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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1035280
審判番号 審判1998-20261  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-12-21 
確定日 2001-04-24 
事件の表示 平成 5年特許願第503595号「懸濁された固体支持体の存在下でのシグナル検出アッセイ」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 2月18日国際公開、WO93/03379、平成 6年10月27日国内公表、特表平 6-509646、請求項の数:4]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、1992年7月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1991年7月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求の範囲第1項に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成7年7月27日付け、平成9年5月12日付け、平成10年1月12日付けおよび平成12年7月4日付け手続補正書で補正された明細書、請求の範囲および図面の記載からみて、その請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「1.a)固体支持体上に固定された捕獲試薬を被検体含有検体と反応させて固定捕獲試薬-被検体の複合体を形成し;
a1)その固定化捕獲試薬-被検体の複合体からいずれもの未反応検体を分離し;
b)その固定化捕獲試薬-被検体の複合体を検出自在に標識された試薬とインキュべートし;次いで
c)段階(b)の生成物を2つの光波長で光度測定的に検出および/または定量し、その際検出および/または定量が懸濁された安定な固体支持体の存在下に行われ、標識の吸収ピークまたはその近傍での第一波長の読みおよび該標識の吸収ピークから離れた第二基準波長での読みを測定して成る
ことを特徴とする、懸濁された固体支持体の存在下に検体中の被検体の存在を検出または定量するためのアッセイ。」

2.拒絶理由の概要
これに対して、当審で通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

「引用先願 特願平1-336070号出願(特開平3-195953号公報参照)
出願 平成1(1989)年12月25日
公開 平成3(1991)年8月27日
本願の請求項1〜請求項4の発明は、本願優先日前の特許出願であって本願優先日後に出願公開がされた上記の先願の出願当初の明細書又は図面に記載された発明と同一である。
そして、上記先願の発明者と本願の発明者とが同一ではなく、本願出願時の出願人(イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー)と上記先願の出願人とが同一でもない。
したがって、本願発明は、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない。」

3.先願明細書の記載
上記先願の出願当初の明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。
(Sa) 光学的反応測定法(特許請求の範囲第1項)
「(1)微粒子上又は微粒子共存下での反応を光学的に追跡する光学的反応測定法において、反応由来の光学的成分と微粒子散乱由来の光学的成分を同時に測定し、前者の光学的成分から後者の光学的成分を差引くことにより微粒子共存下で反応を光学的に測定することを特徴とする光学的反応測定法。」

(Sb)産業上の利用分野(先願公開公報1頁右下欄4行〜7行)
「 (産業上の利用分野)
本発明は、免疫測定や生化学分析等で反応によって最終的に得られた物を光学的に測定する光学的反応測定法に関する。」

(Sc) 従来技術(先願公開公報1頁右下欄9行〜16行)
「 最近EIA(エンザイムイムノアッセイ)法によって免疫測定を行う場合や生化学反応を行う場合、反応を促進するために分離を目的とした抗体又は酵素を担体である微粒子上に固定化することが行われている。第4図(a),(b)はこのような各反応を示すもので、第4図(a)は固定化酵素反応、第4図(b)は免疫測定反応を示すものである。」

(Sd) 第4図(a)固定化酵素反応と同(b)免疫測定反応(先願公開公報1頁右下欄17行〜第2頁左上欄8行)
「 第4図(a)では先ず磁性材料等の微粒子担体1上に酵素2を固定した後、基質3を反応させることにより酵素反応で生じた分解産物(プロダクト)4を光学的に測定して抗原、酵素、基質等の定量を行うようにしたものである。また第4図(b)は微粒子担体1上に抗体5を固定した後、抗原6を反応させさらに酵素標識抗体7を反応させ、続いて基質3を反応させることにより生じたプロダクト4を光学的に測定して同様な定量を行うようにしたものである。この光学的測定は例えは吸光度測定,蛍光度測定、発光度測定等によって行うことができる。」

