• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1031875
異議申立番号 異議1999-72578  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-06 
確定日 2000-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2843977号「窒素酸化物浄化用触媒」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2843977号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2843977号に係る手続の経緯の概要は、下記のとおりである。

特許法第44条の規定に基づく特許出願 平成7年10月25日
(原出願:平成6年4月28日出願、特願平6-111688号)
特許権の設定の登録 平成10年10月30日
特許掲載公報の発行 平成11年1月6日
特許異議の申立て 平成11年7月6日
(異議申立人:住友金属鉱山株式会社 外1名)
取消理由通知 平成11年10月1日付
意見書及び訂正請求書の提出 平成11年12月20日
異議申立人への審尋 平成12年1月19日付
回答書の提出 平成12年4月4日
訂正拒絶理由を兼ねた取消理由通知 平成12年4月19日付
平成11年12月20日付訂正請求の取下げ 平成12年7月7日
意見書及び訂正請求書の提出 平成12年7月7日
II.訂正の適否についての判断
1.訂正事項
平成12年7月7日付け訂正請求によって特許権者が求めている訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物の共存下に用いられる窒素酸化物浄化用触媒」とあるのを、「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1に「ハロゲン化銀、硫酸銀および燐酸銀から選ばれる1種または2種以上の銀化合物」とあるのを、「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0010】に「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物の共存下に用いられる窒素酸化物浄化用触媒」とあるのを、「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0011】に「ハロゲン化銀、硫酸銀および燐酸銀から選ばれる1種または2種以上の銀化合物」とあるのを、「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明を特定する事項である「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物の共存下に用いられる窒素酸化物浄化用触媒」をこれに含まれる事項である「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」に特定し、しかも、「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」については、願書に添付された明細書の段落【0008】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、また、上記訂正事項cは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項bは、発明を特定する事項である「ハロゲン化銀、硫酸銀および燐酸銀から選ばれる1種または2種以上の銀化合物」の中から、選択肢の一つである燐酸銀を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、また、上記訂正事項dは、上記訂正事項bと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。そして、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.独立特許要件についての判断
(1)訂正後の発明
平成12年7月7日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒であって、多孔質耐熱性担体として有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナを用い、これにハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を担持してなることを特徴とする窒素酸化物浄化用触媒。
【請求項2】前記多孔質耐熱性担体が、アルミナに加えてシリカを15重量%以下含有する請求項1に記載の窒素酸化物浄化用触媒。
【請求項3】前記銀化合物の担持量が、触媒総量に対して銀に換算して0.01〜20.0重量%である請求項1または2に記載の窒素酸化物浄化用触媒。」
(2)当審が通知した取消理由通知の概要
(i)当審が平成11年10月1日付け取消理由通知書にて通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
本件の請求項1に係る発明は、原出願の願書に最初に添付された明細書に記載されておらず、また当該明細書の記載から自明な事項であるとも認められないから、本件特許出願は原出願の一部であるとは認められない。よって、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成7年10月25日となる。
そして、本件の請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物B乃至H(下記の刊行物一覧を参照)に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
(ii)当審が平成12年4月19日付け取消理由通知書にて通知した取消理由の概要は以下のとおりである。(なお、該取消理由通知は、平成11年12月20日付け訂正請求に対する訂正拒絶理由通知を兼ねるものであったが、前述のとおり該訂正請求は取り下げられた。)
