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審決分類 審判 全部無効 特29条特許要件(新規) 無効としない G03B
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない G03B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない G03B
管理番号 1035181
審判番号 審判1999-35181  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1984-08-21 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-04-15 
確定日 2001-03-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第1759834号発明「フイルムカセツト」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1、手続の経緯
出願日 昭和58年 2月 9日
設定登録 平成 5年 5月20日
無効審判請求 平成11年 4月15日
答弁書 平成11年 8月 3日
弁駁書 平成11年10月19日
口頭審理 平成11年12月22日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成11年12月22日
技術説明書(被請求人) 平成12年 3月 3日
技術説明会 平成12年 3月23日
技術説明会(平成12年3月23日)を補足する
技術説明資料(被請求人) 平成12年 4月20日
上申書(請求人) 平成12年 5月 1日
審尋(双方に) 平成12年 6月 8日
回答書(請求人) 平成12年 7月24日
(被請求人) 平成12年 8月 4日
審尋(双方に) 平成12年 8月31日
回答書(請求人) 平成12年12月 4日
(被請求人) 平成12年12月 4日

2、本件発明
本件特許第1759834号の発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和58年2月9日に特許出願され、出願公告(特公平4ー41327号公報参照)後の平成5年5月20日にその特許の設定の登録がなされたものであり、その発明の要旨は、明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの
1 ブリッジを間にしてフイルム供給部とフイルム巻取り部を形成したフイルムカセツトにおいて、上記フイルム巻取り部を構成するスプールを、フイルム巻取り部材と、このフイルム巻取り部材の上部にカセット本体の上面より上方へ突出し、上記上面に対して突没自在に設けられたカメラのフイルム巻上げ軸と弾性的に係合する半球面部を設けた係合部材とから構成したことを特徴とするフイルムカセツト。
にあるものと認める。

なお、本件発明は、特許請求の範囲第2項及び第3項に記載された、以下の実施態様が併せて記載されている。
2 係合部材は、係合爪部とこの係合爪部をカセツト本体の上面より上方へ突出する方向へ付勢する付勢ばねとからなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のフイルムカセツト。
3 係合部材は、フイルム巻取り部材と一体的に設けられカセツト本体の上面に突設された弾性変形部材であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のフイルムカセツト。

3、審判請求人の主張の概要
イ、本件発明は、その明細書及び図面の記載が、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその発明を容易に実施することができる程度にその発明の目的、構成及び効果を記載したものではなく、特許法第36条第3項の規定を満たしておらず、該発明の特許は、特許法第123条第1項第4号により無効とすべきものである。
ロ、本件発明は、その発明の目的を達成するために必要な構成を備えておらず、特許法第29条第1項柱書の産業上利用することができる発明に該当するものではなく、該発明の特許は、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。
ハ、本件発明は、その特許請求の範囲の記載が、その発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではなく、特許法第36条第4項の規定を満たしておらず、該発明の特許は、特許法第123条第1項第4号により無効とすべきものである。

4、当審の判断
(1)請求人主張の上記イ及びロの理由についての検討
上記主張理由イ及びロの具体的な理由は、次のとおりである。
即ち、上記主張理由イは、本件発明の明細書及び図面には、本件発明の第1図乃至第5図に記載の実施例の発明(以下、「実施例1」という。)における、カメラ本体側のフイルム巻上げ軸8の係合爪8aの爪の本数や爪の形状、フイルムカセット側の係合爪部28の構成等の具体的な記載がなされておらず、フイルムカセットの装填及び離脱時の係合爪8aとフイルムカセット側の係合爪部28との係合及び係合の解除、特に、該係合爪部28の四つの係合溝28aとの係合及び係合の解除の状態も明瞭に記載されておらず、また、本件発明の第6図に記載の実施例の発明(以下、「実施例2」という。)における、フイルム巻上げ軸の係合爪8a、弾性変形部材等の構成が具体的に記載されておらず、フイルムカセットの装填及び離脱時の係合爪8aと弾性変形部材との係合及び係合の解除の状態も明瞭に記載されていないので、本件発明の明細書及び図面の記載は、実質的に本件発明を当業者が容易に実施することができる程度に記載されたものではなく、特許法第36条第3項の規定を満たしていない。
というものであり、
また、上記主張理由ロは、本件発明の明細書及び図面には、上述のような記載の不備があり、該明細書及び図面に記載された本件発明は実質的にその発明の目的を達成するために必要な構成を備えておらず、本件発明はその実施が不可能なものであり、本件発明は特許法第29条第1項柱書きの産業上利用することができる発明に該当するものではない。
というものである。

