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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22C
管理番号 1035901
異議申立番号 異議2000-71880  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-04-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-08 
確定日 2001-04-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第2971925号「シェルモールド用レジンコーテッドサンド」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2971925号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2971925号の請求項1に係る発明についての出願は、平成2年8月30日に出願され、平成11年8月27日に特許の設定登録がなされ、その後請求項1に係る発明の特許に対して特許異議申立人 旭有機材工業株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月26日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】空隙率が44%以下の耐火砂にバインダー樹脂を被覆せしめて成ることを特徴とするシェルモールド用レジンコーテッドサンド。」

3.特許異議申立の理由の概要

3-1.特許要件
申立人は、以下に示す甲第1〜5号証を提示して、本件発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明と同一であり、また、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項または同条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、同法第114条第2項の規定に基づき取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
・甲第1号証:「シェルモールドニュース」、第41号、第16〜19頁、昭和35年7月20日、社団法人日本シェルモールド協会
・甲第2号証:「新版 鋳型鋳造法」、第85〜87頁、昭和63年3月31日、社団法人鋳造技術普及協会
・甲第3号証:「シェルモールドニュース」、第33号、第 8〜10頁、昭和35年1月20日、社団法人日本シェルモールド協会
・甲第4号証:実験成績報告書、富永恭爾(申立人の社員)作成
・甲第5号証:「シェルモールドニュース」、第40号、第15〜18頁、昭和35年6月20日、社団法人日本シェルモールド協会

3-2.記載要件
申立人は、明細書の発明の詳細な説明中の記載には当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されているものとはいえず、また、請求項の記載が特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみからなるものともいえないから、その特許は、特許法第36条第3〜5項の要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、同法第114条第2項の規定に基づき取り消すべきものである旨主張している。

4.甲各号証の記載について

4-1.甲第1号証の記載について
甲第1号証には、「”シェル鋳型”についてのアレコレ(2)」の表題の下に、シェル鋳型に用いる砂の研究に関して以下のことが記載されている。
(1-ア)16頁1欄2行〜2欄3行
「(1)砂の細かさの効果・・・N.J.Silica Sand Companyの砂は・・・6%のmonsanto1128-0-0287Aの樹脂が加えられた。炉の温度は650°Fに保たれた。又硬化時間は1分半である。第2表は、砂の細かさに伴なってシェル鋳型の強度がかなり低下して行くことを示している。」
(1-イ)16頁表2
表2には、6種の粒度のN.J.硅砂をMonsanto NO.1128-0-0287A樹脂でコーティングして用いた場合のシェル鋳型の抗張力が365〜670psi.の範囲であることが示されており、その一例としてたとえば次のものが示されている。
・N.J.硅砂(NO.120-1)
A.F.S.粒度107/抗張力510psi.
・N.J.硅砂(NO.160-1)
A.F.S.粒度161/抗張力365psi.
(1-ウ)16頁2欄11行〜3欄17行
「(2)粒の大きさの分布の効果・・・砂の細かさの効果を研究するに使った砂は・・・50%No.60-1と50%No.160-1 N.J.硅砂を混ぜ合せると、広範囲の粒の大きさの分布を示し・・・このような特別の砂は6%のNo.1128-9502樹脂と混合されている。硬化および焼付け時間は前と同じである。張力強度とかさは、同一の試験片で決定される。その結果は、第4表で、スクリーン分析の結果は第3表のごとくである。」
(1-エ)表4
表3として各種銘柄の砂の粒度分布及び粒度指数が記載され、例えばN.J.硅砂のNO.60-1とNO.160-1とを混ぜ合わせて調製した広範囲の粒度分布をもつ砂を、NO.1128-9502樹脂6%と混合して形成されたシェル鋳型について試験した結果が表4として記載されている。
そして、この表4には、様々な分布を有する、粒度指数78〜102、通気度110〜200、空隙41.0〜47.2、抗張力436〜610[psi.]の範囲の8種のケイ砂を用いた場合のシェル鋳型の抗張力が示されており、それらは次のとおりである。
粒度指数102 /通気度128/空隙47.2/抗張力486
粒度指数102 /通気度125/空隙45.0/抗張力436
粒度指数101.5/通気度110/空隙43.2/抗張力488
粒度指数 98.5/通気度128/空隙41.8/抗張力580
粒度指数 98 /通気度120/空隙41.0/抗張力464
粒度指数 78 /通気度200/空隙44.0/抗張力610
粒度指数 78 /通気度180/空隙43.1/抗張力610
粒度指数 83 /通気度175/空隙42.2/抗張力608
(1-オ)16頁4欄下から7行〜17頁1欄22行
「(4)砂粒の形の効果・・・下方に角ばったNJ硅砂の混合は、ジルコン砂と同一のスクリーン分類になるように準備した。この砂には、6%のMonsanto No.1128-9502を混ぜたが、ジルコン砂には3.4%加えた。その結果が第6表のごとくである。」
(1-カ)表6
表6には、空隙36.0〜45.0%の範囲の5種の砂をMonsanto NO.1128-9502樹脂でコーティングして用いた場合のシェル鋳型の空隙(%)36.0〜45.0、抗張力が300〜935[psi.]の範囲であることが示されており、それらは次のとおりである。
・N.J.Silica Blend-0
空隙41.6/抗張力750
・Ottawa
空隙37.0/抗張力800
・N.J.Silica Blend-Z
空隙45.0/抗張力436
・Zircon(うけ入れのまま)
空隙36.0/抗張力300
・Zircon(熱処理)
空隙37.0/抗張力935

