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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  F25C
管理番号 1027786
異議申立番号 異議1998-75047  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-14 
確定日 2000-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第2740131号「氷の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2740131号の特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2740131号に係る発明についての出願は、昭和62年10月5日に出願された特願昭62-250940号(以下、「原出願」という。)を、平成6年11月7日に特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願としたものであって、平成10年1月23日に設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 森永製菓株式会社により特許異議の申立てがなされ、取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年5月21に訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由通知がなされたが、その指定期間内に特許権者から何ら応答がなかったものである。

(2)訂正請求の内容
願書に添付された明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)を以下のように訂正するものである。
(2-1)特許明細書の特許請求の範囲第1項、および、段落【0005】において、「色素や甘味料等を溶解して均一に着味または着色」とあるのを、「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色」と訂正する。
(2-2)特許明細書の段落【0021】において、「色素または甘味料等を溶解して均一に着味または着色」とあるのを、「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色」と訂正する。
(2-3)特許明細書の段落【0021】において、「内部まで均一に着味または着色」とあるのを「内部まで均一に着色され、または、着色および着味」と訂正する。

(3)訂正の適否
上記(2-1)の訂正は、特許明細書に記載された特許請求の範囲第1項の発明の構成が、色素、甘味料等を単独に溶解して着味または着色したもの、色素と甘味料等を溶解して着味または着色したものを含むものであるのに対して、訂正明細書に記載されたものは、色素を溶解して着色したもの、または、色素と甘味料を溶解して着色したものとするものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
また、上記(2-2)、(2-3)の訂正は、上記(2-1)の訂正に伴って特許明細書の整合性を図るものでるから、特許明細書の明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
(3-1)訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明
訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明は、その訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載された、次のとおりのものである。
「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色された水を、この水の供給口から、-5〜-20℃に冷却されている製氷体の表面に直接に供給して、前記製氷体の表面を流下させ、この流下の途中において、前記水の少なくとも一部を凍結させて、前記製氷体の表面に氷層を形成し、つづいて、前記氷層の表面に前記水を流下させて、前記水の少なくとも一部を前記氷層の表面において凍結させ、これによって、厚みのある氷を製造することを特徴とする氷の製造方法。」
(3-2)分割出願の適否
そこで、訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明についての出願が、原出願から適法に分割された出願であるか否かを検討する。
(a)原出願の明細書又は図面に記載された発明
原出願の明細書又は図面には、
「色むらのない着色氷塊の製造方法であって、色素等を溶解して均一に着色された水を、外部より-5〜-20℃に冷却されている製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下することを特徴とした着色氷塊の製造方法。」(特許請求の範囲の記載事項)であること、
「本発明者等は、全体が均一に着色した氷塊を得るべく鋭意研究した結果、外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷却との併用によって、比較的色むらのない氷塊が得られることを発見した。」(明細書第2頁第20行〜第3頁第4行)こと、
