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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F02F 審判 全部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件 F02F |
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管理番号 | 1027819 |
異議申立番号 | 異議1998-72457 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-08-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-05-15 |
確定日 | 2000-10-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2678308号「2サイクルエンジンのピストン」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2678308号の特許を取り消す。 |
理由 |
【1】手続きの経緯 本件特許第2678308号の発明についての出願は、平成1年2月16日に特許出願されたものであって、その請求項1に係る発明は、平成9年8月1日にその特許権の設定登録がなされたものであるが、その後、本件の請求項1に係る特許に対して、株式会社共立より特許異議の申立てがなされ、平成10年7月22日付けで取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成10年10月5日に訂正請求がなされ、平成11年2月9日付けで訂正拒絶理由の通知がなされ、さらに、平成11年12月3日付けで取消理由を兼ねた訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月15日に再度の訂正請求がなされると共に、平成10年10月5日付けの訂正請求の取下げがなされ、そして、平成12年3月17日付けで訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内である平成12年5月30日に手続補正書が提出されたものである。 【2】訂正請求に対する補正の適否についての判断 ア.補正の内容 (特許請求の範囲の補正の内容) 特許権者が求めている特許請求の範囲の補正の内容は、次のとおりである。 全文訂正明細書中の特許請求の範囲の、 「内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容されると共に、上記シリンダの端部にシリンダヘッドが接合された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッド4の上記シリンダ1との接合面に上記ピストン2の上死点時にこのピストン2の頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部30を設けると共に、その内側に上記ピストン2の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部31を設け、この凹部31と上記ピストン2の頂面との間で燃焼室3を形成する一方、上記ピストン2の上記シリンダヘッド4側に面する頂面のうち、中央側の範囲24の凹陥部を上記凹部31の反対側に陥没する球状曲面形状に形成すると共に、上記ピストン2の頂面のうち、上記凹陥部外周の前記スキッシュ部30に対向する残りの範囲23を上記シリンダヘッド4側に突出する曲面形状に形成し、上記ピストン頂面の中央側の範囲24の曲率Rを上記凹部31の曲率rより大きく設定し、さらに点火プラグ5が燃焼室3を臨むようにシリンダヘッド4の中央部に備えられ、上記燃焼室3を臨む点火プラグ5の下端部にスパーク点を形成し、前記ピストン2の頂面の中央側の範囲24の球状曲面形状凹陥部の直径Dを上記排気口18の幅Wより大きく設定したことを特徴とする2サイクルエンジンのピストン。」を、 「内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容されると共に、上記シリンダの端部にシリンダヘッドが接合された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッド4の上記シリンダ1との接合面に上記ピストン2の上死点時にこのピストン2の頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部30を設けると共に、その内側に上記ピストン2の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部31を設け、この凹部31と上記ピストン2の頂面との間で燃焼室3を形成する一方、上記ピストン2の上記シリンダヘッド4側に面する頂面のうち、中央側の範囲24の凹陥部を上記凹部31の反対側に陥没する球状曲面形状に形成すると共に、上記ピストン2の頂面のうち、上記凹陥部外周の前記スキッシュ部30に対向する残りの範囲23を、径方向断面が上記シリンダヘッド4側に弧状に突出する曲面形状に形成し、上記ピストン頂面の中央側の範囲24の曲率半径Rを上記凹部31の曲率半径rより大きく設定し、さらに点火プラグ5が燃焼室3を臨むようにシリンダヘッド4の中央部に備えられ、上記燃焼室3を臨む点火プラグ5の下端部にスパーク点を形成し、前記ピストン2の頂面の中央側の範囲24の球状曲面形状凹陥部の直径Dを上記排気口18の幅Wより大きく設定したことを特徴とする2サイクルエンジンのピストン。」