以上のとおり、請求人の主張する上記イ及びロの理由は、いずれも明細書及び図面の記載の不備に伴う問題であるので併せて検討する。
先ず、本件発明の実施例である実施例1が本件発明の目的を達成するために当業者が容易にその実施をすることができる程度に技術事項が開示されたものであるのか、即ち、該明細書及び図面に記載の実施例1がその実施を可能にするための必要な構成を備えたものとして記載されているのか検討する。
請求人は、上記主張理由ロにおける実施例1の実施の可能性を否定するその根拠として、実施例1に対応した具体例を記載した参考図1乃至6を提示し、仮に本件発明の明細書及び図面の記載をもとに実施例1を実施すると該参考図1乃至6に記載のような結果となり、実施例1は実施不可能であると述べ、即ち、本件発明の実施例1において、フイルム巻上げ軸8を回転させてフイルムを巻上げるためには、フイルムカセット側の係合爪部28の四つの係合溝28aに対し、フイルム巻上げ軸8の先端に同じ長さの棒状の係合爪8aが少なくとも2本以上必要であるので、該係合爪8aを2本と仮定して本件発明の前記具体例における動作を説明すると、参考図1の(a)、(b)乃至参考図6の(a)、(b)に示すような結果となり、この具体例においては、フイルムカセットの装填及び離脱時における係合爪8aと係合爪部28との係合及び係合の解除は不可能であると主張しており、そして、確かに、該参考図1乃至6に記載のような具体例においては、請求人主張のように上記係合及び係合の解除は不可能もしくは円滑になし得ないものと解せざるを得ない。しかしながら、本件発明の実施例である実施例1の態様が上記参考図1乃至6の具体例のみに対応するものであると限定的に解すべき理由は何ら存在せず、該具体例において上記係合及び係合の解除が不可能であるとしてもこれをもって本件発明の実施例1における上記係合及び係合の解除の可能性を全面的に否定することはできない。

一方、被請求人は、口頭審理における口頭審理陳述要領書(平成11年12月22日付け)において、本件発明の実施例1の実施の態様として第1図乃至第7図に記載の具体例を提示し、また技術説明書(平成12年3月3日付け)において、前記具体例の第4図を更に詳細且つ明確なものとして記載した新たな図面である新第4図を提示し、また新たに新第4図の構成における現実に規定されているとした3種類の実用上の寸法取りを示す第9図を提示し、さらに、平成12年3月23日に行われた技術説明会の補足技術説明資料(平成12年4月20日付け)において上記新第4図、第9図の補足的な説明を行い、CADシステムにより描かれた第11図乃至第15図を提示し、該具体例に基づき本件発明の実施例1が実施可能であることは容易に理解できるところである旨主張している。

被請求人の上記主張に対し、請求人は、上申書(平成12年5月1日付け提出)において、特に上記技術説明書添付の被請求人が示した上記具体例における新第4図の記載について言及し、以下のような主張をしている。即ち、
(a)本件発明の実施例1の上記具体例における新第4図の態様においては、上記上申書添付の資料1ないし5で示したような状態が考えられるが、このような場合には、フイルムカセットの離脱(取り出し)は不可能もしくは円滑に行うことはできない。
(b)上記上申書添付の資料6の記載から理解できるように、被請求人が示した上記新第4図の態様における第4-10図の状態においては、フイルムカセット離脱時(取り出し時)の偶力の発生がなく半球面部は回転せず、フイルムカセットの離脱(取り出し)は不可能である。
(c)本件発明の実施例1の被請求人が示した上記具体例における新第4図においては、上記上申書添付の資料7と該資料に関連した記載事項から理解できるように、フイルムカセットの装填(装着)及び離脱時に半球面部がカメラ開口部へ当接して傾くことになり、フイルムカセットの装填(装着)及び離脱は円滑に行うことはできない。
と主張している。

