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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1031937
異議申立番号 異議2000-70137  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-18 
確定日 2000-11-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2922357号「接着性前処理剤組成物」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2922357号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.経緯
本件特許第2922357号は、特願平3-81111号(平成3年3月22日出願)に基づく優先権を主張して、平成4年3月17日に出願されたものであって、平成11年4月30日に設定登録された後、取消理由通知に対して、平成12年9月6日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正請求について、
本件訂正請求における訂正事項をまとめると以下のとおりである。
(1)特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3における「接着性前処理剤組成物」なる記載を「歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物」に訂正する。
(2)同特許請求の範囲の請求項4における「請求項1に記載の接着前処理剤組成物」なる記載を「請求項3に記載の接着前処理剤組成物」に訂正する。
(3)特許明細書の段落番号[0007]および[0017] における「接着性前処理剤組成物」なる記載を「歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物」に訂正する。
そこで、これらの訂正について検討するに、
(1)の訂正は、「前処理剤組成物」の「前処理」について特定化し、該組成物の用途をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、(3)の訂正は、(1)の訂正に伴い、訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明中の記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
次に、(2)の訂正についていうと、特許明細書の特許請求の範囲の請求項4においては、(A)〜(E)の5成分についてその配合量を規定するものであるが、(A)〜(E)の5成分について記載するのは、請求項1ではなく請求項3である。したがって、特許明細書の請求項4における「請求項1に記載の接着前処理剤組成物」なる記載は「請求項3に記載の接着前処理剤組成物」の明らかな誤記であるから、この訂正は誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記(1)〜(3)の訂正はいずれも特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を実質的に拡張、変更するものでもない。
したがって、本件訂正請求は特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項及び3項の規定に適合するから、当該訂正を認める。
3.異議申立てについて、
(1)本件異議申立人の主張をまとめるとその概要は以下のとおりである。
a)本件請求項1及び2の発明は、本件の優先権の基礎となる特願平3-81111号出願の出願当初明細書に記載されていないから、本件請求項1及び2の発明に係る優先権は適用され得ない。そして、本件請求項1及び2の発明は、本件の優先権主張日後に頒布されたものであって現実の出願日前に頒布された甲第1号証(「日本歯科保存学雑誌」第34巻、春季特別号、第78頁(平成3年5月20日))に記載された発明であり、また、同優先権主張日前に頒布された甲第2号証(「Scanndinavian Journal of Dental Research」Vol.96,No.6,p584-589(1988年12月))に記載された発明でもある。さらに、本件請求項1及び2の発明は、甲第1及び2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定あるいは同条第2項の規定に違反してなされたものである。
b)本件請求項3及び4の発明は、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
c)本件請求項1〜4の発明は、本件優先権出願に前に出願され、本件優先日後に出願公開された甲第3号証に係る先願(特願平2-276878号;特開平4-154708号公報)の出願当初明細書(以下、先願明細書という。)に記載された発明と同一であるから、本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
(2)これに対して、本件訂正後の請求項1〜4の発明は、訂正明細書の記載からみて、その請求項1〜4に記載されたとおりの以下のものである。
「[請求項1](A)1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体
(B)下記一般式(I)

で表される多官能(メタ)アクリレート単量体
(C)可視光重合開始剤 および
(D)水
を含有してなることを特徴とする、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物。
[請求項2]上記(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計100重量部に基づいて、(A)成分が1〜90重量部、(B)成分が1〜90重量部、(C)成分が0.01〜10重量部および(D)成分が10〜90重量部を占める、請求項1に記載の接着性前処理剤組成物。
[請求項3](A)1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体
(B)下記一般式(I)


