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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200135480 審決 特許
審判199835415 審決 特許
異議200172607 審決 特許
無効200235443 審決 特許
審判199513939 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16J
管理番号 1035606
異議申立番号 異議1999-73920  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-10-18 
確定日 2001-02-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第2884078号「パッキン」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2884078号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第2884078号に係る発明についての出願は、平成2年2月8日を国際出願日とした特願平2-503018号の一部を平成9年9月22日に新たな特許出願としたものであって、平成11年2月12日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人・ニチアス株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月18日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、訂正拒絶理由通知に対して、その指定期間内である平成12年9月11日に手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。

II.訂正の適否について
1.訂正請求書の補正の適否について
特許権者は、訂正請求書に添付した全文訂正明細書中の特許請求の範囲の記載について、請求項5乃至8を削除すると共に、請求項1乃至4における「補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設して」とある記載を「木綿よりなる補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に接着剤を用いずに埋設して」とする等の補正を求めるものであって、該訂正請求書の補正は、訂正請求書で求めた訂正事項を変更するものであるから、訂正請求書の要旨の変更に該当するものである。
したがって、上記訂正請求書の補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合しないから、当該訂正請求書の補正を認めることはできない。

2.独立特許要件について
<理由1>
(1)訂正明細書の請求項1乃至8に係る発明
訂正明細書の請求項1乃至8に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1乃至8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して中芯が形成され、この中芯の外周が前記編み糸の編組体によって被覆されていることを特徴とするパッキン。
【請求項2】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して編組したことを特徴とするパッキン。
【請求項3】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束してひねり加工したことを特徴とするパッキン。
【請求項4】上記編み糸が相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設し、かつ撚りをかけられたものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項5】上記補強繊維糸が木綿,レーヨン,フェノ一ル,アラミド,PBI,PTEF,PPS,PEEKなどの有機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項6】上記補強繊維糸がガラス繊維,炭素繊維,セラミック繊維などの無機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項7】上記補強繊維糸がステンレス,インコネル,モネルなどの金属線の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項8】上記補強繊維糸が上記有機繊維から選択された少なくとも1つと、上記無機繊維または金属線の中から選択された少なく1つとの複合体である請求項1,2または3に記載のパッキン。

(2)引用刊行物記載の発明
当審における訂正拒絶理由で引用した刊行物1(特許異議申立人・ニチアス株式会社が提出した甲第1号証である中華人民共和国発明権利申請公開説明書第1034217号)には、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
イ.「1.膨張黒鉛パッキンの一種であり、膨張黒鉛を原料とし、併せて強度増加のための補強部材を含む。その特徴は補強用の補強材料が柔軟な糸状、織物状、…であり、その補強材料の表面に原料、補強材料の双方に親和性の有機接着剤が染み込ませてあり、かつ、補強材料は芋虫状膨張黒鉛の層間に均一にはさまれている事である。…3.上記第1項に記載の膨張黒鉛パッキンの特徴は、前記補強用補助材料の厚さが0.2mm以下であれば、綿、麻等の繊維又は銅、鉄、錫、アルミニウム糸のうちの一つ或いは一以上でよい事である。…5.上記第4項に記載の膨張黒鉛パッキンの製造方法の特徴は、膨張黒鉛テープを製造後、…裁断し、これを撚って糸状とし、さらに、この糸を八編もしくは芯に黒鉛糸を通した袋編み、…を施すことによって、必要な断面形状、サイズの汎用パッキンが得られる事にある。」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)権利要求書第1,3及び5項参照)。
ロ.「繊維よりなる糸、・・・を補強材料として、原料と補強材料の間を機械的加圧もしくは接着剤によって結合させて膨張黒鉛製の紙、帯、糸となす。…一本又は複数本を撚り合わせたり、…帯状の膨張黒鉛を裁断後、撚って一定の直径の膨張黒鉛細線とし、これを袋編み、重ね編み、格子編み、八の字編み等に編組加工」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)第5頁1〜8行参照)。
ハ.「実施例三:ガラス繊維、合成繊維、木綿、麻などの繊維、もしくは炭素繊維や銅細線の一種又は複数種を、…芋虫状膨張黒鉛の層間にむらなく挟み、…帯状膨張黒鉛とする。これを…こより状に撚って糸状黒鉛とする。…八つ編みするか、内側に紐状に膨張黒鉛を入れて袋編みする」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)第6頁10〜17行参照)。
ニ.「糸状黒鉛の本数により、パッキン断面の大小は自由に調節でき、」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)第6頁5〜6行参照)。
以上の記載事項及び説明書の全記載からみて、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明】
柔軟な糸状の補強材料を芋虫状膨張黒鉛の層間に均一に挟み、機械的加圧もしくは接着剤によって、結合させて膨張黒鉛製の帯、糸となし、この膨張黒鉛製の帯、糸を編組したパッキンであって、前記膨張黒鉛製の帯、糸は撚りをかけられたものであり、前記補強材料が木綿等の有機繊維、ガラス繊維等の無機繊維、鉄、銅等の金属線の一種又は複数種からなるものであるパッキン。