本件の請求項1に係る発明は、原出願の願書に最初に添付された明細書に記載されておらず、また当該明細書の記載から自明な事項であるとも認められないから、本件特許出願は原出願の一部であるとは認められない。よって、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成7年10月25日となる。
そして、本件の請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物A乃至F(下記の刊行物一覧を参照)に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。

刊行物A:特開平7-275706号公報
刊行物B:特開平6-198130号公報
刊行物C:特開平6-198131号公報
刊行物D:特開平7-171345号公報
刊行物E:特開平6-24860号公報
刊行物F:特開平5-317706号公報
刊行物G:特開平6-7641号公報
刊行物H:Applied Catalysis B: Environmental、2(1993)、199〜205頁
(異議申立人の提出した甲第1号証と同一)
(3)取消理由通知に関する当審の判断
(i)出願日の認定
訂正後の本件請求項1に係る発明は、下記の(a)〜(d)の理由により、原出願の願書に最初に添付された明細書(以下「原明細書」という。)に記載されておらず、また、原明細書の記載から自明な事項であるとも認められないから、本件特許出願は原出願の一部であるとは認められない。よって、本件特許出願は特許法第44条第1項の規定に基づく適法な特許出願であるとは認められず、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成7年10月25日とするのが相当である。

(a)アルミナが「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製 されたアルミナ」であることについて、原明細書には記載がなく、またそ れを示唆する記載もない。
(b)「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアル ミナが、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシドあるい はアルミニウム-t-ブトキシドの加水分解物」であること(段落【00 13】及び実施例参照)について、原明細書には記載がなく、またそれを 示唆する記載もない。
(c)「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアル ミナ」が、除去効率の低下が抑制されると共に、高温においても窒素酸化 物の除去が効率的に行えるという、硫酸アルミニウムやアルミン酸ナトリ ウムを原料としたものでは得られない効果があることとしている点に関し (段落【0013】、実施例、比較例、段落【0047】を参照)、原明 細書には「多孔性担持体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコ ニア等の酸化物あるいはシリカ、アルミナ、ゼオライトといったこれらの 複合酸化物等が挙げられる。」(段落【0013】参照)とあるだけであ り、また、その実施例においてもアルミナ、ジルコニア、チタニア及びシ リカを用いた例が記載されているだけであって、多孔性担持体を特定のも のに限定すること、及び当該特定の多孔性担持体の奏する効果については 、原明細書においては記載されておらず、またそれらを示唆する記載もな い。
(d)訂正後の明細書に記載された実施例及び比較例では、窒素酸化物除去率 において酸化銀に比較して塩化銀が優れていることが示されるとともに、 請求項1において「ハロゲン化銀」と特定している点に関し、原明細書に は「銀化合物としては酸化銀や塩化銀、臭化銀といったハロゲン化銀や炭 酸銀、硫酸銀、燐酸銀等が好ましく例示される。」(段落【0012】を 参照)と記載されているのみであり、特に「ハロゲン化銀」が好ましいこ とを示す記載はない。
なお、(a)及び(b)の点に関し、特許権者は、平成11年12月20日付け特許異議意見書において、参考資料を提出するとともに、原明細書に記載された実施例のものは「アルキルアルミニウムを酸化して得られた酸化アルキルアルミニウムを加水分解することにより得られたアルミナ水和物」であると主張しているが、特定の参考資料の提出をもってしなければ立証できないような事項については、それが原明細書に実質的に記載されていた事項であるとすることはできない。
(ii)各刊行物に記載された発明
上記刊行物A乃至Hには、それぞれ以下の事項が記載されている。
刊行物A:
「酸素過剰雰囲気下で、炭化水素により排気ガス中の窒素酸化物を除去するに際して使用されるものであって、ゾル-ゲル法により得られる活性アルミナを主要成分とする担体と、該担体に担持された銀及び/又は酸化銀からなる・・・脱硝触媒」(請求項1)に関し、「希薄空燃比の内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物を十分短い接触時間、言い換えれば十分高いガス空間速度で効率よく除去し、しかも良好な高温耐熱性を有する脱硝触媒を提供することを目的とする」(段落【0012】)ことが記載され、上記「活性アルミナを主要成分とする担体」として、アルミニウムイソプロポキシドを加水分解して得たものを用いること(実施例1)が記載されている。
刊行物B:
「窒素酸化物と、共存する未燃焼成分に対する理論反応量より多い酸素とを含む燃焼排ガスから窒素酸化物を除去する除去材において、多孔質の無機酸化物100重量%に塩化銀を銀元素に換算して0.2〜15重量%・・・担持してなり、外部から前記排ガス中に添加された炭化水素又は含酸素有機化合物を還元剤として、200〜600℃で、前記排ガス中の窒素酸化物を還元することを特徴とする窒素酸化物除去材」(請求項1)に関し、「多孔質の無機酸化物に特定量の塩化銀を担持してなる除去材を用い、排ガスに含まれる窒素酸化物の量に見合うように排ガス中に添加された炭化水素又は含酸素有機化合物により、水分を10%程度含有する排ガスでも、窒素酸化物を効果的に除去することを目的としている」(段落【0009】)ことが記載されている。
刊行物C:
