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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01P
審判 全部申し立て 発明同一  H01P
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01P
管理番号 1031779
異議申立番号 異議1999-74097  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-09 
確定日 2000-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2888204号「電子部品」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2888204号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2888204号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成8年8月21日に出願され、その発明について特許の設定登録が平成11年2月19日になされ、その後、株式会社村田製作所より、請求項1〜3に係る発明の特許に対して特許異議の申立がなされ、そして、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月25日に訂正請求がなされ、さらに訂正拒絶理由通知がなされた後、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年9月7日に前記訂正請求についての取り下げがなされ、新たに訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1 特許権者が求めている訂正
平成12年4月25日付けでなされた訂正請求は、取り下げられているから、特許権者が求めている訂正は、平成12年9月7日付け訂正請求書に記載された以下のとおりのものである。

2-1-1 特許請求の範囲の記載に関して
訂正事項1
特許請求の範囲の記載を「【請求項1】 表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品。」と訂正する。

2-1-2 発明の詳細な説明欄中の記載に関して
訂正事項2
段落番号【0007】に記載の「・・本発明は、実装基板の裏面に設けられたアース電極内で回路部品により接続される回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に配置したものである。」を「・・本発明は、実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたのである。」と訂正する。
訂正事項3
段落番号【0008】に記載の「【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内で前記回路部品により接続される前記回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品であって、非電極形成部が、実装基板の表裏面に於ける膨張差を効率よく吸収するという作用を有する。」を「【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品であって、非電極形成部が、実装基板の表裏面に於ける膨張差を効率よく吸収するとともに、アース電極を一体の状態に保つことが出来るという作用を有する。」と訂正する。
訂正事項4
段落番号【0009】を削除する
訂正事項5
段落番号【0010】を削除する。
訂正事項6
段落番号【0011】に記載の「以下本発明の一実施形態を・・」を「以下本発明の参考形態を・・」と訂正する。
訂正事項7 段落番号【0018】に記載の「以下、他の実施形態について説明する。但し、上述した一実施形態と同様の構成のものについては、・・」を「以下、本発明の一実施形態について説明する。但し、上述した参考形態と同様の構成のものについては、・・」と訂正する。
訂正事項8
段落番号【0019】に記載の「・・上述した一実施形態の如く・・」を「・・上述した参考形態の如く・・」と訂正する。
訂正事項9
段落番号【0021】を削除する。
訂正事項10
段落番号【0022】に記載の「・・実装基板の裏面に設けられたアース電極内で回路部品により接続される前記回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に配置したことにより、・・」を「実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことにより、・・」と訂正する。
2-1-3 図面の簡単な説明の欄中の記載に関して
訂正事項11
【図面の簡単な説明】に記載の「【図1】
本発明の電子部品の一実施形態として・・
【図4】
本発明の他の実施形態に於ける・・」を「【図1】
本発明の電子部品の参考形態として・・
【図4】
本発明の一実施形態に於ける・・」と訂正する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1に関連して、本件特許明細書の請求項2には、「表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品。」と記載されており、特許明細書中に記載される「非電極形成部」はアース電極内に設けられているから、この訂正は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項を同明細書に記載された技術的事項により、同一の目的の範囲内で限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項2〜11は、上記特許請求の範囲の訂正に合わせ、不明瞭となる記載を釈明するものであり、新規事項を追加せず、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正された明細書には、記載の不備は認められず、訂正明細書の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載されたとおりの以下の事項により特定されるものである。
【請求項1】 表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品。

2-4 独立特許要件
2-4-1 取消理由通知の概要
当審に於いて通知した訂正拒絶理由の対象となる訂正は取り下げられている。そして、当審において、通知した各取消理由の概要は、
理由概要1
本件請求項1,2に係る発明は、特願平8-90226号(特開平9-260795号公報(甲第3号証の刊行物)に係る出願)の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明であるから、それら発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。(平成12年3月7日付取消理由通知 理由1)
理由概要2
本件請求項2に係る発明は、特開平7-162210号公報(甲第1号証の刊行物)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であり、同発明に係る特許は、特許法第29条の規定して違反してなされたものである。(平成12年3月7日付取消理由通知 理由2)
理由概要3
本件請求項3に記載の「非電極形成部の幅を、実装基板の厚みより狭くした」ことが、如何なる課題をどの様に解決するものであるのか、発明の詳細な説明の欄中に記載されていないから、同請求項に係る発明の特許は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。(平成12年3月7日付取消理由通知 理由3)
理由概要4
本件請求3の記載と関連する課題が発明の詳細な説明の欄中に記載されていないから、同請求項に係る発明の特許は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。(平成12年8月24日付取消理由通知)