(3).対比・判断
A.訂正発明2について
本件訂正発明2と引用発明を対比すると、引用発明の「柔軟な糸状の補強材料」は訂正発明2の「補強繊維糸」に相当し、同様に、「膨張黒鉛製の帯、糸」は、「編み糸」に相当するものと認められる。
また、引用発明における補強材料も訂正発明2における補強繊維糸も「膨張黒鉛の間に設けられている」点の限りにおいて共通するものと認めることができる。
そうすると、両者は、以下のとおりの一致点及び相違点があるものと認められる。
[一致点]
補強繊維糸を膨張黒鉛の間に設けて編み糸となし、この編み糸を編組したパッキン
[相違点a]
訂正発明2では、複数本の補強繊維糸が相互に間隔をあけて長手方向に配置したものであるのに対し、引用発明では、補強繊維糸の配置について不明である点。
[相違点b]
補強繊維糸が、訂正発明2では、「シート状の膨張黒鉛中に埋設」されているのに対し、引用発明では、「膨張黒鉛の層間に均一に挟」まれている点。
[相違点c]
パッキンが、訂正発明2では、編み糸を複数本集束して編組したものであるのに対し、引用発明では、編み糸を編組したものである点。
そこで、上記相違点a〜cについて検討する。
・相違点aについて
刊行物2(特許異議申立人・ニチアス株式会社が提出した甲第3号証である米国特許第3404061号明細書)には、膨張黒鉛から製造される可撓性黒鉛シートに関し、「可撓性黒鉛シート又は帯の強度は、互いに接合された2つの重ねられた可撓性黒鉛層をもつ積層体とし、その間に適当な紐、糸、シート状材料のような補強手段を持つことによって増加する。図8は2つの可撓み性黒鉛シート130及び132からなる積層体を表している。これらのシートは適当な粘着剤136によって接合され、粘着剤の中には略平行に隣り合って延長され、長さ方向に配置された一続き又は複数のフィラメント134が埋め込まれている。フィラメント又はストランドは金属、ガラス、可撓性黒鉛等とすればよい。」(刊行物2の翻訳文(甲第4号証)第19頁下から5行〜第20頁第2行参照)と記載されていること、第8図にはフィラメント134が長手方向に配置されていることが看て取れること、また、引用発明における編み糸と刊行物2記載の発明における可撓性黒鉛シートは共に所定の膨張黒鉛製品の素材部品である点で共通すること、さらに、膨張黒鉛中に設けられる補強繊維糸相互の配置は、従来周知の各種物品の補強技術と同様に膨張黒鉛製品の強度等を考慮して適宜に決められるべきものであることから、引用発明において、複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設するに当たり、複数の補強繊維糸を相互に間隔をあけて長手方向に配置する構成を採用し、上記相違点aに係る訂正発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。
・相違点bについて
膨張黒鉛材料としてシート状のものは、例えば刊行物2に記載されているように従来周知技術にすぎないこと、また、補強材を補強すべき素材中に埋設して補強することも周知技術にすぎないことから、引用発明において、上記相違点bに係る訂正発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。
なお、特許権者は、訂正発明1乃至8における「膨張黒鉛中に埋設」は、「接着剤を用いずに膨張黒鉛中に埋設」することを意味するものであると主張しているが、請求項の記載によれば、具体的な固着の態様を限定しているわけではなく、しかも、「接着剤を用い」ないと解釈しなければならない特段の事情もないから、「膨張黒鉛中に埋設」の意味するところは、「接着剤を用い」て埋設する場合と、そうでない場合の両方の態様を含むものであると解釈すべきである。
してみると、上記主張を採用することはできない。
ところで、仮に「接着剤を用いない」ことを意味するとしても、膨張黒鉛自体に粘着性があること、及び膨張黒鉛と補強材との固着に際し、接着剤を使用する他に、黒鉛自体の粘着性を利用することも周知(例えば、「ガスケット入門」、著者・岩崎二郎、株式会社高分子刊行会(昭和57年2月10日発行)、第二章黒鉛材料・第79〜95頁の特に第95頁第13〜16行参照)であるから、「接着剤を用いずに膨張黒鉛中に埋設」する程度のことは、単なる設計事項にすぎない。
・相違点cについて
刊行物1には「糸状黒鉛の本数により、パッキン断面の大小は自由に調節でき、」(上記(2).ニ)と記載されていること、また、パッキンに使用する編み糸の本数は、従来周知の各種物品の編組加工技術と同様に、パッキンの断面形状の大きさや、強度等を考慮して、当業者が適宜選択できる事項と認められることから、編組加工によってパッキンを製作するに際し、編み糸を複数本集束する程度のことは、当業者が適宜なし得た設計的事項と認められる。
したがって、訂正発明2は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

