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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C23F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C23F |
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管理番号 | 1031886 |
異議申立番号 | 異議1998-72586 |
総通号数 | 17 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-08-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-05-26 |
確定日 | 2000-09-20 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2681230号「ボイラの腐食防止剤及び腐食防止方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2681230号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2681230号の発明は、平成2年12月28日に特許出願され、平成9年8月8日にその特許の設定登録がなされ、その後、鈴木哲夫、株式会社片山化学工業研究所より特許異議の申立てがなされ、特許請求の範囲の請求項1〜4に係る特許に対して取消理由が通知され、平成10年12月28日付けで訂正請求がなされ、訂正拒絶理由が通知され、その後なされた取消理由通知に対して、平成10年12月28日付けの訂正請求が取り下げられるとともに、平成12年5月8日付けで訂正請求がなされた。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 a. 特許請求の範囲の請求項1に記載の「ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩は含まないボイラの腐食防止剤」を「ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤」と訂正する。 b.特許請求の範囲の請求項4に記載の「カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩を含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラの腐食防止方法」を「カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法」と訂正する。 c.明細書段落【0006】の最終行に、「より具体的には、本発明は、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤である。また、本発明は、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法である。本発明の適用対象として、特開昭58-96881号(特公平2-54433号)に記載のような純水を使用するボイラは除外される。また、本発明はボイラ缶水に関するものであるから、特開昭59-133378号、特開昭55-62181号、特開昭59-133377号、特開昭59-16983号のような硬度を含んだ水道水を使用することもない。なお、硬度を含んだ水道水とは、軟水化処理のされていない水道水を意味する。」を追加する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1に記載のボイラの腐食防止剤の組成を特定の成分が含まれないものに限定し、また、腐食防止剤が添加されるボイラとして純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除くものに限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮に該当し、また、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項4に記載のボイラの腐食防止方法で添加する組成物の組成を特定の成分が含まれないものに限定し、また、腐食防止剤が添加されるボイラとして純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除くものに限定するものであるから、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮に該当する。また、上記訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項1及び4の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図り、また、本件の請求項1〜4に記載される発明が除外する従来技術を列挙したものであるから、上記訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明に該当する。また、上記訂正事項a〜cは、訂正前の特許明細書の記載に基づくものであり、また、取消理由で引用した記載事項を除くものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 ウ.独立特許要件の判断 (引用刊行物記載の発明) 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載の発明(以下、それぞれ「本件発明1〜4」という。)に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭59-133378号公報)、刊行物2(特開昭58-96881号公報)、刊行物3(特開昭55-62181号公報)、刊行物4(特開昭57-192270号公報)、刊行物5(特開昭59-133377号公報)、刊行物6(特開昭63-103090号公報)、刊行物7(特開昭59-16983号公報)、刊行物8(特公平2-54433号公報)、刊行物9(特公昭49-18338号公報)、刊行物10(特公昭28-6351号公報)には、次の事項が記載されている。 刊行物1(特開昭59-133378号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第1号証と同じ)には、 「l.(イ).