で表される多官能(メタ)アクリレート単量体
(C)可視光重合開始剤
(D)水 および
(E)アミン化合物
を含有してなることを特徴とする、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物。
[請求項4]上記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の合計100重量部に基づいて、(A)成分が1〜90重量部、(B)成分が1〜90重量部、(C)成分が0.01〜10重量部、(D)成分が10〜90重量部および(E)成分が0.01〜10重量部を占める、請求項3に記載の接着性前処理剤組成物。」
(3)そこで、異議申立人の主張について以下検討する。
a)の主張について
本件優先権主張の基礎とした原出願(特願平3-81111号)の出願当初の明細書においては、アミン化合物の使用を必須とする組成物のみが記載されているのに対して、本件訂正後の請求項1および2の組成物は、(A)〜(D)成分の使用を必須とするのみで、アミン化合物を使用しない場合をも包含するから、本件訂正後の請求項1および2の発明は原出願の当初明細書に記載されてはいない。したがって、本件訂正後の請求項1および2についての優先権は認められない。
そこで、まず、甲第1号証について検討するに、甲第1号証においては、試作光重合型デンチンプライマーを用いて、歯の象牙質とコンポジットレジンとの接着性に与える影響について調べた結果等について記載されており、該プライマーの成分は、本件訂正後の請求項1の発明(以下、本件発明1という。)で使用する上記(A)〜(D)成分と重複しているが、甲第1号証においては、プライマーを作用させた後、直接コンポジットレジンを適用するものであり、該プライマーは、本件発明1のように歯質に光重合型接着剤を施す前に使用するものではないから、甲第1号証のプライマーと本件発明の接着性前処理組成物とはこの用途の点で相違する。
次に、甲第2号証においては、グルマ接着剤の象牙質への接着について記載され、コンポジットレジンを象牙質に接着する際、このグルマ接着剤を用いた後さらにエナメル接着剤を使用した例が記載され、また、このエナメル接着剤の使用を省略できるという記載もある。さらに表2によれば、グルマ接着剤の中には、本件発明1の(A)〜(D)成分と重複するものもあるが、上記エナメル接着剤は、化学重合型の接着剤であり、光重合型の接着剤ではないのであるから、甲第2号証においては、グルマ接着剤を、本件発明1のように歯質に光重合型接着剤を施す前に使用することを何ら示していないことは明らかであり、甲第1号証のプライマーと本件発明の接着性前処理組成物とはこの用途の点で相違する。
さらに、本件発明1は、歯質とポリマー材料等との接着に光重合型接着剤を用いる場合、該接着剤が界面での収縮を起こすため、歯質への充分な接着が得られないという問題点を解消するものであって、訂正明細書の実施例1等からも明らかなように、本件発明1の接着性前処理組成物を、光重合型接着剤を用いる前に歯質に施用することにより、光重合型接着剤を使用する場合において優れた接着力を得ることができるという効果を奏するものであり、該効果は、甲第1、2号証には全く示唆されていないものである。
したがって、以上の点からみると、本件発明1は、甲第1、2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともいえない。
さらに、本件訂正後の請求項2の発明は、本件発明1をさらに限定したものであるから 甲第1、2号証に記載された発明であるとも、また甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともいえない。
b)の主張について、
甲第2号証においては、上記記載に加えさらに表2中に、グルマ接着剤として本件訂正後の請求項3の発明(以下、本件発明2という。)における(E)成分に相当する成分を使用することを示す記載があるが、上記したように、甲第2号証においては、このグルマ接着剤を本件発明2のように歯質に光重合型接着剤を施す前に使用するという用途を示しておらず、一方、本件発明2の接着性前処理組成物は、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用することにより、訂正明細書の実施例2等の記載から明らかなように、光重合型接着剤を使用する場合において優れた接着力を得ることができるという効果を奏するものであり、該効果は、甲第2号証には示唆されてはいない。
したがって、これらの点からみれば、本件発明2は甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとはいえない。
さらに、本件訂正後の請求項4の発明は、本件発明2をさらに限定したものであるから、当然、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものともいえない。
c)の主張について、
先願明細書においては、水系光硬化型接着剤組成物について記載され、該組成物は、歯科用接着剤として用いられ、さらに本件発明1および本件発明2の使用成分と重複する成分を含有するものではあるが、先願明細書における該組成物の使用形態をみるに、具体的には実施例において、該組成物を象牙質に塗布した後に直接コンポジットレジンを適用する旨記載されているのみで、該組成物を、本件発明1および2のように歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する旨の記載はないから、この点において、本件発明1および2はと先願明細書に記載された発明とは同一とはいえない。また、本件訂正後の請求項2および4の発明は、本件発明1および2をそれぞれさらに限定したものであるから、これら発明も、先願明細書に記載されて発明と同一であるとはいえない。
2.以上のとおりであるから、結局、本件訂正請求は認めることができ、本件異議申立の理由および証拠によっては、本件訂正後の請求項1〜4に係る特許を取消すことができない。
また、他に本件特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
接着性前処理剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体、
(B)下記一般式(I)
【化1】