と補正する。 イ.補正の適否 上記訂正請求に対する補正により、請求項1に係る発明の「ピストン2の頂面のうち、上記凹陥部外周の前記スキッシュ部30に対向する残りの範囲23を、上記シリンダヘッド4側に突出する曲面形状に形成」することについては、「ピストン2の頂面のうち、上記凹陥部外周の前記スキッシュ部30に対向する残りの範囲23を、径方向断面が上記シリンダヘッド4側に弧状に突出する曲面形状に形成」することに補正された。 しかし、シリンダヘッド側に突出する曲面形状を「径方向断面がシリンダヘッド側に弧状に突出する」曲面形状とする補正事項は、訂正明細書の特許請求の範囲をより減縮する目的でなされたものであっても、訂正事項を新たに変更するものであるから、このような補正事項は、訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に変更するものであり、本件訂正請求書の要旨を変更するものに該当する。 したがって、訂正請求に対する当該補正は、その余の補正事項の検討をするまでもなく、特許法第120条の4第3項で準用する同法第131条第2項の規定に適合しないので、上記補正を採用することはできない。 【3】訂正の適否についての判断 ア.訂正明細書の請求項1に係る発明 訂正明細書の請求項1に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載、及び、その特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、次のとおりのものである。 「内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容されると共に、上記シリンダの端部にシリンダヘッドが接合された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッド4の上記シリンダ1との接合面に上記ピストン2の上死点時にこのピストン2の頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部30を設けると共に、その内側に上記ピストン2の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部31を設け、この凹部31と上記ピストン2の頂面との間で燃焼室3を形成する一方、上記ピストン2の上記シリンダヘッド4側に面する頂面のうち、中央側の範囲24の凹陥部を上記凹部31の反対側に陥没する球状曲面形状に形成すると共に、上記ピストン2の頂面のうち、上記凹陥部外周の前記スキッシュ部30に対向する残りの範囲23を上記シリンダヘッド4側に突出する曲面形状に形成し、上記ピストン頂面の中央側の範囲24の曲率半径Rを上記凹部31の曲率半径rより大きく設定し、さらに点火プラグ5が燃焼室3を臨むようにシリンダヘッド4の中央部に備えられ、上記燃焼室3を臨む点火プラグ5の下端部にスパーク点を形成し、前記ピストン2の頂面の中央側の範囲24の球状曲面形状凹陥部の直径Dを上記排気口18の幅Wより大きく設定したことを特徴とする2サイクルエンジンのピストン。」 なお、訂正請求書の請求項1において、「曲率半径R」、「曲率半径r」は、それぞれ「曲率R」、「曲率r」と記載されているが、願書に添付された図面の第3図の記載によれば、請求項1に記載された「曲率R」、「曲率r」は、それぞれ「曲率半径R」、「曲率半径r」の誤記と認められるから、上記のとおり認定した。 イ.引用刊行物に記載乃至示唆された事項 訂正明細書の請求項1に係る発明に対して、当審が通知した平成12年3月17日付けの訂正拒絶理由で引用した米国特許第4,135,479号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、その第1欄第6〜7行に「この発明は2サイクルエンジンのピストンとシリンダに関する。」との記載、第3欄第59〜64行に「ピストンヘッド3には燃焼室の押圧された体積の65%程度の凹部14が形成されている。押圧された体積の残りの部分はシリンダヘッドに形成され、点火栓16が突出する浅皿状凹部15に含まれる。」との記載がある。 また、(1)シリンダヘッドに形成される「浅皿状凹部15」が、周辺より徐々に窪んでいく環状凹部と曲面形状に窪む中央凹部とからなり、(2)ピストン2の頂面が、中央側の範囲の曲面形状に窪む凹部14と残りの範囲のシリンダヘッド側に徐々に突出する部分とからなるものであり、そして、(3)ピストン2頂面の中央側の範囲の凹部14の曲率半径Rが浅皿状凹部15における中央凹部の曲率半径rより小さく、さらに、(4)ピストン2の頂面の中央側の範囲の曲面形状の凹部14の直径Dが排気口13の幅Wより大きいことは、刊行物1の第2図の記載から当業者が適宜読みとることが出来る事項であるものと認められる。 以上のことを総合的に判断すれば、上記刊行物1には、 内周面に排気口13が開口されたシリンダ1内にピストン2が収容された2サイクルエンジンにおいて、シリンダヘッドに上記ピストン2の上死点時にこのピストン2の頂面との間に小さな隙間を形成する環状の凹部を設けると共に、その内側に上記ピストン2の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された中央凹部を設け、この中央凹部と上記ピストンの頂面との間で燃焼室11を形成する一方、上記ピストン2のシリンダヘッド側に面する頂面のうち、中央側の範囲の凹部14を上記中央凹部の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、上記ピストンの頂面のうち、上記中央凹部外周の前記環状の凹部に対向する残りの範囲を上記シリンダヘッド側に徐々に突出する形状に形成し、上記ピストン頂面の中央側の範囲の凹部の曲率半径Rを上記中央凹部の曲率半径rより小さく設定し、さらに前記ピストン2の頂面の中央側の範囲の曲面形状の凹部の直径Dを上記排気口の幅Wより大きく設定した2サイクルエンジンのピストン 、が記載乃至示唆されているものと認められる。 