そして、第4図(a)、(b)には、微粒子1が円で、酵素2が切り欠き小円で、基質3が対角線を有する四角形で、酵素と基質の反応により生じたプロダクト4が周囲を多数の点で囲まれた三角形で、抗体5がY字形で、抗原6が点で、酵素標識抗体がY字形と酵素2が結合した形で、それぞれ描かれており、第4図(b)では微粒子担体1上に抗体5が付いたものから始まる、上記の3つの反応段階が、それぞれ矢印の上方に反応相手である抗原6、酵素標識抗体7および基質3を描いて図示されている。

(Se) 従来の光学的反応測定法(先願公開公報2頁左上欄9行〜17行)
「 ここで各反応は微粒子存在下で進行するが、基質3又はプロダクト4を光学的に測定する場合、微粒子担体1によって光の散乱が生じるという問題がある。従って従来においてはこの散乱の影響を除くために、遠心分譲,濾過,磁力吸着等の対策を施して微粒子を除いた状態で測定が行われていた。これによれば微粒子担体が除かれることにより、光学的に反応を測定する場合清澄な状態で測定を行うことができる。」

(Sf) 発明が解決しようとする課題(先願公開公報2頁左上欄18行〜右上欄11行)
「(発明が解決しようとする課題)
ところで従来の光学的反応測定法では、微粒子を除くための手段及び時間を余分に必要とすると共に、連続的な反応経過を追求することができないので測定効率が低下するという問題がある。例えばエンド法のように反応経過の一点を測定する場合は可能であるが、レイト法のように連続的な反応経過を測定する場合には微粒子が残ってないため適用できないので用途が制約されることになる。
本発明は以上のような問題に対処してなされたもので、余分な手段及び時間を不要にすると共に測定用途を拡大することができる光学的反応測定法を提供することを目的とするものである。」

(Sg) 作用(先願公開公報2頁左下欄1行〜7行)
「(作用)
反応由来の光学的成分と微粒子散乱由来の光学的成分を例えば異なる波長によって同時に測定し、前者の光学的成分から後者の光学的成分を差引くことにより反応を測定する。これによって微粒子の影響を除去して反応に関係する物質由来の光学的変化を追跡することができる。」

(Sh) 実験例(先願公開公報2頁右下欄8行〜3頁左上欄1行)
「2.実験例
前記POD液を450μl用い、5分間インキュベートした後、基質1350μl+磁性微粒子450lの計1800μlを前記POD液に加える。続いてこの混合液を30℃に保存し撹拌した状態で、5分間タイムコ-スに移して異なる2波長例えば650nm及び750nmで吸光度を測定する。第1図はこのような測定における吸光度の波長依存性を示しており、波形の異なる波長におけるピーク値とベース値との各吸光度を測定し両者の差を求めることにより、第2図のように吸光度依存性を求めることができる。例えばピーク値を650nmの波長で測定し、ベース値を750nmの波長で測定する。」

そして、第1図には、上記記載に対応した、横軸を波長(nm)、縦軸を吸光度とし、650nmのあたりに単一のピーク値を有し、その後急に落下して700nm近傍で吸光度0のベースラインと交差する吸光度スペクトルが記載されている。

4.先願明細書の記載事項と本願発明との対応関係
上記の先願明細書の記載事項と本願発明との対応関係は、次のとおりである。
(1) 工程a)について
先願明細書の「微粒子担体1」、「抗体5」および「抗原6」は、本願発明の「固体支持体」、「捕獲試薬」および「被検体」に、それぞれ相当する。
そして、先願明細書には、「微粒子担体1上に固定された抗体5を固定した後、抗原6を反応」させることが記載されており(前記(Sd)参照)、これにより1-5-6の複合体が形成されることが図示されている(第4図(b)参照)。この1-5-6複合体は、「固定捕獲試薬-被検体」に相当する。