「本発明は上記の発見に基づいてなされたもので、均一に着色され、しかも中心部に市販の氷塊に見られるような、す状の心氷が存在しない100Kg以上の硬い、氷独特の光沢を有する氷塊を容易に製造することが出来る方法を提供することを目的とする。」(明細書第3頁第5行〜同第10行)こと、
「〔問題点を解決するための手段〕
本発明は上記目的を達成すべくなされたもので、その要旨は、色むらのない着色氷塊の製造方法であって、色素等を溶解して均一に着色された水を、外部より-5〜-20℃に冷却されている製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する着色氷塊の製造方法にある。」(明細書第3頁第11行〜同第18行)こと、
「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成となっているので、供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分となっても、滴下する液化窒素または液化空気(以下冷媒という)によって内側から冷却されるので、供給される着色水は、着色氷層の面にさらに積層されて氷結し、着色水の水が徐々に結氷し、氷の結晶が成長することなく、したがって色素の偏析が発生せず、均一に着色された氷塊が形成される。」(明細書第3頁第20行〜第4頁第9行)こと、
「第1図は本発明の方法を実施する装置の一例を示すもので、図中符号1は-5〜-20℃のブライン2によって外部冷却されている製氷缶である。この製氷缶1のほぼ中央上部には、着色水貯槽3より、缶内壁上部に着色水を噴霧する噴霧器4が設けられている。また、製氷缶1の内部に冷媒5aを滴下する冷媒供給管5が設けられている。」(明細書第4頁第14行〜同第20行)こと、
「着色水は噴霧器4によって外側から-5〜-20℃に冷却されている製氷缶1の内壁上部に噴霧され薄膜となって底部に向って流下するが、その過程で膜状に氷結する。この際、外側ブライン温度が、-5℃を越えると底部まで流下する間に氷結せず、-20℃より低いと、不必要に冷却することになり経済性を失う。 上記内壁上部より底部に流下する間に氷結することは極めて重要で、続いて噴霧供給される着色水は、膜状の着色氷層の表面に同様に膜状氷層を形成する。このように、着色氷層は積層され、中心に向って厚みが増加する。次第に積層体の厚みが増加すると、ブライン2による冷却作用が低下して来るが、冷媒5aを製氷缶1内に滴下しているため、これによっても冷却され、着色氷層の形成は継続される。
この場合、冷媒の量が多過ぎると噴霧された着色水はただちに氷結され、空気をまき込み、柔かい着色氷が形成される。また、冷媒の量が少ないと、着色水が徐々に冷却され、結晶成長するので、色素の偏析が発生し、色むらが生ずる。すなわち、着色水の供給量と冷媒の供給量を調整することは極めて重要である。」(明細書第5頁第18行〜第6頁第20行)こと、
「次いで、冷媒供給管5より液化窒素5aを1l/分の速度で滴下しつつ、噴霧器4より、着色水を0.5l/分の速度で、製氷缶1の内壁上部に噴霧した。」(明細書第7頁第20行〜第8頁第3行)こと、が記載されている。
さらに、図面には、製氷缶1の上部に、冷媒供給管5から冷媒を滴下する構成と、着色水貯槽3から着色水を噴霧器4により噴霧する構成とを備えたものが示されている。
(b)訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明と原出願の明細書又は図面に記載された発明との対比
訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明が原出願の明細書に記載された発明であるかを検討する。
(訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明が、液化窒素または液化空気(冷媒)の滴下の構成を備えていない点について)
原出願の明細書又は図面に記載されている発明は、上記したように、「外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷媒との併用によって、」との記載事項、「製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する」との記載事項、「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成となっているので、」との記載事項を受けた「供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分となっても、滴下する液化窒素または液化空気(以下冷媒という)によって内側からも冷却されるので、」との記載事項、「製氷缶1の内部に冷媒5aを滴下する冷媒供給管5が設けられている。」との記載事項、「このように、着色氷層は積層され、中心に向って厚みが増加する。次第に積層体の厚みが増加すると、ブライン2による冷却作用が低下して来るが、冷媒5aを製氷缶1内に滴下しているため、」との記載事項、「着色水の供給量と冷媒の供給量を調整することは極めて重要である。」との記載事項、「冷媒供給管5より液化窒素5aを1l/分の速度で滴下しつつ、噴霧器4より、着色水を0.5l/分の速度で、製氷缶1の内壁上部に噴霧した。」との記載事項から、液化窒素または液化空気(冷媒)を滴下して着色氷を製造するものであり、この液化窒素または液化空気(冷媒)を備えていない構成で着色氷を製造する発明が記載されているとはいうことができない。
