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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1020414
異議申立番号 異議1998-74160  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-02-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-08-24 
確定日 1999-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2718431号「シリカオルガノゾルおよびその製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2718431号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成2年6月18日
設定登録 平成9年11月14日
(特許第2718431号)
特許公報発行 平成10年2月25日
特許異議の申立て1 平成10年8月24日
(申立人1 株式会社日本触媒)
特許異議の申立て2 平成10年8月25日
(申立人2 株式会社ディスク)
取消理由通知 平成11年4月21日
意見書,訂正請求書 平成11年7月19日
2.訂正の要旨
平成11年7月19日付けの訂正請求における訂正の要旨は次のとおりである。
(1)訂正事項A
特許査定時の特許請求の範囲の請求項1に「1.450以下」(本件特許公報第1欄第3行)とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(2)訂正事項B
特許査定時の特許請求の範囲の請求項2に「1.450以下」(同公報第1欄末行〜第2欄第1行)とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(3)訂正事項C
特許査定時の明細書第4頁第2行及び第15頁第3行(同公報第3欄第25行及び第7欄第34行)に「1.450以下」とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(4)訂正事項D
特許査定時の明細書第4頁第19行〜第5頁第2行(同公報第4欄第19〜20行)に「1.450以下、好ましくは1.300〜1.450、さらに好ましくは1.350〜1.430」とあるのを「1.300〜1.416、好ましくは1.35〜1.42」に訂正する。
(5)訂正事項E
特許査定時の明細書第16頁第1行及び第19行、第17頁第5行、第11〜12行及び第19行、第18頁第5〜6行、第13行及び第19〜20行、第19頁第7行及び第13〜14行(同公報第8欄第1行、第16行、第22〜23行、第28行、第35行、第40行及び第48〜49行、第9欄第3行、第10行及び第16行)に「実施例1」とあるのを「参考例」に訂正する。
(6)訂正事項F
特許査定時の明細書第17頁第2行及び第13行(同公報第8欄第20行及び第30行)に「実施例2」とあるのを「実施例1」と訂正し、同第17頁第17行及び第18頁第7行(同公報第8欄第33行及び第42行)に「実施例3」とあるのを「実施例2」と訂正し、同第18頁第11行及び第19頁第1行(同公報第8欄第45行及び第9欄第5行)に「実施例4」とあるのを「実施例3」に訂正し、第19頁第5行及び第15行(同公報第9欄第9行及び第18行)に「実施例5」とあるのを「実施例4」に訂正し、同第20頁第1行、第23頁第1行及び第8行(同公報第9欄第22〜23行及び下から第5行、第10欄下から第3行)に「実施例1、2」とあるのを「参考例と実施例1」に訂正し、同第20頁第3行(同公報第10欄第1行)に「実施例1〜5」とあるのを「参考例、実施例1〜4」に訂正し、さらに同第22頁(同公報第5頁)の表1中、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」及び「実施例5」とあるのをそれぞれ「比較例」、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」及び「実施例4」と訂正する。
3.訂正の適否に対する判断
3.1 訂正の目的、新規事項、拡張・変更
3.1.1 訂正事項A及びBについて
上記訂正事項A及びBは、特許査定時の特許請求の範囲の請求項1及び2における屈折率を「1.450以下」より狭い範囲である「1.300〜1.416」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
そして、上記屈折率については、特許査定時の明細書第4頁第19行〜第5頁第1行(本件特許公報第4欄第19〜20行)に「屈折率が1.450以下、好ましくは1.300〜1.450」と記載され、さらに同明細書第22頁(同公報第5頁)の表1中実施例2〜5に屈折率が1.383〜1.416のものが記載されていたから、上記訂正事項A及びBは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
3.1.2 訂正事項C及びDについて
上記訂正事項C及びDは、上記訂正事項A及びBにより特許請求の範囲の請求項1及び2が訂正されたことに伴い、発明の詳細な説明の記載をこれに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
3.1.3 訂正事項E及びFについて
上記訂正事項E及びFは、上記訂正事項A及びBにより特許請求の範囲の請求項1及び2が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲から外れた特許査定時の実施例1を参考例とすると共に、特許査定時の実施例2〜5の番号を繰り上げて実施例1〜4に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
3.2 独立特許要件
3.2.1 訂正明細書に記載された発明
訂正明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は次のとおりである。
【請求項1】アルコキシシランの加水分解によって得られ、屈折率が1.300〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなることを特徴とするシリカオルガノゾル。
【請求項2】一般式RnSi(OR’)4-n(式中、R、R’は同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基またはビニル基を表わし、nは0〜3の整数である)で示されるアルコキシシランを、水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ、得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理し、次いで、前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換することを特徴とする屈折率が1.300〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなるシリカオルガノゾルの製造方法。
(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)