一般式(I):HOOC-(CH2)n-COOH・・・(I) (式中、nは2〜4の整数を示す) で表わされる脂肪族ジカルボン酸又はそのアルカリ塩と (口).一般式(II):・・・で表わされる芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩とを有効成分として含有する金属防食剤。・・・・ 4.(イ).一般式(I):HOOC‐(CH2)n一COOH・・・(I) (式中、nは2〜4の整数を示す) で表される脂肪族ジカルボン酸又はそのアルカリ塩と、 (口).一般式(II): ・・・で表される芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩とを配合し、これにさらに(ハ).オキシカルボン酸又はそのアルカリ塩を添加してなる金属防食剤。」(特許請求の範囲第1、4項)、 「この発明は、水と金属とが接触する腐食環境において、水に添加して用いる金属防食剤に関する。いわゆる水誘導装置、たとえば蒸気製造装置、・・・においては、その装置を構成している金属(鉄、軟鋼、鋳鉄等)と水とが接触しており、腐食が発生しやすく、このような腐食に対してはその防止のために従来より種々の防食剤あるいは防食方法が提案され使用されている。」(第2頁左下欄第5〜13行)、 「かくしてこの発明によれば、(イ).一般式(I): HOOC‐(CH2)n一COOH・・・(I) (式中、nは2〜4の整数を示す)で表わされる脂肪族ジカルボン酸又はそのアルカリ塩と (口).一般式(II): ・・・で表わされる芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩とを有効成分として含有する金属防食剤が提供される。上記、(イ)成分における式(I)で表される脂肪族ジカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸及びアジピン酸が挙げられる。これらは2種以上を組合せて用いてもよい。一方(ロ)成分における式(II)で表わされる芳香族カルボン酸としては、o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、3-ニトロフタル酸及び4-ニトロフタル酸が挙げられ、これらも2種以上を組合せて用いてもさしつかえはない。」(第3頁左上欄第18行〜左下欄第2行)、 「上記(イ)成分及び(ロ)成分からなる防食剤にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸及びグルコン酸のような脂肪酸オキシカルボン酸を併用した際に(イ)成分及び(口)成分による相乗効果が上昇しより好ましい防食効果が得られる事実を見出した。かくして、この発明によれば、前記(イ)成分及び(口)成分とを配合してなり、これにさらに(ハ).オキシカルボン酸又はそのアルカリ塩を添加してなる金属防食剤が提供される。(ハ)成分のアルカリ塩としてはリチウム、ナトリウム及びカリウム塩が挙げられる。これらのうちナトリウム塩が経済性の点で好ましい。特にクエン酸ナトリウム塩の使用が経済性等の点で好ましい。」(第3頁石下闇第14行〜第4頁左上欄第7行)と記載され、また、第5頁の表‐2Aには実施例1〜9としてコハク酸ナトリウムまたはアジピン酸ナトリウムまたはグルタル酸ナトリウムと芳香族カルボン酸塩とを組み合わせた場合、比較例2〜4としてコハク酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、グルタル酸ナトリウムの成分単独の場合、比較例9〜14としてマロン酸ナトリウム及びセバシン酸ナトリウム及びグルタル酸ナトリウムと芳香族力ルボン酸塩とを組み合わせた場合、比較例15,16としてセバシン腰ナトリウム、マロン酸ナトリウムの成分単独の場合及び比較例22〜25として脂肪族カルボン酸同士の組み合わせの場合のmdd(腐食速度)が記載され、第6頁の表-2Bには実施例10〜15、比較例26〜29として脂肪族カルボン酸の2種と芳香族カルボン酸との3成分組合せの場合の mdd(腐食速度)が記載され、第6頁の表-2Cには実施例16、17としてコハク酸ナトリウムとその他成分3種との組合せの場合及び実施例18、19として脂肪族カルボン酸同士2種とその他成分2種との組合せの場合の mdd(腐食速度)が記載され、第6頁の表-3には実施例20としてグルタル酸ナトリウムの添加比率を変動させた場合の mdd(腐食速度)が記載され、第6頁の表-4には実施例21としてグルタル酸ナトリウムを含む組成物とリンゴ酸カリウムとの添加比率を変動させた場合の mdd(腐食速度)が記載され、第7頁の表-5には実施例22としてアジピン酸ナトリウムとリンゴ酸ナトリウムとを含む組成物1の添加比率を変動させた場合の mdd(腐食速度)が記載され、第7頁の表‐6には実施例23としてアジピン酸カリウムを含む製剤例A、グルタル酸ナトリウム、リンゴ酸カリウムを含む製剤例B、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムを含む製剤例Cそれぞれの添加濃度を変化させた場合の mdd(腐食速度)が記載されている。 刊行物2(特開昭58-96881号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第2号証と同じ)には、純水ボイラー用防食剤及び防食方法が記載されており、 「1.脂肪族オキシカルボン酸と揮発性アミンとを有効成分として含有(ただし、これらはそれぞれ塩の形態で含有されていてもよい)してなる純水ボイラー用防食剤。」(特許請求の範囲第1項)、 「4.脂肪族オキシカルボン酸が、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸又はそのアルカリ金属もしくはアンモニウム塩である特許請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の防食剤。」(特許請求の範囲第4項)、 「5.脂肪族オキシカルボン酸が、グルコン酸、クエン酸又はそのナトリウム塩である特許請求の範囲第4項記載の防食剤。」(特許請求の範囲第5項)、 「14.脂肪族オキシカルボン酸が、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸又はそのアルカリ金属もしくはアンモニア塩である特許請求の範囲第10〜13項のいずれかに記載の防食方法。」(特許請求の範囲第14項)、 「15.脂肪族オキシカルボン酸がグルコン酸、クエン酸又はそのナトリウム塩である特許請求の範囲第13項記載の防食方法。」(特許請求の範囲第15項)、 「この発明は、純水ボイラー用防食剤及び防食方法に関する。