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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1035485
異議申立番号 異議1999-72504  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-21 
確定日 2001-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第2849826号「害虫防除用組成物」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2849826号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2849826号に係る発明についての出願は、平成1年7月11日に特許出願され、平成10年11月13日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人大日本除蟲菊株式会社、同渡辺和浩、同日本香料工業会、同須賀京子及び同東毅より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年3月7日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、訂正拒絶理由通知に対して手続補正書が提出されたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正事項bの「特許請求の範囲の請求項2の7行目『テルペン系化合物、芳香族化合物、ヒノキ科の植物体の精油』を、特許請求の範囲の減縮を目的として、『テルペン系化合物、ヒノキ科の植物体の精油』と訂正する。」とあるのを、「特許明細書の特許請求の範囲の、新しく請求項1となる元の請求項2の『揮散させて使用する』を、特許請求の範囲の減縮を目的として『揮散させて使用し、吸血を回避できる』と訂正し、同じく、元の請求項2の『テルペン系化合物、芳香族化合物、ヒノキ科の植物体の精油』を、特許請求の範囲の減縮を目的として、『テルペン系化合物、ヒノキ科の植物体の精油』と訂正する。」とする補正、および、訂正事項cにおける、訂正事項bにより補正される特許請求の範囲の記載に対応する発明の詳細な説明の記載の同様の補正を求めるものである。
しかし、上記補正に含まれる「揮散させて使用する」を「揮散させて使用し、吸血を回避できる」とする訂正事項の補正は、当初の訂正事項に「吸血を回避できる」という限定を加えるもので、訂正事項を変更するものであるから、訂正請求書の要旨の変更に該当し、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。

2.訂正明細書の請求項1に係る発明
平成12年3月7日付けで提出された訂正明細書の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「下記第1の高蒸気圧の害虫防除成分の少なくとも1種と下記第2の高蒸気圧の害虫防除成分の少なくとも1種との混合物を有効成分として含有し、該混合物を揮散させて使用することを特徴とする害虫防除用組成物。
(第1の高蒸気圧の害虫防除成分)
第1の高蒸気圧の害虫防除成分として、高蒸気圧のピレスロイド系化合物。
(第2の高蒸気圧の害虫防除成分)
テルペン類の化合物、ヒノキ科の植物体の精油、マツ科の植物体の精油、スギ科の植物体の精油、クスノキ科の植物体の精油、ミカン科の植物体の精油、フトモモ科の植物体の精油、シソ科の植物体の精油、又はヒノキ科、マツ科、スギ科の植物体の抽出液。」
(以下、「訂正発明」という。)