B.訂正発明1について
訂正発明1と引用発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、上記相違点a及びbに加えて、さらに、以下の点で相違するものと認められる。
[一致点]
複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛の間に設けて編み糸となし、この編み糸からなるパッキン
[相違点d]
パッキンが、訂正発明1では、「編み糸を複数本集束して中芯が形成され、この中芯の外周が前記編み糸の編組体によって被覆され」たものとして構成されているのに対し、引用発明では、編み糸を編組したものとして構成されている点。
そこで、上記相違点cについて検討する。
・相違点dについて
刊行物1の、「更にこの糸を八編もしくは芯に黒鉛糸を通した袋編み、…を施すことによって、必要な断面形状、サイズの汎用パッキンが得られる」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)権利要求書第5項参照)、及び「内側に紐状に膨張黒鉛を入れて袋編みする」(刊行物1の翻訳文(甲第2号証)第6頁第16〜17行参照)との記載から、刊行物1には、黒鉛糸等からなる芯体とその外周に袋編みされた補強された膨張黒鉛とで構成するパッキンが示唆されているものと認められる。そして、芯体を複数本の糸で構成することや芯体を構成する黒鉛糸として、補強繊維糸を埋設した膨張黒鉛を採用する程度のことは、当業者がパッキンの強度・断面寸法等を考慮して適宜なし得た設計的事項にすぎないものと認められること、及び、そのような膨張黒鉛を芯材として採用することが困難な理由も見当たらないことから、上記相違点dに係る訂正発明1の構成は、引用発明から当業者が容易に想到できたものである。
また、前示のとおり、相違点a、bについても格別のものとは認められない。
したがって、訂正発明1は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

C.訂正発明3について
訂正発明3と引用発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、上記相違点a及びbに加えて、さらに、以下の点で相違するものと認められる。
[一致点]
複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中の間に設けて編み糸となし、この編み糸からなるパッキン
[相違点e]
パッキンが、訂正発明3では、「編み糸を複数本集束してひねり加工した」ものとして構成されているのに対して、引用発明では、編み糸を編組したものとして構成されている点。
そこで、上記相違点eについて検討する。
・相違点eについて
一般に所望の外形の紐状製品を製造する場合に、複数本の糸に撚り若しくはひねり加工を施して、一体化し、所望の外形の紐状製品を製造することは、周知技術にすぎず、また、膨張黒鉛製の編み糸からなるパッキンにおいても所望の断面サイズに成形しようとした場合に、複数本の編み糸を一体化する必要があることは明らかであるから、引用発明において、編み糸を複数本集束してひねり加工をすることによって、一体化したパッキンを形成する程度のことは、当業者が容易に想到できたものである。
また、前示のとおり、相違点a、bについても格別のものとは認められない。
したがって、訂正発明3は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