さらに詳しくは、純水や脱イオン水を用いる純水ボイラー系のボイラー缶内や補給配管等の鉄系金属の防食に関する。」(第2頁左下欄第12行〜第15行)と記載されている。 刊行物3(特開昭55-62181号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第3号証と同じ)には、金属防食剤が記載されており、 「1.飽和または不飽和の脂肪族ジカルボン酸またはその塩より選択される一種以上と亜硝酸塩およびモリブデン酸塩とを有効成分として用いることを特徴とする金属防食剤。」(特許請求の範囲第1項)、 「2.飽和または不飽和の脂肪族ジカルボン酸がシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸またはアジピン酸である特許請求の範囲第1項記載の防食剤。」(特許請求の範囲第2項)、 「この発明は、水と金属が接触する腐食環境において、水に添加して用いる金属防食剤に関する。」(第1頁右下欄第2〜3行)、 「いわゆる水誘導装置、例えば蒸気発生装置、…等においては、その装置を構成している金属(鉄、軟鋼、鋳鉄等)と水とが接触しており、腐食が発生しやすく、このような腐食に対してはその防止のために従来より種々の防食剤あるいは防食方法が提案され使用されている。」(第1頁右下欄第9〜15行)と記載されている。 刊行物4(特開昭57-192270号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第4号証と同じ)には、防食剤が記載されており、 「1.モリブデン酸ならびにそのアルカリ性塩、タングステン酸ならびにそのアルカリ性塩および亜硝酸のアルカリ性塩より選ばれた1種又は2種以上、(口)脂肪族オキシカルボン酸またはそのアルカリ性塩、(ハ)重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物…を有効成分として含有する防食剤」(特許請求の範囲第1項)、 「3.脂肪族オキシカルボン酸またはそのアルカリ性塩が、…クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、…またはそれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩である特許請求の範囲第1項または第2項記載の防食剤。」(特許請求の範囲第3項)、 「この発明は、一般水系における鉄、軟鋼、鋳鉄の如き鉄系金属の防食剤に関し、詳しくは熱交換器、冷却水、ラジエーター、ボイラー等の水系、ことに循環高濃縮水系において優れた効果が発揮される鉄系金属の防食剤に関する。」(第2頁右上欄第2〜6行)と記載されている。 刊行物5(特開昭59-133377号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第5号証と同じ)には、金属防食剤が記載されており、 「1.(イ).一般式(I):HOOC-(CH2)n-COOH・・・(I)(式中、nは2〜4の整数を示す)で表わされる脂肪族ジカルボン酸又はそのアルカリ塩と・・・芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩とを有効成分として含有する金属防食剤。」(特許請求の範囲第1項)、 「4.(イ).一般式(I):HOOC-(CH2)n-COOH・・・(1)(式中、nは2〜4の整数を示す)で表わされる脂肪族ジカルボン酸又はそのアルカリ塩と・・・芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩とを配合し、これにさらに(ハ)、オキシカルボン酸又はそのアルカリ塩を添加してなる金属防食剤。」(特許請求の範囲第4項)、 「この発明は、水と金属とが接触する腐食環境において、水に添加して用いる金属防食剤に関する。いわゆる水誘導装置、たとえば蒸気製造装置、…においては、その装置を構成している金属(鉄、軟鋼、鋳鉄等)と水とが接触しており、腐食が発生しやすく、このような腐食に対してはその防止のために従来より種々の防食剤あるいは防食方法が提案され使用されている。」(第2頁左下欄第13行〜右上欄第3行)、 「(イ)成分における式(I)で表わされる脂肪族ジカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸及びアジピン酸が挙げられる。これらは2種以上を組合せて用いてもよい。」(第3頁左下欄第4〜7行)と記載されている。 刊行物6(特開昭63-103090号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第6号証と同じ)には、軟水ボイラの防食処理方法が記載され、 「1.高温の軟水が使用されるボイラ水系に、…(b)脂肪族オキシカルボン酸類…より選ばれるカルボン酸化合物、及び(c)スズ、亜鉛、マンガン及びニッケルより選ばれる金属イオンを水中で容易に放出する金属化合物を…となるように添加調整することにより、脱酸素処理を行なうことなく上記ボイラ水系で生じうる鉄系金属の腐食を防止することを特徴とする軟水ボイラの防食処理方法。」(特許請求の範囲第1項)、 「この発明は、軟水ボイラの防食処理方法に関する。さらに詳しくは、高温の軟水が使用されるボイラ水系において該軟水と接触する鉄系金属の腐食、ことに孔食を簡便に防止しうる軟水ボイラの防食処理方法に関する。」(第2頁左下欄第17行〜右上欄第1行)、 「この発明で用いられる化合物(b)のうち脂肪族オキシカルボン酸類とは、1つ以上の水酸基を有する1価又は多価脂肪族カルボン酸又はその塩をいい、それらの例としては、…クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、…及びそれらのナトリウム、カリウム塩が挙げられる。」(第4頁左下欄第10〜15行)と記載されている。 刊行物7(特開昭59-16983号公報、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第7号証と同じ)には、金属防食剤が記載され、 「(1) …脂肪族オキシカルボン酸又はその塩と、有機ホスホン酸誘導体とを有効成分として含有することを特徴とする金属防食剤。」(特許請求の範囲第1項)、 「(7) 脂肪族オキシカルボン酸が、グルコン酸、クエン酸又はリンゴ酸である特許請求の範囲第1〜3及び5項のいずれかに記載の防食剤。」(特許請求の範囲第7項)、 「(9)…ボイラー水系に用いられる特許請求の範囲第1〜8項いずれかに記載の防食剤。」(特許請求の範囲第9項)、 「この発明は、金属防食剤に関する。