また、同じく平成12年3月17日付けの訂正拒絶理由通知で引用した特公昭41-16884号公報(以下、「刊行物2」という。)には、その第1頁左欄下から第6行〜右欄第2行に「本発明はクランクケースで圧縮し2行程サイクルで作動し且つピストンが移動する……(中略)……型式の往復動式内燃機関に関する。」との記載がある。 また、シリンダヘッドのシリンダ3との接合面にピストン4の上死点時にこのピストン4の頂面との間に小さな隙間を形成する環状の凹部を設けると共に、その内側にピストン4の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部を設け、この凹部とピストン4の頂面との間で燃焼室を形成する一方、ピストン4のシリンダヘッド側に面する頂面のうち、中央側の範囲の凹陥部を上記凹部の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、この中央側の範囲の曲率半径Rを上記凹部の曲率半径rより大きく設定し、さらに点火プラグが燃焼室を臨むようにシリンダヘッドの中央部に備えられ、上記燃焼室を臨む点火プラグの下端部にスパーク点を形成することは、刊行物2の第1図の記載から当業者が適宜読みとることが出来る程度の事項であるものと認められる。 したがって、刊行物2には、以上の記載乃至示唆される事項からみて、 シリンダ3内にピストン4が収容されると共に、上記シリンダ3の端部にシリンダヘッドが接合された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッドの上記シリンダ3との接合面に上記ピストン4の上死点時にこのピストン4の頂面との間に小さな隙間を形成する環状の凹部を設けると共に、その内側に上記ピストン4の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部を設け、この凹部と上記ピストン4の頂面との間で燃焼室を形成する一方、上記ピストン4の上記シリンダヘッド側に面する頂面のうち、中央側の範囲の凹陥部を上記凹部の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、この中央側の範囲の曲率半径Rを上記凹部の曲率半径rより大きく設定し、さらに点火プラグが燃焼室を臨むようにシリンダヘッドの中央部に備えられ、上記燃焼室を臨む点火プラグの下端部にスパーク点を形成した2サイクルエンジンのピストン、 が記載乃至示唆されているものと認められる。 ウ.対比・判断 そこで、訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された「中央凹部」、「凹部14」は、それぞれ、本件訂正発明の「凹部31」、「凹陥部」に対応する。 そして、シリンダヘッドに環状の凹部であるスキッシュ部を設けることは、一例として、実願昭57-139925号(実開昭59-43632号)のマイクロフィルム、特開昭62-35044号公報、……等に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知又は慣用の技術にすぎないので、刊行物1の第1、2、4図に記載されたシリンダヘッドの環状の凹部がスキッシュ部を示唆するものであることは、当業者が容易に推認し得るものと認められる。 したがって、刊行物1に記載される「環状の凹部」は、本件訂正発明の「環状のスキッシュ部30」に対応するものであるから、結局、両者は、 内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッドに上記ピストンの上死点時にこのピストンの頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部を設けると共に、その内側に上記ピストンの頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部を設け、この凹部と上記ピストンの頂面との間で燃焼室を形成する一方、上記ピストンの上記シリンダヘッド側に面する頂面のうち、中央側の範囲の凹陥部を上記凹部の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、上記ピストンの頂面のうち、上記凹陥部外周の前記環状のスキッシュ部に対向する残りの範囲を上記シリンダヘッド側に突出する形状に形成し、前記ピストンの頂面の中央側の範囲の曲面形状凹陥部の直径Dを上記排気口の幅Wより大きく設定した2サイクルエンジンのピストン、 の点で一致し、以下の相違点(イ)〜(ハ)でその構成が相違する。 相違点(イ); 本件訂正発明は、シリンダの端部にシリンダヘッドが接合されたものであって、シリンダヘッドのシリンダとの接合面に環状のスキッシュ部を設けたものであるのに対して、刊行物1に記載された発明は、シリンダヘッドを備えたものであるが、シリンダの端部にシリンダヘッドを接合させたものであるのかどうか、さらに、シリンダヘッドのシリンダとの接合面に環状のスキッシュ部を設けたものであるのかどうか、不明である点。 相違点(ロ); 本件訂正発明は、ピストンのシリンダヘッド側に面する頂面のうち、スキッシュ部に対向する範囲をシリンダヘッド側に突出する曲面形状に形成したものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、曲面形状の点に関して不明である点。 