ここで、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、そして、Aは下記式

ここで、lは0又は正の整数である、
で表わされる基、又は下記式

ここで、R3は少くとも1個の芳香環を有しそして酸素原子を含有していてもよい2価の芳香族基を示し、そしてnおよびmは正の整数を示す、
で表わされる基を示す、
で表わされる多官能(メタ)アクリレート系単量体、
(C)可視光重合開始剤 および
(D)水
を含有してなることを特徴とする、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物。
【請求項2】 上記(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計100重量部に基づいて、(A)成分が1〜90重量部、(B)成分が1〜90重量部、(C)成分が0.01〜10重量部および(D)成分が10〜90重量部を占める、請求項1に記載の接着性前処理剤組成物。
【請求項3】 (A)1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体、
(B)下記一般式(I)
【化2】

ここで、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、そして、Aは下記式

ここで、lは0又は正の整数である、
で表わされる基、又は下記式

ここで、R3は少くとも1個の芳香環を有しそして酸素原子を含有していてもよい2価の芳香族基を示し、そしてnおよびmは正の整数を示す、
で表わされる基を示す、
で表わされる多官能(メタ)アクリレート系単量体、
(C)可視光重合開始剤、
(D)水 および
(E)アミン化合物
を含有してなることを特徴とする、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物。
【請求項4】 上記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の合計100重量部に基づいて、(A)成分が1〜90重量部、(B)成分が1〜90重量部、(C)成分が0.01〜10重量部、(D)成分が10〜90重量部および(E)成分が0.01〜10重量部を占める、請求項3に記載の接着性前処理剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は接着性前処理剤組成物に関する。さらに詳しくは、特に歯科治療において象牙質およびエナメル質の接着に優れた接着性能を示す接着性前処理剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科治療の分野において、歯質とポリマー材料、金属、歯科用陶材などとの接着には、常温重合型および光重合型接着剤が提案されている。とくに操作性と審美性の観点から、後者には関心が寄せられている。しかし、光重合型接着剤は光重合の本質に由来する界面での収縮を起すため、歯質へ十分な接着力を得ることが困難であった。この点を改良して歯質への強力な接着力を得るためには、色々な工夫が提案されている。例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト水溶液による歯質の前処理、接着組成物への接着性促進単量体を添加する方法などがある。しかしながら、いずれもまだ根本的な解決に至っていないのが現状であり、歯質に対して強い接着性を示す接着組成物の出現が望まれる。
【0003】
特開平2-245,080号公報には、本願出願人と同一出願人により、歯質に対して親和性を有する可視光重合開始剤であるカンファ-キノン誘導体を用いることによって得られる組成物が歯質に対して強い接着力を発揮することが提案されている。
【0004】
【発明が解決すべき課題】
本発明の目的は、新規な接着性前処理剤組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、歯質に特に象牙質に対して優れた接着性を示す接着性前処理剤組成物を提供することにある。本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかであろう。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
(A)1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体、
(B)下記一般式(I)
【0006】
【化3】

ここで、R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、そして、Aは下記式

ここで、lは0又は正の整数である、
で表わされる基、又は下記式

ここで、R3は少くとも1個の芳香環を有しそして酸素原子を含有していてもよい2価の芳香族基を示し、そしてnおよびmは正の整数を示す、
で表わされる基を示す、
【0007】
で表わされる多官能(メタ)アクリレート系単量体、
(C)可視光重合開始剤 および
(D)水
を含有してなることを特徴とする、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物によって達成される。
【0008】
本発明の組成物は、上記のとおり、(A)〜(D)の4成分を含有している。これらの成分より成る組成物は歯質に親和性を有しており、歯質特に象牙質に対して高い浸透力を示しそして歯質内部から重合開始することができるので、優れた接着性を発現することができる。
【0009】
本発明の組成物において、(A)成分は1分子中に少なくとも1個の水酸基と(メタ)アクリロイル基とを有する重合性単量体である。かかる単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ-ト、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレートなどが好ましく用いられる。
【0010】
(B)成分は、上記一般式(I)で表わされる多官能(メタ)アクリレート系単量体である。
【0011】
一般式(I)中、R1およびR2は互いに独立に水素原子またはメチル基を示す。
【0012】
Aは、-CH2CH2(OCH2CH2)l-(lは0又は正の整数である)で表わされる基であるか、又は-(CH2CH2O)n-R3-(OCH2CH2)m-(R3は少なくとも1個の芳香環を有しそして酸素原子を含有していてもよい2価の芳香族基を示し、そしてnおよびmは正の整数を示す)で表わされる基である。
【0013】
上記式(I)で表わされる多官能(メタ)アクリレ-ト単量体としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ルなどのジ(メタ)アクリレート類;2,2-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン類などを好ましいものとして挙げることがでる。
【0014】
(C)成分は可視光重合開始剤である。可視光重合開始剤としては、好ましくはαージケトン類であり、代表的な例としてジアセチル、ベンジル、カンファーキノンなどが例示されるが、特に歯質に親和性を有するカンファ-キノン誘導体が好ましく用いられる。かかる化合物としては、例えば7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸、および10-ヒドロキシカンファ-キノンなどを好適な化合物として挙げることができる。
【0015】
(D)成分は水である。
【0016】
本発明の組成物は、上記(A)、(B)、(C)および(D)の各成分について、これら(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計100重量部に基づいて、(A)成分を1〜90重量部、(B)成分を1〜90重量部、(C)成分を0.01〜10重量部および(D)成分を10〜90重量部で含有するのが有利である。さらに好ましい組成は、(A)成分が20〜60重量部であり、(B)成分が5〜20重量部であり、(C)成分が0.05〜0.5重量部であり、そして(D)成分が30〜60重量部である。
【0017】
この場合、重合促進剤として(E)アミン化合物を添加することができる。
それ故、本発明によれば、第2に、上記(A)〜(D)の4成分の他に、アミン化合物(E)を含む、歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物が同様に提供される。
かかるアミン化合物(E)としては、芳香族アミンまたは脂肪族アミンが好ましい。好適な芳香族アミンは、下記式(II)で表わされる置換芳香族アミンである。
【0018】
【化4】