そこで、上記主張(a)乃至(c)について検討すると、
(a)の点については、被請求人が提出した当審の第1回目の審尋に対する回答書(平成12年8月4日付け提出)で述べている、一対のピンをその初期位置で所定角度内に位置するように設定すること、即ち、例えば請求人が述べている90°ずつ回転させるフイルム巻上げ機構を備えるものにおいては、その一対の巻上げピンの初期位置を水平方向又はそれに近い角度でなく、例えば、ピン径1.3mm、爪幅1.8mmのときには、水平方向並び状態から反時計方向へ45°(又は135°)だけ回転した位置に設定することにより(上記回答書第22図〜25図参照)、もしくはピンの径及び係合爪部28の爪幅の所定寸法内での設定、例えばピン径0.8mm、爪幅0.8mm等に設定することにより(上記回答書第27図〜29図参照)フイルムカセットの装填及び離脱が円滑になされることが容易に理解できるところであり、請求人が上記添付資料1乃至5を提示して主張した上記の点は、当業者において通常の設計過程で解決可能なことである。
(b)の点については、被請求人が提出した上記回答書で述べているように、フイルムカセットの装填及び離脱時において一対のピンの初期位置が上記角度位置に設定されている場合には、該回答書の第22図〜25図に記載のような状態となり、この状態においては該カセットの装填及び離脱時にフイルムカセットの十字形爪部と一対のピンとの間に図示のような回転力が作用し、これにより該カセットの装填及び離脱は可能であることが容易に理解できるところであり、請求人が添付資料6を提示して主張した上記の点は当業者において通常の設計過程で解決可能なことである。
さらに、(c)の点については、被請求人が「技術説明会(平成12年3月23日)を補足する技術説明」(平成12年4月21日付け提出)の6の(2)項及び参考図(1)(2)において述べているように、鍔部27の長さを適宜選択設定することにより解決することが可能であると解され、請求人が上記添付資料7を提示して主張した上記の点は、当業者において通常の設計過程で解決可能なことである。
ここで、請求人の主張(a)(b)及び(c)に対する被請求人の回答における寸法取り及び位置の設定は通常の設計過程で当業者が普通に採用する設計事項と認められる。
また、請求人は、当審の第2回目の審尋に対する回答書(平成12年12月4日付け提出)において、上記被請求人が示した具体例における新第4図の態様の実施(実現)の可能性について触れ、サンプルモデルを使用した実験を試みると共に、その様子を添付写真1乃至15を用いて説明し、この実験結果からみて、該態様においてはその実施(実現)が不可能なものである旨主張をしている。しかしながら、上記サンプルモデルによる実験は、アルミニウム素材の半球面状部に切削による切りこみを入れて係合爪部を形成し、その係合爪部28の幅を2mmとする等請求人自身が設定した特定の条件下においてなされたものであり、しかも、フイルムカセットの取出しが不可能であるとする技術的理由は明らかでないと自ら述べている。そして、本件発明の実施例1をこのような素材と寸法取りに限定して解すべき格別の理由はなく、この実験の結果が実施不可能であるとしても、これをもって本件発明の実施例1の実施の可能性を否定することはできない。

上述のとおり、被請求人が示した本件発明の実施例1の上記具体例における新第4図の態様に対して主張した請求人指摘の上記諸点は、いずれも該具体例の実施の可能性を否定する理由としては十分なものではない。また、他に該具体例の実施の可能性を否定する格別の理由は見当たらず、該具体例の実施の可能性は、被請求人が提示した上記口頭審理陳述要領書と該書添付の第1図乃至第7図、技術説明書と該書添付の新第4図、第9図、技術説明会を補足する技術説明資料と該資料に添付の第11図乃至第15図及び参考図並びに当審の第1回目の審尋に対する被請求人提示の回答書等から十分に理解できるところであり、しかも、該具体例は本件発明の実施例1の記載事項を当業者が普通に採用する設計事項により具体化したものである。この点は、請求人が該具体例の存在について格別の異論を唱えていない。
従って、請求人が示した参考図1乃至6に記載の具体例、及び被請求人が示した具体例に対して指摘した諸点(a)(b)(c)は、発明の詳細な説明が本件発明の実施例1を当業者が容易に実施できる程度に記載されていないことの根拠として採用できない。
そして、上記被請求人が示した具体例の実施の可能性から本件発明の実施例1の実施の可能性は容易に理解することができるところであり、結局、本件発明の明細書及び図面における実施例1の記載は、該実施例1を当業者が容易に実施し得る程度にその技術事項を実質的に開示したものであるということができ、また、このことから、本件発明の実施例である上記実施例1は、実質的に本件発明の目的を達成するために当業者にとって必要な構成を備えたものであることは明らかである。

次に、第6図に記載された本件発明の実施例2について検討する。
被請求人は、上記口頭審理陳述要領書において、本件発明の実施例2に対応する態様として第8図に記載の具体例を示し、また上記技術説明書において、上記実施例2のより具体的で詳細且つ明確な態様として第10図に記載の具体例を提示すると共に、該具体例を具現化したサンプルモデルの実物と該サンプルモデルの実物を撮影した写真及びフイルムカセットの装填(挿入)、離脱状況を説明する写真(NO.1乃至NO.20)を提示して、さらに、技術説明会において、ビデオを使用して該サンプルモデルの実物におけるフイルムカセットの装填、離脱状況を説明し、該具体例に基づき上記実施例2の実施の可能性は容易に理解できるところである旨主張している。