2-4-2 明細書の記載について
訂正された本件明細書には、訂正前の請求項3の構成である「非電極形成部の幅を、実装基板の厚みより狭くした」ことを構成とする発明は記載されておらず、2-4-1の理由概要3,4のにいう明細書の記載の不備は認められない。また、他に明細書の記載が不備であるとする特段の事項は認められない。

2-4-3 取消理由通知に引用された発明
取消理由通知において引用した特開平9-260795号公報(甲第3号証)には、以下の記載がある。
段落番号【0010】に、「基板51は、ガラスエポキシ、BTレジン等が用いられ、約18μmの銅箔を基板に接着し、エッチング処理することで、導体パターンが形成されている。」
段落番号【0011】に、「一般的な概略形状は、数十mm×数十mm程度で、厚みtは0.2〜0.8mmのものがよく用いられる。」
段落番号【0012】に、「具体例として、図7の2段のバンドパスフィルターを一例に説明する。」
段落番号【0015】に、「使用した基板は、幅10mm×長さ13mm×厚さt0.3mmの形状で、材質はガラスエポキシである。」
段落番号【0018】に、「次に、このフィルタを230℃で30秒間リフローを通すと、0.32mm±0.10mmの基板の反りdを生じ(図10参照)、一般的な基板反り規格であるd≦0.2mm以下を大きく上回った。」
段落番号【0029】に、「本発明による部品実装用基板は、電気素子接続用導体と対向する接地用導体に網目状に導体を抜いた箇所を形成することで、両者の導体面積の差を少なくし、基板が加熱したときに、絶縁基板と導体と膨張率の違いから起因される基板の反りを低減することが可能となる。・・」
段落番号【0031】に、「・・電気素子接続用導体54のまわりには、導体が形成されていない。図1(b)に示すように、それと対向する部分の接地用導体56の導体を抜いた箇所12を網目状に形成することによって、両者の導体面積の差が小さいため、絶縁基板と導体の膨張率の違いに起因する基板の反りを低減することができる。」
段落番号【0032】に、「具体的には、図1(b)のAを拡大すると、図1(c)に示すように、導体を抜いた箇所12は、径がφ0.2で、X,Yのピッチ0.4mm間隔で網目状に形成される。」
これらの記載と図面の記載とを併せみれば、「電気素子接続用導体54」間に対応する位置を含み「接地用導体56」の「導体を抜いた箇所12」を形成することが記載されるのであるから、同公報に係る出願である特願平8-90226号の願書に最初に添付された明細書または図面(以下、「引用明細書」という。)には、以下の発明が記載されるものと認める。
表面に複数の回路電極である「電気素子接続用導体54」、裏面にアース電極である「接地用導体56」を備えた実装基板である「部品実装用基板」と、前記「電気素子接続用導体54」を接続する回路部品である「電気素子」を備えた電子部品である「バンドパスフィルター」に於いて、前記「接地用導体56」内で前記「電気素子」により接続される前記「電気素子接続用導体54」間に対応する位置に「接地用導体56」の「導体を抜いた箇所12」を形成し、導体を抜いた箇所12は、径がφ0.2で、使用した基板は、幅10mm×長さ13mm×厚さt0.3mmの形状である電子部品であるバンドパスフィルター。