3.2.2 取消理由の概要
平成11年4月21日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)特許査定時の請求項1に係る発明は、下記引用例2〜4の記載を参照すれば、下記引用例1の実施例1-(3)に記載された発明であると認められるから、特許査定時の請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
(2)特許査定時の請求項1に係る発明は、下記引用例5及び6に記載された発明であるから、特許査定時の請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
(3)特許査定時の請求項2に係る発明は、下記引用例1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許査定時の請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(4)特許査定時の請求項2に係る発明は、下記引用例1、5〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許査定時の請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(5)特許査定時の明細書には記載不備があるから、特許査定時の請求項1及び2に係る発明の特許は明細書の記載が特許法第36条第3項及び4項の規定を満たしていないものに対してなされたものである。

引用例1 特開昭63-185439号公報
(申立人1の甲第1号証、申立人2の甲第7号証に該当に該当)
引用例2 株式会社日本触媒の入口治郎が作成したと認められる平成10年8月11日付けの「実験成績証明書」
(申立人1の甲第2号証に該当)
引用例3 日本化学会編「改訂4版 化学便覧基礎編II」丸善株式会社、平成5年9月30日発行、第II-515頁
(申立人1の甲第3号証に該当)
引用例4 Aldrich社試薬カタログ、1996-1997版、第687頁
(申立人1の甲第4号証に該当)
引用例5 ″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.114,No.2(1986),p.492-500
(申立人2の甲第1号証に該当)
引用例6 ″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.76,No.2(1980),p.418-433
(申立人2の甲第3号証に該当)
引用例7 特開平1-145317号公報
(申立人2の甲第6号証に該当)
3.2.3 各引用例の記載内容
(引用例1)
上記引用例1は、「無機酸化物微粒子のグリコール単分散体及びその製法」の発明に関し、
(1-1)「水和物粒子のアルコール性溶液懸濁体の製造 例1-(1)撹拌機、滴下口、温度計を備えた301のガラス製反応器にメタノール161及び28%アンモニウム水溶液1.5kgを添加して混合した。該混合物を20℃±0.5℃に調整し撹拌しなからテトラメチルシリケート1.0kgをメタノール21に希釈した溶液を滴下口より1時間かけて滴下し、滴下後も2時間撹拌を続け加水分解を行ないシリ力水和物微粒子1a1のアルコール性溶液懸濁体を製造した。」(第8頁左下欄下から第4行〜同頁右下欄第7行)、
(1-2)「水和物微粒子のグリコール懸濁体の製造例2-(1)外部より熱媒加熱し得る、撹拌機、滴下口、温度計、溜出ガス出口を備えた51のガラス製蒸発釜と、溜出ガス出口に続き溜出ガス凝縮器、減圧吸引口、凝縮液受け器からなる蒸発装置の蒸発釜にエチレングリコール1.2Kgを仕込み、撹拌しながら系内の圧力を150Torrに保持し熱媒温度を120℃に設定した。次いで滴下口より例1-(1)で製造されたシリ力水和物微粒子(1a1)の懸濁体16.7Kgを連続的に供給し、メタノール、水、アンモニア及び蒸気圧分のエチレングリコールを含むアルコール性溶媒を溜出させ、懸濁体の供給終了後も加熱を続け内温が55℃の時に溶媒溜出を停止した。このようにしてシリ力水和物微粒子(1a2)のグリコール懸濁体を製造した。この懸濁体中には微粒子を除いた溶媒中にエチレングリコール以外のアルコール性溶液(主にメタノール及び水)が13重量%含まれていた。」(第9頁左上欄第4行〜同頁右上欄第2行)、
(1-3)「無機酸化物微粒子のグリコール単分散体の製造 例3-(1) 例2-(1)におけるのと同様の装置を用い、釜中に例2-(1)で製造したシリ力水和物微粒子(1a2)のグリコール懸濁体を仕込み、常圧のまま熱媒により加熱し内温が199℃(エチレングリコール常圧沸点197.6℃)で30分間保持して熱処理を行ないシリカ微粒子(1c)のグリコール単分散体を製造した。昇温中にアルコール性溶媒を、又温度保持中エチレングリコールの一部を溜出させた。熱処理条件及び最終的なグリコール単分散体の性状及び微粒子の分析値を表-3に示す。」 (第9頁左下欄第8行〜同頁右下欄第1行)、
との記載があるほか、
(1-4)第11頁の表-3には、例番号「3-(1)」の熱処理条件及び最終的なグリコール単分散体の性状及び微粒子の分析値が示されている。
(引用例2)
上記引用例2には、引用例1の実施例3-(1)を追試し、得られたエチレングリコール分散体中のシリカ微粒子(1c)の屈折率(n1)を本件特許明細書の式[I](本件特許公報第2頁)に基いて求めた結果は、シリカ微粒子の重量分率(C1):27.3%、エチレングリコールの重量分率(C2):72.7%、エチレングリコール以外の溶媒(水)の重量分率(C3):0%、エチレングリコールの屈折率(n2):1.431、オルガノゾルの屈折率(25℃)(n4):1.433であるので、n1=(1.433-1.431×0.727)/0.273=1.437であったことが示されている。
(引用例3)
上記引用例3には、エチレングリコールの屈折率はHe(587.6nm)で「1.42743」であることが示されている。
(引用例4)
上記引用例4には、エチレングリコールの屈折率は「nD201.4310」であることが示されている。
(引用例5)
上記引用例5は、「立体的に安定なシリカ分散における引力」と題する報文であって、これの第495頁左欄第31〜41行には、Helden等の方法により、テトラエトキシシラン、アンモニア及び水からシリカ粒子を合成し、その粒子をオクタデシルアルコールでアルコールと表面シラノールのエステル反応により被覆し、過剰のアルコールを除去してシリカを純化し、遠心分離により上澄みを除いたこと、同じく第496頁右欄本文第9行〜第497頁左欄第3行には、コントラスト変化技術により求めた粒子の屈折率は、波長λ0=546nmで1.4364であり、波長λ0=436nmで1.4442であることが、同じく第496頁右欄のFig.2には、波長と粒子の屈折率の関係が示され、波長λ0が350nm〜650nmの間で屈折率が1.452〜1.434の間で変化していることが、示されている。
(引用例6)
上記引用例6は、「光散乱のコントラスト変化法:無極性溶媒混合物に分散されたシリカ球体」と題する報文であって、これの第422頁右欄下から第13行〜第423頁左欄第17行には、シリカ分散物を