4-2.甲第2号証の記載について
甲第2号証には、樹脂被覆砂(レジンコーテッドサンド RCS)の製造法について以下のことが記載されている。
(2-ア)85頁右欄8〜24行
「5.2.1 樹脂被覆砂(レジンコーテッドサンド RCS)の製造法 RCSの製造法は・・・ドライホット法が主流であるため・・・ドライホット法について述べる。
(1)ドライホット法の原理 本方法は130〜160℃に加熱された砂に固形樹脂をミキサーで溶融コーティングしたのち、ノボラック樹脂の場合は硬化剤のヘキサミン水溶液・・・を投入して・・・エアレーションによって急冷しながら・・・ステアリン酸カルシウム・・・を分散させて・・・RCSを得る。」
(2-イ)85頁25〜31行
「(2)使用原料について (a)砂 適度な粒度をもつ天然けい砂、人工けい砂の他の鋳物工場より回収された古砂を焙焼および研磨処理した再生砂等が使用される。けい砂の重要な品質ポイントは、微粉(パン)分の量であり、限りなく少ないことが要求される。」
(2-ウ)86頁右欄10行〜87頁左欄16行
「(4)混練方法 (a)砂を加熱する・・・130〜140℃が標準的・・・(b)ミキサーによる樹脂被覆加熱された砂は計量してミキサーに投入され・・・次いでフェノール樹脂が投入される。・・・(c)硬化剤の添加および冷却 硬化剤のヘキサメチレンテトラミンは冷却水に溶解して投入される。ヘキサミンの量はノボラック樹脂に対して10〜20%が一般的である。・・・(d)ステアリン酸カルシウム(ステカル)の添加・・・搬送工程を経て冷却されながら貯蔵される。」