なお、特許権者は、平成11年5月21日付けの特許異議意見書において、原出願の明細書の第4頁第1行〜第6行に、「供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分(「不十分」は誤りである。)となっても、滴下する・・・冷媒・・・によって内側からも冷却されるので、供給される着色水は、着色氷層の面にさらに積層されて氷結し、・・・」 と記載されていることを理由に、冷媒の滴下は不要である旨の主張をしているが、この段落の記載は、上記したように、「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成になっているので」とあるように、「本発明に係る着色氷塊の製造方法」を採用したときの作用態様を言っているのであって、その「着色氷塊の製造方法」は、「・・・供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する」と記載されており、外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷却とを併用していることは明らかである。
(訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明の目的、効果の記載について)
訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明の目的は、訂正明細書の段落【0004】に記載されているように、「色素等がほぼ均一に分散し、しかも、ある程度の大きさを有する氷の製造方法」にあるとしている。そして、訂正明細書の段落【0006】の作用の欄、訂正明細書の段落【0021】の発明の効果の欄には、「内部まで均一に着味または着色され、氷の有する特有の光沢と透明性があり、硬い、比較的に大きな氷を得ることができる。」としている。
しかしながら、原出願の明細書又は図面には、冷媒の滴下を併用する構成しか記載されておらず、冷媒の滴下を行わない条件下において、訂正明細書の「目的」、「作用」、「効果」の欄に記載されているような「氷」が得られることの記載も、示唆もされているとは認められない。
また、このような「氷」が製造できたことを確認するデータの記載もされていない。
さらに、原出願の明細書には「氷塊」と記載されているだけであり、その内容は100Kg以上であり、実施例に示されたものは、重量135Kgのものである。この「氷塊」がある程度の大きさを有するものということはできるが、「ある程度の大きさを有する氷」、「比較的に大きな氷」が原出願の明細書に記載されている「氷塊」と同一のものを指しているということはできず、「氷塊」の技術思想と異なる氷を含む本件発明は、原出願の明細書には記載されていないことを発明の目的、効果としていると言わざる得ない。
(訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明の構成要件の「厚みのある氷」について)
原出願の明細書には、「氷塊」としか記載がなく、この「氷塊」の製氷過程の途中で氷の厚みがある程度のものが製氷されてくるとしても、この途中で製氷を停止してある程度の厚みのある氷を得るという記載はない。原出願の明細書又は図面に記載されている発明は、あくまでも「氷塊」を得る構成しか開示されていない。
(訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明の構成要件である「製氷体」について)
原出願の明細書には、「製氷体」なる用語は使用されていない。一般的に、「製氷体」とは、製氷するためのものと解することができるので、原出願の明細書又は図面に記載されている「製氷缶」の上位概念の構成をも含むものと認められる。してみると、訂正明細書の「製氷体」は、例えば、冷凍機の各種形状の蒸発器をも含む構成ということになるから、このような構成が、原出願の明細書又は図面に記載されているということはできない。
以上のとおりであるから、訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明についての出願は、原出願である特願昭62-250940号の出願の願書に添付された明細書又は図面に記載された発明の範囲外の事項を、新たな出願とするものであるから、特許法第44条第1項に規定する新たな特許出願とは認めることができず、訂正明細書の特許請求の範囲第1項の発明についての出願の出願日は、原出願の出願日に遡及することなく、平成6年11月7日に出願されたものと認定する。
(3-3)独立特許要件
(a)訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色された水を、この水の供給口から、-5〜-20℃に冷却されている製氷体の表面に直接に供給して、前記製氷体の表面を流下させ、この流下の途中において、前記水の少なくとも一部を凍結させて、前記製氷体の表面に氷層を形成し、つづいて、前記氷層の表面に前記水を流下させて、前記水の少なくとも一部を前記氷層の表面において凍結させ、これによって、厚みのある氷を製造することを特徴とする氷の製造方法。」