シリカ粒子の表面にステアリルアルコールを化学吸着させることによりシリカを疎水性とし、過剰のステアリルアルコールを除去し精製して得られたシリカの乾燥粉末生成物は脂肪族溶媒に容易に分散可能であったことが、同じく第427頁右欄のTABLE IIに、コントラスト変化法により求められたシリカ粒子の屈折率は、波長λ0=546nmで1.440であり、波長λ0=436nmで1.447であることが、示されている。
(引用例7)
上記引用例7には、「真球状シリカ微粒子の製法」の発明に関し、
(7-1)「平均の組成がR1nSiO(4-n)/2(但し、R1は直接ケイ素原子に結合する炭素原子を有する有機基の平均組成を示し、nは0.005〜1の範囲の数をそれぞれ表わす。)で表わされるシリカ微粒子の製造法であって、加水分解、縮合可能な一般式SiX4で表わされるシラン化合物(A)、および一般式R2mSiX4-mで表わされるシラン化合物(B)[但し、一般式中Xはアルコキシ基、アシロキシ基、水酸基および水素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の基、R2は置換基があってもよいアルキル基、アリール基および不飽和脂肪族残基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基、mは1〜3の範囲の整数をそれぞれ表わす。]またはそれらの誘導体を、シラン化合物(B)および/またはその誘導体の全シラン化合物に対する比をケイ素原子の当量数の比で表わして0.0017〜1の範囲に混合して、少なくとも触媒としてのアンモニウムイオンと加水分解当量を超える水を含む有機性溶液中で加水分解、縮合することを特徴とする平均粒子径が0.05〜20μm、粒子径の標準偏差値が1.0〜1.5の範囲にあって、粒子の真比重が1.20〜2.10の範囲で制御された高純度な真球状シリカ微粒子の製法。」(特許請求の範囲)、
(7-2)「加水分解、縮合は、例えば上記した原料シラン化合物またはその有機溶剤溶液を上記有機性溶液に添加し、0〜100℃の範囲、好ましくは0〜70℃の範囲で30分〜100時間撹拌することによって行なわれる。」(第4頁右下欄第10〜14行)、
(7-3)「実施例1 撹拌機、滴下口、温度計を備えた301のガラス製反応器にメタノール141及び28%のアンモニア水溶液1.5Kgを添加した後更にアンモニアガスを吹き込み0.26Kgを吸収させて混合しアンモニア濃度を調整した。該混合液を10℃±0.5℃に調整し、撹拌しながらシラン化合物(A)としてテトラメトキシシラン1.22Kg及びシラン化合物(B)としてフェニルトリメトキシシラン0.79Kgの混合物をメタノール21に希釈した溶液を滴下口より1時間かけて滴下し、滴下後内温を50℃まで上げて5時間撹拌を続け熟成して加水分解を行い、シリカ微粒子(a)の有機(メタノール)性溶液懸濁体を製造した。・・(中略)・・なお、反応後懸濁体より粒子を分離した清澄な有機性溶液中に残存するケイ素を原子吸光分析により測定した所10ppm以下で、原料シラン化合物はほぼ完全に粒子になっていることを確認した。」(第6頁左上欄第9行〜同頁右上欄第11行)、
との記載がある。
3.2.4 対比・検討
{取消理由(1)について}
上記引用例1にはシリカ粒子の屈折率については何も示されていないが、引用例1の実施例3-(1)を追試し、エチレングリコールの屈折率(n2)として上記引用例4に記載されている「1.4310」を使用し、本件特許明細書の式[I](本件特許公報第2頁)に基いてシリカ粒子の屈折率(n1)を求めると上記引用例2に示されているように、n1=1.437となり、同じくn2として引用例3に示されている「1.42743」を使用すると、n1=(1.433-1.427×0.727)/0.273=1.486となる。
したがって、引用例2〜4の記載を参照しても、引用例1の実施例1-(3)で得られたシリカオルガノゾル中のシリカ粒子の屈折率(n1)は本件訂正発明1における「1.300〜1.416」という数値範囲内のものであるとは認められないから、本件訂正発明1は引用例1に記載された発明であるとすることはできない。
{取消理由(2)について}
上記引用例5に記載されているシリカ粒子の屈折率は「1.452〜1.434」であり、上記引用例6に記載されているシリカ粒子の屈折率は「1.440〜1.447」であるから、いずれも本件訂正発明1における「1.300〜1.416」という数値範囲内のものではないので、本件訂正発明1は引用例5及び引用例6に記載された発明であるとすることはできない。
{取消理由(3)について}
引用例1には、「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ、次いで、前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換することを特徴とするシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなるシリカオルガノゾルの製造方法」の発明が記載されているとは認められるが、「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ」た後であって、「前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換する」前に、「得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理」することを示唆する記載はなく、しかも、シリカ粒子の屈折率については何も記載されていない。
また、引用例2は引用例1の実施例1-(3)の追試結果であり、また、引用例3及び4にはエチレングリコールの屈折率が記載されているにすぎない。
そして、本件訂正発明2が「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ」た後であって、「前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換する」前に、「得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理」することによりシリカオルガノゾル中に分散されているシリカ粒子の屈折率を「1.300〜1.416」という特定の数値範囲のものとなし得ることは、本件特許明細書中訂正後の実施例1〜4と比較例1及び2の結果を表した「表1」の記載から確認できることである。
してみれば、引用例1〜4の記載を総合して勘案したところで本件訂正発明2を想到することが当業者にとり容易であるとすることはできない。
{取消理由(4)について}
引用例1には、「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ、次いで、前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換することを特徴とするシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなるシリカオルガノゾルの製造方法」の発明が記載されているとは認められるが、「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ」た後であって、「前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換する」前に、「得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理」することを示唆する記載はなく、しかも、シリカ粒子の屈折率については何も記載されていない。