被請求人の上記主張に対し、請求人は、本件発明の実施例2は、その細部の構成が不明瞭であり、特に係合爪8a及び弾性変形部材の構成は不明瞭であり、実施例2は発明として完成されたものでなくその実施は不可能なものであると述べ、また、被請求人が上記第10図に記載の具体例及びそのサンプルモデルの実物に基づいて主張した上記実施例2の実施の可能性に対し、上記上申書において、このような実施の態様では「フイルム巻き上げ時の負荷を考えると確実なフイルムの巻き上げは困難である」と述べ、また、当審の第2回目の審尋に対する回答書(平成12年12月4日付け)において「一方、フイルムカセットをカメラから取り出すとき、フイルム巻上げ軸は停止した状態で、フイルムカセットの方が動く。このときフイルムカセットは横方向に引き出される。フイルム巻上げ軸も弾性変形部材も上下しないから、カメラ側のフイルム巻上げ軸の係合爪が半球状の弾性変形部材に食い込んだままの状態で引き出されるわけである。このような状態から無理にフイルムカセットを取り出そうとすれば、カメラのフイルム巻き上げ軸が曲がるか、或いは半球状の弾性変形部材の破壊が生じるか、フイルムカセットの着脱が容易でないことが、技術常識を有する当業者であれば予測できよう。」等と述べ、上記実施例2は実施不可能なものであると主張している。

そこで、上記主張について検討すると、係合爪部8a、弾性変形部材の構成の細部等は本件特許明細書の記載(本件の公告公報第6欄第26〜31行及び第6図)からは不明瞭なものであり、また、フイルムカセットの装填(挿入)、離脱時の状態も明確に示されていない。しかしながら、実施例2の実施に当って必要な、弾性変形部材の材質、寸法は、巻上げ軸の係合爪部の材質、寸法に応じて設計段階で設定すべきものである。そして、被請求人は、巻上げ軸の係合爪部の材質、寸法に対して、弾性変形部材の材質を発泡ゴム製とし、その寸法を適宜寸法とすることにより、該実施例2をより具体的で詳細且つ明確化した上記第10図の記載とそのサンプルモデルの実物を提示し、平成12年3月23の技術説明会の実演において、前記サンプルモデルは、平成12年3月3日付け提示の技術説明書添付の写真13から20に示されるように、カセットの挿入、フィルムの巻き取り及びカセットの離脱が行えるものであることを当審は確認した。確かに、該サンプルモデルの実物は製品化するに当って改善の余地を残すものと思われるが、この点は本件の明細書の発明の詳細な説明において、当業者が実施例2を容易に実施できる程度に技術事項が開示されていないことの根拠とはならない。結局、上記第10図の記載とサンプルモデルの実物により示された具体例の実施の可能性は当業者において容易に理解することができるところであり、しかも、該具体例は本件発明の実施例2を当業者が普通に採用する設計事項により具体化したものである。この点は請求人が該具体例の存在について格別異論を唱えていない。
そして、該具体例における実施の可能性から本件発明の実施例2の実施の可能性は十分に理解できるところであり、実施例2は本件明細書中の記載においてその細部構成の明確性及び具体性において十分なものではないとしても、結局、本件発明の明細書及び図面における実施例2の記載事項から、該実施例2を当業者が容易に実施できると認められる。また、このことから、本件発明の1実施例である上記実施例2は、実質的に本件発明の目的を達成するために当業者にとって必要な構成を備えてたものであることも明らかである。

以上のとおりであり、本件発明の明細書及び図面には、本件発明の実施例として実施例1及び実施例2が開示されており、該実施例1及び2をそれぞれ、当業者が普通に採用する設計事項を以てすれば当業者が容易に実施し得る程度にその技術事項の開示がなされていると認められる。結局、上記実施例1及び2に裏付けされた本件発明は、実質的に当業者が容易に実施し得る程度に該発明の技術事項が明細書及び図面に記載されたものであるから特許法第36条第3項の規定に違反するものではなく、また、本件発明はその目的を達成するために当業者にとって必要な構成を実質的に備え、その構成により明細書記載の目的を達成することができるので、同法第29条第1項柱書きの産業上利用することができる発明に該当するものである。
よって、請求人が主張する上記イ、ロの理由によっては本件発明の特許を無効とすることはできない。