(b)刊行物に記載された発明
当審が通知した訂正拒絶理由において引用した刊行物は、次のものである。
刊行物1:特開平5-244874号公報
刊行物2:特開平52-99262号公報
そして、上記刊行物には次の事項が記載されている。
上記刊行物1には、
「垂直に設置したプレート型冷却板の表面に原料液を流下させ、冷却板表面に原料液を凍結付着させて氷板とし、該氷板を破砕して最長径が20mm以下の氷片とし、該氷片を容器に充填する氷菓の製造法において、試験例に記載の方法で測定した氷の砕け抵抗が1,000mm以下となる原料液を用い、しかも冷却板表面を流下するまでにその大部分が凍結付着する流量に調整することを特徴とする氷菓の製造法。」(特許請求の範囲の請求項の記載事項)に関して、
「甘味料の含まれる原料液を通常の氷塊を造る氷結缶に入れ冷却した場合、結氷缶内壁部分から凍結が始まるり、中心部へ向け凍結が進んでゆく。このとき、原料液に溶解している成分は氷と一緒に凍結せず、未凍結の原料液に残される。従って、凍結が進むに従い原料液中の溶解成分は中心部に集まり濃縮されるため、全体が均一に味付けした氷とすることができなかった。」(段落【0008】中の記載事項)とあること、
「垂直に設置したプレート型冷却板の表面に甘味料を含んだ原料液を流下させることにより冷却板表面に原料液を凍結付着させて所定の厚さの氷板とし、」(段落【00011】中の記載事項)とあること、
「ここに用いる甘味料を含んだ原料液とは、糖類、ステビア、アスパルテームなどの甘味料と必要により香料、その他の成分を加えた溶液であり、」(段落【0012】中の記載事項)とあること、
「甘味料を含んだ原料液を垂直に設置したプレート型冷却板の表面を上部より流下させることにより冷却板表面に付着凍結させる。このとき流下する原料液の流量を調整して流下する原料液が冷却板下端に達するまでにその大部分が凍結するようにするのが望ましい。なお、冷却下端から流れ落ちた原料液は原料液貯留槽に戻し、再度利用するようにする。」(段落【0015】の記載事項)とあること、
「実施例1 オレンジ果汁5.0部、砂糖3.0部、クエン酸0.5部、香料0.1部、アスパルテーム0.05部に水を加えて100部として原料液を調製した。」(段落【0019】中の記載事項)とあること、
「この原料液を垂直に設置したプレート型冷却板の上部から流下させ、凍結させた。このときの原料液の流量は、流下する原料液の大部分が冷却板の下端に達するまでに凍結するように調整した。」(段落【0020】の記載事項)とあること、
「凍結した氷板の厚さがおよそ20mmとなったら原料液の流れを止め、冷却板の冷却も止めて冷却板から氷板を取り外した。」(段落【0021】中の記載事項)とあること、
「実施例2 砂糖4.0部、インスタントコーヒー1.5部、ぶどう糖果糖液糖3.0部、ステビア0.04部、香料0.1部に水を加えて100部として原料液を調製した。」(段落【0024】中の記載事項)とあること、
「冷却板を垂直に設置し、上より原料液を流下させ、しかもその流量を原料液が冷却板下端に達するまでにその大部分が凍結する量に調整しているため、原料液ほとんど全部が流下したとき直ぐに凍結させている。従って、得られた氷は部分的に濃度が異なることがなく、全体が均一な組成の氷となり、これを破砕した破砕物はどの氷粒も同じ風味のものとなる。」(段落【0032】中の記載事項)とあること、が記載されている。
上記刊行物2には、図面とともに、
「本発明に於いては連続的に上方より撒布し、流下して来る冷凍円筒面の原液を、裾部に到るに従って薄膜状に凍結せしめ、之を掻取刃にて掻取り、更に流下して来た未氷結の原液自体と混合せしめて集氷溝に収容、最終処理場にて罐等に分割収容、最終的凍結せしめるものである」(第2頁右欄第6行〜同第12行)こと、
「本発明は果汁又は氷菓原料等の原液を薄氷状に凍結せしめて後」(第1頁左欄第19行〜同第20行)とあること、
「1は内外二重壁2、3を有する円筒で、該内外両壁2、3間に冷媒腔4を介在し、外部より冷媒を供給して内壁2面を常に冷却せしめるものである。」(第2頁第20行〜第3頁第3行)こと、
「冷媒腔4内を原液の氷結温度より18〜20℃程度低い温度まで冷却して置き、原液タンクよりポンプにより原液パイプ6に原料を供給し、拡散板5面にシャワーせしめるもので、該原液シャワーは内壁2面に沿って流下し、其の裾部に行くに従って徐々に薄氷状にて凍結して行くものである。」(第3頁右欄第2行〜同第8行)こと、が記載されている。
(c)対比・判断
そこで、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比し、検討する。
上記刊行物1に記載された、プレート型冷却板の表面に甘味料を含んだ原料液を流下させることにより冷却板表面に原料液を凍結付着させて所定の厚さの氷板とする原料液には、オレンジ果汁やアスパルテーム等に水を加えたものからなる実施例1と、インスタントコーヒーやステビア等に水を加えたものからなる実施例2とが示されていることから、原料液には色素や甘味料等が溶解しており、この原料液は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色された水」と差異がないし、また、上記刊行物1に記載されている「プレート型冷却板」は、その機能からして、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「製氷体」に相当するものであるから、両者は、