4-3.甲第3号証の記載について
甲第3号証には、「鋳型材料の高温における諸性質(7) 鋳型材料の熱間強さ その1」の表題の下に、鋳型の熱間における強さについて以下のことが記載されている。
(3-ア)8頁1欄14行〜2欄22行
「つきかためられた鋳型の結合力は・・・熱間強さの場合は水分は普通存在しないから、砂粒子の接点数と固形化した粘結剤の被膜によって左右されると考えられる。したがって、ベントナイトを粘結剤とした場合にベントナイトの添加量と水分を一定にすると主として結合力は砂粒子間の接点数によって左右される。すなわち砂粒子が小さくなれば普通接点数も多くなり、破壊に対する抵抗力も増大すると考えられる。第27図は第31表のよう粒度分布の三栄銀砂の市販硅砂に10%のベントナイトと5%の水分を添加した場合の各温度における熱間強さを示す。平均粒径が小さい硅砂ほど、すなわち細粒になるほど熱間強さは上昇している。」
(3-イ)8頁2欄31行〜3欄12行
「1.1.単一粒子を配合した場合 単一粒度の粒子を一定容器につめた場合、粒子が完全な球であると仮定すると非常に軽くつめたときの理想的な配列は第28図のようになる。これに対して非常に強くつめたときの理想的な配列は第29図のようになる。この場合・・・両者の空ゲキ率をそれぞれP1、P2として一般的に知られている式を用いて、P1、P2を求めると・・・第28図の場合 P1=・・・=47.6% 第29図の場合 P2=・・・=25.8%」
(3-ウ)8頁3欄19〜33行
「実際に鋳物工場で使用している鋳物砂は単一粒子でもなく、また球でもない。数種の粒度の砂粒子が混在している。したがってこれらの砂を用いて作った高温用の試験片では、砂粒子の配列は第28図と第29図の理想状態の配列の中間の状態になっていると推察される。事実今まで数多く作った高温試験片の空ゲキ率は20〜42%という広い範囲にわたっている。」

4-4.甲第4号証の記載について
甲第4号証は、本件特許権者の被使用者の作成した「実験成績報告書」であって、本件特許出願時に市販されていた鋳物砂について測定した空隙率について以下のことが記載されている。
(4-ア)2/5頁下から10行〜3/5頁3行及び図1
「(3)空隙率の測定 供試砂の空隙率を本特許に記載されている方法に準じて測定した。次にその方法を詳細に示す。200mlの有栓メスシリンダーに水:メタノール=7:3(質量比)の混合溶液を入れ、別のメスシリンダーを用いて計り取った100mlの砂を徐々に加えた後密栓し、気泡が出なくなったことを確認した後静置しメスシリンダーの液面の目盛りを読み、この数値をMmlとし、下式で空隙率を算出した。
空隙率(%)=200-M
しかし、砂は粒体であるためその充填方法によって同一体積においてもその質量は異なり空隙も異なる。よって、特許には記載されていないが下記の方法により、100mlの砂を計り取った。図1のように、200mIのメスシリンダーを用いて作成した内容積100mlの容器の上にロートをセットしそのロートに砂を入れ、容器から砂が溢れるまで容器に砂を投入てから容器を上下にタップし砂を充頃させ、更に砂加えタップしこれ以上体積が少なくならないようになったら再度砂を加えて溢れさせた後、定規を用いて容器の上端に沿って余剰になった砂を掻き取った。こうして得られた100mlの砂を用いて空隙率を測定した。」
(4-イ)表2
表2には、No.1〜25のそれぞれ異なる耐火砂について、空隙率34〜43%、曲げ強度235〜1656N/cm2の範囲であることが示されている。