(2)請求人主張の上記ハの理由についての検討
請求人の主張する上記ハの具体的な理由は、要するに次のようなことである。
a、特許請求の範囲の第1項の「フイルム巻上げ軸と弾性的に係合する半球面部を設けた係合部材」は、その係合部材の構成が明瞭でなく、該記載においては、フイルム巻上げ軸に係合するのは係合部材なのか、半球面部なのか明確でなく、また、フイルム巻上げ軸と半球面部を設けた係合部材とが弾性的に係合するとは技術的にどのようなことであるのか不明瞭である。
b、特許請求の範囲の第2項の「係合部材は、係合爪部とこの係合爪部をカセット本体の上面より上方へ突出する方向へ付勢する付勢ばねとからなる」は、特許請求の範囲の第1項の「フイルム巻上げ軸と弾性的に係合する半球面部を設けた係合部材」の構成を限定したものであり、してみれば、係合部材は「係合爪部とこの係合爪部をカセット本体の上面より上方へ突出する方向へ付勢する付勢ばねとにより構成された」ものであるから、係合爪部と付勢ばねとから構成された係合部材のどこかに半球面部が設けられていなければならないものであるが、実施例にはこれに対応する構成は開示されていないし、少なくとも、どのような位置関係にあるか不明瞭である。
c、特許請求の範囲の第3項の「係合部材は、フイルム巻取り部材と一体的に設けられたカセット本体の上面に突設された弾性変形部材である」は、特許請求の範囲の第1項の「係合部材」の構成を限定したものであり、実施例2として第6図に示されたものがこれに対応する。しかしながら、上記記載の構成は、本件発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでなく不備である。
(なお、この主張は、その主張内容が不正確であるが、その趣旨を勘案して上記のように読み替えて認定した。 そして、この主張における、第6図に記載の実施例2におけるゴムあるいは軟質合成樹脂変形部材とフイルム巻き上げ軸の係合爪との係合及びその解除が明らかにされておらず、本件発明の目的を達成するための必要な構成を備えたものではない旨の主張は、上述の主張理由ロに該当する主張である。)

そこで、上記の点について検討する。
先ず、aの点について検討すると、特許請求の範囲の第1項の記載において、フイルム巻上げ軸に係合するのは、該巻上げ軸と係合する部分である半球面部を設けた係合部材であることは明らかであり、そして、該係合部材は、その半球面部により弾性的(実施例1及び2における上方へ付勢する付勢ばね及び弾性変形部材等による。)にフイルム巻上げ軸に係合することは明らかであるから、請求人が指摘する上記不備は存在しない。
bの点について検討すると、特許請求の範囲の第2項に記載された本件発明の実施態様は、本件発明(特許請求の範囲の第1項に記載された発明)の「係合部材」の構成を限定したものであり、「係合部材」が半球面部を備えるものである点は該第1項に明記されるところであり、「係合部材」はその半球面部によりフイルム巻上げ軸に係合するのであるから、当該実施態様の「係合爪部」が半球面部を備える点は明らかであり、この点が本件明細書の実施例1として示されるから請求人が指摘する上記不備は存在しない。
cの点について検討すると、特許請求の範囲の第3項に記載された本件発明の実施態様の「係合部材」が明細書及び図面に記載された実施例2のゴムあるいは軟質合成樹脂からなる弾性変形部材に対応することは明らかであり、この弾性変形部材からなる係合部材のカセット本体上面に突設される半球面部がカメラのフイルム巻上げ軸と弾性的に係合する点は明確であり、当該実施態様により特定される構成は明確なものであるから、請求人が指摘する上記不備は存在しない。

したがって、本件特許請求の範囲の第1項乃至第3項の記載は、本件発明及びその実施態様の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであり、特許法第36条第4項の規定に違反するものではなく、請求人が主張する上記ハの理由によっては本件特許を無効とすることはできない。

5、むすび
上述したようなことであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
 
審理終結日 2001-01-22 
結審通知日 2001-02-02 
審決日 2001-02-15 
出願番号 特願昭58-20302
審決分類 P 1 112・ 531- Y (G03B)
P 1 112・ 1- Y (G03B)
P 1 112・ 532- Y (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川路 篤上田 忠  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 高橋 三成
綿貫 章
登録日 1993-05-20 
登録番号 特許第1759834号(P1759834)
発明の名称 フイルムカセツト  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 鈴木 修  
代理人 岡本 啓三  
代理人 社本 一夫  
代理人 佐久間 滋  

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