「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一着色された水を、この水の供給口から、冷却されている製氷体の表面に直接に供給して、前記製氷体の表面を流下させ、この流下の途中において、前記水の少なくとも一部を凍結させて、前記製氷体の表面に氷層を形成し、つづいて、前記氷層の表面に前記水を流下させて、前記水の少なくとも一部を前記氷層の表面において凍結させ、これによって、厚みのある氷を製造することを特徴とする氷の製造方法。」
であることで一致しているものと認められる。
しかし、冷却されている製氷体の温度について、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、「-5〜-20℃ に」冷却されているのに対して、上記刊行物1に記載された発明には、その冷却温度が記載されていない点で相違する。
そこで、この相違点を検討すると、上記刊行物2には、果汁又は氷菓原料等の原液を用い、「連続的に上方より散布し、流下して来る冷凍円筒面の原液を、裾部に到るに従って薄膜状に凍結せしめ」、さらに、前記冷凍円筒面を構成する内外二重円筒の両壁間に冷媒腔を介在させて、「冷媒腔4内を原液の氷結温度より18〜20℃程度低い温度まで冷却して置き、」との記載があることから、果汁等の原液を流下させながら凍結させるには、果汁等の原液の氷結温度は0℃以下ということができるので、冷凍円筒面の冷媒腔内の温度が-18〜-20℃程度以下にすることによって凍結することが容易に理解されるところであるし、原液と接する冷凍円筒面は、この冷媒腔内の温度より多少高めになることも容易に分かる。
してみると、上記刊行物1に記載されたプレート型冷却板の表面温度は、上記刊行物2に記載されている果汁等の原液の凍結温度を考慮すれば、この原液の凍結温度程度に冷却されているということは容易に理解し得るところであり、「製氷体」の温度を、「-5〜-20℃に」することは、上記刊行物2の記載に基づいて当業者が容易になし得る冷却温度であるということができる。

したがって、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載されたものに基き当業者が容易に発明することができたものであり、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

(5)特許異議の申立てについての判断
(a)本件発明
特許明細書の特許請求の範囲第1項の発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりである。
「色素や甘味料等を溶解して均一に着味または着色された水を、この水の供給口から、-5〜-20℃に冷却されている製氷体の表面に直接に供給して、前記製氷体の表面を流下させ、この流下の途中において、前記水の少なくとも一部を凍結させて、前記製氷体の表面に氷層を形成し、つづいて、前記氷層の表面に前記水を流下させて、前記水の少なくとも一部を前記氷層の表面において凍結させ、これによって、厚みのある氷を製造することを特徴とする氷の製造方法。」(以下、「本件発明」という。)
(b)分割出願の適否
そこで、本件発明についての出願が、原出願から適法に分割された出願であるか否かを検討する。
(b-1)原出願の明細書又は図面に記載された発明
原出願の明細書又は図面には、
「色むらのない着色氷塊の製造方法であって、色素等を溶解して均一に着色された水を、外部より-5〜-20℃に冷却されている製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下することを特徴とした着色氷塊の製造方法。」(特許請求の範囲の記載事項)であること、
「本発明者等は、全体が均一に着色した氷塊を得るべく鋭意研究した結果、外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷却との併用によって、比較的色むらのない氷塊が得られることを発見した。」(明細書第2頁第20行〜第3頁第4行)こと、
「本発明は上記の発見に基づいてなされたもので、均一に着色され、しかも中心部に市販の氷塊に見られるような、す状の心氷が存在しない100Kg以上の硬い、氷独特の光沢を有する氷塊を容易に製造することが出来る方法を提供することを目的とする。」(明細書第3頁第5行〜同第10行)こと、
「〔問題点を解決するための手段〕
本発明は上記目的を達成すべくなされたもので、その要旨は、色むらのない着色氷塊の製造方法であって、色素等を溶解して均一に着色された水を、外部より-5〜-20℃に冷却されている製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する着色氷塊の製造方法にある。」(明細書第3頁第11行〜同第18行)こと、
「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成となっているので、供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分となっても、滴下する液化窒素または液化空気(以下冷媒という)によって内側から冷却されるので、供給される着色水は、着色氷層の面にさらに積層されて氷結し、着色水の水が徐々に結氷し、氷の結晶が成長することなく、したがって色素の偏析が発生せず、均一に着色された氷塊が形成される。」(明細書第3頁第20行〜第4頁第9行)こと、