また、同じく引用した、特開平7-162210号公報(甲第1号証 以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある。
段落番号【0001】には、「・・本発明は、例えば、自動車電話、携帯電話等の移動通信機器に使用される誘電体フィルタとして用いられる誘電体共振器装置に関するものである。」
段落番号【0010】には、「・・本発明は、ベース基板22の一主面に誘電体同軸共振器1〜7等の高周波用の電子部品素子を実装し、上記ベース基板22の他主面には略全面にわたって電極膜状のアース電極26を形成し、ベース基板22の他主面の入出力端子23〜25やアース端子42の箇所を除いて上記アース電極26面にレジスト膜41を形成するようにした誘電体共振器装置において、上記ベース基板22の少なくとも他主面の端縁の略全周にわたってアース電極26を非形成とした無電極部43を形成し、この無電極部43とアース電極26とにわたって上記レジスト膜41を形成したことを特徴としている。」
段落番号【0016】には、「上記各部材を上面に実装するベース基板22には、アンテナ側と接続される電極膜状の入出力端子23と、送信部側が接続される電極膜状の入出力端子24と、受信部側が接続される電極膜状の入出力端子25とがそれぞれ形成されている。また、ベース基板22の上面及び下面は電極膜状のアース電極26が略全面にわたって形成してある。尚、このベース基板22は、樹脂等の誘電体または絶縁体等で形成されている。ベース基板22の上面に実装される上記結合基板13は2個のスペーサ21を介して実装されるものであり、他の1個のスペーサ21はベース基板22の入出力端子24の上面に実装される。これら3個のスペーサ21は、金属等の導通のある部材を用いている。」
段落番号【0025】には、「次に、本発明の要旨について詳述する。図1はベース基板22の背面図を示し、本発明では従来とは異なり、アース電極26の周縁部分に略全周にわたって該アース電極26を形成しない無電極部43を形成している。すなわち、ベース基板22の下面の略全周にわたり該ベース基板22の樹脂部分を露出させている。」
段落番号【0026】には、「そして、図1に示す状態からレジスト樹脂をベース基板22の下面の無電極部43を含めたほぼ全面にわたって塗布してレジスト膜41を形成するものである。図3はレジスト膜41を形成した場合のベース基板22の背面図を示している。図3において、左下がりの斜線部分が入出力端子23〜25やアース端子42(アース電極26)等の電極部分を示し、右下がりの斜線部分がレジスト膜41を示している。なお、入出力端子23〜25やアース端子42は従来と同じ構成なので説明は省略する。」
これら記載と図1の断続的に図示された「無電極部43」を併せみれば、以下の発明が記載されものと認める。
表面に複数の回路電極である「入出力端子23-25」、裏面にアース電極26を備えた実装基板である「ベース基板22」と、前記入出力端子を接続する回路部品である電子部品素子を備えた電子部品である誘電体共振器装置に於いて、前記ベース基板の中央部を囲むよう断続的にアース電極の外周に非電極形成部である無電極部43を設けた誘電体共振器装置。

2-4-4 対比判断
訂正明細書の請求項1に係る発明と引用明細書の発明とを比較すると、両発明は
表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に断続的に非電極形成部を設けた電子部品。
である点で一致するものの、訂正明細書の請求項1に係る発明の構成の一部である、非電極形成部が、実装基板の中央部を囲むよう設けられる点については何等記載も示唆もされていない。
そして、訂正明細書の請求項1に係る発明は、同構成を有することにより、電子部品のシールド性を損なわず面精度が高い表面実装型の電子部品を提供できるという特有の効果を奏するものである。
従って、実装基板の中央部を囲むよう設けられる点を設計上の事項とすることはできず、また、この点が周知の技術であるとする客観的証拠は何等ない。
よって、訂正明細書の請求項1の発明を、その発明の構成の一部である、実装基板の中央部を囲むよう設けられる点を開示も示唆もしない特願平8-90226号の願書に最初に添付された明細書または図面に記載された発明と同一であるとすることはできない。

ついで、訂正明細書の請求項1に係る発明と引用文献に記載の発明とを比較すると、両発明は、
表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けた電子部品。
の発明である点で一致するものの、訂正明細書の請求項1に係る発明は、実装基板の中央部を囲むよう断続的に設けた非電極形成部がアース電極内に設けられるという構成を有し、そのことにより、電子部品のシールド性を損なわず面精度が高い表面実装型の電子部品を提供できるという特有の効果を奏するものであるのに対して、引用文献のものには、アース電極内に設けることを開示も示唆もしていない。
しかも、引用文献に記載の無電極部は、その目的からアース電極内に設けるべきものではないので、上記相違点を設計上の事項とすることはできず、たとえ、アース電極内に無電極部を設ける技術が、別途知られていたとしても、その適用が可能なものではない。
よって、訂正明細書の請求項1の発明を、その発明の構成の一部を開示も示唆もしない特開平7-162210号公報に記載された発明とすることはできず、また、同公報に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、訂正明細書の請求項1に係る発明をその出願の際独立して特許を受けることができないとする他の理由を発見しない。

