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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1033794
審判番号 審判1997-5734  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-04-14 
確定日 2001-02-08 
事件の表示 平成 5年特許願第518006号「D-アミノ酸またはD-アミノ酸誘導体の製造法」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年10月28日国際公開、WO93/21336、平成 6年 9月29日国内公表、特表平 6-508529]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は、平成5年4月7日(優先権主張1992年4月10日、スペイン)の出願であって、その請求項に係る発明は、その特許請求の範囲第1〜7項に記載されたとおりのものと認められるところ、同第1項は以下のとおり記載されている。
「対応するヒダントイン化合物を変換させてD-アミノ酸またはその誘導体を製造する方法であって、当該変換をヒダントイナーゼとカルバミラーゼの両酵素活性を同時に有する固定化微生物を用いて行うことを特徴とする、D-アミノ酸またはD-アミノ酸誘導体の製造法。」
2.これに対して、原査定における拒絶の理由に引用された特開昭55-11569号公報(以下、「引例1」という)には、次の記載がある。
(1)「アミノ酸のN-カルバミル誘導体のラセミ混合物または相当するヒダントイン化合物のラセミ混合物を原料としてD-アミノ酸を製造する方法において、反応をアグロバクテリウム属(agrobacterium)の微生物から得られる酵素調製物の存在下で実施することを特徴とするD-アミノ酸の製法。」(特許請求の範囲)
(2)「さらに、ヒダントイン化合物の加水分解またはアミノ酸のN-カルバミル誘導体の加水分解を、反応混合物に各種形状、たとえば新鮮な菌体、凍結乾燥した菌体・・・として添加することによっても実施できる。
また酵素をマトリックスとの間で化学結合を形成させあるいはイオン結合を形成させることにより高分子化合物に結合させて不動化させることにより、あるいは物理的に不動化させることにより、さらに技術的にかつ経済的に改良できる。」(第4頁右下欄6〜16行)
(3)「実施例1 ・・・110℃で30分間殺菌したのち、同じ組成に寒天(DIFCO)2%を加えた斜面培地で培養した菌株1302を接種し、30℃で24時間振盪培養した(220r.p.m)。 ・・・ つづいて菌体を集め、生理食塩水で洗浄し、最後にDL-5-フェニルヒダントイン10gを含有するピロリン酸塩緩衝液(0.1M、pH7.7)100ml中に温度40℃においてUPP窒素ブランケットのもとで分散させた。
このような条件下で200時間培養したところ、ヒダントインは完全にアミノ酸(D-フェニルグリシン)に加水分解されていた。これは反応混合物の偏光分析およびSuzuki氏法(・・・)による薄層クロマトグラフにより確認した。」(第4頁右下欄19行〜第5頁右上欄10行)
また、特開昭63-185382号公報(以下、「引例2」という)には、次の記載がある。
(4)「細胞または処理細胞を固定化するのに適した支持体はポリアクリルアミド、ポリウレタンまたはアルギン酸カルシウムを含めたポリマー基材、もしくは・・・などの当分野で通常使用されるものである。」(第3頁左下欄3〜8行)
(5)[実施例8 実施例1に記載の培地で生育させたバチルス・ブレビスIFO12333の細胞を遠心により発酵ブロス6lから収穫した。その細胞を0.1Mトリス緩衝液(pH9.0)500ml中に再懸濁し、次いで6w/v%プロタナール(Protanal)LP/10/60(ノルウエー、ドラムメン、プロタン社)500mlと混合した。この細胞懸濁液を注射針で吸い上げて0.1M塩化カルシウム溶液の浴中に入れ、アルギン酸カルシウム中に固定化された細胞を沈澱させてスプール上に糸として回収した。固定化細胞の最終重量は787.4gであった。
固定化細胞の一部(330g)を使用して、MnSO4 0.44gを含む水1l中でDL-5-(4-ヒドロキシフェニル)ヒダントイン100gを加水分解した。加水分解反応はこの混合物にN2を吹き込んで酸素を排除しながら50℃、pH9.1で23時間行った。pHは5MNaOHを添加して調整した。反応の終了時に、D(-)N-カルバモイル-(4-ヒドロキシフェニル)グリシンの収率は40%であると測定された。](第8頁右下欄6行〜第9頁左上欄6行)
3.本願特許請求の範囲第1項記載の発明(以下、「本願第1発明」という)と、上記引例1に記載されたものを対比すると、上記摘示事項(1)及び(3)に示されるように、引例1にはヒダントイン化合物からアグロバクテリウム属(agrobacterium)の微生物を使用して目的のD-アミノ酸を製造することが記載されており、またアグロバクテリウム属微生物がヒダントイナーゼ活性及びカルバミラーゼ活性を同時に有するものであることは本願明細書の先行技術の項に記載されているように周知の事実であるから(なお、本願発明で使用されている「アグロバクテリウム・ラジオバクター」が上記2種の活性を有するものである点については、必要ならば、「Enzyme Microb. Technol., 1979, vol.1 p201-204」、特に第203頁右欄20〜34行及び第204頁右欄5〜12行等を参照されたい)、両発明は「対応するヒダントイン化合物を変換させてD-アミノ酸またはその誘導体を製造する方法であって、当該変換をヒダントイナーゼとカルバミラーゼ活性を同時に有する微生物を用いて行う」ものである点で一致しており、ただ、本願第1発明では「固定化微生物」を使用するのに対して、引例1の実施例1では菌体を緩衝液に分散させて使用している点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。
一般に、酵素、微生物を固定する固定化酵素・微生物技術は、酵素または酵素を生産する微生物を生産プロセスにおいて使用する際に望まれる、反応時間の短縮、再使用の可能化、生産物の品質の維持、或いは分離回収コストの低減化といった種々の改善を目的としてなされるものであり、本願出願前にすでに開発されていた技術である。(必要ならば、MOL編集部「MOL文庫 バイオテクノロジー&アプリケーション」オーム社、昭和62年12月20日、第75頁11〜18行及び同69頁7〜20行を参照。)
しかも、本願発明と同様なヒダントイナーゼ活性とカルバミラーゼ活性を同時に発揮する反応を、酵素ではあるが、これを固定化した状態で実施しようとすることは、摘示事項(2)に示されるとおり、引例1記載の発明においても既に想定されていたことであり、また、摘示事項(4)及び(5)に示されるように、酵素に代えて微生物自体を固定化することも、本願発明の方法に関連するヒダントイナーゼ活性を利用する引例2の反応において既になされていることであるから、本願発明において、かかる「固定化微生物」手段を採用する程度の事柄は、当業者ならば必要に応じて適宜なし得るものと認められる。
そして、明細書第5〜6頁の「5.結果」の項に記載された、10日間の活性の維持、50〜80%の活性の保持等の結果は、上記したとおりの当業者が必要に応じて適宜なし得る「固定化微生物」という手段を単に採用すれば、むしろ当然に達成される結果であって、上記結果は当業者にとって十分予測しうる範囲内の結果であるから、本願発明が格別顕著な効果を奏し得たものとすることもできない。
4.したがって、本願発明は引例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論とおり審決する。
 
審理終結日 2000-08-03 
結審通知日 2000-08-15 
審決日 2000-09-04 
出願番号 特願平5-518006
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 浩志  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 田村 明照
佐伯 裕子
発明の名称 D-アミノ酸またはD-アミノ酸誘導体の製造法  
代理人 田村 恭生  
代理人 青山 葆  

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