「第1図は本発明の方法を実施する装置の一例を示すもので、図中符号1は-5〜-20℃のブライン2によって外部冷却されている製氷缶である。この製氷缶1のほぼ中央上部には、着色水貯槽3より、缶内壁上部に着色水を噴霧する噴霧器4が設けられている。また、製氷缶1の内部に冷媒5aを滴下する冷媒供給管5が設けられている。」(明細書第4頁第14行〜同第20行)こと、
「着色水は噴霧器4によって外側から-5〜-20℃に冷却されている製氷缶1の内壁上部に噴霧され薄膜となって底部に向って流下するが、その過程で膜状に氷結する。この際、外側ブライン温度が、-5℃を越えると底部まで流下する間に氷結せず、-20℃より低いと、不必要に冷却することになり経済性を失う。 上記内壁上部より底部に流下する間に氷結することは極めて重要で、続いて噴霧供給される着色水は、膜状の着色氷層の表面に同様に膜状氷層を形成する。このように、着色氷層は積層され、中心に向って厚みが増加する。次第に積層体の厚みが増加すると、ブライン2による冷却作用が低下して来るが、冷媒5aを製氷缶1内に滴下しているため、これによっても冷却され、着色氷層の形成は継続される。
この場合、冷媒の量が多過ぎると噴霧された着色水はただちに氷結され、空気をまき込み、柔かい着色氷が形成される。また、冷媒の量が少ないと、着色水が徐々に冷却され、結晶成長するので、色素の偏析が発生し、色むらが生ずる。すなわち、着色水の供給量と冷媒の供給量を調整することは極めて重要である。」(明細書第5頁第18行〜第6頁第20行)こと、
「次いで、冷媒供給管5より液化窒素5aを1l/分の速度で滴下しつつ、噴霧器4より、着色水を0.5l/分の速度で、製氷缶1の内壁上部に噴霧した。」(明細書第7頁第20行〜第8頁第3行)こと、が記載されている。
さらに、図面には、製氷缶1の上部に、冷媒供給管5から冷媒を滴下する構成と、着色水貯槽3から着色水を噴霧器4により噴霧する構成とを備えたものが示されている。
(bー2)本件発明と原出願の明細書又は図面に記載された発明との対比
本件発明が原出願の明細書に記載された発明であるかを検討する。
(本件発明が、液化窒素または液化空気(冷媒)の滴下の構成を備えていない点について)
原出願の明細書又は図面に記載されている発明は、上記したように、「外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷媒との併用によって、」との記載事項、「製氷缶の内壁上部に所定の速度で供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する」との記載事項、「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成となっているので、」との記載事項を受けた「供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分となっても、滴下する液化窒素または液化空気(以下冷媒という)によって内側からも冷却されるので、」との記載事項、「製氷缶1の内部に冷媒5aを滴下する冷媒供給管5が設けられている。」との記載事項、「このように、着色氷層は積層され、中心に向って厚みが増加する。次第に積層体の厚みが増加すると、ブライン2による冷却作用が低下して来るが、冷媒5aを製氷缶1内に滴下しているため、」との記載事項、「着色水の供給量と冷媒の供給量を調整することは極めて重要である。」との記載事項、「冷媒供給管5より液化窒素5aを1l/分の速度で滴下しつつ、噴霧器4より、着色水を0.5l/分の速度で、製氷缶1の内壁上部に噴霧した。」との記載事項から、液化窒素または液化空気(冷媒)を滴下して着色氷を製造するものであり、この液化窒素または液化空気(冷媒)を備えていない構成で着色氷を製造する発明が記載されているとはいうことができない。
なお、特許権者は、平成11年5月21日付けの特許異議意見書において、原出願明細書の第4頁第1行〜第6行に、「供給された着色水は製氷缶にふれて薄膜状に結氷し、次第に厚さを増して、外部冷却による凍結力が不充分(「不十分」は誤りである。)となっても、滴下する・・・冷媒・・・によって内側からも冷却されるので、供給される着色水は、着色氷層の面にさらに積層されて氷結し、・・・」 と記載されていることを理由に、冷媒の滴下は不要である旨の主張をしているが、この段落の記載は、上記したように、「本発明に係る着色氷塊の製造方法は上記の構成になっているので」とあるように、「本発明に係る着色氷塊の製造方法」を採用したときの作用態様を言っているのであって、その「着色氷塊の製造方法」には、「・・・供給するとともに、上記製氷缶中に液化窒素または液化空気を所定の速度で滴下する」と記載されており、外部からの間接冷却と、液化窒素または液化空気による直接冷却とを併用していることは明らかである。
(本件発明の目的、効果の記載について)
本件発明の目的は、特許明細書の段落【0004】に記載されているように、「色素等がほぼ均一に分散し、しかも、ある程度の大きさを有する氷の製造方法」にあるとしている。そして、特許明細書の段落【0006】の作用の欄、特許明細書の段落【0021】の発明の効果の欄には、「内部まで均一に着味または着色され、氷の有する特有の光沢と透明性があり、硬い、比較的に大きな氷を得ることができる。」としている。