「窒素酸化物と、共存する未燃焼成分に対する理論反応量より多い酸素とを含む燃焼排ガスから窒素酸化物を除去する除去材において、多孔質の無機酸化物100重量%に硫酸銀を銀元素に換算して0.2〜15重量%・・・担持してなり、外部から前記排ガス中に添加された炭化水素又は含酸素有機化合物を還元剤として、200〜600℃で、前記排ガス中の窒素酸化物を還元することを特徴とする窒素酸化物除去材」(請求項1)に関し、「多孔質の無機酸化物に特定量の硫酸銀を担持してなる除去材を用い、排ガスに含まれる窒素酸化物の量に見合うように排ガス中に添加された炭化水素又は含酸素有機化合物により、水分を10%程度含有する排ガスでも、窒素酸化物を効果的に除去することを目的としている」(段落【0009】)ことが記載されている。
刊行物D:
「シリカ/アルミナモル比が少なくとも15以上のゼオライトに、リン酸銀及び一種以上の活性金属種を含有させた触媒を、窒素酸化物及び炭化水素を含有する酸素過剰の排ガスに接触させることを特徴とする窒素酸化物の除去方法」(請求項1)に関し、「アンモニア等の還元剤を使用することなく、自動車等の内燃機関から排出される、特に酸素過剰の排ガスを、初期活性並びに水蒸気の存在する高温での耐久性に優れる排ガス浄化用触媒を用いて浄化する方法を提供することを目的としている」(段落【0006】)ことが記載されており、「上記活性金属種としては、Ag等のIb族」(段落【0015】)であることが例示され、活性金属の塩としては、「活性金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の塩が好適に用いられる」(段落【0018】)ことが記載されている。
刊行物E:
「・・・アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムアルコキシド誘導体溶液を加水分解し得られたアルミナ前駆体ゲルを100〜350℃の温度範囲で水蒸気又は水熱処理後乾燥加熱処理するアルミナ質多孔体の製造方法」(請求項1)に関し、「高温域で優れた耐熱性を有し、且つ、高温域で高い比表面積を保持できるアルミナ質多孔体を、大規模設備において効率よく製造する方法を提供することを目的としている」(段落【0013】)ことが記載されており、上記アルミナ多孔質体の用途及び性質として、「触媒燃焼器や、内燃エンジンで使用される排ガス浄化、石油留分の処理、有機合成等の不均質触媒担体等に利用可能な、高温下で高い活性を維持しうるアルミナ多孔質体」(段落【0001】)と記載されている。
刊行物F:
「アルミニウム塩又はアルミニウムアルコキシドを中和分解または加水分解し、得られたアルミナ水和物を乾燥、成形、焼成してアルミナ担体を製造する方法において、前記中和分解または加水分解の溶液中にアルコールを存在させることを特徴とする、細孔半径を・・・正確に制御したアルミナ担体を製造する方法」(請求項1)に関し、「pH、温度によりアルミナ水和物の構造に影響を及ぼさず、均一に制御された二次粒子よりバインダーを必要とせず再現良く任意に制御された細孔を有するアルミナ担体を製造する新しい方法を提供することを目的とする」(段落【0003】)ことが記載されている。
刊行物G:
「窒素酸化物と、共存する未燃焼成分に対する理論反応量より多い酸素とを含む燃焼排ガスから窒素酸化物を除去するための除去材であって、多孔質の無機酸化物に銀又は銀酸化物を担持した浄化材基材を、二酸化硫黄に接触させて処理したことを特徴とする窒素酸化物除去材」(請求項1)に関し、当該除去材を「多孔質の無機酸化物に銀又は銀酸化物を担持した浄化材基材を二酸化硫黄で処理した除去材を用い、・・・脂肪族含酸素有機化合物を排ガス中の窒素酸化物の量に見合った量だけ添加して、上記窒素酸化物除去材に所定の温度で接触させてやれば、水分を10%程度含有する排ガスであっても窒素酸化物を効果的に除去できる」(段落【0011】)という知見に基づいて構成したことが記載されている。
刊行物H:
「水と過剰酸素の存在下での銀担持アルミナ触媒による窒素酸化物の還元除去効果は、含酸素有機化合物としてプロパンを使用したときよりもエタノールやアセトンを使用したときの方が大きいこと」(第1頁「Abstract」)が記載され、また、「含酸素化合物の構造と、その窒素酸化物との反応性との間に何らかの相関関係があり得る」(第203頁下から5乃至3行)ことが記載されている。
(iii)対比・判断
訂正後の請求項1に係る発明は、「酸素濃度の高い、酸化雰囲気にある排ガス中に含まれる窒素酸化物を、炭化水素または含酸素有機化合物を還元剤として添加することによる窒素酸化物除去技術において、高温下で、さらには、排ガス中に共存する硫黄酸化物の共存かでも、除去効率が低下しない触媒を得ること」を技術課題とするものであり(段落【0008】参照)、当該技術課題が、特定の担体と該担体に担持させる特定の銀化合物との組み合わせにより解決し得るという知見に基づき達成されたものである。そして、訂正後の請求項1に係る発明は、該特定のアルミナ担体である「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナ」と特定の触媒活性成分である「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物」とを組み合わせたことにより、「硫黄酸化物の共存する高酸素濃度下で、高い反応温度であっても効率よく窒素酸化物を除去することが可能であり、添加した還元剤としての炭化水素あるいは含酸素有機化合物の完全酸化反応を抑制して、経済的に還元作用を行わしめることができる。その結果、硫黄酸化物の共存においても除去効率の低下が抑制されるとともに、高温においても窒素酸化物の除去が効率的に行なえる。」(段落【0047】参照)という効果を奏するものであり、当該効果については、明細書の【表2】、【表3】に記載された実施例1,2及び比較例1〜4の結果からも明らかである。
これに対し、上記刊行物A乃至Hのいずれにも、「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物を還元剤として用いる窒素酸化物を除去するために用いられる触媒において、排ガス中に共存する硫黄酸化物の共存下でも、除去効率が低下しない触媒を得る。」という目的・課題について記載されていないのみならず、当該目的・課題を解決するために、多孔質耐熱性担体としての「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナ」と、これに担持させる触媒の活性成分としての「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物」とを、組み合わせて用いる点についても何等記載乃至示唆されていない。