2-5 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立に対する判断
3-1 申立て理由の概要
特許異議申立人株式会社村田製作所は、
甲第1号証 刊行物 : 特開平7-162210号公報
甲第2号証 刊行物 : 特開平7-320542号公報
甲第3号証 刊行物 : 特開平9-260795号公報
を提出して、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1,2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらに係る特許は、取り消されるべきものであり、また、本件請求項1,3に係る発明は、甲第3号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書または図面に記載された発明と同一の発明であるから、それらに係る特許は取り消されるべきものである旨主張するとともに、特許明細書の請求項3には、「非電極形成部の幅を、実装基板の厚みより狭くした」と記載されているが、明細書中に「狭くした」ことの理由が記載されていないから、明細書の記載は不備であり、請求項3に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。

3-2 本件明細書の記載について
訂正された本件明細書には、訂正前の請求項3の構成である「非電極形成部の幅を、実装基板の厚みより狭くした」ことを構成とする発明は、記載されておらず、明細書の記載には、特許異議申立人の主張する不備は認めらない。また、他に、明細書の記載が不備であるとする特段の事項は認められない。

3-3 本件特許の請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明は、訂正の認められた明細書の請求項1に記載された、の事項により特定されるものである。
【請求項1】 表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品

3-4 甲各号証に係る発明
甲第1号証の刊行物には、上記の事項が記載されているから、
表面に複数の回路電極である「入出力端子23-25」、裏面にアース電極26を備えた実装基板である「ベース基板22」と、前記入出力端子を接続する回路部品である電子部品素子を備えた電子部品である誘電体共振器装置に於いて、前記ベース基板の中央部を囲むよう断続的にアース電極の外周に非電極形成部である無電極部43を設けたことを特徴とする誘電体共振器装置。
の発明が記載されるものと認められる。
甲第2号証の刊行物には、
段落番号【0006】には、「図8〜10においては平坦な銅層に一連の穴がパターン形成層内のギャップの裏側の区域に沿って配置されていることが示されている。これらの穴は銅断面のギャップに生じる張力を減らして歪みを生じさせるような力を減らす効果がある。穴は図10の平面図に示すように円形であってもよく、実質的にギャップに相当する銅層内に細長い穴を形成するようにしてもよい。ギャップに相当する銅断面は勿論他の方法でも減らすことが可能であるが、それには銅が均等に分配され、基板の比較的弱くなっている部分を保護するようになっていることが条件である。」
と記載されており、これら記載と図面の記載とを併せみれば、甲第2号証の刊行物には、
基板の表裏面に銅層を有する基板において、パターン形成層のギャップの裏面に対応する位置に無電極部となる穴を設けた基板
の発明が記載されるものと認められる。
甲第3号証の刊行物には、上記の記載があるので、甲第3号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書または図面には、
表面に複数の回路電極である「電気素子接続用導体54」、裏面にアース電極である「接地用導体56」を備えた実装基板である「部品実装用基板」と、前記「電気素子接続用導体54」を接続する回路部品である「電気素子」を備えた電子部品である「バンドパスフィルター」に於いて、前記「接地用導体56」内で前記「電気素子」により接続される前記「電気素子接続用導体54」間に対応する位置に「接地用導体56」の「導体を抜いた箇所12」を形成し、導体を抜いた箇所12は、径がφ0.2で、使用した基板は、幅10mm×長さ13mm×厚さt0.3mmの形状である電子部品であるバンドパスフィルター。
の発明が記載されるものと認める。

3-4 対比・判断
本件請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載の発明とを比較すると、前記のとおり、本件の請求項1に係る発明の実装基板の中央部を囲むよう断続的に設けた非電極形成部が、アース電極内に設けられるものであり、そのことにより、電子部品のシールド性を損なわず面精度が高い表面実装型の電子部品を提供できるという特有の効果を奏するものであるのに対して、甲第1号証の刊行物のものは、無電極部をアース電極内に設けることを開示も示唆もしていない。
しかも、甲第1号証の刊行物に記載の無電極部は、その目的からアース電極内に設けるべきものではないので、上記相違点を設計上の事項とすることはできず、たとえ、アース電極内に無電極部を設ける技術が、別途知られていたとしても、その適用が可能なものではない。
よって、本件の請求項1の発明を、その発明の構成の一部を開示も示唆もしない甲第1号証(特開平7-162210号公報)に記載された発明とすることはできず、また、同公報に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、甲第2号証のものは、上記の開示は認められるものの、本件の請求項1に係る発明の構成の一部である、アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けることを記載も示唆もしていない。
そして、本件請求項1に係る発明は、同構成を有することにより、上述の効果を奏するものであるから、本件の請求項1の発明を、その発明の構成の一部を開示も示唆もしない甲第2号証(特開平7-320542号公報)に記載された発明とすることはできず、また、同公報に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