しかしながら、原出願の明細書又は図面には、冷媒の滴下を併用する構成しか記載されておらず、冷媒の滴下を行わない条件下において、特許明細書の「目的」、「作用」、「効果」の欄に記載されているような「氷」が得られることの記載も、示唆もされているとは認められない。
また、このような「氷」が製造できたことを確認するデータの記載もされていない。
さらに、原出願の明細書には「氷塊」と記載されているだけであり、その内容は100Kg以上であり、実施例に示されたものは、重量135Kgのものである。この「氷塊」がある程度の大きさを有するものということはできるが、「ある程度の大きさを有する氷」、「比較的に大きな氷」が原出願の明細書に記載されている「氷塊」と同一のものを指しているということはできず、「氷塊」の技術思想と異なる氷を含む本件発明は、原出願の明細書には記載されていないことを発明の目的、効果としていると言わざるを得ない。
(本件発明の構成要件の「厚みのある氷」について)
原出願の明細書には、「氷塊」としか記載がなく、この「氷塊」の製氷過程の途中で氷の厚みがある程度のものが製氷されてくるとしても、この途中で製氷を停止してある程度の厚みのある氷を得るという記載はない。原出願の明細書又は図面に記載されている発明は、あくまでも「氷塊」を得る構成しか開示されていない。
(本件発明の構成要件である「製氷体」について)
原出願の明細書には、「製氷体」なる用語は使用されていない。一般的に、「製氷体」とは、製氷するためのものと解することできるので、原出願の明細書又は図面に記載されている「製氷缶」の上位概念の構成をも含むものと認められる。してみると、本件発明の「製氷体」は、例えば、冷凍機の各種形状の蒸発器をも含む構成ということになるから、このような構成が、原出願の明細書又は図面に記載されているということはできない。

以上のとおりであるから、本件発明についての出願は、原出願である特願昭62-250940号の出願の願書に添付された明細書又は図面に記載された発明の範囲外の事項を、新たな出願とするものであるから、特許法第44条第1項に規定する新たな出願とすることはできず、本件発明についての出願の出願日は、原出願の出願日に遡及することなく、平成6年11月7日に出願されたものと認定する。

(c)本件発明の新規性進歩性について
当審が通知した取り消し理由において引用した刊行物は、次のものである。
刊行物1:特開平5-244874号公報
刊行物2:特開平52-99262号公報
そして、上記刊行物には次の事項が記載されている。
上記刊行物1には、
「垂直に設置したプレート型冷却板の表面に原料液を流下させ、冷却板表面に原料液を凍結付着させて氷板とし、該氷板を破砕して最長径が20mm以下の氷片とし、該氷片を容器に充填する氷菓の製造法において、試験例に記載の方法で測定した氷の砕け抵抗が1,000mm以下となる原料液を用い、しかも冷却板表面を流下するまでにその大部分が凍結付着する流量に調整することを特徴とする氷菓の製造法。」(特許請求の範囲の請求項の記載事項)に関して、
「甘味料の含まれる原料液を通常の氷塊を造る氷結缶に入れ冷却した場合、結氷缶内壁部分から凍結が始まるり、中心部へ向け凍結が進んでゆく。このとき、原料液に溶解している成分は氷と一緒に凍結せず、未凍結の原料液に残される。従って、凍結が進むに従い原料液中の溶解成分は中心部に集まり濃縮されるため、全体が均一に味付けした氷とすることができなかった。」(段落【0008】中の記載事項)とあること、
「垂直に設置したプレート型冷却板の表面に甘味料を含んだ原料液を流下させることにより冷却板表面に原料液を凍結付着させて所定の厚さの氷板とし、」(段落【00011】中の記載事項)とあること、
「ここに用いる甘味料を含んだ原料液とは、糖類、ステビア、アスパルテームなどの甘味料と必要により香料、その他の成分を加えた溶液であり、」(段落【0012】中の記載事項)とあること、
「甘味料を含んだ原料液を垂直に設置したプレート型冷却板の表面を上部より流下させることにより冷却板表面に付着凍結させる。このとき流下する原料液の流量を調整して流下する原料液が冷却板下端に達するまでにその大部分が凍結するようにするのが望ましい。なお、冷却下端から流れ落ちた原料液は原料液貯留槽に戻し、再度利用するようにする。」(段落【0015】の記載事項)とあること、
「実施例1 オレンジ果汁5.0部、砂糖3.0部、クエン酸0.5部、香料0.1部、アスパルテーム0.05部に水を加えて100部として原料液を調製した。」(段落【0019】中の記載事項)とあること、
「この原料液を垂直に設置したプレート型冷却板の上部から流下させ、凍結させた。このときの原料液の流量は、流下する原料液の大部分が冷却板の下端に達するまでに凍結するように調整した。」(段落【0020】の記載事項)とあること、
「凍結した氷板の厚さがおよそ20mmとなったら原料液の流れを止め、冷却板の冷却も止めて冷却板から氷板を取り外した。」(段落【0021】中の記載事項)とあること、
「実施例2 砂糖4.0部、インスタントコーヒー1.5部、ぶどう糖果糖液糖3.0部、ステビア0.04部、香料0.1部に水を加えて100部として原料液を調製した。」(段落【0024】中の記載事項)とあること、