相違点(ハ); 本件訂正発明は、ピストン頂面の陥没する球状曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率半径Rを凹部の曲率半径rより大きく設定し、さらに点火プラグが燃焼室を臨むようにシリンダヘッドの中央部に備えられ、上記燃焼室を臨む点火プラグの下端部にスパーク点を形成したものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、刊行物1の第2図を参照する限りにおいて、ピストン頂面の陥没する曲面形状が球状であるかどうかは不明であり、しかも、該曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率半径Rは凹部の曲率半径rより小さいものであり、さらに、点火プラグの点に関しては不明である点。 そこで、上記各相違点(イ)〜(ハ)について検討する。 相違点(イ)について; シリンダの端部にシリンダヘッドを接合し、さらに、シリンダヘッドのシリンダとの接合面に環状の凹部であるスキッシュ部を設けることは、一例として、実願昭57-139925号(実開昭59-43632号)のマイクロフィルム、特開昭62-35044号公報、……等に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知又は慣用の技術にすぎないので、上記相違点(イ)は格別意味のある技術的相違とはいえない。 相違点(ロ)について; 刊行物1の図面の第1、2、4図の記載からみて、刊行物1に記載されたピストン頂面のうち、スキッシュ部に対向する範囲のピストン頂面は、シリンダヘッド側に突出する円錐面であると認められ、また、円錐面が曲面形状であることは当業者にとって技術常識であるから、刊行物1に記載されたピストン頂面のうち、スキッシュ部に対向する範囲のピストン頂面は、正しくシリンダヘッド側に突出する曲面形状に形成したものであるといえる。してみれば、上記相違点(ロ)は、実質的な相違とはいえない。 相違点(ハ)について; ピストン頂面の中央側の範囲の凹陥部の曲率半径Rを凹部の曲率半径rより大きく設定すること、及び、点火プラグが燃焼室を臨むようにシリンダヘッドの中央部に備えられ、上記燃焼室を臨む点火プラグの下端部にスパーク点を形成したことは、いづれも、刊行物2に記載されている。 そして、刊行物1及び刊行物2に記載された発明は、共に2サイクルエンジンの燃焼室構造という同一の技術分野に属するから、刊行物1に記載された発明の燃焼室の構造に、刊行物2に記載された発明を適用し、もって、刊行物1に記載された発明の燃焼室の構造を、ピストン頂面の陥没する曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率Rを凹部の曲率rより大きく設定し、さらに点火プラグが燃焼室を臨むようにシリンダヘッドの中央部に備えられ、上記燃焼室を臨む点火プラグの下端部にスパーク点を形成するように成すことは、上記適用を妨げる特段の技術的事情が存在するものとは認められない以上、当業者が容易になし得たものというべきである。 また、2サイクルエンジンにおいて、ピストン頂面の中央側の範囲で陥没する凹陥部の曲面形状を球状に形成することは、一例として、実願昭57-139925号(実開昭59-43632号)のマイクロフィルム、実願昭58-9649号(実開昭59-115836号)のマイクロフィルム、特開昭61-178515号公報、……等に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知の技術にすぎないので、上記適用に際し、ピストン頂面の中央側の範囲の凹陥部の曲面形状を球状に形成することは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の設計事項にすぎないものと認められる。 したがって、本件訂正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 エ.結論 以上のとおりであるから、訂正明細書の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 【4】特許異議の申立てについての判断 ア.本件特許の請求項1に係る発明 前記【3】エ.で述べたように、訂正請求の訂正が認められないので、本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載、及び、その特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、次のとおりのものと認める。 「内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容されると共に、上記シリンダの端部にシリンダヘッドが接合された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッド4の上記シリンダ1との接合面に上記ピストン2の上死点時にこのピストン2の頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部30を設けると共に、その内側に上記ピストン2の頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部31を設け、この凹部31と上記ピストン2の頂面との間で燃焼室3を形成する一方、上記ピストン2の上記シリンダヘッド4側に面する頂面のうち、上記スキッシュ部30に対向する範囲23を上記シリンダヘッド4側に突出する曲面形状に形成し、残りの中央側の範囲24を上記凹部31の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、この中央側の範囲24の曲率半径Rを上記凹部31の曲率半径rより大きく設定し、さらにこの中央側の範囲24の直径Dを上記排気口18の幅Wより大きく設定したことを特徴とする2サイクルエンジンのピストン。」 