これを詳しく述べると、まず、上記刊行物記載の発明のうち、触媒担体として本件請求項1に係る発明と同様のものを用いるものに関して、まず、刊行物Aには、触媒担体としての「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナ」を用いることが記載されてはいるが、当該触媒に担持させる触媒活性銀化合物については「銀及び/又は酸化銀」と記載されているだけであって、しかも、硫黄酸化物が共存する排ガスの浄化に用いる点についても記載がない。
同様に、刊行物E及びFには、アルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムアルコキシド誘導体を加水分解して得られたアルミナ前駆体ゲルを乾燥加熱処理して多孔質アルミナを得ることが記載されてはいるが、当該触媒に担持させる触媒活性銀化合物についての記載は全くなく、しかも、硫黄酸化物が共存する排ガスの浄化に用いる点についても記載がない。
次に、上記刊行物記載の発明のうち、触媒に担持させる触媒活性銀化合物として本件請求項1に係る発明と同様のものを用いるものに関しては、刊行物Bに「塩化銀」を、刊行物Cに「硫酸銀」を、それぞれ用いて高温排ガス中の窒素酸化物を除去し得るという記載があるものの、触媒担持体については単に「無機酸化物」とあるだけであり、しかも、両刊行物には硫黄酸化物が共存する排ガスの浄化に用いる点についていずれにも記載がない。そして同様に刊行物Dには「リン酸銀と、活性金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等」とを用いた、高温での耐久性に優れた排ガス浄化用触媒についての記載があるものの、触媒担持体は「シリカ/アルミナモル比が15以上のゼオライト」であって、しかも、硫黄酸化物が共存する排ガスの浄化に用いる点についても記載がない。
そして、これら以外の刊行物に記載された発明に関しては、刊行物G及びHに、担体が「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナ」であることについても、担持させる銀化合物が「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種」であることも、いずれの点も記載がなく、しかも、硫黄酸化物が共存する排ガスの浄化に用いる点についてもやはり記載されていない。
してみると、上記刊行物A乃至Hには、多孔質耐熱性担体としての「有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナ」、及び触媒の活性成分としての「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物」については、それぞれ別個の独立した記載があるものの、「硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物を除去する触媒」という点について何等記載がない以上、これらの担体及び活性成分を組み合わせて用いようとする動機付けが存在するとはいえず、また、これらを組み合わせて用いたことにより本件請求項1に係る発明が奏する前述の効果は、上記刊行物A乃至Hの記載からは当業者といえども予期し得るものではない。
よって、本件の請求項1に係る発明は、当業者がこれらの刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、本件請求項2及び請求項3に係る発明は、請求項1を引用する形式で記載されており、請求項1に記載された事項に加えて、別の事項を付加するものであるから、請求項1に係る発明が、前述のように刊行物A乃至Hに記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、本件請求項2及び請求項3に係る発明も同じ理由により、刊行物A乃至Hに記載された発明に基づき容易に発明をすることができたものであるとするすることはできない。
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1乃至3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
よって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項で準用する第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立てについて
1.本件発明
前項II.に記載したとおり、平成12年7月7日付け訂正請求書による訂正請求は認められるところとなったので、本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、同訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(前項「II.3.(1)訂正後の発明」の項を参照)
2.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(当審が平成11年10月1日付け取消理由通知で引用した上記刊行物Hと同一。)を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に該当し、または、本件は、その明細書に不備があり、特許法第36条第6項の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第2号または第4号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。
3.当審の判断
(1)出願日の認定
上記「II .3.(3)(i)出願日の認定」の項において述べたと同様の理由により、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である平成7年10月25日である。
(2)特許法第29条違反について
上記甲第1号証は、当審が平成11年10月1日付け取消理由通知で引用した刊行物Hと同じものであるから、上記「2.訂正の適否についての判断-(3)独立特許要件についての判断」の項において述べたことと同じ理由により、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)特許法第36条違反について