(2) 工程b)について
先願明細書には、この1-5-6複合体に「さらに酵素標識抗体7を反応させ」ることが記載されている(前記(Sd)参照)し、その反応の際、反応混合物を所定反応温度に反応時間の間保持する、すなわち「インキュベート」することは当然のことである。

(3) 工程c)について
(3-1) 酵素標識と基質との反応と光度測定
先願明細書の第4図(b)に記載された免疫測定は、 酵素を標識とする免疫測定、すなわちEIA(エンザイムイムノアッセイ)法のうちのサンドイッチイムノアッセイの免疫測定反応を示すものである。そして、標識の酵素と「続いて基質3を反応させることにより生じたプロダクト4を光学的に測定して」定量することが記載されている(前記(Sc)、(Sd)参照)。
EIA法においては、被検出体を検出および/または測定するために被検出体の数を直接数える代わりに、被検出体と結合して生成した結合生成物の酵素の数を数えようとするのが測定原理であるが、酵素分子そのものは数えることができないため、光学的測定をおこなう際は、標識である酵素と基質との反応により得られた生成物を光学的に測定するものである。(もし必要であれば、石川榮治外2名編「酵素免疫測定法(第2版)」1982年12月15日、株式会社医学書院発行(以下、単に「参考図書」という。)、21頁〜23頁『A.EIAにおける酵素の位置づけ』〜『C.酵素活性測定にどのような方法があるか』の項参照)。
そうすると、先願明細書の前記(Sc)、(Sd)における標識の酵素と「続いて基質3を反応させることにより生じたプロダクト4を光学的に測定して」定量することは、本願発明の「段階(b)の生成物を光度測定的に検出および/または定量」することに相当する。

(3-2)また、先願明細書には、「反応由来の光学的成分と微粒子散乱由来の光学的成分を同時に測定」することが記載されており(前記(Sa)参照)、先願明細書のPOD酵素と基質の生化学反応の例示によれば、前記「反応由来の光学的成分」は、吸光度650nmのピーク値であり、前記「微粒子散乱由来の光学的成分」は、吸光度750nmのベース値である(前記(Sg)参照)。
そうすると、生化学反応のように具体例としての記載はないものの、EIAも、光学測定する段階では固定化酵素反応に他ならず、前記(Sd)にも記載の如く生化学反応(固定化酵素反応)と同様な定量を行うようにしたものであるから、 EIA法による免疫測定においても、測定すべき「反応由来の光学的成分」は、同様に酵素と基質の反応による「吸光度のピーク値」であり、これは測定すべき「酵素標識の吸収ピークまたはその近傍での第一波長での読み」に相当し、また「微粒子散乱由来の光学的成分」は「吸光度のベース値」であり、これは「該酵素標識の吸収ピークから離れた第二基準波長での読み」に相当するものと認められる。。

そして、これらの2つの波長での光度測定は、「微粒子上・・微粒子共存下で反応を光学的に測定することを特徴とする光学的反応測定法。」、「この混合液を30℃に保存し撹拌した状態で、5分間タイムコ-スに移して異なる2波長例えば650nm及び750nmで吸光度を測定する。」(前記(Sa)及び(Sh)参照)とあるように、懸濁された微粒子共存下に行われるものである

5.本願発明と先願明細書記載の発明との一致点
上記の対応関係によれば、本願発明と先願明細書に記載された発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「 a)固体支持体上に固定された捕獲試薬を被検体含有検体と反応させて固定捕獲試薬-被検体の複合体を形成し;
b)その固定化捕獲試薬-被検体の複合体を検出自在に標識された試薬とインキュべートし;次いで
c)段階(b)の生成物を2つの光波長で光度測定的に検出および/または定量し、その際検出および/または定量が懸濁された安定な固体支持体の存在下に行われ、標識の吸収ピークまたはその近傍での第一波長の読みおよび該標識の吸収ピークから離れた第二基準波長での読みを測定して成る
ことを特徴とする、懸濁された固体支持体の存在下に検体中の被検体の存在を検出または定量するためのアッセイ」
である点。
6.相違点
そして、次の点で一応相違する。
(相違点)
本願発明では、上記a)工程とb)工程との間に、下記a1)工程を有するのに対し、先願明細書にはこの工程が記載されていない点。
「 a1)その固定化捕獲試薬-被検体の複合体からいずれもの未反応検体を分離し;」