3.引用刊行物記載の発明
訂正発明に対し、当審が訂正拒絶理由通知において示した刊行物イ(特開昭63-222104号公報)、刊行物ロ(特開昭63-188602号公報)、刊行物ハ(特開昭61-243007号公報)にはそれぞれ以下の事項が記載されている。
(1)刊行物イには、「(A)常温揮散性を有する液状の防殺虫薬剤、(B)・・・N-アシルアミノ酸誘導体系ゲル化剤、および(C)炭化水素系溶剤を含有する組成物からゲル化してなるゲル型防虫剤。」(特許請求の範囲第1項)であって、「使用される防殺虫剤は常温揮散性を有するものであり、例えば(R、S)-1-エチニル-2-メチルペント-2-エニル(1R)-シス,トランスクリサンテマート(以下、エムペンスリンという)、・・・等のピレスロイド系殺虫剤、・・・サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン等の防虫性香料、ケイ皮アルデヒド、ベンズアルデヒド等の防虫・防黴剤、などが挙げられ、上記防虫性薬剤を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することできる。」(第3頁右上欄1行〜左下欄6行)とされるものが記載されている。
そして、実施例10として、エンペンスリンとl-カルボンを混合した組成物が記載されている(第5頁表-3)。
また、このゲル型殺虫剤は、「長期間に亘って安定して防殺虫効果を発揮すると共に、薬剤揮散完了後に残渣が殆んどなく、従って終点が明確に判別できる」(第2頁左下欄第2〜5行)ものであること、および、ゲル状防虫剤の重量減少率とエンペンスリン残量の期間経過による変化(第4頁表-1)が記載されている。
(2)刊行物ロには、「(A)常温揮散性の防殺虫剤3重量%以下、(B)1気圧下で沸点が30℃以上100℃以下である揮散性溶剤10〜25重量%、及び(C)噴射剤からなる衣料用防虫エアゾール剤。」(特許請求の範囲)が記載されている。
そして、「本発明で用いる常温揮散性の防殺虫剤としては、例えば・・・エムペンスリン等のピレスロイド系殺虫剤、・・・サフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン、リナロール等の防虫性香料などがあり、これら化合物を単独で又は混合して用いることできる。」(第2頁左下欄14行〜右下欄8行)とされ、実施例16には、エムペンスリンとリナロールの混合物を用いたものが記載されている(第5頁表-2)。
また、このエアゾール剤は、「常温揮散性の防殺虫剤を使用しているため、薬剤蒸気が衣服の内部にまで浸透し、衣料害虫は純粋な薬剤蒸気に触れ、あるいは付着薬剤を衣服と一緒に食するため、優れた防殺虫効果が得られる。」(第7頁右下欄第16〜20行)と記載されている。
(3)刊行物ハには、「ピレスロイド系殺虫剤とアルコール又は(及び)シネオールの混合物をベンジリデン-ソルビトールで膠化させてあることを特徴とする膠化殺虫剤。」(特許請求の範囲第1項)が記載されている。
そして、ピレスロイド系化合物として、エムペンスリンが挙げられており(同第4項)、実施例8、9として、エムペンスリンとシネオールを用いた膠化殺虫剤が記載されている(第4頁右上欄第7行〜同頁左下欄第9頁)。
また、「ピレスロイド系殺虫剤とともにアルコールやシネオールを使用するのは、アルコールやシネオールがベンジリデン-ソルビトールにより膠化する性質を利用するとともに、アルコールやシネオールが揮散するときにピレスロイド系殺虫剤も同時に伴なって揮散し、殺虫効果を発揮するからである。」(第2頁左下欄末行〜同頁右下欄第6行)と記載されている。

4.対比・判断
(1)刊行物イとの対比
刊行物イにおけるl-カルボンは、高蒸気圧のテルペン類の化合物で防虫性のものであるから[例えば、赤星亮一著「産業化学シリーズ 香料の化学」(昭和58年9月16日、大日本図書発行)、第65頁参照]、訂正発明における第2の高蒸気圧の害虫防除成分に相当する。また、該刊行物におけるエムペンスリン(エンペンスリンとも呼ばれる。)は、高蒸気圧のピレスロイド系化合物であり、第1の高蒸気圧の害虫防除成分に相当する。また、刊行物イにおけるゲル型防虫剤は、長期間にわたる薬剤揮散完了後に残渣が殆んどなくなるものであるから、有効成分を揮散させて使用するものである。
したがって、訂正発明と刊行物イに記載の発明とは、害虫防除用組成物の成分に差異がなく、また、それを揮散させて使用する点にも差異がないので、両者は同一である。
(2)刊行物ロとの対比
刊行物ロにおけるリナロールは、訂正発明における第2の高蒸気圧の害虫防除成分とされるテルペン類の化合物に含まれるものであり、該刊行物におけるエムペンスリンは、高蒸気圧のピレスロイド系化合物で、第1の高蒸気圧の害虫防除成分に相当する。また、刊行物ロにおけるエアゾール剤は、薬剤蒸気が衣服の内部にまで浸透し、衣料害虫は純粋な薬剤蒸気に触れることにより、防殺虫効果を得るものであり、該エアゾール剤が有効成分の混合物を揮散させて使用するものであることは自明である。
訂正発明と刊行物ロ記載の発明とは、いずれも第1の高蒸気圧の害虫防除成分と第2の高蒸気圧の害虫防除成分との混合物を有効成分として含有し、該混合物を揮散させて使用する害虫防除用組成物に係るものであり、したがって、両者は成分組成及び揮散による使用の点において差異が見出せず、同一である。
(3)刊行物ハとの対比
刊行物ハの膠化殺虫剤は、シネオールが揮散するときにピレスロイド系殺虫剤も同時に伴なって揮散し、殺虫効果を発揮するものである。そして、シネオールは、訂正発明における第2の高蒸気圧の害虫防除成分とされるテルペン類の化合物に含まれるものであるから、有効成分として作用するものである。また、ピレスロイド系殺虫剤としては、第1の高蒸気圧の害虫防除成分に相当するエムペンスリンが使用されている。
訂正発明と刊行物ハ記載の発明とは、いずれも第1の高蒸気圧の害虫防除成分と第2の高蒸気圧の害虫防除成分との混合物を有効成分として含有し、該混合物を揮散させて使用する害虫防除用組成物に係るものであり、したがって、両者は成分組成及び揮散による使用の点において差異が見出せず、同一である。
(4)まとめ
上記のように、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物イ、ロないしハに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に違反するので、当該訂正は認められない。