一方、上記引用例7の(7-3)には、10℃±0.5℃のアルコール、アンモニア及び水の混合水溶液中に撹拌しながらアルコキシシランを滴下し、滴下後に50℃まで温度を上げて撹拌を続け「熟成して」加水分解を行い、シリカ微粒子のアルコール性溶液懸濁液を製造する方法が記載されているとは認められるが、「熟成して」との記載に引続き「加水分解を行い」との記載があるばかりか「反応後懸濁体より粒子を分離した清澄な有機性溶液中に残存するケイ素を原子吸光分析により測定した所10ppm以下で、原料シラン化合物はほぼ完全に粒子になっていることを確認した。」との記載があること、さらには上記(7-2)の記載をも参照すれば、引用例7に記載のものにおける「熟成」とは未反応のアルコキシシランの加水分解反応を行わせることを示しているものであることは明らかである。
それに対し、本件訂正発明2における「得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理」する工程は、「水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成」させた後に行われる処理であって、引用例7における「熟成」工程とは明確に相違する。
加えて、引用例7には、得られたシリカ微粒子のアルコール性溶液懸濁液中のシリカ微粒子の屈折率に関する記載はない。
なお、引用例5には屈折率が「1.452〜1.434」のシリカ粒子が、引用例6には屈折率が「1.440〜1.447」のシリカ粒子が記載されているにすぎない。
そして、本件訂正発明2が「アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ」た後であって、「前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換する」前に、「得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理」することによりシリカオルガノゾル中に分散されているシリカ粒子の屈折率を「1.300〜1.416」という特定の数値範囲のものとなし得ることは、本件特許明細書中訂正後の実施例1〜4と比較例1及び2の結果を表した「表1」の記載から確認できることである。
してみれば、引用例1,5〜7の記載を総合して勘案したところで本件訂正発明2を想到することが当業者にとり容易であるとすることはできない。
{取消理由(5)について}
取消理由(5)は、「本件特許発明においては、シリカ粒子の屈折率を式[1]にしたがって算出する。しかし、式[1]においては、シリカ粒子の重量分率で除することになっているため、シリカ粒子の重量分率が低いほどオルガノゾルや有機溶媒の屈折率の測定誤差の影響が大きくなる。例えば、シリカ粒子の重量分率が0.1の場合、オルガノゾルや有機溶媒の屈折率の測定誤差は10倍となってシリカ粒子の屈折率の計算値に大きく影響する。例えば、エチレングリコールの場合、その20℃の屈折率は1.42743(引用例3)および1.4310(引用例4)であって、0.00357の差異(測定誤差)がある。つまり、エチレングリコールなどの有機分散媒の屈折率の測定には、0.25%(=0.00357/1.4310)程度の誤差は不可避なものである。したがって、シリカ粒子の重量分率が0.1であり、有機分散媒の重量分率が0.9の場合、シリカ粒子の屈折率の計算値には、0.03213の誤差が生じることになる。なお、上記の甲第3,4号証に記載の屈折率は20℃のものであるが,25℃の場合も同様の誤差が生じることは技術常識から明白である。このため、特許査定時の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明においては、式[1]で算出されるシリカ粒子の屈折率は1.450以下とされているが、例えばエチレングリコールの場合、その0.25%程度の屈折率の測定誤差によって、シリカ粒子の屈折率の上限が1.450±0.032の範囲で変動することになる。そうしてみると、特許査定時の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、その外延が明瞭に示されているとはいえない。したがって、本件特許は、明細書の記載が特許法第36条第3項及び第4項の規定を満たしていないものに対してなされたものである。」というものである。
ところで、引用例3及び4には、エチレングリコールの屈折率をどのような測定方法で測定したか等の測定条件は何も記載されていない。
それに対し、本件特許明細書には屈折率を「アッベ屈折計」(本件特許公報第10欄第6行)で測定したことが記載されており、アッベ屈折計の測定精度は、例えば特許権者が参考資料1として提示した「ATAGO社精密アッベ屈折計3T取扱説明書Cat.No.1230」の第9頁右欄に「±0.0001」と記載されているように、非常に小さいことは明らかであって、他にこれに反する証拠はない。
しかも、上述の程度の測定誤差範囲であれば、本件訂正発明1及び2における屈折率の範囲「1.300〜1.416」に対比すると無視できることは明らかである。
したがって、本件特許明細書は、記載不備はなく、特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしている。
3.2.5 独立特許要件に対する結論
したがって、上記「3.2.4」で述べたように、本件訂正発明は独立特許要件を備えているものと認める。
3.3 訂正請求の認否
上記「3.1」及び「3.2.5」に述べたとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また同条第3項で準用する同法第126条第2項から第4項までの規定にそれぞれ適合するので、上記訂正請求は認める。
4. 特許異議の申立についての判断
4.1 申立理由の概要
申立人1(株式会社日本触媒)は、証拠として甲第1号証(特開昭63-185439号公報、上記引用例1に該当)、甲第2号証(株式会社日本触媒の入口治郎が作成したと認められる平成10年8月11日付けの「実験成績証明書」、上記引用例2に該当)、甲第3号証(日本化学会編「改訂4版 化学便覧基礎編II」丸善株式会社、平成5年9月30日発行、第II-515頁、上記引用例3に該当)及び甲第4号証(Aldrich社試薬カタログ、1996-1997版、第687頁、上記引用例4に該当)を提示し、
(A)特許査定時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第2〜4号証の記載を参照すると、甲第1号証に記載された発明であると認められるから、該発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである、
(B)特許査定時の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、
(C)本件特許明細書には記載不備があるから、特許査定時の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、明細書の記載が特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしていないものに対してなされたものである、
ので、特許を取り消すべきものである旨を主張している。