4-5.甲第5号証の記載について
甲第5号証には、「”シェル鋳型”についてのアレコレ(1)」の表題の下に、シェル鋳型に用いる砂の研究に関して以下のことが記載されている。
(5-ア)15頁2欄18〜22行
「レジン消費の多少の減少は、砂粒の大きさ、その分布状態、パッキング、表面処理等の変化の科学的調整によって得られる。」
(5-イ)15頁2欄26行〜4欄下から10行
「II 結果の要約 1.接着効率の広範囲な変化は、シェルモールドに使用されるいろいろな商業上のフェノールレジンによる。 2.砂のこまかさは、レジンの最大接着効率を得るのに非常に重要な因子である。 3.こまかい角ばった砂は、円い砂に比較してレジン消費を増加する。同時にレジンと砂の混合に加える細かい添加物は、シェルモールドの強度を低下させる。・・・5.砂粒表面からのレジン分離は、シェルモールドにおける”はがれ”の機構で、強度増加は、レジンと砂の間のより良い接着によって得られる。 6.きれいなジルコン砂は、硅砂に比べてレジン砂の量の比率が一定の下で、非常に高い強度のシェルを作る。・・・8.クロム鉄鉱が硅砂にとって代ると、同じ位の強さのシェルが出来るが、フォルステライトやジルコニア、アルミナが使われると弱いシェルが出来る。・・・11.振動填充は、少ないレジンで強いシェルを作る方法であるが、表面処理済みの砂を使わなければならない。・・・15.シェルモールドを作るための混合の一般的性能は使用されるレジンの種類と砂の型に影響される。・・・」
(5-ウ)16頁1欄21行〜3欄23行
「IV 処置・・・砂はまずかたまりを粉々に砕かれ0.1%の
Monsanto Resinox Dast Suppressant”A”を少々加え・・・樹脂を加えてから・・・混ぜ合せる。・・・張力試験に使う”dog bone”型試料を作るための鋳型は・・・少量の砂と樹脂混合物の入っているダンプボックス上に置かれる。・・・そして試験片は硬化のため炉の中に入れられる。・・・分割鋳型か熱盤と共に炉中で熱せられていても焼付け時には熱盤の温度はかなり下降する。・・・この温度降下は焼き付けに使われる熱量によって決定される。」
(5-エ)16頁3欄24〜4欄14行
「”dog bone”型の張力試験片は・・・標準U.D.Testuy Machineで試験された。・・・通気性の測定には、力張試験に使われた試験片について行った。・・・工業用砂の通気性測定の標準的方法は次のごとくである。空間占有率は、空気中の重量と、気孔を適当に密閉して水中で計った重さとで決まるシェルの容積密度から計算される。」
なお、「力張試験」は「張力試験」の誤記と考えられるので、以下引用するときは「張力試験」という。
(5-オ)17頁4欄1〜11行
「各種ブランドの樹脂の接着効率は、前に述べたようなシェルを作る時の処置と同様な方法によった強度試験用シェルによって、比較研究した。・・・各樹脂についての必要硬化時間を第1表に示した。樹脂の量は総量の6%で、炉の温度は650°Fであった。」
(5-カ)表1
表1には、同じ鋳物砂、レジン使用量及び硬化温度であっても、使用するレジンの種類により、抗張力、曲げ強さが変化することが示されている。
(5-キ)18頁1欄第6〜14行
「図-2は数種の樹脂の各温度に対する硬化時間についてどのようにシェル鋳型強度が変化するかを例示している。特に硬化させすぎることはシェル鋳型の強度を低下させることに注意すべきであるが、低下の比率は、正確な調節を要求する程大きくはない。」
(5-ク)図2
図2には、使用する樹脂の硬化時間によりシェル鋳型の強度が変化すること及び過度の硬化はシェル鋳型の強度を低下させることが記載されている。

5.当審の判断
5-1.特許要件
5-1-1.申立人の主張
申立人は以下の(A)〜(C)のように主張している。
(A)甲第1号証には、表4より空隙率43.2%、41.8%、41.0%、44.0%、43.1%及び42.2%の混合ケイ砂、表6より空隙率41.6%(N.J.Silica Blend-0)、空隙率37.0%(Ottawa)、空隙率36.0%(Zircon うけ入れのまま)及び空隙率37.0%(Zircon 熱処理)を用い、これらにMonsanto No.1128-9502樹脂をコーティングしたシェルモールド用レジンコーテッドサンドが記載されており(摘記事項(1-エ)(1-カ)参照)、これらのシェルモールド用レジンコーテッドサンドは、本件発明の構成をすべて備えたものであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(B)甲第2号証には、天然けい砂、人工けい砂、再生砂などに、ノボラック樹脂/フェノール樹脂を被覆したレジンコーテッドサンドが記載されている。(摘記事項(2-ア)〜(2-ウ)参照)
また、甲第3号証には、実際に鋳物工場で使用される鋳物砂を用いて作った高温用の試験片の空隙率が20〜42%であり(摘記事項(3-ウ)参照)、また、甲第4号証に示されるように本件特許出願時に市販されていた複数の鋳物砂についての空隙率の測定値はいずれも44%以下である(摘記事項(4-イ)参照)。そして、甲第2号証における鋳物砂は特殊なものではなく、市販品が使用されたはずである。すると、甲第2号証におけるレジンコーテッドサンドは空隙率44%以下の砂が使用されていたものといえるから、甲第2号証におけるレジンコーテッドサンドは実質的に本件発明の構成をすべて備えたものであるから、本件発明は、甲第2号証に記載された発明である。
(C)甲第1、2号証には耐火砂にバインダー樹脂を被覆したシェルモールド用レジンコーテッドサンドが記載されている。(摘記事項(1-ア)〜(2-ウ)参照)また、甲第3号証には、これまで多数作られた高温試験片の空隙率は20〜42%の範囲にあること、単一粒子を軽くつめた場合の理想的な配列(第28図)における空隙率は47.6%であることが示されている(摘記事項(3-ウ)(3-イ)参照)から、実際の空隙率の上限値を44%まで拡張し、「空隙率44%以下」という条件を設定する程度のことに何らの困難性もない。そして、甲第1号証には、空隙率44%以下のケイ砂を用いた場合の方が、空隙率44%以上のケイ砂を用いた場合よりもシェル鋳型の抗張力が低くなっている実験結果も示されている(摘記事項(1-エ)(1-カ)参照)から、本件発明において、空隙率44%以下の耐火砂を用いれば空隙率44%以上の耐火砂を用いた場合より抗張力が強くなるという格別の効果を奏するものとも認められない。してみると、本件発明は、使用する耐火砂について慣用されている範囲の耐火砂の空隙率を測定し、上限値として44%を選び、構成事項として付加しただけの発明であるということができ、このような発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することのできるものである。