異議申立人が、本件明細書の記載が不備であるとする具体的理由は、甲第1号証に、銀担持アルミナ触媒による窒素酸化物の還元除去効果は共存する「炭化水素類又は含酸素有機化合物」の種類により大きく変わることが記載されていることを根拠として、窒素酸化物の除去効果は「炭化水素又は含酸素有機化合物」の種類により大きく変わり、ある種の窒素酸化物には触媒効果を発揮できないこともあるから、本件明細書に記載された実施例が「エタノール」だけであるのに対し、請求項1の「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物」の記載は、実施例に比して余りにも広範に過ぎる、というものである。
しかしながら、本件明細書にも記載されているように、本件発明は、炭化水素もしくは含酸素有機化合物を還元剤として添加することによる窒素酸化物除去技術は従来より既に公知の技術であることを前提に、当該従来技術において、高温下で、さらには、排ガス中に共存する硫黄酸化物の共存下でも、除去効率が低下しない触媒を得ることを技術課題とするものであり、本件発明は、当該技術課題が、特定の触媒担体と該担体に担持させる特定の銀化合物の組み合わせにより解決し得るという知見に基づき達成されたものである。そして、本件明細書に記載された実施例及び比較例は、多孔質担体と銀化合物の組み合わせ方によって排ガス中の窒素酸化物除去効果に差が出てくるということを明確にする意図をもって提示された実験例なのであるから、還元剤の種類としては通常よく使用されている一つのものを選択して使用することで十分に足りるのであり、この理由で、当該窒素酸化物除去技術の分野において代表的な還元剤として知られているエタノール(刊行物Gの段落【0022】を参照)を使用したものである。
したがって、本件発明の特定担体と特定銀化合物との組み合わせによる効果については、当業者であれば、エタノール以外の還元剤を用いた場合にも、ほぼ同程度の効果を期待しうるとするのが妥当であって、しかも、異議申立人は、エタノール以外の還元剤を使用したのでは、特定担体と特定銀化合物との組み合わせによる本件発明の効果を全く奏しない、又はその効果が著しく損なわれる、とする具体的裏付けを何等示していない。
よって、異議申立人の「請求項1の『炭化水素又は含酸素有機化合物』の記載は実施例に比して余りにも広範に過ぎる」という主張は、採用することができない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒素酸化物浄化用触媒
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒であって、多孔質耐熱性担体として有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナを用い、これにハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を担持してなることを特徴とする窒素酸化物浄化用触媒。
【請求項2】前記多孔質耐熱性担体が、アルミナに加えてシリカを15重量%以下含有する請求項1に記載の窒素酸化物浄化用触媒。
【請求項3】前記銀化合物の担持量が、触媒総量に対して銀に換算して0.01〜20.0重量%である請求項1または2に記載の窒素酸化物浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は窒素酸化物浄化用触媒に関し、詳しくはリーンバーンガソリンエンジン自動車、ディーゼルエンジン自動車等の排ガス、もしくはボイラー排ガスのような酸素濃度の高い排ガス中に含まれる窒素酸化物を効率よく除去し、無害化するための窒素酸化物浄化用触媒に関する。
【0002】
【従来の技術】
大気汚染防止を目的として近年、リーンバーンガソリンエンジン自動車、ディーゼルエンジン自動車、コージェネレーション発電機またはボイラーからの排ガスのように、高い酸素濃度の排ガス中の窒素酸化物を浄化することが急務となっている。
【0003】
一般に、こうした酸素濃度の高い排ガス中の窒素酸化物を除去する方法としては、V2O5/TiO2系触媒を使用したアンモニア還元法がよく知られており、アンモニアによって窒素酸化物を選択的に還元して無害な窒素に転換するものである。しかし、この方法は危険性の高いアンモニアを取り扱うため、特に自動車等の移動発生源からの排ガスヘの適応は困難である。また、この方法は設備が大型化するため、自動車等のような限定されたスペースから発生する窒素酸化物の除去方法には適さない。
【0004】
従って、アンモニア還元法に代わる安全な還元剤を使用し、かつ省スペースの窒素酸化物除去方法の開発が期待されていた。例えば特開平4-281844号公報には窒素酸化物を含む排ガスにプロピレンを添加して還元剤となし、これらの混合ガスとAg/Al2O3系触媒とを接触させることで窒素酸化物を窒素に転換する方法が開示され、また特開平4-367740号公報にはSiO2/Al2O3モル比が20〜60であるZSM-5にFeを含有した触媒と窒素酸化物、酸素および炭化水素としてエチレンを含むガスを接触させ、ガス中の窒素酸化物を除去する方法が提案されている。
【0005】
しかるに、前記した特開平4-281844号公報および特開平4-367740号公報等に開示されているような炭化水素類もしくは含酸素有機化合物を還元剤として添加することによる従来の窒素酸化物除去技術においては、400℃以下の比較的低温領域での窒素酸化物の除去においては有効であるが、500℃以上という高温領域での窒素酸化物の除去性能が劣るという問題がある。
【0006】
炭化水素類あるいは含酸素有機化合物類のような還元剤を添加して窒素酸化物を除去する技術においては、触媒に所望の特性として、添加された還元剤を完全酸化させないことが重要である。完全酸化活性の高い触媒、例えば銀、酸化銀や白金族元素等を担持させた触媒では、添加された還元剤の完全酸化反応が促進されることにより、窒素酸化物に対する還元剤としての作用をもたなくなる。従来技術における高温領域の窒素酸化物除去活性が低い原因はこの点にある。
【0007】