また、申立人2(株式会社ディスク)は、証拠として甲第1号証(″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.114,No.2(1986),p.492-500、上記引用例5に該当)、甲第2号証(″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.81,No.2(1981),p.354-368)、甲第3号証(″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.76,No.2(1980),p.418-433、上記引用例6に該当)、甲第4号証(″Journal of Colloid and Interface Science″,Vol.26(1968),P.62-69)、甲第5号証(「ATAGO社アッベ屈折計2T取扱説明書Cat.No.1220」、第8,23、24頁)、甲第6号証(特開平1-145317号公報、上記引用例7に該当)及び甲第7号証(特開昭63-185439号公報、上記引用例1に該当)を提示し、
(D)特許査定時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記甲第1〜4号証に記載された発明であるから、該発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである、
(E)特許査定時の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、
ので、特許を取り消すべきものである旨を主張している。
4.2 当審の判断
4.2.1 本件発明
上記「3.3」で述べたように、上記訂正請求は認めるので、本件特許請求の範囲の請求項1及び2にかかる発明は、上記「3.2.1」に摘記した訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのもの(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)である。
4.2.2 理由(A)〜(C)について
申立人1の申立理由(A)〜(C)及びその申立理由で引用された甲第1〜4号証は、当審における取消理由通知で通知した理由(1)、(3)(5)及び引用例1〜4と同じであるから、上記「3.2.4」で述べたように、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、また、本件発明2は甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、さらに、本件特許明細書には記載不備あるともすることはできないので、申立人1の申立理由(A)〜(C)はいずれも理由がない。
4.2.3 理由(D)及び(E)について
(甲各号証の記載)
申立人2の提示した甲第1、3,6及び7号証は、それぞれ上記引用例5、6,7及び1に該当する。
同じく甲第2号証は甲第1号証の第495頁左欄第32行で引用しているシリカ粒子の製法に関する文献であり、同じく甲第4号証は甲第2号証の第355頁右欄下から第14行及び甲第3号証の第422頁右欄下から第10行で引用しているシリカ粒子の製造方法に関する文献である。
同じく甲第5号証の第8頁には、一般に屈折率は「ntD n:屈折率であることを表す。t:温度(℃) D:ナトリウムのD線(589nm)」と表記されることが示されている。
{理由(D)について}
甲第1号証に記載されているシリカ粒子の屈折率は「1.452〜1.434」であり 甲第3号証に記載されているシリカ粒子の屈折率は「1.440〜1.447」であるから、いずれも本件発明1における「1.300〜1.416」という数値範囲内のものではない。
また、甲第2号証には甲第1号証に記載されているシリカ粒子の製造方法が、甲第4号証には甲第2号証及び甲第3号証に記載されているシリカ粒子の製造方法が、それぞれ示されてはいるものの、そのシリカ粒子の屈折率に関する記載はない。
してみると 甲第1〜4号証のいずれにも屈折率が「1.300〜1.416」のシリカ粒子は記載も示唆もされていないから、本件発明1は甲第1〜4号証に記載された発明であるとすることはできない。
{理由(E)について}
甲第1号証は上記引用例5に、甲第3号証は上記引用例6に、甲第6号証は上記引用例7に、甲第7号証は上記引用例1に、それぞれ該当する。
そして、甲第2号証には甲第1号証に記載されているシリカ粒子の製造方法が、甲第4号証には甲第2号証及び甲第3号証に記載されているシリ力粒子の製造方法が、また、甲第5号証には屈折率の表記方法が、それぞれ記載されているにすぎないから、既に上記「3.2.4」の「{取消理由(4)について}」で述べたのと同様の理由により、本件発明2は甲第1〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
5. むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び2の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シリカオルガノゾルおよびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
(1)アルコキシシランの加水分解によって得られ、屈折率が1.300〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなることを特徴とするシリカオルガノゾル。
(2)一般式RnSi(OR’)4-n (式中、R、R’は、同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基またはビニル基を表わし、nは0〜3の整数である)で示されるアルコキシシランを、水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ、
得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理し、
次いで、前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換することを特徴とする 屈折率が1.300〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなるシリカオルガノゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
発明の技術分野
本発明は、シリカオルガノゾルおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは低屈折率の透明保護膜などを製造するために好適に使用することができるシリカオルガノゾルおよびその製造方法に関する。
発明の技術的背景
シリカオルガノゾルは、ガラス等の基体表面に形成される透明保護膜、あるいはプラスチック成形品などの配合剤として使用されている。
従来、このようなシリカオルガノゾルは、種々の方法で製造されており、例えばアルコキシシランを水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒中で加水分解・重縮合させてシリカ粒子を生成させ、次いでこのシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液中の混合溶媒をグリコールなどの有機溶媒で置換することにより製造されてきた。