更に、甲第3号証には、上記の開示があるものの、本件の請求項1に係る発明の構成の一部である
非電極形成部が、実装基板の中央部を囲むよう設けられる点については何等記載も示唆もされていない。
よって、本件の請求項1の発明を、その発明の構成の一部である、実装基板の中央部を囲むよう設けられる点を開示も示唆もしない甲第3号証の刊行物に係る出願である特願平8-90226号の願書に最初に添付された明細書または図面に記載された発明と同一であるとすることはできない。

3-5 むすび
以上説示のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の発明についての特許を取り消すことはできず、他に同発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子部品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リフロー等の加熱処理により組み立てられる表面実装型の電子部品に関するものである。
電子部品の面実装化が進むにともない、セット側に実装する電子部品の底面に高い平面精度が要望されるようになってきている。
従来、電子部品は、実装基板の表面に複数の回路電極が設けられており、この回路電極間を接続するチップコンデンサ等の回路部品がリフローハンダ付けにより実装されることにより構成されている。
また、このような電子部品は、実装基板の裏面側が、電子部品のシールド性を高めるため、略全面にアース電極が設けられている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実装基板の表裏面に於いて、回路電極とアース電極の面積に差があるため、回路部品をリフロー実装する際、その熱により表裏面の電極に膨張差が生じ、実装基板が回路電極側に反ってしまい、その状態で回路部品がハンダ付けされるため、出来上がった電子部品の底面が反ってしまうという問題があった。
そこで本発明は、このような問題を解決し、面精度が高い表面実装型の電子部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明は、実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたのである。
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品であって、非電極形成部が、実装基板の表裏面に於ける膨張差を効率よく吸収するとともに、アース電極を一体の状態に保つことが出来るという作用を有する。
以下本発明の参考形態を図を用いて説明する。図1は、携帯電話などに用いられる電子部品の一つである誘電体フィルタの分解斜視図である。
1は実装基板であり、ガラスエポキシ系樹脂等から構成されており、表面には回路電極2,3,4が設けられている。裏面には、図2に示される如くアース電極5及び入出力電極6が設けられている。また、前記回路電極2は入出力電極6と、回路電極4はアース電極5と実装基板1の側面に於いて接続されている。
これらの回路電極2、回路電極3、回路電極4、アース電極5、入出力電極6は、電気導通性や浸食性等を考慮し一般に金や銅が用いられているとともに、電極形成はエッチング等により行われている。
図1に戻り、7は回路部品の一つとして用いられる誘電体共振器であり、開放端面7aを除く外周面に外周電極7b、貫通孔7cの内周面には内周電極7dが設けられている。このような誘電体共振器7は、実装基板1の破線で示す部分にリフロー実装されるとともに、内周電極7dの開放端面7a側は信号端子8により回路電極3に接続されている。
9は回路部品の一つとして用いられるチップコンデンサであり、実装基板1の破線で示す如く実装され、回路電極2と3、及び回路電極3と3とを接続している。
図2に示す如く実装基板1のアース電極5内には、非電極形成部10が設けられている。この非電極形成部10がアース電極5内に設けられることで、図3に示す如くリフロー実装などによる実装基板1の表裏面に於ける電極との熱膨張の差を軽減でき、電子部品の底面に於ける面積精度が向上できるのである。
また、非電極形成部10は、破線で示される回路部品9で接続される回路電極2及び3の間に対応する位置に設けられている。これは、回路電極2及び3とアース電極5の端部の位置を積極的に合わせることにより、回路部品9をリフロー実装する際に発生する前記各電極の熱膨張差を抑えることができ、その結果、回路部品9がリフローハンダ付けされても、出来上がった電子部品の底面が反ってしまうことを抑えることが出来るものである。
以下、本発明の一実施形態について説明する。但し、上述した参考形態と同様の構成のものについては、同じ符号を付して説明を簡略化するものとする。
実装基板1上に回路部品9が無作為に多数配置された場合、上述した参考形態の如く非電極形成部10を回路部品9に対応するように配置すれば、回路部品9の数に応じて非電極形成部10が増えてしまう。つまり、電子部品の底面に於けるシールド性が低下してしまうのである。このような場合図4に示す如く、実装基板1の裏面に設けられる非電極形成部10は、実装基板1の中央部を囲むように断続的に設けられている。
このように非電極形成部10を配置した場合、実装される回路部品9に対応する位置とならないものの、実装基板1の中央部を囲むように配置されているので、熱によりアース電極5が外方に向かい膨張することを抑えられるとともに、非電極形成部10が断続的に配置されているので、電子部品の底面に於いて独立したアース電極5が多数出来ることがなく、電子部品を外部の回路と接続するに際して接続箇所を不用意に増やさずとも安定した特性を確保出来るのである。
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことにより、電子部品のシールド性を損なわず底面精度が高い表面実装型の電子部品を提供できるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の電子部品の参考形態として用いた誘電体フィルタの分解斜視図
【図2】
同誘電体フィルタの下面図
【図3】
同誘電体フィルタに於ける実装基板の部分断面図
【図4】
本発明の一実施形態に於ける誘電体フィルタの下面図
【符号の説明】
1 実装基板
2 回路電極
3 回路電極
4 回路電極
5 アース電極
7 回路部品(誘電体共振器)
9 回路部品(チップコンデンサ)
10 非電極形成部
 