5-1-2.申立人の主張の検討
(1)申立人の主張(A)について
申立人がその主張の根拠とする甲第1号証には、「”シェル鋳型”についてのアレコレ(2)」を表題とするシェル鋳型に用いる砂の研究に関する論文が記載されている。他方、甲第5号証には、「”シェル鋳型”についてのアレコレ(1)」を表題とするシェル鋳型に用いる砂の研究に関する論文が記載されている。
すなわち、甲第5号証に記載の論文と甲第1号証に記載の論文とはその順で記載された同一の一つの論文をなすものである。
したがって、甲第1号証に記載の論文は、甲第5号証に記載の論文の内容を前提として記載されたものである。
そこで、まず、甲第5号証の記載を検討するに、甲第5号証には、摘記事項(5-ウ)から、張力試験に使われるシェル鋳型の試験片は、砂と樹脂の混合物を焼き付け硬化されてなるものであることが、摘記事項(5-エ)から、通気性の測定は「空間占有率」を測定するものであるが、それには張力試験に使われた試験片が使われることが、それぞれ示されている。
すなわち、「空間占有率」は、張力試験に使われるのと同じ焼き付け硬化された試験片について測定されるものであり、樹脂の混合されていない砂だけの状態で測定されるものではないことが明らかである。
そこで、甲第1号証の記載を見ると、甲第1号証には、申立人がその主張の根拠とする表4における「空隙」「通気度」や表6における「空隙(%)」について特に説明はない。
すると、甲第1号証に記載の論文は、甲第5号証に記載の論文の内容を前提として記載されたものであるので、再び甲第5号証を参照すると、摘記事項(5-エ)に記載された定義からみて、「空間占有率」が「空隙」「通気度」「空隙(%)」に対応するものと考えざるを得ない。
そうであれば、「空間占有率」は張力試験と同一の試験片で測定されるものであるから、「空隙」「通気度」「空隙(%)」の値は、張力試験に使われるのと同じ焼き付け硬化された試験片について測定されるものであり、樹脂の混合されていない砂だけの状態で測定されるものではないということになる。
すなわち、甲第1号証に記載された「空隙」「空隙(%)」の数値が本件発明の「空隙率」と重複するとしても、甲第1号証に記載された「空隙」「空隙(%)」の値は焼き付け硬化された試験片について測定されるものであり、本件発明における「空隙率」のように樹脂の混合されていない砂だけの状態で測定されるものではないから、甲第1号証に記載された「空隙」「空隙(%)」は、本件発明における「空隙率」を意味するものではない。
したがって、甲第1号証には本件発明と同一の「空隙率が44%以下の耐火砂にバインダー樹脂を被覆せしめて成ることを特徴とするシェルモールド用レジンコーテッドサンド」が記載されている旨の申立人の主張はこれを採用できない。
(2)申立人の主張(B)について
甲第2号証には、摘記事項(2-ア)〜(2-ウ)から、「耐火砂にバインダー樹脂を被覆せしめて成ることを特徴とするシェルモールド用レジンコーテッドサンド」が記載されているが、耐火砂の空隙率については言及されていない。
i)そこで甲第3号証の記載を参照するに、甲第3号証には、摘記事項(3-ウ)から、実際に鋳物工場で使用される鋳物砂を用いて作った「高温試験片の空ゲキ率」は20〜42%であることが示されている。しかしながら、上記「高温試験片の空ゲキ率」は、鋳型の熱間における強さを測定するために作成された「高温試験片」の空隙率であって、高温試験片は摘記事項(3-ア)から砂にベントナイトを粘結剤として添加し成形して得られたものと考えられる。そうであれば、砂の表面にベントナイトが付着している分だけ空隙率は小さく測定されることになるから、「高温試験片の空ゲキ率」が44%以下であったとしても、それは本件発明における砂自体の空隙率を意味する「空隙率」が44%以下であるものとはいえない。
また、甲第3号証には、摘記事項(3-イ)から、単一粒子からなる耐火砂が理想的に配列したとき、その空隙率は25.8〜47.6%となる旨示されているが、現実の耐火砂は理想的な単一粒子からなるものではなく様々な粒子の混合物であり、必ずしもその空隙率が25.8〜47.6%の間に入るものではない。