ここで、R4は水素、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を示し、R5は水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基またはアリール基を示し、R6はアシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、ヒドロキシアシル基、カルバモイル基(置換基を有していてもよい)、シアノ基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、pは0〜5の整数を示す、
【0019】
かかる置換芳香族アミンの具体例としては、例えば4-ジメチルアミノベンズアルデヒド、4-ジエチルアミノベンズアルデヒド、4-(メチルフェニルアミノ)ベンズアルデヒド、4-(β-ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒドのようなアルデヒド類;
【0020】
4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジエチルアミノ安息香酸、4-(メチルフェニルアミノ)安息香酸、4-(β-ヒドロキシエチルメチルアミノ)安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジエチルアミノ安息香酸メチル、4-(メチルフェニルアミノ)安息香酸メチル、4-(β-ヒドロキシエチルメチルアミノ)安息香酸プロピルおよび4-ジメチルアミノ安息香酸フェニルのような安息香酸誘導体;
【0021】
4-ジメチルアミノフタル酸および4-ジメチルアミノイソフタル酸ジメチルのようなフタル酸誘導体、
N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジメチルシアノアニリン、N,N-ジメチルニトロアニリン、N,N-ジメチルクロロアニリン、N,N-ジメチルブロモアニリン、N,N-ジメチル-o-ヨードアニリン、N,N-ジエルシアノアニリン、N,N-ジエチル-p-クロロアニリン、N,N-ジプロピル-p-シアノアニリン、N,N-メチルフェニル-p-シアノアニリン、N,N-β-ヒドロキシエチルメチル-p-クロロアニリン、N,N-ジメチル-2,4-ジシアノアニリン、N,N-ジメチル-2,4-ジニトロアニリンおよびN,N-ジメチル-2,4-ジクロロアニリンのようなアニリン化合物を挙げることができる。
【0022】
また、N-フェニルグリシン、N-メチルグリシンのようなアミノ酸誘導体、(N,N-ジメチルアミノ)エタノール、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノメタクリレートなどの脂肪族3級アミンも好ましい。
【0023】
これらのうち、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するアミン化合物が好適に使用される。かかるアミン化合物としては、例えばN-フェニルグリシン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸、N,N-ジエチルアミノ安息香酸、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N-メチルグリシン、2-(N,N-ジメチルアミノ)エタノールなどを挙げることができる。このうち特に、N,N-ジエチルアミノ安息香酸が好ましい。
【0024】
かかるアミン化合物(F)は、(A)〜(E)成分およびアミン化合物(F)の合計100重量部当たり、好ましくは0.01〜10重量部、特に好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0025】
本発明の接着性前処理剤組成物を用いて、歯質特に象牙質と他の物質を接着するに際しては、歯質の表面を、たとえばクエン酸と塩化第二鉄とを含む水溶液などで、また、エナメル質に対しては、リン酸水溶液で予め処理しておくと、より強い接着力が得られる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、接着力は次のようにして評価した。
【0027】
牛前歯象牙質またはエナメル質を、回転式研磨機(BUEHLER社製、ECOMAT III)で注水、指圧下で、耐水エメリ-紙600番まで研削して、平滑な面を得る。研削した牛歯を37℃の水中に15分間浸漬し、接着試料とする。象牙質を3%塩化鉄を含む10%クエン酸水溶液で、またはエナメル質を65%リン酸で30秒処理し、水洗を20秒、エアブロ-乾燥を15秒間行なった。接着性前処理剤組成物でその歯面を30秒処理し、20秒間エアブロ-した。そのうえに光重合型接着剤をスポンジで塗布し、可視光照射器(Kulzer社製、TransluxCL)を用いて光を20秒照射した。つづいて、直径5.1mmの円孔のあいた厚さ1mmの厚紙をはりつけ、コンポジットレジン(3M社製、Silux)をそこに詰め、1分間光照射した。即重レジンでアクリル棒をつけ、37℃の水中に24時間浸漬後、引張り実験を行なった。