なお、特許明細書の請求項1において、「曲率半径R」、「曲率半径r」は、それぞれ「曲率R」、「曲率r」と記載されているが、願書に添付された図面の第3図の記載によれば、請求項1に記載された「曲率R」、「曲率r」は、それぞれ「曲率半径R」、「曲率半径r」の誤記と認められるから、上記のとおり認定した。 イ.取消理由に引用した発明 当審が通知した平成11年12月3日付けの(訂正拒絶理由と兼用した)取消理由で引用した米国特許第4,135,479号明細書(上記「刊行物1」と同じ)、及び、特公昭41-16884号公報(上記「刊行物2」と同じ)には、すでに上記【3】イ.で示した事項の発明が記載乃至示唆されているものと認められる。 ウ.対比・判断 そこで、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、上記【3】ウ.で示した対比と同様の理由により、 内周面に排気口が開口されたシリンダ内にピストンが収容された2サイクルエンジンにおいて、上記シリンダヘッドに上記ピストンの上死点時にこのピストンの頂面との間に小さな隙間を形成する環状のスキッシュ部を設けると共に、その内側に上記ピストンの頂面とは反対方向に凹む曲面形状に形成された凹部を設け、この凹部と上記ピストンの頂面との間で燃焼室を形成する一方、上記ピストンの上記シリンダヘッド側に面する頂面のうち、上記スキッシュ部に対向する範囲を上記シリンダヘッド側に突出する形状に形成し、残りの中央側の範囲を上記凹部の反対側に陥没する曲面形状に形成すると共に、さらにこの中央側の範囲の直径Dを上記排気口の幅Wより大きく設定した2サイクルエンジンのピストン、 の点で一致し、以下の相違点(イ)〜(ハ)でその構成が相違する。 相違点(イ); 本件発明は、シリンダの端部にシリンダヘッドが接合されたものであって、シリンダヘッドのシリンダとの接合面に環状のスキッシュ部を設けたものであるのに対して、刊行物1に記載された発明は、シリンダヘッドを備えたものであるが、シリンダの端部にシリンダヘッドを接合させたものであるのかどうか、さらに、シリンダヘッドのシリンダとの接合面に環状のスキッシュ部を設けたものであるのかどうか、不明である点。 相違点(ロ); 本件発明は、ピストンのシリンダヘッド側に面する頂面のうち、スキッシュ部に対向する範囲をシリンダヘッド側に突出する曲面形状に形成したものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、曲面形状に形成したものであるのかどうか不明である点。 相違点(ハ); 本件発明は、ピストン頂面の陥没する曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率半径Rを凹部の曲率半径rより大きく設定したものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率半径Rは凹部の曲率半径rより小さいものである点。 そこで、上記各相違点(イ)〜(ハ)について検討する。 相違点(イ)について; 上記【3】ウ.の「相違点(イ)について;」の箇所で示した判断と同様の理由により、この相違点(イ)は格別意味のある技術的相違とはいえない。 相違点(ロ)について; 上記【3】ウ.の「相違点(ロ)について;」の箇所で示した判断と同様の理由により、この相違点(ロ)も実質的な相違とはいえない。 相違点(ハ)について; ピストン頂面の中央側の範囲の凹陥部の曲率半径Rを凹部の曲率半径rより大きく設定することは、刊行物2に記載されている。 そして、刊行物1及び刊行物2に記載された発明は、共に2サイクルエンジンの燃焼室構造という同一の技術分野に属するから、刊行物1に記載された発明の燃焼室の構造に、刊行物2に記載された発明を適用し、もって、刊行物1に記載された発明の燃焼室の構造を、ピストン頂面の陥没する曲面形状に形成した中央側の範囲の曲率Rを凹部の曲率rより大きく設定することは、上記適用を妨げる特段の技術的事情が存在するものとは認められない以上、当業者が容易になし得たものというべきである。 したがって、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。 【5】むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるので、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-08-28 |
出願番号 | 特願平1-34917 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(F02F)
P 1 651・ 856- ZB (F02F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 長屋 陽二郎、中村 則夫 |
特許庁審判長 |
蓑輪 安夫 |
特許庁審判官 |
清田 栄章 清水 信行 |
登録日 | 1997-08-01 |
登録番号 | 特許第2678308号(P2678308) |
権利者 | スズキ株式会社 |
発明の名称 | 2サイクルエンジンのピストン |
代理人 | 関口 俊三 |
代理人 | 波多野 久 |