さらに詳しくは、水性媒体中における種々の金属、例えば鋼、軟鋼、鋳鉄等の鉄系金属、銅、黄銅等の銅系金属及びアルミニウム系金属などの腐食を抑制でき、冷却水系やボイラー水系等に好適な金属防食剤に関する。」(第2頁左上欄第2〜7行)、 「この発明に用いる脂肪族オキシカルボン酸又はその塩としてはグルコン酸、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、オキシ酪酸等又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩が挙げられ、通常、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸又はそのナトリウム塩を用いるのが防食効果の点で好ましい。」(第3頁左上欄第20行〜右上欄第6行)と記載されている。 刊行物8(特公平2-54433号公報、異議申立人株式会社片山化学工業研究所の提出した甲第1号証と同じ、異議申立人鈴木哲夫の提出した甲第2号証に係る公告公報)には、 「脂肪族オキシカルボン酸と揮発性アミンとを有効成分としてモル比で3:1〜1:10の割合で含有(ただし、これらはそれぞれ塩の形態で含有されていてもよい)してなる純水ボイラー用防食剤。」(特許請求の範囲第1項)、 「脂肪族オキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸又はそのアルカリ金属もしくはアンモニウム塩等が適当であり、グルコン酸、クエン酸又はそのナトリウム塩が好ましい。」(第6欄第3〜8行)と記載されている。 刊行物9(特公昭49-18338号公報、異議申立人株式会社片山化学工業研究所の提出した甲第2号証と同じ)には、「酢酸ビニルは、水の存在下で次式により加水分解し酢酸を生成する。…酢酸の腐蝕性は非水溶液中ではそれ程大きくないが、水が存在すると徴量の酢酸でも30℃以上の温度になると腐蝕性が大きくなり、一般の工業用装置では、クロム鋼、…等の耐酸性合金鋼を使用することが常識とされている。発明者は酢酸ビニル、水が共存する系に於て、蓚酸、くえん酸、酒石酸、サリチル酸、リンゴ酸等の酸自体の腐蝕性が少い弱有機酸を添加する事により、炭素鋼の腐蝕を著しく防止出来る事を見出した。」(第1欄第15〜35行)と記載されている。 刊行物10(特公昭28-6351号公報、異議申立人株式会社片山化学工業研究所の提出した甲第3号証と同じ)には、 「一般に蒸発蒸気缶、ボイラー、冷却管、電気製塩槽の如き工業用水又は海水を使用して加熱又は冷却する装置に於ては該用水又は海水中に含有する無機成分特に石灰塩が不溶性となりて器壁又は電極に附着し所謂缶石となりて熱伝導効果に有害なる作用を与ふるか又は電流の流通を甚だ困難ならしむることは周知の事実なり。」(第1頁左欄第2〜8行)、 「然るに本発明者等が石灰塩附着の現象につき種々検討研究を進め・・・実験を重ねたる結果により、使用水中に予め枸櫞酸或は其の可溶性塩例えば枸櫞酸アルカリ塩の少量を添加しおく時は生成石灰塩の附着防止に極めて有効なる事を見出だせり。」(第1頁左欄第14〜19行)と記載されている。 (対比・判断) (1)本件の訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明(以下、「本件発明1」という。)と刊行物1に記載のものを対比する。 本件発明は、「 一般に、前記清缶剤あるいは脱酸素剤は、多種頚の成分を混有していて、各成分の相乗作用によって所期の目的(スケール抑制機能並びに脱酸素機能)を達成しているけれども、それら公知の成分は、先に述べたようなコスト上の不利益や取扱上の困難性に結びつく。このような問題点は、缶体内部で、缶壁ないしは水管壁に対して充分かつ強固な防食被膜を形成することができれば、自ずと解消することになる。」(段落【0005】)との点を発明が解決しようとする課題の技術的背景とし、また、本件発明は、「缶体を構成している鉄系金属材料の表面上にキレートの緻密な防食被膜を形成することについて、多くの試策と実験を行った結果、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸またはその塩のうちから選ばれる1種以上の成分を含む組成物がボイラ用缶水処理剤として好適なこと」を見出したものであり、「本発明は、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤である。また、本発明は、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法である。本発明の適用対象として、特開昭58-96881号(特公平2-54433号)に記載のような純水を使用するボイラは除外される。また、本発明はボイラ缶水に関するものであるから、特開昭59-133378号、特開昭55-62181号、特開昭59-133377号、特開昭59-16983号のような硬度を含んだ水道水を使用することもない。なお、硬度を含んだ水道水とは、軟水化処理のされていない水道水を意味する。」との点を課題を解決するための手段とするものである(段落【0006】)。 本件発明1は、ボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤であるのに対し、刊行物1に記載のものは、「大阪市水上水道水」を「常温かつ静置下」又は「50℃で100rpm攪拌」するという実施例の記載からみて、常温下での水道水への使用を予定した金属防食剤であり、両者はボイラーの使用形態が相違する点、及び本件発明1は、芳香族カルボン酸及びその塩を含まない組成物であるのに対して、刊行物1に記載のものは、式IIの芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩を必須成分とするものであり、両者は腐食防止剤の組成が相違する点で、両者は相違する。 相違点について検討すると、刊行物1に記載のものは、常温下での水道水への使用を予定したものであり、しかも、脂肪族ジカルボン酸類及び芳香族カルボン酸類の特定のものを組合わせて用いるものであるから、刊行物1に記載のものは、芳香族カルボン酸を成分としない本件発明1と組成を相違し、また、刊行物1に記載のものは、使用されるボイラーの使用形態の相違するものである。