ところで、特開昭63-185439号公報には、加水分解可能な有機金属酸化物をアルコールと水との混合溶媒中で加水分解して水和物微粒子の分散液を調製し、次いで該分散液の水を含むアルコールをグリコール溶媒に置換した後、加熱処理することを特徴とする無機酸化物微粒子のグリコール単分散液の製造方法が開示されている。
しかしながら、このような方法で製造したシリカ粒子のグリコール単分散液では、液中に含まれているシリカ粒子の屈折率が高く、このため、このようなシリカ粒子を透明保護膜、プラスチック配合剤などに使用すると、必ずしも低屈折率のものが得られないという問題点があった。
発明の目的
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、屈折率の低い透明保護膜、プラスチック成形品などを製造することができるシリカオルガノゾルおよびその製造方法を提供することを目的としている。
発明の概要
本発明に係るシリカオルガノゾルは、アルコキシシランの加水分解によって得られ、屈折率が1.300〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されてなることを特徴としている。
このようなシリカオルガノゾルは、
一般式RnSi(OR’)4-n (式中、R、R’は、同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基またはビニル基を表わし、nは0〜3の整数である)で示されるアルコキシシランを、水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させ、
得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理し、
次いで、前記シリカ粒子分散液中の少なくとも水の一部を有機溶媒で置換することによって製造することができる。
発明の具体的説明
以下、本発明に係るシリカオルガノゾルおよびその製造方法について具体的に説明する。
本発明に係るシリカオルガノゾルは、アルコキシシランの加水分解によって得られ、屈折率が1.300〜1.416、好ましくは1.350〜1.416であるシリカ粒子が有機分散媒中に分散されている。
本発明に係るシリカオルガノゾル中のシリカ粒子の屈折率(n1(25℃))は、下記式[I]によって算出される値で定義される。

但し、
n2:有機分散媒の屈折率(25℃)、
n3:水の屈折率(25℃)、
n4:シリカオルガノゾルの屈折率(25℃)、
C1:シリカ粒子の重量分率、
C2:有機分散媒の重量分率、
C3:水の重量分率。
このような屈折率nlは、具体的には下記のようにして計算することができる。
(イ)屈折計を用いて、シリカオルガノゾルの屈折率n4を測定するとともに、有機分散媒の屈折率n2および水の屈折率n3を測定する。
(ロ)シリカオルガノゾル中のシリカ粒子の濃度、および水の濃度を測定し、シリカ粒子の重量分率C1、有機分散媒の重量分率C2および水の重量分率C3を算出する。
ハ)上記のようにして計算された屈折率n2、n3およびn4、並びに重量分率C1、C2およびC3を上記式[I]に代入して計算する。
本発明に係るシリカオルガノゾル中に含まれるシリカ粒子は、その平均粒径が約0.01μm程度の小粒径である場合もあり、また10μm以上の大粒径である場合もある。このようなシリカ粒子は、有機分散媒中に単分散しており、粒度分布もシャープであり、下記式[II]によって定義されるCV値は0.2以下であることが好ましい。
CV=(D2-D1)/(2DP)・・・[II]
式中、
D2 :重量累計84%の時の粒径、
D1 :重量累計16%の時の粒径、
DP:平均粒径。
また、本発明に係るシリカオルガノゾルでは、シリカ粒子は、SiO2換算で50重量%程度の高濃度で存在しても、シリカオルガノゾル中に安定した分散状態で存在することができる。
本発明に係るシリカオルガノゾルの有機分散媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングルコール、グリセリンなどの1価または多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類が用いられる。また、シリカオルガノゾルの用途などに応じて上記以外の有機溶媒を用いることもできる。
次に、本発明に係るシリカオルガノゾルの製造方法を詳述する。
第1工程
本発明に係るシリカオルガノゾルの製造方法では、まず、一般式RnSi(OR’)4-n (式中、R、R’は、同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基またはビニル基を表わし、nは0〜3の整数である)で示されるアルコキシシランを、水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解・重縮合してシリカ粒子を生成させる。
このようなアルコキシシランとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどが用いられる。
本発明では、これらのアルコキシシランを単独で用いてもよく、2種以上組合わせて用いてもよい。
水と混合される有機溶媒としては、アルコール類が好ましく用いられ、特に好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなどの低級アルコールが用いられる。また、これらの低級アルコールの混合溶媒も好ましく用いることができる。
また本発明では、水とアルコールとの混合溶媒に、アルコール以外の有機溶媒を混合して用いることもできる。このような場合には、水およびアルコールと相溶性がよく、しかも上記アルコキシシランと相溶性がよい有機溶媒が使用される。
このような有機溶媒として、エチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケ卜ンなどのケトン類などが用いられる。
また、アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合するに際して、アルカリ触媒を反応系に共存させることにより、上記アルコキシシランの加水分解反応および重縮合反応を促進することができる
このようなアルカリ触媒としては、アンモニア、アミン、アルカリ金属水酸化物、第4級アンモニウム化合物、アミン系カップリング剤など、水溶液中でアルカリ性を示す化合物が用いられ、反応混合物のpHが8〜13となるような量で用いられる。
アルコキシシランを水と有機溶媒との混合溶媒中で加水分解、重縮合してシリカ粒子を生成させるには、具体的には、例えば水-アルコール混合溶媒を攪拌しながら、この混合溶媒にアルコキシシランを添加し、例えばアンモニア水のようなアルカリ触媒の存在下または不存在下で反応させればよい。
この際、水は、アルコキシシランを構成するSi-OR基1モル当り2〜50モル、好ましくは5〜25モルとなるような量で用いられる。
アルコキシシランの加水分解・重縮合反応は、用いられる溶媒の沸点以下の温度で、好ましくは沸点より5〜10℃程度低い温度で行なわれるが、オートクレーブ等の耐熱耐圧容器を用いる場合には、この温度よりもさらに高い温度で行なうこともできる。
上記のような条件でアルコキシシランを加水分解すると、アルコキシシランの重縮合が三次元的に進行し、シリカ粒子が生成し、成長する。