III.特許異議申立てについて
1.本件発明
本件特許第2849826号の請求項1、2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】異なる2種以上の高蒸気圧の害虫防除成分の混合物を有効成分として含有し、該混合物を揮散させて使用することを特徴とする害虫防除用組成物。
【請求項2】前記の害虫防除成分の混合物が、下記第1の高蒸気圧の害虫防除成分の少なくとも1種と下記第2の高蒸気圧の害虫防除成分の少なくとも1種との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用組成物。
(第1の高蒸気圧の害虫防除成分)
第1の高蒸気圧の害虫防除成分として、高蒸気圧のピレスロイド系化合物。
(第2の高蒸気圧の害虫防除成分)
テルペン類の化合物、芳香族化合物、ヒノキ科の植物体の精油、マツ科の植物体の精油、スギ科の植物体の精油、クスノキ科の植物体の精油、ミカン科の植物体の精油、フトモモ科の植物体の精油、シソ科の植物体の精油、又はヒノキ科、マツ科、スギ科の植物体の抽出液。」
(以下、それぞれ「本件第1発明」、「本件第2発明」という。)

2.特許法第29条第1項違反について
当審での平成11年12月9日付け取消理由通知において引用した刊行物1、2、5はそれぞれ上記刊行物イ、ロ、ハと同じものである。そして、刊行物イ、ロ、ハには、上記II.3.(1)、(2)及び(3)に記載のとおりの事項が記載されている。
(1)本件第1発明について
刊行物イにおけるl-カルボンは高蒸気圧のテルペン類の化合物で防虫性のものであり、エンペンスリンは高蒸気圧のピレスロイド系化合物であるから、それぞれ本件第1発明の高蒸気圧の害虫防除成分に包含される。そして、刊行物イにおいて、l-カルボンとエンペンスリンとの混合物は揮散させて使用するものである。したがって、本件第1発明と刊行物イに記載の発明とは成分組成及び揮散による使用の点において差異がない。
また、刊行物ロにおけるリナロールは、高蒸気圧の害虫防除成分とされるテルペン類の化合物に含まれるものであり、高蒸気圧の害虫防除成分であるエンペンスリンとの混合物として揮散させて使用されるものであるから、本件第1発明と刊行物ロに記載の発明とは成分組成及び揮散による使用の点において差異がない。さらに、刊行物ハにおけるシネオールも、高蒸気圧の害虫防除成分とされるテルペン類の化合物に含まれるもので、高蒸気圧の害虫防除成分であるエンペンスリンとの混合物として揮散させて使用されるものであるから、本件第1発明と刊行物ハに記載の発明とは成分組成及び揮散による使用の点において差異がない。
したがって、本件第1発明は刊行物イ、ロ又はハに記載された発明と同一である。
(2)本件第2発明について
本件第2発明は、第2の高蒸気圧の害虫防除成分として芳香族化合物が含まれない以外実質的に訂正発明と構成が同一である。
そして、本件第2発明では、第1の高蒸気圧の害虫防除成分にエンペンスリンが、第2の高蒸気圧の害虫防除成分に、l-カルボン、リナロール、シネオール等のテルペン類の化合物が含まれているとしているのであるから、上記II.4.(1)、(2)及び(3)の記載と同様の理由により、本件第2発明は刊行物イ、ロ又はハに記載された発明である。
(3)まとめ
上記のように、本件第1発明、本件第2発明は、刊行物イ、ロ又はハに記載された発明に該当するので、本件第1発明、本件第2発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件第1発明、本件第2発明についての特許は、特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-14 
出願番号 特願平1-178524
審決分類 P 1 651・ 113- ZB (A01N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 恵理子田中 耕一郎  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 山田 泰之
後藤 圭次
登録日 1998-11-13 
登録番号 特許第2849826号(P2849826)
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 害虫防除用組成物  
代理人 社本 一夫  
代理人 添田 全一  
代理人 萩野 平  
代理人 松本 謙  
代理人 高松 猛  
代理人 市川 利光  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  
代理人 牧野 利秋  

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