また、刊行物1、比較例2〜4、22〜24には、全硬度50ppmの大阪市水上水道水(常温状態)に対して、各薬剤を総量200ppm添加した場合のmdd値が記載されおり、コハク酸ナトリウムや、アジピン酸ナトリウムや、グルタル酸ナトリウムの単独使用ではmddの改善に効果が認められないが、これらにクエン酸ナトリウムを混合させるとmddの改善が認められることが記載されているものの、刊行物1に記載のコハク酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、グルタル酸ナトリウムにクエン酸ナトリウムを混合させmdd値を半減することが、直ちに、ボイラ運転時の孔食を防止することにつながるといえず、また、この点を立証する証拠を欠くものである。 以上のことから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、また、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。 (2)次に、本件発明1と刊行物2〜10に記載のものを対比する。 本件発明1は、揮発性アミン及びその塩を含まない組成を有するところ、刊行物2に記載のものは、揮発性アミン又はその塩を必須成分とするものであり、両者は腐食防止剤の組成が相違し、また、刊行物2に記載のものは純水ボイラー用の防食剤であるから、刊行物2に記載のものは、本件発明1とボイラーの使用形態が相違する。また、刊行物2、比較例8,9には、275℃の純水にクエン酸ナトリウムを添加したもののmddが改善することが記載されているものの、多数の孔食が発生したことが記載されおり、刊行物2、比較例8,9に記載のものは本願発明と使用されるボイラーの使用形態が相違するとともに、緻密な防食被膜を形成する本件発明1と技術的思想を相違するものである。 以上のことから、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物2に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成及び使用されるボイラーの使用形態が相違する以上、刊行物2に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できるとすることはできない。 本件発明1は、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する腐食防止剤であるところ、刊行物3に記載のものは、常温下での水道水への使用を予定した金属防食剤あり、また、本件発明1は亜硝酸塩を含まない組成を有するのに対して、刊行物3に記載のものは、亜硝酸塩およびモリブデン酸塩を必須成分とするものであるから、刊行物3に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成及び使用されるボイラーの使用形態が相違する。また、刊行物3、比較例3,4,14には、50℃の大阪市水にグルタル酸ナトリウム、マレイン酸を添加したもののmddが改善することが記載されているものの、刊行物3に記載のmdd値が改善されたものが、直ちに、ボイラ運転時の孔食を防止することにつながるといえず、また、この点を立証する証拠を欠くものであり、さらに、刊行物3に記載のmdd値が改善されたものは本件発明1と使用されるボイラーの使用形態が相違するものである。 以上のとおり、刊行物3に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成及び使用されるボイラーの使用形態が相違する以上、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物3に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できるとすることはできない。 刊行物4には、中、低圧用ボイラに用いる防食剤についての記載されているが、刊行物4に記載のものは、脂肪族オキシカルボン酸またはそのアルカリ性塩の他に、(イ)モリブデン酸またはそのアルカリ塩など、(ハ)重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、(ニ)オレフィン系化合物の重合体または共重合体を必須成分とするものであり、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物を含まない本件発明1と組成を相違する。 以上のとおり、刊行物4に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成が相違する以上、本件発明1は、刊行物4に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物4に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できるとすることはできない。 刊行物5に記載のものは、常温下での水道水への使用を予定した金属防食剤に過ぎず、ボイラーの使用形態が本件発明1と相違し、また、刊行物5に記載のものは、式IIの芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩を必須成分とするものであり、芳香族カルボン酸又はそのアルカリ塩を含有しない本件発明1と組成が相違する。また、刊行物5、比較例2〜4,17〜19には、大阪市水上水道水にコハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、グルタル酸ナトリウムを添加したもののmddが改善することが記載されているものの、刊行物5に記載のmdd値が改善されたものが、直ちに、ボイラ運転時の孔食を防止することにつながるといえず、また、この点を立証する証拠を欠くものであり、さらに、刊行物5に記載のmdd値が改善されたものは本件発明1とボイラーの使用形態が相違するものである。 以上のとおり、刊行物5に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成及び使用されるボイラーの使用形態が相違する以上、本件発明1は、刊行物5に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物5に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できるとすることはできない。 刊行物6には、軟水ボイラの防食剤が記載されているが、刊行物6に記載のものは、カルボン酸化合物の他に、リン化合物や、金属イオンを水中に容易に放出する金属化合物を含有するものであり、金属イオンを水中に容易に放出する金属化合物を含まない本件発明1と組成を相違するから、本件発明1は、刊行物6に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物6に記載のものは、本件発明1と組成が相違する以上、刊行物6に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できるとすることはできない。 