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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B65H
管理番号 1026588
審判番号 審判1999-35723  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-05-16 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-02 
確定日 2000-10-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第2892262号発明「紙葉類搬送用ベルト」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2892262号発明は、平成5年11月2日に特許出願され、平成11年2月26日に特許の設定の登録がなされたもので、その後、平成11年12月2日付けで請求人ニッタ株式会社より無効審判の請求がなされ、平成12年3月28日付けで被請求人バンドー化学株式会社より答弁書の提出がなされ、平成12年7月11日付けで請求人より弁駁書の提出がなされたものである。
2.本件の請求項1乃至5に係る特許発明
本件特許第2892262号の請求項1乃至5に係る特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】紙葉類を挟んだ状態で多方向に搬送する紙葉類搬送用ベルトであって、
保形ゴム層と、該保形ゴム層に埋設された編物もしくは織物からなる帆布とで構成され、
該帆布は、上記紙葉類が搬送されるベルト搬送面に部分的に露出され、かつ該露出部分の糸目がベルト幅方向に配向せしめられることなくベルト周方向にのみ配向せしめられていることを特徴とする紙葉類搬送用ベルト。
【請求項2】保形ゴム層が、ミラブルウレタンゴムであることを特徴とする請求項1記載の紙葉類搬送用ベルト。
【請求項3】保形ゴム層が、イソプレンゴム及び/又はエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする請求項1記載の紙葉類搬送用ベルト。
【請求項4】帆布を構成する糸が、ポリウレタン糸の周りをポリアミド糸もしくはポリエステル糸で覆ったカバーリング糸であることを特徴とする請求項1記載の紙葉類搬送用ベルト。
【請求項5】ポリウレタン糸の太さが2.22テクスであり、ポリアミド糸もしくはポリエステル糸の太さが6.67〜13.33テクスであることを特徴とする請求項4記載の紙葉類搬送用ベルト。」
3.請求人及び被請求人の主張
請求人及び被請求人の主張は、概略次のとおりのものである。
【請求人の主張】
本件特許の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、また請求項2に係る特許発明は甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、請求項3に係る特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、請求項4及び5に係る特許発明は甲第1号証、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
[証拠方法]
甲第1号証;特開昭54-144664号公報
甲第2号証;実願昭60-170581号(実開昭62-79709号)のマイクロフィルム
甲第3号証;平凡社大百科事典(1984年11月2日初版発行、平凡社)第2巻の第658頁
甲第4号証;特開平5-254685号公報
甲第5号証;特開昭59-136729号公報
甲第6号証;特開昭57-205520号公報
参考資料1;特開昭63-19443号公報(弁駁書で提出)
【被請求人の主張】
請求人の主張及びその理由は妥当ではないから、本件特許無効の審判は成り立たないとの審決を求めるものである。
[証拠方法]
乙第1号証;1995年11月20日財団法人日本規格協会発行の「JIS工業用語大辞典[第4版]」第616頁及び第1649頁
4.甲第1号証乃至甲第6号証並びに参考資料1の記載事項
甲第1号証(特開昭54-144664号公報)には、紙類を両面から挟み付けて搬送する紙類搬送用ベルトコンベアに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「紙類を密着状態にあるベルトとベルトとで挟み付けて搬送する紙類搬送用ベルトコンベアにおいて、上記ベルトを、導電材を含有したニトリルゴムまたはスチレンブタジエンゴムにポリエステル帆布を埋設すると共に上記ポリエステル帆布を上記薄い帯体が搬送される面に、部分的に露出させて連続した無端ベルトによって形成したことを特徴とする紙類搬送用ベルトコンベア。」(特許請求の範囲)
また、第2図(A)、(B)からは、導電材を含有したニトリルゴムまたはスチレンブタジエンゴムに埋設されたポリエステル帆布は、ベルト幅方向とベルト周方向で配向せしめられるように埋設されていることがみてとれる。