また、特開平6-7641号公報や特開平6-71175号公報等にはγ-アルミナ等の多孔質の無機酸化物に銀または銀化合物を担持した窒素酸化物を還元する窒素酸化物除去触媒が開示されているが、この場合にも高温での窒素酸化物の除去が効率よく行なうことができない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、酸素濃度の高い、酸化雰囲気にある排ガスに含まれる窒素酸化物を、炭化水素類または含酸素有機化合物類を共存下に、高温においても効率よく除去し得る窒素酸化物浄化用触媒を提供することにあり、さらには、排ガス中に共存する硫黄酸化物の共存によっても除去効率の低下が少ない窒素酸化物浄化用触媒を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、銀を高温においても安定な化合物として特定の多孔質耐熱担体上に担持させることにより、硫黄酸化物を含む高酸素濃度の排ガス中の窒素酸化物を炭化水素類もしくは含酸素有機化合物類の共存下に接触させることによって、高い温度領域でも効率よく窒素酸化物を除去することができることを知見して本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の窒素酸化物除去用触媒は、炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒であって、多孔質耐熱性担体として有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナを用い、これにハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を担持してなることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明では、触媒の活性成分の銀化合物としてハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物が用いられる。このような銀化合物を用いることによって、高温、すなわち500℃以上の温度でも窒素酸化物を効率よく除去できる。
【0012】
これら銀化合物の多孔質耐熱担体への担持量は、触媒総量に対して銀に換算して0.01〜20.0重量%、好ましくは0.05〜15.0重量%である。銀化合物の担持量が触媒総量に対して0.01重量%未満の場合には、窒素酸化物の除去効率が小さく、20.0重量%を超えた場合には、高温での窒素酸化物除去効率が劣ったものとなる。
【0013】
本発明で用いられる多孔質耐熱担体とは、有機アルミニウム化合物、すなわちアルミニウムアルコレートを加水分解することによって調製されたアルミナである。アルミニウムアルコレートとしては、例えばアルミニウムイソプロポキシド(Al[OCH(CH3)2]3・アルミニウムエトキシド(Al(OC2H5)3、アルミニウム-t-ブトキシド(Al[OC(CH3)3]3)等が例示され、これらアルミニウムアルコレートを常法に従って加水分解し、得られた水和酸化アルミニウムを乾燥し、次いで300℃以上で焼成してアルミナを得る。このようなアルミナを多孔質耐熱担体として用いることによって、高温での窒素酸化物除去効率が優れたものとなり、さらに排ガス中の数ppm〜500ppm程度の高い硫黄酸化物の共存下においても除去効率の低下が少ないものとなる。硫酸アルミニウムやアルミン酸ナトリウムを原料とした通常のアルミナ、例えばγ-アルミナを多孔質耐熱担体として用いた場合には高温での高い窒素酸化物除去効率は得られない。本発明で用いられるこの有機アルミニウム化合物を加水分解することによって調製されたアルミナからなる多孔質耐熱担体にシリカを一定量以下含有させることによって、高温での窒素酸化物除去効率がさらに向上するがその含有量は15重量%以下である。シリカの含有量が15重量%を超えると上記した特定のアルミナの高温での窒素酸化物除去効率が損われる。この多孔質耐熱担体は、通常酸化物の状態で銀化合物を担持するが、特に酸化物に限定されるものてはなく、熱分解を経ていない水和酸化物上に前記の銀化合物を担持し、最終的に熱処理して触媒とすることもできる。
【0014】
多孔質耐熱担体への前記銀化合物の担持方法は特に限定されるものではなく、任意の方法でよいが、例えば硝酸銀水溶液に前記の担体粉末を懸濁させた後に、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム等の水溶性塩素化合物の水溶液を添加し、担体上に塩化銀として担持させた後、熱処理して触媒とすることができる。
【0015】
このような本発明の窒素酸化物浄化用触媒は、通常、水性スラリーとなし、これをハニカムにウォッシュコートすることにより触媒に固着し、次いで焼成して得られるハニカム構造体触媒として用いられる。
【0016】
本発明の窒素酸化物浄化用触媒を用いて窒素酸化物を除去する際には、炭化水素類もしくは含酸素有機化合物類の共存下で行なわれる。この理由は酸素濃度の高い排ガス中の一酸化窒素は酸素によって酸化され、二酸化窒素が生成する。この二酸化窒素を還元するための還元剤として炭化水素類もしくは含酸素有機化合物類が用いられるからである。
【0017】
ここでいう炭化水素類とは、エチレン、プロピレン等のオレフィン系炭化水素、プロパン等のパラフィン系炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素等が挙げられる。また、含酸素有機化合物類としてはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール、アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン等が例示される。
【0018】
【作用】
本発明の触媒は、特定のアルミナからなる多孔質耐熱担体上に高温でも分解しない安定な銀化合物を担持している。この触媒においては、多孔質耐熱担体である特定のアルミナの純度が極めて高く、また水蒸気が共存雰囲気での使用に対して構造が安定している。このため、本発明の触媒は特に10容量%程度の水蒸気と、数ppm〜500ppm程度の硫黄酸化物が含まれる雰囲気で、窒素酸化物の除去が高温でも効率よくなされると共に、長期に安定した除去特性を持続する。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例等によってさらに詳しく説明する。
実施例1