D.訂正発明4について
訂正発明4と引用発明を対比すると、引用発明は、訂正発明4を特定する事項である「編み糸が撚りをかけられたもの」に相当する構成を有しているから、両者は、上記「訂正発明1乃至3について」においてそれぞれ示した一致点及び相違点と同様な一致点及び相違点があるものと認められる。
したがって、上記「訂正発明1乃至3について」において検討したように、上記相違点は格別のものとは認められないから、本件発明4は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

E.訂正発明5乃至8について
訂正発明5乃至8は、訂正発明1乃至3に係る補強繊維糸の材料を特定するものである。そして、訂正発明5乃至8と引用発明を対比すると、引用発明における「補強繊維糸」は、例えば、木綿等の有機繊維、ガラス繊維等の無機繊維、金属線の一種又は複数種からなるものであるから、引用発明には、訂正発明5の「木綿,レーヨン,フェノール,アラミド,PB1,PTEF,PPS,PEEKなどの有機繊維の中から選択された少なくとも1つのもの」、訂正発明6の「ガラス繊維,炭素繊維,セラミック繊維などの無機繊維の中から選択された少なくとも1つのもの」、訂正発明7の「ステンレス,インコネル,モネルなどの金属線の中から選択された少なくとも1つのもの」、及び、訂正発明8の「上記有機繊維から選択された少なくとも1つと、上記無機繊維または金属線の中から選択された少なく1つとの複合体」からなる補強繊維糸に相当する構成を有しているものと認められる。
してみると、両者は、上記「訂正発明1乃至3について」においてそれぞれ示した一致点及び相違点と同様な一致点及び相違点があるものと認められる。
したがって、上記「訂正発明1乃至3について」においてそれぞれ検討したように、上記相違点は格別のものとは認められないから、本件発明5乃至8は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

3.理由1のむすび
以上のとおりであるから、訂正発明1乃至8は刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

<理由2>
1.訂正明細書の請求項1乃至8に係る発明
訂正明細書の請求項1乃至8に係る発明(本件発明1乃至8)は、上記「II.<理由1>(1)」において示したとおりのものである。

2.出願日の認定について
本件特許第2884078号に係る出願(以下、「分割出願」という。)は、特願平2-503018号(出願日:平成2年2月8日)に係る出願(以下、「原出願」という。)を平成9年9月22日に分割したものである。この分割出願に係る特許請求の範囲には、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」と記載されている(本件訂正発明1乃至8)。
しかしながら、補強繊維糸と膨張黒鉛との関係については、原出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「原明細書」という。)をみても、明細書に「補強繊維糸の少なくとも片面に接着材により膨張黒鉛を一体に接着」(特許請求の範囲)、「補強繊維糸40の両面に、接着剤によって膨張黒鉛41を一体に接着」(公告公報5欄36〜37行参照)及び「補強繊維糸40の片面にのみ接着剤によって膨張黒鉛41を接着」(同公報6欄39〜40行参照)と記載されているのみで、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」することについては、少なくとも直接的な記載は見当たらなく、図面をみても少なくともそれを直接的に導き出すことができない。
そして、「補強繊維糸の両面又は片面に接着剤により膨張黒鉛を接着」しても、直ちに補強繊維糸の全面が膨張黒鉛により覆われて、埋設されるものではないと解される。
これに対して、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」の技術的意義は、例えば、特許異議意見書5頁10〜12行目に記載されているように「補強繊維糸をシート状膨張黒鉛に埋設することで、接着剤を用いずとも両者を強く結合でき」るものを含むものである。
してみると、「補強繊維糸の両面又は片面に接着剤により膨張黒鉛を接着」することと、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」することとは、別異の技術的意義を有するものと言わざるを得ない。
したがって、原明細書には、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」することが記載されていたものとも、また、それが原明細書の記載から自明のものとも認めることができなく、当該分割出願は適法になされた分割出願であるとは認められないから、本件特許第2884078号に係る出願の出願日は、原出願の出願日までそ及することなく、分割出願の出願日、即ち本件特許に係る出願日である平成9年9月22日とみなされる。

