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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B60K 審判 全部申し立て 2項進歩性 B60K |
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管理番号 | 1027681 |
異議申立番号 | 異議1997-75657 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1989-12-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1997-12-03 |
確定日 | 2000-09-27 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2617114号「自動車用エンジンの排気装置」の特許に対する特許異議の申立てについてした平成11年6月2日付取消決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消の判決(平成11年(行ケ)第223号、平成12年7月4日判決言渡)があったので、さらに審理したうえ、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2617114号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許2617114号の請求項1に係る発明は、昭和63年5月31日に特許出願され、平成9年3月11日にその特許の設定登録がなされたところ、特許異議申立人日産自動車株式会社から平成9年12月3日付で特許異議の申立て(平成9年異議第75657号事件)があり、平成11年6月2日付けで「特許第2617114号の特許を取り消す。」との決定がなされた。これに対して、本件特許の特許権者は、平成11年(行ケ)第223号として取消決定取消請求訴訟を提訴するとともに、平成12年2月4日に訂正審判(訂正2000-39019号)を請求したところ、平成12年3月28日付けで「特許第2617114号発明の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを認める。」との審決(平成12年4月19日審決確定:以下、「訂正審決」という。)がなされ、平成12年7月4日に、前記平成11年(行ケ)第223号の取消決定取消請求事件について、「特許庁が平成年異議第75657号事件について平成11年6月2日にした決定を取り消す。」との判決の言渡があった。 2.本件発明 本件特許の請求項1に係る発明は、訂正審決により訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「車体前部のエンジン室内に直列形エンジンをクランク軸の軸線が車幅方向に延在するように配設した自動車用クロスフロー型エンジンにおいて、前記クランク軸の軸心を前輪の車軸の軸心より高い位置に配設するとともに、シリンダを側面視においてシリンダヘッドが前記車軸の上方に位置付けられるように後方へ傾斜させてシリンダ背面とダッシュパネルとの間に側面視略三角形状の空間を形成し、この空間に前記シリンダに接続された排気マニホルドを配設すると共に、この排気マニホルドはシリンダヘッドから下方へ向かって延出され、排気マニホルドに触媒装置が設けられた排気管を接続してなる自動車用クロスフロー型エンジンの排気装置。」(以下、「本件発明」という。) 3.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人日産自動車株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(「トヨタカムリ(E-SV10系)新型車解説書、昭和57年3月」)を提出して、本件特許明細書の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるものである旨主張している。 さらに、特許異議申立人は、甲第3号証(「CAR GRAPHIC」誌、昭和60年12月号)を提示して、例えシリンダ前面にシリンダヘッドに接続された吸気マニホルドが配設された点(クロスフロー型エンジンの構成)を減縮しても、甲第3号証に該構成は記載されており、当業者が、甲第1、第3号証から容易に発明することができたものであると主張する。 4.甲第1号証の記載事項 甲第1号証である「トヨタカムリ(E‐SV10系)新型車解説書、昭和57年3月」(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されているものと認められる。 (1)10頁2.3項エンジンルーム透視図、15頁「IS -LUエンジン主要諸元表」の「直列4気筒横置ガソリンエンジン」との記載ならびに17頁Z9047図から、そのIS型エンジンは、車体前部のエンジン室内に直列形エンジンをクランク軸の軸線が車幅方向に延在するように配設している点。 (2)10頁2.13項エンジンルーム透視図、17頁Z9047図、37頁Z9876図、40頁Z9875図及び163頁Z9927図の記載を総合すれば、37頁Z9876図、40頁Z9875図及び163頁Z9927図は、それぞれ断面図を示し、そこに記載される各部品はほぼ示される上下位置にて配置されていること、一方、トランスアクスルのインプットシャフトの軸心にエンジンのクランク軸の軸心を一致させて結合することは技術常識であり、37頁Z9876図及び163頁Z9927図のインプットシャフトの位置がクランク軸の軸心に相当すること、さらには43頁Z9928図に記載されたドライブ軸端部位置及びドライブ軸端部はトランクアクスルのデファレンシャルに連結されるという技術常識を踏まえれば、43頁Z9928図に記載されたドライブ軸端部位置は、37頁Z9876図のリングギアの中心部であることから、クランク軸の軸心を前輪の車軸の軸心より高い位置に配設している点。 (3)10頁2.3項エンジンルーム透視図及び17頁Z9047図から、シリンダを側面視においてシリンダヘッドが前記車軸の上方に位置付けられるように後方へ傾斜している点。 (4)91頁AO125図には、エンジンルームの後方に略垂直なダッシュパネルが記載され、エンジンは17頁Z9047図のように後傾でエンジンルームに配置されていることから、シリンダ背面とダッシュパネルとの間に側面視略三角形状の空間を形成している点。 (5)17頁Z9047図には、「マニホルド吸排気レイアウトの変更」の記載があり、キャブレタの下部に吸気及び排気のマニホルドが配設されていること、一方、29頁Z9723図及びZ9724図には、吸気マニホルドと排気マニホルドを、排気マニホルドを下側として上下に結合した構成が記載されていること、20頁Z9727図には、触媒装置が採用され、27頁Z9721図には、排気管の形状が開示されていることから、この空間にシリンダに接続された排気マニホルドを配設すると共に、この排気マニホルドに触媒装置が設けられた排気管を接続している点。 したがって、上記引用刊行物には実質的に、 「車体前部のエンジン室内に直列形エンジンをクランク軸の軸線が車幅方向に延在するように配設した自動車用エンジンにおいて、前記クランク軸の軸心を前輪の車軸の軸心より高い位置に配設するとともに、シリンダを側面視においてシリンダヘッドが前記車軸の上方に位置付けられるように後方へ傾斜させてシリンダ背面とダッシュパネルとの間に側面視略三角形状の空間を形成し、この空間に前記シリンダに接続された排気マニホルドを配設すると共に、この排気マニホルドはシリンダヘッドから下方へ向かって延出され、排気マニホルドに触媒装置が設けられた排気管を接続してなる自動車用エンジンの排気装置であって、排気マニホルドと同じ側の車室側で該排気マニホルドに近接した位置に吸気マニホルドを配置して、吸気を排気で加熱する構成とした吸排気装置」が記載されていると認められる。 5.対比・判断 そこで、本件特許発明と引用刊行物記載の発明とを対比すると、本件特許発明は、クロスフロー型エンジンであるのに対し、引用刊行物記載の発明は、吸気マニホルドと排気マニホルドを共に車室側に設けてなるいわゆるカウンターフロー(ターンフロー)型のエンジンである点で相違し、その余の点で一致している。 以下、相違点について検討する。 まず、本件特許発明の「クロスフロー型エンジンにおいて、クランク軸の軸心を前輪の車軸の軸心より高い位置に配設するとともに、シリンダを側面視においてシリンダヘッドが前記車軸の上方に位置付けられるように後方へ傾斜させてシリンダ背面とダッシュパネルとの間に側面視略三角形状の空間を形成し、この空間に前記シリンダに接続された排気マニホルドを配設すると共に、この排気マニホルドはシリンダヘッドから下方へ向かって延出され、排気マニホルドに触媒装置が設けられた排気管を接続し」た構成を有するものの技術的意義についてみると、一般にクロスフロー型エンジンは、その吸気が燃焼室を横切って流れる態様のものとして知られると共に、吸気マニホルドと排気マニホルドは、燃焼室に対し反対方向に配設されるものとして認識されている。そして、本件特許発明は、排気マニホルドを車室側に配置していると共に、本件特許明細書及び図面には、吸気マニホルドに関しては、燃焼室の反対側(前方側)に配置したものしか記載されていないことをも踏まえると、その吸気マニホルドが車室側に配置されるものは含まれないと解される。次に、本件特許明細書をみると、発明が解決しようとする課題の欄に次のように記載されている。「本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、触媒装置による排気の浄化性能を向上させることができるとともに、エンジンの搭載位置が高くなったり操縦のフィーリングが損なわれることがない自動車用クロスフロー型エンジンの排気装置を提供することを目的とする。」 これらの記載から本件特許発明は、エンジンの搭載位置が高くなったり操縦のフィーリングが損なわれることがないようにしつつ「触媒装置の排気浄化性能の向上」させることを課題とし、該課題を達成するために「クロスフロー型エンジンを後方へ傾斜させてシリンダ背面とダッシュパネルとの間に側面視略三角形状の空間を形成し、この空間に前記シリンダに接続された排気マニホルドをシリンダヘッドから下方へ向かって延出配設する」という手段を採用しているものである。 これに対して引用刊行物記載の発明は、吸排気マニホルドの配置に関し、前記したように「排気マニホルドと同じ側の車室側で排気マニホルドに近接した位置に吸気マニホルドを配置して、吸気を排気で加熱する」という構成を採用しているものと認められる。即ち、引用刊行物記載の発明においては、吸気マニホルドを排気マニホルドに近接配置させる構成は必須のもので、引用刊行物記載の発明の構成は、寧ろ排気ガスが冷却されることになるのであって、触媒装置の排気浄化性能の向上のために「排気が触媒装置に流入するまでに温度低下するのが抑えられる」という上記本件特許の構成により奏される作用とは相反するものである。 してみると、たとえ本件特許発明の出願前にエンジンの種類としてクロスフロー型エンジンが周知技術であったとしても、その技術を引用刊行物記載のエンジンに適用することを、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、上記引用刊行物に記載された発明と同一ということもできないし、また、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては本件特許の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に上記本件特許の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき他の理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-06-02 |
出願番号 | 特願昭63-131491 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B60K)
P 1 651・ 113- Y (B60K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 黒瀬 雅一 |
特許庁審判長 |
蓑輪 安夫 |
特許庁審判官 |
鈴木 法明 粟津 憲一 大島 祥吾 清水 英雄 |
登録日 | 1997-03-11 |
登録番号 | 特許第2617114号(P2617114) |
権利者 | ヤマハ発動機株式会社 |
発明の名称 | 自動車用エンジンの排気装置 |
代理人 | 堀 暢子 |
代理人 | 堀 宏太郎 |
代理人 | 峯崎 裕 |