さらにシリカなどの金属酸化物をシード粒子として、このシード粒子をあらかじめ水と有機溶媒との混合溶媒中に分散させ、この分散液中でアルコキシシランの加水分解・重縮合反応を行なわせるとシード粒子を核としてシリカが成長し、比較的大きな粒径を有するシリカ粒子を製造することができる。また、このようなシリカ粒子の製造方法は、例えば、本出願人が本発明よりも先に出願した特開昭62-275005号および特願平1-310023号などに記載されている。
以上のようにすることにより、通常、シリカ粒子の濃度がSiO2換算で2〜20重量%であるシリカ粒子の分散液が得られる。
第2工程
次いで、このようにして得られたシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理することにより、分散液中のシリカ粒子を熟成する。この熟成操作によりシリカ粒子を核としてシリカ粒子分散液中に残存するアルコキシシランの加水分解、重縮合反応を進行させ、同時にシリカ粒子中に残存するアルコキシド残基を加水分解、重縮合して、ほとんどアルコキシド残基が残存していないほぼ一定の大きさの球状シリカ粒子に成長させる。
この熟成は、通常、50〜200℃で行なわれ、分散液に含まれている低沸点溶媒の沸点±10℃の温度で行なうことが好ましい。
この工程は、減圧から加圧の任意の圧力下で行なうことができる。
また、シリカ粒子分散液の適当な加熱保持時間は、加熱温度によって大きく変化するが、通常、0.5〜2時間、好ましくは1〜10時間である。一般的に加熱温度が高い程、加熱保持時間を短くできる。
上記のようなシリカ粒子の熟成工程を、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類の共存下で行なうことにより、より一層シリカ粒子の熟成が促進される。このため、有機溶媒として多価アルコール類を用いていない場合には、多価アルコール類をシリカ粒子の熟成工程前にアルコキシシランおよび水と有機溶媒との混合溶媒からなる反応系に添加することが好ましい。
このような多価アルコール類は、前記アルコキシシラン1モルに対して10モル以下の量で、特に1.0〜10モルの量で前記反応系に存在していることが好ましい。
第3工程
このようにして水と有機溶媒との混合溶媒中でシリカ粒子を熟成した後、シリカ粒子分散液中のすくなくとも水の一部を有機溶媒で置換することにより、本発明に係るシリカオルガノゾルが得られる。
置換される有機溶媒としては、シリカオルガノゾルの用途によって上述したような有機溶媒が使用される。
例えば、水-エタノールを分散媒とするシリカ粒子分散液からエタノールを分散媒とするシリカオルガノゾルを得る場合は、該分散液にエタノールを加えたのちに加熱し、水を留去する。また、この分散液をエチレングリコールと置換する場合は、エチレングリコールを加えて加熱し、水とエタノールを留去する。
また、限外濾過法による置換も採用できる。
このようにして製造されたシリカオルガノゾル中に残留する溶媒置換前の水を含む分散媒の濃度は、前記溶媒置換の方法、およびシリカオルガノゾルの用途に応じて種々の値をとり得るが、約1重量%以下とすることも可能である。
発明の効果
本発明に係るシリカオルガノゾルの製造方法によれば、従来のシリカオルガノゾルに比較して低屈折率のシリカ粒子が分散されたシリカオルガノゾルが製造される。
そしてこのような製造方法などにより得られる本発明に係るシリカオルガノゾルは、有機分散媒中に分散されているシリカ粒子の屈折率が1.300〜1.416と低いので、このシリカオルガノゾルを使用して製造した透明保護膜、プラスチック材料成形品などは従来に比べて低屈折率である。
このように本発明によれば、低屈折率のシリカ粒子が分散されたシリカオルガノゾルが製造できるが、この理由は、以下のように推定される。
すなわち、本発明によれば、水と有機溶媒との混合溶媒中にシリカ粒子が分散しているシリカ粒子分散液を加熱処理しているので、シリカ粒子中に残存するアルコキシド残基が水により加水分解、重縮合され、このため低屈折率のシリカ粒子が分散されたシリカオルガノゾルが得られると考えられる。
次に実施例を挙げて、本発明につき、さらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に何ら制限されるものではない。
[実施例]
参考例
エタノール3930g、28%アンモニア水710gおよび純水5190gの混合溶液を35℃に保持し、この混合溶液を攪拌しながら、この混合溶液中にテトラエトキシシラン180gを加えた。添加終了後、さらに2時間攪拌を続け、次いでこの混合溶液中に500gの28%アンモニア水を加えてpHを12.5に調整することにより、水-エタノール混合溶液中にシリカ粒子が分散した状態のシリカ粒子分散液を得た。
次いで、得られたシリカ粒子分散液を還流器付ガラス製容器に入れ、所定温度に設定した後、その温度で分散媒が沸騰する圧力になるまで減圧し、表1に示す条件で加熱保持してシリカ粒子を熟成した。
しかる後 このようにしてシリカ粒子を熟成したシリカ粒子分散液を、表1に示す有機溶媒と温度条件で、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒置換し、参考例のシリカオルガノゾルを得た。溶媒置換後のシリカオルガノゾル中に残存する溶媒置換前の水を含む混合溶媒の量は1重量%以下であった。
実施例1
テトラエトキシシラン180gの代りにメチルトリエトキシシラン74gとテトラエトキシシラン90gを用いた他は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液を得た。
次いで、得られたシリカ粒子分散液をオートクレーブに入れて表1に示す温度に設定した後、この温度における溶媒の蒸気圧をそのまま保持し、表1に示す条件で加熱保持した。
しかる後、表1に示す有機溶媒と温度以外は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液中の水とエタノールとを溶媒置換し、実施例1のシリカオルガノゾルを得た。溶媒置換後のシリカオルガノゾル中に残存する溶媒置換前の水を含む混合溶媒の量は1重量%以下であった。
実施例2
エタノール100g分をエチレングリコールに代えた他は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液を得た。
次いで、得られたシリカ粒子分散液をオートクレーブに入れて表1に示す温度に設定した後、この温度における溶媒の蒸気圧をそのまま保持し、表1に示す条件で加熱保持した。
しかる後、表1に示す有機溶媒と温度以外は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液中の水とエタノールとを溶媒置換し、実施例2のシリカオルガノゾルを得た。溶媒置換後のシリカオルガノゾル中に残存する溶媒置換前の水を含む混合溶媒の量は1重量%以下であった。
実施例3
参考例におけるエタノール3930gのうちのエタノール1500gを分子量3000のポリプロピレングリコールに代えた他は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液を得た。
次いで、得られたシリカ粒子分散液を還流器付ガラス製容器に入れ、所定温度に設定した後、その温度で分散媒が沸騰する圧力になるまで減圧し、表1に示す条件で加熱保持した。