甲第2号証(実願昭60-170581号(実開昭62-79709号)のマイクロフィルム)には、ベルト搬送面をしてベルト幅方向又はベルト長手方向のいずれか一方が、滑り特性を有する折、他方が、非滑り特性を有するよう配慮された搬送用ベルトに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「(1)少なくともベルトの一構成材として帆布を用いた搬送用ベルトにおいて、ベルト搬送面側には帆布を位置せしめ、該帆布は熱可塑性樹脂を含浸せしめた綾織帆布にて構成されていることを特徴とする搬送用ベルト。
(2)前記、綾織帆布を構成する経糸がベルト長手方向に一致している実用新案登録請求の範囲第1項記載の搬送用ベルト。」(実用新案登録請求の範囲)
「第2図は、他の実施例を示す第1図に相当する図で、下方側の平織帆布(2)の上面に弾性エラストマー(3)を積層し、ベルト搬送面側に、熱可塑性樹脂を含浸せしめた綾織帆布(4)が配されて搬送用ベルト(1)が形成される。
この綾織帆布(4)は第1図に示す綾織帆布(4)とは異り、矢印にて示すベルト進行長手方向に滑性特性を、又ベルト幅方向に非滑性特性を求めてなり、経糸(5)が2本の緯糸(6)上を通り、1本の緯糸(6)を織り込み乍らのび、ベルト長手方向にのびる経糸(5)が2本の緯糸(6)上に長尺状に(多量に)露出した3枚綾2/1構成からなり、ベルト長手方向に滑性を付与している。なお第3図の3枚綾2/1は第2図に示す綾織帆布の組織図である。
綾織帆布(4)の種類としては片面綾,両面綾があるが、このいずれも使用することができ、ベルト搬送面の滑り要求特性より選択でき、例えば両面綾は帆布表面に経緯糸の表われ方が同一となるため、ベルト長手および幅方向いずれか一方に滑り差を持たせるためには織糸の太さを変えることにより達成される。このように滑り要求特性により、経緯糸の数,織り糸の太さ,密度の変化など、さらに適宜3枚綾,4枚綾,5枚綾と変化せしめることにより、搬送用ベルトの滑性特性に多面的変化を求めることができる。」(第5頁8行〜第6頁12行)
「この搬送用ベルトはベルトの搬送面を綾織帆布をもって構成せしめるというごく簡易なベルト構成部材の一部改変によりこの綾織帆布を構成する緯糸,経糸いずれか一方のうち綾織帆布の表面に表れた露出長の大きい緯糸の伸び方向に滑性を発生せしめることができるのでベルトのベルト搬送面、長手方向又は幅方向のいずれか一方のみに簡易に滑性特性を付与せしめることができ、これにより搬送用ベルトの利用範囲、利用価値を飛躍的に向上せしめることができ、単一搬送用ベルトの効率的な利用分野を拡大せしめることができる。」(第9頁8行〜18行)
甲第3号証(平凡社大百科事典(1984年11月2日初版発行、平凡社)第2巻の第658頁)には、エラストマーが顕著な弾性をもつ高分子物質の総称であること等が記載されている。
甲第4号証(特開平5-254685号公報)には、紙葉類搬送や小トルク伝達の小型機械に使用される無端ベルトに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「【実施例】以下、この発明の構成を実施例として示した図面に従って説明する。この実施例の搬送用無端ベルトは、図1に示すように、ミラブルウレタンゴムを浸積したニット編芯体1の片面にミラブルウレタンゴム層2を形成して成るもので、前記ニット編芯体1を図2に示す如く所謂シメ糸10で形成された#100PETニットと、これに編目を作ることなく入れた挿入糸11とから構成すると共に、前記シメ糸10の編縮代を挿入糸11の嵩高による縮代よりも大きく設定している。」(段落【0009】)
甲第5号証(特開昭59-136729号公報)には、光を反射する外層と電気伝導性のある内層を有する自己接地型書類運搬システムに使用する書類運搬ベルトに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「光を反射する顔料を含有するエチレンプロピレンゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムよりなる外層と、導電性カーボンブラックを含有するエチレンプロピレンゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムよりなる導電性があり引張り強さの高い内層よりなる静電気を消失する手段を有するベルト。」(特許請求の範囲)
「特別な低硫黄加硫システムを用いた合成ポリイソプレンベルトは許容できる初期摩擦係数を示すことが知られている。」(第2頁右上欄7行〜9行)
甲第6号証(特開昭57-205520号公報)には、複合繊維に関して下記の事項が図面とともに記載されている。
「ウレタン弾性糸に捲縮加工糸又はフラットヤーン等を一重又は二重に巻きつけた、いわゆるカバリング糸が利用されている。」(第2頁左上欄14行〜17行)
参考資料1(特開昭63-19443号公報)には、耐久性が改善された歯付きベルトに関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「被覆弾性糸11はポリウレタン系弾性糸を芯糸12とし、芯糸12のまわりにコイル状に鞘糸13を捲囲させた被覆弾性糸である。」(第2頁右下欄4行〜6行)