したがって、甲第3号証には「空隙率が44%以下の耐火砂」が示されているということはできない。
ii)さらに、甲第4号証を参照するに、甲第4号証には、摘記事項(4-イ)から、市販の様々な耐火砂における空隙率を測定したところ34〜43%になることが示されている。
ここで、本件発明と甲第4号証に記載の空隙率の測定方法について検討するに、本件発明では「メスシリンダで測定した耐火砂100ml」(特許公報3欄33〜34行)と記載されるように、メスシリンダで計り取ることを規定しているだけであるのに対し、甲第4号証におけるそれは、摘記事項(4-ア)から、100mlの砂を計り取るときに容器を上下にタップして砂の充填を行うものである。
すなわち、本件発明ではメスシリンダに100mlの目盛りまで耐火砂を注いで計り取るものであるのに対し、甲第4号証においてはさらに上下にタップを加えて砂の充填をするものであるため、タップした分だけ余分に砂が計り取られるものであるから、両者は砂の計測方法が明らかに異なり、甲第4号証における空隙率の数値は本件発明における計測方法によるものよりも小さめの数値として計測されていることは明らかである。
よって、両者の空隙率は表面上は重複するものであったとしても、その計測方法が異なるから、甲第4号証に「空隙率が44%以下の耐火砂」が示されているということはできない。
したがって、甲第3、4号証には「空隙率が44%以下の耐火砂」が示されているということはできない。
ゆえに、甲第3、4号証の記載から「空隙率が44%以下の耐火砂」は通常のものであって、甲第2号証に記載のシェルモールド用レジンコーテッドサンドにおける砂も当該「空隙率が44%以下の耐火砂」が使われているであろうことから、甲第2号証には本件発明と同一の「空隙率が44%以下の耐火砂にバインダー樹脂を被覆せしめて成ることを特徴とするシェルモールド用レジンコーテッドサンド」が実質的に記載されている旨の申立人の主張はこれを採用できない。
(3)申立人の主張(C)について
上記(1)(2)で述べたように、甲第1、2号証には耐火砂にバインダー樹脂を被覆したシェルモールド用レジンコーテッドサンドが記載されているが、「空隙率が44%以下の耐火砂」については記載がない。また、上記(2)で述べたように、甲第3号証には「空隙率が44%以下の耐火砂」が記載されているとはいえない。
そして、「空隙率が44%以下の耐火砂」を用いることによって「バインダ-樹脂の量が少なくても鋳型の強度を高く確保する」(本件特許公報8欄下から7〜6行)という作用効果を奏することについては、甲第1〜3号証には記載も示唆もない。
この点で申立人は、甲第3号証における高温試験片の空隙率は20〜42%の範囲にあり、単一粒子の理想的な配列(第28図)の空隙率は47.6%であるから、実際の空隙率の上限値を拡張し、「空隙率44%以下」という条件を設定することに何らの困難性もなく、また、甲第1号証には、空隙率44%を境にして鋳型の抗張力が本件発明と逆になる例も記載されており、本件発明において空隙率44%以下の耐火砂を用いれば抗張力が強くなるという格別の効果は奏し得るものではない旨主張する。
しかし、甲第1、3号証に記載された「空隙」「空隙%」「通気度」「空ゲキ率」(申立人の主張する「空隙率」)は、上記(1)(2)で述べたように本件発明における「空隙率」とは異なるものだから、申立人のこの点の主張はその根拠を欠くものである。
以上より、甲第1〜3号証には、いずれも本件発明における「空隙率が44%以下の耐火砂」を用いる構成について示されておらず、また、甲第1〜3号証に記載のものからこの点に容易に想到し得るものとも認められない。
そして、本件発明は上記構成を採ることによって、「バインダ-樹脂の量が少なくても鋳型の強度を高く確保する」という甲第1〜3号証の記載からは予想し得ない効果を奏するものである。
それゆえ、本件発明は甲第1〜3号証に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
したがって、上記申立人の主張はこれを採用できない。