3.引用刊行物記載の発明
当審における訂正拒絶理由において引用した本件特許に係る出願の出願日である平成9年9月22日前に公知である刊行物4(特許異議申立人・ニチアス株式会社が提出した甲第5号証である特公平6-56213号公報)には、
「【請求項1】長手方向に配置した複数本の補強繊維糸の少なくとも片面に接着材により膨張黒鉛を一体に接着して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して中芯が形成され、この中芯の外周が前記編み糸の編組体によって被覆されていることを特徴とするパッキン。
【請求項2】長手方向に配置した複数本の補強繊維糸の少なくとも片面に接着材により膨張黒鉛を一体に接着して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して編組したことを特徴とするパッキン。
【請求項3】長手方向に配置した複数本の補強繊維糸の少なくとも片面に接着材により膨張黒鉛を一体に接着して編み糸となし、この編み糸を複数本集束してひねり加工したことを特徴とするパッキン。……
【請求項5】膨張黒鉛が細幅のシート状である請求の範囲第1項,第2項または第3項記載のパッキン。
【請求項6】編み糸が長手方向に配置した複数本の補強繊維糸の少なくとも片面に接着材により膨張黒鉛を一体に接着し、かつ撚りをかけられている請求の範囲第1項,第2項,第3項,第4項または第5項記載のパッキン。
【請求項7】補強繊維糸が木綿,レーヨン,フェノール,アラミド,PBI,PTEF,PPS,PEEKなどの有機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求の範囲第1項,第2項または第3項記載のパッキン。
【請求項8】補強繊維糸がガラス繊維,炭素繊維,セラミック繊維などの無機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求の範囲第1項,第2項または第3項記載のパッキン。
【請求項9】補強繊維糸がステンレス,インコネル,モネルなどの金属線の中から選択された少なくとも1つのものである請求の範囲第1項,第2項または第3項記載のパッキン。
【請求項10】補強繊維糸が前記有機繊維から選択された少なくとも1つと、前記無機繊維または金属線の中から選択された少なく1つとの複合体である請求の範囲第1項,第2項または第3項記載のパッキン。」(特許請求の範囲)と記載されている。また、第2図から、補強繊維糸が相互に間隔をあけて配置された構成が看て取れる。

4.対比・判断
訂正発明1乃至8と上記刊行物4に記載された発明を対比すると、訂正発明1乃至8では、「補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設」しているのに対し、刊行物4記載の発明では、「補強繊維糸の少なくとも片面に接着剤によりシート状の膨張黒鉛を一体に接着」している点(以下、「相違点f」という。)で相違するが、その余の点で一致するものと認められる。
そこで、上記相違点fについて検討する。
・相違点fについて
刊行物4に記載の編み糸も、公報の「補強繊維糸の少なくとも片面に接着剤により膨張黒鉛を一体に接着」との記載及び図面の記載から明らかなように、補強繊維糸は接着剤の使用によって膨張黒鉛と一体に設けられているものといえること、また、補強材を補強すべき素材中に埋設して補強することは周知技術にすぎないことから、上記相違点fに係る訂正発明1乃至8の構成のように、補強繊維糸をシート状の膨張黒鉛中に埋設することは、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、訂正発明1乃至8は、刊行物4に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

5.理由2のむすび
以上のとおりであるから、訂正発明1乃至8は、刊行物4記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III.特許異議申立てについての判断
<取消理由1>
1.本件発明
本件特許の請求項1乃至10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1乃至10」という。)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して中芯が形成され、この中芯の外周が前記編み糸の編組体によって被覆されていることを特徴とするパッキン。
【請求項2】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束して編組したことを特徴とするパッキン。
【請求項3】相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設して編み糸となし、この編み糸を複数本集束してひねり加工したことを特徴とするパッキン。
【請求項4】上記膨張黒鉛が芋虫状黒鉛粉である請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項5】上記膨張黒鉛が細幅のシート状である請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項6】上記編み糸が相互に間隔をあけて長手方向に配置した複数本の補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設し、かつ撚りをかけられたものである請求項1,2,3,4または5に記載のパッキン。
【請求項7】上記補強繊維糸が木綿,レーヨン,フェノール,アラミド,PBI,PTEF,PPS,PEEKなどの有機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項8】上記補強繊維糸がガラス繊維,炭素繊維,セラミック繊維などの無機繊維の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項9】上記補強繊維糸がステンレス,インコネル,モネルなどの金属線の中から選択された少なくとも1つのものである請求項1,2または3に記載のパッキン。
【請求項10】上記補強繊維糸が上記有機繊維から選択された少なくとも1つと、上記無機繊維または金属線の中から選択された少なく1つとの複合体である請求項1,2または3に記載のパッキン。