「冷却板を垂直に設置し、上より原料液を流下させ、しかもその流量を原料液が冷却板下端に達するまでにその大部分が凍結する量に調整しているため、原料液ほとんど全部が流下したとき直ぐに凍結させている。従って、得られた氷は部分的に濃度が異なることがなく、全体が均一な組成の氷となり、これを破砕した破砕物はどの氷粒も同じ風味のものとなる。」(段落【0032】中の記載事項)とあること、が記載されている。
上記刊行物2には、図面とともに、
「本発明に於いては連続的に上方より撒布し、流下して来る冷凍円筒面の原液を、裾部に到るに従って薄膜状に凍結せしめ、之を掻取刃にて掻取り、更に流下して来た未氷結の原液自体と混合せしめて集氷溝に収容、最終処理場にて罐等に分割収容、最終的凍結せしめるものである」(第2頁右欄第6行〜同第12行)こと、
「本発明は果汁又は氷菓原料等の原液を薄氷状に凍結せしめて後」(第1頁左欄第19行〜同第20行)とあること、
「1は内外二重壁2、3を有する円筒で、該内外両壁2、3間に冷媒腔4を介在し、外部より冷媒を供給して内壁2面を常に冷却せしめるものである。」(第2頁第20行〜第3頁第3行)こと、
「冷媒腔4内を原液の氷結温度より18〜20℃程度低い温度まで冷却して置き、原液タンクよりポンプにより原液パイプ6に原料を供給し、拡散板5面にシャワーせしめるもので、該原液シャワーは内壁2面に沿って流下し、其の裾部に行くに従って徐々に薄氷状にて凍結して行くものである。」(第3頁右欄第2行〜同第8行)こと、が記載されている。
(対比・判断)
そこで、本件発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比し、検討する。
上記刊行物1に記載された、プレート型冷却板の表面に甘味料を含んだ原料液を流下させることにより冷却板表面に原料液を凍結付着させて所定の厚さの氷板とするものの、原料液には、オレンジ果汁やアスパルテーム等に水を加えたものからなる実施例1と、インスタントコーヒーやステビア等に水を加えたものからなる実施例2とが示されていることから、色素や甘味料等が溶解しており、この原料液は、本件発明の「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一に着色された水」と差異がないし、また、上記刊行物1に記載されている「プレート型冷却板」は、その機能からして、本件発明の「製氷体」に相当するものであるから、両者は、
「色素、または、色素および甘味料を溶解して均一着色された水を、この水の供給口から、冷却されている製氷体の表面に直接に供給して、前記製氷体の表面を流下させ、この流下の途中において、前記水の少なくとも一部を凍結させて、前記製氷体の表面に氷層を形成し、つづいて、前記氷層の表面に前記水を流下させて、前記水の少なくとも一部を前記氷層の表面において凍結させ、これによって、厚みのある氷を製造することを特徴とする氷の製造方法。」
であることで一致しているものと認められる。
しかし、冷却されている製氷体の温度について、本件発明は、「-5〜-20℃ に」冷却されているのに対して、上記刊行物1に記載された発明には、その冷却温度が記載されていない点で相違する。
そこで、この相違点を検討すると、上記刊行物2には、果汁又は氷菓原料等の原液を用い、「連続的に上方より散布し、流下して来る冷凍円筒面の原液を、裾部に到るに従って薄膜状に凍結せしめ」、さらに、前記冷凍円筒面を構成する内外二重円筒の両壁間に冷媒腔を介在させて、「冷媒腔4内を原液の氷結温度より18〜20℃程度低い温度まで冷却して置き、」との記載があることから、果汁等の原液を流下させながら凍結させるには、果汁等の原液の氷結温度は0℃以下ということができるので、冷凍円筒面の冷媒腔内の温度が-18〜-20℃程度以下にすることによって凍結することが容易に理解されるところであるし、原液と接する冷凍円筒面は、この冷媒腔内の温度より多少高めになることも容易に分かる。
してみると、上記刊行物1に記載されたプレート型冷却板の表面温度は、上記刊行物2に記載されている果汁等の原液の凍結温度を考慮すれば、この原液の凍結温度程度に冷却されていることは容易に理解し得るところであり、「製氷体」の温度を、「-5〜-20℃に」することは、上記刊行物2の記載に基づいて当業者が容易になし得る冷却温度であるということができる。

以上のとおりであるから、本件発明は、上記刊行物1及び2に記載されたものに基き当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(6)むすび
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-08-21 
出願番号 特願平6-272757
審決分類 P 1 651・ 531- ZB (F25C)
P 1 651・ 121- ZB (F25C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 村本 佳史  
特許庁審判長 滝本 静雄
特許庁審判官 冨岡 和人
櫻井 康平
登録日 1998-01-23 
登録番号 特許第2740131号(P2740131)
権利者 トリー食品工業株式会社
発明の名称 氷の製造方法  
代理人 成瀬 重雄  
代理人 仲田 信平  
代理人 梅野 晴一郎  
代理人 鳥海 哲郎  

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