刊行物7には、金属防食剤が記載されているが、刊行物7に記載のものは、脂肪族オキシカルボン酸またはその塩の他に、ジルコニウム、有機ホスホン酸誘導体を添加したものであり、ジルコニウム、有機ホスホン酸誘導体を含まない本件発明と腐食防止剤の組成を相違するものである。また、刊行物7、実施例2には、グルコン酸ナトリウムを添加した大阪市水道水による例が、また、同実施例2には、クエン酸ナトリウムを添加した大阪市水道水による例が記載されているが、この刊行物7、実施例2、4のものは、濃縮境膜が発生する実際のボイラの運転状態を前提にして腐食について検討したボイラー伝熱面についての実験でなく、しかも、連続給水条件で行ったものでないので、本件発明1の進歩性を否定する根拠にならない。 以上のとおり、刊行物7に記載のものは、本件発明1と腐食防止剤の組成及び使用されるボイラーの使用形態が相違するから、本件発明1は、刊行物7に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物7に記載のものに基づいて本件発明1を容易に想到できたものとすることはできない。 刊行物8は刊行物2に係る公告公報であるから、前述の刊行物2と同様の理由により、本件発明1は刊行物8に記載されたものでなく、また、刊行物8に記載されたものに基づいて本件発明1を容易に想到できたものとすることができない。 刊行物9には、酢酸ビニルと水が共存する系に於いて、蓚酸、くえん酸、酒石酸、サリチル酸、リンゴ酸の有機酸を添加することにより、炭素鋼の腐蝕を著しく防止出来ることが記載されているが、刊行物9に記載のものは、ボイラーの伝熱面における孔食を防止し、かつ、スケール防止を図る本件発明1と別個のものであるから、本件発明1は、刊行物9に記載された発明であるとも、また、刊行物9に記載された発明に基づいて容易に想到できたものとすることができない。 次に、刊行物10には、蒸発蒸気缶、ボイラー、冷却管の如き工業用水又は海水を使用して加熱又は冷却する装置において使用水中に予め枸櫞酸或は其の可溶性塩例えば枸櫞酸アルカリ塩の少量を添加して、石灰塩の附着防止に有効であることが記載されているが、刊行物10に記載のものは、石灰塩の附着防止のためのものであり、腐食防止剤に係わる本件発明1と用途が相違する。 以上のことから、本件発明1は、刊行物10に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物10に記載された発明に基づいて容易に想到できたものとすることができない。 そして、本件発明1は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により「この発明のボイラ用缶水処理剤組成物は、缶体内部の金属表面上に強固な防食被膜を形成して、溶存酸素濃度にほとんど影響されることなく、所望の防食機能を発揮するものである。また、従来のような煩雑な薬剤の調合,溶存酸素濃度の管理等の煩雑な操作が不要で、最初に所定の投入量を設定して、次回以降その量を維持するだけでよい。さらに、缶内処理剤として従来必要としていたリン酸,ポリカルボン酸等のスケール抑制剤を配合する必要がなく、処理剤全体の成分数を少なくして、製品コストを大幅に低減することができる。この他、前記有機多塩基酸が粉末もしくは水溶液でも化学的に安定であることにより、脱酸素剤としての亜硫酸塩やヒドラジンに見られるような劣化の心配がなく、保管に要する費用を軽減することもできる。」との訂正明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものである(段落【0016】)。 以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物2〜10に記載された発明であると認めることができず、また、本件発明1は刊行物2〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることができない。 次に、本件の特許請求の範囲の請求項2に記載される発明は、本件発明1における有機多塩基酸をメチレン基を0〜5個持っているものに限定し、また、特許請求の範囲の請求項3に記載される発明は、本件発明1における有機多塩基酸をコハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸のいずれかのものに限定し、また、特許請求の範囲の請求項4に記載される発明は、本件発明1のものをボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラの腐食防止方法に係るものであるから、本件の特許請求の範囲の請求項2〜4に記載される発明は、それぞれ、前述の本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜10に記載された発明であるとも、また、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。 エ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについて ア.申立人鈴木哲夫の申立ての理由の概要 申立人鈴木哲夫は、証拠として、甲第1号証(特開昭59-133378号公報)、甲第2号証(特開昭58-96881号公報)、甲第3号証(特開昭55-62181号公報)、甲第4号証(特開昭57-192270号公報)、甲第5号証(特開昭59-133377号公報)、甲第6号証(特開昭63-103090号公報)、甲第7号証(特開昭59-16983号公報)を提出し、本件の特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明であるか又は甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。 イ.甲各号証の記載事項及び対比・判断 甲第1〜7号証には、「2.ウ.独立特許要件の判断 (引用刊行物記載の発明)」に記載した事項が記載されている。 本件発明1〜4と甲第1〜7号証に記載の発明を対比すると、本件発明1〜4は、「2.ウ.独立特許要件の判断 (対比・判断)」に記載したとおりに対比・判断される。 したがって、本件発明1〜4は、甲第1〜7号証に記載された発明であるとも、また、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認めることができない。 ウ.