純水250g中に硝酸銀4.14gを添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、アルミニウムイソプロポキシドの加水分解によって得たアルミナ水和酸化物の粉末100gを加えて撹拌、懸濁した。別に調製した塩化アンモニウム1.43gを純水50gに溶解した水溶液を15分間で添加して水和酸化アルミニウムの粒子上に塩化銀を担持させた。60分間熟成した後、濾過、洗浄し、120℃で乾燥、さらに450℃で60分間焼成、粉砕して銀に換算して3.0重量%を含有する、塩化銀/アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0020】
次いで、この触媒45gと純水100g、酢酸2.25gおよびアルミナゾル(アルミナ含有率10.5wt%、以下同様)21.4gを加えて撹拌、混合し、湿式粉砕機を用いて触媒のメジアン径8.5μmとし、固形分濃度28.0重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ15cpsであった。
【0021】
このスラリーに直径20mm、高さ16mm、セル数400セル/inch2のコージェライト製ハニカム構造体をディップし、引き上げた後に加圧空気によりセル内の余分なスラリーを除去した。190〜200℃で乾燥してこの操作を2回繰り返し、最終的に600℃で90分間焼成して窒素酸化物浄化用ハニカム構造体触媒を得た。
【0022】
このハニカム構造体触媒を用い、窒素酸化物浄化用試験を次の操作に従って行なった。この試験方法は、調製されたハニカム構造体触媒をステンレス反応管に充填し、下記の組成のガスを流通させながら所定温度まで昇温した。窒素酸化物除去率の測定は、所定反応温度に60分間維持して触媒の窒素酸化物除去活性に関する温度依存性の比較試験を行なった。結果を表2に示す。また、この触媒の寿命については下記の反応ガス組成および反応条件の下で、反応温度を450℃に維持して200時間の触媒性能寿命比較試験を行なった。結果を表3に示す。
【0023】
(反応ガス組成)
NO l,000ppm
SO2 80ppm
O2 10vol%
H2O 10vol%
C2H5OH 1,563ppm
N2 残部
(反応条件)
C2H5OH/NO重量比 3
GHSV 20,000Hr-1
【0024】
所定反応温度下に触媒層を通過した反応ガスを反応管出口でサンプリングし、化学発光窒素酸化物分析計により窒素酸化物濃度を測定した。窒素酸化物の除去率は次式によって計算した。
除去率(%)=[(1,000ppm-反応管出口の窒素酸化物濃度ppm)/原料反応ガス中の窒素酸化物濃度1,000ppm]×100
【0025】
実施例2
アルミニウムエトキシドの加水分解で生成させた水和酸化アルミニウムの粉末170gをSiO2として22・5g含有するシリカゾルの水溶液530g中に懸濁、撹拌した。このスラリーをスプレードライし、550℃で3時間焼成してシリカ重量15%を含有するシリカ・アルミナ粉末担体を調製した。
【0026】
純水500g中に硝酸銀4.939を添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、先に調製したシリカ15重量%を含有するシリカ・アルミナ粉末担体100gを加えて、撹拌、懸濁した。別に調製した硫酸ナトリウム2.26gを純水50gに溶解した水溶液を15分間で添加してシリカ・アルミナ粒子上に硫酸銀を担持させた。60分間熟成した後、濾過、洗浄し、120℃で乾燥、さらに450℃で焼成、粉砕して銀に換算して3.0重量%を含有する硫酸銀/シリカ・アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0027】
次いで、この触媒50gと純水100g、酢酸2.5gおよびアルミナゾル23.8gを加えて撹拌、混合し、さらに湿式粉砕機を用いてメジアン径3.5μmになるように粒子径を調整し、固形分濃度29.8重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ21cpsであった。
【0028】
このスラリーを用いて実施例1の方法に準じてハニカム構造体のセル表面にスラリーを塗布し、最終的に600℃で90分間焼成してハニカム構造体触媒を調製し、実施例1に準じた方法で窒素酸化物浄化試験を行なった。結果を表2〜3に示す。
【0029】
比較例1
純水500g中に硝酸銀4.14gを添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、アルミニウム-t-ブトキシドの加水分解で生成させた水和酸化アルミニウムの粉末100gを加え撹拌、懸濁した。加熱しながら蒸発凝固し、120℃で乾燥、さらに450℃で焼成した。粉砕して銀に換算して3.4重量%を含有する酸化銀/アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0030】
次いで、この触媒65gと純水100g、酢酸2.0gおよびアルミナゾル18.6gを加えて撹拌、混合し、さらに湿式粉砕機を用いてメジアン径10.5μmになるように粒子径を調製し、固形分濃度36.1重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ58cpsであった。
【0031】
このスラリーを用いて実施例1の方法に準じてハニカム構造体のセル表面にスラリーを塗布し、最終的に600℃で90分間焼成してハニカム構造体触媒を調製し、実施例1に準じた方法で窒素酸化物浄化試験を行なった。結果を表2〜3に示す。
【0032】
比較例2
アルミン酸ナトリウム水溶液に硫酸水溶液を添加して中和し、得られた水和酸化アルミニウムの沈殿を洗浄、乾燥、粉砕した後、550℃で4時間焼成してアルミナ粉末担体を得た。
【0033】
純水500g中に硝酸銀4.93gを添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、アルミナ粉末担体100gを加えて撹拌、懸濁した。別に調製した塩化アンモニウム1.72gを純水50gに溶解した水溶液を15分間で添加してアルミナ粒子上に塩化銀を担持させた。60分間熟成した後、濾過、洗浄し、120℃で乾燥、さらに450℃で焼成、粉砕して銀に換算して3.0重量%を含有する、塩化銀/アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0034】
次いで、この触媒50gと純水100g、酢酸2.5gおよびアルミナゾル23.8gを加えて撹拌、混合し、湿式粉砕機を用いて触媒のメジアン径6.1μmとし、固形分濃度27.8重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ36cpsであった。