2.引用刊行物記載の発明
当審で通知された取消理由に引用した刊行物1には、上記「II.訂正の適否について」において示したとおりの技術的事項及び発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
また、同様に引用した刊行物2には、「II.(3).A.」において示したとおりの事項が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
(1).本件発明1乃至3及び6乃至10について
上記訂正発明1乃至8は本件発明1乃至3及び6乃至10を特定する事項をさらに減縮したものに相当し、その訂正発明1乃至8が前示のとおり刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる以上、本件発明1乃至3及び6乃至10についても同様の理由により、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

(2).本件発明4について
本件発明4は本件発明1乃至3を特定する事項に、「膨張黒鉛が芋虫状黒鉛粉である」との事項を付加するものであるが、上記刊行物1には、本件発明4を特定する事項である「膨張黒鉛が芋虫状黒鉛粉である」に相当する事項が記載されている。そして、本件発明1乃至3は前示のとおり、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められるので、本件発明4も同様の理由により、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

(3).本件発明5について
本件発明5は、本件発明1乃至3を特定する事項に、「膨張黒鉛が細幅のシート状である」との事項を付加するものである。そして、本件発明5と引用発明を対比すると、上記付加された事項が引用例に文言上明示されていない点で相違するものと認められる。
しかしながら、膨張黒鉛材料としてシート状のものは、例えば上記刊行物2に記載されているように周知の技術的事項にすぎないから、引用発明において、膨張黒鉛としてシート状のものを採用することは、当業者にとって格別の困難性はなく採用できたものであり、また、その際にシート幅を細幅とすることも、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎないから、上記相違点は格別のものとは認められない。
したがって、本件発明5は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

4.取消理由1のむすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至10は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、本件特許は拒絶の査定をしなければならない特許に対してなされたものである。

<取消理由2>
1.本件発明
特許第2884078号の請求項1乃至10に係る発明(本件発明1乃至10)は、上記<取消理由1>において示したとおりのものである。

2.出願日の認定について
上記「II.<理由2>」において示したとおり、本件特許第2884078号に係る出願は適法になされた分割出願であるとは認められないから、本件特許に係る出願の出願日は、原出願の出願日までそ及することなく、分割出願の出願日、即ち本件特許に係る出願の出願日である平成9年9月22日とみなされる。

3.引用刊行物記載の発明
当審で通知された取消理由において引用した本件特許に係る出願の出願日である平成9年9月22日前に公知である刊行物3(特許異議申立人・ニチアス株式会社が提出した甲第5号証である特公平6-56213号公報)には、上記「II.<理由2>3.」において示したとおりの事項が記載されているものと認められる。

4.対比・判断
(1).本件発明1について
本件発明1乃至10と刊行物3に記載された発明を対比すると、訂正発明1乃至10では、「補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設」しているのに対し、刊行物3記載の発明では、「補強繊維糸の少なくとも片面に接着剤により膨張黒鉛を一体に接着」している点で相違するが、その余の点で一致するものと認められる。
そこで、上記相違点について検討する。
・相違点について
刊行物3に記載の編み糸も、公報の「補強繊維糸の少なくとも片面に接着剤により膨張黒鉛を一体に接着」との記載及び図面の記載から明らかなように、補強繊維糸は接着剤の使用によって膨張黒鉛と一体に設けられているものといえること、また、補強材を補強すべき素材中に埋設して補強することは周知技術にすぎないことから、上記相違点に係る本件発明1乃至10の構成のように、補強繊維糸を膨張黒鉛中に埋設することは、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件発明1乃至10は、刊行物3に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易になし得たものと認められる。

5.取消理由2のむすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至10は、刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、本件特許は拒絶の査定をしなければならない特許に対してなされたものである。

III.むすび
上記取消理由1及び2において示したとおり、本件発明1乃至10に係る特許は、特許法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-26 
出願番号 特願平9-257073
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (F16J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤井 俊明千葉 成就奥 直也  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 和田 雄二
秋月 均
登録日 1999-02-12 
登録番号 特許第2884078号(P2884078)
権利者 日本ピラー工業株式会社
発明の名称 パッキン  
代理人 永田 武三郎  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 鈴江 正二  
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