7.相違点についての検討
そこで、この相違点について以下検討する。
前記のように、先願明細書の第4図(b)は、EIA(エンザイムイムノアッセイ)法のうちのサンドイッチ免疫測定における免疫測定反応を示すものである(前記(Sc)、(Sd)参照)。
EIA(エンザイムイムノアッセイ)法のサンドイッチ免疫測定においては、固相化抗体と被検体抗原との反応により、抗原が固相化抗体と結合した後、上清を除くのが普通である(もし必要であれば、前掲参考図書、41頁〜43頁『サンドイッチ法』参照)。「上清を除く」ことは、すなわち、「固定化捕獲試薬-被検体の複合体からいずれもの未反応検体を分離」することを意味する。
そうすると、先願明細書の第4図(b)の免疫測定反応を用いるサンドイッチ免疫測定法においても、1-5-6複合体から未反応検体を分離することは、普通のことである。
そうすると、このa)工程とb)工程との間にa1)工程を挿入する点は、明記されていない事項ではあるが、先願明細書に記載されているに等しい事項である。

8.請求人の主張についての検討
イ)請求人は、意見書において、下記の主張をしている。
主張(1): 引用発明の適用は、先願図面第4図の(a)の固定化酵素反応に関する場合のみしか記載されていないし、先願図面第4図(b)の免疫測定反応の場合に適用することは記載されていない。
主張(2): 本願発明は、アッセイ系で生ずる凝集(被検体と関連づけられた標識等の存在量に基づく)の影響を修正するものである。
そこで、これらの主張について、以下検討する。

ロ)主張(1)について
先願明細書の記載によれば、先願明細書に記載の発明は、生化学分析だけでなく、免疫測定で反応によって最終的に得られた物を光学的に測定する光学的反応測定方法に関するものである(前記(Sb)参照)。また、先願明細書の第4図(a)の「固定化酵素反応」及び同(b)の「免疫測定反応」は、いずれも、従来から行われている光学的反応測定法の反応を示すものであり(前記(Sc)参照)、各反応は微粒子存在下で進行するが、基質3又はプロダクト4を光学的に測定する場合、微粒子担体1によって光の散乱が生じるという共通する問題がある(前記(Se)参照)。そして、先願発明は、これらの従来技術が共通する問題点を解決するものである(前記(Sf)参照)。
そうすると、先願発明は、先願明細書の第4図(b)の免疫測定反応の場合に適用することも記載されているというべきである。

ハ) 主張(2)について
本願の請求の範囲には、「アッセイ系で生ずる凝集(被検体と関連づけられた標識等の存在量に基づく)の影響を修正する」ことは記載されていない。 そして、本願明細書にも、本願発明が「アッセイ系で生ずる凝集(被検体と関連づけられた標識等の存在量に基づく)の影響を修正する」ことは記載されていない。
そうすると、上記の主張(2)は、明細書の記載事項に基づいた主張ではないし、また、そのような発明の効果についての主張は、本願発明の構成を特定する技術的事項として請求の範囲の記載に現れていない以上、本願発明が先願明細書に記載された発明と同一であるとの判断を左右するものでもない。

9.むすび
以上検討したところによれば、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-09-29 
結審通知日 2000-10-13 
審決日 2000-11-30 
出願番号 特願平5-503595
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 伊坪 公一
矢沢 清純
発明の名称 懸濁された固体支持体の存在下でのシグナル検出アッセイ  
代理人 高木 千嘉  
代理人 西村 公佑  

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