【0028】
実施例1
水60重量部に2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)30重量部、ポリエチレングリコール(n=9)ジメタクリレ-ト(9G)10重量部、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸(CACQ)0.1重量部を溶解して接着性前処理剤組成物とした。また、2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシ(n+m=10)フェニル)プロパン(10E)に7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2,2,1]ヘプタン-1-カルボン酸0.1重量部、N,N-ジエチルアミノ安息香酸0.1重量部、メチルメタクリレ-ト25重量部を溶かして接着剤とした。この接着性前処理剤組成物と接着剤とを用いて接着実験を行った。象牙質への接着を行ったところ、115kg/cm2の接着力が得られた。
【0029】
実施例2
実施例1において、実施例1の接着性前処理剤組成物に、さらにN,N-ジエチルアミノ安息香酸(OEABA)0.1重量部が加わった組成の接着性前処理剤組成物を用いた他は実施例1と全く同様に行った。接着力は126kg/cm2であった。
【0030】
実施例3
実施例2において、前処理剤組成におけるHEMAの量を35重量部にし、さらに9Gの代わりに5重量部のトリエチレングリコールジメタクリレートを用いた他は、実施例2と同様にして行ったところ、接着力124kg/cm2であった。
【0031】
実施例4
実施例2において、前処理剤組成におけるHEMAの量を25重量部にし、さらに9Gの代わりに15重量部の2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシ(n+m=30)フェニル)プロパン(30E)を用いた他は、実施例2と同様にして行ったところ、接着力112kg/cm2であった。
【0032】
実施例5
実施例2において、象牙質の代わりにエナメル質を用いた他は、実施例2と同様にして行ったところ、接着力122kg/cm2であった。
【0033】
比較例1
実施例2において、前処理剤による象牙質の処理を施さず、接着剤を直接象牙質に塗布して行なったところ、接着力36kg/cm2であった。
【0034】
比較例2
実施例2において、前処理剤組成を35重量%のHEMAを含む水溶液とした他は、実施例2と同様にして行ったところ、接着力67kg/cm2であった。
【0035】
比較例3
実施例2において、記載の前処理剤組成をHEMA35重量%、CACQ 0.1重量%、DEABA 0.1重量%を含む水溶液とした他は、実施例2と同様にして行ったところ、接着力82kg/cm2であった。
【0036】
【発明の効果】
本発明の接着性前処理剤組成物は、歯質特に象牙質と他の物質とを接着するに際して、接着界面での接着剤の収縮による接着力の低下を抑制することができ、強い接着力を発現する。
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲第1項の「接着性前処理剤組成物」を、『歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物』と訂正する。
b.特許請求の範囲第3項の「接着性前処理剤組成物」を、『歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物』と訂正する。
c.特許請求の範囲第4項の「請求項1に記載」を、『請求項3に記載』と訂正する。
d.特許明細書段落【0007】4行目の「接着性前処理剤組成物」を、『歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物』と訂正する。
e.「特許明細書段落【0017】3行目の「接着性前処理剤組成物」を、『歯質に光重合型接着剤を施す前に使用する接着性前処理剤組成物』と訂正する。
異議決定日 2000-11-02 
出願番号 特願平4-90155
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 161- YA (A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横尾 俊一  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 宮本 和子
深津 弘
登録日 1999-04-30 
登録番号 特許第2922357号(P2922357)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 接着性前処理剤組成物  
代理人 大島 正孝  
代理人 辻 邦夫  
代理人 辻 良子  
代理人 大島 正孝  

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