しかる後、表1に示す有機溶媒と温度以外は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液中の水とエタノールとを溶媒置換し、実施例3のシリカオルガノゾルを得た。溶媒置換後のシリカオルガノゾル中に残存する溶媒置換前の水を含む混合溶媒の量は1重量%以下であった。
実施例4
エタノール3930gのうちのエタノール100gをメチルセルソルブに代えた他は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液を得た。
次いで、得られたシリカ粒子分散液をオートクレーブに入れて表1に示す温度に設定した後、この温度における溶媒の蒸気圧をそのまま保持し、表1に示す条件で加熱保持した。
しかる後、表1に示す有機溶媒と温度以外は参考例と同様にしてシリカ粒子分散液中の水とエタノールとを溶媒置換し、実施例4のシリカオルガノゾルを得た。溶媒置換後のシリカオルガノゾル中に残存する溶媒置換前の水を含む混合溶媒の量は1重量%以下であった。
比較例1、2
シリカ粒子の熟成を行なわなかった以外はそれぞれ参考例、実施例1と同様にして比較例1、2のシリカオルガノゾルを製造した。
以上のようにして得られた参考例、実施例1〜4および比較例1、2のシリカオルガノゾルのそれぞれの屈折率、平均粒径、CV値および表面積を測定した。
それぞれの物性値の測定法は以下の通りである。
A.屈折率
アツベ屈折計でそれぞれのシリカオルガノゾルの25℃における屈折率を測定し、上記[I]式(5頁参照)に従ってシリカ粒子の屈折率を算出した。
B.平均粒径
光透過式粒度測定装置(堀場製作所製CAPA-700)によりそれぞれのシリカオルガノゾル中のシリカ粒子の平均粒径を測定した。
C.CV値
同上の測定装置によって重量累計84%の時の粒径D2、および重量累計16%の時の粒径D1を求め、上記平均粒径Dpとから、上記[II]式(6頁参照)に従ってシリカ粒子のCV値を算出した。
D.表面積
それぞれのシリカオルガノゾルを乾燥することによりシリカオルガノゾル中の有機溶媒を除去し、次いで400℃で2時間焼成することにより得られたシリカ粒子をBET法によりその表面積を求めた。
以上の測定結果を表1に示す。

表1の結果から、参考例、実施例1のシリカオルガノゾルとシリカ粒子の熟成を行なわなかった比較例1、2のシリカオルガノゾルとを比較すると、それぞれに含まれるシリカ粒子の平均粒径、CV値および表面積に差はないものの、比較例1、2のシリカオルガノゾルに含まれるシリカ粒子の屈折率はいずれも1.450を越えており、これに対し、参考例、実施例1のシリカオルガノゾルに含まれるシリカ粒子の屈折率はいずれも1.450未満であることが分かる。
 
訂正の要旨 (1)訂正事項A
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許査定時の特許請求の範囲の請求項1に「1.450以下」(本件特許公報第1欄第3行)とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(2)訂正事項B
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許査定時の特許請求の範囲の請求項2に「1.450以下」(同公報第1欄末行〜第2欄第1行)とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(3)訂正事項C
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許査定時の明細書第4頁第2行及び第15頁第3行(同公報第3欄第25行及び第7欄第34行)に「1.450以下」とあるのを「1.300〜1.416」に訂正する。
(4)訂正事項D
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許査定時の明細書第4頁第19行〜第5頁第2行(同公報第4欄第19〜20行)に「1.450以下、好ましくは1.300〜1.450、さらに好ましくは1.350〜1.430」とあるのを「1.300〜1.416、好ましくは1.35〜1.42」に訂正する。
(5)訂正事項E
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許査定時の明細書第16頁第1行及び第19行、第17頁第5行、第11〜12行及び第19行、第18頁第5〜6行、第13行及び第19〜20行、第19頁第7行及び第13〜14行(同公報第8欄第1行、第16行、第22〜23行、第28行、第35行、第40行及び第48〜49行、第9欄第3行、第10行及び第16行)に「実施例1」とあるのを「参考例」に訂正する。
(6)訂正事項F
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許査定時の明細書第17頁第2行及び第13行(同公報第8欄第20行及び第30行)に「実施例2」とあるのを「実施例1」と訂正し、同第17頁第17行及び第18頁第7行(同公報第8欄第33行及び第42行)に「実施例3」とあるのを「実施例2」と訂正し、同第18頁第11行及び第19頁第1行(同公報第8欄第45行及び第9欄第5行)に「実施例4」とあるのを「実施例3」に訂正し、第19頁第5行及び第15行(同公報第9欄第9行及び第18行)に「実施例5」とあるのを「実施例4」に訂正し、同第20頁第1行、第23頁第1行及び第8行(同公報第9欄第22〜23行及び下から第5行、第10欄下から第3行)に「実施例1、2」とあるのを「参考例と実施例1」に訂正し、同第20頁第3行(同公報第10欄第1行)に「実施例1〜5」とあるのを「参考例、実施例1〜4」に訂正し、さらに同第22頁(同公報第5頁)の表1中、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」及び「実施例5」とあるのをそれぞれ「比較例」、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」及び「実施例4」と訂正する。
異議決定日 1999-09-08 
出願番号 特願平2-159187
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C01B)
P 1 651・ 534- YA (C01B)
P 1 651・ 113- YA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 雨宮 弘治  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 唐戸 光雄
能美 知康
登録日 1997-11-14 
登録番号 特許第2718431号(P2718431)
権利者 触媒化成工業株式会社
発明の名称 シリカオルガノゾルおよびその製造方法  
代理人 菅井 英雄  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 米澤 明  
代理人 青木 健二  
代理人 内田 亘彦  
代理人 白井 博樹  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 韮澤 弘  
代理人 阿部 龍吉  

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