【0035】
このスラリーを用いて実施例1の方法に準じてハニカム構造体のセル表面にスラリーを塗布し、最終的に600℃で90分間焼成してハニカム構造体触媒を調製し、実施例1に準じた方法で窒素酸化物浄化試験を行なった。結果を表2〜3に示す。
【0036】
比較例3
硫酸アルミニウム水溶液にアンモニア水を添加して中和し、得られた水和酸化アルミニウムの沈殿を洗浄、乾燥、粉砕した後、550℃で4時間焼成してアルミナ粉末担体を得た。
【0037】
純水500g中に硝酸銀4.93gを添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、アルミナ粉末担体100gを加えて撹拌、懸濁した。別に調製した塩化アンモニウム1.72gを純水50gに溶解した水溶液を15分間で添加してアルミナ粒子上に塩化銀を担持させた。60分間熟成した後、濾過、洗浄し、120℃で乾燥、さらに450℃で焼成、粉砕して銀に換算して3.0重量%を含有する、塩化銀/アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0038】
次いで、この触媒50gと純水100g、酢酸2.5gおよびアルミナゾル23.8gを加えて撹拌、混合し、湿式粉砕機を用いて触媒のメジアン径6.1μmとし、固形分濃度27.8重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ36cpsであった。
【0039】
このスラリーを用いて実施例1の方法に準じてハニカム構造体のセル表面にスラリーを塗布し、最終的に600℃で90分間焼成してハニカム構造体触媒を調製し、実施例1に準じた方法で窒素酸化物浄化試験を行なった。結果を表2〜3に示す。
【0040】
比較例4
硫酸アルミニウム水溶液にアンモニア水を添加して中和し、得られた水和酸化アルミニウムの沈殿を洗浄、乾燥して担体用の水和酸化アルミニウムを得た。
【0041】
純水250g中に硝酸銀3.70gを添加して溶解した。40℃に維持したこの液に、水和酸化アルミニウム粉末担体100gを加えて撹拌、懸濁した。別に調製した硫酸ナトリウム1.70gを純水50gに溶解した水溶液を15分間で添加して水和酸化アルミニウム粒子上に硫酸銀を担持させた。60分間熟成した後、濾過、洗浄し、120℃で乾燥、さらに450℃で焼成、粉砕して銀に換算して3・0重量%を含有する、硫酸銀/アルミナ触媒を得た。この触媒の触媒組成、銀換算含有量、アルミナ原料種類を表1に示す。
【0042】
次いで、この触媒45gと純水100g、酢酸2.25gおよびアルミナゾル21.4gを加えて撹拌、混合し、湿式粉砕機を用いて触媒のメジアン径7.5μmとし、固形分濃度26.5重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーの粘度を測定したところ28cpsであった。
【0043】
このスラリーを用いて実施例1の方法に準じてハニカム構造体のセル表面にスラリーを塗布し、最終的に600℃で90分間焼成してハニカム構造体触媒を調製し、実施例1に準じた方法で窒素酸化物浄化試験を行なった。結果を表2〜3に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の窒素酸化物浄化用触媒を使用することによって、硫黄酸化物の共存する高酸素濃度下で、高い反応温度であっても効率よく窒素酸化物を除去することが可能であり、添加した還元剤としての炭化水素類あるいは含酸素有機化合物の完全酸化反応を抑制して、経済的に還元作用を行なわしめることができる。その結果、硫黄酸化物の共存においても除去効率の低下が抑制されると共に、高温においても窒素酸化物の除去が効率的に行なえる。
 
訂正の要旨 訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1に「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物の共存下に用いられる窒素酸化物浄化用触媒」とあるのを、「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」と訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1に「ハロゲン化銀、硫酸銀および燐酸銀から選ばれる1種または2種以上の銀化合物」とあるのを、「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物と訂正する。
訂正事項c
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0010】に「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物の共存下に用いられる窒素酸化物浄化用触媒」とあるのを、 「炭化水素類もしくは含酸素有機化合物と共に硫黄酸化物が共存する排ガス中の窒素酸化物浄化用触媒」と訂正する。
訂正事項d
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0011】に「ハロゲン化銀、硫酸銀および燐酸銀から選ばれる1種または2種以上の銀化合物」とあるのを、「ハロゲン化銀および硫酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物と訂正する。
異議決定日 2000-11-01 
出願番号 特願平7-299330
審決分類 P 1 652・ 121- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人新居田 知生  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 山田 充
野田 直人
登録日 1998-10-30 
登録番号 特許第2843977号(P2843977)
権利者 日揮化学株式会社
発明の名称 窒素酸化物浄化用触媒  
代理人 押田 良久  
代理人 伊東 辰雄  
代理人 伊東 辰雄  
代理人 伊東 哲也  
代理人 押田 良久  
代理人 伊東 哲也  
代理人 関口 鶴彦  
代理人 押田 良輝  
代理人 押田 良輝  
代理人 関口 鶴彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