「かかる被覆弾性糸の鞘糸としては、強度が6.5g/d以上の合成繊維からなる高強力糸が採用される。かかる繊維としては、たとえばポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリビニール・アルコール系繊維、芳香族ポリアミド繊維などが用いられる。」(第2頁右下欄11行〜16行)
5.対比・判断
【請求項1に係る特許発明について】
甲第1号証に記載された上記技術事項からみて、甲第1号証に記載された発明の「ベルト」、「ニトリルゴムまたはスチレンブタジエンゴム」及び「ポリエステル帆布」は、各々請求項1に係る特許発明の「紙葉類搬送用ベルト」、「保形ゴム層」及び「帆布」に相当するものであるから、請求項1に係る特許発明の用語を使用して請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「紙葉類を挟んだ状態で多方向に搬送する紙葉類搬送用ベルトであって、保形ゴム層と、該保形ゴム層に埋設された編物もしくは織物からなる帆布とで構成され、該帆布は、上記紙葉類が搬送されるベルト搬送面に部分的に露出されている紙葉類搬送用ベルト。」で一致しており、下記の点で相違している。
相違点;請求項1に係る特許発明では、露出部分の糸目がベルト幅方向に配向せしめられることなくベルト周方向にのみ配向せしめられているのに対して、甲第1号証に記載された発明では、露出部分の糸目がベルトの幅方向とベルトの周方向のいずれにも配向せしめられているものである点。
上記相違点について検討するに、甲第2号証には、搬送用ベルトの一構成材として熱可塑性樹脂を含浸せしめた綾織帆布4を用いたものが記載されているが、甲第2号証に記載された発明では、綾織帆布4は弾性エラストマー3中に埋設されるものではなく、弾性エラストマー3のベルト搬送面側に積層して配されるものであって、全面的に露出状態にある綾織帆布の綾織組織を利用して滑性特性をベルトの長手方向或いは幅方向に発揮させるものであって、請求項1に係る特許発明のように、帆布が保形ゴム層に埋設され、帆布の糸目がベルト搬送面に部分的に露出され、かつ該露出部分の糸目がベルト幅方向に配向せしめられることなく露出部分の糸目をベルトの周方向のみに配向せしめることにより、ベルト搬送面の摩擦係数を安定化させようとするものとは、解決しようとする課題及び課題を解決するための具体的手段が相違するものであるから、甲第2号証に記載された発明の上記技術事項を甲第1号証に記載された発明に適用したところで、請求項1に係る特許発明の上記相違点の技術事項が得られるものではない。
そして、請求項1に係る特許発明は、上記相違点の技術事項によって、特許明細書中に記載された格別な作用効果を奏するものと認める。
したがって、請求項1に係る特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
【請求項2乃至5に係る特許発明について】
請求項2乃至5に係る特許発明は、請求項1に係る特許発明の技術事項を引用するとともに、それぞれ保形ゴム層の材料又は帆布を構成する糸を限定したものである。
これに対して、甲第3号証乃至甲第6号証並びに参考資料1には、上記摘記した技術事項が記載されているにすぎないものであって、請求項2乃至5に係る発明で限定した技術事項については記載又は示唆する記載が認められるものの、請求項1に係る発明の上記相違点については、これら甲第3号証乃至甲第6号証並びに参考資料1には記載されていないばかりでなく、示唆する記載も認めることはできないものであるから、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に甲第3号証乃至甲第6号証に記載された発明の上記技術事項を組み合わせたとしても請求項2乃至請求項5に係る発明が得られるものではない。
したがって、請求項2乃至5に係る特許発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、 本件の請求項1乃至5に係る発明の特許を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-08-02 
結審通知日 2000-08-11 
審決日 2000-08-22 
出願番号 特願平5-274293
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 あつ子小田 光春  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 市野 要助
船越 巧子
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2892262号(P2892262)
発明の名称 紙葉類搬送用ベルト  
代理人 嶋田 高久  
代理人 小山 廣毅  
代理人 前田 弘  
代理人 竹内 宏  
代理人 竹内 祐二  
代理人 辻本 一義  

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