申立人株式会社片山化学工業研究所の申立ての理由の概要 申立人株式会社片山化学工業研究所は、証拠として、甲第1号証(特公平2-54433号公報)、甲第2号証(特公昭49-18338号公報)、甲第3号証(特公昭28-6351号公報)を提出し、本件の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載される発明は、甲第1号証に記載された発明であるか又は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。 エ.甲各号証の記載事項及び対比・判断 甲第1〜3号証には、「2.ウ.独立特許要件の判断 (引用刊行物記載の発明)」に記載した事項が記載されている。 本件発明1〜4と甲第1〜3号証に記載の発明を対比すると、本件発明1〜4は、「2.ウ.独立特許要件の判断 (対比・判断)」に記載したとおりに対比・判断される。 したがって、本件発明1〜4は、甲第1号証に記載された発明であるとも、また、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認めることができない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した証拠及び理由によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 平成12年 8月22日 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ボイラの腐食防止剤及び腐食防止方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤。 【請求項2】 前記有機多塩基酸は、メチレン基を0〜5個持っている請求項1に記載のボイラの腐食防止剤。 【請求項3】 前記有機多塩基酸は、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、インクエン酸のいずれかである請求項1に記載のボイラの腐食防止剤。 【請求項4】 カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この発明は、主として、ボイラに供給する水のための処理剤であって、とくに高温度の環境下におかれる缶体内部で金属表面上に強固な防食被膜を形成することができる組成物、及びこの組成物を用いた腐食防止方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 ボイラ用の缶水処理剤には、清缶剤として用いられるものと、脱酸素剤として用いられるものとの二種がある。このうち、清缶剤は、缶内に浸入する硬度分や酸化鉄等が缶体内部でスケール化するのを妨げるとともに、pH値を適切な範囲に調節して、缶体の腐食を抑える働きを持っている。一方、脱酸素剤は、缶水中の溶存酸素を取り除くことにより、防食の機能を達成するものである。これら二種の処理剤は、適用すべき水の性状に応じて適宜併用されている。 【0003】 従来の技術によると、前記処理剤の調整に際して、各種の薬剤を細かく調合することが求められるために、コストが高いものとなっている。しかも、脱酸素剤を適用するときは、供給水の溶存酸素濃度に対応した投入量を決定しなければならず、その測定が非常に煩雑な作業となっている。水中の溶存酸素濃度は、温度等の外的環境によって大きく変動するが、このことは、脱酸素剤の投入時に、外的環境条件とともに缶内の脱酸素成分の残留量をチェックして、総量を調整するという困難な操作が必要なことを意味している。 【0004】 前記のような煩雑,かつ困難な操作を省く簡略的な手法として、脱酸素剤の投入量を年間を通じて最も溶存酸素濃度の高い時期に設定しておくことが試みられている。しかし、この場合、溶存酸素濃度の低い時期では薬剤が過剰となり、コスト高になる。また、亜硫酸系の脱酸素剤では、過剰分の薬剤が缶水の電気伝導度を高めて、ブロー処理(缶内に生じた濃縮水の排出処理)の機会を増やすのみならず、キャリオーバーの原因となる。同様な不具合は、ヒドラジン系の脱酸素剤でも起こり得る。さらに、従来の脱酸素剤には、保管中に空気中の酸素と反応して劣化することや、長期保存によって変質する等の欠点があることも知られている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 一般に、前記清缶剤あるいは脱酸素剤は、多種頚の成分を混有していて、各成分の相乗作用によって所期の目的(スケール抑制機能並びに脱酸素機能)を達成しているけれども、それら公知の成分は、先に述べたようなコスト上の不利益や取扱上の困難性に結びつく。このような問題点は、缶体内部で、缶壁ないしは水管壁に対して充分かつ強固な防食被膜を形成することができれば、自ずと解消することになる。 【0006】 【課題を解決するための手段】 そこで、発明者は、前記着眼点に基づき、缶体を構成している鉄系金属材料の表面上にキレートの繊密な防食被膜を形成することについて、多くの試策と実験を行った結果、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸またはその塩のうちから選ばれる1種以上の成分を含む組成物がボイラ用缶水処理剤として好適なことを見出したものである。より具体的には、本発明は、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩・芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤である。また、本発明は、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法である。本発明の適用対象として、特開昭58-96881号(特公平2-54433号)に記載のような純水を使用するボイラは除外される。また、本発明はボイラ缶水に関するものであるから、特開昭59-133378号、特開昭55-62181号、特開昭59-133377号、特開昭59-16983号のような硬度を含んだ水道水を使用することもない。なお、硬度を含んだ水道水とは、軟水化処理のされていない水道水を意味する。 【0007】 この発明における有機多塩基酸には、コハク酸,リンゴ酸,フマル酸酒石酸等、2つのカルボキシル基を持つものや、クエン酸,インクエン酸等、3つ以上のカルボキシル基を持つものが挙げられる。 【0008】 また、塩を形成する金属イオンとしては、Na+,K+,Li+等のアルカリ金属イオンの他、Ca2+,Mg2+等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられるが、溶解度が高い点あるいはスケール化防止の点では、後者のアルカリ金属を用いる方がより好ましい結果が得られる。 