5-2.記載要件
5-2-1.申立人の主張
申立人は以下の(D)のように主張している。
(D)本件特許明細書の特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載には、耐火砂について単に空隙率44%以下と規定するのみで、他の物性のファクターたとえばバインダー樹脂の種類、焼成時間、砂の細かさ、砂の形状、砂の表面状態、砂の種類、砂の表面処理の有無等について格別の規定がない。
それにもかかわらず、本件発明によってバインダー樹脂の量の低減及び高い鋳型強度の確保という、本件発明の目的が達成でき、所期の効果が得られる旨特許明細書には記載されている。
しかし、使用されるバインダ樹脂量や鋳型強度は上記様々なファクターの影響を受けるものであり(摘記事項(1-ア)(1-イ)(1-エ)(1-カ)(4-イ)(5-ア)(5-イ)(5-カ)(5-キ)(5-ク)参照)、それらの影響について特許明細書の発明の詳細な説明の記載中には何ら説明もなく、特許請求の範囲はそれらに係る構成を欠いている。
したがって、本件特許明細書は、発明の詳細な説明中には当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されているものとはいえず、また、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみからなるものとはいえないというべきである。

5-2-2.申立人の主張の検討
申立人の主張するように、バインダー樹脂の種類、焼成時間等のファクターが異なればそれに応じて鋳型の物性値が異なるのは当然である。本件発明は、耐火砂の空隙率というファクターから鋳型の物性値を改善できることを見出したものであり、バインダー樹脂の種類、焼成時間等のファクターが異なっても、それぞれのファクターの値において、耐火砂の空隙率を44%以下とすれば、そうしない場合よりも、鋳型の物性値を改善できることは容易に予想できることである。
換言すれば、本件発明は、バインダー樹脂の種類、焼成時間等のファクターが共通であることを前提とした上で、鋳物業界で通常用いられる耐火砂の空隙率が44%以下であればバインダー樹脂の量が少なくても鋳型の強度を高く確保できることを見出したものであり、そのような共通のファクターを有することを前提として本件発明が成立することは当業者であれば自明のことであり、また、それら共通のファクターについては当業者であれば当然に採用し得る通常の範囲のものであることもまた自明のことといえる。
よって、それらについて記載されていないことのみをもって、本件特許明細書はその発明の詳細な説明中に当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていない、また、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみからなるものとはいえない、ということはできない。
従って、申立人の主張はこれを採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-03-28 
出願番号 特願平2-230397
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B22C)
P 1 651・ 121- Y (B22C)
P 1 651・ 531- Y (B22C)
P 1 651・ 534- Y (B22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 和加子有田 恭子  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 中澤 登
中村 朝幸
登録日 1999-08-27 
登録番号 特許第2971925号(P2971925)
権利者 リグナイト株式会社
発明の名称 シェルモールド用レジンコーテッドサンド  
代理人 阿形 明  
代理人 森 厚夫  
代理人 西川 惠清  

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