に、充▲填▼材及び/又は水硬性セメントとフェノール樹脂との接着力を改善するために、公知のシランカップリング剤を添加することもできる。このシランカップリング剤として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが使用できる。 【0022】 【実施例】 以下、本発明をその実施例及び比較例について説明し、本発明の製品が高強度で耐水性かつ耐熱性に優れていることを明らかにする。 【0023】 〔実施例1〜3〕 普通ポルトランドセメントとアルミナセメント(電気化学工業〔株〕製、商品名:デンカアルミナセメント1号)を単独又は混合した100重量部の水硬性セメント、23重量部のアルコール溶性フェノール樹脂前駆体(昭和高分子〔株〕製、商品名:ショウノール)及び2.3重量部のグリセロールをモルタルミキサ中で6分間混練した。この混練物を、製▲麺▼用として使用される回転比が同じ一対のロール間を約20回通過させて厚さ約1.5mmのシート状に成形し、幅25mm、長さ75mmに切り出した。所要の寸法に切り出した10個の成形体を150℃で18時間加熱処理を行って硬化させ、セメント質製品を製造した。 【0024】 硬化後の製品のうち、5個は直ちに曲げ試験に供し、残りの5個は20℃の水中に3日間浸せきした後曲げ試験に供した。なお、曲げ試験は、支点間距離を50mmとして、JIS R 5201に準じて行った。得られた結果を表1に示す。 【0025】 【表1】 【0026】 〔実施例4〕 100重量部のアルミナセメント(電気化学工業〔株〕製、商品名:デンカアルミナセメント1号)、15重量部のアルコール溶性フェノール樹脂前駆体(昭和高分子〔株〕製、商品名:ショウノール)及び1.5重量部のグリセロールを卓上型ニーダーで6分間混練した。この混練物を受型枠に入れ、押し型枠に150kgf/cm2の圧力を加えて、厚さ約10mm,幅40mm,長さ160mmの寸法にプレス成形した。成形の後、150℃で18時間加熱処理を行って硬化させ、セメント質製品を製造した。硬化後の5個の製品について、支点間距離を100mmとして、JIS R 5201に準じて曲げ試験を行った。得られた結果は、曲げ強度(kgf/cm 2):529である。 【0027】 〔実施例5〕 材料には、前記実施例4と同じものを使用した。100重量部のアルミナセメント、22重量部のアルコール溶性フェノール樹脂前駆体及び1.8重量部のグリセロールを卓上型二ーダーで6分間混練した。この混練物を、真空押出し成形機を用いて、厚さ15mm,幅20mm,長さ160mmに成形した。成形後、前記実施例4と同様の方法で硬化させ、曲げ試験を行った。得られた結果は、曲げ強度(kgf/cm2):551である。 【0028】 〔実施例6〜10〕 アミド結合の水素をメトキシメチル基で約30%置換したN-メトキシメチル化ポリアミド樹脂(帝国化学産業〔株〕製、商品名:トレジン)及びエタノールを使用して、セメント質組成物の配合を表2に示すように変更した以外は、前記実施例1〜3と同様の操作を行ってセメント質製品を製造した。これから実施例1〜3と同様の方法で曲げ試験を行った。得られた結果を表2に示す。 【0029】 【表2】 【0030】 〔実施例11〜14〕 前記実施例6及び実施例9と同様の操作で得たセメント質製品の耐熱性を把握するために、さらに200℃で18時間または300℃で6時間加熱した。これから、前記実施例1〜3と同様の方法で曲げ試験を行って、加熱前の曲げ強度と比較した。得られた結果を表3に示す。 【0031】 【表3】 【0032】 〔比較例1,2〕 高い曲げ強度を有する厚さ約4mmのA社市販品を、幅25mm,長さ75mmに9個切り出し、そのうち3個を曲げ試験に供した。耐熱性を把握するために残りの製品を3個ずつ、それぞれ200℃で18時間及び300℃で6時間加熱した後、曲げ試験を行い、加熱前の曲げ強度と比較した。なお、曲げ試験は、支点間距離を50mmとして、JIS R 5201に準じて行った。得られた結 果を表4に示す。 【0033】 【表4】 【0034】 【発明の効果】 本発明は、上記のような構成のものであるから、高強度と極めて優れた耐水性と耐熱性を発現するセメント質組成物及びセメント質製品を得ることができる、といった効果がある。 |
訂正の要旨 |
a.特許請求の範囲の請求項1の記載中「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体を含有する」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなる」と訂正する。 b.特許請求の範囲の請求項2の記載中「並びに添加剤及び/又は充填材を含有する」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「並びに添加剤及び/又は充填材からなる」と訂正する。 c.特許請求の範囲の請求項5の記載中「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体を含有する」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「アルコール溶性フェノール樹脂前駆体からなる」と訂正する。 d.特許請求の範囲の請求項6の記載中「並びに添加剤及び/又は充填材を含有する」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「並びに添加剤及び/又は充填材からなる」と訂正する。 e.発明の詳細な説明の段落【0007】(特許公報第2頁第3欄第39行目〜第41行目)における「アルコール溶性フェノール前駆体を含有するセメント質組成物」を、「アルコール溶性フェノール前駆体からなるセメント質組成物」と訂正する。 f.発明の詳細な説明の段落【0017】(特許公報第3頁第5欄第22行目〜第25行目)における「本発明のセメント質組成物は、混練の際に特に水を必要としないが、事前の成形性を考慮し少量の水を混和しても良い。また、押出し成形やロール成形時において、」を、「本発明のセメント質組成物は、押出し成形やロール成形時において、」と訂正する。 上記訂正事項e、fの訂正は、特許請求の範囲の記載内容と発明の詳細な説明の欄の記載内容との整合性を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。 |
異議決定日 | 1999-08-19 |
出願番号 | 特願平4-301514 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YA
(C04B)
P 1 652・ 121- YA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 五十棲 毅 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 能美 知康 |
登録日 | 1998-08-14 |
登録番号 | 特許第2814042号(P2814042) |
権利者 | 前田製管株式会社 |
発明の名称 | セメント質組成物及びその製品 |
代理人 | 米屋 武志 |
代理人 | 米屋 武志 |