【0009】 そして、この発明における缶水処理剤は、水溶液等の溶液もしくは粉末の形態のいずれでも使用可能である。 【0010】 【実施例】 この発明の具体的実施例について説明すると、下記の表1と表2は、カルボキシル基が2つと3つの有機多塩基酸の使用例をそれぞれ表している。 【0011】 【表1】 【0012】 【表2】 【0013】 この発明による缶水処理剤の場合、その防食のメカニズムは、鉄イオンと有機多塩基酸またはそのイオンが沈澱を生じて金属表面に吸着により薄膜を形成した状態となり、あるいは有機多塩基酸またはそのイオンが金属表面でキレートの繊密な薄膜を形成した状態となることによるものと推定される。したがって、缶体内部に形成すべき防食被膜は、現実的には缶水中に一定濃度(量)以上の有機多塩基酸またはその塩を維持することによって実現することができ、供給水の溶存酸素濃度には左右されない。この傾向は、溶存酸素濃度と金属表面上の発生孔食数との関係を示す図1から理解することができる。 【0014】 図1によれば、この発明の処理剤の使用により、缶水中の溶存酸素濃度が高くなっても、水管等の内壁の金属表面上の孔食数の発生状態に大きな変化が現れないことが判る。 【0015】 そして、図2によれば、この発明の処理剤によって得られる別の作用,すなわち缶体外部から持ち込まれるスケール成分(硬度分や酸化鉄等)のスケール化(缶壁等へのスケール成分の付着,生長)を抑制する作用が示されている。この図2は、ボイラの燃焼(稼動)時間の増加に伴って、金属表面上に発生するスケールの厚みを表したものであり、この図2により、この発明の処理剤のスケール化抑制作用が従来の亜硫酸系の処理剤よりも顕著であること、および薬品無添加の場合に比し、スケール発生量の点でも著しく優位であることが理解される。 【0016】 【発明の効果】 以上のように、この発明のボイラ用缶水処理剤組成物は、缶体内部の金属表面上に強固な防食被膜を形成して、溶存酸素濃度にほとんど影響されることなく、所望の防食機能を発揮するものである。また、従来のような煩雑な薬剤の調合,溶存酸素濃度の管理等の煩雑な操作が不要で、最初に所定の投入量を設定して、次回以降その量を維持するだけでよい。さらに、缶内処理剤として従来必要としていたリン酸,ポリカルボン酸等のスケール抑制剤を配合する必要がなく、処理剤全体の成分数を少なくして、製品コストを大幅に低減することができる。この他、前記有機多塩基酸が粉末もしくは水溶液でも化学的に安定であることにより、脱酸素剤としての亜硫酸塩やヒドラジンに見られるような劣化の心配がなく、保管に要する費用を軽減することもできる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 水中の溶存酸素濃度と金属表面上に発生する孔食数との関係を示す説明図である。 【図2】 ボイラの燃焼(稼動)時間と缶体内部に発生するスケールの厚みとの関係を示す説明図である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1に記載の「ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩は含まないボイラの腐食防止剤」を「ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤」と訂正する。 b.特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項4に記載の「カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩を含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラの腐食防止方法」を「カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法」と訂正する。 c.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落【0006】の最終行に、「より具体的には、本発明は、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加して使用する組成物であって、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まないボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止剤である。また、本発明は、カルボキシル基を2個以上持つ有機多塩基酸又はその塩から選ばれる1種以上を主成分とし、タンニン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、揮発性アミン及びその塩、亜硝酸塩、重金属イオンを水中で容易に放出しうる化合物、有機ホスホン酸誘導体、ヒドラジンは含まない組成物を、ボイラ運転時にボイラ缶水に添加するボイラ(純水を使用するボイラや硬度を含んだ水道水を使用するボイラを除く)の腐食防止方法である。本発明の適用対象として、特開昭58-96881号(特公平2-54433号)に記載のような純水を使用するボイラは除外される。また、本発明はボイラ缶水に関するものであるから、特開昭59-133378号、特開昭55-62181号、特開昭59-133377号、特開昭59-16983号のような硬度を含んだ水道水を使用することもない。なお、硬度を含んだ水道水とは、軟水化処理のされていない水道水を意味する。」を追加する。 |
異議決定日 | 2000-08-29 |
出願番号 | 特願平2-416209 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C23F)
P 1 651・ 113- YA (C23F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 進 |
特許庁審判長 |
三浦 悟 |
特許庁審判官 |
後藤 圭次 新居田 知生 |
登録日 | 1997-08-08 |
登録番号 | 特許第2681230号(P2681230) |
権利者 | 三浦工業株式会社 |
発明の名称 | ボイラの腐食防止剤及び腐食防止方法 |
代理人 | 福島 三雄 |
代理人 | 野中 誠一 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 小山 方宣 |
代理人 | 野中 誠一 |
代理人 | 福島 三雄 |
代理人 | 小山 方宣 |