訂正の要旨 1 特許請求の範囲の記載に関して
訂正事項1
特許請求の範囲の記載を「【請求項1】表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品。」と訂正する。
2 発明の詳細な説明欄中の記載に関して
訂正事項2
段落番号【0007】に記載の「・・本発明は、実装基板の裏面に設けられたアース電極内で回路部品により接続される回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に配置したものである。」を「・・本発明は、実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたのである。」と訂正する。
訂正事項3
段落番号【0008】に記載の「【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内で前記回路部品により接続される前記回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品であって、非電極形成部が、実装基板の表裏面に於ける膨張差を効率よく吸収するという作用を有する。」を「【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に複数の回路電極、裏面にアース電極を備えた実装基板と、前記回路電極間を接続する回路部品を備えた電子部品に於いて、前記アース電極内に前記実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことを特徴とする電子部品であって、非電極形成部が、実装基板の表裏面に於ける膨張差を効率よく吸収するとともに、アース電極を一体の状態に保つことが出来るという作用を有する。」と訂正する。
訂正事項4
段落番号【0009】を削除する
訂正事項5
段落番号【0010】を削除する。
訂正事項6
段落番号【0011】に記載の「以下本発明の一実施形態を・・」を「以下本発明の参考形態を・・」と訂正する。
訂正事項7 段落番号【0018】に記載の「以下、他の実施形態について説明する。但し、上述した一実施形態と同様の構成のものについては、・・」を「以下、本発明の一実施形態について説明する。但し、上述した参考形態と同様の構成のものについては、・・」と訂正する。
訂正事項8
段落番号【0019】に記載の「・・上述した一実施形態の如く・・」を「・・上述した参考形態の如く・・」と訂正する。
訂正事項9
段落番号【0021】を削除する。
訂正事項10
段落番号【0022】に記載の「・・実装基板の裏面に設けられたアース電極内で回路部品により接続される前記回路電極間の少なくとも一つに対応する位置に配置したことにより、・・」を「実装基板の裏面に設けられたアース電極内に実装基板の中央部を囲むよう断続的に非電極形成部を設けたことにより、・・」と訂正する。
3 図面の簡単な説明の欄中の記載に関して
訂正事項11
【図面の簡単な説明】に記載の「【図1】
本発明の電子部品の一実施形態として・・
【図4】
本発明の他の実施形態に於ける・・」を「【図1】
本発明の電子部品の参考形態として・・
【図4】
本発明の一実施形態に於ける・・」と訂正する。
異議決定日 2000-09-21 
出願番号 特願平8-219569
審決分類 P 1 651・ 161- YA (H01P)
P 1 651・ 113- YA (H01P)
P 1 651・ 531- YA (H01P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 和加子  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 鈴木 法明
井口 嘉和
登録日 1999-02-19 
登録番号 特許第2888204号(P2888204)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 電子部品  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 岩橋 文雄  

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